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敵であり、獲物であり、友である 第十話 鍛冶の能力と嫌な縁
作者:時雨   2012/12/14(金) 17:50公開   ID:wmb8.4kr4q6

「強気意思はそれだけで強固なり だが、意思は物に具現せず
 意思無き物はそれだけで脆弱なり だが、物は意思を打ち砕く
 我は意思を物へと具現化し、物に意思を定着させるものなり
 我は造る者 故に弱くだからこ最強を具現化できるものである」

カーテンを締め切り、電気もつけないこの部屋で言う聖句は何処か不気味であると同時に、やはり聖がつくだけあり、なんだか神聖な感じがした。
聖句を読み終わると、目の前で青い炎が燃え上がり、それがだんだんと形を成してゆく。そして、出来上がったのは・・。

「なんで、鍛冶なのに大なべなのかしらね?」

それは見事な大なべであった。
なんとも念の入ったことに、鍋の下では青い炎がぼうぼうと燃え上がっている。
なんといっていいやら、ほら、あれだ・魔法使いのおばあさんがかき混ぜてるあれを想像してもらえれば手っ取り早いのかな?
それか、ゲームで錬金術のアトリエ?工房?ででてくるつぼみたいな鍋でもいい。
その大なべを前に、私は手に百均で売っているような手鏡を二十枚ぐらいを足元においていた。大きさは小さかったり、中ぐらいだったり、とりあえず鞄の中にあっても不自然ではない大きさのものばかりである。それを一枚手にとり頭の仲でイメージを創り上げる。攻撃や魔法、音波を強く想像し・・それらを跳ね返すイメージを強く、強く、頭の中で創造する。

「何人たりとも反射するゆるぎない鏡、・・揺らがず、疑わず、イメージを強く、強く・・・」

私は頭の中で何度も何度も、強く強くイメージを繰返しながら、口でもぶつぶつ唱
える・・どちらかといったら、頭で考えるだけよりも物に付属する能力が安定するのだ。
そして、手に持っていた鏡を大なべに入れると、また、一枚、また一枚と次々に入れてゆくのであった。

「これでラスト」

最後の鏡を入れ終わると、私の額や顔、手までもが汗でびっしょりなのが汗が肌を伝う感触で認識する。
何度やろうとも、この行為は精神的にも肉体的にも疲れるようだ。

「今日の作業はこれで終了」

そう呟くとスッと鍋は消えてなくなり、その下で燃えていたであろう炎も消え、床には燃えていたであろう跡や痕跡などは一切残っていなかった。

『あら、今日はもう終わっちゃったのかい?』
後ろにある窓をつき抜けス〜ッと入ってきた銀子さんは、さも面白いものを見逃したとでもいうように、クツクツと笑いながら言うのである。

「おかえり、銀子さん。・・別に“造る”作業を見てても面白くもなんとも無いと思うんだけど」

『いや、あれは正に凪という人間を具現化したような行為だからねぇ・・見てるとこの世の縁の不思議さを感じられてたまらなく好きなんだよ』

「なにそれ」

私には銀子さんが言う言葉がまるで宇宙人がしゃべる言葉のように、その内容の意
味が理解出来ないでいた。
だが、トヨウケヒメなんかに私が造った物を見せると、やはり同じ様なことを口にするのだ。

『力が譲ちゃんに合わせて変わったのか、それとも元来の縁で引き合ったのか・・どちらにしても、譲ちゃんに似合いの能力だ』

とか言うんだけど・・。
私にはこの能力が私をあらわしているといわれても、あまりぴんとこないというか・・全部の権能が・・その・・地味なので・・私じたいが地味だと言われている様な気がして、なんだか素直には認められずにいた。

『あんた判っちゃいないね。・・この権能の効力と条件もう一度言ってみな』

「ヘーパイストスの権能は武器、道具、宝石、防具、などを神具へと昇華させ特殊能力を付属させることが出来る。但し、以下の条件のもとに限る。
 
一 昇華させるものは自分で用意しなくてはならない

二 特殊能力は一つのもに対し一つのみ
 
三 特殊能力は強くイメージできるものに限る

四 イメージ不足だと、昇華が不完全になり効果が弱かったり不発に終わることもある

五 昇華させた神具を使うには昇華完了してから一日経ってからではないと使用
  できない 」

『はい・・それをふまえて言うことは?』

「応用と扱いの幅はとっても広いけど、条件が曖昧なところもあるし・・やっぱ地味」

『だぁ〜〜〜〜〜〜この子ってやつはまだそんなこといってんのかい!!
大体あんたが地味なのは権能の所為じゃなくってあんたの責任だろうが!
権能の所為にしてんじゃないよ!!』

「むっ、そんなこと言って無いじゃん!!ただ、私に合わせて権能も地味になっちゃたのかなって思っちゃっただけだし!!」

『そのかわりあんたのえげつない所はちゃんと受け継がれてんだから我慢おし!!・・それよりも、この権能はあんたが今まで培ってきたものや、能力をそのまま最強の高みえと押し上げたような能力だとは思わないのかい』

「まぁ・・それは・・思うかな」

『イメージはあんたの魔力特性、何かを作ることは万華鏡を手に入れるために、
 そして、地味だけどえげつないのはまんまあんなたの特性』

「ちょっと!?地味でえげつないってのが私の特性なわけないでしょ!!」

『あんたねぇ、自分の胸に手をあててよ〜く考えてみな!!』

実際胸に手をあてて考えてみるも・・・。

「わかんない!」

『だぁ〜〜〜〜〜、目的のために手段を選ばないあんたがえげつなくなくって、
誰がえげつないんだよ!!』

「しゅっ・・手段は・・選んでるつもり・・なんだけど・・」

『はぁ?ヘーパイストス様を含めたほか二名の神様をあんたどうやって倒したんだっけ?』

「・・・・」

『確か、不意打ちに、騙まし討ちに・・』

「わっ、わかったよ!!・・確かに、私は手段を選ばないところはあるけど、でもそれは能力自体がそういう特性をもってるからで・・ていうか、そうしないと決定力に欠けるって言うか・・」

『まぁ、必殺技ではないけどね・・でも、それに近い効力は引き出せるじゃないか。・・あぁ、でもやっぱ不意打ちとかじゃないと効果ないか。・・真正面きって決闘するってタイプでもないしね、あんた。でも、やっぱそういうところが、権能に引き継がれたってことだろう?』

「やっ・・うん、・・たぶん・・」

『じゃあ、やっぱりあんたそのものじゃないか。他の権能にしたってそういうとこが無いわけじゃないけど、やっぱりこの能力が一番あんたを表してる感じがするね』

「・・百歩譲って地味ってのは仕方がないと思うけど、えげつないは何とかしてよ。私そこまで性格歪んでないよ」

『だけど、戦闘に備えてせっせと造ってるじゃないか』

銀子さんがクツクツ笑いながら言うのは、さっきまでやってたことだろう。
そう、私は銀子さん達と契約をしてからほぼ毎日道具を神具に昇華し、身の回りに身に着けているのだ。

「そっ・・それは、私あんな体質だし。万華鏡があってもやっぱさ・・縁みたいなのがあると思うんだよね。どんなに回避しようとしても目の前に立ちはだかるような・・強い逆縁っていうの?それがさ・・」

『ふ〜ん、それは能力者としての勘かい?』

「たんなる経験則だよ」

『そうかい・・んじゃまぁ、その経験則とやらが明日は外れてくれることを祈っといてあげるよ』

「・・ちょっと、なんか意味深ないいまわしなんですけど・・やめてよね、明日は高校の入学式なんだから!」

『そんなこといわれても・・ね。まぁ、情報不足のあんたが悪い』

「・・うっそ、まじでなんかあんの?ただでさえ正史編纂委員会もしつこいってのに・・」

『あぁ、あの人間が属してる集団かい?かれこれ何年になるんだっけ?』

「五年よ。ったくかわるがわる人をよこしちゃぁ監視してるし、ほら、つい最近なんて可愛い女の子まで巻き込みやがってさ」

『・・あの巫女のことかい?』

「?あの子巫女さんだったの?・・精神感応の能力はあるのはわかったけど・・」

『あぁ、そこまでわかるようになってきてたのかい』

「うん、まぁ・・ほら青葉台にある図書館みたいなところに隠れて忍び込むとさ、
 いろんな人が出入りするから、色々な能力も観察することが出来るんだよね」

『確か、人間があそこに魔術にかんする物品や書物を保管してるんだっけ?』

「そうそう、勉強させてもらいによく忍び込むんだ。万華鏡で魔力の気配を消せるし、姿を透明にする巨大風呂敷も作ったからには活用しないとね」

『本当に、あんたはちゃっかりしてるというかなんというか・・』

銀子さんが呆れるように首を振るも、私は最初の話題に戻したくってしょうがなかった。

「ねぇ、銀子さん。そんなことより、明日なんかあんの?」

『それは自分の目で確かめな・・といっても、起きるってよりもう既に成ったというほうが正しいんだろうけどね』

「そういわれるとますます気になるけど・・・まぁ、でもしょうがないか。鬼が出るか蛇がでるか・・楽しみにすることにするよ」

そろそろ十二時を回るころあいだ、少し眠くなってきたところであくびを一つし、そのまんま寝室へと足を運んだんだけど・・銀子さんはそんな私をみてポツリと呟いていたのを私は聞き逃してしまったんだ。

『鬼・・・ねぇ』



場所は私立城楠学院高等部、第一体育館。
広い体育館の中には、胸に花をつけた生徒がずらっと並び、各三十人ずつ七列が体育館に並んでいる。
この学院は学力面や部活動面など幅広く力を入れてる学校ではあるが、校風としては自由を基にしているらしく、制服をやたらと改造している子やピヤスに茶髪などなど、はけっこういたし、中には留学生らしき外国人もちらほらと混ざる・・グローバルだなぁとかも思うが・・。

「・・ここまで自由にしなくっても・・・」

四組の列中盤にならびつつ小さく小さく溜息を吐く私は、この祝いの席にはなんとも似つかわしくないんだろうなと思いつつも、吐く息は溜息ばかりである。
というのも、別に私は留学生に偏見があるわけでも、茶髪やピアスに嫌悪を抱いているわけでもなく、問題なのは右の列に一人ずついる人間なのである。
一人は色素が薄いのか、染めているのかはさだかではないが、きちんと制服を着こなし、つまらない学長の言葉を背をぴんと張りながら聞いている姿を見ると、きっと色素が薄いのだろうとイメージできる清楚な彼女。
髪を長くのばし、何処か優しげな雰囲気を出す彼女を私は知っていた。
まぁ、知っているといっても道を尋ねられただけなのだが・・その時にはっきりと感じ取った、あぁ、この子は私を探りに来たのだと・・。

「あのこ、私に力を向けてきたもんなぁ・・」

彼女の魔力はまるで春の風のように涼やかな緑。
その緑の魔力が私を包み探ろうとしていた。
多分それが彼女の能力・・精神感応というやつだろう。
だけど、私のことを感じ取ることはできなかったと思う。
だって、このときはもう既に・・・。

「万華鏡を神具にしておいてよかったよ・・」

私が目を覚ましたときに一番あせったのが万華鏡の能力が私の力に打ち消されていたということ。
その時は憶測でしかなかったけど、後から銀子さんに聞くとやはり神殺しの能力の一つに、魔術を体外から受けても完全に打ち消してしまうというものがあったらしい。

そこで、目覚めてから感じていたヘーパイストスの力を使わせてもらったのだ。
なんで、どうして、その理由も効能もよくわからなかったが・・なんとなく私の
勘が告げていたんだ。
これは使える・・と。
そうして、夜誰も居ない病院で権能を手探りで使い・・この万華鏡を造り上げた。
初めてにしては上出来だと思う。
長年愛用してきたもののおかげか、イメージは結構簡単にそして鮮明に出来たと思うし、その翌々日に来た魔力を纏った人たちにも、私の権能や魔力は感じられなかったんじゃないかなって思う。
このことを銀子さんに話し万華鏡を見せると、銀子さんは唸りながら首をひねり、そしてポツリ、ポツリと考えを教えてくれた。

『多分・・この万華鏡をみるかぎりじゃ、あんたの権能は物を神具まで昇華させる能力なのかも知れないね・・。』

「しんぐ?」

『あぁ・・簡単に言っちまえば神様に関連のある道具とか、神様が直接使ってた道具とか武器とか武具とか・・まぁ、他にも色々あるけど簡単にまとめるとそんな感じかね』

「それって何の意味があるの?・・いや、まぁ万華鏡の力が打ち消されないようになったのは有難いんだけどさ」

『意味!?あんたそれ本気で言ってんのかい!!』

「えっ・・えっと・・うん」

物凄い勢いで銀子さんに怒鳴られてしまったけど、この時は本当にピンとこなかったんだよね・・。

『神具ってのは神様の力にだって耐えうるようなもんじゃないと、神様には使えない・・だからこそ、それはどんな形をとっていたとしても・・例え神様で打ち壊すことの出来ない代物。・・それ以上にそれが神具となり効能まで出すとなれば・・もしかしたら神様にだってあんたの神具の効力を打ち消すことは出来ないかもしれない。』

そん時は、銀子さんに重々しく言われ、もしかして私すっごい能力手に入れちゃったかも!!とはしゃいでいたが、そうは問屋がおろさない・・。
少し後になって、まつろわぬ神イシスとの対戦で反射の鏡を使ったんだけど・・。
一度イシスの権能の魔術を跳ね返してすぐに粉々になってしまったのだ。
あの時は焦った・・だって壊れないって言われてたものが壊れたんだから、やっぱり私の権能って神具とは何の関係もないんじゃ?とかとも思ったけど、原因は結構簡単に解明された。
だって、私の万華鏡はイシスの攻撃に跳ね返しはしなかったけど耐えたもの。
その戦いが終わってから、色々ためしたんだけどやっぱりイメージが大事だったみたいで、イメージが弱いと神具が不完全だったり、完全に不発に終わるときもしばしば。
しかも、使ってみないとどのような按配かわからないのがすごくいたい。


「まぁ、とはいっても万華鏡は完璧みたいだから、それだけは有難いか・・」

あの万華鏡は神様にだって私の魔力や気配を感じることが出来ないようになっている・・高々人間の能力に突破されるほどやわじゃない。
だから、あの時のあの子にも私の事はわからなかったと思う。
まぁ、直接触られちゃったらアウトだったろうけど、一切触らせなかったし問題はない。

後問題なのは・・・。

「なんで・・神殺しがもう一人この学校にいるのよ・・」

銀子さん曰く巫女さんの女の子が六組に一人、それから五組の男子、遠目で顔ははっきりとはわからないけど・・あの子の体から神独特の濃厚な気配を感じる・・。
私を含め、何らかの能力保持者はこれで三人・・・この学校、かなり自由すぎだし・・。
ただ・・同じクラスでないことは不幸中の幸い・・かな。

「なにも起こらず、学校生活をエンジョイできればいいんだけど・・」

そう呟くも、きっとそんなのは無理な相談なのだろう。
なにせ、神殺しが二人もいるのだ・・。

「何も起こらないわけが・・・ないか」

長い長い学長の話が終わり、式は閉会した。
体育館から出ようと、ざわざわした生徒の中で唯一人辛気臭い顔をしているのであった。



帰り道、城楠学院は持ち上がりが多いらしく、人数もかなりいるので親御さんの
式への出席は控えてもらっているらしい。
そういうわけで、私や華火は二人っきりで家に帰っているんだけど・・華火が異様に機嫌がいいんだ・・。

「えっと・・華火なんかあった」

華火のニコニコ顔に若干引きながらも、おずおずと尋ねてみる。
いや、だって華火のこの顔は何か曰く付きのものを見つけたときに酷似してるんだよ。

「えへへ、わかる?朝は凪とクラスが分かれちゃってすっごく落ち込んでたんだけどね、同じクラスの子にめちゃくちゃ美人ですっごく変わってる子を発見しちゃったんだ!」

そう、朝一緒に登校し、クラス表が張り出されている掲示板を見てからの華火は、目に見えて落ち込んでいます、といった雰囲気だった。

「美人は判るけど・・・変わってるの?」

「うん、なんか他の子とは違うなぁって思うんだ」

「・・・思う?」

「うん・・あんまりしゃべれなかったんだけど・・なんか雰囲気がそんな感じがしたんだよね」

「・・えっと、その子の容姿って・・どんな感じ?」

「ん?・・ん〜っと、濃い茶色の長い髪に、すっごく優しそうで美人の顔・・あと、今時まず無いだろうってぐらい姿勢が良かったってとこぐらいかな、特徴って言えば・・あぁ、そうだ隣の席の子に聞いたんだけど、名前は万里谷 祐理さんって言って、学校でも一番美人って評判の人なんだってさ」

肩まで伸びた栗色のウェーブした髪を揺らし、笑いながら私に告げる華火だが・・華火の言葉に、私は神の呪いを疑わずには居られなかった。

「えっと・・・華火って・・クラス・・」

「あぁ!!凪、華火のクラス見なかったの!?ひっど〜い・・もう、華火のクラスは六組だよ。ちゃんと覚えておいてよね」

むぅっとふくれながらも、最後には仕方がないといった感じで教えてくれた華火だが・・うん、ごめん・・速効で忘れたい・・。

この日はそうやって華火と帰っていったんだけど・・。
本当に嫌な縁が出来てしまったと・・自分の運と神を呪いながら帰宅したんだ。


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■作者からのメッセージ
つたない文をここまで読んでいただき、ありがとうございます!
え〜っと・・内容なんですが、すいません・・原作か?って感じになってしまいました。いや、あの本当に原作内容に入ろうとしていたんですが、入ると区切るまでにかなり長くなってしまいそうだったので、とりあえず高校入学のところだけ書かせていただきました。次こそは本格的な原作に入りますので、ひらにご容赦くださいますよう、お願い申し上げます。
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