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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その13
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2012/12/16(日) 20:30公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1993年9月 ポパールハイヴ周辺 スワラージ作戦最前線

 「フェイズ1順調に推移中。現在、ミサイル第五波の発射準備中」

 管制ユニットで目をつむりながら戦況報告に耳を傾ける小塚次郎少佐。彼が搭乗する撃震弐型には九十三式電磁投射砲が握られている。
 抜群の破壊力を誇る代わりに重量もそれなりとなり、かなり機体の機動性に影響する兵装だが、今回の作戦での運用方法では問題ない。
 運用方法、つまり、移動砲台の役割だ。混戦の中で動き回るのではなく、接敵開始時の的の駆逐、及び接敵後の支援砲撃が与えられた役割だ。
 元々接近戦に重きを置く日本帝国軍の戦術機運用方針からは若干はずれているが、これだけの邪魔な大物をもっての混戦はあまりに危険が大きすぎる。
 従って、全機が九十三式電磁投射砲を持っている帝国軍第十三戦術機甲大隊の面々は、いずれもここ最近必死に砲術戦の訓練を行ってきたのだ。
 余談だが、久しぶりに近接格闘戦が楽しめる、と思って参加した新人歓迎の模擬戦で一方的にぼこられたのは、彼らの心に軽いトラウマを残している。

 「Eナイト1より、CPへ、地表部に展開したBETAの状況は?」

 「こちらCP、現在72%前後の壊滅を確認。衛星からの情報とミサイルの能力からして、第五波着弾後は、90%程度が壊滅されると予測されます」

 「Eナイト1了解。おい、聞いたか、地表部に残された憐れなBETAは10%、ざっと1万程度だ。九十三式電磁投射砲のデビュー戦としては少々数が少ないが、本番前の肩慣らしだ。各中隊ごとの陣形を維持し、戦線への突入準備!」

 「「「了解」」」

 各機が電磁投射砲を両手で抱えながら、前線に向かって匍匐飛行を行うなか、まりも操る先進技術実証機撃震参型もそれに続く。
 1機だけ他の撃震弐型と比べるとやたらとずんぐりむっくりしているその機体は、周囲に展開している部隊からの注目の的だった。
 日本帝国が送り込んできた新型戦術機。それもたったの1機だ。データ取りにしては数が少なすぎる。一体何を考えているか。どのような性能を持っているのか。
 そしてなにより、この戦術機がもたらすであろう新たな技術革新が今後のBETA大戦に如何なる影響を及ぼすのか。各国の情報戦は熾烈を極めているが、とうの先進技術実証機撃震参型にのるまりもは呑気なものだった。
 初めて立つ戦場に緊張はある、生死を賭けたやりとりに興奮もある。だが、同じ戦場に隆也がいると思うだけで心が軽くなる。
 初陣の衛士が迎える死の八分、それは彼女に対してはあまりに低いハードルなのかもしれない。せめて、死の八万とかにしたほうが良いのではなかろうか、と後の戦術評論家は残している。

 「お、動き出したな」

 そんな光景を遠く離れた場所から観察する人間、立花隆也は自機の調子を確認しながら、第十三戦術機甲大隊が陣形を組んで移動するのを見守っていた。
 光学迷彩、ステルス塗料の働きはばっちりらしく、すぐ近くに展開している部隊に見つかった様子もない。

 「さて、それじゃこちらは本命のAL3直属部隊とやらの様子を見に行くか」

 AL3、オルタネイティブ3直属の部隊である特殊戦術情報部隊。一個連隊に匹敵する108機の戦術機を投入して行われるBETA相手の意思疎通、情報入手計画。
 そもそも隆也がこの部隊に注目したのは、オルタネイティブ計画の存在を知ったためだ。
 内容はともかく、彼の注意を一番に引いたのは、ALTERNATIVE、の綴り、なにより彼の恋人である香月夕呼にその計画の関係者から接触があったことだ。
 ちなみに夕呼は、隆也に一言も情報を漏らしていない。たまたま夕呼の身辺警護用の網に、AL計画から派遣された人員が引っかかっただけだ。
 AL支配因果律、彼が挑み続けている姿の見えないそれを打破する糸口と見て取った隆也は、様々な手段を講じてこの計画の情報を収集し、そして脱力した。
 なぜなら、これらの計画が目標としていることについてはその殆どが彼の中では解決済みの事柄ばかりなのだ。
 とくにBETAとのコミュニケーション、これは彼の知識からすれば結果を出させずに終わることだろう。
 いってみれば昆虫とコミュニケーションを取ろうとしているのに似ている。BETAは意志といよりは、昆虫のような単純な命令機構により動いているのだ。
 隆也の目から見れば、襲ってくるスズメバチ相手に必死にコンタクトを取ろうとしているのに似ている。
 相手の素性が全くわかっていないから生まれた悲劇といえばそれまでだが、この計画に裂かれている時間とそして人員、なによりもその内容に彼は嫌悪を感じた。

 「自らが生き残るために、自らの命を弄ぶ、人類の業か」

 呟きながらオルタネイティブ3直属の特殊戦術情報部隊を探しに移動を開始した隆也の顔には、一切の感情が見えなかった。



1993年9月 インド後方支援基地 総合司令所

 「HQより各部隊へ、これよりM01搭載型多弾頭ミサイルの発射全て完了。移行、フェイズ2を発動する。各戦術機隊は、ハイヴへの進行を開始せよ、繰り返す、ハイヴへの進行を開始せよ」

 「インド軍第8戦術機甲大隊は補給部隊の護衛に、第9戦術機甲大隊は支援車両の警護に…」

 「国連軍インド方面軍第76戦術機甲大隊は直ちにハイヴ方面への進行を開始してください、繰り返します、国連軍インド方面軍第76戦術機甲大隊は直ちにハイヴ方面への進行を開始してください」

 「支援攻撃車両の展開が予定よりも遅れています、急がせてください」

 司令所は指示が飛び交う戦場となっていた。
 フェイズ1の成果は十分。地表にいたBEAT10万の殆どを打ち倒すことに成功。後はハイヴ内にどれだけの戦力が温存されているかだ。
 シブ・バーダーミはあまりの計画の順調さに少々拍子抜けの表情で、戦域マップに目を落としていた。本当にこのままハイヴの攻略がなるのか?
 そう考えた瞬間、期待は裏切られる。悲鳴のような声が司令所をこだまする。

 「ハイヴ方面から地下侵攻の予兆有り。数、およそ8。地表に展開すると予測されるBETA総数4万」

 BETAの物量。その本質がいよいよ牙をむき始めた。



1993年9月 ポパールハイヴ周辺 スワラージ作戦最前線

 「CPよりEナイト1。そちらに向かって母艦級の反応が3検出されています。展開が予測されるBETA総数およそ15000」

 「こちらEナイト1、了解。増援か、数としちゃ新兵器のお披露目としては十分だ。そうはおもわんか、神宮司」

 小塚が愉快げに戦域マップとBETA出現予測地点に対して目を走らせながら、最後尾に付いてくるまりもに対して声をかける。
 初陣の衛士への心配りといったところだ。

 「はっ、それよりも自分としては早く死の八分乗り越えたいところです」

 「いいね、謙虚な姿勢は嫌いじゃないぜ。なに、お前の腕だったら十分死の八分を乗り越えられる。俺が、いや、俺たち十三大隊すべての人間が保証する」

 「ありがとうございます、小塚隊長」

 小塚の言葉に嘘偽りはない。新人を気遣っての思いやりなんて一ミリも含まれていない、全くの真実だった。
 そもそもまりもレベルの人間が8分も生き延びられない戦場なら、自分はとっくの昔に退場していたはずだ。もっとも、どれだけの技量を持ってしても乗り越えるのが難しい、というのが死の八分であることも間違いない。
 むしろそれは呪いのレベルになっているといっても過言ではない。だが、この新人神宮司まりもにそんな呪いは通用しないだろう。
 そんな呪いなど、真正面から打ち砕くに違いない。

 「そういうことだ、神宮司。我らが大隊の隊長殿のお墨付きだ。安心しろ」

 「渡辺大尉…ありがとうございます」

 第一中隊の隊長渡辺美咲大尉からも激励をもらい、勇気づけられるまりもの耳に、聞き慣れた声が入ってくる。

 「よかったですね、神宮司少尉。名高い第十三戦術機甲大隊のお歴々からの保証付きですよ。これで撃墜なんかされたら、お二人の顔に泥をぬることになりますよ?」

 「ふふっ、そうね、立花伍長。簡単には墜ちられないわね」

 相手の顔はモニターには映し出されない。no imageと表示されている。だが声は間違いなく立花隆也のものだった。

 「そういうことです、それより神宮司少尉の役目、忘れていないですよね?」

 「ええ、大隊全機が電磁投射砲装備のため、死角からのBETA襲来の警戒、及び排除よね」

 「正解。こちらでもフォローはしますが、察知は神宮司少尉のほうが早いはずです。そのときは、独自に排除行動に移ってください」

 「了解したわ」

 「それじゃ、ご無事をお祈りしています」

 「ありがとう、そっちもね」

 「あ、やっぱりばれてる?」

 「ええ、もちろん」

 「CPより、いちゃいちゃカップルへ、そろそろ展開地域だ。準備をしておけよ」

 「「了解」」

 お局さま、もとい、竹中大尉からの指示で、まりもは部隊の展開地域が近いことを知る。

 「立花伍長、CPをやるからには、それなりにやってもらいたいものだが?」

 「申し訳ありません」

 「はぁ、まあ、お前は特別だ、ということだから強くは言わんが、一言忠告しておくぞ。戦場をなめるなよ?」

 「肝に銘じます」

 それは隆也の本心だった。自分とまりもに取っては大して命の危険を感じない戦場だが、それは自分たちの人外基準だからだ。
 通常の人間ならば、まさに生死を賭けた戦場だ。甘えは許されない、失敗も許されない。常に結果が求められるのが、戦場というものだ。
 我ながら軍人には向いてないな、と内心でぼやく隆也だった。

 「よし、展開予定地だ。各中隊機、フォーメーションを取れ、神宮司は遊撃のため待機だ」

 「「「了解」」」

 着地した戦術機が中隊ごとに陣形を組んでいく。ハイヴからのBETAの進行方向に対して鶴翼の陣を敷いていく。

 「CPよりEナイト1へ。BETA地下侵攻地点判明、フォーメーションはそのまま、3時方向に2Km移動していください」

 「Eナイト1了解。おまえら、聞いたな。移動だ」

 「「「了解」」」

 一糸乱れねぬ動きで展開した部隊が移動していく。そして沈黙の時が訪れる。

 「コード991、繰り返すコード991、BETA索敵範囲内に進入!」

 数分の沈黙の後、竹中大尉から全大隊員に警告が発せられる。
 爆発するかのように地面が吹き上がる。続々と穴から這い出るBETAの大軍。
 迫り来るのは異形の化け物ども。
 対峙するのは人類が誇る最精鋭の剣。

 「引きつける必要は無い。第一中隊、九十三式電磁投射砲、構え」

 小塚の指示に従い、三重に展開した鶴翼の陣の一番先頭、第一中隊の戦術機が無言で、九十三式電磁投射砲を構える。

 「かませ!」

 「「「了解」」」

 轟音が響き渡った。
 戦術機に乗っていなければ耳を押さえてのたうち回ったに違いない。
 それほどの大音量。
 一個中隊、12機の電磁投射砲から放たれた銃弾が音速の壁を打ち破り、BETAに向かっていく。
 鎧袖一触。
 まさにその言葉がふさわしい。
 一発の弾丸が通り過ぎたその後には、直径十メートルの掘削機が地平の彼方へまで掘り進めたかのようなBETAの穴が出来ていた。
 それが12ヶ所。
 一瞬にしてBETAを1000匹以上駆逐した中隊はしかし、なんの感慨もなく淡々と上官の指示に従う。

 「よし、第一中隊、最後尾に移動、第二中隊最前面に移動、移動完了後、九十三式電磁投射砲、構え」

 「「「了解」」」

 第一中隊が最後尾に移動、第二中隊が3重になった鶴翼の陣の前面に押し上げられる。
 これまで散々訓練した動きだ。目をつむっていても可能な動作だった。

 「第二中隊、展開完了」

 「よし、第二射、かませ!」

 「「「了解」」」

 再び轟音が戦場に響き渡る。
 12の死の閃光が戦場を走る。
 BETAがぼろ切れのようにちぎれていく。
 その間、第一中隊の電磁投射砲の冷却、弾丸装填が行われている。
 伝承にある信長の三段撃ちをヒントに考えられたこの攻撃。威力は絶大だった。
 一撃で数百のBETAが空を舞い、身体を引きちぎられていく。しかし一撃の威力は高いが、連射が不可能なこの電磁投射砲の弱点を補うための三段撃ちだ。
 これにより、実質の中隊単位での連射が可能になった。
 この作戦終了後に、各国から引き合いが来る九十三式電磁投射砲のデビュー戦は、まずまずのできあがりだった。

 「あ、とりこぼし」

 先ほどの轟音と比べるとあまりにも大人しい音を上げながら120mmを撃ち、至近距離にBETAが近づかないように地味な活躍をしているまりもであった。


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