くそっ、どうして
十代とその子分と居残り掃除なんてものを............
そもそも、十代が悪いのだ。
今日の大徳寺先生の授業は、伝説のデュエリストについてだった。その中で出てきた、古代エジプトの、デュエルの神と呼ばれた生涯無敗の少年王、アビドスV世。こともあろうに十代は、その神と戦ってみたいと言ったのだ。
当然俺は言った。「神のワンターンでライフが0になるに決まっている」と。
すると十代は、それに同意し、そしてこう言い放ったのだ。「万丈目の仇は、俺が取ってやるよ」と。
どうして俺が負けることになっている!お前のことだ!
そして口論が始まり、罰として居残り掃除を命ぜられたのだ。
いや、確かに、授業中に私語を始めた俺にも非はある。だが、俺を挑発するようなセリフを言った十代の方がもっと悪い。
俺がそんなことを考えながら、寮に向かって歩いていると、突然、絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
俺達は声のした方へと走る。
崖下を見ると、灯台のそばにカイザーと天上院君が立っていた。その周りにはゾンビ。これは、まさか!?
「お兄さん!」
「翔、来るな!!」
カイザーが叫ぶ。
急いで助けに行かなければ。そう思い、走り出そうとした俺達だったが、足元から現れたゾンビに、道を阻まれる。
『鍵を、持つ者ぉ............』
ゾンビたちが声を挙げた。
「くっ、セブンスターズか!」
だが、それならある意味安全だ。少なくとも、直接的に危害を加えられる可能性は低い。俺は周囲を見回す。どこかに、このゾンビどもを操っているヤツががいるはずだ。
「あ、あれ!!」
翔が天を指差す。
俺もすぐに気がついた。天から光が降ってきていたからだ。
雲の切れ間から、
それはゆっくりと姿を現す。
黄金色の船が、光を放ちながら、ゆっくりと降りて来た。
その光景は、まるで絵画のように、幻想的で、非現実的だった。
光が、だんだんと強くなる。それは、目を開けていられないほどになって―――――
「ぐぁっっ!!?!」
額に強い衝撃を受けて、俺は目を覚ました。
硬い床の上で、俺はのたうつ。
「おはよーさん、万丈目」
上から、聞きなれた先輩の声。どうやら、俺にデコピンをしたのは、先輩のようだ。
俺は起き上がり、文句を言いかける、が、すぐに口を噤む。
俺は自分が、金色の床の上にいることに気付いた。つまり、ここはさっき見た船の上だということ。
なるほど、多少手荒でも、早く起こした方が良かったという訳か。
さて、ええっと、俺の他には、旭先輩、天上院君、カイザー、三沢、大徳寺先生(と猫のファラオ)、翔、そして――――――
十代は変なうめき声をあげながら、のたうちまわる。
「ア、アニキ! 万丈目君、何してるんすかぁ!」
「あー、いや、すまん、つい」
顔をまじまじと見ているとむかついてきて、腹にけりを入れてしまった。さすがにまずかったな。まぁいい。今はそれどころじゃない。
「要するに、鍵の守護者が全員そろったということか」
「そういうことだろうな。それより、見ろよ、あれ」
旭先輩は顎で、左の方を示した。
全員(十代除く)は、つられてそちらを見る。
俺達のいる場所から一段高くなった舞台。その先に、玉座に座ってる男がいた。いかにも古代エジプトのファラオ、といった感じの仮面をかぶっている。
「うにゃぁぁぁっ!?」
「大徳寺先生!?」
その男がこちらを見た瞬間、大徳寺先生は叫びをあげ、倒れた。
「放っておけ。どうせ役に立たん」
まったく、どうしてこんなのがデュエルアカデミアの教員になれたのか。謎だ。
男が立ちあがると、誰かが壇に飛び乗った。
十代だ。
「お前は、何者だ!」
「余の名はアビドスV世。セブンスターズの一人」
アビドスV世だと!?
「あの、生涯一度も負けなかったという..................」
「伝説の............」
アビドスV世は、ゆっくりと広場の中央まで歩きながら言う。
「そなたたちの持つ六つの鍵をもらいうける」
「神と呼ばれたデュエリストと、戦えというの............」
「残り六つの鍵を、一気に手に入れようという気か」
敵さんも、焦って来たという訳か。
「鍵を置いて逃げるのなら今のうちだ。さて、どうする」
「はーい、はいはいはーいはい、俺がや「お前は前回やっただろうが!!」ぐぁっ!!?!」
「アニキ!!?!」
ここで旭先輩の華麗な飛び蹴りが決まった。そのまま床にぶっ倒れたまま動かない十代を、ずるずると引きずって、そのまま舞台から落とす。色々扱いが雑だ。
「ったく、二回連続とか空気読めない子は嫌いでーす。どうせお前は後で活躍の機会あるだろうしな!
という訳で、今回は」
「あ、旭先輩、無茶です!!」
「そうですよ、相手は神のデュエリストですよ!?」
確かに、旭先輩は強い。だが、だが、はたして生涯無敗のデュエリストに勝てるであろうか。
「怖いもの知らずのようだな」
アビドスV世も、そう言った。
「いいや、違うな。俺は、勝算はあると思ってるぜ」
!!
「生涯無敗と言っても、所詮それは、過去の、それもごく狭い地域での話。井の中の蛙だ」
「無礼な、ファラオに向かって............」
「構うな。
ほう、それほど自信があるのか。ならば、かかってこい」
「ハッ、それはこっちのセリフだ。すぐにボッコボコにしてやるよ」
そういうと先輩は、後ろを振り向いて、こちらへ歩みを進めた。デュエルディスクが必要だからだろう。そう思い、俺がデュエルディスクを翔の鞄の中から出すと、旭先輩は、壇を下りて、俺の肩に手を置き、振り返ってこう言った。
「この、万丈目がな!」
..................................................................え?
「というわけで、デュエルの神の洗礼を受けて来い、万丈目」
....................................え?
「「デュエル!!」」
神のデュエリスト、か。一体どんなデッキを使うのか。このターンで決められないといいが。
「余のターン、ドロー。
手札から、マンジュ・ゴッドを守備表示で召喚。
マンジュ・ゴッドの効果を発動。召喚・反転召喚に成功した時、デッキから儀式モンスターまたは儀式魔法カード一枚を手札に加える事ができる」
アドビスV世のデッキは儀式デッキか!!
「余はデッキから、儀式魔法 高等儀式術を手札に加える。
カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
伏せカードか。不気味だ。だが、何を伏せたのか考えてもしょうがない。相手は俺の実力を遥かに超えているはず。考えを読もうとしても無駄だろう。
「俺のターン、ドロー、スタンバイ、メインフェイズに入る」
さて、手札はそれほど悪くない。やはりこのデッキは使いやすい。兄さん達が学園を買収しようとした時、旭先輩にデュエルの権利を奪われた――もとい、差し上げたときに礼ということで渡されたが、俺の好みを押さえている。
「俺は手札から、フォトン・クラッシャーを召喚。
バトル、攻撃力2000のフォトン・クラッシャーで、守備力1000のマンジュ・ゴッドを攻撃」
通るか?
「ふむ、良かろう。マンジュ・ゴッドは破壊される」
よしよし。
「フォトン・クラッシャーは、攻撃後、守備表示になる」
「守備力0!?」
翔が、殊更に大きな反応を示す。こいつも少しは俺と十代のデュエルを見ているはずなのだが。肝心なところをよく見ていないのか。
「俺は、カードを一枚伏せ、ターンエンド」
俺は冷汗をぬぐう。よかった。何とかこのターンは、乗り切れたよう「第一の棺、発動!」な、なに!?
「第一の棺?第一、ってことは、第二、第三とかもあるのか?」
ようやく復活したのか、十代が聞く。アビドスV世は、その問いに答える。
「左様、相手ターンのエンドフェイズごとに、第二の棺、第三の棺の順に、フィールドに出す。三つの棺がそろいしとき、呪いの扉が開かれ、そなたを絶望と闇が覆うであろう。
第一の棺の効果により、第二の棺が、フィールド上に出現する。
まず一つ。あと一つの棺で、そなたの命運も尽きる」
くっ、訳が分からん。だが、早く処理しなければ。
「万丈目君............」
「余のターン、ドロー。
手札から、センジュ・ゴッドを守備表示で召喚。
効果を発動。召喚・反転召喚に成功した時、デッキから儀式モンスター一体を手札に加える事ができる。余はデッキから、
闇の支配者−ゾークを手札に加える」
くっ、これで、儀式魔法と儀式モンスターが手札にそろったか。だが、儀式召喚には、儀式魔法に書かれているレベルを満たすモンスターをフィールドか手札から生贄に捧げなければならない。
つまり、儀式召喚はとにかく重い。そんな余裕が、果してあるのか。
「余は手札から、儀式魔法 高等儀式術を発動!
闇の支配者−ゾークの儀式召喚には、通常ならば、儀式魔法 闇の支配者との契約が必要だ。だが、高等儀式術は、すべての儀式魔法の代わりとすることができる。
さらに、高等儀式術は、手札の儀式モンスター一体とレベルの合計が同じになるようにデッキから通常モンスターを墓地へ送ることで、その儀式モンスターを特殊召喚することができる」
な、なんだと!?そんな儀式魔法があるのか!?
「余はデッキから、レベル2の通常モンスター、ファラオのしもべと王家の守護者を二体ずつ墓地へ送る。合計レベルは8。降臨せよ、
闇の支配者−ゾーク!!」
くそっ、流石は神、といったところか。だが、
「
罠発動、奈落の落とし穴!攻撃力1500以上のモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚した時、そのモンスターを破壊し、ゲームから除外する」
「ちっ、だが、ゾークの効果を発動。一ターンに一度、サイコロを振り、その目に応じて以下の効果が発動する。
1・2の場合、相手の場のモンスターを全て破壊する。
3・4・5の場合、相手の場のモンスター一体を破壊する。
6の場合、自分の場のモンスターを全て破壊する。
出た目は4。よって、フォトン・クラッシャーを破壊する。ダーク・カタストロフィー!!」
これで俺の場はガラ空き。そしてアビドスV世の手札はまだ五枚も残っている。来るか?
「余は、カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
ふぅ、よかった。
多少緊張が緩む。
「俺のターン、ドロー、スタンバイ、メインフェイズに入る」
いいカードを引いた。いや、だが、少しあからさま過ぎるか?
「俺は手札から、フォトン・サーベルタイガーを召喚。効果を発動。
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、デッキからフォトン・サーベルタイガー一体を手札に加える事ができる。
フォトン・サーベルタイガーの攻撃力は、自分フィールド上にこのカード以外のフォトン・サーベルタイガーが存在しない場合、800ポイントダウンする。よって、攻撃力は1200となる。
バトル、フォトン・サーベルタイガーで、守備表示のセンジュ・ゴッドに攻撃、フォトン・バイト!!」
よし、
罠も速攻魔法も無しか。ならば。
「俺はダメージステップ時に、速攻魔法 フォトン・トライデントを発動!
自分フィールド上のフォトンモンスター一体の攻撃力を、エンドフェイズ時まで700ポイントアップさせる」
「ええっ!?センジュ・ゴッドの守備力よりもフォトン・サーベルタイガーの攻撃力の方が高いのに、どうして!?」
「そなた、何を企んでいる」
アビドスV世は、訝しそうに聞く。
ちっ、聞かれなかったら言わなかったのだが、しょうがない。
「フォトン・トライデントの効果は後二つ存在する。
まず、選択したモンスターに、貫通効果を与える効果。
そして、選択したモンスターが相手に戦闘ダメージを与えた時、フィールド上の魔法・罠カード一枚を破壊できる効果だ!」
「うまい!これなら、戦闘ダメージを与えるだけでなく、第一の棺も破壊することができる!」
「なっ!?余の棺を破壊しようというのか!?
カウンター
罠 魔宮の賄賂を発動!!
相手の
魔法・
罠カードの発動を無効にして破壊し、相手はデッキからカードを一枚ドローする。これで、フォトン・トライデントの効果は無効だ!」
「ああ、惜しいっ!」
ちっ、そう簡単にはやらせてくれないか。
「だが、これでセンジュ・ゴッドは破壊される。魔宮の賄賂の効果でドロー。
俺はこれで、ターンエンドだ」
これでこのターン、第一の棺の効果が発動してしまう。まずいな。
「....................................そなた、余の棺を破壊しようとしたな。なぜだ」
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「どういう意味だ?三つ揃ったら恐ろしいことが起きると脅されたんだ。まず壊すだろ?」
「..................そう、なのか?」
「..................そう、だよな?」
ちょっと自信が無くなってきて、後ろの先輩達の方を見ると、全員、うんうんと頷いている。
「余の棺を壊そうとしてきたのは、そなたが初めてだ」
..................なんだろう。普通とは全く違う意味で、嫌な予感がする。
「そ、それで、第一の棺はどうなった?」
空気を変えなければならない気がしたので、俺は聞く。
「そ、そうだな。
第一の棺の効果により、第三の棺が、フィールドに出現する」
「三つの棺が揃ったわ」
「一体何が起こるんだ」
他のみんなも、多少わざとらしく言う。
頼む。何か、何かすごいことが起こってくれ!
「そして、第一の棺、第二の棺、第三の棺、これら全てを墓地へ送ることで、手札かデッキから、スピリッツ・オブ・ファラオを特殊召喚する!」
おー。攻撃力2500か。すごいな。うん。すごい。
「攻撃力2500?なんだ、手間暇かけた割に、普通じゃないか」
「こら十代、そういう空気をぶち壊すようなことを言うな!」
「そなた、ファラオの魂を馬鹿にするというのか!
スピリッツ・オブ・ファラオは、特殊召喚に成功した時、墓地からレベル2以下のアンデット族通常モンスターを四体まで特殊召喚する事ができるんだぞ!」
だ、だぞ?
さっきまでの肩が凝りそうな気取った話し方はどこへ行ったのやら。
いや、それはどうでもいい。
レベル2以下のアンデッド族通常モンスター四体だと!?まさか!?
「いくぞ!墓場より甦れ、ファラオのしもべ、王家の守護者!」
くっ、まさか、あの儀式召喚は、このための準備だったということか!!
「感謝する。そなたがセンジュ・ゴッドを破壊してくれなければ、この状況は生まれ得なかった。
余のターン、ドロー。
余は手札から、
魔法カード サウザンドエナジーを発動!
自分の場の、トークンを除く全てのレベル2通常モンスターの元々の攻撃力・守備力を、1000ポイントアップさせる」
!!こ、攻撃力1900のモンスター四体だと!?
「そして、エンドフェイズ時に、自分の場のレベル2の通常モンスターは全て破壊される。だが、このターンで勝利すれば問題ない。
バトル、スピリッツ・オブ・ファラオ、ファラオのしもべ、王家の守護者で攻撃、ファラオの怒り!!」
「万丈目君!!」
「万丈目!!」
「くっっ」
迫って来るモンスター達。そして、
俺の身体を、激痛が襲った。
「万丈目君........................」
「ふっ、余の勝利だな」
「それはどうかな」
周囲に立ち込めた煙の中から、俺は答えた。
「な、なんだと!?」
驚愕を隠しきれないアビドスV世。
「万丈目君!!」
「へへ、俺は信じてたぜ、万丈目」
「万丈目
さんだ。
ったく、そうでないと困る。貴様とはこのデッキで何度かやりあったからな、十代」
まったく、こんな奴相手に、このカードを使うことになるなんてな。
「そなた、何をした!」
「ふっ、教えてやろう。俺は手札から、クリフォトンの効果を発動していたのさ」
「クリフォトン、だと?」
「クリフォトンは、このカードを手札から墓地へ送り、2000ライフポイントを払うことで、このターン自分が受ける全てのダメージを0にすることができる」
万丈目:6000→4000
正直、2000ポイントもライフを支払うのは痛かった。
ライフを払っただけなのに、あの激痛。これが、闇のデュエルか。
だが、その価値はあった。
「これで貴様は、このターン、俺にダメージを与えることはできない。
そして、サウザンド・エナジーの効果で、貴様の場のスピリッツ・オブ・ファラオ以外のモンスターは、エンドフェイズ時に破壊される!!」
「くっ」
目線を場と手札に行ったり来たりさせ、苦しそうにうめくアビドスV世。
「ふん、所詮、過去の遺物だということだな。この程度のことに対処することもできないとは。
今ならエクシーズで簡単になんとかなるものを..................」
「む?えくしーず?
おおっ、その手があったか!」
へ?
「余は、ファラオのしもべと王家の守護者をオーバーレイ!」
な、なにぃ!?馬鹿な!
「二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!
出でよ、ガチガチガンテツ !さらにもう一体、ガチガチガンテツ!」
な、なぜだ...........................
「なぜお前が、エクシーズモンスターを持っている!」
まさか、古代エジプトにもエクシーズ召喚が存在したとでもいうのか!
「ふむ――――――――――――――――――――――――なぜだ?」
............は?
「余にも分からん。気がついたら持っていたからな」
........................何を言っているんだ、こいつは。
「そ、そうか!」
と、唐突に三沢が声を挙げる。
全員の視線が集中する。
「古代エジプトのデュエルでは、カードではなく、
石板が使用されていた!当然、
デュエルディスクも無かった!
つまり、今アビドスV世の持っているデッキとデュエルディスクは、なんらかの重畳的な力で産み出された可能性がある!!」
なん........................だと。
「なるほど」
「さっすが三沢君。あったまい〜い」
「余の家臣にしたいほどだな。
余は、カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
「チッ、俺のターン、ドロー、スタンバイ、メインフェイズに入る」
目論見通りにはいかなかったか。
だが、
だが、いいカモだ。
これで、俺のデッキの真価を、発揮できる。
「俺は手札から、
魔法カード アクセル・ライトを発動。
このカードは、自分の場にモンスターが存在しない場合発動でき、デッキからフォトンまたはギャラクシーと名のついたレベル4以下のモンスター一体を特殊召喚する。
俺はデッキから、フォトン・リザードを特殊召喚」
「む、守備力1200?時間稼ぎか?」
「いいや、まだだ。俺は、フォトン・リザードの効果を発動。このカードを生贄に捧げることで、デッキからレベル4以下のフォトンモンスター一体を手札に加える。
俺はデッキから、レベル4のフォトン・スラッシャーを手札に加える。
アクセルライトを発動したターン、俺は通常召喚を行うことができない。だが、特殊召喚なら可能だ。
フォトン・スラッシャーは、通常召喚できず、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。来い、フォトン・スラッシャー!」
「?どうして万丈目君、最初からフォトン・スラッシャーを召喚しなかったの?」
「んー、副次的には、デッキの中の、後から来てほしくないカードを減らしてデッキ圧縮をしてる感じかな。
でも本当のところは、フォトン・スラッシャーはデッキから特殊召喚できないからだな。蘇生制限に引っ掛かるんだよなー。武藤遊戯のデッキが来た時、説明したろ?」
「へー」
「だが、万丈目はどうするつもりだ。
フォトン・スラッシャーの攻撃力は2100。
相手はガチガチガンテツの効果により、場のモンスターの攻撃力と守備力が、エクシーズ素材の数×200ポイントアップしている。
それにより、二体のガチガチガンテツの守備力は2600。スピリッツ・オブ・ファラオの攻撃力は3100」
「黙って見てろよ、カイザー。細工は流々仕上げを
御覧じろ、ってな」
「さらに俺は、フォトン・スレイヤーを特殊召喚。このモンスターは、フィールド上にエクシーズモンスターが存在する場合、手札から表側守備表示で特殊召喚できる。
そして、攻撃力は2100だ」
「?どういう意味だ。守備表示でどうやって攻撃するつもりだ。
その上、そのモンスターのレベルは5。エクシーズもできないはずだが?」
「誰が攻撃すると言った。エクシーズ召喚をするわけでもない。こいつらは俺のエースモンスター召喚のための生贄に過ぎん。
いくぞ、俺は、攻撃力2000以上のフォトン・スラッシャーとフォトン・スレイヤーを生贄に捧げ、このモンスターを特殊召喚する。
闇に輝く銀河よ、希望の光となりて我が
僕に宿れ!光の化身、ここに降臨、現れろ、
銀河眼の光子竜!!」
「すごいっす、万丈目君!」
「こ、攻撃力3000だと!?」
「よし、これなら、ガチガチガンテツを戦闘破壊すれば、スピリッツ・オブ・ファラオの攻撃力は2900まで下がる!」
「その通りだ。
行け、
銀河眼の光子竜、ガチガチガンテツに攻撃、破滅のフォトン・ストリーム!!」
これで形勢逆転だ!!
「ふっ、残念だったな。余は、
罠カード
魔法の筒《シリンダー》を発動。
銀河眼の光子竜の攻撃を無効にして、その攻撃力分、すなわち3000ポイントのダメージを、そなたに与える!」
くっ、駄目か!
「ああっ、だめ!」
「万丈目!」
「これで、終わりだ!」
「いいや、違うな」
「なに?」
まったく、これだからど素人は。モンスター効果の確認くらい初歩の初歩だろうに。
「俺は、魔法の筒にチェーンして、
銀河眼の光子竜の効果を発動!
このカードが相手モンスターと戦闘を行う時、その相手モンスター一体とこのカードをゲームから除外する事ができる。
これにより、魔法の筒は不発だ。
バトルフェイズを終了。この瞬間、除外された互いのモンスターはフィールドに戻る」
「あーあ、破壊できなかった..................」
「でもこれで、ガチガチガンテツのオーバーレイユニットは無くなって、スピリッツ・オブ・ファラオの攻撃力は2900まで下がったわ」
「それだけではない。俺は、
銀河眼の光子竜の、さらなる効果を発動。
ゲームから除外したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、そのオーバーレイユニットを吸収することができる!」
地に広がった暗い穴から、二つの光球が飛び出し、
銀河眼の身体に飛び込む。その瞬間、黒ずんだ体が、一気に光り輝く。
ああ、いい。俺の相棒にふさわしい美しさだ。
「吸収したオーバーレイユニットは二つ。よって攻撃力は1000ポイントアップし、4000となる」
「な、なんだと!?」
「メインフェイズ2。クリフォトンの効果を発動。手札のクリフォトン以外のフォトンモンスター一体を墓地へ送ることで、墓地のこのカードを手札に加える。手札から、フォトン・サーベルタイガーを墓地へ送り、クリフォトンを回収。
俺はこれで、ターンエンドだ」
ふぅ、よし。これでずいぶん楽になった。
余裕が生まれた所で、そろそろ聞いてみようか。
「なぁ、アビドスV世。お前はどうして、神のデュエリストと呼ばれていたんだ。
はっきり言って、プレイングは普通。心理戦がうまいという訳でもない」
「戦略もデッキも、なんか普通っぽいよねー」
確かにそうだ。
旭先輩のデッキほど、ぶっ飛んでいない。
「お前は、本当に生涯無敗だったのか?それとも、ただの伝説なのか?」
「..............................余は............」
アビドスV世は、つぶやき始めた。
「余は確かに、一度も負けたことが無かった。
だが、だがいつも、物足りなかった。みな、これほど弱いものなのかと。ずっと、疑問に思っていた。余は、本当に強いのかと。
今日、ようやく気付いた。余は、手加減をされていたのだ。
ファラオたる余に、勝ってはならなかったのだ..................」
やはり、そういうことだったか。
「なんだか可哀想...................」
「デュエルってのは、お互い本気でやるから、楽しいのにな」
がっくりと膝をつき、アビドスは言った。最高に、悲痛そうに。全てに、絶望したように。
「誰も余と、本気でデュエルしてくれないのか........................」
その言葉は、俺の胸を、強く、深く打った。
「それなら..................」
俺の口は、自然に動いた。
「それなら俺が、その楽しみを、教えてやるよ」