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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第25話:絆の太陽と黄金の獣(中編)
作者:蓬莱   2013/02/07(木) 15:15公開   ID:.dsW6wyhJEM
カレー粉でグール達を撃退するウェイバー達に対し、ライダー達も、まともな方法で襲いかかってくるグール達に応戦していた。
だが、グール達は、ライダー達の攻撃によって、数を減らすどころか、ますますその数を増やしていった。

「くっ…!! こいつら、一体、一体は雑魚同然だが…」
「何や、ゴキブリみたいに、うじゃうじゃ出てくるからのう…キリがないで!!」
「こいつらをまとめて仕留める手段があればいいのだが…私の術だと、この空間で使うには威力がありすぎる…!!」

キャスターは、次々と火球を放ちながら、群がるグール達を焼き尽くすが、それ以上に続々と現れるグール達に、思わずうんざりしたように顔をしかめた。
これには、さすがの戦闘狂の真島も同じで、数の暴力を体現するかのように、倒しても倒しても際限なく現れてくるグール達を前に、いい加減にしろやという表情で睨み付けた。
一応、キャスターには、大規模魔術で一気に殲滅するという手もあったが、さすがにそれだけの魔術を行使すれば、その余波で、この地下空間そのものを崩壊させかねなかった。
さすがに、そんな事をすれば、サーヴァントであるライダーらならともかく、ライダーのマスターらを巻き込みかねない為に、キャスターは増え続けるグール達に有効打を与えられずにいた。

「…皆、聞いてくれ!!」
「「「「「「!!」」」」」」

とここで、地面を殴りつけて、周囲にいたグールを吹き飛ばしたライダーが、何かを覚悟した表情で、グールと戦っているキャスターらにむけて声を高らかに呼びかけた。
ライダーの声に反応したキャスターらは、グールとの戦いを、一旦手を止めると、ライダーの呼び掛けに応じるように、ライダーの周囲に駆け寄った。

「早速だが、皆の力を見込んで、頼みがある!! ワシの使う奥義の一つに、この者たちを纏めて倒す術がある!! だが、その為には、ワシの魔力を限界まで高め、最大出力で開放せねばならん…その為に、皆で時間を稼いでほしいのだ!!」
「確かに、今のままでは、埒拝が明かんし、他の者たちの身の安全を考えれば、悪い話ではないが…」
「待てや、嬢ちゃん」

そして、ライダーは、数の暴力で挑んでくるグール達をまとめて倒せる大技を放つ為に、集まってきたキャスター達に時間稼ぎを頼んできた。
確かに、キャスターの言うように、このまま、グールと戦い続けても、“虚無の魔石”を持つキャスターや、それを貸し与えられた真島ならともかく、ライダーのマスターであるウェイバーの魔力が底を着くのが先になるのは目に見えていた。
そうなれば、ライダーは当然の事、ライダーの宝具である忠勝も実体化できず、その忠勝に守られていた凛達の身に危険が及ぶ可能性は極めて高かった。
だが、キャスターとしては、ライダーの奥義で、本当にこのグール達を倒しきれるのか疑念を隠せなかった。
キャスターは、ライダーに向かって、念を押すように尋ねようとするが、ここで、キャスターとライダーの間に割り込んできた真島がそれを制した。

「…勝算はあるんやろうな、家康?」
「真島殿…ワシと、そして、ここにいる皆の“絆”の力を信じてほしい…!!」

とここで、真島は、まるで、キャスターの疑念を代弁するように、まっすぐにライダーを見据えながら、静かに問いかけた。
そんな真島に対し、ライダーは真島から視線をそらすことなく、静かに固めた拳を突き出しながら、真島たちむけて熱き想いを乗せた言葉で返した。
同盟を組んでいるとはいえ、本来は敵同士であるキャスター達を信じ抜かんとするライダーの言葉に、真島が返すべき言葉は一つだけだった。

「しゃあないのう…その話乗ったで、家康!!」
「まぁ、手立てがない以上仕方あるまいか」

そして、軽く笑みを浮べた真島は、ライダーの言葉に応じるように、ライダーの突き出した拳に向かって、自分の拳を軽く突き出しながら、拳と拳を合わせた。
このライダーと真島のやり取りを見たキャスターは、渋々いった様子で了承しながらも、何処か楽しげな様子だった。

「なら、その話…私たちも一緒に手伝わせてもらえませんか?」
「なんや、兄ちゃん、手貸してくれるんか」
「凛様を護衛するという立場上、あなた方に協力する事が最善だと判断しました。とりあえず、援護はお任せください」

さらに、ここで、真島とキャスターに続いて、宗茂とァも、この窮地を脱する為に、ライダーらとの協力を申し出てきた。
面白そうに問いかけてくる真島に対し、ァはあくまで凛の安全を最優先した上での判断であると釘を刺した。
だが、宗茂は、ァが凛の安全だけが理由でなく、もう一つの理由が有る事は分かっていた―――色々と性質は違えども、ライダーも、また、アーチャーと同じように人を惹きつける何かを持っているからなのだと!!

「ならば、マスター達の護衛は、自分とメアリ殿、忠勝殿、綺礼殿とでカバーするで御座る!!」
「マスター達には指一本危害を加えさせません!!」
「…止むをえまいか」

そして、ライダーの想いを感じ取ったのは、ライダーの周囲に集まった宗茂とァだけではなかった。
凛達をグールから守っていた点蔵、メアリ、綺礼も、ライダーが魔力を高める事に集中できるように、凛達に襲いかかってくるグール達に対し、さらに奮戦した

「すまぬ!! 皆、しばし、わしに命を預けてくれ!!」
「…!!」

そして、自分を信じ、力を貸してくれる真島らの想いに応えるべく、ライダーは、最大限に発揮すべく、さらにその魔力を高めた。
と同時に、自身の主―――ライダーを信じてくれた皆のために奮戦すべく、支援兵器―――4つのビットを展開し、砲撃と共にグール達に攻撃を仕掛けた。



第25話:絆の太陽と黄金の獣(中編)



一方、武装グールを謎のカレー粉に撃退していたウェイバー達の方では、武装グール達の動きにある変化が起こり始めていた。

「…妙だな」
「え、妙って…何がだよ?」

最初に、その武装グール達の行動が変化しているに気付いたのは、ラインハルトだった。
これを聞いた、ウェイバーは、少しでもこの状況を打開するための情報を得られるのではと思い、ラインハルトに何に気付いたのか尋ねた。

「グール共の動きだ。先ほどまでは、全ての武装グールが我らを狙っていた。だが、今は、ライダー達にも攻撃を仕掛けている」
「え? まさか…あ、本当だ…」

そんなウェイバーの問いかけに対し、ラインハルトは先ほど、気付いた武装グール達の変化―――先ほどまで、自分たちだけにしか襲いかかっていなかった武装グール達が、何故か、ライダー達の方にも襲いかかっている事を教えた。
ラインハルトの言葉に思わず耳を疑うウェイバーであったが、念のために、バリケード代わりの忠勝の盾の隙間から恐る恐る覗いてみた。
すると、確かに、ラインハルトの言葉通り、武装グール達の一部が、まるで、ライダー達を、ウェイバー達から遠ざけるように、ライダー達のいる方向に進撃していた。

「恐らく、ライダー達と我らを分断しようと目論んでいるのであろう」
「でも、あいつらって、ゾンビなんだよな? そんな知恵があるとは思えねぇんだが…」
「確かに、卿の言う通りだ。だが、これが、グールを操っている者達によるものだとすれば、どうだ?」
「…!?」

この武装グールの動きが変化している事に対し、ラインハルトは、ただ標的である自分達を襲うだけでなく、障害となるライダー達から分断することで目的を果たさんとしているのではないかと推測した。
だが、ラインハルトの推測に、首を傾げる伊達の言う通り、グールとはそもそも、動く死体であり、作戦や策はおろか、本来なら何かを思考する知能すらないはずなのだ。
一応、ラインハルトも、その点は分かっているのか、伊達の指摘を肯定したものの、もう一つの可能性―――この武装グール達の行動の変化が、武装グール達を操っている者たちが行っているという可能性を挙げた。
これには、思わず、絶句する伊達であったが、この武装グール達が人為的に作られたものである以上、その可能性は充分にあった。

「じゃ、じゃあ…今の時点で、僕らの分断に成功したって事は…!!」
「恐らく、仕掛けてくる頃合いであろうな。私が敵であるならば、この絶好の機会を逃す手はない」

それと同時に、ガタガタと身体が震えてきたウェイバーは嫌でも気付かされた―――ライダー達と分断された今の状況こそとんでもなくヤバい状況であると!!
そんなウェイバーに対し、ラインハルトは余裕を崩すことは無かったが、次で、武装グール達を操る者たちが、これ以上の何かを仕掛けてくることは明らかだった。
そして、ラインハルトの予想が正しい事を示すかのようにその一手が明らかとなった。

「…!!」
「え!? 本当ですか!? 点蔵様、綺礼様…グールでない者たちが混じっています!!」
「む!?」
「何と!?」

まず、異変に気付いたのは、ビット兵器による支援攻撃と、いつの間に変形したのかプラズマ発射砲による砲撃を行っていた忠勝だった。
異変に気付いた忠勝が、無言でメアリに顔を向けると、メアリはすぐさま、会話したかのように忠勝の気付いた異変―――武装グール達に紛れるように隠れている人間がいる事を伝えた。
と次の瞬間、メアリの伝言とほぼ同時に、点蔵と綺礼は、武装グール達の中から放たれる僅かな殺気に気付いた。
とここで、点蔵と綺礼が咄嗟に武器を構えるとほぼ同時に、武装グール達の中から飛び出してきた何者かの武器が、点蔵と綺礼が身構えた武器に激しく激突した。
間一髪、奇襲を防いだ点蔵と綺礼の前に姿を見せた襲撃者の正体は、奇妙な出で立ちをした二人の男だった。

「…」
「な、これは…新手で御座るか!?」
「それにしては、随分と奇妙な出で立ちですが…」

まず、点蔵とメアリの前に立ちはだかるのは、棒状の光を放つ筒状の何か―――ビームサーベルを片手に構えた黒いヘルメット状のマスクを被った男だった。
何か色々と版権的な意味でやばくないで御座るか!!―――とりあえず、そんなメタなツッコミをする点蔵であったが、何故か戸惑いを隠せないメアリと同様にある事に気付いていた。

「貴様は、あの時の…!!」
「また、会ったな、神父様…」

一方、驚愕する綺礼の前に立ちはだかったのは、軽口を叩きながら挑発する、忍者を思わせるような服装を身にまとった男―――以前、舞弥を襲撃した際に現れた襲撃者だった。
これにより、点蔵とメアリ、綺礼は、この二人の襲撃者によって、凛達から分断されることとなった。

「な、なんだ、あいつら? また、妙な奴らが増えたぞ…!?」
「どうやら、グールがあいつらに襲いかかっていないみたいだけど…あいつらが、このグール達を操っていた連中なのか…!!」
「畜生!! いくら何でも、ライス無料のレストランじゃあるまいし、大盤振る舞いしすぎだっての!! もう、これ以上は御代わりはいらねぇからな、ゾンビ共!!」

現れた二人組の襲撃者たちに驚く伊達に対し、武装グール達が二人組の襲撃者に襲いかかってこない事に気付いたウェイバーは、二人組の襲撃者こそが、この武装グール達を操っている張本人ではないかと推測した。
とはいえ、カレー粉を投げつけながら応戦する近藤の言う通り、これ以上、敵の増援が現れれば、もはや、カレー粉だけでは対応しきれなくなるまでに追い詰められていた。
実際、点蔵とメアリ、綺礼が襲撃者の相手をしなければならない以上、忠勝一人で凛達を護衛しなければいけない状態だった。
だからこそ―――

『―――』
「だから、何で、そんなもんを持ってくんだよ!!」
「くそ、駄目だ!! カレー粉も効いちゃいねぇ!! もういい加減勘弁しろっての!!」
「くそっ!! あいつら、こんなものまで作っていたのかよ!!」

―――モノアイ・センサーで、近藤らを無感情に睨み付けながら、武装グールを踏みつぶしながら前進する1体の兵器―――右腕にパイルバンカー、左腕にガトリング砲、両肩に何らかの兵器を搭載した青色の二足歩行型ロボットが駄目押しと言わんばかりに出現した瞬間の、近藤らの絶望感はそれまでの比ではなかった。
何とか、伊達が、現れた青色のロボットにカレー粉を投げつけるも、さすがのカレー粉も機械には通用しないのか、青色のロボットにはまるで効果はなかった。
しかも、苛立しげに言葉を吐き捨てるウェイバーが見る限り、現れた青色のロボットも、先ほど見た魔力回収装置と同じように、科学と魔術を融合させた産物だった。

『―――!!』
「…!!」
「きゃぁ!!」
「あの子…!?」

と次の瞬間、青色のロボットの両肩の装甲がスライドすると、その両肩から百発以上はあろうかという球状の鉄塊が、ウェイバー達に向けて一斉に発射された。
この攻撃に対し、忠勝は、展開した防御盾だけでなく、とっさに自分の身体を盾にして、ウェイバー達を守ろうとした。
だが、鉄球の幾つかは忠勝の隙間を潜り抜けて、次々に地面に激突し、その衝撃なのか、近くにいた凛が盾の外に弾き飛ばされてしまった。
それを見た大河は自分の身の危険を省みず、弾き飛ばされた凛のそばに駆け寄っていった。

「大丈夫!? 怪我はしてない?」
「あ、だ、大丈夫―――お姉さん、後ろぉ!!」
「え?」

すぐさま、大河が凛の身体を抱えて、凛に呼びかけると、意識は朦朧としつつも、凛はうっすらと目を開きながら、大河の声に反応した。
だが、次の瞬間、凛は、大河の背後にいるソレに気付き、目を見開いて、大きな声で叫んだ。
思わず、振り返った大河の視線の先には、青色のロボットが、大河と凛にむけて、パイルバンカーから巨大な鉄杭を撃ち込まんとしていた。
そして、青色のロボットは、容赦なく、咄嗟に凛を守るように抱えた大河にむけて、火薬の炸裂音と共に鉄杭が勢いよく噴出した。

「ふむ…どうやら、無事のようだな…大河よ…」
「え、春人…さん…?」

その直後、不意に後ろに引っ張られた大河と凛の目の前には、大河たちを庇う為に飛び出したラインハルトの姿があった。
そして、ラインハルトは、大河と凛が無事である事に笑みを浮べた―――青いロボットのパイルバンカーから撃ち出された鉄杭が胸に突き立てられたまま。

一方、点蔵とメアリ、綺礼による襲撃者との闘いは、ある意味で予想通りの展開となっていた。

「…」
「点蔵様…この方はもしや…?」
「うむ、間違いないで御座る、メアリ殿。この者は出で立ちこそ奇妙なれど―――」

間違いなく人間で御座る―――ところどころ手傷を負いながらも、ビームサーベルを構える黒マスクの襲撃者に対し、ほぼ無傷の点蔵とメアリは、黒マスクの襲撃者との闘いを通して、そう確信した。

「なるほど、只の人間にしては中々だが…サーヴァントを相手にするには無謀だろうな」
「ふん…もう少し、年寄りを敬ってほしいところだがな」

同様に綺礼も、忍装束の襲撃者に、二度の奇襲こそ受けたものの、真っ向からの勝負においては、代行者としての地力で勝る綺礼が圧倒していた。
隣で点蔵達と戦う黒マスクの襲撃者を評価できるほどの余裕を見せる綺礼に対し、忍装束の襲撃者も負けじと皮肉を返すが、もはや虚勢にしか見えなかった。

「お主たち、これ以上の戦闘は無意味で御座る!! 大人しくこちらに投降し、このグール達を止めるで御座る!!」
「…ワハハハ!! 見事なもんじゃのう!! サーヴァントちゅうのが何ぼのもんかと思ちょったが、二人がかりで相手にしちょるとはいえ、このわしがまるで手も足もでんとはのう!!」
「え、そういうキャラで御座るか!? 声、デカいで御座るな!? 後、そのマスクの意味は何で御座るか!?」

とここで、点蔵はこれ以上無用な犠牲を出さない為に、試しに黒マスクの襲撃者にむけて投降を呼びかけた。
この点蔵からの投稿の呼び掛けに対し、黒マスクの襲撃者は、徐に黒いマスクを取り外すと、点蔵とメアリの実力を認めながら、豪快に笑い飛ばした。
えぇ、てっきりシリアス系なキャラだと思っていたら、全然違うで御座るよ!?―――これには点蔵も、思わずあまりに酷いキャラのギャップに思わず心の中で突っ込んでしまった。

「では…大人しく投降してもらえるのですね?」
「ん、おおう、それなんじゃがのう―――」

そんな犬臭い忍者に対し、メアリは、黒マスクの襲撃者が投降を受け入れくれるのか尋ねてきた。
これに対し、黒マスクの男は、このメアリの呼び掛けに応じながら―――

「―――わしも本気を出させてもらうかのう!!」
「何で…御座ると…?」

―――自分たちの持つ切り札を使う事にした。
これに対し、点蔵は未だに抵抗しようとする黒マスクの襲撃者の言葉に思わず虚を突かれてしまった。
そして、その点蔵が見せた数秒の隙―――致命的ともいえるミスを、黒マスクの襲撃者は決して逃さなかった。

「爺様、準備はできちょるか!!」
「あぁ、いつでもいいぞ、小僧」
「なら―――」
「では―――」

まるでタイミングを計るかのように、黒マスクの襲撃者が、忍び装束の襲撃者に声をかけると、忍び装束の襲撃者もそれに応えると同時に綺礼から距離を取った。
そして、黒マスクの襲撃者と忍び装束の襲撃者が何らかの装置を起動させると同時に―――

「「―――宝具・発動!!」」
「綺礼殿っ!!」
「分かっている!!」

―――自分たちの切り札である宝具を発動し、赤色の粒子が身体から吹き出してきた。
“宝具”―――その言葉を聞いた点蔵と綺礼は、ここで仕留めなければ厄介なことになると直感し、二人の襲撃者にむけてほぼ反射的に攻撃を仕掛けるが、時すでに遅かった。

「おぉう…さすがじゃのう!! この状態とはいえ、まだまだ、互角と言ったところかのう!!」
「ふん…どうやら、間に合ったようじゃのう」
「お、お主ら…どういう事で御座るか!! この気配は…!!」
「馬鹿な、有りえん!! だが、しかし…!!」

だが、今度は、先ほどまでの防戦一方だったのが嘘のように、全身が紅く発光した黒マスクの襲撃者は点蔵の攻撃を難なくビームサーベルで受け止め、忍び装束の襲撃者も手にした極太のナイフで全ての黒鍵を弾き返した。
しかし、点蔵達にとってそれ以上に驚くべきだったのは、この二人の襲撃者の放つ気配があるモノに代わっている事だった。

「あなた方、サーヴァントだったのですか…?」

そう、二人の襲撃者の気配が、人間のそれではなく、サーヴァント特有の気配に切り替わっている事を!!
常識では考えられないこの事態に戸惑いながらも、メアリは、どういう事なのか、二人の襲撃者に問いかけた。

「さて、ここからが正念場じゃ、お二人とも!! ちょいとばかり、わしとの勝負に付き合ってもらおうかのう!!」
「さて…代行者としての実力は確かだが…サーヴァント相手にどこまでやれるか試してみるかな?」

だが、黒いマスクの襲撃者も、忍び装束の襲撃者も、メアリの問いかけに応じることなく、闘いによってのみ全てに応じんと徹底抗戦の姿勢で武器を構えた。


点蔵達が思わぬ反撃を受けている頃、ウェイバー達の方は、青色のロボットによって、ラインハルトが致命傷を負うという事態に陥っていた。

「春人さん…春人さん!! しっかりしてください、春人さん!!」
「お兄さん…そんな…!!」

突然の事に声を震わせながら、呆然とする大河と凛であったが、倒れたラインハルトの姿を見て、すぐさま駆け寄った。
必死になって、ラインハルトに呼びかける大河であったが、撃ち込まれた鉄杭は、ラインハルトの胸を貫通し、幼い凛にから見ても分かるほど、手の施しようのない位の致命傷となっていた。

「気にすることは無い…早く、ここから離れた方が良い…ここにいては巻き込まれてしまう…」
「駄目です…!! 春人さんをこのままにしておけません!!」

何とか意識は保ったラインハルトは、口から血を吐きながら、すぐにここから離れるように大河と凛に呼びかけた。
だが、大河はラインハルトの呼び掛けを無視し、ラインハルトを運ぼうとするが、如何に女性としては力のある大河でも、長身のラインハルトを動かすのには無理があった。
それでも、自分たちを助けてくれたラインハルトを運ぼうと、大河は力を振り絞りながら、ラインハルトを引っ張ろうとした瞬間、不意に何者かが大河の手を掴み、強引に引っ張った。

「香純さん、何を…!? 離して…!!」
「駄目です!! ここからは離れないと…!!」
「雁夜おじさん!! あのお兄さんが、お兄さんが…!!」
「くっ…凛ちゃん、今は早くここから離れるのが先だ…!!」

慌てて、大河が振り返るとそこには、大河の腕を強引に引っ張りながら、急いでこの場から離れようとする香純の姿があった。
さらに、すぐ横では、雁夜が、もがく凛を抱えながら、なけなしの体力を振り絞り、どこか安全な場所に向かおうと駆け出していた。
当然のことながら、致命傷を負ったラインハルトは、身動きが取れないまま、その場に取り残されていた。

「畜生が!! これ以上、てめぇみたいなロボット如きに好き勝手されてたまるかよ!! こうなったら、俺が何とか…!!」

これを見た近藤は、怒りと共に青色のロボットにむけって一喝すると、身動きの取れないラインハルトの元へ駆けつけようとした。
如何に初対面の相手とはいえ、近藤は、青色のロボットに襲われた凛を助けてくれた恩人を見捨てる事など出来なかった。
だが、近藤がラインハルトの元へ行こうとしよとした瞬間、不意に忠勝によって体を掴まれ、身動きが取れなくなった。

「…」
「な、何しやがんだ、てめぇ!! まさか、見捨てろって言うつもりかよ…!!」
「ちょっと待てよ…何か様子がおかしいぞ…?」

いきなり、近藤を制止した忠勝は、無言のまま首を横に振ったが、残念なことに、点蔵と同様に忠勝と会話できない近藤には、何を言っているのか分からなかった。
ただ、忠勝の仕草から、近藤は、忠勝がもはや瀕死のラインハルトを見捨て、それを助けようとする近藤を諦めるように説得しているにしか見えなかった。
だが、忠勝は、近藤が思うように、ただ、ラインハルトを見捨てたわけではなかった。
そして、それが明らかとなるのは、様子を伺っていたウェイバーが異変に気付いた時だった。

「何で、何で、春人さんを見捨てたんですか、香純さん、雁夜さん!!」
「見損なったわよ、雁夜おじさん!! 私を庇ってくれたあのお兄さんをほっておくなんて!!」
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いてくれ!! 俺たちはただ…」
「えぇ、雁夜さんの言う通りです。もし、あのまま、あそこにいたら―――」

一方、何とか忠勝のところまで戻って来られた雁夜達であったが、大河と凛は、自分たちを助けてくれたラインハルトを見捨てた香純と雁夜に怒りを露わにした。
これに対し、雁夜は、どう事情を説明すべきか必死になって考えつつ、自分たちに怒りを向ける大河と凛を宥めようとした。
そして、香純も雁夜の言葉を肯定しながら―――

「―――あの人の戦いに巻き込まれかねないですから」
「「…え?」」

―――本当に危険だったのは、ラインハルトのすぐ傍にいた大河と凛であった事を告げた。

「感謝する…香純、雁夜よ…これで心置きなく―――」

そして、大河と凛を自分から引き離してくれた香純と雁夜に礼を述べたラインハルトは、青色のロボットがラインハルトに止めを刺さんと突き出してきた左腕のガトリングガンを―――

「―――卿を、大河を巻き込むことなく闘えるのだから!!」
『―――!?』

―――徐にガトリングガンの銃身を握り潰し、力任せにその左腕ごと引きちぎった。
だが、本当の変貌は、ラインハルトが胸に突き刺さった鉄杭を、針を抜くように上着ごと容易く引き抜いた時からが始まりだった。
ラインハルトが立ちあがると同時に、そんな傷などなかったというように、胸の傷は瞬時に消え失せ、短く切り揃えられていた髪も、目を覆わんばかりの黄金色に輝き、獅子の鬣を思わせるほど長く伸びていた。
だが、何より、先ほどと違うのは、ラインハルトから、サーヴァントとしての気配と共に放たれる溢れんばかりの威厳に満ちた王者としての威厳と、問答無用に他者を服従させる程、圧倒的な覇気だった。
そして、今ここに、ラインハルトは、サーヴァントとしての―――数多の戦争英雄を進軍し、終わることなき闘争を永劫繰り返す悪鬼羅刹の極楽浄土“修羅道・至高天”を司る者としての姿と共に、この戦場に降り立った。

「…!!」
「な、あんた、まさか、倉庫街にいた…!?」
「お前は、バーサーカーの呼び出したサーヴァント…!!」

と同時に、真の姿へと変貌を遂げたラインハルトの姿を見た忠勝、大輔、ウェイバーの三人は、ラインハルトがあの時、倉庫街にいた黄金の槍を持った軍服の男―――バーサーカーが呼び出したサーヴァントの一人である事に気付いた。
そして、もう一人…闘いの最中でありながら、ラインハルトの姿を見て、呆然とする一人の男の姿があった。

「黄金の…獣…」

無意識にそう呟いた言峰綺礼は、とある変質者が口にした“獣殿”―――綺礼の求める答えを知るかもしれない者と邂逅する事となった。


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