現状を説明しよう。
俺は今・・・香月の前で正座をさせられている!
「ちょっと、聞いてるの?」
「はい・・・スイマセン」
怒られている理由は何となく想像できるだろうがまぁ、先ほどの模擬戦だ。
調子に乗ってやりすぎた。
柏木・彩峰・築地の三人の不知火は特に破損が酷く、修理にも時間がかかるそうだ。
模擬戦が終わってネクストから降りたらいきなり整備兵長にスパナで殴られた。
あれは痛かった。本当に痛かった。
画面の前の君は真似するなよ?
「不知火とアンタの機体もそうだけど第8訓練場。
コジマ汚染が今日一日ですごいことになったじゃない!暫くあれじゃ使えないわ」
香月が声を荒立てて怒るのはハジメテダナー。ワーコワイー。
ちなみに何故急にコジマ汚染が進行したか?
模擬戦開始直後に聞こえた、バキッって音を覚えているだろうか?
あれは我がネクスト、シィカリウスの内装が各所破損した音だったのだ。
コジマの排出量が増加する代わりに爆発的の推進力を得る。
俺が施した法外な改造の一つだ。
しかし本気出せ本気出せと言われて本気出したらそれはそれで怒られるなんて理不尽な話だ。
理不尽な説教に付き合っていると、扉がノックされた。
「どうぞ」
香月が答える。
「失礼します」
入ってきたのは神宮司軍曹だった。俺と神宮司軍曹があるのは新OSのトライアル以来だ。
「香月副指令、話とは?」
「はい、これ目通しといて」
おもむろに一枚の紙を手渡す。
「分かりました・・・
・・・っ!?」
上から目を通していた神宮司軍曹の目が突然驚きに見開かれる。
横から覗き込んでみると…
「何々?神宮司まりも軍曹を本日00:00付で大尉に任命する。
また、横浜基地A-01部隊に配属を…
どの辺に驚く要素が?」
「ちょ、ちょっと夕…こほん…香月副指令!
なぜこんなにも突然に・・・」
「前から話してたように、今の世界にはアンタの様に腕の立つ衛士を飼い殺しに出来る余裕和無いのよ」
「・・・」
頭ではそれは理解している。しかし感情は納得できていない。しかしこうして決定してしまったのでは逆らえない。それが軍というものだから。
教官を長年やっているからこそ、誰よりも分かっていることだ。しかし・・・
「さて、無駄話はこれくらいにして本題に入るわよ。モニターを見て頂戴」
部屋の一角にある大きめのモニターに映像が流れる。
複数の不知火の戦闘・・・模擬戦のようだ。
どうやら4対1での模擬戦らしい。
しかしこの単機で戦っている不知火の動き・・・どこか・・・
「..... 似ている…私に…」
映像が終了する。驚いたことに勝利したのは単機の不知火。
しかし損害は多い。左腕・右ブースター・頭部・ガンマウント(背中にライフルつけてるやつと考えてくれればいい)に被弾。これが模擬戦では無く、実戦だったならとうの昔に大破していたことだろう。
「さて、キャエーデ、感想は?」
「面白い玩具を造ったな香月。さしずめネクストの真似事でもしたかったんだろ?
足りないね。ブースターの推力。反応速度。機動性。足りない。
乗ってる衛士の技量もついでで言うと足りない」
すると香月はニヤァっと笑って、
「この衛士、誰だか教えてあげましょうか?」
「おう、誰だ?」
「アンタのすぐ隣に座ってる人」
「え”?」
がくがくとブリキの人形のように首を横に向けると横にはもちろん神宮司軍曹がいた。
「あ、え〜と…」
「キャエーデ中尉、貴方はこの不知火の動きを見てなんとも思わないのですか?」
「ん?」
「この瞬間的な加速。ブースターの推力を用いての機動の速度。今までの不知火に無いものです」
「あ〜、忘れたかな?神宮司軍s…神宮司大尉」
「あと2時間と39分は軍曹です!」
「あ〜軍曹?俺がここに来たのは香月副指令の実験のためで・・・」
「ストップ。私から説明するわ」
そう言って香月はなにやらキーを叩き始めた。
モニターに映し出されたのはシィカリウスだった。
モニター左側には機体の詳細が。モニター右側には幾度も行われたA-01との模擬戦の映像が流れている。
「この機体はコイツがもたらしたまったく新しい技術の産物。機体名はシィカリウス。
この機体のブースターやあの瞬間的な加速、所謂クイック・ブーストの技術を組み込んだのが・・・」
再び画面が切り替わり不知火が映し出される。映像は先ほど見せられたもののクイックブーストを使っているシーンの繰り返しだ。
「この新・不知火よ。名前はそうね・・・プロトタイプ・ネクストとでも名乗っておきましょうか?」
「いや、その名前はやめたほうがいい」
「なんでよ?」
「向こうの世界で
00-ARETHAってのが居たんだが・・・確かに強いけど…乗ったら死ぬ、そんな最悪の遺物だった」
「そう・・・まぁいいわよ名前なんて」
「あの…話が読めないのですが…」
「ここまで話してまだ分からないなんて本当ににぶいわね、まりも」
「俺は何となく分かった気がするけど聞きたくない」
「数日後、これをA-01の不知火全機に導入する。そのとき全員に扱い方を教えるのはまりも、アンタよ!そしてその時の為にキャエーデ、やり方は問わないから扱い方をアンタが教えなさい」
「ちょ、待って夕呼…」
反論しようとするがそれを遮るように…
「あ、アンタのコールサインはヴァルキリー0よ。キャエーデが
0でアンタが
0。これで想像付くと思うけど
2機編隊も二人で組んでもらうからね」
「おい待て香月!俺は単機での戦闘がメインだから2機編隊での戦闘とかできんぞ!?」
「慣れなさい!」
「はぁ!?」
いつも以上に無茶を言う香月。しかし上官で依頼主である人物からの命令だ。
無視するわけにもいかない。
こうして数日間、キャエーデ=スペミンフィーメン中尉と神宮司まりも大尉の、地獄の様な特訓が始まるのだった。