ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第23話:未知への探索
作者:蓬莱   2013/01/14(月) 20:19公開   ID:.dsW6wyhJEM
ウェイバーが問題となっている発電所の廃墟に辿り着いたのは、青い空が赤く染まり、日が沈み始める夕暮れ時だった。

「はぁ…はぁ…ここが、その問題の発電所なんだよな」
「だいぶ前に潰れたちゅう話やけど…こらぁ、発電所ちゅうよりアレやないか」

比較的、体力のないウェイバーは、ちょっとした山登りに息を切らしながら、発電所の廃墟の方に目を向けた。
発電所なのか、これ?―――それが、ウェイバーが初めて、その発電所の廃墟を見たときの感想だった。
さらに、真島は、職業柄なのか、この発電所がある馴染みの建物に近い造りである事を呟きながら、胡散臭そうに建物全体を見た。
―――高さはゆうに数mはあろうかという分厚いコンクリート製の高い塀。
―――並大抵の力では開ける事さえ敵わない頑丈な鉄扉。
―――遠目からでも発電所全体を見渡せるような監視台。
ただの発電所と言うには、明らかに警備のためという限度を超えている物々しい造りだった。

「刑務所…或いは収容施設と言った方がいいかもしれんな」
「確かに…随分と高い塀を造っているようだが、よほど見られては困るモノがあるということだろうか」
「こらぁ、見るからに怪しさ満点やのう。ますます、わし好みのおもろい事になりそうやないか」
「僕としてはなるべく荒事にはしたくないんだけど…」

そして、そんな建物の造りを一通り見たキャスターは、第二次世界大戦時の折に、散々見てきた、馴染みの建物―――刑務所や収容施設であると感想を漏らした。
一方、ライダーも、キャスターの意見に同意しつつ、この容易に人を立ち入らせないような造りである事を見る限り、この発電所の中によほど重要なモノが隠されている事を半ば確信していた。
そんな如何にも一波乱ありそうな展開に気持ちをワクワクさせる真島に対し、ハァとため息をついたウェイバーは出来るなら、穏便に何事もなく事を終わらせる事だけを願うしかなかった。


ウェイバー達が塀を乗り越えて、発電所の中に入ってから少し後…

「ここか…連中の言っていた発電所の廃墟ってのは」
「噂では聞いていましたけど…随分、物々しいというか、何というか…」
「私も初めてここに来たんですけど、こういう感じの建物だったんですね…」

ウェイバー達に気付かれないように、姿を隠しながら、後をつけてきた雁夜達は、山道を登りながら、ウェイバー達の目的地である発電所へと辿り着いていた。
見るからに怪しげな発電所という名の建物を前に、伊達、大輔、大河の三人は噂以上に物々しく聳え立つ建物を前に戸惑いを隠せないでいた。
それだけ、一般人である三人の目から見ても、この建物は何か怪しいとしか思えなかった。

「ふむ…どうやら当たりのようだな」
「…香純ちゃん」
「言わなくてもいいですよ。多分、雁夜さんの思った通りだと思います。こう何というか嫌でも分かっちゃうというか…」

そして、当然のことながら、一般人ではないラインハルト、雁夜、香純は、長年の勘と経験からなのか、怪しさ以上に、この建物が絶対に何かある事をほぼ確信していた。
特に、生前、散々利用した施設と同じ臭いを嗅ぎ取ったラインハルトが、ある期待を胸にしなながら、少しだけ楽しげにポツリと呟いた。
こいつが楽しそうって事は絶対ヤバいところだ―――楽しそうなラインハルトの様子に不安を覚えずにはいられない雁夜は、顔をひきつらせながら、一般人でないメンバーの中で唯一常識人な香純に尋ねた。
香純は、雁夜の問いかけに応じながら、ラインハルトが何を考えているのか即座に理解し、諦めたかのようにため息を漏らした。
そして、ラインハルトにとって気がかりなのは唯一つだけあった―――

「あぁ、それと、雁夜よ。いざという時の準備はしておけ」

―――いずれにせよ、戦いになれば、自分が加減できずに、敵ごとこの建物を壊してしまうかもしれないという事が!!
とりあえず、もしも、戦闘が起こった時の事を考えたラインハルトは、そばにいる雁夜に、いざという時の準備―――いつでも戦いが始まったら、自分の攻撃の巻き添えを食わないように伊達たちを連れて逃げ出せる準備をするように伝えた。


それから、雁夜達が塀の一部が崩れた個所から発電所に入ってから少し後…

「ここが、雁夜おじさん達が入っていた場所ね…」
「何か見るからに出そうな雰囲気なんだけど…って、4人ともどうしたんだよ?」

雁夜がこの発電所に向かっているとの情報を得た凛たちは、点蔵の案内で、雁夜達がいるとおぼしき発電所の前に来ていた。
学校での噂でしかここを知らない凛は、実際の発電所を始めてみて、その見る人を威圧させるような物々しい建物を前に思わず息を呑んだ。
トシなら即行で逃げ出すだろうなぁ―――幽霊関係にめっぽう弱い某マヨラーな副局長の事を思い出しながら、近藤は怪しさ満天の発電所を前に少しだけ怖がっていた。
とここで、近藤は、宗茂達の表情が固くなっている事に気付き、何かあったのか尋ねた。

「宗茂様、この気配は…」
「えぇ、なるべく隠しているようですが、まず、間違いないですね」
「点蔵様、お気を付けください」
「やはり、メアリ殿も気付いていたで御座るか…」

一応、隠してはいるモノの、この発電所から溢れてくる気配を感じ取ったァに対し、宗茂も真剣な顔付きで頷いた。
そして、メアリや点蔵も、その気配を漂わせている存在の正体が、自分達と同類である事も気付いていた。
だが、点蔵からすれば、どう考えても、この気配を放つ存在が、なぜ、こんなところにいるのか理由が分からなかった。

「しかし、何故、このような場所にサーヴァントの気配があるで御座るか?」

この場所に、サーヴァントが出向かねばならない、何かがあるというのだろうか?―――そんな疑問を抱えながら、点蔵は、発電所から溢れてくるサーヴァントの―――ライダーとキャスターの気配に、首を傾げた。


それから、凛たちが発電所の中に入ってから数分後…

「アサシン、ここに間違いないのだな?」
『あぁ、間違いない。ここに間桐の当主代行が入っていったのも確認済みだ。まぁ、それ以上に問題なのは…』

本当にこんな場所にいるのか?―――そんな疑問を感じずにいられなかった綺礼は問いかけるように、アサシンの宝具であるトランプカードに再確認した。
実は、連続工作員失踪事件の調査をしていた綺礼は、調査と共に他陣営の監視をしていたアサシンから、間桐雁夜と共に連続工作員失踪事件の重要人物が行動を共にしているとの情報が入ってきたのだ、
すぐさま、綺礼は、アサシンに留守を任せると、案内係のトランプカードと共に、その重要人物の身柄を確保する為に、この発電所に駆けつけてきたのだ。
綺礼の問いかけに対し、アサシンは先ほどまで監視していたトランプカードを通して、雁夜達がこの発電所に入っていった事を見たため、即座に肯定した。
だが、アサシンや綺礼にとって、ここに来る途中で入ってき情報なのだが、それ以上に頭を抱える問題が別にあった。

「凛もここに来ているという事だな。まったく、何を考えているのやら…」
『まぁ、一応、点蔵や宗茂達がいる以上、身の安全は保障できるだろうさ』

どういう事情なのかは分からないが、禅城邸にて避難しているはずの凛まで、この場所に来ているというのだ。
―――前々から行動力がある娘だと思っていたが、まさか、ここまでやるとは…
思わぬところから起こった厄介事に頭が痛くなる綺礼であったが、時臣への負担にならないように配慮してか、凛の事は未だ時臣に報告しないでいた。
もっとも、宗茂達が凛の護衛役として就いているので、アサシンの言葉通り、ある程度の身の安全は大丈夫ではあろうが…

「だが、出来うる限り、隠密に済ませたいところだ。一応、遠坂陣営とは敵対している身である以上はな…」
『ま、余程の事がない限りは大丈夫だ…と思いたいところだな』

とはいえ、綺礼としては、ライダー陣営やキャスター陣営、それにバーサーカーのマスターである桜と関わりのある雁夜がここにいる以上、万が一にでも、自分と時臣に何らかの関わりがある事を悟られるのは避けたいところだった。
ひとまず、気休め程度でも軽い口調で綺礼を励ますアサシンであったが、余程の事が積み重なって、この事態になっている事を知る由もなかった。
そして、この発電所内において、これ以上に、その余程の事が起こる事を知る術など全く無かった。


第23話:未知への探索


その頃、発電所内に入ったウェイバー達は、聖杯戦争の裏で暗躍する者たちの手掛かりを求めて、建物内の奥へと進んでいた。

「どうにか入る事は出来たけど…」
「随分とまぁ、ボッロボロ建物やのう。まぁ、大分昔に廃墟になっとんやからしゃあないんやけど」

ライダーに抱えられて、あの高い塀を乗り越えたウェイバーは、発電所の奥―――発電装置のある部屋へと続く通路を歩きながら、恐る恐る周囲を見渡した。
―――あちこち塗装が剥がれ落ちて、コンクリートの下地が剥きだしになった壁。
―――ところどころに、割れた窓ガラスの破片が散乱する、埃の積もった床。
―――辛うじて配線につながった状態で、今にも落ちてきそうな年代物の電球。
正直なところ、ウェイバーは、発電所内の荒れ具合も相まって、いつ何が起こってもおかしくない状況に不安を隠せないでいた。
そんなウェイバーとは対照的に、真島は、発電所内の様子を見ても臆することなくズカズカと奥へと進みながら、早く出てこないかと期待するような軽い口調で呟いた。
事実、真島の言葉通り、廃墟となってからの長い年月、人の手を加えることなく放置された発電所は、至る所で劣化が始まり、当時の面影を辛うじて残す程度にまで荒れ果てていた。

「…妙だな」
「え、どうしたんだ、ライダー?」
「うむ、ワシが子供たちから聞いた話を思い出してな」

その中で、ふと、床の方に目を向けていたライダーは、ある不可解な点に気付き、不意に何かを探すようにしゃがみこんでいた。
そして、隣にいたウェイバーが何事かと尋ねると、ライダーは公園で遊んだ子供達から聞いた発電所の噂について口にしながら、発電所の奥に続く通路の床に視線を向けた。
昨日、ライダーが、公園で遊んだ子供達から聞いた発電所の噂では、この発電所には地元の人間でさえめったに立ち寄らない場所のはずだった。
事実、サーヴァントや代行者といった連中ならいざ知らず、この発電所の周囲は高い塀に囲まれているために、普通の人間の出入りは容易ではない。
さらに幽霊を見たとか、怪しい人物が出入りしているという話も、発電所内ではなく、発電所の付近でとの事だった。
そうであるにも関わらず―――

「フム・・確かに、足跡がまだ真新しいものがいくつかあるな。しかも、埃の積り具合からして、少なくとも1週間以内に複数の人間がここに通い詰めていたという事であろうな」
「あ!? じゃあ、最近まで、誰かがここに来ていたってことなのか…でも、何の為なんだ?」
「それは、ワシにもさすがに分からんが…もう少し、奥の方まで探る必要がありそうだ」

―――キャスターの指摘通り、埃の溜まった通路の床にはいくつもの足跡がいくつも残っていた。
しかも、キャスターは、床に残された足跡は複数の種類があり、そのうちの幾つかの足跡には僅かではあるが埃が積もり始めている事も発見していた。
つまり、この発電所内を出入りした人間が複数人いるという事―――この事実に気付いたウェイバーは思わず声を上げて驚くが、その人物達が何の目的でこの発電所に来たのか疑問に思わず口にした。
とはいえ、ウェイバーの疑問に、首を横に振るライダーの言う通り、さすがに足跡だけでは、まだ分からないことが多くあるのも事実だった。
そして、徐に立ち上がったライダーは、その何者かの足跡が残された通路の先にある部屋―――この発電所の心臓部にあたるであろう発電機の制御室へと目を向けた。


一方…

「どうにか入る事は出来ましたけど…」
「しかし、本当に、こんな古びたところに何かあるのかねぇ…」

先にやってきたウェイバー達とは、別の場所から発電所に入った雁夜達も、残された足跡を頼りに、発電所の奥を目指しながら、通路を歩いていた。
どうにか、雁夜達はあの高い塀に、四苦八苦しながら如何にか中に入れたものの、発電所の中は見事に荒れ果てていた。
ボロボロになった発電所の中を見渡しながら歩く香純に対し、伊達はぼやくように呟きつつ、無駄足に終わらない事を祈るしかなかった。

「ふむ…足跡から見るに、どうやら、足跡の主はさらに奥へと向かったようだな」
「はぁ…さらに奥かよ…」
「嘆く事は無い、雁夜よ。いざとなれば、戦う準備は出来ている」
「俺としては、それだけは、一番避けたいところなんだけどなぁ…」

一方、ラインハルトは、まるで街中を歩くような感覚で、皆の先頭に立って、生前の仕事の経験を生かしながら、床に残された足跡を頼りに奥へと進んでいた。
そんなラインハルトの言葉を聞き、さらに発電所の奥へと向かわねばならない事を知った雁夜は、思わずため息をつきそうになるぐらい渋い顔をしながらぼやいた。
渋々通路を歩く雁夜に対して、ラインハルトは、気を利かせたつもりだったのか、周りにいる伊達たちに聞かれないように注意しながら、いつ、敵が仕掛けてきても何も問題ないという余裕に満ちた態度で言った。
だが、当の雁夜としては、敵の襲撃よりも、反撃に出たラインハルトの攻撃に、自分たちが巻き込まれる事の方が一番の問題だった。

「どうしたんですか、雁夜さん? そんな暗い顔して、まさか、お化けが怖いとか?」
「はははっ…まぁ、そんなところかな…」
「大丈夫ですって。それにいざとなったら、私が何とかしちゃいますからv」

とここで、不安そうに見える雁夜の様子に気付いたのか、大河がからかうように和ませながら軽く話しかけてきた。
どうやら、大河は、雁夜が幽霊の類が苦手なので、いかにもそれらが出てきそうなこの発電所の雰囲気に怖がっているのではと思っているようだった。
ひとまず、雁夜は、この場を誤魔化そうと無理やり笑みを浮べると、大河は雁夜の背中をバンバンと軽く叩きながら、持ってきた竹刀を片手に掲げながら威勢よく吼えた。

「然り。この事件の真相に至る為にここにいるのだからな。むしろ、起こらねば、私が困る」
「おぉ、すっごいやる気満々ですね、春人さん!! 春人さんって、何か、やる気が漲って、いつも全力を出し切っている感じですね!!」
「…否、そうではないよ。むしろ、私はこれまで全力を出したことがない方だ」
「へ?」
「とりあえず、その話はまた後に話すとしよう。まぁ、少々詰まらぬ話になるかもしれんが…」

さらに、ラインハルトも、威勢よく吼える大河の姿を楽しげに見ながら、来るならば来いと言う態度で、不敵な笑みを浮べた。
そんなラインハルトのやる気を不屈の記者魂であると勘違いした大河は、何事も全力で挑まんとするラインハルトを憧れるように誉め立てた。
だが、大河のその言葉を聞いた瞬間、ラインハルトは少しだけ立ち止まると、大河の期待を裏切ってしまった自身の不徳を自嘲するように語った。
これには、思わず、大河も間の抜けた返事を返してしまったが、ラインハルトはさして気にするそぶりもなく、さらに奥へと進もうと歩き出した。



一方、床に残された足跡を頼りに通路を進んでいたウェイバー達は、発電機の制御室へと辿り着いていた。

「ここは…発電機を制御する機械が置いてある場所のようだな…」
「あぁ、そうやな。けど、なんやけったいな機械やのう」

そして、ライダーたちが入った後で、恐る恐る制御室に入ったウェイバーは、部屋の大半を占める、スイッチやランプが無数に取り付けられた古めかしい機械を見渡しながら呟いた。
さらに、真っ先に部屋に乗り込んだ真島は、ガラス張りとなった壁の向こう側から見える発電機と思しき機械を見つけていた。
発電所が廃棄される前は稼働していたのだろうが、すでに機械そのものは止まっているようだった。

「詳しい事はよう知らんけど、どうなんや、ライダー?」
「うむ、聖杯から与えられた知識が有る故、ある程度の事は分かるが…」

とはいえ、真島は、発電機の実物など見たことないため、何となくあの機械がそうなのだろうという認識だった。
とりあえず、真島は隣にいるライダーに尋ねてみるが、ライダーも歯切れが悪そうに口ごもりながら、真島と同じく首を傾げた。
確かに、サーヴァントには、現代社会での生活に支障がないように、現代の知識が与えられているが、ライダーには、これが何の機械であるのか分からなかったのだ。
ライダーは、現代の知識と言っても、さすがに発電機についての知識はないのだろうと思っていた。
だが、それだけがライダーが知らない理由でない事は、ウェイバーとキャスターが教えてくれた。

「…おい、ちょっと待てよ!? 何なんだよ、これ!? いや、そもそも、誰がこんなものを考えたんだ!?」
「馬鹿な…!? 有りえんぞ!! どこのどいつが、こんなモノを作ったのだ…」
「どうかしたのか、ますたぁ、キャスター殿? この発電装置が一体…?」

ライダーたちの背後で、発電機を制御するためと思しき機械を調べていたウェイバーとキャスターは、この機械が何であるかを理解した直後、ウェイバーだけでなく、キャスターまでもが、決して有り得ないものを見たように取り乱していた。
これには、ライダーも、ウェイバーとキャスターの慌て振りに疑問を感じ、この発電機がどういったものであるのか尋ねた。
ライダーの問いかけに対し、ウェイバーとキャスターは、少しだけ冷静さを取り戻すと、顔を見合わせた。
そして、ウェイバーは、その発電機のように見える機械を指さしながら、ライダーに向かって、自分たちが辿り着いた結論を告げた。

「こいつは発電機なんかじゃない。こいつは、この機械は、電流を通して、どこかの霊脈から汲み取った魔力を回収するための装置だ!!」
「何!?」
「あぁ、小僧の言う通りだ。そして、恐らく、この部屋の機械は、その装置を制御するためのものであろうな…まったく、本当にとんでもないモノを見つけてしまったものだな。こんなモノを誰が造った、否、発想したのだろうなぁ」

すなわち、ライダーたちが、発電機と思っていた機械が、別の場所にある霊脈から送られてくる魔力を回収するための機械だということを!!
未だに驚きの冷めないウェイバーから告げられたまさかの結論に、事の重大さに気づいたライダーは、もう一度、発電機に偽装された機械―――魔力回収装置と呼ぶべき機械を見た。
そして、キャスターも、この制御室の役割がなんであるかを付け加え、ウェイバーの言葉を肯定した。
それと同時に、仮にも魔術を極めたものであるキャスターは、こんな邪道じみたモノを作った連中を忌々しく思いながら、皮肉たっぷりな言葉を吐き捨てた。

「お前ら、なんやとんでもないちゅうけど、こないな機械がそんなに驚くような代物なんか?」
「真島、魔術師でない故に分からんと思うが、真っ当な魔術師はこんなモノを作らん。否、魔術師であろうとするなら、絶対にこんなモノを作るという発想すらないはずなのだ」

とここで、魔術に関しての知識がまったくない真島は、皆の驚き振りに首を傾げながら、マジマジとガラスの向こう側にある魔力回収装置を見ながら尋ねた。
だが、キャスターの言うように魔術師としての視点から見れば、こんなモノがある事自体、異常以外の何物でもなかった。
一般的に、時臣やケイネスのように、魔術師という人間の多くは、自らを神秘と人間の中間に位置する存在と信じて疑わない。
その為、魔術師は、魔術によらない技術―――科学技術というモノがどれだけの事が出来るか正しく認識できずに、下賤なものとして軽視する傾向にある。
例えば、科学技術や機械であれば少ない手間とコストだけで賄える事さえ、魔術師達の多くは、あえて手間とコストが桁違いにかかる魔術に頼るという場合が大半を占めているのだ。

「だから、こんな装置を作るとしたら、そいつは絶対に真っ当な魔術師じゃない。常識はずれの馬鹿か頭のネジが外れた狂人としか考えられないんだ…!!」
「そういう事だな、小僧。どうやら、思っていた以上に、碌でもない組織のようだな」

故に、普通の魔術師であるならば、魔術と科学技術を融合という馬鹿げた発想などするはずない―――そう魔術師の端くれとして断言しながら、ウェイバーとキャスターは、その発想を現実のものとした証である魔力回収装置を作った者たちに対する苛立ちを隠せないでいた。
なぜなら、ウェイバーとキャスターからしてみれば、この魔力回収装置が存在すること自体が、多くの魔術師たちに対して、ある意図を投げかけている事に他ならなかった。
―――お前らは、こんな簡単な事にさえ思いつかないのか?
それは、魔術と言う狭い価値観しか持たない魔術師たちに対する宣戦布告に等しい嘲笑だった。



一方、雁夜達は、足跡をたどりに通路を進んでいると、埃をかぶった大量の資料が棚に収められた資料室らしき場所に辿り着いた。
とりあえず、この資料室に、この発電所に関する情報が残っているかもしれないという事で、雁夜達は舞い上がる埃に悪戦苦闘しながら、残された資料を調べる事にした。

「あの、さっきの話の続き、何ですけど…」
「あぁ、そうだったな。何、言葉にすれば簡単な話だ。私の人生には、全力を出したという達成感がまったく無かったのだ」

とここで、棚から資料を取り出していた大河は、先ほど聞きそびれたラインハルトの話の続きが気になったので、思い切って尋ねてみた。
そんな大河の問いかけに対し、ラインハルトは取り出した資料に目を通しながら、自身の人生―――人であった頃の話を、ある程度の脚色を加えながら、語り始めた。
ラインハルトの人生を一言で言うならば、達成感のない物足りなさと未知を経験する事の出来ない飢えとの人生だった。
皮肉なことに、何をやっても人並み以上にできてしまうが故に、ラインハルトは、全力を出せない物足りなさと、あらゆる物事に対し知りもしない光景や覚えのあるはずがない現在を思い出す現象―――既知感を常に強いられていた。
―――全力を出さずともできるから、何をやってもつまらぬ。
―――あらゆる事象に既知感を覚えるから、何を見てもくだらぬ。
それがラインハルト=トリスタン=オイゲン=ハイドリヒと言う男の、人として人生のすべてであった。
もっとも、この既知感については、とある変質者が関わっているのだが、ラインハルトはこれについては伏せておくことにした。

「さて、さして面白くもない話であったが、卿はどう思うかな?」
「う〜ん…あんまり難しい事は良く分からないので、偉そうなことを言えないんですけど。一応、聞いても笑わないでくださいね?」
「あぁ、構わん。話すがいい」

やがて、ラインハルトは話を終えると、大河がこの話をどう思ったのか気になったので、気まぐれに大河に問いかけてみた。
ラインハルトの問いかけに対し、首を傾げた大河はしばし考え込んだ後、自分なりの考えをラインハルトに向かって話し始めた。
自分の考えをラインハルトに上手く話せるか自信がない大河であったが、ラインハルトはいつものように余裕のある態度で話の続きを促した。

「その、そういう風に何か、こう、あんまり、上手くは言えませんけど…確かに、春人さんの言う通り、この世知辛い人生ですから、つまらない事とか満足できない事なんて山ほど有ると思います」
「…」

大河の話そのものは、決して高説なモノとは言い難かったが、ある種の荒唐無稽ともいえるラインハルトの話を真面目に受け止めた上で、大河は自分の考えを真剣に伝えようとしていた。
そんな大河の気持ちを感じ取ったのか、ラインハルトは、一切反論することなく、一字一句聞き逃すことなく、静かに耳を傾けていた。

「けど…人間だったら、それで良いんだと思いますよ。私は、そういうどうしようもない不満をひっくるめて抱えて、それでもいいやって前を向いて、笑って生きるのが人間だと思うんです、春人さん」
「…飽いていれば良い、飢えていれば良いか。すなわち、それが生に真摯であるという事か」
「あんまり難しい事は分からないんで、私なりに考えてみたんですけど…どうですかね?」

―――つまらない現実に飽き、満たされない夢に飢える事はあるかもしれない。
―――だけど、そんな満たされない飽きと飢えを抱えながら生きることが、人間として現実を生きるという事。
―――だから、そうやって、満たされない飽きと飢えを持っている春人さんはちゃんとした人間なんだ。
言葉自体は拙いながらも、大河の考えた答えを聞いたラインハルトは、大河の言葉を解釈しつつ、なるほどと頷きながら理解を示していた。
まぁ私もあんまり偉そうなことは言えないんですけどね―――そう気恥ずかしそうにする大河であったが、ラインハルトからすれば、充分に満足できる答えだった。

「いや、充分だ。卿のその意見は見事といえよう。それと、卿の行動力と指導力は目を見張るものがある。故に卿は人を導く職に就くと良いのかもしれんな。将来の選択肢としては悪くないはずだ」
「教師ですか…うん、良いかもしれませんね、それ!!」

そして、ラインハルトは、笑みをたたえながら、大河に賛辞の言葉を述べる共に、満足のいく答えを得られた礼として、大河の将来に対する僅かばかりのアドバイスを与えた。
このラインハルトのアドバイスに、大河は少しだけ照れた様子で頷きながら、また、はりきって資料を取りに棚の方へと向かっていった。

「随分と肩を入れるんですね、彼女に」
「そんな事は無い。以前にも言ったが、私は全てを平等に愛している。ただ―――」


とここで、今でも自分の事を嫌っている曾孫―――香純が、大河が資料室の奥に行ったことを確認すると、訝しげな表情でラインハルトを半眼で見ながら徐に尋ねてきた。
恐らく、香純としては大河の身を案じているのだろうが、ラインハルトはいつものように余裕を崩すことなく、大河だけ特別気に入っているわけではないと告げた。
―――もし、あの時に出会ったのが、カールではなく、彼女のような人間と出会っていれば、人間のまま生き続けても良いかなと少しだけ思っただけだ。
そうラインハルトが香純に続けて言おうとした直後、ぬおわぁー!!という大河の悲鳴と共にラインハルトたちの居る方向に向かって、奥の方から次々に棚が将棋倒しのように倒れてきた。



数分後、魔力回収装置の制御室にて、地下へと続く階段を見つけたウェイバー達は、さらなる手掛かりを求めて、地下への階段を下りていた。

「…ここが終着点のようだな。ふん―――人は居らぬようだ」
「あぁ…だが、これは、いったい…?」

やがて、地下へと続いていた階段が唐突に終わると同時に、それまでの狭い通路から一変して、まるで、この建物の地下全体をくり抜いたような広い空間に辿り着いた。
一応、光源の全くない暗闇の中でも、サーヴァントの視力をもってすれば何ら問題はないのか、キャスターとライダーにはこの地下室の様子が見えているようだった。
だが、ウェイバーは、気付く事が出来なかった―――ただ、何かを発見したにしては、キャスターとライダーの声音が妙に強張っている事に。

「地下室のようだけど…何か鉄っぽい臭いがするんだけど…」
「暗うて、よう分からんのう…坊主、ちょっう、どいとれ」
「え、おい、何を―――こないすんや―――うわぁ!?」

とここで、周囲から臭ってくる異臭に気付いたウェイバーは、周囲の状況を確かめる為に視覚を強化することで暗闇を見晴らす事のできる暗視の術を発動させようとした。
だが、ウェイバーが術を発動させようとした直後、後ろにいた真島が、ウェイバーを押し退けるように前に出てきた。
いったい、何をするつもりなのか戸惑うウェイバーを尻目に、真島は、キャスターから貸し与えられた<虚無の魔石>の力を使い、両手に炎を出すと、一斉に周囲の至る所に炎を放った。
確かに明るくはなるけど、もし、伏兵が居たらどうするんだよ!?―――あまりに乱暴な真島のやり方に、ウェイバーが抗議しようとした瞬間、不意にウェイバーの目にあるモノが映り込んできた。

「なっ―――!?」
「…人は居らんはずやなかったんか、嬢ちゃん?」
「訂正しよう。確かに人は居らん…あるのは、かつて、人だった肉の塊だ」

真島の放った炎によって見えたこの地下室の全体像を見渡したウェイバーは、そのあまりに異常な光景を前に、驚きのあまり言葉を失ってしまった。
これまで数々の修羅場を潜り抜けていた真島でさえもいつものテンションの高さは鳴りを潜め、この有様に知っていたはずのキャスターに声音を低くして尋ねた。
それに対し、キャスターは、若干の訂正を加えつつ、地下室の全体像をもう一度見まわした。
地下室の見た目としては闘技場を思わせるような広い空間で、ウェイバー達が入ってきた東側の入り口を含め、どこからでも出入りできるように東西南北それぞれに入り口が取り付けられており、ここがこの発電所の中心に位置する場所である事が推測された。
そして、その部屋の中央には、どこからか運び込まれたのか、山積みにされた死体と棺桶が無造作に置かれていた。
先ほど、キャスターがざっと数えただけでも、死体は数十体以上、棺桶に至っては百を超えるほどの数だった。

「まぁ、死体の状態から察するに、古いモノでも1週間以内か」
「…大丈夫か、ますたぁ?」
「あ、あぁ…このぐらい大丈夫だよ。だけど、この死体、何か変じゃないか…?」

とりあえず、山積みにされた死体を確認したキャスターは、死後1週間以内―――聖杯戦争が始まってからほぼ同時期に殺されたものと判断した。
とここで、ライダーは、この異様な光景に圧倒されたのか、口元を抑えて蹲るウェイバーを心配し、声をかけた。
ライダーの呼びかけに少しだけ気を持ち直したウェイバーは、改めて、キャスターの確認した死体を見て、ふと奇妙な点がある事に気付いた。
その死体は、心臓を一突きされた際に、胸に小さな穴が残っていたのだが―――

「刺された部分に肉の焦げた跡があるな…胸を一突きにされると同時に、高温で熱せられたのだろう」
「でも、何で、そんな手間の掛かる殺し―――動くな!!―――え!?」

―――その穴を中心にして刺された付近の肉が焼け焦げたような状態になっていたのだ。
この死体の状態からキャスターの見立てでは、高温に熱せられた何か棒或いは槍のようなモノで胸を一突きにされたのではないかと推測した。
だが、ウェイバーは、なぜ、犯人はそんな手間の掛かるような殺し方をしたのかと首を傾げた瞬間、ウェイバー達を一喝するような声と共に、北口の入り口が勢いよく開かれた。

「倉庫街にいた連中だな…警察だ。全員、その場から動かないでもらおうか」
「け、警察って、何で、ここに!? というか、またかよ!?」

そこに現れたのは、大河が資料室の棚を盛大に倒してしまった際に、この地下室へと続く隠し通路を見つけて、ここに辿り着いた雁夜達だった。
まず、山積みになった死体と棺桶のそばにいる人物達が、その倉庫街の一件で目撃したウェイバー達である事を確認した大輔は、自宅療養を命じられた直後、こっそり押収物保管庫から持ち出してきた拳銃を構えながら、その場で制止するよう呼びかけた。
倉庫街に続いて、またもや、警察の人間が現れた事に、ウェイバーは何で今回の聖杯戦争は警察に嗅ぎつけられるんだよ!!っと心の中で突っ込まずにいられなかった。

「ふむ、警官か…どうやら、外れ籤を引かされてしまったようだな」
「うむ…それに、この状況をどう説明すべきか…」

一方、キャスターは、ウェイバーのように慌てることは無く、若干落胆したような表情を浮かべていた、
キャスターの理想としては、メイド仮面が属する組織の重要施設であるため、ここを探りに来た自分たちに対して、何らかのアクションを起こすことを期待していたのだが、当てが外れてしまったようだった。
とはいえ、何も知らない人間からすれば、ウェイバー達がこの死体を運び込んだようにしか見えなかった。
これには、さすがのライダーも、どう説明すれば、大輔に納得してもらえるか、頭を悩ませた。

「おい、真島!? こいつは、どういう事、何だ?」
「お、伊達やないか。何で、お前がここに居るんや?」

とその時、大輔の背後にいた中年の男―――伊達が、知り合いである真島の姿を見つけると慌てて、真島に向かって事情を問い詰めてきた、
問い詰めてくる伊達に対し、真島の方は、久しくあっていなかった知人に街で出くわしたような軽いノリで伊達の姿を見つけると、伊達に向かって、なぜ、ここにいるのか、逆に聞き返してきた。

「あの、綾瀬さん…これって…」
「見ちゃ駄目!! 多分、まともに見たら、正気を失―――あ!?―――ん?」
「お前、あの時、海浜公園で会った…!!」

さらに、今度は、この死体と棺桶の山を見せないように大河の目を隠しながら現れた香純を見て、ウェイバーが声を上げて驚いた。
ウェイバーにとってあの出来事は印象に残っていたので、香純の顔を見て、すぐに分かった―――見知らぬ少女の隣にいるのが、ウェイバーにアドバイスしてくれた陽だまり娘という事に。

「雁夜よ。いつでも、準備は出来ているぞ」
「あぁ、いざという時は―――雁夜おじさん!!―――え!?」

とここで、予想以上に場が混乱してきたため、ラインハルトは、万が一戦闘になった際の事を踏まえた上で、雁夜にいつでも戦える準備が出来ている事を伝えた。
これに対し、雁夜も、いつでも巻き添えを食わないように大河たちを連れて逃げる準備が出来ている事を伝えようとした瞬間、決してこんな場所にいるはずのない、自分の名を呼ぶ少女の声が耳に飛び込んできた。
まさかと思いながらも、雁夜は慌てて、声のした方向―――地下室の西入口へと目を向けた。

「雁夜おじさん、良かったぁ…ここにいたんだ…」
「な、何で、凛ちゃんがここに!?」

そこには、息を切らしながら、雁夜を見つけられたことに安堵する凛の姿があった。
諜報員として送り出されたラインハルトの部下によれば、凛や葵は禅城邸にて避難したと聞いていた雁夜は、なぜ、こんなところに凛がいるのか分からず、驚きを隠せなかった。

「おいおい、こいつはいったい、どういう事なんだ!?」
「どうやら、とんでもないところに辿り着いてしまったようですね」
「えぇ、しかも、あそこにいるのは、ライダーとキャスター、そのマスターらしき人物が二人います」
「メアリ殿。自分から離れないように」
「はい、分かりました、点蔵様」

さらに続けて、凛と共に地下室へと続く入り口を発見し、ここに辿り着いた近藤達も姿を見せていた。
部屋の中央に山積みにされた死体と棺桶の山という光景に驚く近藤に対し、宗茂やァ、犬臭い忍者、メアリは、ライダーとキャスターがここにいることに気付き、凛を守る様に周囲を警戒しながら、それぞれ武器を構えた。

「おい、雁夜。あいつら、お前の知り合いなのか?」
「あ、いや、その…」
「雁夜おじさん、お願いが―――待て―――え?」
「ここまで、役者がそろったのだ。そろそろ、姿を見せてはどうかな、アサシンのマスター」

続々と現れる闖入者たちの登場に困惑する伊達は、とりあえず、雁夜の知り合いらしき少女―――凛が連れてきた連中について、何か知っているのではと、雁夜に説明を求めた。
だが、これには、雁夜も、さすがに聖杯戦争についての事を、部外者である伊達たちに説明するわけにもいかず、ただ、口ごもるしかなかった。
そんな雁夜に対し、凛は早速、桜を止めるように説得してもらおうとお願いしようとしたが、不意にラインハルトが待ったの声をかけた。
そして、ラインハルトは、先ほどから気配を隠しながら、南入り口の扉の裏で様子を伺っている人物―――アサシンのマスターにむけて出てくるように促した。
それから、数秒ほど間を置いた後、ラインハルトの呼び掛けが命令と同意義であることを察したアサシンのマスターは、観念したかのようにその姿を見せた。

「き、綺礼!? 何で、あんたがここにいるのよ!! あんた、お父様の手助けをしているはずじゃなかったの!!」
「それは、私の台詞だ…後、父君についての事は、ここではあまり…」
「おい、あんた、待てよ!? まさか、時臣が関わっているのか!?」

まず、現れたアサシンのマスターの姿を見て、真っ先に反応したのは凛だった。
なぜなら、そこに現れたのは、今も、父である時臣の手助けをしているはずの弟子―――言峰綺礼だったのだから。
てっきり、綺礼が時臣の手伝いをしているものばかり思っていた凛は、この場に現れた綺礼にむかって怒鳴りながら、顔を真っ赤にして癇癪を起した。
それに対し、綺礼は、思いっきりバラしちゃいけない事をうっかり口にした凛に、思わず頭を抱えそうになりながら、怒りを露わにする凛に、冷静になるように呼びかけた。
だが、今度は、綺礼が時臣の関係者であると知った雁夜が、凛がここに現れたのも、時臣が関わっているのかと思い、真っ先に喰って掛かってきた。

「おいおい、いったい、どうなってやがんだ? そもそも、お前ら、いったい、何者なんだ?」
「え、あの…ただ、通りすがりの一般人です!!」
「「「「嘘だ(や、よ、だな、だろ)!! そんなゴリラ顔した人間がいるか!!」」」」
「ですよね…って、何で、そっちを全否定なんだよ!? 正真正銘の人間だから、俺!? 後、何か身内まで混ざってなかった!?」

もはや、留まる事を知らない闖入者達の登場に、さすがの伊達も、いい加減に勘弁してくれと言わんばかりに、この場にいる全員にむけて問いただしてきた。
とりあえず、駄目元で通りすがりの一般人であることを主張する近藤であったが、ほぼ満場一致で通りすがりゴリラであると断じられた。
やっぱり駄目かと軽く受け流そうとした近藤であったが、すぐさま、ノリツッコミのような感覚で、自分は人間であると主張してきた。

「ライダー、どうするんだよ、この状況?」
「うぅむ…これは些か想定外の事態となってしまったようだな」
「些かどころ、充分すぎるほど想定―――う、うぅ…―――え?」

結果として、ますます、混乱の坩堝と化してしまったこの状況に、ウェイバーはどうするつもりなのか、ライダーに尋ねた。
とはいえ、ライダーとしても、こんな展開になる事は見抜けなかったのか、ひとまず、どう絆を結ぶ展開に持っていこうか、少し困り顔で考えあぐねていた。
頼むからもうちょっと緊張感持てよ!!っと思わずツッコミそうになるウェイバーであったが、不意に聞こえてきたうめき声に、何事かと思い、声の聞こえてきた方向に振り向いた。
見れば、そこには、呻き声をあげて、覚束ない足取りでゆっくりと立ち上がった見知らぬ男の姿があった。

「あぁ、大変!! あの人、酷い怪我しているじゃないですか!?」
「あ、大河ちゃん!? ちょっと勝手に…」

とここで、男が胸に大きな怪我を負っている事に気付いた大河は、香純が止めるのも聞かずに、男に向かって真っ先に駆け寄っていった。

「あの大丈夫ですか、早く―――忠勝、彼女を守れ!!―――へ?」
「…!!」

すぐさま、男を病院に連れて行こうと、大河が声を掛けようとした瞬間、異変に気付いたライダーが大慌てで忠勝に、大河を守るように呼びかけた。
一瞬、何の事か分からずに大河が立ち止まった瞬間、唸りを上げる轟音と共に、目の前にいた男が勢いよくぶっ飛びながら、壁へと叩き付けられていた。

「な、あれは…!?」
「倉庫街で見かけたライダーの武神でござるか!?」
「…」

突然の事に、驚く一同が目にしたのは、先ほどの男を殴り飛ばしたであろう黒鉄の重装甲を纏ったロボット―――大河を守る様に抱える本多忠勝の姿だった。
倉庫街の一件で偵察していた点蔵も、忠勝を見て、ライダーの所持する武神である事を口走るが、忠勝は即座に違う違うと手を軽く横に振りながら、自分は武神と呼ばれるモノじゃないとアピールした。

「おい、あんた!! いきなり、あんなロボットで、怪我人をぶっ飛ばして、どういうつもりなんだ!?」
「ふん、あれが怪我人だと? 愚か者が―――」

とここで、突然の事に唖然としていた大輔であったが、すぐさま、気持ちを切り替えると、いきなり、怪我人を得体のしれないロボットで殴りつけたライダーに詰め寄ってきた。
だが、ライダーがあのような荒っぽい手段を取らざるを得なかった事情を知るキャスターとしては、のこのこと男に近づいて行った大河や男の異常に気付かない大輔こそ危機感のない間抜けとしか思えなかった。
なぜなら―――

「―――さっきまで死人だったものが、怪我人のはずなかろうが!!」
「ますたぁ、来るぞ!!」

―――キャスターの言葉通り、先ほど忠勝の殴りつけた男は、先ほどキャスター達が確認した、胸を一突きされて殺されたはずの死体だったのだから!!
そして、ライダーとキャスターの言葉が正しい事を示すかのように、山積みにされていた死体が一斉に動き出し、封をされていたはずの棺桶の蓋が勢いよく開かれた。
 


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。
テキストサイズ:32k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.