白い白い真っ白な世界・・そんな世界で誰かの話し声が聞えた気がした。
『おひさしびりです、ヘーパイストス殿。』
幼き少女に見えるツインテールの子は、誰かに挨拶をしているようだ。
『あぁ・・そうだったな。神を殺したものに行なわれる暗黒の聖誕祭・・そなたの
しきりだったな。パンドラ』
野太く・・だが、その静かな声がこの世界に木霊し・・どこか優しく世界を包んでいる気がした。
『ウフフッ、以前助けていただいた私が、貴方を殺した子を娘にするのですから、
やはり、世界はまだまだ面白い縁で満ちていますわね』
『そうだな・・不思議な縁だ。だが、今回の縁・・わしはその縁をめぐり合わせてくれた誰かに感謝をしよう』
『あら、貴方は殺されてしまったのに?』
『だが、殺されたことで視得たものもあった。・・わしはもう少しで、昔のわしをまた再現するところであった・・己の力に振り回され、欲に目が眩み、怒りで自分が見えなくなった』
口元を覆うほどの髭を撫で付けながら、何処か憑き物が落ちたかのようにすっきり
とした顔で言うヘーパイストスの顔に悲観は見られない。
『パンドラ・・神話の時代も、そして殺された今も何かを奪われるかもしれん、だがなにも得られていないわけでもない。神話の時代にわしは自分の能力で這い上がり他の神にはないものを見出した。そして・・今は・・』
『この子・・ですか?』
『そうだ。・・この人間、どこかわしに似ているような気がしてな。才を持ちながら埋没し、だが己で這い上がる気概がある・・じゃからわし自らこの人間に権能を授けよう』
『あら、簒奪ではなく?』
『まぁ、気の持ちようというところだ。・・行為は簒奪に代わりはないが・・わしは納得してこいつに力をやろうというだけの話だ』
『そうですか・・では、この子にお与えください。祝福と憎悪をこの子に。そして最も若く・・もっとも変わり者の魔王となるだろうこの子に聖なる言霊を』
パンドラと呼ばれた子は静かな口調でそう伝えると、今は目の前で横たえる凪の
頭に手をやった。
『神殺しとして生誕するおぬしに祝福をやろう・・おぬしは鍛冶であるわしから権能を簒奪する最初の神殺し・・何人にも振り回されぬものであれ。己の道を見失うことなく、極めることがおぬしを最強たらしめるであろう。再び合間見えるそのときまで、見失わぬものであれ』
ヘーパイストスが言葉を紡ぐと、横たわる凪が苦悶の表情を表すも、パンドラはその苦しみに微笑み、頭を撫でながら言葉を紡ぐ。
『ウフフ、苦しい?でも我慢なさい。その痛みも苦しみも貴女を最強の高みに導
くものよ、甘んじて受け入れなさい。・・ヘーパイストス殿にあそこまで言わせたんですもの、根性で生き残りなさい?・・私の娘』
そういって二人の影は消え、先ほどまでおぼろげに見ていた凪も意識を失った。
その頃、レムノス島の港は壊滅状態のなか、一艘の私用艇が着岸していた。
「・・一足違いだったか」
白髪をオールバックで纏めた一見紳士の老人。
だが、その目はまるで狂気を具現かしたかのように殺気で満ち溢れ、見るものを恐怖の底に突き落とすものであった。
時は過ぎ、まつろわぬ神が出現し消滅してから5日が経った。
町はほぼ壊滅状態に陥り、生き残った町民は何がなんだかわからず精神を錯乱させていた。そして、ハリケーンがこの島を襲ったと、一般のメディアには公式発表されたため、各国からレスキュー隊や救援物資なのどが届けられてはいたが、よりいっそう現場では情報が錯綜し混乱を極めていた。
そんな状況なので、ここに調査にきた魔術師たちもお手上げじょうたい。
この島に魔術師が駐在してなかったのも運のつきなのだろう、様々な情報は入ってくるものの、それを整理するのが追いつかず状況把握がいきとどいていなかった。
そう、この混乱で伝達に行き違いがあったのだろう。
彼らが来る前に、ある少女が助け出されアテネの病院に搬送されていたことを彼らはしらない。
場所は日本。
とある書斎の一室に彼らはいた。
一人はくたびれたスーツに細面の顔、無精ひげを顎に蓄え目は翁の面のように細い。
その顔に柔和な笑顔を携え、書斎の机に座る少年のような人物に話し始めていた。
「で、今回は何の用でしょう?なるべくなら厄介ごとは勘弁なんですが・・
呼び出しということは・・そうもいかないんでしょうけどね」
笑顔を崩さず肩をちょっとあげる彼は、どことなくくえない雰囲気を出していた。
「ん〜どうだろう。僕てきには結構面白い情報だと思ってるんだけど」
書斎の椅子に座るハスキーボイスの少年の格好をした少女は、マホガニーの机に肘
をおき、ニッコリ笑った。
「実は、カンピオーネが誕生したんじゃないかって、噂になっていてね」
この一言に机の前に立っていた背広の男は思わず、瞑っているっじゃないかと思われるような細めをを一瞬だけ開け、また狐のような細め苦笑いを浮かべた。
「それはまた突飛な噂が飛び交っていますね」
「まぁ、状況が状況らしいから・・ね」
「状況ですか・・」
少女は何処か面白そうに言葉を紡ぐが、男性は何処か笑顔が引きつっているような感じだ。
「・・あの、それって・・まさか」
「僕は幸運だよ、こういうときに頼れる忍者が部下であってくれて助かった」
「いや、あの給料以上のことはあんまりやりたくないなぁ〜なんて・・」
「そうか、そうか、やってくれるか・・いや〜意欲的な部下がいる僕はなんて果報
ものなんだ、それじゃ、詳しい状況を書いた書類をわたすけど、口頭でも簡単に説明するよ」
「あの・・話を・・きいてませんね」
少女はきれ〜に男性の言い分をスルーすると、勝手に状況を説明し始めてしまい、
男性は小さく溜息をつくにとどまった。
「場所はギリシャのレムノス島。そこでまつろわぬ神が出現したとおもわれる」
「・・思われる?」
「そう、確実に目撃できる人間がその島にはいなかったんだ。・・あの方々は魔力のない者には視覚出来ないからね。・・ただ、その島でおきた出来事はそうとしか説明出来ない」
「・・・・」
少女は先ほどまで浮かべていた笑みを消し、椅子を少し回転させると、光が差し込む窓に体の向きを変えた。
「・・町の人間のほぼ八割が何らかの武器で貫かれたり、切断されたりして死亡か負傷。もっと詳しく言えば七割が死亡、一割が軽症だったり重症だったり・・いうならばほぼ壊滅状態」
「ですが、それだけではなんとも言えないですね・・もしかしたら、人間による快楽殺人の可能性ってせんもありえない話しではないでしょ」
「そう・・でも、生き残った人たちが口をそろえて言うんだって・・突然何の前触れもなく、近くにいた人間の首や胴体、手や足が切られたり、なんらかが貫通したりしたって・・まぁ、その話をげんちゃくした魔術師達が聞いていち早く遺体の隠蔽と幻術をかけたらしいんだけど・・」
「・・・」
「証言者の一人が言うには、・・火山活動もあったとか」
「火山?」
「そう・・その島は、もう何百年も火山活動の兆候がみられない死火山しかなかったらしいんだけど、突然街から見える火山から煙が出てるのを見たらしい、その前には地震もあったって」
「・・それが本当なら、確かにまつろわぬ神でしょうね。流石に魔術で火山をどうこうできるわけないでしょうし」
男性は口に手をあて少し考える素振りをするが、やがてまた苦笑いを浮かべ少女をみつめる。
「ですが、馨さんが興味を持つような話とも思えないんですが・・」
その一言に、彼女はまた椅子を元に戻し、体の向きを男性に戻して笑顔を浮かべた。
「この話が面白いのはこれからさ・・そのレムノス島は一般には予想外のハリケーンが襲ったってことにしたらしいんだけど、それのせいかおかげか、各国からレスキュー隊やら援助物資が届いてね、現場の情報はかなり混乱してたらしいんだ。そのせいか一人の少女が助け出されてアテネに搬送されたことを、魔術師達は彼女が目覚めるまで、誰も知らなかったらしい」
「それは、それは・・なにやら奇妙といいますか・・きな臭いといいますか・・」
「そう、現地にいた魔術師達もそれを怪しんで、アテネの病院で目覚めた少女に会いにいったらしいんだけど・・結果は黒に限りなく近い白」
「それは・・」
「フフッ・・彼女からは一切魔力を感じなかった、ってのが会いにいった魔術師達の報告。もちろん後で神の気配が彼女からするか魔術で調べたが、それも白」
「それが何かの権能と考えているんですか?」
「さぁ、それも可能性の一つだけどね」
「その魔術師達は彼女に魔術をかけなかったんですか?確か、カンピオーネに魔術は一切きかないと聞いたことが・・」
「その前にドクターストップ。・・まるで、何かが彼女を守ろうとしているようだよね」
「もしかしたら神様からの加護があるのかもしれませんね」
ニヤリと笑う二人の顔は悪巧みを考える悪代官と越後屋の姿に見えるほど、シン
クロしていた。
「まぁ、冗談はさておき・・現地の魔術師や結社は彼女はたまたま被害にあった
一般人って断定したらしいよ」
「それはまた・・おざなりというかなんというか・・」
「気持ちはわからなくもないけどね。確証なんてないし、なるべくなら厄介ごとをこれ以上抱え込みたくはないんでしょ・・ほら、あそこは300年の長きにわたって強大な厄介ごとを抱え込んでるから」
「それは・・まぁ・・なんといっていいやら」
なんとも恐い言い回しをする馨と呼ばれていた少女に、男性はアハハハと空笑い
をしながらも、左の口元はひくひく引きつっているのが見て取れる。
「でも、こちらとしては向こうみたいに悠長なことは言ってられないんだよね」
「・・といいますと?」
「その救出された女の子、どうやら日本人らしいんだ」
「!?」
「これがその女の子のデータ・・他の奴から簡単なデータを収集させたんだけど・・」
彼女が机の上に出した資料に目をとおしながら、男性はある一点で動いていた目
をとめた。
「これは・・」
「甘粕さんも気がついた?・・その女の子の母方の名前は稀龍 渚・・旧姓北條 渚。北條家のご息女だ。」
「ですが、あの家にご息女がいましたっけ?確かご子息が二人だったはずですが」
「表向きは隠してたみたいだよ?渚さんはご当主の愛人の娘だったらしいし・・なにより、正妻の息子二人よりも魔力が高かったらしいから・・正妻が面子をたもつために色々したんだろう?・・しかも、彼女には他にも奇妙な力があったって噂もあったし・・」
「奇妙な力?」
「魔術や呪術の痕跡や魔力を目視で認識しそれを見分けるんだって」
「目視で、ですか?精神感応かなにかじゃ・・」
「さぁ、そこまで詳しくはわからないけれど、火のない所に煙は立たないっていうし」
にっこり笑いながら言う彼女には奇妙な迫力がこめられており、甘粕と呼ばれた
男性は額から汗をダラダラ流しながら一歩後退する。
「・・まさかとは思いますが・・それを含めてその凪って子がカンピオーネかどうか調べて来いっていってます?」
「察しのいい部下を持つと僕も楽が出来るよ・・娘である彼女がその能力を継承しててもなんら不思議じゃないしからね」
「いや・・あの、カンピオーネかどか確かめるだけでも骨が折れるどころか命失いかねないんですけど・・」
「大丈夫、大丈夫・・たぶん」
「いや・・あの」
「それじゃ、よろしく甘粕さん・・死なないように気おつけてね」
片手を軽く振りながらニッコリ笑う馨に、若干引きながらも最後は笑い、
書斎をあとにするのであった。
レムノス島での出来事があってちょうど10日が経った。
あの出来事があったあと、アテネの病院で目覚めた私は、検査やなにやら魔力をまとった人たちに調べられたようだが、あんな出来事があったにもかかわらず誰かが置いといてくれたのか、万華鏡は病院の収納だなに入っていたので助かった。
まぁ・・ここまでくると結構恐いものがあるが・・なに、運がよかったということで納得しとこう。
7日目にしてやっと日本へと帰国する飛行機に乗ることが出来たのだ。
ギリシャには華火や喜和子さんたちも来てくれていて、目覚めたときは喜和子さんと恭司さんに抱きしめられ、華火は泣きじゃくりながらポカポカと頭を殴られた。
そんな一家と帰国したが、当然のごとく父さんはその飛行機には乗ってはい。
・・私は目の前で父さんが死んでしまうところを見ていたので・・悲しくはあるが納得はできた。でも、父さんの遺体が発見されていない為、喜和子さんたちには行方不明としか知らされていから、きっとひょっこり帰ってくる、と悲しそうな笑いで言われると、身が引き裂かれるように辛い。
ただ、墨になってしまったとはいえ、人間の遺体が見つからないだろうか?というのは疑問だった。あんな町中にあったら火に焼けていても見つけられると思う・・それでも、知らせてこないって事は、多分病院に来ていた魔力をおびた人達が何かしたんじゃないかなって・・思うんだよね。ニュースでもあそこでおきたことはハリケーンってことになってたし・・。
「・・いつか遺骨の場所はかせてやる」
飛行機のなかで、ぼそりと呟くも誰も聞えてはいないようだ。
それもそうだ、ただでさえギリシャは遠いのに私は三日目を覚まさないは父さんは行方不明のままだは、疲労はピークに達していたのだろう・・一家は飛行機のシートでぐっすり寝ていた。
みんなの寝顔を安心する。
父さんのは、死顔ですら見ることが出来なかったから。
目を覚ましてから、自分の体に違和感というか、力の塊を感じていた。
多分、あの魔力をまとった人たちは、これがあるかどうか調べていたんじゃないかなって感じるんだ。
だってこの力からは・・私が倒した神ヘーパイストスと同じ気配がするから・・。
とにかく、彼らみたいなのはどういう団体なのか、私の体に何が起きてるのか、もし彼らの目的がこの力だったとして、何の目的でこの力を欲してるのか、少なくともここら辺のことを調べ信用できるかどうか判断してからじゃないと、自分のことについて公表していいのかすらわからないもの。
うつらうつらとそんことを考えながら、飛行機で日本に向かうのであった。
そして日本に到着して三日・・。
最初は喜和子さんたちに橘家にいろといわれていたんだけど、どうも私のまわりをこそこそかぎまわっている人がいるみたいで、いつも同じ魔力の気配を感じるんだよね。
なので三日目にして、初めて日本に帰国してから自分のマンションに戻って掃除なりなんなりしてたんでけど、違和感は同じ魔力だけではなかった。
「銀子さん・・今日もこないのかな?」
いつも来ていた銀子さんは帰国してから一回も姿をあらわすことはなく、トヨウケヒメやポン蔵さんのところにも足を運んだが、声をかけても返事もしてくれない。
神様の気配や魔力はするからいないはずないのに・・でも、感じたときにおかしなことはあった・・なんだろう、体が勝手に警戒していたんだ。
知らない場所に来ているわけでもないのに・・。
部屋に飾ってあった父さんの写真を見て、思わず苦笑いがこみ上げてくる。
「なさけないよね・・」
父さんが死ぬ前はあんな偉そうな口叩いておいて、実際大切な人がいなくなったら・・このざまだもん。
「・・見送る方ってこんなにつらかったんだね・・知らなかったよ・・父さん」
死んだ直後に味わった絶望感が全てだと思ってた・・。
でも、日にが経ってからの方が寂しさや悲しさ、後悔が降り積もっていくみたいで・・辛い。
華火や喜和子さんに恭司さん・・みんな、私を支えようとしてくれてるしとても嬉しい。
でも、欲張るようだけど・・私は・・。
「もうこれ以上失いたくないんだよね」
銀子さんたちは生まれたときからずっと見えてた存在。
十年の付き合いになると、あの光景や会話が常識になっちゃうんだよね・・・。
それがいまさらなくなっちゃうなんて・・やだよ私。
そこまで考えて、私はお財布と携帯、鍵をポシェットに入れて部屋の扉に手をかけていた。
場所は前に父さんと住んでいた町。
ここにも魑魅魍魎や知り合いの狛犬に招き猫、様々なこの世にいないようなものたちと出会った。・・でも、今は魑魅魍魎の姿は見るも・・何処かおびえた様子だ。
力のないものは、私の姿を見ただけで逃げてしまった。
そんな今までにない光景に、戸惑いながらも銀子さんが仕える神様の神社に足を運ぶ。
銀子さんとであった神社は小さいわりに人通りの多い道に面しているおかげか、参拝客も結構来ていた。・・だけど、今日は不自然なくらいに誰もいない。それを不思議に思いながらも石の鳥居を潜ると、いきなりキーンと耳鳴りのような音が聞え、まるで空間がそこだけ遮断されたかのように、先ほどまで聞えていた風や葉のこすれる音でさえ何も聞えなくなっていた。
「これ・・・・・・結界ってやつ?」
「そう、これはあんたを・・神殺しを閉じ込める結界」
声が聞こえ、後ろを振り返ると一週間と少ししか会わなかったのにとても懐かしく思えたんだ・・でも、体はそうではなかった。
「・・なんで?」
後ろにいたのは銀子さんで・・とても嬉しいはずなのに・・なのに・・からだはまるで戦闘態勢にでも入るように、おなかの辺りから力がにじみ始め、手足に緊張感をほとばしらせる・・何時でも動けるように、いつ攻撃されてもいいように。
「それが、神殺しになった証拠の一つ。本能や体が頭より先に反応してんのさ・・自分の敵に・・」
「敵って・・」
言葉の意味がわからなかった。
銀子さんのいう言葉が何処か違う国の言葉に思えるほどに・・頭が意味を理解するのを拒絶していた。
「大体、あんただって気づいていただろう・・以前にはなかった力に」
「・・・」
「それは、神を殺した者が、殺した神から奪い取った力さ」
「奪い・・とった?」
「そう。神を神たらしめるちから・・権能。あんたはそれを手に入れた。万華鏡があるからわかりにくいが、あたしら神に仕えるものには神の気配ぐらいはわかる。
あんたは神を殺し、其の権能を簒奪した。・・そして神と神殺しはあえば戦う・・それが太古の昔から決められている・・逆縁ってやつだ」
「銀子さん・・・」
「だから、とっととかえんな。ここの神様はまつろわぬ神にはなっちゃいない・・だからこそこんなもんですんでんだ。もし、これがまつろわぬ神ならばこんなもんじゃ済まされない。・・それこそ、どちらかが消滅するまで戦う・・それが宿命であり、生誕したあんたの本能」
「本能・・?」
「そう・・それが神殺しっていう生き物だ」
何も聞えない空間に、銀子さんの殺気は端から端まで染み渡るようにほとばしり、頭では恐いとおもうも、手は握りこぶしを作っていた。
「神殺し・・もう一度だけ忠告する。この敷地からでていきな・・そして二度と足を踏み入れるな・・それが互いのためだ」
銀子さんはくるりと背を向け、スッと消えそうになったが・・どうしても我慢が出来なかった。
「待って、銀子さん!!提案がある!!」
「提案・・だと?あんた私の話聞いてなかったのかい!とっとと出ていきな!!じゃないと敵対行為とみなし攻撃するよ!!」
「だから!!敵ならそれでいい!でも、一時的でもいい、銀子さんたちと協定を結びたい」
「協定?」
「契約っていってもらってもかまわない。この契約を双方が結んでいる限り私はまつろわぬ神と自分を攻撃してくる神や神に組するもの以外への、神やそれに組するものへの権能での攻撃を原則禁止する」
「それ、本気でいってんかい?忘れたわけじゃないんだろう・・あんたの親父さんを殺したのはまつろわぬ神とはいえ、れっきとした神様だ。あんた父親の敵と契約を結ぶつもりかい?」
「・・知ってたんだ。・・でも、だったら其の父さんを殺した神を私が殺したってのももちろん知ってるんでしょ?・・それに、これは私の問題よ。父さんを持ち出す気はないわ。・・私自身が・・銀子さんやトヨウケヒメ達と一緒にいたかった・・誰に非難されても、これは私自身が決めた私の決断。・・父さんにだって止められやしない・・それにこれは私側の条件、もちろん神様側にも条件を提示させてもらうわ」
「条件・・だと?」
「一、人間に危害を加えている神、もしくはそれに組しているものは其の限りにあらずつまり、病魔とか呪いとか厄災とかその他もろもろ、人間が被害にあってた場合は祓うし必要なら除霊もする。
二、人間に使役されているものたちは其の限りにあらず。例えば式神、使役獣、
使い魔など・・とまぁ、こんな感じ?」
「・・それじゃあ、等価になっちゃいないよ。どうみても神様達の方が分が悪い。
大体、土地神様とかを攻撃してダメージ食らうのは人間側だっての」
「なら、追加で私の権能と、もしこれから他の権能を手に入れたならそれも含めて其の効力とか弱点や使用条件などを銀子さんに伝えるよ。でっ銀子さんから他の神様とかに伝えればいい。これで、もし私と戦うことになっても有利に事が運ぶ」
「・・なんで、そんな必死になって契約なんて結ぼうとするのさ。まつろわぬ神にでもならない限り、あんたがちょっかいかけなきゃ戦闘なんておきやいないんだよ・・なのに、なんでそんな無理してまで、・・」
「・・さっきも言ったでしょ?私は銀子さん達と一緒にいたいって・・たとえ未来の自分が不利になったとしても・・一緒にいたい。これが私の出した結論なんだ」
「・・ったく、強情っていうかなんていうか・・本当やっぱあんた馬鹿だわ」
「なっ!?」
「でも、まぁ・・そういう馬鹿は嫌いじゃないよ」
そういって銀子さんは消え、結界は綺麗になくなった。
契約のことは何も言ってなかったけど、多分銀子さんが神様達に伝えてくれるだろうと願い、神社を後にした。
其の日から三日後の夜・・私は神々と契約を果たした。
ただ・・疑問が残らないわけではなかったけど・・。
「結局あのおばあさん・・いったいなんだったんだろう」
『・・・知らない方が身のためだと思う』
契約が終わった夜、ベットに入りながら呟くと近くに寝ていた銀子さんが目をそらしつつそうかえすのであった。