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ぼくらの〜それでもゲームは終わらない〜 第二話「名倉義勝」
作者:nasubi   2013/05/28(火) 09:54公開   ID:vTzT7IJMLOA
「あんた一体、どうゆうつもりだよ! 何なんだよここは! 」
 呆然と立ち尽くす15人の沈黙を破ったのは牧田だった。彼は持田が座っている椅子の近くまで詰め寄り、大声を張り上げた。
 「言ったでしょう。ゲームですってば」
 持田は首を左右に勢いよく傾け、首の骨を鳴らし、真正面を見据えた。
 「よく見といてください。これからあなた方が戦う敵です」
 持田はしばらく真正面を見たままだったが、やがて、持田と15人が乗るそれは、ゆっくりと動き始めた。
 「動いてる……、何が始まるんだ? 」
 斉田が呟くのとほぼ同時だった。向かい側にいたそれも、ゆっくりと静かに動き始めた。鉄のローブをまとった様なそいつは、こちらを真正面に見据えながら近づいてくる。
 「あっちも歩き始めたぞ」
 小森は驚きの声をあげた。両者とも足音を立てながら一歩、また一歩と近づく。コンクリの粉や粉塵が、足を踏み出すごとに舞上がっている。
 「にしても、動きとろいな」
 榎戸がその場の空気に合わない言動を言ってのけたが、誰も返事をしなかった。その代わりに、持田がそれに答えた。
 「だが、コイツは強い」
両者が最近距離まで近づくと、お互いに腕を振りかざした。振り下ろした腕はわずかに持田が動かしているそれの速度のほうが速く、相手の胸に激突した。激しく火花を散らし、音を立てて敵は
バランスを崩して倒れた。
 「倒したのか!? 」
 「いや、まだだ! 」
 驚嘆の声が上がるも、持田はそれを間髪を入れずに否定した。
 敵の正面にある鉄のローブが上に開き、何かが勢いよく出て持田の動かすそれを捉えた。敵の腕はしっかりと胴体を捕え、メキメキと音を立たせていた。
 「まだ生きてる! 」
 「隠し腕か」
 敵は空いた腕で体勢を立て直し始めた。だが、腕が空いているのは敵ばかりじゃない。それは再び右腕を振りかざし、今度は相手の隠し腕を打った。相手は支えを失い、再度倒れる。
それを敵に近づけさせ、馬乗りになって胴体を三度叩き始める。激しく火花を散らし、何の抵抗も出来ぬまま敵はされるがままである。終始、敵を打ちつけると、今度は
打撃によって外れかかったローブを一枚ずつ丁寧に左手で剥がしていく。すると、胴体の中心部に蓮の花の蕾のような丸いものが見えてきた。
 「こいつを潰せば、こちらは完全に勝ちだ」
それを左手に取り、自分のところに引き寄せる。その蕾に握力を加えると、見事に潰れた。同時に、今まで全面に映し出されていた街の画像が一気にオレンジ色に染まり、15の椅子が降りてくる。
 持田は俯いたまま黙っている。持田に事の次第を問いただそうと近づいた牧田に、持田は自ら視線を向けて牧田の叱責を制す形で、疲労を感じさせるようなような声で話し始めた。
 「これから、あなた方のところに15体の敵が現れます。それを順次倒していってください。パイロットはアトランダムに決まりますから順番は決められません。パイロット一人に付き敵は一体。それから勝敗は先ほどお見せしたように敵の体の中にある
核を潰すか完全に破壊すること。2日以内に決着をつけること。後の細かい説明は、後日ナビゲーターが来るのでその説明に沿っていってください」
 「おい、あんた何を言って……」 
 「悪く捉えないでください。……あなたがたはチャンスを得た」
 頭を擡げていた持田は、一言呟いた。瞬間、15人は再びブラックアウトする。




                              ***




 
 
 遠くから妻が私を呼ぶ声が聞こえて、かすかなコーヒーの匂いを感じながら目覚める。いつもはそうだ。だが今日は違った。もう朝の7時半を回っていたのに、私はスーツ姿で出勤する準備をする合間に二度寝をしていたらしい。
当然、出勤しなければならない時間帯になるのに寝ている私を、妻は甲高い声で私を呼んだ。
 「あなた、ご飯食べたあとにまた寝ないでください! 今日も学校があるんでしょう? 」
 ドスドスと床の間を踏みしめる音が近づいて、しわの寄った顔が険しい表情で私の顔を覗いていた。妻の険しい顔を見たが無視して、何も言わずにむっくりと起き上がった。
 「もう行きます? 」
 「あ? ああ、わかった行くよ。私が遅刻してしまう」
 私はネクタイを改めてキュッと締めて、鞄を取った。築30年の我が家の軋む廊下を歩きながら玄関口へ向かった。革靴を履きながら私はドアを開ける。
 「今日はそんなに遅くならないから」
 私は素っ気無く妻に言うと妻は頷いた。
 「わかりました。帰るときに連絡してください」
 「ああ、わかったわかった」
 私は家を後にした。
 道はまだ早朝ということもあって閑散としていて、見かけるのはもっぱらスーツ姿のサラリーマンや学生だ。わき目も振らず、ただ目的地に向かって歩いている。私も、彼らに倣って足早に学校に向かうことにした。
 だいたい、8時過ぎを回ったところか。中学の校門には多くの生徒が入って行っている。彼らに混じって私も校門に入って職員室に向かっていると、男子生徒が二人走りながら通り際に声をかけてきた。
 「名倉先生おはようございます! 」
 「やぁおはよう。今日も元気だな」
 バタバタと走っていく彼らの後姿を見て、子供は元気なのが一番良いと思いながら、正確に今の時間を確認するために腕を出して腕時計に目をやったが、私は自分の腕にその目を疑った。
 「なんだ、これは」
 左腕には紫の奇妙なあざができていた。私は、あざができるほど動き回ったりなどしないのに、おかしいなと思った。
 職員室に入ってみると既に各学年の担任教師がデスクワークをこなしていた。プリントを印刷したり、小テストの採点をしたりと慌しく動いている。その中の教師の一人が私を見るなり元気よく声をかけた。
 「おはようございます、教頭先生」
 「おはよう」
 声をかけてきた中年の女性は、私と10年来の付き合いになる江川先生だ。教職員組合の元組合長をしていて、私の印象ではここの教師の誰より熱心な指導をしているように思える。いつも声をかけられる度に
そんな百戦錬磨の気風を感じさせた。
 私は席に座り、荷物を降ろしたか降ろしていないかのタイミングで江川先生が私のところに寄って来るなり朝の朝刊、いやちがう、号外を差し出した。そこには、見覚えのあるものが写っていた。私はそれを見た瞬間二度見した。
 「今朝得体の知れないロボットだか怪獣だかが東京に現れたそうですよ。世の中わからないことだらけ……」
 江川先生はこれを見せるためにわざわざ近づいたのか。それはともかく、私の意識はそれに集中していた。球体の白い体をしたあのロボット。間違いない。夢じゃなかったんだ。




                              ***


 人間は往々にして自らの想定する範囲外のことを目の当たりにすると、取り乱しすらしないのではないか? 現に私はこのことに関して何を思い、何を感じれば良いのか分からなかった。実際、私は今日一日をいつも通りに過ごした。朝の職員会議は普通にこなしたし、
遅刻した生徒の生活指導も行ったし、社会化の授業では生徒に嫌がられる恒例の抜き打ち小テストを行った。そう、いつも通りだ。そして、私はいつもの放課後を迎える。
 放課後の学校とは、とても絵になる。夕暮れ時に夕日が校舎を茜色に染める。部活も何もかもが終わって静かな学校。私は、今日一日の締めくくりとして軽く残業を行いながら時折窓の外を見ていた。だが、私の体は気が付くと軽くなった。そう思ったのと同時に、先ほどまで見ていた夕暮れの情景が
いつの間にか消え、オレンジ色のドームに変わっていた。
 私の周りにも人がいた。前にも会ったな。それはあの科学館にいたメンバーだった。今朝会ったばかりだ。彼らも今自分が置かれている状況を理解できていないらしい。必要以上にキョロキョロとしていて落ち着かない。私も彼らに倣って周りを見渡してみるも特に変わったところは無いと思っていたが、今朝には無かったものが
ドームの天井に浮かんでいた。
 「……あれは? 」
 私が指差すと他の面々もその方向に顔を向けた。
 「あれって、物じゃないんですけどね一応。ええ」
 私は指を指したまま、腕を下げるのを忘れた。
 「今、誰が喋った? 」
 疑問の声が挙がるも、今いる面々の中の誰でも無さそうだ。それもそのはずだ。私の耳が正しければ、その声は上から聞こえたからだ。
 「まぁ、無理も無いかな」
 その物体は音も立てずに下に降りてきた。私は後ずさりした。
 それは、大きな頭の熊の縫いぐるみのようだった。口が大きくて、それに不釣合いな細い胴体。何かのマスコット人形のようだった。
 「……」
 「あなたがたがパイロットですね。ほぉ、なるほど。世代はバラバラか。ツアー客を集めるとはね。ええ」
 その縫いぐるみは一人でペラペラと喋っていたが、何か会話の糸口が欲しくて、私は声を発した。
 「あの、何の話ですか? ちょっと、我々もよく言ってる意味が……」
 その縫いぐるみは私の顔のすぐ目の前まで近づいた。
 「今日やりましたよね。朝一番で。あなたがたはパイロットなんだから、あれをやるんですよ? 」
 「あれ、ですか? 」
 はぁとため息を吐きながらその縫いぐるみは再び天井の高いところまで飛んでいった。
 「鈍いですね。あれって言えば今朝の戦闘のことですよ? 第一、あなたがたがやるって言って契約したんじゃないですか」
 遠慮気味に、佐古田さんとかおっしゃる女性がその縫いぐるみに言った。
 「契約って、持田さんが言ってたゲームの契約のことですか? 」
 「持田……、そうです。彼に従って、あなたがたは契約をした」
 「ってことは、今朝のあれは、本当の出来事だったのか!? 」
 私の周囲の人間はどよめいたが、その縫いぐるみは咳払いをして注目させた。
 「持田も言ったかもしれませんが、敵は15体これから現れますが、これを倒してください。一回の戦闘で敵1体につきパイロットは1人、この中からアトランダムに選ばれます。もう持田の番は終わってるからもう次のパイロットにお呼びがかかってると思いますが……、
心当たりのある人は? 」
 私は、腕のあざのことを思い出した。
 「は、はい。私は腕に紫のあざが」
 縫いぐるみはほほうと言って私の腕に近づいた。
 「じゃぁ、次はあなただね。ええ」
 「わ、私? 」
 「そうです」
 縫いぐるみはまた宙に浮いた。 
 「ついでに言っておきますが、パイロットに選ばれると必ず自分が戦わなくちゃいけませんし、敵が現れる日がいつになるのかは予測できませんので」
 「なんだよそれ」
 「たかがゲームだろ。その気になれば止めればいいじゃん」
 ボソボソと話し声が聞こえたが、私はもっと基本的なことを聞かなくちゃいけないと思って、再び質問した。
 「あの、あなたはそもそも何者ですか? 」
 「私ですか」
 縫いぐるみはゆっくり降りてきた。
 「私はコエムシとでも呼んで下さい。あなた方のサポーター役です」
 コエムシとか言うその縫いぐるみは天井をグルグル回りながら言った。
 「まぁ、追々いろいろとアドバイスをしなくちゃいけませんからよろしく」
 するとコエムシはピタッと止まってそうだあれ聞こうか、と独り言を言った。
 「名前と顔が一致しないから、自己紹介してもらえますかね。ええ。まずそこの縞ポロシャツの方から」
 「えっ、僕ですか? えっと、江西武彦です」
 「加瀬清隆、大学生です」
 「榎戸純也。医者」
 「小森勇樹。デザイナーをしてます」
 「小森和枝です」
 「三枝玲子」
 「斉田功っす! 」
 「佐古田玲奈、大学生です」
 「更科真紀です。中学生です」
 「根岸輝夫です」
 「牧田創一」
 「鹿島啓です」
 「塩田霞です」
 私の番だ。
 「私は名倉義勝。中学の教師をしてます」
 「あっ、あたしだ。町洋子です」
 「……町洋子、ですか」
 「なっ何よ」
 コエムシはふふんと鼻で笑った。
 「なるほど。あなたはそうゆう星の下に生まれたんですね。ええ」
 コエムシは再び我々のところに降りてきた。
 「名倉さん、いつ敵が来るかわかりませんのでどうか覚悟、していてくだい」
 「はっ、はぁ……」
 私は、生返事をした。

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