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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第24話:絆の太陽と黄金の獣(前編)
作者:蓬莱   2013/01/27(日) 19:13公開   ID:.dsW6wyhJEM
時を少しだけ遡り、綺礼とアサシンが発電所に侵入した直後―――

「どうしたもんかのう、爺さん?」
「ふむ…できれば、秘密裏に事を済ませたいところじゃがな」

―――ライダー達がここに入るまでに、この発電所を訪れていた屋台の店主と義手の青年は、発電所に設けられた隠し部屋のモニターにて監視していた。
実は、屋台の店主と義手の青年は、フードを被った少女のやらかした後始末をするために、この発電所に来ていたのだ。
ところが、屋台の店主と義手の青年が、隠し部屋のモニターにて現状を確認しようとしたところ、発電所に至る所に取り付けられた隠しカメラから、この発電所に入ってくるライダー達の映像が送られてきたのだ。
屋台の店主と義手の青年としては、内密に事を済ませたかったのだが、続々と侵入者たちが入ってくるという予想外の事態に止む無く、自分たちの首領に連絡を取らざるを得なかった。

『状況を説明しろ』
「はっ…実は―――」

その後、屋台の店主からの連絡を受けた首領は、すぐさま、どう対応するか指示を出すために、屋台の店主に現状報告を促した。
すぐさま、屋台の店主は、首領に対し、ライダー達がこの発電所に入り込んで、発電所内部を探り始めている事を報告した。

『なるほど…この場所を嗅ぎつけるとは、あのウェイバーと言う者、存外優秀な魔術師だったようだな』
「アサシン、キャスター、ライダー、アーチャーの各陣営以外にも、例の刑事をはじめ、記者、女子高生など一般人らしき者たちもいるようです。後、何か、ゴリラもいます」
『ふむ…そうか』

屋台の店主からの報告を受けた首領は、ひとまず、この発電所を探り当てたウェイバーの評価を改めるかのように呟いた。
首領としても、この発電所を嗅ぎつける陣営がいるのではないかと予想していたが、魔術師として未熟者といえるウェイバーがこの場所に辿り着くとは思ってもいなかった。
少なくとも、数十年間も、この街に住みながら、何一つ気づけなかった遠坂の当主よりかは見どころがあるか―――そうウェイバーに対する評価を改めた首領に対し、屋台の店主は、ライダー以外の陣営や複数の一般人達もこの発電所に入り込んでいる事を報告した。
とりあえず、何で、ゴリラまでいるのだという疑問はさて置いて、首領は屋台の店主からの報告を踏まえた上で、すぐさま、屋台の店主に命ずる指示を思案した。

『ならば、アサシン、キャスター、ライダー、アーチャーの各陣営を除いた全ての目撃者を始末するのだ』
「全てですか…」
『そうだ。サーヴァントとそのマスター共には、何としても、バーサーカーを討ってもらわねばならん。だが、それ以外は要らぬ駒だ。不確定要素となる駒を生かす必要など何処にある?』

そして、首領は迷う事も躊躇う事もなく、この発電所内部に入った一般人―――伊達や大河らを始末するように指示を出した。
まるで人の命を塵芥のようにしか思っていない冷酷な命令に、屋台の店主は、首領の気が変わってくれるのではないかと思いつつ、思わず、反芻するように尋ねた。
しかし、首領はあっさりと、屋台の店主の言葉を肯定すると、逆に、伊達や大河らのような一般人を始末すべきでない理由を反語表現のように聞き返してきた。
首領にとって何を置いても必要なのは、あの自己愛狂いのバーサーカーを倒すためのサーヴァントとそのマスターだった。
故に、首領としては、計画に必要のない不確定要素となりうる駒―――伊達や大河らを始末するのは当然の事だった。

『まぁいい…そういえば、ここには、あの男からのお歳暮があるはずだ。それを使って、送っておいた援軍と共に、不要な駒を始末しておけ。サーヴァントとマスター共なら、不要な駒を庇わねば、その程度の敵を退ける事など容易い筈だ。それと…』
「それと?」
『奴らには、ついでにあの娘の喰い滓も処分してもらっておけ』

ひとまず、首領は屋台の店主のささやかな反抗を見逃すと、こちらの援軍が発電所に向かっている事を伝え、ついでに、南米にいる知り合いから送られてきたお歳暮という名の粗大ゴミを使うように指示した。
そして、首領は付け加えるように、聞き返してきた屋台の店主に、フードを被った少女の後始末をしておくことをも伝えた。
その直後、屋台の店主と義手の青年の背後では、とある機械に取り付けられたモノアイ・センサーが怪しく光りはじめていた。



第24話:絆の太陽と黄金の獣(前編)



そして、時を戻す事、地下室の方では、今まさに、激戦が繰り広げられようとしていた。

「「「「「…」」」」」
「な、何なんだ、こいつら…!?」

次々と起き上ってくる死者たちという異常な光景に、これまで、桐生と共に修羅場を潜り抜けてきた伊達も驚きを隠せないでいた。
よく見れば、先ほど忠勝に殴られた死体も、全身の骨を砕かれながらも、這いずる様に動き始めていた。

「“死者”か…なるほど、あのメイド仮面が吸血鬼であると聞いた時点で想定すべきだったか」
「要するに、こいつら全員、ゾンビちゅうことかいな」
「まぁ、或いはグールとも呼ぶが…まぁ、一般人でも分かりやすく言えば、そういう事だ」

とここで、キャスターは、あの変質者の話の中で、仮面をつけたメイド服姿の吸血鬼がいた事を思い出し、この動き出した死体が、この血を吸い殺した人間を使った使い魔―――“死者”である事に気付いた。
もっとも、吸血鬼に関して、一般的な知識しか持っていない真島は“死者”ではなく、一般人のイメージするようなゾンビと理解していた。
一応、詳しい説明をしようかと迷うキャスターであったが、死体が動き出すという点で大体一緒なので、名前だけ訂正しつつ、その認識で間違っていない事にした。

「ふむ…どうやら、棺桶から出てきたグールは銃火器で装備しているようだが、中々面白いモノを考える」
「これを見て、面白いなんて言うのは、お前だけだよ!! 早く、外に脱出を…!!」

一方、ラインハルトは、死体のまま放置されていたグールと違い、棺桶から出てきたグールが銃火器を持っている事に気付いた。
―――つまり、あの棺桶から出てきたグールは誰か、否、何らかの組織が作りだしたという事か。
普通ならば考えさえつかない事をする組織に、ラインハルトは、その発想に思わず、称賛の言葉を贈った
だが、雁夜からすれば、窮地に陥っている事に他ならず、一刻も早く、凛たちを連れて脱出しようとしたが―――

「げっ!? だ、駄目だ!! 鍵を掛けられらている!! 畜生、何で、こんな最悪な状況で、扉が閉まるんだよ!?」
「点蔵様…これは、やはり…」
「どうやら、自分達は罠に掛かってしまったようで御座るな」

―――次の瞬間、雁夜達がここから逃げ出す前に、東西南北の四方の扉が一斉に閉じられた。
慌てて扉を開こうとする近藤であったが、いくら押しても、扉はまったく開く気配を見せなかった。
まるで、逃げようとする雁夜達を逃すまいとするように閉じられた扉に、何かを察したメアリは、確認するかのように、点蔵に話しかけた。
そして、メアリと同じように点蔵も気付いていた―――これらが全てこの発電所の秘密を知った人間を始末するためのものであるという事を!!

「さて、ここで彼らの襲撃を切り抜けねばならぬのだが…何をすべきか、皆分かるな?」
「言うまでもないだろ。くそ、結局、こういう事になっちまったか」

そんな危機的状況の中においても、ラインハルトは余裕を崩すことなく、皆に問いかけるように尋ねた。
ここに至り、逃げ場を完全に失ったウェイバー達に残された選択肢は二つに一つだけだった。
―――グール共の餌になるか。
―――この地下室にいる全てのグールを討ち滅ぼすか
そして、余りにも酷薄な選択肢しかない事に悪態をつく雁夜であったが、既に凛を守るために、戦う覚悟を決めていた。

「ふん…止むを得んか。マスター、心して掛かれ」
「まぁ、そうなるやろうな…けど、わし好みの展開やで、こいつは!!」
「僕としては不本意すぎる展開だよ!?」
「こうなった以上は仕方あるまい、ますたぁ。忠勝、ますたぁや戦えぬ者たちを守ってやってくれ!!」
「…!!」

と同時に、不機嫌そうに鼻を鳴らしたキャスターも、敵の罠に引っ掛かってしまった不満を晴らそうと臨戦態勢に入った。
一応、マスターである真島にも注意を促すが、上着を脱ぎ捨てた真島は臆するどころか、逆に笑みさえ浮かべながら、この窮地を楽しむかのように闘志を滾らせていた。
一方、やる気十分な真島とは逆に、ウェイバーはいつの間にか、自分たちが絶体絶命のピンチに陥っている事に、半泣きそうになりながら、真島にツッコミを入れた。
それでも、ライダーは、動揺するウェイバーを宥めながら、忠勝にウェイバー達の護衛を任せ、迫りくるグール達を前に拳を構えた。
そして、ライダーからの指示を受けた忠勝も、その場にいた大輔や大河、ウェイバーを抱えながら、護衛対象である伊達たちのところに移動した。

「ァさん、用意は良いですね?」
「いつでも準備は出来ています、宗茂様」
「自分とメアリ殿は、あの武神と共に他の者たちの護衛に回るで御座る」
「はい、点蔵様!!」
「気を付けてね、宗茂さん、ァさん!!」
「頼んだぜ、二人ともって…何で、さり気無く嫌そうな顔してんの、この忍者!?」

さらに、ライダー達に続くような形で、宗茂とァも声を掛け合いながら、向かってくる敵を蹴散らさんと、それぞれ武器を手にした。
と同時に、点蔵とメアリは、忠勝と共に護衛役をかってでると、メアリは凛を、点蔵は嫌々ながら近藤を抱えて、忠勝のところに向かった。

『腹をくくれ、綺礼。こうなったら、話は全部後だ』
「まったく…後で話はつけさせてもらうぞ」

もはや、隠密も何もないな―――そう心の中で愚痴をこぼしながら、綺礼はどうしたモノかと考えあぐねていた
だが、アサシンに促されると、綺礼は何か開き直ったかのように、己の武器―――黒鍵を手にしながら、グール達を迎撃することにした。
そして―――

「「「「…行くぞぉおおおおおおおおおお!!」」」」
「「「「…―――――!!」」」」

―――サーヴァント4体とマスター1人は、声を張り上げながら、迫りくるグールの軍勢へと斬り込んでいった。
今ここに、ライダー、キャスター、アーチャー、アサシンの4陣営+αとグールの軍勢との開戦の火ぶたが切って落とされた!!


まず、グールの軍勢との先陣を切ったのは、迫りくるグールの群れに臆することなく、堂々と仁王立ちするライダーだった。

「それがし、徳川家康!! この“絆”の力で皆を守りとおさん!!」
「―――!!」

ライダーは名乗りの声を張り上げると同時に、グールの群れへと自ら殴り込んでいった。
と次の瞬間、ライダーが金色に輝く拳を振るいながら駆け巡ると、次々とライダーの殴り込んで行った周囲のグール達が次々に殴り飛ばされ、宙を舞った。
如何に頑強なグールでも、数を揃えたところで、並みの人間ならともかく、サーヴァントであるライダーに太刀打ちできるはずなかった。
さらに、次々にグールを殴り飛ばしていたライダーは、自分が殴り飛ばしたグールのある異変に気が付いた。

「む、これは…?」
「何や? いきなり、砂みたいに崩れ出したで、こいつら…」

ある種の違和感を覚えたライダーが、ふと殴り飛ばしたグールを見ると、ライダーの殴り飛ばしたグール達が、次々と身体をグズグズと崩れながら、文字通りの灰となっていった。
これには、殴り飛ばしたライダー自身も、不思議そうに首を捻る真島と同じように何故こうなったのか理由がわからなかった。

「多分、ライダーの拳には、太陽の光と同じ属性の力が秘められているんだと思う。だから、ライダーに殴られたグールは、太陽の光を浴びたみたいに灰になるんじゃないかな」
「なるほど、確かに、これは日の光を浴びたグールと同じ現象だな。まぁ、そんな拳で殴られれば、グールどもにとっては致死に等しい攻撃だろうな」

とここで、崩れ去るグールの様子を見ていたウェイバーは、日の光を浴びると灰になるグールの性質を思い出し、グールが灰になったのも、ライダーの拳が太陽の光と似たような性質を持っているからではないかと推測した。
そして、灰になったグールの様子を見ていたキャスターも、なるほどと頷きながら、ウェイバーの推測に納得していた。
ちなみに、この時、某厨二病眼鏡が、“折角の出番が、解説がぁー!!”と叫んでいたのは、また別の話である。

「キャスター殿…」
「言わんとすることは分かるが…諦めろ。こうなった以上、もう一度殺してやるのが、情というものだ」

だが、ライダーは、自分の拳がグール達に致命的な攻撃を与える事が分かっても、喜ぶどころか。何処か悲しげな表情だった。
そして、何かを求めるようにキャスターを見るライダーに対し、キャスターは、諭すような口調で、ライダーに諦めるように伝えた。
恐らく、ライダーは、グールとなった者たちを助ける為に、キャスターに元の人間に戻せないか尋ねたかったのだろう。
だが、グールとなった人間を元に戻す手段など、魔術を極めたキャスターでさえ無理な相談であり、唯一出来ることは、グールとなった者を一刻も早く灰にさせることだけだった。
どうしようもない位に甘い男だ―――以前の自分ならば、そのように唾棄したかもしれないが、あの黄昏の抱擁を受けた今のキャスターは、敵であろうとできる限り助けんとするライダーの思いを無碍に否定できなかった。

「マスター、一応言っておくが、そいつらに噛まれたり、手傷を負ったりすれば、即座にグールの仲間入りだ。速やかに火葬してやれ」
「要するに、傷負わんように、念入りに焼いとけちゅうことやな!! なら、ド派手に燃え尽きろやぁ!!」

とここで、キャスターは、一般人程度の知識しか持ち合わせていない真島に、グールと戦う上での注意点を説明しつつ、充分に注意して戦うように忠告した。
もっとも、大まかな点だけ理解した真島は、ライダーに続けと言わんばかりに、両手に炎を纏わせながら、グールの群れに殴り込んだ。
獲物を見つけ、真島に襲いかかるグールであったが、真島はキャスターから貸し与えられた“虚無の魔石”による肉体強化に加え、持ち前の野獣の如き運動能力によりやすやすと回避した。
そして、その隙を逃すことなく、真島が襲いかかってきたグールの頭に炎を纏わせた拳で殴りつけた瞬間、グールの頭は一瞬にして焼き尽くされ、炭屑同然となった。

「どないなもん―――真島殿、危ない!!―――なんやと!?」
「―――!!」

軽々と頭を消し炭にしたグールをグールの群れに叩き付けた真島は、得意げな顔をしながら、ライダーやキャスターに張り合おうとした。
だが、次の瞬間、真島の背後に忍び寄るグールに気付いたライダーが叫ぶと同時に、一匹のグールが真島の左肩に噛みついてきた。

「真島殿!!」
「この、言ったそばから!!」

咄嗟にライダーとキャスターは、不意打ちを仕掛けたグールに、肩を噛まれた真島に慌てて駆け寄ろうとした。
すぐさま、噛まれ箇所の処置をしなければ、如何に、“虚無の魔石”で強化された真島といえども、生身の人間である以上、ここの死体と同じようにグールとなる可能性があった。
最悪、噛まれた箇所焼かねばならんな!!―――そんな事を視野に入れたキャスターは、すぐさま手のひらに炎を宿した。

「待てや、嬢ちゃん。そう慌てんやないで」
「何?」
「―――? ―――、―――!!」

だが、グールに肩を噛まれた当の真島は、いつものように軽い口調で、過激な応急処置をしようとするキャスターを制した。
あまりに余裕の態度を見せる真島に、怪訝な表情を浮かべるキャスターだったが、真島の方に噛みついたグールにある異変に気付いた。
グールに力いっぱい噛みつかれたはずの真島の肩から、何故か一滴の血も、一筋の傷さえ出ていないのだ。
否、それどころか、噛みついたはずのグールが突如として、まるで取り込まれるかのように、真島の身体にめり込み始めたのだ。

「ちょいとした新技や。ただ、炎出すだけやと芸ないからのう。ぶっつけ本番で試したんやけど…こらぁ、中々えぇ塩梅やで」
「―――!! ―――、―――!?」
「まさか、体全体に焔を纏って…正気かよ!? 出鱈目にもほどがあるだろ!!」
「なんやぁ、坊主…そないな温い事抜かしてのう―――」

そんなグールの様子に構うことなく、真島は、自ら編み出した技の効果を目の当たりにして、上機嫌そうに笑みを浮べていた。
やがて、苦し紛れに真島の身体に掴みかかろうとしたグールの腕が一瞬で蒸発する瞬間を遠目から見たウェイバーは、グールに何が起こったのか、真島が何をやったのか驚愕と共に理解した。
原理としては単純明快―――真島は、パイロキネシスの力を応用し、自身の身体に極薄の、しかし、人間の肉体なら瞬時に焼き溶かすほどの超高温の炎を纏っているのだ。
故に、今の真島に触れるという事は、人間溶鉱炉に突っ込む事と同じ意味を有していた。
しかし、それは、真島の身体を守る炎の鎧であると同時に、少しでも調節を誤れば、真島自身を焼き尽くすもろ刃の剣でもあった。
時臣やケイネスほどの魔術師でなければ使いこなせない高難易度の芸当を、ぶっつけ本番で、しかも、魔術の素人でしかない真島がやってのけた事に、ウェイバーは驚きを隠せなかった。
ちなみに、この時、時臣邸にて、“また、出番を、解説を!! 奴は敵だぁ!! 僕にとって最強最悪の敵だぁあああああああ!!”などと、某厨二病眼鏡が叫んでいたのはどうでもいい話である。
だが、真島はそんなウェイバーの驚きを一笑しながら、周囲を囲むグール達に向けて、野獣の如き獰猛な笑みを浮べていた。

「―――化けもん相手に命(たま)の取り合いできるかちゅうんじゃ!!」
「―――!?」

狂犬跳躍―――人外の化け物との死闘に荒ぶる獣と化した真島は、渾身の雄叫びと共に解放した闘争心に身を任せながら、グール達に襲いかかっていった。

「さすが、真島殿だ。これは、中々の強敵となりそうだな」
「まぁ、あのマスターなら何でもやりそうだがな。だが、あちらの方はどうかな…?」

次々に、グール達を蹴散らしていく真島の姿を見て、ライダーは素直な賞賛と共に、いずれ来るであろう真島との対決に期待を膨らましていた。
本当に何でもありだな、あの男―――半ば、呆れ混じれにそんな事を思いながら、キャスターは、同じようにグール達と戦う宗茂達に目を向けた。


一方、別位置にいる宗茂達も、こちらに近づいてくるグール達との戦闘を始めようとしていた。

「どうやら、アレは、我々の世界で言う動死体(リビングデッド)の類のようですね」
『解説キタァ―――!! 解説欲しいよね!! さすがに、今、解説しないと色々とピンチ―――うるさい―――あ、ちょ…!?』

次々にグール達を蹴散らしていく真島の様子を見ながら、立花嫁―――ァがなるほどと頷いていると、遠坂邸にいるネシンバラからの通神帯が飛び込むように入ってきた。
どうやら、解説役ポジションを奪われまいと必死なのか、ネシンバラは、いつも以上にテンションを上げながら、捲し立てるようにァからの解説要求をアピールしていた。
そして、ァは一言だけ告げると、待ったをかけようとするネシンバラを無視し、即座に通神帯を切った。

「ァさん、どうすればいいと思いますか?」
「Jud.」

とここで、横に立っていた宗茂が、グールの対処法についての意見を求めてきた。
宗茂の問いに応じたァは、ライダーや真島、キャスターの戦いの様子を見た上で、宗茂にこの世界のグールの対処法をなるべく詳細に説明する必要があった。
そのために、まず、ァは―――展開していた“十字砲火”を近くにいたグール達に向けて発射した。
次の瞬間、“十字砲火”の直撃を受けた何体かのグールが吹き飛び、その中で、頭の砕けたグールや胸に大きな開けたグールがまったく動かなくなった。
その二体のグールの様子を観察するように見ていたァは、ふむと満足そうな声で頷きながら―――

「―――頭と心臓を狙えば死にます」
「いやいや…!! どう考えても、今の説明の仕方はないから!! 今のは、明らかに、試しにやってみたら、たまたま、当たって感じ―――黙れ―――うぼぁ!?」

―――横に立っている宗茂にむけて、この世界のグールの対処法を詳細に説明した。
それは説明じゃなくて、むしろ、実験だから!!―――ァの、あまりにも無茶な説明の仕方に、そんなツッコミを入れる近藤であったが、当のァから返ってきたのは、返答の言葉と共に添えられた“十字砲火”の砲撃だった。
どうやら、ァとしては、変態ゴリラの雄叫びによって、宗茂への説明を邪魔されて、気分を害したようだった。

「成程…頭と心臓を狙えば死ぬのですか」
「死にます」
「では、“瓶貫”で頭と心臓を貫けば、どうでしょうか?」

しかし、宗茂は、そんなァの説明に頷くと、一度考え込むようなそぶりを見せた後、念を押すように聞き返してきた。
宗茂の問いかけに対し、ァは即座に肯定の返事を返すと、宗茂は得物である“瓶貫”を掲げながら尋ねてきた。
宗茂の問いかけに対し、ふむとしばし考え込んだァは、徐に宗茂から“瓶貫”を借り受けると、先ほど“十字砲火”で吹き飛ばした際に、ァの足元にいる手足のもげた二体のグールそれぞれの心臓と頭に向けて、“瓶貫”を突き刺した。
そして、ァは、“瓶貫”で、頭と心臓を貫かれたグール二体が若干痙攣したのち動かなくなったのを確認すると―――

「死にます」
「死ぬんですか」
「死ぬんです」

―――改めて、宗茂に“瓶貫”によるグールの頭部と心臓の破壊が有効である事を伝えた。
宗茂が念のためにもう一度確認すると、ァは念を押すように答えを返した。
違う…これは色々と何かが違う!!―――立花夫妻のこの奇妙なやり取りに、この場にいたツッコミ要因たちは、色々と言いたいことがあった。
しかし、皆、先ほど犠牲になった近藤(ゴリラ)の死(死んでいません)を無駄にしない為に、あえてツッコまなかった。

「…」
「なるほど、確かにそうですね。では、忠勝さん、申し訳ありませんが、凛さんや近藤さんと一緒に他の皆さんの護衛をお願いします」
「…!!」
「ご安心を。世界は違えども、宗茂様の持つ西国無双の名は伊達ではありません」
「…すまぬで御座る、御二方。今のは、どうやって、会話のやり取りを―――さっさと働け―――えぇ!?」

とここで、今まで、静観を保っていた忠勝が、おもむろに、立花夫妻の二人に向かって、何やら無言で声をかけるようなそぶりを見せた。
それに対し、宗茂は、一言も喋っていない忠勝と会話したような素振りで納得すると、自分たちがグールと戦っている間、忠勝に凛や近藤達の護衛をお願いすることにした。
さらに、忠勝が無言で槍を掲げるそぶりを見せると、今度は、ァが忠勝と会話したかのように、宗茂の実力は確かなものであると受け答えした。
この時、別の場所で忠勝と立花夫妻のやり取りを聞いていた点蔵は思った―――何で、終始無言の相手と普通に会話が成立しているの、御二方ぁ!!
とりあえず、点蔵は、恐る恐る手を上げながら、この素朴な疑問を尋ねようとした瞬間、ァは、パシリの戯言などに構ってられないと言わんばかりにバッサリと一言で斬り捨てた。

「あ、それと、凛さん。これを使ってください」
「うわぁ!? えっと…これは?」

とここで、メアリは、点蔵からの連絡を受けた後、禅城邸に立ち寄った際に、とある人物から手渡された荷物を投げ渡した。
慌てて受け取った凛が荷物の中身を見ると、黄色い粉末状の何か詰めた小さな袋がいくつも入っていた。

「恐らく、あれが動死体の類ならば効果のあるモノです。もしもの時は、それを使ってください」
「うん、分かったわ!! ありがとう、メアリさん!! 三人とも気を付けてね!! あ、ついでに、点蔵と綺礼も」
「ついで!? この幼女、自分をついで扱いしたで御座る!? 完全におまけ扱いで御座る!!」
「…」

メアリは、グールが自分達の世界で言うところの動死体であると知り、グールにも効果のあるかもしれないその荷物を、凛達の身を守るための物として手渡したのだ。
メアリからの心遣いに感謝しながら、凛は、グールの群れに挑まんとする宗茂、ァ、メアリにむかって愛らしい声で応援した―――取ってつけたかのように、点蔵と綺礼には心底どうでも良さそうに言いつつ。
さすがにこのパシリと同じ扱いは…嫌だな―――あんまりすぎる扱いに叫ぶ点蔵を横目に、綺礼は、表情には出さないものの、凛の中で点蔵と同じ扱いという事に対し、心の中でそう思った。

「では、私は先に銃火器を持った相手を潰します、ァさん」
「分かりました。では、援護と追撃はお任せください、宗茂様」

だが、そんな点蔵の叫びなど、いつもの事のように聞き流した宗茂とァは、軽く打ち合わせをしながら、まずは、優先的に銃火器で武装したグールの対処にあたる事にした。
そして、“瓶貫”を手にした宗茂は、“十字砲火”で砲撃支援するァの援護を受けつつ、武装したグールの群れに突っ込んだ。
まずは、銃を向けてきたグールに狙いを定めた宗茂は、試しに、グールの腕に“瓶貫”を突き刺してみた。

「ふむ、確かに、頑丈ではありますが…」

とりあえず、グールに“瓶貫”を突き刺した宗茂は、なるほどと納得するかのように頷いた。
本来、並の人間の肉体ならば刺された箇所ごと吹き飛ばす宗茂の刺突を受けたにも関わらず、グールとなった事で肉体の強度が増したのか、腕に突き刺さっただけだった。
サーヴァントの一撃とは言え、簡単に破壊されないグールの頑強さに目を付けたのだろうが、それでも、宗茂からすれば、脅威の度合いとしては極めて低かった。
とここで、攻撃を仕掛けてきた宗茂に、近くにいた武装グールの何体かが銃を構え、引き金を引こうとした瞬間―――

「やはり動きは遅いですね―――!!」
「―――!?」

―――グールの動きの鈍さを指摘した宗茂が跳躍すると同時に、こちらに“瓶貫”を向け、宙を舞っていた宗茂の姿が武装グール達の目の前から消えた。
標的である宗茂を見失った武装グール達は、宗キョロキョロとあたりを見渡そうとした瞬間、次々に甲高い金属音と迸る火花が生じた。
それと同時に、いつの間にか、武装グール達の手にしていたはずの銃が、何故か、次々と宙を舞いながら、全て弾き飛ばされていた。

「今です、ァさん!!」
「了解です、宗茂様。―――“十字砲火”」

そして、いつの間にか、武装グール達の背後に回り込んでいた宗茂の合図と共に、ァは遠距離からの反撃を封じられた武装グール達に向けて、“十字砲火”による砲撃を開始した。
もはや、動きの遅い的同然となったグールに向けて、ァは砲撃の連射しながら、武器を失ったグール達を次々に仕留めていった。



一方、凛達の護衛に回っていた忠勝や点蔵の方にも、数十体以上の武装グール達が隊列を組みながら、牽制射撃を繰り返しつつ、近づいてきていた。

「…!!」
「はい、分かりました。では、そちらの砲撃と同時に、点蔵様と私で、こちらに来る敵の対処をします。…凛さん達をお願いします」

これに対し、ウェイバー達の護衛を任された忠勝は、武装グールの銃弾を受けつつも、即座に葵の紋が施された巨大な盾を取り出した。
そして、忠勝は、いつもは両腕に装備する盾を徐に地面に突き刺し、武装グールの銃撃からウェイバー達を守るための、バリケードの代わりにした。
続けて、忠勝は背中に取り付けられた巨大な鉄印籠から二門の大砲が両肩に展開させると、またもや、無言でメアリへと視線を送った。
この忠勝の行動に対し、メアリは、忠勝の提案―――まず、忠勝が武装グールへの支援砲撃を行い、武装グール達の戦列を崩し、すかさず、メアリと点蔵で武装グールを討ちとるという提案を受け入れた。

「だから、何故、分かるで御座るか、メアリ殿まで!? もしかして、自分だけ、自分だけハブで―――遊んでないで、さっさと頑張りなさいよ!!―――理不尽で御座るぅううう!!」
「…。…!!」

今度は、メアリ殿で御座るか!?―――またもや、一言も喋っていないにも関わらず、メアリと忠勝との間で会話が成立している事に、点蔵は、すかさず、ツッコミを入れるが、返ってきたのは、凛からの辛辣な言葉だけだった。
そんな犬臭い忍者と紅い小悪魔とのやり取りを、忠勝は、若干、哀愁めいた視線を送りながら、気を取り直し、武装グールに向けて両肩に展開された大砲から発砲した。
次の瞬間、轟音と爆煙を巻き上げて、二つの砲弾が、武装グールの戦列に炸裂した。
いくら、頑強なグールでも、この忠勝の砲撃に耐えられるわけもなく、直撃を受けたグールは、原形をとどめることなく、五体をバラバラに吹き飛ばされていた。

「ありがとうございます、忠勝様!! 王賜剣一型(EX.コールブランド)!!」

それと同時に、自身の宝具である神格武装“王賜剣一型”の左側を手にしたメアリは、武装グールからの銃撃を避けるように身を低くしながら、忠勝の砲撃によって、隊列を崩された武装グール達に斬り込んでいった。
そして、武装グール達がメアリに銃を向ける前に、メアリの振り回した“王賜剣”の一撃が、次々に鳴り響く斬撃音と共に武装グール達を薙ぎ払うように叩き斬った。
―――ふむ、見事…剣士としての実力ならば、戦乙女やトバルカインに勝るとも劣らぬ力量か。
次々に武装グール達を屠るメアリの姿に、伊達たちの制止も聞かずに銃弾の飛び交う戦場に身を出して、戦いの見物していたラインハルトは、己の配下であった者達と比べながら、心の中で、メアリに向けて、そう称賛の言葉を送った。
とここで、一部の武装グール達が、次々にグール達を蹴散らすメアリを、背後から狙い撃ちにせんと、一斉に銃を発砲した―――

「…とっ!!」

―――瞬間、メアリの背後に飛び込むように駆けつけた点蔵は、左手で持った右側の“王賜剣”を盾にして銃弾を防ぎ、右手で持った短刀で、残りの銃弾の軌道を全て逸らした。
ほう、こちらも中々…―――見事に武装グールの銃撃を凌いだ点蔵の妙技に、ラインハルトは思わず目を見張った。
本来、点蔵は諜報を主軸に置く第一特務の任を負っているが、決して戦闘が不向きという訳ではなく、忍術を駆使した戦闘技術は、武蔵陣営の中でも上位に食い込むほどなのだ。
まぁ、もっとも、根っからのパシリ体質なので、外道連中には役に立つ犬臭いパシリ忍者という認識が大半を占めているのだが。

「点蔵様!!」
「心得たで御座る、メアリ殿!!」

そして、武装グール達を断ち切る矛―――メアリと、そのメアリを守らんとする盾―――点蔵は、互いに信頼するように背中を預け、互いに励ますように声を掛け合い、互いの心合わせるように連携しながら、こちらを迎撃せんとする武装グール達に斬り込んでいった。
ライダー達や立花夫妻、忠勝、メアリと犬臭い忍者が、獅子奮迅という言葉の通り、圧倒的な闘い振りでもって、次々にグール達を打ち倒していった。
だが、続々と現れる後続の武装グール達は、そんな激しい攻撃を掻い潜りながら、忠勝の守るウェイバー達のところに迫ってきていた。


一方、何とか応戦しようした大輔は、バリケード代わりの盾の隙間から武装グール達にむけて、用意してきた拳銃を発砲するが―――

「くそっ!! やっぱり、こんな拳銃じゃ効かないか!!」
「何とか、俺たちも応戦…おい、お嬢ちゃん。さっき、あのねえちゃんが渡してくれたモン!! あれには何が入っていたんだ!?」
「あっ!! えっと、これだと思うんだけど…!!」

―――頑丈なグールを仕留めるには威力がまるで役不足で、精々、数秒間だけ足止めするのが精いっぱいだった。
やがて、銃弾の尽きた拳銃をやけくそで投げつける大輔だったが、状況は依然こちらに不利なままだった。
とここで、何か手はないか考えあぐねていた伊達は、先ほど、メアリが凛に手渡した荷物の事を思い出し、その荷物を持っている凛にむかって問い詰めた。
これに対し、凛も慌ててメアリから手渡された荷物の中身―――小さな袋の一つを取り出し、伊達に手渡した。

「粉薬みたいな感じだな?」
「どう使うんですかね、これ?」
「う〜ん…とりあえず、試しにひとつ投げてみますね」
「え、ちょ、大河ちゃん!? 危な…!!」

伊達は、慎重に袋を開け、凛から手渡された袋の中身を確認するが、袋の中には黄色い粉末状の物体が入っているだけだった。
とはいえ、大輔の言うように、一同がこの袋をどう使えばいいのか分からなかった。
そこで、徐に大河は袋を手にすると、物は試しという事で、武装グール達にめがけて投げてみることにした。
慌てて雁夜が、どんな危険な代物か分からないものを不用心に投げつけようとする大河を止めようとするが、その前に大河は勢いよく、袋を武装グール達にめがけて投げつけた。
そして、袋から、黄色い粉末状の何かが武装グール達の上にばら撒かれた瞬間―――

「嘘ぉ!?」
「い、一発で灰になっちゃいましたけど…何なんですかね、これ?」
「ふむ…これは―――」

―――黄色い粉末状の何かを被った武装グール達が、身にまとっていた装備を残して、一瞬にして灰となって崩れ去った。
見事に効果は抜群だという結果に、その様子を見ていたウェイバーは思わず目が飛び出すほど驚いた。
まさか、これほどまでの代物とは思っていなかった大河は、改めて、自分の投げつけたこの袋の中身が何であるのか疑問を感じずにいられなかった。
とここで、大河の隣にいたラインハルトが、徐に袋の中身―――黄色い粉末状の何かを指で掬うと、味を確かめるように舌でペロリと舐めるとこう思った

「―――カレー粉だな」
「「「嘘だぁああああああああああ!!」」」
「「「「!?」」」」

―――スパイスの効いた中々に美味な味だと。
黄色い粉末状の何かがカレー粉だと断言したラインハルトに対し、凛、雁夜、ウェイバーはキャラと顔が崩壊を止むを得ないぐらいに、そう叫ばずにはいられなかった。
これには、伊達たちも目を丸くしながら、ここまできたらもう今更だろという表情で、ウェイバー達のリアクションに驚いていた。
だが、吸血鬼やグールというモノを魔術師として知るウェイバー達からすれば、その驚きっぷりも無理は無かった。

「出鱈目にもほどがあるでしょ!! 何で、カレー粉なのよ!? というか、メアリさん、何で、こんなもんを持ってんのよ!!」
「そもそも、何で、カレー粉で、グールが灰になるんだよ!? どんな新発見だよ!! 絶対間違っているだろ!?」
「いやいやいや!! ないない!! 絶対ないから!! 仮に、カレー粉だったとしても、絶対、カレー味のする何かだよ、これ!?」
『綺礼…』
「私は何も聞いていないぞ、見ていないぞ、アサシン…!! あぁ、カレー粉で退治されたグールなんていなかったのだ!!」

もはや、この世界の常識をぶち壊すと言っても過言ではない暴挙―――カレー粉でグール撃退という事実に対し、凛、雁夜、ウェイバーそれぞれが必死になって超えてはいけない一線を守るために、全力で否定しようと捲し立てるように叫んだ。
そんなやり取りを横目で見ていたアサシンは、何かを察するように、元代行者である綺礼に尋ねた。
だが、綺礼は開き直ったかのように、自分は何も見ていないのだと、自分の根幹を守るように必死になって目の前の事実から目をそらしていた。
ちなみに、この十年後辺りに、とある任務で、同じようにカレー粉で死徒を撃退しようとした綺礼が、“カレーを粗末にするなぁ”と何故かブチ切れた同僚と、三つ巴の死闘を演じることになるのは、また、別の話である。

「雁夜よ…卿の蟲で、これを奴らの頭上にばら撒くことは可能か?」
「正直、やりたくないけど…贅沢は言ってはられないよな」

だが、ラインハルトは、そんな常識人達の叫びにブレることなく、すぐさま、このカレー粉を有効的に使う方法を思いつき、雁夜に協力を求めた。
あぁ、そうか…常識は死んだんだな―――そう悟るしかなかった雁夜は、しぶしぶ、周囲に待機させていた鉄細工で出来たかのような外殻と羽を持つ蟲たちが雁夜の元に集まってきた。

「…驚かないんですね、伊達さん」
「いや、もう、ロボットやらゾンビとかもう現実離れしたもん見た後だからな。今更、なぁ…」
「正直なところ、もう何が起こってもおかしくないから慣れてきた感じかな。というか、案外、まともで意外だった」
「そ、そうですか…あぁ、もう、行って来い、蟲ども!!」

とここで、雁夜は、この奇怪な蟲たちを見ているにもかかわらず、伊達たちのリアクションが薄い事に気付き、拍子抜けしたかのように伊達にむかって首を傾げた。
だが、伊達や大輔からすれば、忠勝やグールなど散々常識を覆すような出来事を体験し続けたため、雁夜が蟲を呼び出すのを見ても驚かないほど慣れてしまっていた。
何だろう、この敗北感…?―――そんな虚しさを紛らわせるように、雁夜は、呼び出した蟲たちにカレー粉の入った袋を持たせ、武装グール達の元へ飛び込ませていった。
武装グール達も銃を以て応戦しようとするが、小さな蟲たちに命中させるには至らず、癪に虫たちは武装グール達の中に潜り込むと、一斉にカレー粉の入った袋をぶちまけた。
そして、即座にばら撒かれたカレー粉は蟲たちの起こす羽ばたきによってあたり一面に拡散し、一気に広範囲に渡って広がったカレー粉によって、武装グール達を灰へと変えていった。

「…どうやら、武装したグールの標的は、我らのようだな」
「何だって!?」

そんな最中、ラインハルトはこれまでのグール達の動きから、武装グール達が優先的にこちらを狙っている事に気付いた。
このラインハルトの言葉を聞いた雁夜は、これまでグール達が無差別に攻撃を仕掛けていると思っていたため、驚きを隠せなかった。
だが、戦場を観察していたラインハルトの見る限り、武装グール達は、無差別に攻撃を仕掛けてくる非武装グール達に比べ、反撃する場合を除けば、積極的にライダーらに襲いかかろうとせず、わざわざ遠くにいるウェイバー達を狙ってきている様子だった。
そして、それは同時に―――

「ちょっと待ってくれ。それじゃあ、あの武装ゾンビは人為的なモノってことなのか!?」
「そう考えるべきだろうな」
「考えるべきって…いったい、どこのどいつが、あんなモンを作ったんだ!?」

―――武装グール達に何らかの指示を送っている人間がいること、さらに、武装グール達が人為的に作られ、手を加えられたものである可能性があった。
あの武装グール達が人為的なものである可能性があると知った伊達は、まさかと思いながらも、ラインハルトに問いただした。
一応、ラインハルトとしては、あくまで推測でしかないものの、ほぼ間違いないと断言するが、伊達にしてみれば、そんな物騒なモノを作りだした連中に苛立ちを隠せない様子だった。
そして、ラインハルトが気付いたことがもう一つあった。

「…何か知っているというように伺えるが、アサシンのマスター?」
「え…? 綺礼、どういう事なのか、ちゃんと教えなさいよ!!」
「…」
『綺礼、こうなったら、こっちの事情も説明した方が賢明かもしれないぜ』

それは、アサシンのマスターである綺礼が、あのグール達に心当たりがあるという事だった。
ラインハルトの言葉に、真っ先に凛が綺礼に目を向けると、時臣の手伝いをほったらかしているという不信感も相まって、厳しい口調でどういう事なのか問い詰めてきた。
余計な事を…―――そう心の中で、ラインハルトに対し無言で舌打ちする綺礼であったが、アサシンの言う通り、このような状況になった以上、この場で全員に説明する以外に道はなかった。

「武装したグールについては、私も知らん。だが、あの武器を持っていないグールの素性は知っている」

やがて、観念した様子で綺礼は、武装グールについては分からないが、非武装グールについては心当たりがある事を明かした。
そして―――

「…あのグール達は、私が追っていた、この1週間のうちに行方不明となっていた聖堂教会のスタッフ達だ」
「何…だって…。本当なのかよ、あんた!?」
「…その通りだ」

―――非武装グール達が、綺礼が行方を捜していた、行方不明となっていたはずの聖堂教会のスタッフ達である事も!!
この綺礼の話を聞いたウェイバーは、自分たちの知らない間に、聖杯戦争の監督役である聖堂教会でそのような事件が起こっていたことを知り、驚きを隠せないまま、綺礼を問い詰めた。
それに対し、綺礼は不承不承頷きながらその事実を認めると、もう一つ、この場にいるある人物に関するとある事実を告げた。

「そして、彼らの任務とは、秋山大輔―――君の近辺に関する隠蔽工作を行う事だ」
「え…? 俺が…?」

すなわち、行方不明となっていたスタッフ達の任務が、倉庫街の一件における唯一の目撃者―――ここにいる秋山大輔への隠蔽工作であるという事を!!
まさか、自分が関わっている事など何も知らなかった大輔は、その事実を聞かされ、思わず、目を丸くして驚いた。

「最初は、君がこの失踪事件に何らかの関わりがあると睨んでいたのだが…どうやら、この様子では違うようだな」
「当たり前だよ。そもそも、俺だって、そんな事、今初めて聞いたぞ…」
「だが、そうだとするなら、いったい、誰がそんな事を…」

綺礼としては、大輔が何らかの形で、スタッフ達の失踪に関わっているのではと睨んでいたのだが、この大輔の様子を見る限り、スタッフの失踪について、大輔自身も知らないようだった。
―――ならば、いったい、誰が、聖堂教会のスタッフを拉致し、さらに変貌させたのか?
解決の糸口どころか、またもや、謎が一つ増えてしまった事に、ウェイバーを筆頭に一同は、カレー粉で成仏していく武装グール達をそっちのけで頭を抱え始めた。

「なるほど…そういう事か」
「え? 何か分かったのか、春人?」
「あくまで、手段だけだ。推測に過ぎんが、ほぼ間違いはあるまい。どうやら、卿は、撒き餌として利用されたようだな」

そんな一同の中で、ラインハルト唯一人が、何かに気付いたかのように納得している様子だった。
そんなラインハルトの様子に気付いた雁夜がどういう事なのか尋ねると、ラインハルトはあくまで分かった事はその手口であり、推測の域である事を付け加えながら、大輔を撒き餌と称した。
手口として単純明快で、何らかの目的で聖堂教会のスタッフを拉致しようと目論んだ者達―――恐らく、武装グール達を作った者たちは、大輔をあえて泳がすことで、隠蔽工作のためにやってきた聖堂教会のスタッフをおびき寄せる餌として利用したのだ。
聖堂教会からすれば、聖杯戦争を秘密裏に運営する必要がある以上、倉庫街の一件で唯一の生存者である大輔に、何らかの隠蔽工作をする必要が有り、そこを、武装グールを作った者たちに付け込まれたのだ。
そして、まんまと撒き餌に引っ掛かった聖堂教会のスタッフが行動を起こそうとしたところを狙って襲撃を仕掛け、スタッフ達を次々と拉致していったのだ。

「だけど、何の目的があって、そんな事を…?」
「それはさすがに何とも言えぬ…だが、確実なのは―――」

とはいえ、ウェイバーの言うように、手口こそわかったものの、その武装グールを作った者たちが何の目的で、聖堂教会のスタッフを拉致したのかという謎が未だに残っていた。
これについては、さすがに、ラインハルトと言えでも、未だにその目的は掴めていなかったが、只一つだけ確実に分かる事があった

「―――敵は、もはや、目的を達し、撒き餌である卿を生かさずとも良いと判断したのだろう」

そう断言したラインハルトの視線の先には、カレー粉によって灰となった武装グール達の屍を踏みつけながら、ゾロゾロと大群で押し寄せてくる、後続の武装グール達の軍勢が迫ってきていた。


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