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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史改変の章その18
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2013/02/17(日) 22:54公開   ID:gUbB9FVlFng
1993 晩秋 統一中華戦線最高司令部

 「BETA東進止まりません。現在戦術核による遅滞戦術を行っていますが、大きな成果をあげるにはいたっていません」

 淡々と読まれる報告書の内容が広い司令部内に響き渡る。内容は芳しくない統一中華戦線の西部BETA防衛戦の状況を伝えるものである。
 1993年9月に行われたスワラージ作戦により人類は初めてBETAとの戦いに勝利した。その影響でポパールハイヴにいた残存BETAの全てがオリジナルハイヴに移動。一気にBETAの個体数が多くなったオリジナルハイヴからのBETA東進が懸念されていた。
 それに対して統一中華戦線の最高司令部は以前と変わらず、防衛戦線の維持のみに努めていた。正直に言えば、BETAの東進を真に受けていなかったのだ。
 装備は旧式のまま、おまけに戦術機については日本嫌いが災いして、日本由来の新型OSの換装は遅々として進んでいない。そんなところに突如としてBETAの東進が開始された。
 その規模大型種だけでも十万以上。小型種も含めれば二十万を超える前代未聞の大軍勢だ。

 「前線指揮官の無能共めが!今までに十分な準備期間があったというのに、なんたる体たらくだ!」

 「まったくですな。巨額の予算をつぎ込んで防衛線を構築したというのに、今になって泣きついてくるとは。ここはソ連に協力を依頼するしかありませんな」

 関大将の罵りに、馬中将が追随する。
 その内幕を知っている趙少将にとっては、とんだ茶番劇だ。そもそもBETA東進の可能性を唱えていた自分の意見をまったく取り合わなかったのは、他でもない関大将を初めとする軍閥至上主義の将校達だ。
 彼らは軍閥のM01搭載の新型ミサイルを他の前線国家に売却し、そこで得た巨額の資金を自身の権力拡大のために使ったのだ。
 おまけに世論を誘導し、国連を始めとした他国の介入を極端に制限してきた。そのつけが今、人民にそして統一中華戦線の最前線で戦う軍人の身に降りかかっているのだ。

 「ソ連だけでは間に合いません。国連にも追加支援要請、そして日本帝国に協力支援を行うべきです」

 趙少将がその言葉を口にした瞬間、場の空気が固まった。

 「日本帝国にだと!?」

 「正気か、趙少将!」

 「ふざけるな、なぜに日帝になぞ協力を仰がねばならんのだ!」

 一斉に批難の声が趙少将に集中する。統一中華戦線の司令部の日本アレルギーは今に始まったことではない。だがそれにしても大した嫌われぶりだ。
 かつて先祖が手にしていた既得権益を、日本帝国の軍事行動により手放すことになったのが大きな原因なのだが、そんなことは趙の知ったことではない。
 そもそも趙が提唱していた軍備一新計画を、日本帝国の益になるようなことに易々と手は貸せない、などといい、戦術機のOSユニットの調達にまで影響したのはこうした軍上層部の姿勢が大きい。

 「まとまった軍備の最精鋭化を行うためには、日本帝国の技術協力が不可欠だからです。そもそも他のBETA戦線国家では、AL弾による飽和攻撃によるレーザー属種の無効化はすでに、古い戦術になっています。今はM01搭載新型ミサイルによる環境への負荷を最小限にした戦術行動が一般化しています。そもそも新型OS換装率が50%にも達していないのは我々くらいのものです!早急に軍備の立て直しを図るためにも過去の遺恨は捨て、互いに手を取り合うべきです」

 趙が必死に訴えかけるが、日本帝国憎しで凝り固まっている軍部高官達の反応は芳しくない。

 「それならば国連軍に要請して、日本帝国軍に最前線で戦ってもらうことにしようではないか。そして策をこうじ日本帝国軍に容易に繕うことが出来ない失敗を起こさせる。その弁済として技術供与を迫るというのはどうだ?」

 「ばかな!そんなに上手く事が運ぶとでも思っているのですか?人類同士の戦いでさえそのような策がうまくいくか分からないというのに、BETAを相手に一体どいう策を打つというのですか!?」

 「ふむ、日本帝国の将校というのは割と情に厚い。そこを利用する。そうだな、例えばBETAの予測進路上に司令部を設置し、日本帝国軍にその防衛任務を担当させる。そして一部地域で、避難対象の住民が立ち退きを拒否しているという情報をリークする。ふむ、この当たりの地区の選定は、内陸部の情報に通じたものをあてればよい。そしてうまく住人の中に扇動者をもぐり込ませておき、退去を拒ませることで住民避難を遅らせる。迫り来るBETAに対して我々は必要最小限の戦力抽出しか出来ない状況にあると言うことにしておけば、情にほだされた司令部護衛の任務に付いた部隊が時間稼ぎに駆けつけてくれるやもしれん。そうなれば、あとは意図的に司令部を陥落させ、その責を日本取らせる。どうだ?」

 自慢げに自身の策を披露する関大将に、趙は戦慄を隠せなかった。
 今、この男はなんと言った?守るべき民を、そして共に戦う仲間を犠牲にしてまで、日本帝国に頭を下げたくないというのか?それどころか、そもそもBETAの行動を完全に予測できるとでも思っているのか?
 バカな、あまりに馬鹿げている。
 呆然とする趙を尻目に、関大将の思惑に乗っかるべく声を挙げ、意見をする軍司令部の面々達。
 絶望が趙の心を蝕む。このままでは、国が滅ぶ。真っ青な顔で、己のエゴを振り回す他の面々を眺めつつ、趙は己の拳を握りしめていた。



1993 晩秋 アラスカ(ソビエト連邦租借地)


 「ふむ、ではあの撃震参型の情報はまったくと言って良いほど入手出来ていないわけだな」

 高価なイスに身を沈めた50代ごろのでっぷりとした男が、報告に訪れたバザロフ少佐に対して問いかける。
 技術開発局が管理する建物、その中にある一室に彼らはいた。

 「はっ。撃震参型、正式名称は先進技術実証機撃震参型と呼称している日本の戦術機について、日本は一切の技術情報公開を拒否しています。これは今までの日本帝国の姿勢からすれば異常な事態です。彼らは自らの技術がBETA戦に有用であれば、躊躇無く技術公開を行ってきました。また、その技術についても格安のライセンスで供与を行ってきています。現に、同じスワラージ作戦で導入された九十三式電磁投射砲についてはすでに技術情報の公開が行われています。それらを鑑みるに、これは明らかに異常な事態と言えます」

 「それだけ撃震参型に価値があるのか、それともなにか別の理由があるのか、ということか?」

 「おそらくは」

 バザロフの声を受け、男は窮屈そうにイスの中で身を捩る。

 「興味深い、実に興味深い話だ、同士バザロフ。その秘密を暴くことで我らが偉大な祖国がどれだけのものを得られるのか。考えるだけで楽しくなってくるではないか」

 欲望によどんだ瞳がバザロフを見つめる。

 「はっ、自分もそう思います。ですが、日本帝国の防諜体制は生半可ではありません。すでに優秀な同士が十数名未帰還となっています」

 「ふむ、敵もさるもの、簡単にはいかんということか。ならば国連の正式な場でつるし上げるか?しかしそれでは偉大なる我が祖国が、あのような国の後塵を拝しているということを声高に主張する事にもなりかねん。それはいかん、それはあまりにも悪手だ」

 ぶつぶと呟く肉のかたまりを前に、バザロフは撃震参型について思いを馳せていた。
 彼から見た撃震参型の動きは、美しい、の一言に尽きた。人間を超えた人間らしさとでも表現すればよいか、機械仕掛けの鋼鉄の固まりであることを感じさせない優美な動きには、感動すら覚えた。その素晴らしい技術を日本帝国は公開しないという。
 バザロフの中には理不尽な怒りが募った。

 「第三計画の者を使うことはできないでしょうか?」

 「第三計画、か。確かにあの力をうまく活用できれば、諜報活動に絶大な能力を発揮するかもしれんな。だが、分かっているだろう?あの計画は、われらの指揮系統とはまったく別の管理がされている。いくら私でも、そうそう融通はつかんよ」

 「そうですか」

 第三計画。バザロフも詳細は知らないが、なんでも人の思考を読み取る能力者達を対BETA用に応用する技術の研究計画だと言うことは知っている。その能力者をうまく使えれば、と思ったのだが、なかなかうまくはいかないようだ。
 結論としては、ないものは仕方がない、あるもので何とかするほかないということだ。

 「とりあえずは、私は外交方面から責めてみよう。同士バザロフ、君は引き続き裏の経路での情報入手に最善を尽くしたまえ」

 「はっ、承知しました。偉大なる祖国のために!」

 「うむ、全ては偉大なる祖国のために行われるのだ。そして我らが祖国がいつまでも、日本帝国などという島国に遅れをとるわけにはいかんのだ」

 イスに座る男は、意外なほど鋭い目つきでそう呟くと、窓の外へと視線を送った。



1993年 晩秋 帝国軍技術廠

 「働けど、働けど、我が仕事いっこうに減らず、だな」

 自分の執務室で仕事をしていた小塚三郎は大きくため息をついた。
 今年9月に行われたスワラージ作戦、そこで日本帝国派遣軍は多大なる戦果を挙げた。
 その戦果は大きく分けて二つの存在に起因する。一つは、九十三式電磁投射砲。これは実戦初投入の兵装だったが、従来の兵装を遥かに超える大火力を実現し、ハイヴ攻略戦の一躍を担った。
 そして問題はもう一つの先進技術実証機撃震参型だ。こちらも実戦初投入だが、戦果が生半可ではなかった。
 通常戦術機が一回の作戦行動で倒す大型BETAの数はせいぜいが100行かない程度だ。戦車級などの小型種もカウントに入れたとしても300行けば良い方だろう。
 それがこの戦術機は、一回の作戦行動で2万以上のBETAを殲滅している。2万だ。200でも2000でもなく、20000。まさに桁違いだ。
 それだけの戦果を挙げた機体である。当然周りの目が集中するのは無理もない。これだけの性能を持つ戦術機が量産されれば、間違いなくBETA大戦の歴史が変わる。
 これは比喩でも何でもない、れっきとした事実である。
 先進技術実証機撃震参型を手にした者は、世界を制する。まことしやかにささやかれた話だが、冗談と思えないところが、確かに先進技術実証機撃震参型にはあった。
 現に機体の真の開発責任者である立花隆也によれば、この機体と神宮司まりもがあれば在日米国程度であれば無傷で無効化できるとのことだ。
 明らかにおかしい戦闘能力はともかく、これだけの機体、当然世界中から情報公開の要請が殺到した。
 だが、それは実現しなかった。
 正確に言えば、出来なかったといったほうがいいだろう。
 それだけ、あの機体に使われている技術が異常なのだ。そもそも動力である重力偏差型機関ですら、明らかなオーバーテクノロジーなのだ。未だに検出されていない重力素子などと、そんなものどうやって作成したのかと問われると答えようがない。
 付け加えて機体の設計者である隆也の言葉もある。
 あの機体は未知のテクノロジーの固まりだ。この技術を大々的に公開することで確かに人類の技術は大きく躍進するかも知れない。だが、そのことで本来ならばその答えに行き着くまでに生まれるはずの、無数の可能性の芽を摘み取ってしまう可能性もある。
 人類のテクノロジーがある程度進歩してからでなければ、この技術を公開することは人類にとっては早すぎる、それが、隆也と小塚の出した答えだった。
 そのため、世界中からブーイングの嵐が訪れた。当然それを一身に受けためたのは小塚だ。ちなみに戦犯である隆也は、休暇を取って音信不通になっていた。
 その激務とストレスのせいで二度目の吐血と入院をしたのはいまでは良い思い出だ。ストレスの原因の一部は、隆也に対する恨みなのだがそこはそれ、小塚も大人ななのでぐっと堪えている。

 「などと呑気に考えてはいないだろうな、立花伍長。貴様にはそれなりの代価を払わせてやるぞ。ふふふ…そうだな、まずは君がこなを掛けた女子たちの証言集を神宮司少尉にでも送るとしようか。おっと、今や神宮司中尉か」

 そう、スワラージ作戦の戦績を評価され、神宮司まりも少尉は、一階級昇進し中尉になっていた。
 ちなみに隆也は伍長のままだ。後方支援がなかなか評価されないのはどこの世界でも同じである。
 小塚次郎少佐は、これも今までの功績と今回のスワラージ作戦の戦績が評価されたため、中佐に昇進。ただし、身分は第十三大隊隊長のままだ。

 「まずは神宮司中尉用の報告書をまとめてるとしようか。立花伍長、十分に楽しんでくれよ」

 悪い笑顔を浮かべながら、小塚は報告書の作成にかかった。女子更衣室侵入事件、無修正エロ漫画配布事件、無差別お茶誘い事件などと、まとめるときりがないが、小塚はそれを精力的にこなした。
 全ては復讐のために。ああ、人間とはどうすれば憎しみの連鎖から抜け出せるのだろうか。それは永遠の問題なのかも知れない。

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