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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その17
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2013/01/13(日) 18:19公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1993年9月 インド後方支援基地 総合司令所

 作戦は順調に推移していた。ハイヴ突入部隊に対して、謎の支援者からBETAのハイヴ内における分布図データが発信されたりと、予想外のことは幾つかあったが、作戦は無事に第五フェイズまで移行していた。
 地上に展開しているBETA勢力の大半を無効化し、このまま行けば本当に史上初のハイヴ攻略が成功するはずだった。
 あとは反応炉破壊の報告が入ってくるのを待つだけでよかった。
 そう、この報告が入ってくるまでは。

 「大変です、ハイヴより北、500kmの地点でBETAの姿が補足されました!」

 「なっ!?どういう事だ」

 総司令のシブ・バーダーミの声が司令室に響き渡る。皆沈黙し、その返答に耳を澄ましている。
 ここに来てのBETAの増援。タイミング的には最悪だ。

 「監視衛星の映像によると、オリジナルハイヴからポパールハイヴに向かって地中進行していたBETA群が地上に展開した模様です。数は、およそ10万」

 「10万だと…」

 「おそらくオリジナルハイヴからの定期的な補充部隊だと思われますが、詳細は不明。過去にも何度か同じような事態が観測されましたが、そのときとは比較にならない規模です」

 オペレータの声にも震えが混じっている。

 「ハイヴ突入部隊の状況は!」

 「降下部隊が現在中層に展開中。攻略までまだ時間はかかると思われます」

 「くそっ!最悪だ」

 シブ・バーダーミの頭の中に幾つかの選択肢が現れる。
 一つはハイヴ突入部隊を見捨てること。悪手ではあるが、うまくいけば反応炉の破壊は行える。ただし、本来なら英雄としての帰還を果たすはずの降下部隊は、その後に殺到する10万のBETAに圧殺されることだろう。
 隆也が聞けば、BETAの性質、反応炉が破壊された場合には、別のハイヴへと移動することを指摘して、その方法を直ちに採用するだろうが、生憎とハイヴの攻略が一度もされていないため、反応炉破壊後のBETAの行動パターンは未知数となっている。
 無知故の悩みだが、それを指摘できるのは誰もいない。
 もう一つは、直ちにハイヴ突入部隊を撤退させ、ハイヴ攻略作戦を再度練り直すこと。これには当然のことながら戦略物質の補充の問題が挙げられる。
 今回の作戦においてすでに使用された武器弾薬は相当な量におよぶ。これを再び蓄えなおすためには、ある程度の時間が必要になってくる。どんなに楽観的にみても数年はかかる。
 幸い地上戦力の消耗率は2割程度と、挽回はまだ十分に可能な被害だ。もっとも通常での戦闘で2割も被害が出ていれば、そうとうなダメージだが、BETA戦となるとその値はかなり軽い方だ。
 BETA戦はいろいろな意味で、通常の戦争と異なる。
 最後は、ハイヴ攻略を行いつつ、北方から迫り来るBETA集団を迎撃すること。
 だがこれにはかなり難しい。
 今ハイヴの南方から攻め上がっているため、まったく反対に軍団を配置する必要がある。支援砲撃も満足に行えない可能性も高い。
 少数を犠牲にしてでも、ハイヴの反応炉を破壊する。ハイヴ突入部隊は全員が死を覚悟しているはずだ。
 悩んだ末に、シブ・バーダーミが出した結論は、偶然にも一番いい手だった。

 「作戦は続行する。ハイヴ突入部隊には死を覚悟してもらう」

 ざわりっ、と司令室の空気が揺れた。
 誰もがシブ・バーダーミの立場になれば、苦しい選択を迫られるだろう。それがわかっているがゆえ、彼の言葉の重みを、彼がハイヴ突入部隊の死の責任を背負う覚悟を決めたことを感じていた。
 先ほどまでのハイヴ攻略の成功が見えてきて明るい雰囲気が漂っていた司令室の中を、今は重い沈黙が満たしていた。



1993年9月 ポパールハイヴ周辺 スワラージ作戦最前線(日本帝国担当戦線)

 「と、いうことらしい、俺たちは前線の維持をしつつ、状況次第ではすぐさま撤退できるようにだと」

 小塚次郎少佐がBETAの増援についてのHQの対策を部隊員に伝えていた。

 「ひでえ、ハイヴ突入部隊は捨て駒かよ」

 「万が一増援が来るまでに最下層に到達できなければ犬死にか…」

 沈痛な声が回線にのって耳に届くのを、小塚は己の無力さをかみしめながら聞いていた。
 まさかこのような事態になるとは。
 第十三大隊部隊の作戦は順調に推移していた。相手を寄せ付けずに一方的に電磁投射砲を撃っていたので、損害も0。
 自分たちの部隊だけでもせめて支援にいけないか。
 そんな思いがよぎるが、自分は軍人だ。勝手な行動を起こすわけにはいかない。おまけに、自分が動くと言うことは配下の大隊員も一緒に巻き込むことになる。
 そんなことが出来るはずがない。

 「ちっ、これが軍人の限界かよ」

 自嘲がこぼれる。そしてその自嘲を拾うように、一人に衛士の言葉が響き渡る。

 「Eナイト1へ、フライヤー1は独立行動権限を持って、これよりハイヴ北方の支援に向かいます」

 一瞬何を言われたのかわからなかった。なぜならそれは自殺を意味するようなものだからだ。

 「こちらEナイト1だ。残念だがそれは許可できない。貴様が乗る機体は、これからの帝国に絶対に必要なものだ」

 たった一機で5000以上のBETAを殲滅する事が出来る機体、そしてそれを手足のように扱う衛士。小塚がいうように、これを失うことは日本帝国に取って大きな損失になる。
 そんなことを許せるわけはなかった。

 「申し訳ありません。こちらの独立行動権限を制限できるのは、帝国技術廠の小塚三郎技術大尉およびその上官に限られます」

 「なっ!?おい、CP、フライヤー1が言っていることは本当か!」

 「こちらCP、残念ながら本当です。フライヤー1が持つ独立行動権限は特殊で、所属する部隊長ですら手をだすことができません」

 無念そうな声が聞こえてくる。
 バカな、そんなことをすれば軍規も何もなくなるではないか、小塚はまりもが持つ独立行動権限を甘く見すぎていた。そして、帝国技術廠の、いや自分の弟である三郎の思惑を。

 「わかっていただけましたか。ご心配をしていただいて恐縮ですが、自分のことなら大丈夫です。自分は別に死にに行くわけではありません。勇敢なる衛士たちを生かすために行くんです」

 柔らかい笑みを浮かべるまりもの顔には、確かに死地へと赴くものの悲壮感はなかった。むしろ、生きて帰ることを約束された者のような、見た者に安心感を抱かせるような微笑みだった。

 「了解した。だが、これだけは命令させてもらう。いいか、生きろ。危なくなったらケツまくってさっさとトンずらしてこい。絶対にだぞ」

 「はっ、了解しました」

 きりっ、と表情を引き締めると、まりもは先進技術実証機撃震参型のハイブリッド跳躍ユニットに火を入れる。

 「それではフライヤー1、敵援軍の足止めに向かいます」

 轟音をあげて匍匐飛行で飛び立つその姿を、大隊全員が敬礼を持って見送っていた。



1993年9月 ポパールハイヴ周辺 スワラージ作戦最前線(ハイヴ北部域)

 「BETAの気の動きでこうなることはわかっていたんでしょう?あなたがそれを知っていながら、なにも手を打っていないはずない。と思ったら、私がその一手だったいうわけね」

 「さて、なんのことでしょうかフライヤー1?」

 通信の先で韜晦している隆也にまりもが怒りの声を挙げる。

 「もともと私に押しつけるつもりだったんでしょ!じゃなければ、こんな不自然な位置に補給コンテナがばらまかれている理由がないもの」

 「おお、流石はフライヤー1、名推理ですな」

 「名推理ですな、じゃないわよ、まったく」

 先進技術実証機撃震参型専用の補給コンテナだが、実はこれがハイヴ北部域に多く配置されているのだ。最初にまりもがMOSに分布状況を聞いたときから嫌な予感はしていたが、その嫌な予感は的中した。
 もともと気によって相手の動きを観察していた隆也にとっては、BETAの動きは丸わかりだった。昨日から、オリジナルハイヴからポパールハイヴに向かってゆっくりと南下するBETAの反応があるのもまるっとお見通しだったのだ。
 時間的に言えば作戦が佳境のときに援軍として現れることになるだろうと思った隆也が保険をかけないはずはない。
 むろん情報提供しようとは考えたが、生憎と根拠がない。まさか気で感知したから、とは言えない。
 そこで考えたのが、隆也が手駒として使える最大戦力であるまりもを防波堤代わりに使うことだった。

 「というわけで、フライヤー1、ご活躍を期待しています。あ、そうそう、制限は全てとっぱらってください。さすがに数が数ですからね」

 「全ての制限というと、MOSとあとはあれ?」

 「そう、気増幅機構の使用制限も解除します。全ての力を振るうことを許可します」

 「でも、いいの?監視衛星から見られるとまずいと思うんだけど」

 「その辺りはぬかりなく手を打っていますよ。ゆうこりんに協力してもらっているおかげで、不思議なことに今から作戦終了まで、その辺り一帯を監視する衛星群に不具合が生じる予定です」

 「はぁ。もうなんでもありなのね。でもいいわ。それなら私も誰憚ることなく力を振るうまでよ」

 諦めたようなため息をついたあと、きりっと表情を引き締めるまりも。

 「その調子その調子。期待していますよ、フライヤー1」

 「ええ、期待してちょうだい。あ、それとこの作戦が終わったら、この件についてゆっくりとお話しましょうね」

 「えっ、なにそれ、フラグ?」

 「ええ、あなたの死亡フラグよ」

 「ええー!」

 緊張感の欠片もない会話を交わしながら、まりもは絶望的な戦いに向けての準備をゆっくりと整えていた。
 1対10万。
 BETA大戦史上、もっとも苛烈で絶望的な戦いが幕を開けようとしていた。


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