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敵であり、獲物であり、友である 第十三話 戦闘準備
作者:時雨   2012/12/19(水) 23:07公開   ID:wmb8.4kr4q6
もう一人の神殺しと華火が妙な接触をしたあと、私達は一緒に帰路に着くことになったんだけど…。

「ねぇ、凪!今日はどっかによってかない?」

家に行く道と、駅に行く道の分岐に来たときに、華火は少しウキウキとした気持ちを抑えきれないように、ニッコニコの笑顔で告げてくるものだから、一刀両断に断るのもどうかと思い、たまにはいこうかなぁ〜なんて滅多にない心境だったのに…

「ん〜じゃぁ……あぁ…ごめん。今日はちょっと無理そう…かなぁ…」

気配を感じ、斜め上を見ると空に浮かぶ銀子さんの姿。
それだけなら、全然かまわなかったんだけど、なんか物凄い勢いで頭を横に振ってるんだよねぇ…しかも尋常じゃないほど脂汗もダラダラだし。

「えぇ〜!!今日なんか予定でもあるの?」

むぅ〜っとふくれながらこちらを見る華火に、苦笑い向けるも多少引きつっていたと思う。なにせ、銀子さんの動きが本当におかしいのだ。
慌てているってのは判るんだけど、なにやら体をクネクネ動かして何を伝えたいのかまったくわからない。

「えっと…あぁ!?学校に提出するはずの書類をわたし忘れてたみたい。今から出しにいかないと…あぁ〜それに、その後もちょっと予定がつまってて…」

「…へたくそ」

「えっ?」

華火がうつむいてボソリとこぼした。
でも、私の耳には届かず首をかしげると、華火は顔をあげニッコリと笑うだけだった。

「それじゃ、ごめんね華火。今度埋め合わせするから!!」

「…うん、…気をつけてね、凪」

「うん」

華火に手を振ったあと、私はもと来た道を走り始める。
その後ろで華火が少し悲しそうに笑っているのにも気づかずに…。

『凪!!』

私の顔あたりまで高度を下げてきた銀子さんに、ボソリとつげる。

「話は後。まずは後ろから追ってくる二人をまかないと」

今日だけじゃない。
毎日毎日登下校も帰った後も私や家にぴったりと張り付いてくる、しつこい奴ら。
入れ替わり立ち代りで人は違うが、多分同じ組織に属している連中だろう。
走りながら小さく溜息をつくと、見えてきたのはまだ早い時間でもあるのでうちの生徒が多く見られる交差点。

(よし、ここだ)

後ろからついてくる二人をちらりと見ると、いっきに交差点を曲がり狭い路地へ走る。

「式、降臨」

手提げ鞄に手を突っ込み、人の形をした紙の真ん中に私の名前が書いてある物を一枚ペラリと放ると、ポンッと小さい音をたて目の前に私とそっくりの者が現れた。
その首に、前に使っていたお守りをかけ、マンションの鍵をわたす。

「それじゃ、私の教室まで行ってあとはマンションに帰る。今回もよろしく」

「あいあいさぁ〜」

早口で式に言うと、彼女?はのんびりと答え、路地から出て行った。
あれは陰陽道でつかわれていたという式というやつらしい。
らしいってのは、私もきちんと習ったわけじゃないから詳しいことはよくわからないんだけど…神殺しになってから、まつろってない神様達と協定を結ぶことによって、なんでだか、神様公認の便利屋みたいなものになってしまったらしい。
曰く、神様や精霊などなどはもう巫女にすら見える者が居ないらしいく、彼らの声すらも届かない…そこで、姿も声も見えるし聞ける私に白羽の矢がたった。
まぁ、難しいものは断ったりしているが、そこそこ繁盛している。
というのも、彼等は私に何かを頼むとき対価を私にわたす。
“等価交換”これは神様たちの数少ないルールの一だとのこと。
なので、可能なときに彼等に呪術の情報やレッスンなどをつけてもらう、それを対価にすることがあった。いまじゃ委員会の図書館?もみつけ、かってに学ばせてもらったりしてるけど、昔はそうはいかなかったから。
こうやって呪術ほ習得して、なんとか委員会の目もだまくらかしてきたわけ。

「それにしても、あのお守りも重宝してるわ…」

『あれのおかげで術の気配も消せるからねぇ』

一時的に高度を上げていた銀子さんが、空からスッゥ〜と降りてきた。
路地の隙間から、そっと道を覗くとどうやらあの二人は上手く誤魔化されてくれたようだ。まんまと式をつけていっている。

「でも、今回はあのくたびれサラリーマンじゃなくってよかったわ。あの人なんだか鋭そうだし」

『まぁ…あんたを見張ってる中じゃ一番の実力者だろうよ』

「…やっぱり?」

苦笑いを浮かべながらもおどけてみせる私に、銀子さんは呆れるように溜息をついた。

「まっ、冗談はここまでってことで…銀子さん、なんかあった?」

苦笑いを引っ込め、真剣な表情で銀子さんに向き直ると、銀子さんの雰囲気はどこか重々しく、だがそれ以上に張り詰めた空気を放っていた。

「…まつろわぬ神だ」

「え?…まつろわぬ神が現れたんだね。…でも、こういっちゃなんだけど、銀子さんは神様サイドだよね。なんでわざわざ教えてくれるの?」

今でも仲良くはやってるが、それでも線引きはきっちり引く。
それが、私達の関係を良好に築けている理由の一つでもある。
なのに、今回はそのルールを吹っ飛ばすかのように、銀子さんは神様の情報を私に伝えにきた。…何かあると思わない方がおかしいのだ。

『今回は例外だ。海を渡ってきた渡来神…しかもあやつはこの国で確実に暴れるだろう。神にだって自分の領域というものがあるんだ。海を渡ってきた余所者に、我が物顔をされるのは、こちらとしても面白くないんだよ』

「ふ〜ん…了解。とりあえず、その神様見に行こうか」

膝を軽く曲げると、そこには黒い漢字で覆われた魔方陣が足元を覆った。

「韋駄天の恩恵を我に与えよ」

ボソリと呟くと、魔方陣は鈍く光りはじめたので、私は軽く地面をけった。
すると、軽くけっただけなのに低めに設置されたビルの屋上にひとっとび。
やはり、術ってのは便利である。

『ったく、韋駄天様のお力をこんな形で使うなんて』

「ちゃんと走ることにも使ってるんだから、いいじゃない」

ビルの屋上に飛んでから端まで走り、また隣の屋上に飛ぶ。

『そういうこと言ってんじゃないんだよ!?ったく…はぁ〜』

「それよりも、方角ってこっちでいいの?遠くの所為か私にはまだ場所が判んない」

溜息をつく銀子さんに、肩をすくめながら尋ねると、じとりとこっちを睨まれたあと、また小さく溜息をつき頷いた。

『あぁ、こっちで間違いない。ちょっと遠いからとばすよ』

「あいあいさぁ〜」

その言葉とともに一人と一匹は、速度をドンドン上げていった。
三十分ぐらい走ったり飛んだりしていただろうか、ビルの高さはだんだんと上がっていき、今じゃ低いビルのほうが珍しいくなってくるぐらい高度なビル郡がひしめき合ってる場所。そこを未だにビルからビルに乗り移ってる最中その光景をみた。

「……あれか」

あるビルの屋上で急ブレーキをかけ、南の方角80m位にあるここより少し低めのビルを見下ろすと、黒い髪の男子と金髪で赤い服を着た女子…あと、銀髪の髪に猫のような帽子を被った幼女が一人…。

「あらあら、もう一人も来てたみたいね」

そのビルの端に腰を下ろす。
はっきりいって、彼が来ているのならあまり手を出すつもりはない。
だってあの幼女の気配は、彼から漂っていた微弱な神の気配に酷似しているのだから。

『いいのかい?こんなところで悠長に見てて』

「自分で蒔いた種ぐらい、自分で収穫してもらはないとね」

戦うことはやぶさかではない、でも早々簡単に命の危険を冒すきもない。
それに、彼の実力も見ておきたいってのもある。
初めて他の神殺しの戦いを見るってのもそうだけど、私と彼は同じ日本に暮らす神殺し。

「いつ敵対関係になってもおかしくないのよ」

ポツリと呟いた言葉に、隣に来ていた銀子さんがちらりと私を見たのに気が付いたが、私は何も言うことはなかった。
そんな感じで約5分位経過したか…。
戦況が動いた。

「…………え?」

『は?』

幼女と黒髪の男子と短い会話のようなことをしたあと、瞬く間に男子の目の前にくると、幼女は命ではなく唇を奪っちゃった。

幼女の手が男子の後頭部に回り、さらに顔を引き付けるも彼はその子を引き剥がすことはなく、そのキスを受け入れているようにここからは見える。

「…えっと……和解?」

『……さあ?』

二人?で首をかしげながら見ていると、しばらくして異変に気が付いた。
幼女の力があの男子に流れ込んでいるのだ。
それに気が付き、思わず立ち上がるもその時は既に彼の力は抜け、膝をつき屋上に倒れ込んでしまった。

「なに?あれ……」

『…たぶん、言霊みたいなものを流しこんだんだ。普通に人間があんなの食らったら、ひとたまりもないわよ』

銀子さんが言ったとおり、彼は屋上に倒れ込んでピクリとも動かない。
だが、彼の体からだからはまだ魔力を感じる。

『流石ってところだね。あれを流し込まれてまだ死んでないとわね』

銀子さんの言葉を聞く限りじゃ、彼はまだ死んでないようだ。
さて、今から助けた方がいいか?
と、足を軽く曲げた直後、少し離れた場所からそれを見ていた金髪女子が、駆け寄り彼を護るように幼女の前に立ちはだかる。

『ただの人間が神を相手にするなんて…無謀としかいいようがない』

「でも、彼女は本気みたいだよ」

遠くで表情とか細かい部分はわからないけど、彼女からほとばしる魔力がビリビリと彼女の本気を伝えてくる。
彼女にとって、よっぽど彼が大切なようだ。

「いまここで出て行くのは、無粋ってやつかな」

人には命をかけてでも自分でやらなくてはならない、他人には渡したくない時がある。
彼女にとってそれがいまなのだと、そう直感した。

彼女の剣が言葉と共に槍に変わり、幼女に突進する様を見ながら苦笑いを浮かべる。
たぶん、彼女じゃあの神様の相手は務まらないだろう。
なら、それを汲んでやるのも生きるもの勤め。

「さて…と、あの神様の弱点はどこかなぁ…」

手に持っていた学生鞄の中から万華鏡を取り出し、中を覗き込む。
この万華鏡とも長い付き合いだ。
いまでは、そんなに時間をかけることなく鏡の部分を見せてくれるようになった。
中を覗き込むと180度設置されてる鏡があの幼女の姿を映し出す。

「……今度は首の…喉仏の部分…か」

いつもながら範囲は極小、しかも首となると長距離から狙うのはまず無理だろう。
となると、接近戦…なんだけど…。

「接近戦ってあんまり得意じゃないんだよなぁ…」

『あんたの権能ってどちらかというと遠距離用って感じだものねぇ』

一つはヘーパイストスの権能。
でも、あれはどちらかというと奇襲が一番効果があるのだ。
どんなものにどんな能力が付属されているかわからないぶん、そこに付け入る隙を見出すタイプ。付属や物によっては近距離にももちろん使えるが、私は今戦っている金髪少女のように、戦う訓練をしてきているわけじゃない。
たとえ、近距離ようの武器をもっていてもそれを上手く使いこなせるかはかなり微妙だ。

二つめは、イシスと戦って得た権能。
これは、自分で魔術を一から作り上げる権能。
はっきり言って、今でも一から作り上げるってのは自分自身でもよくわかってないんだけど、アニメとか小説で見たり読んだりした魔術…それが使用できた。
ただ、これもネックがあり…たしかこんなのあったなぁ〜程度で発動すると、暴発する。
使う時には、きっちりアニメなり小説なりの魔術を思い浮かべなければならない。
今のところ成功したのは、ス○レイヤー○ぐらい。まぁ、それでもラッキーだったのは、あの小説の魔術って赤眼の魔王だったかなんだったかの力をかりる、ってのもあったはずなんだけど、今のところ問題なく発動が出来ている。
だが、これも部類するなら遠距離といっていいだろう。

三つめは戦闘用ですらない。
イムホテプという神様から簒奪した権能。
この神様は知恵と医術を司っていたらしい。ただ、私が引き継いだ権能は知恵。
神様関連の物や場所、後は神様を見たときに権能を使うとその神様のヒントがもらえる。
…あくまで、ヒント。ピンポイントで教えてくれることはまず無い。
ここら辺が知恵と知識の違いなのかもしれないけど…。

「でも、いまイムホテプの権能を使うと流石に気づかれるかな…」

はっきり言って万華鏡が無かったらこの距離だろうと、問答無用でばれていただろう。
だが、たとえ万華鏡でも神様相手に完璧は望めない。
神様の権能なんて使ったら流石にばれる。

「てか、銀子さんがいる時点でこちらのことばれてるんじゃない?」

『いや、神に仕えてるものなんてのはこの日本じゃくさるほどいるのさ。
なにせ八百万の神って言うぐらいだからね。そのなかの一つを気にとめるなんてことはまずないよ。しかも、あの神様…何かに気をとられてるようだ。ならなおさら私に気が付くなんてことはありえないね』

金髪少女と幼女の戦いを見ながら、何気なく銀子さんが言うと、先ほどまで赤子のようにあしらわれていた金髪少女の槍が幼女の頬をかすり傷をつける。
だが、そのことでほんの少し力を出したのであろう幼女が槍をかち割り、勝負あったかと思われたそのとき、破片が幼女を取り囲むようにしてビルに突き刺さり、剣の結界を彼女にはった。

『おぉ〜、やるじゃないかあの人間』

「うっわぁ〜、あんな使い方も出来るんだね。勉強になるわ」

幼女が剣に触れると一瞬にしてその結界は崩壊したが、金髪少女は目的を果たした。
横たわっていた筈の黒髪男子が彼女と共にいなくなっていたのだ。
たぶん、最初っからこれにかけていたんだろう。
それを追ったのかは判らないが、幼女もまた真っ直ぐ進みどこかえいってしまった。

「さて…と。私も準備した方がいいみだいだね」

あの男子が死んだかどうかは判らないけど…とりあえずおはちは私に回ってきた。
なら、最善を尽くさなきゃね。これでも…

「神殺し、だからね」


パチッと指を鳴らすと、何もない空中から落ちてきたのは黒いトレンチのロングコートに、黒い野球帽。それから黒いスニーカーに白いグローブと腰にまくホルスターにビービー弾が入ったフィルムケースが数個、これらはすでに私の権能で神具にした私用の変装コスチュームである。
コートには防御といいたいところなんだけど、曖昧なイメージしか出来ず断念。
とりあえず、破れないというイメージで造ったら、ある程度上手くいった。
帽子は私しか脱げない…風の日でもこれで安心。
スニーカーは脚力増強、グローブはパンチ力増強。
ビービー弾は全て魔弾へ変え、数十個ずつ効力は違う。
但し、効力は着弾から10分ぐらいしか効かない…イメージ不足の所為だと思う。
ホルスターは拳銃ではなくビービー弾のフィルム用。

これらのをビルの屋上で着たり、装着したりしていると横で銀子さんは首を傾げていた。

『なんで術でぱっぱ着替えないんだい?』

「失敗してすっぱだかなんてやだもん」

一応私も乙女なのである。

『あんたねぇ…それでも本当に神殺しかい?はぁ…それと、なんでビービー弾?
戦闘の時に魔術で出せば早いだろうに』

「…銀子さん、私はそれでも神殺しなの。常に戦闘時にはなんらかの武器は手元にも置いておくわ。何があるかわからない…それが戦いだからね」

『おやおや、それは御見それしたね。…まぁ、その言葉は接吻で瀕死の重傷を負ってる
 あのぼうやにこそ、言ってやったほうがいい言葉だろうけど』

「……まぁ、男の子だし。あれで昇天しても本望なんじゃない?」

あの幼い子、女神様だけあって絶世の美少女だったし。
…まぁ、でもあの神殺しの弱点は間違いなく、女だわな。

『やだねぇ〜、これだから人間の男ってのは』

「でも、それをサポートしてくれる人材を集めるのも器量のうちでしょ」

あの金髪少女、どこの所属かわからないけど確実に戦闘の訓練を受けたプロだ。
しかも、年齢は私やあの神殺しにある程度近い…そこから考えれば才能や実力もある。
あれだけの人材を一人でも確保してるとなると、戦闘も確実にやりやすくなるでしょ。

「まったく羨ましい限りよ」

制服の上からホルスターをまき、腰にフィルムを装着。
ロンファーからスニーカーえとは着替え、グローブをはめる。
最後に上からコートを羽織り、セミロングを束ねた髪を帽子の中にしまい込みながら目深に被り、つばのところで目元を隠す。
こんな簡単な格好だが、案外わからないものなのだ。
目元を隠せば人の認識なんて曖昧になるから、そのおかげかもしれないけどね。
鞄の中から万華鏡を取り出すと、コートのポケットに仕舞い、また指をパチッと
鳴らすと、脱いだロンファーとおきっぱなしの鞄が消えた。

「さて…と、いきますか」

つばの先を右手で少し触りながら言うと、右隣には銀子さんがいつでも駆け出せるよう足元についてくれる。
そして私達は駆け出した。
だが、あの幼女が向かった方向とは少しずれ、首都高ぞいをぬけてゆく。
だが、凪に迷いはみられず、ビルの隙間に飛び込んでは壁をけり、屋上をけり物凄いスピードでかける。
空は夕闇が染め始め、夜の闇の訪れを告げていた。


夜。
闇と月、そして星々が天を覆う夜。
それは、彼女の最も愛する時間。


もうそろそろ夜になろう時間だったが、今の都会の夜はとても明るい。
闇は闇ではなく、夜は夜ではない。
人が作り出した明かりが、夜を照らすのだから。

「…これがあの子の本領発揮ってか?」

凪の周りはビル郡がひしめく正に都会の風景。
だが、この風景にはいつも見ているであろうものが消えていた。
ネオンも信号もビルの明かりや電車の音さへ…いま、この街から消えたのだ。
それは、まるで円が侵食するかのように広がり、凪の居る地点にも訪れた。
ビルの屋上から下を見下ろすと、信号機の光が消えたため車は道を動くことが出来ず、少し離れた交差点では車を降りた人が言い争いをしている。

『ところであんた、どこへ向かってるんだい?力の中心ではないんだろう?』

ビルから見下ろす私の右隣に下りた銀子さんが確信した口調でそう告げる。
まぁ、当たり前か。銀子さんが腐っても神様の遣いなんだから。
力がどの方向からでてるか、こう派手に動けば判るだろうし。

「ん〜さっきの神様と同じ気配を感じたことがあるのよ」

『?前にあったことがあるってことかい?』

「うんん、あの神殺しから…で、華火の話によるとメダルを持ってたらしいのよ」

右手の指をパチッとならし、手のひらを広げると青みがかった荒削りの水晶の先に紐のついたものが、手のひらの上にのっていた。
こんな時のためにダウジング用の水晶かって魔力を込めまくったんだもん、役立ってもらはないとうっぱらってやる。

「たぶんあの幼女、メダルを探してるんじゃないかな?」

『そのこころは?』

「華火があのメダルが“呼んでる”っていってたから」

右手で紐のはしを握り水晶をたらすと、淡く水晶が光だし円を描くように回ると、
不自然なぐらいに前の道路の先をさして止まっていた。

「よし」

『あんたもあの嬢ちゃんには甘いねぇ』

凪は銀子の言葉を無視するように屋上を蹴り、道の先を目指すように飛んでいく。
それを見た銀子も、仕方がないというかのように軽く首を横に振りながら彼女の斜め後ろに向かって屋上を蹴り上げるのであった。
その頃甘粕と万里谷は都心のある場所に車で向かっていた。
というのも、甘粕の部下から神社にいた甘粕に連絡があったのだ。
まつろわぬ神を確認した…と。

「それにしても、よかったんですか?万里谷さん。神の近くに行けば、ただではすまないかもしれませんよ?」

車を運転しながら言う甘粕の声は、どこかこの状況を楽しんでいるかのようであった。
そんな姿を助手席に座り、眉を潜めながらも見つめる万里谷に、甘粕は苦笑いした。

「…万里谷さん、もしかして何か怒ってます?」

「いえ、ただ…甘粕さんは妙に冷静というか、余裕あるといいますか…」

「いえいえ、内心びびりまくりですよ。ただ、慌てても状況は好転しないですから」

車の列が止まり、自然に甘粕たちを乗せた車もスピードを落とし、止まる。
そのタイミングを見計らったように、甘粕はにっこりと万里谷に笑いかけた。

「万里谷さんは何故?あの神社にいたほうが安全だったきもするんですが?」

「…少し確かめたいことがあるんです」

「と、いいますと?」

甘粕がそう問いかけ、万里谷が口を開きかけたそのとき、それは突然お訪れた。
夜の闇が覆う時間…だが、周りにはビルの明かりやネオンがひしめき合っていたはずなのに、それが何かに吸い取られていくかのようにドンドン消えていくのだ。

「な!?これは!!」

「いよいよ、夜の女王の本領発揮といったところですか」

万里谷は吸い取られていく明かりに目を見開き、甘粕は現状を知ろうと車に付いたラジオに左手を伸ばそうとした、その時…
万里谷の席にある窓に、黒いコートを着た人間が上から降ってくるが見えた。

万里谷はフロント硝子から前を見ていたので気づかなかったが、ラジオに手をの伸ばそうとしていた甘粕の目の端には、きっちりその人間が写っていた。

「万里谷さん!!」

「え?」

甘粕が叫ぶと、それに反応して万里谷が甘粕の方を向くと同時に車のドアが思いっきりこじ開けられ、ドアは道路に放り投げられた。

「きゃあ〜〜〜〜!!」

甘粕は万里谷に伸びる白いグローブをはめた手を捕らえようと手を伸ばすも間に合わず、その手は万里谷の右腕をつかみ、シートベルトを素早く外すと、万里谷を車の外へと連れ出し、大きく後ろにジャンプし車一台分のスペースを開けた。

「ごめんね」

叫ぶ万里谷の口を左手で覆い、右手で白衣の袂を探る。

「んっ、んんんっん〜〜」

万里谷が口を覆う手に噛み付こうとした瞬間、後ろから回っていた腕は離れた。
万里谷が後ろを向くと、甘粕がはったと思われる結界と、その5mぐらい後ろでゴルゴネイオンを右手でもつ黒い帽子の人間が万里谷の視界に入った。

「そのメダルをどうするつもりですか!?」

万里谷が大きく叫ぶも、黒い帽子を被った人間は口元に笑みを浮かべ、そのまます万里谷たちに背中をむけ走り出してしまった。その人間は、猛スピードで止まっている車の間を縫うように走り、掴まえる余裕を彼らには一切与えはしない。

「どうしましょ!!」

「万里谷さん、王との別れ際に携帯番号を渡されてましたよね…私の携帯から、彼にこのことを伝えた方がいいでしょう」

「はい!!」

甘粕に渡された携帯に番号を打ち込みつつ、万里谷は頭の隅に引っ掛かりを覚えていた。

(あの声…どこかで…)

「万里谷さん?」

「あっ、すいません。いま」

万里谷は軽く頭を横に振ると、右耳に呼び出し音を鳴らす、甘粕の携帯をもっていった。



その頃、万里谷から奪ったゴルゴネイオンを持った凪は、またビルとビルの間を飛んでいた。ネオンや光がないおかげで黒いコートをきた凪に目を向けるものは誰一人居ない。
まぁ、今の状況ではそんなことを気にする人間も居ないだろう。

『で、そんな物騒なものどうするんだい?』

「もちろん、これから情報をいただいて囮にするのよ。さっきはすっかり情報のことが頭からぬけちゃってたのよね」

あの幼女のことを私は何も知らない。
今わかってるのは、夜か光に関係しそうなことと、幼女の姿であること。
一応集束点は見つけておいたけど、彼女が何を司っている神で、どういう能力が推定されるのか、わかっているのとそうでないのでは天と地ほどの差が生じる。
少し油断をすれば死あるのみ、そんな死闘を演じなくては成らないのだから情報の一つでもないとやってらんない。

『戦うき満々のわりには、情報収集怠ってるけどね』

「うっさい。いきなりキスなんて見せられて少し動転してたのよ!!」

『おこちゃま』

「うっせぇ、ババァ」

『あっ?』

「……なんでもないです」

…銀子さんにすごまれるとすっごい恐いんだよね。本気で食い殺されそうで…。
でも、銀子さんの言うことを一理あるんだよねぇ…。
私は一回大人まで成長してるんだもん、あの程度のこと昔は全然平気だったのに…

「…心までひきづられちゃってるのかな…」

『ん?』

「…なんでもない」

壁を蹴りながらポツリと言った言葉は、風に邪魔され銀子さんの耳には届くことなく、凪はぎこちない笑みを、銀子に向けるのであった。

しばらくビルの間をけり続けていると、ビル郡はだんだんと減り今度は工業地帯が姿を現す。
この風景になってくると風に塩気も混じり、海が近いことを知らせていた。

「とにかく、建物と人の少ないところに向かうわよ」

『はいはい』

最後のビルを人蹴りし、空中にコートをはためかせながら目の前に広がる工場と海に向かって飛び出した。
その姿を満月の光だけが、照らしている。


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■作者からのメッセージ
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
ん〜、結構無理な設定をぶち込んでんでるかなぁ〜と自分でも思うのですが、やはり原作あるといっても、そこにオリジナルを入れると難しいですね。
なんだか、話の前後で矛盾が出てきてしまい苦労してます…
もっと上手く物語を構成できたらと、改めて思いました。
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