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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史改変の章その19
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2013/03/03(日) 20:45公開   ID:jkr/fq7BJDE
1993年 晩秋 柊町

 『ここがときわ荘か』

 手にどでかいバックを持った二人の女性と二人の少女が、その建物前に佇んでいた。
 その建物は地上12階、地下3階ににも及ぶ建物。荘などと呼ぶのは明らかに間違っている建物だった。重量鉄筋コンクリートで建てられたマンション。最先端の免震構造を備え、震度8以上もの地震でも倒壊しない最先端の技術を集めた建物。それがときわ荘の正体だった。
 中にすむ人々は一癖も二癖もあるのだが、それについては彼女たちは知るよしもない。

 『さて、着いたはいいが、どうすれば中に入れるんだ?』

 この世界ではまだどこの町での実装されていないオートロックのエントランスに4人の女性は佇んでいた。
 彼女たちは過去を捨てた者たちだった。
 その中で二宮ラリーサを名乗る女性が、ふとエントランスの奥に目をやると、こちらに向けて歩いてくる一人の女性の姿が映った。
 年の頃は18前後だろうか?歩く姿はきびきびとしたもので、どこか軍人のそれを思わせる。おそらく軍学校にいたことがあるのだろう。もしくは、過去に従軍経験があるか、そのどちらかだろう。
 ラリーサは偏った経歴を持つため、初対面といえど相手の素性をかなり正確に把握するように努めている。これからはそんな必要もない人生を歩むことになったというのに、長年身に染みついた習性はそうそう変わらないらしい。
 ラリーサの様子に気づいた残りの三名、二宮ナターリヤ、四条ヤーナ、四条トーニャは、揃ってエントランスへと顔を向けた。
 そんな様子に怖じ気づきもせずに、口元に柔らかい笑みを浮かべると、その女性は自動ドアをくぐり抜けて四人の前まで足を運んでから立ち止まった。

 「やあ、初めまして、私の名前は畑山翔子だ。君がぶちょ、もとい社長が言っていた新人達かな?」

 畑山と名乗った女性は、遠慮のない視線をラリーサ達に向けた。かつて高級官僚達が自分たちに向けたような舐めるような視線に、思わずラリーサは他の三名を守るように身と盾にする。

 「おや、すまないね。どうも私は遠慮というか、節操がないようでね。ついつい、自分の興味を引く者に対しては、徹底的に知りたくなってしまう。すまない、無粋な視線を向けてしまった」

 「いい、こちらもぶすいなのはかわらない」

 「ああ、そう言えば、日本語の習得が完全では無かったのだね。その当たりも今後の課題としておこう。まあ、この仕事は日本語が出来なくても出来る仕事ではあるんだけどね」

 「そうか、それならたすかる」

 「そのかわり相当きついよ?」

 にやりっ、と笑う畑山を前に、ラリーサは不敵な笑みを浮かべる。

 「だてに、かこくなくんれんをけいけんしていない。すこしくらい、だいじょうぶ」

 その言葉に満足そうに頷くと、4人を見つめる視線をゆるめた。

 「そうそう、この建物についても一通り説明しておこうか。見ての通り、セキュリティについてはかなりの配慮がされている。建物に入るのには認証システムをくぐり抜ける必要があるし、各人の部屋は指紋認証システムでのロックになっている。あと、仕事場に入るのには後で配るIDカードが必要になってくる。これは建物に入る認証システムを解除するのにも必要なので大切にしてくれたまえよ?」

 言って畑山は懐から四枚のIDカードを取り出すと、ラリーサ達に一枚一枚手渡した。

 「住居は君たちの要望通りに四人部屋にしてある。一応4LDKで各人の部屋がある。もし不都合があるのなら言ってくれたまえ。出来る限り便宜を図るように言われているのでね。できるだけ都合をつけるようにするよ」

 「わかった。てまをとらせてすまない」

 「いやいや、美女4人の乱れた生活、それもまたありだからね」

 にこっ、と微笑む畑山、しかしラリーサは見てしまった彼女の目を。異常なまでの欲望と理解しがたい混沌が入り交じった、およそ人とは思えない、限りなく狂気に歪んだ劣情を宿す瞳を。
 あわてて、自身の能力を解除する。
 この相手は危険だ。
 彼女の中の長年の経験が警鐘をならす。
 支援者を名乗る謎の人物が自分たちにかしたかせ、いや、これは授けてくれたのだろうか?自分たちの能力を自由に操ることが出来るようになる技能。それをつかって普段は発動させていない、リーディングと未来予知を発動させる。

 「ん!?」

 読み取れる思考はあまりのも混沌としていた。おそらく人の生み出せる者の究極の一つであろう。愛、憎悪、慈しみ、憤怒、悦楽、苦痛ありとあらゆる相反する思いを一瞬にして頭にたたき込まれたラリーサの膝が崩れる。

 『ラリーサ!』

 思わず膝を突いたラリーサを気遣うようにトーニャが彼女の側に駆け寄る。

 『ああ、トーニャか。すまない、久しぶりにリーディング酔いをした。他の二人にも言っておいてくれ、軽々しくこの女性の思考を読むなと』

 ラリーサの脳裏には、畑山と名乗る女性の思考を他の三名が読んだ場合に、下手をすると意識を失いかねない衝撃を受ける光景が浮かんでいた。これは未来予知がもたらした映像だ。間違いはないだろう。

 『わかった』

 「おや、大丈夫かい?ラリーサさん」

 「すまない、はたけやま。たちくらみだ」

 「そうかい、いやはや、少しばかりあせったよ。なにせ君たちは、社長から紹介してもらった貴重な人材だからね」

 安堵の表情を浮かべる畑山の思考を再度読もうと試みるラリーサ。だが拍子抜けすることに、そこに浮かぶ思考はごく普通の思考。先ほどの狂気に近い思考を浮かべていた人間とはとても同一人物とは思えない。

 「そうそう、立ち話も何だし、ロビーで座って話をしないか。ちなみにエントランスからロビーに入るのにはそこにあるリーダーにカードをかざすだけでいい」

 そう言って、玄関脇に設置されているカードリーダーにIDカードをかざす。ICチップ形式だろうか。それに反応して、

 「お帰りなさいませ、翔子お嬢様」

 と合成音声が響くと共に、玄関が開く。

 「こうやって、入るんだ。ちなみに帰宅時の挨拶については変更可能だ。言ってくれれば好きな文言に変えられるからね。遠慮無くいってくれたまえ。ちなみに、大柳くんなんかは、「のこのことどの面下げて帰ってきているんだ、この豚が!」とかにしているしね」

 「あ、ああ、わかった。とりあえず畑山と同じでいい」

 「そうかい?少しくらいなら捻っても良いんだよ。例えば、お帰りなさいませ、麗しのお姉様、とか」

 「いや、そういうのははずかしいから」

 「ふふ、そうかい、意外と純情だね」

 等と言いながら、それぞれIDカードを使って、ロビーへと入っていく。

 『わあ』

 少女2人の口から簡単の声が漏れる。そこそこ大きな清潔なスペースには小さな噴水、観葉植物など目を楽しませるのに十分な景観を保っている。

 「ふふ、すごいだろう。このロビーは、うちのちょっとした自慢だよ。あ、飲み物はセルフサービスになっているからね。あそこにあるドリンクバーで自由に選んでくれたまえ」

 いいながら、自分はさっさと緑茶をコップにつぐと、ロビーのソファに腰掛ける。
 4人は見よう見まねでそれぞれ飲み物をコップについで、畑山が座ったソファの向かいに腰掛ける。
 ちなみに、ラリーサはコーヒー、ナターリヤは紅茶、ヤーナとトーニャはアップルジュースを手にしている。

 「まあ、まずは一服としよう。君たちも疲れているだろう?」

 「いや、じぶんは」

 「きみは大丈夫かもしれないがね。女の子2人はちょっと辛そうだよ?」

 言われて、はっと気づいた。軍人として数年間前線をかいくぐってきた自分とナターリヤはともかく、あとの2人はまだ子供だ。
 視線を受けた2人は大丈夫だと首を横に振るが、それをそのまま鵜呑みにするわけにはいかない。

 「すまない。かんしゃする」

 「いやいや、気にすることはないよ。これから一緒に仕事をする仲間になるんだ。仲間の体調を気遣っただけなのに、いちいち感謝はいらないよ」

 「そうか。それよりもひとつきいていいだろうか?」

 「ん?なんだい?」

 「わたしたちはなんのしごとをする?」

 「アニメーションだよ、ラリーサさん」

 にやり、と歴戦の戦士であるラリーサの背筋を凍らせるほどの何かを含んだ声音で、畑山は静かに彼女たちがこれから取り組む仕事について告げた。



1993年 晩秋 帝国軍技術廠

 「どうするんだ、こんな状況で世界初の第三世代機です、って発表してもインパクトがまったくないぞ?」

 「まったくだ、小塚三郎技術大尉、なにかやらかすかと思っていたが、このタイミングでとんでもないものをぶち上げたな…」

 耀光計画に関わった人間達が、揃ってため息を漏らしながら、目の前で繰り広げられる戦闘シーンに釘付けになっていた。
 『先進技術実証機撃震参型』名前の通り、実戦配備するにはおぼつかない実験機のはずが、前線で元気に飛び跳ねていた。いや、正確に言えばBETAを蹂躙していた。
 今まで蹂躙されることはあっても、蹂躙することは人類史上殆どない。せいぜいが、光線属種が誕生する前のBETA戦程度だ。
 それが覆されていた。レーザー照射を受けた戦術機は、ランダム回避しか逃げることは出来ない、その常識を嘲笑するかのように、急下降してレーザーを躱したかと思うと、レーザー級がいる場所に向けて戦術機搭載型の電磁投射砲で、自分を狙ったレーザー級を逆に打ち倒す。
 そして縦横無尽に振るわれる一組の小太刀。そして両肩上部に展開されているガトリングタイプの36mm砲。各部に設置されているM01搭載戦術機携行弾頭をつかったミサイル攻撃。

 「これが量産されたら、不知火なんて完全に世代遅れの機体ではないか…」

 開発主任の1人が大きなため息をつく。
 そう、『先進技術実証機撃震参型』のデビューがセンセーショナルすぎて、純国産第三世代の不知火が完全にかすんでいるのだ。しかも発表を来年に控えたというこのタイミングでだ。
 初めて今上映されている映像を見た開発陣は、そろって頭を抱えたものだ。最初に映像を疑い、そして自分の目と耳を疑い、そして絶望した。はっきり言って、不知火と『先進技術実証機撃震参型』では次元が違いすぎた。
 とはいえ、悪い知らせばかりではない。
 まずは製造コスト。簡単に製造コストだけを見れば、『先進技術実証機撃震参型』一機作るのに不知火が一個連隊は作れる。おまけに『先進技術実証機撃震参型』は完全なワンオフ仕様で、扱えるだけの技量を持つ衛士が1人しかいない。
 それと製造工程にもブラックボックス化されている部分があり、一機作るのに一年近い年月がかかる。
 そしてなによりも、開発総責任者である小塚三郎技術大尉は、この機体についての技術公開はしないと技術廠内に告知し、同時に世界に向けても発信した。
 もちろん大ブーイングがあったが、それでも小塚三郎技術大尉は毅然とそのブーイングに対して対応をした。
 『先進技術実証機撃震参型』の技術の秘匿性の高さや、その性能故に操縦できる衛士が限られていること。そして、使われている技術の転用を順次行うことなど、アメとムチを巧みに使い分けて何とか海外からのクレームを捌いていた。
 そうなると、次に海外勢が注目するのがその帝国が作り出した世界初の第三世代機である不知火だ。
 だが残念ながらこの不知火には、世間をあっと言わせるような能力はない。いや、確かに現行機で優秀なF15シリーズや、撃震弐型を上回るスペックを誇っているが、対象相手があの化け物戦術機となると話は違ってくる。
 分が悪いどころではなく、大人と子供の戦いだ。
 おかげで、本来ならばすべての開発を終えて安堵の表情を浮かべているはずの開発陣は険しい顔で、緊急ミーティングを行っていた。

 「今から設計変更は無理だ。となるとせめてなにか一つだけでもオプションでつくれないもか?」

 「難しいだろう。現場の要求に応えるためにかなり切り詰めた設計を行っているんだ。以前に比べると拡張性は残っているが、それでもこの短期間でどうこうできるものではない」

 「それもこれも、これだけの機体の情報をまったく我々に伝えてこなかった小塚技術大尉のせいだ」

 「うむ、彼の秘密主義は少々行き過ぎのところがあるな」

 「たしかに、彼の才能は日本帝国には無くてはならないものだ。だが、あまりに好き勝手がすぎる」

 不満は愚痴となり、終いには八つ当たり気味な悪口の言い合いとなった。そして出た結論は、

 「「「おのれ、小塚三郎技術大尉!」」」

 であった。
 まったくもって報われない男、小塚三郎技術大尉である。


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