砂埃がだんだんとやみ、視界が開けると石門をみた父さんは目を見開いていた。
「いったい・・なんでこんなことに」
「父さん、ほうけてる場合じゃない!!走るよ!!!!!」
一本目が降ってきてから、気配を感じ空を目の端にいれ、いまだ座り込んでる父さんの手を思いっきりひっぱり、走る、走る、走る、走る!!!
「凪!?いったい!!」
「振り返るな!!全力で走れ!!!!?!」
後ろには砲弾でも降ってきたのではないか、といほどの爆音の雨。
父さんは思わず振り返ろうとしていたようだが、そんな暇は無い!!
上ってきたときにぞっとする思いのした急斜面を、今度は転がる勢いで駆け下がる。
だが、人の足なんてすぐに追いつかれたかのように、頭上にまた気配を感じ、目の端に捕らえた大岩の影に、父さんを勢いのまま遠心力をりようして投げ飛ばし、自分も転がり込む形で其処に身を潜めると、コンマ一秒の差で其処には槍がささっていたが・・そこだけではない、今まで走ってきた急斜面や道ではない山肌、先ほどまでいたカストロ、その全てに針山のごとく、剣や斧、弓矢や槍東西あらゆる武器が其処には刺さっており、しかもまだまだ降り注ぐ!!
「父さん!足引っ込めて!?!」
父さんの足を引っ込めさせ、自分の体で父さんの頭と体を覆うと自分達の数センチ横に斧が回転するかのように降ってきた。
「っ!?」
地面に落下した直後に、自分の体に物凄い風圧と地面が砕け、こちらに飛んでくる石が容赦なく体を叩きつけるが、体を動かすわけにはいかない!!
「凪!?」
「動くな!!」
石が飛んでくるなか、父さんが私の体のしたから出てこようとするが、頭を力ずくで引っ込めさせ、無理やり押さえ込む。
なんとか風と石がおさまり、ゆっくりと丸めていた首を伸ばしながら周りを見ると、正に地獄絵図のような状態になっていた。
「なんで・・・」
先ほどまでカストロで眺めていた綺麗な町や、港、停泊していたのだろう船、ありとあらゆる場所に大きな武器が物凄い数突き刺さり、家は倒壊、ガソリンスタンドからは炎上し・・あらゆる方向から悲鳴が聞えてくる。
しかも、先ほどまで綺麗な空だったのに、いつの間にかどす黒い雲に覆われ、雷鳴をとどろかせていた。
「凪・・なんで、街が急に・・それに、ここだってなんでこんな大穴が!?」
荒い呼吸でなんとか冷静になろと努力するも、やはりこんな状況だ上手くはいかなかったんだろう、最後は叫ぶように言う父さんに私は何も言ってあげることは出来なかった。
でも・・父さんの言葉に一つ引っ掛かりを覚えた。
「父さん・・大穴って、斧が見えないの?」
「おっ斧?何を言ってるんだい、斧なんてないじゃないか」
ほんの数センチ横に突き刺さる斧を指差すが、父さんは眉間に皺をよせ怪訝そうな顔で私をみるばかり・・。
(・・・あれが、見えてない?)
だが、すぐにその謎も解けた。
突然強大な気配を感じ、そっと岩から顔をだすと、山の向こうからサンタが被るような赤い三角帽を被り、口元には口を覆うほどのひげを生やした大男が姿をあらわしたのだ。
この濃厚で強大な気配を私は前にも感じたことがあった。
そう、このは気配・・・。
「・・・なんで、神がこんなことするのよ!?」
そう、これはトヨウケヒメからも感じた神どくどくの気配。
だが、トヨウケヒメの時とは比べ物にならない力の放出を肌で感じていた。
それにしても・・なんで・・。
私の知る神様はどれも私をなめきったすっげぇむかつく奴らや、トヨウケヒメのように喧嘩を売っているような奴もいたけど、基本的に自分が祭られている神社とかからは離れないし、離れたりしてもよっぽどのことがない限りはこの世に介入しないのに!?
『凪、あんたまつわぬ神様にも狙われるから気をつけなさいよ』
一瞬銀子さんのことが頭をよぎり、急速にいつかいっていた言葉を思い出した。
「・・・まつろわぬ・・かみ?」
もしあれがそうなら・・。
『神話という理を抜けた神様は、力をもてあました子供と一緒さ・・用心しな、あの方々は己が満足するまで暴れまくるよ』
「・・・そんなもんにどう対抗したらいいのよ?!」
思い出した言葉に悪態をつくも、当然かえってくることはなく・・それどころか、地面が大きく揺れ始めてしまった。
「っ、父さん掴まって」
「!?」
先ほど解放したばかりの父さんの手をひっぱり、岩にはわせると自分の体で父さんの体をおおった。
グラグラグ、グラグラ地面が揺れ・・2分ほどするとゆれが収まったが、父さんはハッとするかのように私の体から抜け、町の南東にあった赤黒い山の山頂からモクモクと灰色の煙が立ち上っていた。
「・・なんで、なんでこんな急激な前兆が!?・・それに、この島には死火山しかないないはずなのに、なぜ!!?」
父さんは南東にそびえる山を見ながら、慌てたように言葉を紡いでいた。
「父さん!!落ち着いて!!・・もしかして、あの山・・火山なの?」
「そうだ・・だが、この島には活動する形跡なんてまったくない死火山しかないはずなんだ・・なのに・・」
(・・・急すぎる噴火の前兆・・まさか!?)
バッと大男の方に振り返ると、大男は大きな一歩で町にゆっくりと近づいており、
その右手には黒い大きな金槌が握られていた。
「父さん!!山のぼるとき神様の話したよね!!」
「えっ?」
「金槌もった神様の話!!!!」
「あっ・・あぁ、ヘーパイストスだね」
急な話に目を見開くも、現実逃避をしているのか落ち着いて答えを返してくれた。
「それ!!それ何を司ってるんだっけ!?」
「えっ・・えっと、鍛冶と炎・・あっ、あと雷と火山」
「それだ!!」
「凪!?」
私は父さんの答えを聞くと、叫ぶ父さんの声を無視して大男のほうへ駆け出し、ポシェットに手を添えた。
『凪、あんたの匂いは魑魅魍魎やまつろわぬ神様達には格別美味そうなんだ。
だが・・それは時に神様ですら狂わせる麻薬ともなりえる』
「・・信じてるよ!銀子さん!!」
大男に近づいたら自分の気配と魔力を隠す万華鏡を一時的に停止させよう、そう思ったとき、大男は歩みを止め、周りを見渡しはじめた。
『なんだ?この美味そうな匂いは・・かつて神話の時代にすらこんな匂いはかいだことがないぞ』
大きな大きな声で発せられたそれは、まさに自分のことをさしているんだろう。
(・・やっぱ、神様あいてに完全に気配を消すことは出来ないんだ・・)
もしかしたらまつろわぬ神に限定かもしれないが、今はそんなことを考えている余裕はない・・。
幸いにも、あの大男には私の姿は見えないようだ。
『どこだ!!どこにいる!?』
「私はここだよ、でかぶつ」
万華鏡に補充されていた魔力を一気に自分に戻し、大男に話し掛ける。
『でかぶつ、わしに向かっていったのか!?人間!!?』
「言ったよ。図体ばっかりでかくって、俊敏性のかけるあんたにはぴったりだろう?」
『人間!?お前わしがなんだか知っていてのその言葉か!!!?』
「もちろん・・火山を操るしか能のない神だろう」
『ふはははは、愚か者め。わしには強大な力がごまんとあるわ!!』
そういって思いっきり振り上げた金槌が地面に突き刺さり、強大なクレーターを作りだしたが、寸前のところで横に飛び、転がりながらも直撃をさけたが、1秒もしない間物凄い爆音と共に雷が落ちた!
だが、立ち上がることなく転がり続けていたおかげで雷撃はさけられたが、背中の洋服は黒くこげていた。
「やっぱ他の力じゃ私は殺せないじゃない」
『何!?』
「私もさ、流石にマグマとかは無理だけど・・マグマや火山を使わないとこんなちっぽけな人間一人殺せない奴が神なんて、お笑い草もいいところね」
『言わせておけば!!!?図に乗りおって!!!!!!!!』
一歩後ろに飛び、また一歩後ろにとんだ。・・すると先ほどまで立っていた場所と、一歩下がった場所に大きな槍が一本ずつ突き刺さっていた。
私はそれを見ると、ニヤリとわらうだけであとは来るりと大男に背を向け走り出した。
だが、それが効果覿面だったようだ。
『おのれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!』
大声と共に何百本もの弓矢が雨のごとく降り注いだが、町に向かっていたのがさいわいして、すぐに町の家や建物を盾にしながら弓矢をさけることに成功した。
だが、町は最悪の状況下だった。
たぶん父さんにあの斧が見えなかったように、この町の人たちも武器なんて見えなかったのだろう・・。
ちょうど武器の真下にいたものは貫かれ、違っても刃にあたってしまったものは腕や首、体など切られた死体がそこらへんに転がっていて、なんとか死ぬことを免れた人も何処かを切られ動けず、うめき・・無事だった人たちのすすり泣く声はそこかしこから聞えてくる。
本当なら被害をこれ以上増やさないために町から離れるべきなんだけど、この近辺に身を隠せる場所なんてどこにもなかったんだ。
「・・ごめん」
そう呟くも、さきほど抜き取った魔力を戻すためポシェットにある万華鏡を取り出すために、視線を動かすと・・奇妙なものが目に入った。
「・・凍ってる」
ガソリンスタンドの炎上や斬殺された死体ばかりに目がいっていたが、よくよくみてみるとおかしなところが多々あった。
凍っているところがある死体や地面、刺さったところから腐食している建物、
武器自身が燃えているものすらあった。
だけど、あの神は火山と雷と鍛冶のかみ・・・さま・・・・。
「・・もしかして、武器に付属も付けられるの!?」
それがわかったとたんぞっとした。
まだ生き残っているのは、よっぽどの強運だとも思った。
もし、最初と岩のところで付属の斧や剣が降ってきてたら、あの近さだ・・よけても確実に死んでたし。
さっきの槍だってそう!!
もし、匂いと挑発で頭に血がのぼってなかったら、確実に属性つきの武器がふってきてたよ!?
「初めてこの匂い?が役にたったわ・・」
でも、それなら一体どうすればいい・・。
付属がついてるか、しかも何がついているかなんて降ってきてるときにはわからなかったし、第一私はあの武器から発せられる武器の魔力を感知して、落下してくる位置を予想してたのに、その魔力に違いなんて感じられなかったわよ!?
『どこだ!?!!どこにいる!!!!人間!!!!?』
「やば、もう来た」
私は急いでポシェットから万華鏡をとりだし走りながら魔力を注ぐが・・。
『えぇ〜〜〜〜〜い、これでどうだ!!!!』
大男はそういうと、大きく息を吸い込み、・・そして吐き出した。
「ちょっ!?力技過ぎるでしょ!!!!」
吐き出されたのは息だけではなく、真っ赤な紅蓮の炎が吐き出した息と一緒に
吐き出され、町全土を覆うかのごとく広がった。
私はなんとか建物の間に逃げ込み炎からのがれ、万華鏡に魔力を注ぎながら逃げようとすると、魔力を注ぎ込む方に気がいってて、頭上にふってくる魔力の塊に気づくのが遅れてしまった!?
「なっつ!?」
なんとか気づいても、体が動いてくれず硬直してしまったその時・・。
「凪!?」
思いもよらない横からの衝撃に踏ん張ることもせず押し飛ばされ、壁に背中からぶつかった。
「った・・」
背中に強い痛みを感じながらも、何がおこったのかと思い顔を上げると・・ありえない光景が自分の目の前に広がっていた。
「なっ・・・なんで!?」
目の前には槍が体を貫通している父の姿が・・・。
「父さん!!?!!!」
(どうして、どうして、どうして、どうして!?!)
「な・・・・・・ぎ」
「父さん!!」
「・・な・・ぎ・・のお・・も・・う・・とおり・・にいきな・・さい」
「!?」
父さんはそういって笑うと、槍が炎を立ち上らせ一瞬にして父さんを墨に変えてしまった。
「父さん!!!!!!!!!?」
さっきまで其処にいた父さんは、もうすでに黒い塊になっていた。
「・・どうして・・・」
私を・・・おってきたの?
なんで・・・・・みえなかったんじゃ・・ないの?
「どうして・・・わたしなんか・・・かばったの?」
呆然としていた。
立つ力もなく、地面に膝をつき・・・その塊をみているしか・・できなかった。
自分になら・・出来ると思ってた。
何かを失っても・・・強く生き、戦う・・・そんなヒーローに・・なれる気になっていた。
無意識だった・・・でも・・でも・・・。
そのせいで、失ってはいけないものを・・・失ってしまった。
“お嬢さん、悲しそうだねぇ”
武器が降ってくるかもしれない場所で呆然と座り込んでいると、近くに気配を感じたが、何もする気にはなれなかった・・・。
“だが、悲しむのは誰でも出来るねぇ”
“そんなものの為に命をはるなんて、この人間は愚かだねぇ”
「なっ!?」
何を言われてもどうでもよかった、でも!!
「父さんを侮辱するなら私が許さない!!!」
横をむき掴みかかろうとするも、そこにいたものはスッと消え、今度は私の後ろに現れた。
“お嬢さんがなにをするのも勝手だが、なにもしないままここにいれば・・死ぬよ”
「別にあんたに関係ないでしょ!?・・私はかけがえのないものを失くしちゃったの!!もう・・生きる意味なんて!!」
“それじゃあ、本当にあの人間は無駄死にだねぇ”
「!?」
“戦え・・とまでは言わないが、せめて逃げるぐらいしてあげなくては・・あの人間は苦しむだろうねぇ・・自分の所為で死んでしまったと”
「・・・・」
“お嬢さん、あの人間の残した言葉を覚えているかね”
「・・・私の思うとおりに・・・・・・生きなさい」
“・・で、お嬢さんはどうする?”
『決めるのは・・・・お前だ』
「・・・・・・・生きるよ。・・・父さんが言ったからじゃない。私が決めた!!
私は、生きるよ」
意味なんてそんなものないかもしれない、でもこの選択をしてどうなっても、父さんをいい訳になんて絶対にしないから。
だから・・・。
「これからすること・・・許してね・・父さん」
力の入らなかった足を思いっきり殴りつけ、足をふるい立たせると、壁にぶつかった拍子に転がった万華鏡を拾い上げた。
そして・・走り出した。
どうすればいいのかなんてわからなかった・・でも・・。
「このまま逃げるなんて・・・・絶対に無理!!!!!」
生きるって決めた、でも・・・譲れないものだって、ある!!!!
“お嬢さん、何か策でもあるのかね?”
「無い!!」
さっきっから話し掛けてきていたのは、どうやら港であったおばあさんのようだ。
そのおばあさんは私の横をフヨフヨ浮きながらついてきている。
“・・・・・なら、建物を上がりな”
「え?」
おばあさんは呆れたようにため息をつくと、上を指差し言う。
“相手の姿を確認できる場所に上りな、早く!!”
「!?はい!!」
次に言ったときのおばあさんの迫力にはなんだか恐怖を感じたが、とりあえず言われたとうり、近くにあった建物に入り屋上にでる。
大男はちょうど町の東側で私を探し回っているようだ。
“お嬢さん、深呼吸”
「は?」
“いいから、やりな!!!!”
「!!?」
急き立てるようにいうおばあさんに言われ、訳もわからず大きく深呼吸・・。
“いいかい?お嬢さん。今からわしが言うのはお嬢さんにとって、とってもつらいことだ・・それでも、あれを倒したいなら・・やるしかない”
「・・・・」
“・・今一時・・あの人間の死は忘れなさい”
「なっ!?」
“波打つものにはなにもみえない・・そう、いっただろう”
「・・・・」
“動揺を押し殺し、見なければならないものに意識を集中なさい”
「・・・ねぇ、おばあさん・・それは私に鬼になれと言っているようなものよ?」
“そうかもしれん”
「・・でも、必要なこと・・なんだよね」
“・・・・”
「・・・ならば、この一時、私は鬼になるよ」
動揺を押し殺すなんて出来るかどうかわからない
だけど、やるかやらないかっていわれたら・・。
「やるっきゃないでしょ」
私は顔を手のひらで叩き、東に見える大男に集中した。
“いいかい、意識を集中し・・心を沈めながら・・万華鏡を覗きな”
「万華鏡?」
“いいからとっととやりな!!”
「ラッラジャ!!」
私はもう一度いきを大きく吸い込み、万華鏡を目にもっていった。
だが、最初はやはりなにも見えず真っ暗闇のまま・・だが。
しばらく息を静かに吸ったり吐いたりしながら視ていると・・。
(・・・・光?)
真っ暗だった万華鏡のなかに小さな光が見え、それがだんだんと広がっていき、
まるで、本物の鏡が中に内臓されているかのように、中で反射していた。
“いいかい、その鏡を通しヘーパイストスを覗き込むイメージを・・”
(・・覗き込む・・・)
脳裏に水面を思い浮かべ、そこに映り込む映像が自然と浮かびあがり・・。
万華鏡の鏡の中に、ヘーパイストスが写り込んだ。
(視えた!)
180度小さな鏡が設置され、ミラーハウスで映り込むように見えるヘーパイストスだが、実際にみるやつとは一点の違いがあった。
(脳が小さく光ってる?)
“・・そいつが、ヘーパイストスの集束点だ”
「集束点?」
“力の中心といえばいいか・・そこを起点に力が広がってるのさ”
「・・・神様にそんな弱点があるもんなの?」
“神ってのは、言ってしまえば意思ある力の塊だ・・中心ぐらいは存在する”
「・・・」
“だが、その中心は本当に小さい・・正に点だ。少しでもずれれば力との正面
衝突・・ただの人間に生き残る可能性は無い”
「・・・・でも、そこなら倒せる可能性があるんでしょ?」
“神を傷つけられる物があれば・・だね”
おばあさんはそういうと、私を見つめた。
「え?・・私もってな・・・・・ってもしかして、あのペーパーナイフ?」
私は山を降りる直前、母さんの形見であるナイフを渡されたことを思い出し、
ポシェットから出すが・・。
「・・・ねぇ、これで神様を傷つけられるとは思えないんだけど」
ペーパーナイフは確かに魔力をおびていたし、多分用途も魑魅魍魎への攻撃用
だとはおもっていたけど・・結局それだけなのだ。
特別強大な魔力が備わっているわけでもなさそうだし、特殊な効力が備わっているものとも感じない・・せいぜい弱い奴を切りつけられる程度だ。
“そのままつかえば、天地がひっくり返っても神を傷つけるどころか、孫の手程度に引っかくこともできん”
「じゃあ・・」
“お前の万華鏡・・何故、あいつの弱点が見えたと思う”
「え?・・・最初からそういう特殊な力が備わってたとかじゃないの?」
“ちがうわ!お嬢さんの魔力の特殊性で役割が強化されとったんじゃ”
「え?」
“万華鏡ってのは霊的な役割にしても結界をはる役割にはないんだよ”
「?」
“それをお嬢さんに与えた奴がそういう風に作り変えたのさ。そして万華鏡に内臓された鏡の本来の意味は・・”
「・・真実を映し出す?」
“そう、お嬢さんはその万華鏡に魔力を注ぎこむことで、その役割を強化していたんだよ”
「・・・」
“つまり、そのナイフの役割を強化してやればいい”
「!?・・でも、私の力でご利益ああがることはしってたけど、そんなにもたないし、そこまで力が跳ね上がったりもしなかったわよ?」
“・・まぁ、死ぬ気で魔力と意思を注ぎ込めばなるだろ”
「え〜〜」
“神を倒そうっていうんだ、そんぐらいのリスク当たり前だろ!!”
(・・・それで死ぬの私なんだけど!?)
“で、やるのかい、やらないのかい”
「・・もちろん、やるに決まってるでしょ」
迷うし・・・恐い。
生きるって決めたのに死地に向かうんだから・・おかしいよね。
・・・父さん、私にはこのまんま“逃げて”生きる結果なんて我慢できないんだ。
でも、簡単に命を捨てたりはしないよ。
最後まで足掻いて根性で戻ってくるから・・・。
「いってきます」
誰もいない場所に顔をむけ一言いうと、私は走り出した。
『すいません・・娘がご迷惑をかけたみたいで・・』
“いや・・・いいお嬢さんだ”
『はい・・・僕の自慢の娘です』
おばあさんの隣にいた真っ白い光は、そういうと静かにはじけて消えてしまった。
私は走る、万華鏡とナイフをもって走る、走る、走る!!
目指すは要塞・・・山の頂上!!
何百と刺さった武器の間をすりぬけ、私は山を登る。
斜面は武器とその衝撃で殆ど崩れかけていて、上るのには一苦労だったけど、上れないこともない!
「まぁ、上れないほど崩れてても上るけどね・・」
それしか方法を思いつかないんだから、しょうがない!!
泥だらけになりながら、殆ど崩壊寸前の要塞に到着、やはりここにも槍などが何本も刺さっていた。
「さて・・・・・やりますか」
私は要塞から景色が見渡せる場所の、手すりの上に立ち上がった。
「や〜〜〜〜〜〜いでくの坊!!いつまでそんなところ探してんのよ!!こっちだよばぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜か!!!!」
『そんなところにいたか!!人間!!!!!!!!!!』
大男・・いやヘーパイストスはまだ、頭に血が上っているようだ。
大きな足音をたて、町から離れ山に向かってくる。
もし、あの離れた距離から武器や雷で攻撃されてたら、その時点でアウトだった。
山に近づいてくるヘーパイストスとの距離を測りながら、タイミングを見計らう。
そして、山に接近してきたて手をかけたその時・・。
(いまだ!!!!)
私は何も言わず、ナイフを両手で握り締めながら要塞から飛び降りた。
(切れる、切れる、切れる、切れる、切れる、切れる、切れる!!!!!!!!!)
ちょうど手をかけ頭をあげてヘーパイストスが目にしたのは、頭に飛び込んでくる小さな私。
『なに!?』
気づいたがもう遅い!私は落下の速度そのままに手を伸ばし、突き刺す!!
『がぁあああああああああああああああああああああああ』
(切れる、切れる、切れる、切れる、切れる、切れる、切れる!!!!!!!)
だが、小さなペーパーナイフだ。
大きな体のヘーパイストスに刺さってること自体不思議に感じるほど、だが、何とか断ち切ろうと、血が出るほどナイフを握り込み、下へと力をいれていた直後!!
「あぁああああああああああああああああああああ」
体を貫通したのは、槍。
槍は腹に突き刺さり、そして燃えた。
(切れる切れる切れる切れる切れる切れる切れる切れる・・断ち切れ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!)
体が灼熱の炎に包まれようともナイフを離さず、全身全霊の魔力をナイフにこめた。
すると、ナイフは強烈な光をおび、刺さるのみだったヘーパイストスの体を両断した。
『なっ!!!!!!!!!このわしが・・・人間ごときに負けるなど!!!!!』
(ざまぁみろ)
凪は槍が刺さり、炎に包まれながらもヘーパイストスを睨みつけ、気を失った。
気を失った直後、はじけるように槍は消え去り炎もまた鎮火した・・が、どうみても、腹のど真ん中に穴があいており、覗けば向こう側が見えるじょうたい。
さらに、崩れかけていた岩と要塞が崩れ落ち凪の体になだれ込む。
そんな山の右手から朝日が昇り、夜が明けたようだ。