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ぼくらの〜それでもゲームは終わらない〜 第一話「出会い 後編」
作者:nasubi   2013/04/28(日) 10:12公開   ID:vTzT7IJMLOA
全員が目覚めたのは、執拗に呼びかけられたからだ。感覚としては、いつの間にか居眠りをしてしまった後の寝起きに似ており、その状況を把握するのに数分はかかった。ツアーメンバーは救急隊員達に介抱されていた。救急隊員は頬を軽く叩き、大丈夫ですか分かりますか、と問いかけている。
 周りには救急隊員ばかりがいるわけではない。警察官だろうか、険しい顔した男連中が何人も、博物館の入り口から忙しく出入りしているようだ。広場の大門には黄色いテープが貼られて、出入り禁止にされており、野次馬が何人も集まっていた。
広場で介抱されているツアーメンバー15人は、はっきりとではないが、何かが起こっているのだと分かり始めていた。そして、これまでの経緯をゆっくりと解凍しはじめる。



                ***


 
 メンバーは達は病院に送られ検査を受けたが、目立った異常も見つからなかったため、矢継ぎ早に病院の待合室に連れて行かれ、今度は警察から事情聴取を受けることになった。
 「だからぁ、持田って人がゲームをするっつったの!何回言えば分かるのよ! 」
 夕暮れ時の病院の待合室に甲高い怒号が響く。三枝は不愉快とばかりにヒールを床に強く鳴らしながら若い刑事に怒鳴った。刑事は困った顔をしながらメモ帳を握ったままの後輩らしき男と顔を見合わせた。
 三枝はツアー中も不機嫌になるとたまにだが、他のメンバーに突っかかっていて扱いづらい存在と思われていた。しかし、この時はさすがに三枝の怒号の意味に聴取を受けていた全員が納得していた。持田という職員が契約と称して得体の知れないものを持ち出し契約させた、これ以外に語るべきことは何一つ持ち合わせていなかった。
 「はい。本当にそれしか記憶に無いっすよ。ねっ? 」
 刑事の質問を受けていた斉田が、隣に座ってた加瀬に同意を求める。
 「うん。本当にそれしか記憶に無いんです。ただ……」
 言葉に詰まった加瀬は顎に手を当てた。
 「ただ、なんだい? 」
 刑事の優しい問いかけに、加瀬はちょっとした間の後にこう答えた。
 「ただ何となく、その持田さんって人はそのゲームの契約を僕達にさせたくて仕方が無いという風に見えたんです。強引とさえ思いました」
 「……ええ、皆さん」
 ざわざわと騒然としている最中に受付から呼びかける声が聞こえた。15人がそちらの方を向くと、恰幅のいい警察関係者らしき男が立っていた。その男が15人にこう言った。
 「今日はもう、帰って頂いて結構です。後日また必要があればご協力していただくやもしれません。面倒をかけますがどうかよろしくお願いいたします」
 皆堰を切ったように立ちあがり、ぞろぞろと病院の出入り口に向かった。刑事の中の一人が受付の男のもとに近づいた。彼はどうだった、と問いかける。
 「何の情報も得られなかったよ。全員、口を揃えて持田って男に契約をさせられたとしか」
 受付の男は唸りながら腕を組んで下を向いた。
 「不可解だ。気づいたら全員広場でお昼寝とはな。それに同じ体験を話す。集団ヒステリーなのかもしれないな」
 彼の感想に刑事が付け加える。
 「ところで、その持田って案内係りのことなんだけどな、博物館に問い合わせたら、そんなやつ雇ってないってさ」
 ツアーメンバーが外に出てみると、日もすっかり沈んでいた。病院の近くの街灯には明かりが灯り、街路樹からは影が伸びて、道が若干の暗がりを見せていた。突然の出来事にただただ疲れてノロノロとメンバーが歩いていると、町が隣にいた加瀬に話しかける。
 「あのさ、さっき刑事さんになんて答えた? 」
 下を向いて呆然としていた加瀬は驚いて肩をビクッと震わせてから町を見た。
 「持田さんの話を……、それからゲームの話の件とかを」
 「……そっか」
 町はジーパンのポッケに手を突っ込み、今度は町が下を向いた。加瀬も再び下を向いて歩く。その話を聞いていたのか、加瀬の後ろにいた男女二人が話しかける。
 「ゲームって、そもそも何のことなんですかね」
 町と加瀬は振り向いた。
 「ゲームをするって急に言われて、何か始まるものと思ってましたけれど……ねぇ、あなた」
 メンバー同士ではほとんど話を交わさなかったから分からなかったが、どうやら同姓であるところからこの二人の小森は夫妻であるらしいことを知った町と加瀬は顔を見合った。さらに、二人に話しかける。
 「ああ。なんだか狐につままれた様な」
 加瀬たちが話していると、正面門から誰かを呼ぶ声がした。するとメンバーの中の何人かの高校生達が、声のするほうへバタバタと走っていった。どうやら、彼らの保護者らしい。
 「高校生も多かったもんな」
 加瀬が呟いた。
 病院の門の前に来ると、4人はそれぞれ二手に分かれた。
 「じゃぁ、これで。もう会うことは無いと思うけど」
 町と小森夫妻は加瀬とは反対の道を歩き出した。暗がりを見せる道を歩く3人の後姿を見ながら、加瀬にはある考えが浮かんだ。これだけでは終わらない、と。



                ***



 それは突然起こった。早朝7時頃、ラッシュの時間帯に東京の麻布地区全域とその周辺の地域に地響きがした。街をせかせかと歩いていた歩行者はその揺れに一度立ち止まり、周囲を見渡した。地震が起きたのだと思ったのか、
歩行者達は地震が起きただけで特に危険なことにはなりそうも無いと判断したのか、一人また一人と目的地に向かって再び歩き出そうとしたが、突然どこからとも無く女性の悲鳴が聞こえた。その女性を見ると、どうやら上を向いて叫んでいる。
その方向を見ると、それがいた。人型の白い球体の体に、繊維質の束のような関節、顔らしき部分には金色の長方形のプレートに溝が15本くらい彫られている。まるで、球体の人形のようだった。それが、東京タワーの近くに聳え立っている。
無言のまま。
 そして、それは無言のまま彼ら15人をそこに吸い込んだ。オレンジ色の壁でドーム型の空間に椅子が円形に並べられていた。15人は、ちょうどその椅子を囲むような形でその場に立っていた。
だが、その場にいたのは15人だけではなかった。その15個の椅子の一つに見覚えのある男が座っていた。30代前半の丸眼鏡をかけた学者風の男、15人を博物館で案内したあの男だった。その男は、深く深呼吸して、集められた15人に
挨拶をした。
 「……おはようございます」
 「持田……さん……? 」
 佐古田の弱弱しい問いかけを無視するかのように、椅子が全て宙に浮き、ドームの色が前方から消え、街の風景を映し出していた。だが、また一つ違った風景も映し出していた。目の前に、黒い金属のようなものでできた何かが、そこにあった。
 「さぁ、始まりますよ。ゲームを」
 彼らの運命は、ここから狂いだす。


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