ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その12
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2012/12/09(日) 17:29公開   ID:mVQsV0ujX36
1993年9月 欧州連合 各国首脳会議

 「スワラージ作戦、ついに始まりましたな」

 それは時計の針が8時を指したと瞬間にイギリス代表の口から出た声だった。
 会議室には2つの時計、一つは会議が行われているイギリスの標準時、そしてもう一つはスワラージ作戦が行われる地の現地時間に合わせてある。
 そして、その場にいる全ての首脳の目は、作戦が行われる地の時刻を刻む時計に釘付けだった。
 スワラージ作戦、国連主導のもとに、アフリカ連合と東南アジア諸国が参加する一大ハイヴ攻略作戦。EUの各国も様々な支援物資の供給を行っている。そして極東の国、日本帝国。
 彼の国もまた二個連隊を軍事支援として参加させており、なおかつ、新型戦術機および新型戦術機用兵装の投入計画も確認されている。
 この作戦が成功すれば、人類史上初のハイヴ攻略がなる。しかもポパールハイヴは位置的にオリジナルハイヴ攻略への橋頭堡の確保という意味合いでも重要な場所だ。
 そう、成功すればだ。人類の長年の夢であるハイヴ攻略、今までも数々の作戦が実行されたが、いずれもBETAの圧倒的物量を前に失敗に終わっている。払った犠牲も決して少なくない。
 今度こそは、そう思いながらも、人類は敗北を続けてきた。そして、ついにはユーラシア大陸の殆どをBETAどもの支配下におかれる事態になってしまった。
 それに対して今回の作戦はどうか?

 「結果がどうなるにせよ、この作戦が今後の人類とBETAとの戦いにおよぼす影響は計り知れない。それだけは確実ですな」

 フランス代表が口にし、作戦の実行スケジュールに目を通す。散々目を通した後なのだろう。手にしたスケジュール表はしわしわになっている。

 「新型ミサイルに、M01弾頭、以前よりも遙に強化された戦術機、そして戦術機用の八九式兵装。陸戦支援砲の改良、戦車の緊急離脱装置及び連射機構。今までとは火力が桁違いに上がっている。楽観視は出来ないが、そう悲観したものでもないと、専門家も言っている。勝率は悲観的に見積もっても五分五分だというくらいだ。ハイヴ攻略、決してあり得ない話ではない」

 ドイツ代表が厳つい容貌に似つかわしい硬質な声で、人類の勝利に対する可能性を口にする。

 「そうそう、おまけに今回は国連低軌道艦隊からの地上爆撃、軌道降下突入戦術など新しい戦術も実戦で行われる。いくらBETAでも今までのようにはいかないはずですよ」

 場の雰囲気を軽くしようという意図かは不明として、軽口を叩くイタリア代表。

 「なんにせよ賽は投げられた。あとは結果を待つのみですね」

 スペイン代表の言葉に、一同は首を縦に振り、戦況を知らせるディスプレイに目を向けた。
 長い一日が始まろうとしていた。



1993年9月 日本帝国 某所

 「始まるな。この作戦での結果如何により、我々が準備を推し進めている第四計画がどうなるかが決まる」

 「そうですわね、榊外相」

 口元に髭を蓄えた厳めしい顔つきの男、日本帝国外務大臣榊是親の声に、理知的な女性の声が答える。
 日本が着々と準備を推し進める第四計画、その責任者となるべく期待されている女性、香月夕呼、その人である。
 わずか19歳とは思えないほどの落ち着きと、深い知性と感じさせる瞳、政界の海千山千の狸どもを相手にしてきた榊をして、容易な相手ではないと思わせる何かをもつ女性である。
 ESP能力者によるBETAとの意思疎通、情報入手を目的とした第三計画。このスワラージ作戦で一定の成果を出さねば、第四計画への移行は時間の問題となる。
 そのためにこの作戦は重要な意味を持つものなのに、目の前の女性はその意味を理解できていないのではないかと思わず疑うほど泰然としている。妙に緊張している自分がまるで格下であるかのような錯覚を榊に思わせる。

 「ある人に言われたことがありますの。目的を果たせるのならば、手段を問わない。それは為政者としては正しい姿かも知れない。だがただ人であるならば、より良い結果を導き出せる手段を選ぶべきだ、と」

 「それが第四計画だといいたいのか?」

 「ええ、そして第三計画ではBETAを倒すことはできません。遅かれ速かれ、第四計画へと移行するのは確定事項なのです。そして、この手段こそがより良い結果を人類に見せることが出来る、私はそう信じています」

 艶然とほほえむ夕呼は、十代の小娘とは間違っても呼べない色気を醸し出していた。そしてそれ以上に、政治に身を置く者特有の清濁あわせのみ、その中でもなお最善の一手を模索する、最善の一手が民衆に石を持って迎えられるものであってもそれを平然と行う絶対的な意志、それを感じさせる目が実に印象的だった。

 「惜しいな、君が政治に身を置く者であれば、喜んで私の元で育てたというのに」

 「過ぎた言葉をありがとうございます。ですが私には別の使命がありますので」

 「ああ、わかっているとも」

 時刻は8時を過ぎていた。ポパールハイヴ周辺では今頃壮絶な戦闘が始まっているのだろう。
 夕呼は一人思う。二人の親友のことを。

 あいつら、あんまり無茶しないといんだけど。ただでさえ常識人離れしているのに、あんまり目立ちすぎると私の計画に引っ張り込むのが難しくなるしね。

 まあ、思っている内容は、心配とかそんなものではなく、ひどく利己的なものであったが。それはまあ、信頼の証だと言うことで。



1993年9月 インド後方支援基地 総合司令所

 「HQより各部隊へ、これよりM01搭載型多弾頭ミサイルを発射する。各員、耐衝撃体制をとれるように準備を整えよ」

 今回のスワラージ作戦は、大きく5つのフェイズに分かれる。
 第一フェイズは、M01搭載型多弾頭ミサイルによるレーザー属種の排除、および地上に展開しているBETAへの打撃。
 第二フェイズは、通常戦力による地表に残るBETAの残敵掃討、およびハイヴ内にいるBETAを各国のエース級戦術機動隊により地上へとおびき出す。
 第三フェイズは、衛星軌道上に展開している国連低軌道艦隊による軌道爆撃その一。これはM01搭載型多弾頭ミサイルを使用したものである。地上へとおびき出したBETAのレーザー属種を優先的に叩く。
 第四フェイズは、衛星軌道上に展開している国連低軌道艦隊による軌道爆撃その二。通常の爆弾による飽和爆撃とそれに乗じた軌道降下部隊の投入。
 第五フェイズは、戦術機によるハイヴ内部への進入、そして反応炉の破壊。
 そして今、スワラージ作戦の発動をもって、第一フェイズのM01搭載型多弾頭ミサイルの発射が始まった。
 第一弾のミサイル総数、実に100発。サブミサイルの数も足すと1100発のM01搭載弾頭がBETAの頭上に降りかかることになる。

 「ハイヴ周辺よりレーザー反応多数。メインミサイルの撃墜率97、98、100%。全メインミサイルが撃墜されました。サブミサイルの展開に失敗したミサイル、0。サブミサイルの作動率は100%です」

 「おぉ」

 小さなどよめきが司令所に響く。誤作動率0。分母が100と少ないが一概にはいえないが、誤作動が0というのは驚異的な数値と言える。別世界で問題になっているクラスター爆弾の不発率などを考えるとわかっていただけるだろうか。
 だが、その程度のどよめきなどが比較にならない歓声が、数十秒後に司令所に響くことになる。
 ハイヴ方向で続けざまに閃光が走る。
 遅れて轟く爆音。

 「サブミサイルの着弾率72.7%、727発のサブミサイルの着弾を確認。地表に展開しているBETAの14%、レーザー属種においては60%以上を駆逐したと予想されます」

 「おおおお!!」

 「みたか、BETAども」

 「いける、いけるぞ、この作戦は必ず成功する」

 熱狂が司令所を満たすが、総司令を務めるシブ・バーダーミは一人冷めた目で戦況を見ていた。
 彼は知っている。BETAの物量の恐怖を。レーザー属種の脅威を。人類の無力さを。
 それ故に第一手がうまくいった程度は到底安心出来ないのだ。それにまだフェイズ1。戦いは始まったばかりなのだ。不測の事態などこれからいくらでも起こりうる。

 「ミサイル第二波、発射せよ」

 冷静に次の指示を告げる。

 「了解。M01搭載型多弾頭ミサイルを発射準備、カウントダウン開始」

 「カウントダウン開始します、30…」

 司令所の各所では各員がさまざまな部隊へと指示をせわしなく送っている。M01ミサイルによる爆撃は第5波まで行われる。その後すぐさま通常地上戦力を投入する予定になっているのだ。
 ぼさっと突っ立っているような余裕がある人員など一人もいない。

 「HQより各部隊へ、これよりM01搭載型多弾頭ミサイルの第二波を発射する。各員、耐衝撃体制をとれるように準備を整えよ」

 「3、2、1、ファイア!」

 カウントが0となり、ミサイルが放物線をえがきながらハイヴへと飛び立っていく。

 「ハイヴ周辺よりレーザー反応あり。先ほどに比べて反応数は半減しています。メインミサイルの撃墜率100%。全メインミサイルが撃墜されました。サブミサイルの展開に失敗したミサイル、0。サブミサイルの作動率は100%です」

 「ここまで誤作動率0だと!凄まじいな、日本帝国の技術は」

 通常は米国でライセンス生産を行っているが、今回の作戦で使用されているのは全て日本帝国で製作されたミサイルだ。軌道爆撃用のミサイル合わせて1000発、3年間の年月をかけてこの作戦のために用意されたミサイルの数だ。
 ちなみに米国産でも誤作動率は少ない。理由は整備マニュアルとチェック用マニュアルにあるのだが、それを作り上げた当人はこの程度はやらないといかんだろう、常識で考えて、などとのたまっていたという。
 再びハイヴ方向で閃光が走る。先ほどよりも多いような気がする。
 そして再び轟く爆音。

 「サブミサイルの着弾率89.3%、893発のサブミサイルの着弾を確認。地表に展開しているBETAの37%、レーザー属種においては90%以上を駆逐したと予想されます」

 まさか、ほんとうにこのままいけるのか!?

 悲観主義的なところのあるシブ・バーダーミをして、驚異的な数字がたたき出された。序盤は順調。
 次に始まるのはフェイズ2。
 そう、後に語りぐさとなる九十三式電磁投射砲のデビューである。


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。
テキストサイズ:8404

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.