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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第28話:六陣営会談・覇
作者:蓬莱   2013/04/28(日) 19:17公開   ID:.dsW6wyhJEM
様々な波乱を起こしながら、ヴェヴェルスブルク城にて六陣営会談が開かれようとしていた頃、もはや誰も居ない筈の発電所から出てくる、その姿から青年と思しき人影が有った。

「―――佐の読み通りでしたね。あの施設の設備を見る限りじゃ、今はもう囮兼物置小屋程度の用途にしか使っていそうにないですね」

青年は小型の無線機を片手に持って、発電所内にあった設備ついての事を話しながら、無線機越しにいる相手へと簡単に報告した。
実際、青年の言葉通り、重要度としてはかなり低いのか、発電所内にあった設備の大半が簡単なメンテナンスはしてあるもの、機材の大半は真空管を使用した年代物で、それもかなり老朽化している状態だった。

「それにしても、まさか、魔術協会と聖堂教会の監視下で、あんなド派手な事するなんて思っていませんでしたけど」

とここで、青年はふと先ほどまで骸骨で出来た城―――ヴェヴェルスブルク城が浮かんでいた夜空を見上げながら、半ば呆れたように苦笑した。
いくら、他のマスターやサーヴァントを呼びつける意図があったのだろうが、ともすれば、魔術の秘匿を重んじる魔術協会は当然の事、隠蔽工作に奔走する聖堂教会を敵に回しかねないほどの暴挙だった。
実際、冬木教会に残った璃正神父が、ヴェヴェルスブルク城が消えた後、人手の少ない中で、急いで各部署へ連絡を取りつつ、この一件に関する隠蔽工作に奔走していた。

「えぇ、それでは、引き続き任務を継続していきます。それにしても―――」

やがて、青年はいくつかのやり取りした後、報告を終えようとして、ふともう一度、もはやヴェヴェルスブルク城の消えた夜空を見上げながら、独り言のように呟いた。

「―――あの城で何を話し合っているのでしょうね」



第28話:六陣営会談・覇



「なるほど…いやいや、万能の願望器をいかなる理由で求めるかと思えば、大半のマスター達に関しては些か凡俗に過ぎるというものか」
「いや、あんたらみたいな重度の厨二病患者が言えた義理じゃねぇだろ」

自分から聞いといて、開口一番それかよ!?―――各陣営のマスターから聖杯を求める動機を聞き終えたメルクリウスの失笑交じりのウザーい言葉に、各マスターたちは思わず顔を顰めながらそう思った。
もっとも、銀時からすれば、厨二病的な願い事を叶える為とはいえ、それで人間を止めてしまった連中も充分過ぎるほど問題があるようにしか思えなかった。

「んじゃ、こっちは頼んだぜ、セージュン」
「私で本当に良いのか? 仮にも、マスターである時臣の手前で、私が出しゃばるのは…」

銀時が変質者の言動に色んな意味で呆れている一方、アーチャーは、正純に六陣営会談での交渉を任せようとしていた。
一応、交渉事を担当していた自分が適任であるのは理解していたものの、正純としては、正式なサーヴァントでない自分が代表としてふるまって良いモノなのか戸惑いを隠せないでいた。

「いや、むしろ、私としても望むところだ。この会談において、君ほど信頼できるサーヴァントはいないと思っているつもりだ」
「…了解した、マスター」

とここで、先ほどから用意された胃薬を大量摂取していた時臣が、正純にこの場を一任しようとした。
もっとも、時臣としては、狂化スキルでもあるかのように言動の読めないアーチャーよりも、武蔵勢の中で比較的常識人な正純の方がまだ胃に負担を掛けなくて済むという切実な理由があったのだが。
もはや、片時も胃薬を手放せなくなった時臣を見て、正純は、自分がやるしかないと決意を固めながら頷いた。
そして、アーチャーはそれを見てウンウンと頷き―――

「んじゃ、いつでも、戦争のできるように準備しておくぜ、セージュン。」
「ホライゾンも、正純様が大好きな戦争に持ち込めるように期待しています」
「どういう期待だぁ―――!?」
「…」

―――ホライゾンと一緒になって親指を立てながら、良い笑顔でとんでもない事―――六陣営会談で決裂した場合の用意をしている事をぶっちゃけった。
正純は、何かを期待するように視線を送るラインハルトをスルーしつつ、すっかり、武蔵勢から自分の事を戦争好き(ウォーモーガン)認定されている事に納得できずに抗議のツッコミを入れた。
あぁ、やっぱり、彼女も普通じゃなかった―――時臣は次々と自分の胃に穴が開くのを実感しながら、遠い目でそう思った。

「まぁ、俺は色々と腹の探り合いとか苦手だから、単刀直入に言わせてもらうぞ。俺たちの目的は第六天を討つことだ。そのために、この場にいるマスターとサーヴァントの力を借りたい。その代り、俺たちは第六天を討つまでの手段を教えてやる」
「…もし、それを断った場合はどうなるのかしら?」

とここで、蓮は、少々強引ではあるものの、これ以上好きにさせると話が進まないと思い、話を進める為に、ひとまず、一石を投じることにした。
そして、蓮は、少々威圧的な態度で、六陣営会談に参加したマスターとサーヴァント達に、自分たちの目的と協力要請、協力に対する見返りについての話を切り出してきた。
これに対し、アイリスフィールは、蓮の、その余りにもあからさまな上から目線の言葉にムッとしながら、相手のプレッシャーに飲まれまいと反撃に出た。
蓮に負けじと、女帝さながらの毅然とした態度で臨んだアイリスフィールであったが―――

「…あんたらがこの提案をのめない場合―――俺たちは、即座に第六天の願いを叶えるのを阻止する為に、第六天に聖杯を使わせないように、聖杯もろとも聖杯の担い手―――アイリスフィールを破壊するつもりだ」
「えっ…!?」

―――蓮の、罪人の処刑を執り行う死刑執行人のような冷めた視線と共に告げた言葉に思わず息をのんだ。
断じて冗談や脅しの類ではない―――蓮の偽りなき覚悟を秘めた処刑人を思わせる視線から、そう直感したアイリスフィールは、まるで処刑台を前にした罪人のように思わず身震いするとともに、その顔を青褪めさせた。

「おいおい…何、いきなり物騒な事言い出してんだよ、フラグ乱立しまくりの女顔の兄ちゃん」
「落ち着けよ、天パ。後、フラグ乱立ってのは、ともかく、女顔は止めろって言ってんだろ。あくまで、今、俺が言ったのは、あんたらが協力しない時と、本当に打つ手が無くなったときの最後の手段だ。とりあえず、あんたらが第六天を倒すに値しないと判断してからでないとな」

とここで、事の成り行きを見ていた銀時は、ほとんど脅し同然の言葉でアイリスフィールを黙らせ、一方的に要求だけ押し付けてくる蓮の態度が気に入らなかった―――見れば分かるような、あからさまに悪役を演じていたとしても。
そこで、銀時は、蓮の痛いところを突きつつ負けじとふてぶてしい態度を取りながら喰って掛かった。
人の気にしている事を平気で踏み込む銀時に、蓮は少しだけ頬をひきつらせたが、あくまで悪ぶった態度のまま、淡々とした口調で言葉を返した。
蓮としては色々と言い返したいこともあったが、ここでむやみに感情をさらけ出すように反論すれば、また、外道共に弄られまくるという悪循環が始まるのは目に見えていたので我慢するしかなかった。

「到底理解できないな…君達がバーサーカーに聖杯が渡るのを危険視しているのか。なにより、聖杯戦争の進行に支障をきたすような真似する必要があるとも思えないが?」
「それだけ第六天が危険な奴ってことだよ。ま、あんたみたいに、未だに理解できてないような奴がいるから、あんな手段を取らざるを得なかったんだけどな」

この一連のやり取りに見た時臣は、些か呆れた様子で、聖杯を破壊してまでもバーサーカーに聖杯を使わせまいとする蓮の態度に眉をひそめた。
冬木の土地を管理する時臣からすれば、確かに、バーサーカーは危険なサーヴァントではあるが、衆目に魔術の秘匿を曝すという暴挙をしてまで各陣営の協力を強制するほど、過剰な警戒をすべき脅威だとは到底思えなかった。
だが、そんな時臣の指摘に対し、蓮は、その時臣のようなバーサーカーに対する認識こそが、あのような手段に打って出ざるを得なかった理由なのだと、この場に居る全員にむけるように切り返した。
この蓮の言葉に、会談の場から、徐々に剣呑な雰囲気が漂い始めようとした時―――

「待て」

―――その俄かに殺気立ち始めた空気を断ち切るかのように、武蔵副会長である本田・正純の声が会談の場に響いた。
その正純の声を聞いたラインハルトは、正純が制止の言葉を発した意図―――こちらに対してというよりも、自分の見解をまとめる時間を得ようとする為である事を理解した上で、この六陣営会談の戦場に参戦し始めた正純が、この場に居るマスターらに比べ、中々に手堅い相手だと思った。
さらに、こちらに対する警戒心を隠さないように、正純は浅く立った眉をこちらに向けていた。
恐らく、正純は、これまでの蓮の不遜な申し出や一方的な要求は受け入れないというジェスチャーを、蓮らに示しているのだろう。
もし、出来る事なら、我が軍門に加えたい人材であるのだがな―――ラインハルトはそう考えながら、残念そうに軽くため息つくとともに微かに苦笑した。

「何かな、本多・正純殿? あぁ、愚息の、時臣殿に対する無礼についてならば、許されよ。ただ、愚息の言葉もあながち的外れでもない故に悪しからず」
「それについては残念ではあるが、私も同意見だ。実際のところ、倉庫街での一件を見ただけでも、アレが次元違いの強さである事は紛れもない事実だ」
「ふむ、それで…?」

この正純の発した制止の言葉に、メルクリウスは、何時ものごとくウザ…芝居がかった口調で、正純に自身の愚息―――蓮の非礼を詫びながらも、蓮の言った事も間違いではない事を告げた。
これに対し、正純は、メルクリウスに色々とウザいと思いながらも、蓮の指摘も一理あるという、メルクリウスの意見に同意せざるを得なかった。
実際、正純も倉庫街での戦闘を直接見たわけではないが、セイバーら5体のサーヴァントを圧倒したことやアーチャーの召喚した面子の中で主戦力である本多・二代、ネイト・ミトツダイラ、キヨナリ・ウルキアガ、伊達・成美の4名を容易く戦闘不能に追いやった事は紛れもない事実だった。
しかも、バーサーカーは、セイバーやホライゾンの放った対城クラスの宝具を受けても無傷というのだから、正純もバーサーカーの次元違いの強さを認めざるを得なかった。
そんな正純の言葉に、メルクリウスが話の続きを促すと、正純は、警戒を示した表情のまま、Jud.と応じながら話を続けた。

「…私たちは、そもそも、バーサーカーの真名どころか、サーヴァントとしての能力についてさえ、何一つ分かっていないのが現状だ。そんな状態で、ただ、一方的に、こちらに協力しろというのは無理な話だ」
「ほう…では、卿は我らに何を望むのかな?」

正純は、自分を含めた各陣営のマスターやサーヴァント達がバーサーカーに関する情報について何一つ持っていない事を告げ、そのような自分たちに不利な状態のままでは、蓮の協力要請に応じさせるのは、余りにも一方的すぎると指摘した。
なるほど、中々に堅実な交渉役だ―――ラインハルトは、手堅く慎重に事を進めつつ、あくまで対等な立場での協力関係を築こうとする正純に高く評価しつつ、そう思った。
事実、生前において、アーチャー達の国である武蔵は、周りが敵ばかりという四面楚歌の状況に置かれていた。
そのような状況であるからこそ、交渉役の長である副会長の正純が持つ堅実さと慎重さによって、武蔵という国が成り立つことが出来たのだ。
やがて、ラインハルトに促された正純は一呼吸おいて、思考にわずかな間を空けてから、蓮達に対する自分たちの要求を告げ始めた。

「まずは、あなた方がバーサーカーと敵対行為を取っている理由の説明をしてほしい。次に、仮に私たちが、そちらに協力した場合に起こり得るメリットの提示を。そして、最後に―――」

正純は、まず、蓮達が何故召喚者であるバーサーカーと敵対している理由を、次に、バーサーカー討伐に協力した場合に於ける正純らのメリットに関する事柄についての説明を要求した。
そして、正純は最後に―――

「―――バーサーカーの、あなた方が第六天と呼ぶサーヴァントの正体を聞きたい」

―――いずれ闘う事になるであろう、蓮達が第六天と呼ぶバーサーカーの正体についての情報の開示を求めた。

「…多少、順序は逆になるが構わないか?」
「あぁ、分かった…それで、何から話すつもりなんだ?」

この正純の要求を聞いた蓮は、桜を助ける為に事を急ぎ過ぎた自分の不手際を感じ、罰悪そうに頭をかきながら、多少話の順序を変えつつも、正純の出した3つの要求について受け入れることにした。
ここまでは何とか上手くいったか―――正純は話の続きを促しつつ、態度を軟化させた蓮を見て、どうにか対等な立場でのやり取りが出来るまでにこぎつけた事にそう安堵していた。
正直な話、正純としては、蓮達が強引に自分たちの要求を力技で押し通してくる可能性もあったので、この交渉の間、内心冷や冷やしていたのだ。
そんな正純の内心を知る由もない蓮は、この会談に参加したマスターやサーヴァント達を見据えるように告げた。

「お前らの討つべき相手―――第六天、歴代最強最悪の理“大欲界天狗道”の主である極大の下種“第六天波旬”についての全てをだ」

―――“第六天波旬”という名を!!


“第六天波旬”―――別名:第六天魔王と称し、他化自在天と呼ばれる欲界の頂点を支配する魔王の名が出てきたことに、会場は俄かにどよめきたった。

「第六天波旬…そいつがバーサーカーの真名なのか…」
「…よもや、信長殿と縁があるわしが、本物の第六天魔王を相手にせねばならんとわな」
「何や大仰な名前やんけ…なら、わしがそいつ倒したら、大魔王真島でも名乗ったろかのう」
「…マスターの場合、普通なら冗談で済む事が、冗談に聞こえんのだが」

バーサーカーの真名を聞き、英国人であるウェイバーは、その余り馴染みのない、聞き慣れないバーサーカーの真名を口にし、思わず咽喉をのんだ。
その傍らで、ライダーは、かつて、戦国時代に於いて第六天魔王と自称し、殺戮と恐怖で以て世を支配しようとした男を思い出しながら、重々しげに呟いた。
そんな重苦しいライダー陣営に対し、真島はバーサーカーの正体が正真正銘の魔王であると知り、マスターである真島の戦闘狂振りに呆れるキャスターを尻目に凶暴な笑みを浮べて軽口を叩いていた。
とここで、バーサーカーの真名を聞いた時臣から“待ってほしい”という声が生じた。

「…あり得ない。本来、サーヴァントとは英霊を聖杯の持つ膨大な魔力によって現世に召喚したものだ。第六天魔王という神格クラスの神霊がサーヴァントとして召喚されるなど絶対に有り得ないはずの事だ」

未だに信じられないという表情を浮かべながら、時臣が、バーサーカーの正体が“第六天波旬”である事を明かした蓮達に異を唱えるのには理由が有った。
そもそも、ヘラクレスやクーフーリン、ギルガメッシュのような神と何らかの血縁関係にある英雄がサーヴァントとして召喚された場合は、保有スキルに“神性”スキルが追加される事で召喚される事はある。
だが、“第六天波旬”は正真正銘の魔王であり、間違いなく神霊として分類される存在である。
そして、それがサーヴァントとして召喚されるなどあり得ない事であり、その事について、時臣が疑問の声を上げるのも無理はなかった。

「あぁ、その事に関しての質問に答える前に、君達には、我らの世界に於ける“座”についての説明が必要となってくるのだがよろしいかな?」
「…了承しよう」
「確かに、その方が良いか…私達以外では、まだ、説明を受けていないはずだからな」

しかし、メリクリウスは、色々と事前説明が必要なので、時臣の疑問については後回しにし、先に自分たちの世界に於ける“座”についての説明をしていいか尋ねてきた。
“どうにも好きにはなれないな、この男”―――心の中でそう思いながらも、ここで事を荒立てるのは得策ではないと思った時臣は渋々メリクリウスの提案を呑むことにした。
事前に説明を受けていた正純もメリクリウスの提案に頷くと、銀時らが精神世界での一件において受けた、戒の説明について思い出していた。

「それって、確か、第一天のねーちゃんの精神世界で説明していたやつだよな。ネシンバラみたいなのが痛神様になれるんだよな?」
「Jud.確か、ホライゾンの記憶が正しければ、戒様のいた世界における“座”とは、どうにもならない現実から逃避した末期的厨二病人間の脳内妄想を世界規模で叶える代物だったと記憶しております」
「まぁ、覇道神とかって大仰な名前が付いてるけど、やっていることは自分の脳内妄想で世界を染める事だしよぉ。ぶっちゃけ、一般社会的に言えば、どうしようもない痛い駄目人間だよな」
「そもそも、面子が、あのメンヘラとか、ここの戦争狂とか、あそこの変質者…人格に問題のある奴しかいないわね」
「「「「うわぁ…」」」」

―――比較対象として身内の厨二病作家を引き合いに出すアーチャー。
―――口調は淡々としているが、これでもかと毒舌スキルを発揮するホライゾン。
―――今更ながらに、その歳で末期的な厨二病連中かよと呆れる銀時。
―――色々と人間的に問題のあるメンバーを挙げて、明らかに小馬鹿にした態度を取るセイバー。
戒から説明を受けたメンバーは、“座”に対する理解の仕方としては正しいが、その余りにも身も蓋もない外道的感想を各々の言葉で口にした。
“い、痛すぎる”―――銀時らの感想を聞いた一同(ライダー、ランサー、真島、キャスターを除く)は、そう心の中で思いながら、己の脳内妄想で世界を支配した厨二病すぎる神様たちから一斉にドン引きした。

「…確かにその説明でも間違っていないけど、お前ら、毒舌に容赦が無さすぎるだろ!! そんな言い方すると、俺はともかく、マリィが落ち込むだろうが!!」
「私って、そんなに痛いのかな…」
「大丈夫です、マリィ御姉様!! 痛いどころか、むしろ柔らかいくらいですから!!」

銀時らの情け無用とばかりに突っ込んでくる駄目出しの嵐に、蓮は挫けそうになる心を奮い立たせながら、自分はともかくマリィまで痛神扱いしたことに抗議した。
一方。これには、さすがのマリィも堪えたのか、膝をついて、キャスターのフォローになってないフォローを受けつつ、ガックリと落ち込んだ。

「まぁ、銀時殿らの説明で大体理解してもらえれば構わない。そして、我らの世界に於いての歴代の覇道神は、私やこの場に居ないものを含めて全部で9柱。もっとも、“黄金の獣”と“永遠の刹那”については例外で、少々特殊な事情があるのだが」

そんなドン引きする連中の視線を受けつつ、メルクリウスは、落ち込むマリィにハァハァしつつ、座に関するある程度の説明の手間が省けたので、歴代の覇道神ついての説明にうつる事にした。
今回、バーサーカーによって、すでに退場した“堕天奈落”と“天道悲想天”を含めて全部で7柱の覇道神が疑似的なサーヴァントとして召喚されていた。
現在までに、ここに残った覇道神は全部で5柱。
己が独善を守るために全ての人間を善と悪に分けた世界を生み出した第一天―――第一天の理“二元論”。
愛する女の為に、己の納得できる結末を求め、何度も同じ生を繰り返す世界を生み出したメルクリウス―――第四天である水銀の蛇の理“永劫回帰”。
メルクリウスの自滅因子としての破壊の業を背負いながら、全てを愛する事を求め、己が愛によって破壊したモノ達を戦奴として蘇らせる世界を生み出さんとしたラインハルト―――第四天裏存在である黄金の獣の理“修羅道至高天”
覇道神同士を共存させる覇道共存の能力を有し、全ての人間が幸せになれるように求め、女神の抱擁と共にある輪廻の中で、いつか幸せになれる事を約束された世界を生み出したマリィ―――第五天である黄昏の女神の理“輪廻転生”
愛すべき一瞬を永遠に味わいたいと求め、永遠に時の止まった世界を生み出した蓮―――第五天の守護者である永遠の刹那の理“無間大紅蓮地獄”
そして、覇道神となった者が、己が渇望によって世界を塗りつぶす際、それを可能とする“座”を治める為に避けては通れない一つの問題が有った。
それは、世界を塗りつぶすという“座”の性質上、原則として、覇道神は一人だけしか存在できない為に、既存の覇道神と新たな覇道神との間で殺し合いが発生してしまうという事だった。
それ故に、蓮達の世界では、新たな覇道神が生まれるたびに、既存の覇道神との“座”を巡って争い、神の交代劇―神座闘争を繰り返しながら、悠久の時を経て、連綿と世界を紡いできたのだ。
とここで、メルクリウスの説明を聞いていたホライゾンは、ウンウンと頷きながら―――

「なるほど…つまり、皆様方の世界では、末期的厨二病患者同士の不毛な脳内妄想合戦を繰り返していたという訳ですか」
「ちょっと色々と文句はあるんだけど、大体あっているから言い返せねぇ…」

―――自分なりに神座闘争を簡単に解釈しつつ、さらりと毒舌スキルを発揮した。
何で、この機械娘は、俺たちを執拗に駄目人間認定してくるだ!?―――蓮は、ホライゾンの毒舌ぶりにそう思わずにはいられず、それでも弄られまいと、何とか我慢しつつ、思いっきり顔を引き攣らせた。
だが、残念なことに、ホライゾンの解釈でも大凡間違ってはいないので、蓮は何も言えなかった。

「そして、その座の歴史において六番目に誕生した覇道神が、歴代の座に於いて最悪の天―――第六天波旬という下種なのだよ」
「あれも神様って訳なのかよ…とんでもねぇ邪神じゃねぇか」
「…いや、ちょっと待てよ」

そして、メルクリウスは、六代目の覇道神である第六天波旬の名を口にした際、嫌悪感を隠すことなく吐き捨てるように言った。
色々ととんでもない化け物とは思っていたが、バーサーカーがまさかの神様だったことに対し、銀時は、倉庫街で遭遇したバーサーカーの言動を思い出しながら、うんざりした表情でぼやいた。
とここで、倉庫街でのバーサーカーの言動を思い返していたウェイバーが、銀時らの語った覇道神についての説明では説明のつかない、バーサーカーのある矛盾に気付いた。

「なぁ、ちょっと聞いてもいいか? あんた達の説明だと覇道神ってのは、自分の渇望を外、つまり世界に向けて塗り潰すもんなんだよな?」
「そうだが…あぁ、なるほど。つまり、君はこう言いたい訳だね。何故、一人になりたいという第六天波旬が“座”を支配する存在になりうるのか?」
「確かにそうだね。今の説明を聞く限りでは、“座”を支配できるのは覇道神だけ。でも、第六天の渇望が一人になりたいという渇望だって言うなら、それは自分に向けた渇望―――求道のはずだよね」

何やら慎重そうに質問するウェイバーに対し、メルクリウスは、いつもの様に芝居がかった口調で、ウェイバーが抱いたとある疑問について思い至った。
すなわち、なぜ、独りになりたいという内に向けた渇望を持つ波旬が、己が渇望を以て世界を塗りつぶす事の出来る“座”を支配できたのかを。
必死になって解説役ポジションは譲るまいと、頼んでもいないのに出しゃばるネシンバラの言うように、本来、“座”を支配できるのは、外に向けた渇望を持つ覇道神だけである。
さらに付け加えるなら、“座”を巡る闘いに於いて、魂の総量よって勝敗を決する為に、魂の総量で劣る求道神が覇道神に勝つことなど不可能と言ってもいい。
だから、独りになりたいという内に向けた渇望―――求道の性質であるはずの波旬が“座”を支配する事など不可能である筈なのだが…

「中々に良い着眼点というべきかな。そう、普通ならば、第六天の渇望は求道のもの。だが、第六天の場合は、ある事情により、求道であるはずの渇望を覇道の域へと変える事で歴代の覇道神を凌駕する次元違いの力を得た」
「求道を覇道にって…どうすれば、そんな事にな…あ!?」

これに対し、メルクリウスは、この矛盾に気付いたウェイバーの洞察力を評価しながら、波旬が求道の渇望から覇道の渇望へと変える事で、“座”を支配できるだけの力を得た事をあっさりと明かした。
このメルクリウスの話を聞いたウェイバーは、独りになりたいという求道の渇望をどうすれば覇道の渇望に変えられるのかしばし思考を巡らせた。
そして、決して考えるべきではない、求道の渇望を覇道に変える事が可能になる一つのある考え方に辿り着いた瞬間、ウェイバーは思わず言葉を失うほど、激しく動揺した。
それは決して珍しい事ではなく、誰もが一度は考える当たり前の、それでも本気で願う事などあり得ない考え方だった。

「…よろしいでしょうか?」

その最中、ホライゾンはしばし何かを考えた後、軽く頷きながら徐に手を上げた。
また、余計な事を口走るのではないかと心配する時臣(胃薬5瓶目突入)のよそに、ホライゾンは、ホライゾンの発言を促すように頷くラインハルトに応じ、それならばと前置きを置きつつ言った。

「ホライゾンとしてはこのような考え方はあまり好きではないのですが…もし、本当に一人になりたいのであれば―――」

そして、ホライゾンは、自動人形であるが故にすぐさま導き出せた自身の思い至った考え―――

「―――自分以外誰もいなくなればよろしいのではないでしょうか?」
「ちょ、おま…!?」
『確かに当たり前と言えば、当たり前の結論だが…』

―――求道である波旬が覇道神となり得る一つの考え方を蓮達の様子を窺うように口にした瞬間、会談に参加した全員が、ホライゾンの告げた言葉に寒気を感じた。
その余りにも終わっているとしか思えない思想に、銀時やアラストールが、ホライゾンの言葉に戸惑うのも無理は無かった。
独りになりたいから邪魔な他人は消えて無くなれ―――確かにそれならば廃絶という形ではあれ、覇道の渇望として機能できるだろう。
だが、それは誰しもが一度は思う事はあれども、決して本気で願う筈のない渇望だった。

「馬鹿な!! そのような下らない願いだけで、あのバーサーカーは、あれだけの力を有しているというのか!?」
「信じられないな…いや、そのような下劣な輩が“座”を握ったという事自体が信じがたい事実だ」
「認めたくない気持ちは分からないわけじゃねえけど…そこの機械娘の言う通りだよ。“独りになりたい”のに常に誰かに触れられている。だから、俺が独りになるために、“他人は全ていなくなれ”…それこそが求道型の覇道神という第六天の抱いた、無量大数の質量をもつ最低最悪の渇望だ。奴はその力で以て“座”を支配したんだ」

一方、ホライゾンの推測を聞いたケイネスと時臣は、思わず席を立ちあがると、有り得ないと言った口調で叫んだ。
魔術師として一般的なスタンスの時臣やケイネスからすれば、そのような当たり前の渇望だけで、ある程度の形は違えども、魔術師の悲願である“根源の渦”―――“座”を支配したなど到底受け入れられることではなかった。
だが、蓮は、多少の補足を付け加えつつ、ホライゾンの考えが間違いでない事を認め、波旬が己の魂だけで無量大数の質量をもつ求道型の覇道神という矛盾した存在である事を明かした。
やがて、蓮は困惑によって静まり返った一同を見渡した後、メルクリウスに目を配らせ合図を送った。
と次の瞬間、メルクリウスが何やら意味の解らない言語で詠唱すると同時に、いきなり、会談に参加した一同全員の前に魔方陣が展開された。

「これは…幻燈結界!?」
「私なりのアレンジを少々加えたものであるのだがね。とりあえず、ここからは、波旬という存在について、我らの口で説明するより、自分たちの目と耳で見聞する方がより理解できるというもの。これより、君達にはバーサーカーの全てを体験してもらいたい。それで、自分たちがどうするべきなのかと言う指針を決める手助けになりえるだろう。まぁ、自由意思で途中で見るのを終了する事も可能だが―――」

メルクリウスは、キャスターを筆頭に身構えそうになる一同を制しながら、ここから先の波旬に関する情報をキャスターの幻燈結界をパク…アレンジしたもので、身を以て解説する事を説明した。
そして、メルクリウスが、術を掛けた一同に、自身の任意で術を解くことが出来る事を教えながら――――

「―――私としては出来る事ならば、最後まで付き合う事を願いたいところではあるがね」

―――何やら意味がありげな言葉を吐きつつ術を発動させると同時に、術を掛けられた一同の意識が一時途切れた。



そして、しばらくして、一同が意識を取り戻し、周囲を見渡すと、思いもよらぬ場所に集められていた。

「え…? ここって…確か、映画館よね…何で、こんなところに…」
「…どうやら、バーサーカー陣営を除く全員がここに集められているようですが」

戸惑いを隠せないアイリスフィールの言葉通り、そこは先ほどまで会談が行われていた広間ではなく、映写機、階段状に配置された無数の席、大画面の大型スクリーンという、まさしく映画館の中だった。
それにたいし、舞弥はすぐさま、アイリスフィールを護衛するように周囲を警戒しつつ、蓮やメルクリウスなどのバーサーカー陣営を除いた会談参加者達がいる事を確認した。

「あの変質者…どうやら、第六天とやらについての説明を映画として上映するみたいね」
「また、えらく芝居がかった事をするもんやのう」

実際のところ、説明するのが面倒くさいってのが本音かしらね―――ランサーは、あの胡散臭くてウザい変質者の働かない振りにそう呆れながら、とりあえず、近くの席着いた。
そして、同じように、真島も、変質者の意図に気付き、いけ好かない奴だとぼやきながらも、最前列の席に着いた。
もっとも、真島としては、あれ以上長々と話を聞かされ続けたら眠っていたところだったので、映画での説明にありがたく思っていただが。

「しかも、ポップコーンまで用意してあるのかよ…ご自由にお取りくださいって書いてあるけど…」
「何でそんなモノまで用意したんだ、あの変質者…」

しかも、戸惑うように呟くウェイバーの言葉通り、担当の館員こそ居ないものの、映画館では定番のジャンクフードであるポップコーン売り場まで用意されていた。
色々と余計なところで準備の良い変質者に、銀時はやや投げやりにボヤキながら、しぶしぶ、皆と同じように席に着いた。
そして―――

「んじゃ、とりあえず、テンゾー。俺、塩味でよろしくな」
「では、点蔵様。私はキャラメル味でよろしくお願いします」
「だったら、俺もキャラメル味で頼むわ、パシリの兄ちゃん」
「私もキャラメル味で。あ、舞弥さんは?」
「では、私もそれで」
「ふむ…こういったものはあまり食べ慣れていないのだが…塩味で頼もうか」
「あ、点蔵。私はキャラメル味でお願いね!!」
「えっと、じゃあ、私もこの子と一緒で、キャラメル味でお願いしまーす!!」
「んじゃ、俺は塩味で頼むわ。おまえはどうする、大輔?」
「じゃあ、おれもそれで」
「それがしは、塩とキャラメルを半分ずつ入れて頼もうかな。ますたぁは如何いたそうか?」
「え? なら、僕は塩味で」
「私は麻婆味で頼む」
『あるかよ、そんな味のポップコーン!?』
「それなら、私はカレー味で頼むわね」
「こういった下品な食べ物は趣味ではないが…まぁ、たまにはいいか。塩味で頼む」
「わしは定番の塩味で頼むで」
「ふむ…では、私はキャラメル味にしておくか」

―――席に着いた一同全員は、まず、パシリもとい点蔵にむかって、まるで打ち合わせをしたかのように、一斉に各々食べたいポップコーンを持ってくるように注文し始めた。
しかも、これだけには止まらず、武蔵勢のメンバーも、点蔵に向かって、次々にポップコーンの注文を頼んできた。
ちなみに、大半は塩味やキャラメル味が注文する中で、綺礼だけは、アサシンに突っ込まれながらも、普通ならばある筈のない麻婆味なるポップコーンを注文していた。

「な、何故に皆一斉に、自分にポップコーンの注文してくるで御座るか…!? 公式パシリ扱いで御座るか、自分!? 後、とりあえず、第一陣は塩味7つ、キャラメル味7つ、塩とキャラメル半分ずつ1つ、カレー味と麻婆味がそれぞれ一つずつで御座るな!! では、すぐに持ってくるで御座る!!」
『あるのかよ、麻婆味…!?』
「ちっ…」

全陣営からパシされたことに愕然とする点蔵であったが、生粋のパシリ忍者のサガなのか、すぐさま、普段のように各注文のメモを取りつつ、注文されたポップコーンの用意へと向かった。
ちなみに、一番の問題だった麻婆味のポップコーンも用意されていたらしく、誰が食べるんだよと驚くアサシンの隣では、綺礼が何故か舌打ちをしていた。

「あの忍者…ちゃんと用意してくる辺り、パシリ属性が染みついているもんだな、ゴリラ」
「今の忍者からうちの山崎と似たオーラを感じるぜ…ん?」

その徹底したパシリ振りに、さすがの銀時も気の毒そうな表情で、点…パシリ忍者の持ってきたポップコーンを頬張りながら、隣の席に座る知り合いのストーカー類人猿によく似たゴリラに話しかけた。
それに対し、ゴリラ―――近藤もうんうんと頷きつつ、点蔵と非常によく似たオーラを持つ自分の部下である監察(彼女無)を思い出しながら、ふと隣の席に座る銀時を見て思わず固まってしまった。

「あぁあああああああ!! てめぇ、やっぱり、万事屋じゃねぇか!!」
「あぁ、似ていると思ったら、やっぱり…おいおい、万年ストーカーゴリラが、何で、こんなところにいるんだよ…あれか、不思議な鏡に触ったら、異世界に来ちゃったみたいな、アレか?」

次の瞬間、思わず席から立ち上がった近藤は、自分が異世界へと送り飛ばされた元凶である銀時を見つけて、大きな声を上げて驚いていた。
もっとも、銀時の方も、まさか、本当に近藤がこの世界に来ているとは思っていなかったので、永遠に未完となった某異世界召喚系ライトノベルみたいな感じでやってきたのか尋ねた。

「てめぇ、今度はいったい、どんな厄介事に巻き込まれたんだ!? おかげでこっちは、ゼル美さんというオカマなオッサンに全裸で異世界に送られたり、ツンデレ系幼女の使い魔になったり、変な神父にぶん殴られたり、カレー粉で浄化されるゾンビとか色々と版権元に訴えられそうなロボットに襲われたりしたんだぞ!!」
「知るかよ!! つうか、てめぇが何でそんな展開になってんのか聞きてぇよ!!」

だが、近藤は銀時の質問に答えることなく、これまでに自分が異世界にやってきてまでの経緯を話しつつ、詰め寄ってきた。
もはや、何時ものごとく、別件に巻き込まれたとしか思えない近藤の経緯を聞いた銀時は、逆に訳が分からねぇよとツッコミを入れつつ叫んだ。
このまま、周りにいるみんなの注目を受けながら、さらに銀時と近藤の言い争いがエスカレートしようとした時、ちょっと待つですの〜という愛らしい少女の声が割り込んできた。

「はいはい、そこまでですの〜そこの死んだ魚の眼をしたお侍さんと人間のようなゴリさん〜」
「おいおい、誰が死んだ魚の眼をした天パだって? ちゃんといざという時は…」
「だから、何で、どいつもこいつも、俺をゴリラ扱いするん…」

どうやら、的確に銀時と近藤の特徴を挙げた声の主である少女は、銀時と近藤の言い争いを止めに入ってきたようだった。
ひとまず、銀時と近藤は、少女の挙げた自分たちの特徴に色々と不満があるのか、少女の声のした方向を振り向いた。

「例え、駄目人間とゴリラでも、映画は皆で仲良く見るですの。喧嘩はマナー違反で、ご法度ですの」
「おぃいいいいい!? 何で、定春がいるんだ!? つうか、何で、普通に人語しゃべってんの!?」
「というか、遂にでっかい犬にまで、俺、ゴリラ扱いされたぁあああああああ!!」

そこには、さらりと毒舌を織り込みながら、銀時と近藤に対して、映画館でのマナー違反を注意する、服を着た少年を跨らせた大きな牛ほどの巨体を持つ仔犬がいた。
まさかの言葉をしゃべる巨大仔犬の登場に対し、銀時は、誰も予想できないキャラ―――万事屋で飼っている同じく巨大犬“定春”が言葉を喋るおまけつきで登場したことに思わず声を上げて驚いた。
もっとも、近藤は犬にまでゴリラ扱いされたことにショックを受けていたが、何をいまさらという冷たい周囲の視線だけが送られるだけだった。

「定春って誰ですの? アンナには、アンナ・シュライバーという名前がちゃんとあるですの」
「落ち着きなよ、アンナ。どうやら、この人は君とよく似た犬と勘違いしているようだ。あぁ、申し遅れました。僕はこの映画館の係員を務めていますヴォルフガング・シュライバーと言います。以後、お見知りおきを」

ゴリラ扱いされて嘆く近藤はスルーするとして、銀時に定春呼ばわりされた巨大仔犬―――アンナ・シュライバーは、自分にはちゃんとした名前が有ると、プンプンと全身の毛と尻尾を逆立てながら抗議した。
とここで、アンナの背に跨っていた少年―――ヴォルフガング・シュライバーは、犬違いをされて怒るアンナの頭を撫でて宥めつつ、この場に居る一同に向かって自己紹介をした。

「まもなく、映画が始まりますのでお静かに願います。私語雑談については、この映画が終わった後でお願いします」
「だとよ。つうわけで、ゴリラ…後できっちり事情を聞かせてもらうぜ」
「ちっ…まぁ、確かにそれがいいかもな」

そして、シュライバーは、口喧嘩をしていた銀時と近藤に注意を呼びかけながら、もうすぐ映画の上映が始まるので、さっさと席に着くように促した。
とりあえず、銀時と近藤はお互い言いたいことは山ほどあったが、とりあえずシュライバーの指示に従う事にし、席に戻って、映画が始まるのを待つことにした。
やがて、会場の照明が徐々に落とされ、劇場全体が薄暗くなる中、スクリーンに映像が流れ始めた。

『では一つ、皆様、私の歌劇をご観覧あれ。その筋書きは奇抜だが、ある役者が最悪だ。屑と断ずる。故に不快にならざるを得ないと思うが許されよ』
「って、今時、サイレント映画かよ!? それなら、私語雑談問題ねぇだろ!? というか、あの変質者の歪みねぇウザさだな、おい!!」
「仕方ないですの。アンナ達はバーサーカーにとって不利になるような事は教えられないようになっているですの。後、ウザいのは仕方ないですの」
「僕達も、色々と規制や制約がある中でやっているので、そこのところは勘弁してください。後、あの変質者がウザいのはいつもの事ですから」

ただし、音声どころか、音の一切ない字幕付きの映像のみが流れるというサイレント仕様の映画だったが。
色々と間違っている配慮の置き具合と、映像の中でも安定のウザさを発揮する変質者に対し、思わず、銀時は、何故か自分の隣でポップコーンを頬張るアンナとシュライバーにツッコミを入れた。
これに対し、アンナとシュライバーは、銀時に、自分たちがバーサーカーの不利となる情報を公開できない為に、サイレント映画仕様になっているのだと答えた。
ちなみに、メルクリウスがウザい件については、アンナとシュライバーは、いつもの事なので諦めろと首を横に振るだけだった。
一方、銀時らがそんなやり取りをしている中、大型スクリーンには、新たな映像が流れ出し始めていた。

「何や、これ?」
「もしかして、これって、バーサーカーの見ている光景なのか…?」
「どうやら、周りにいる者たちの衣装や姿を見るに、天竺…印度に住むモノ達のようだな。そして、この者たちは…バーサーカーの…」

スクリーンに映し出されていたのは、何故か、こちらを見ながら、困惑と嫌悪の入り混じった怪訝な顔をする二人の男女の映像だった。
この映像の意味が分からず、首を捻る真島に対し、ウェイバーは、今、流れている映像が、サーヴァントとして召喚される前のバーサーカーが見ていた光景ではないかと推測した。
一方、ライダーはこの二人の男女の身にまとっている服装や容姿から、バーサーカーの出身地がインドである事、映像に映し出された男女がバーサーカーの生みの親である事に気付いた―――二人の男女が怪訝な顔をしている理由が、バーサーカーの三つ目という異形故のモノである事も含めて。
やがて、皆が注目する中、スクリーンは、バーサーカーの父母らしき二人の男女の映像から新たな映像に切り替わった。

「これは…あいつ、人買いに売られたみたいね」
『貧困による口減らしか…さほど、珍しくもない話であるが…』

次に映し出された映像は、鉄格子の向こう側で、それなりに身なりの良い男から、わずかばかりの金を受け取る、先ほどの男女の映像だった。
これを見たランサーは、異形の容姿を疎んだ両親によって、バーサーカーが人買いに売られた時の映像である事に気付いた。
加えて、先ほど見た男女の映像から、二人が貧困階層の人間である事を察したアラストールは、この映像は、バーサーカーが、両親によって厄介払いを兼ねた口減らしとして人買いに売られた時の―――貧困地域においては、さして珍しい事ではない光景であると理解した。
やがて、バーサーカーが人買いに売られて以降の光景が映像として次々と流れていき―――

『そして、どこぞの邪教集団に買われて、即身仏にされるって訳か』
「畸形というモノはそれだけ畏怖か崇拝の対象となるものだ。あの三つ目の異形もそれに一役買ったのだろう」
「だが…」

―――怪しげな衣装をまとった僧侶と思しき集団によって、本人の意思に関係なく、バーサーカーが即身仏として地中深くに埋められていく映像が映し出された。
これを見たアサシンは、倉庫街での言動からは想像できない、ある意味で悲劇的ともいえるバーサーカーの壮絶な人生に何ともやりきれない口調で呟いた。
もっとも、マスターである綺礼は、さして思うことなどない口振りで、バーサーカーが三つ目の異形であるが故に即身仏として祀られたのだろうという推測を淡々と語るだけだった―――口元で浮べた笑みを手で隠しつつ。
一方、時臣はそんな弟子の歪みに気付くことなく、これまでを映像を見た中で、恐らく、この場に居るマスターとサーヴァント全員が感じている事――如何に悲劇的とはいえバーサーカーが神格はおろか英霊足りえる偉業を為していない事に疑問を抱いていた。
しかし、それに対する疑問は―――

“ある日、気が付いた時から不快だった”
「こいつは…!?」
「バーサーカーが誰かに…いや、独白なのか」

―――突如として、暗闇以上にどす黒い黒色に塗り潰された映像と共に浮かび上がった字幕ともに解き明かされ始めることになった。
この予期せぬ映像に目を見張らせていた銀時は、映像が一切なく、字幕のみが映し出された映像に言い知れぬ何かとてつもなく不快で嫌なモノを感じ取った。
一見すれば、誰かと話をしているかのようにも見えるが、ウェイバーはこの字幕がバーサーカーの独り言である事に気付いた。
なぜなら、バーサーカーは、その極まった自己愛故に自分以外の他者を塵としか認識していないのだから。
それは、倉庫街での一件に於いても、バーサーカーは誰ともまともな会話をしていなかったことを考えれば明らかだった。
やがて、スクリーンには次の字幕が映し出されたが、“誰かが俺に触れている”、“常に離れる事なくへばり付いている”、“体が重いぞ。消えて無くなれ”という、独りになれないいらだちを募らせるバーサーカーの不快な独り言だけが垂れ流され続けた。

「ただ独りになりたい…本当にバーサーカーはそれだけしか願っていないみたいだね」

“なるほど…確かに酷い”―――ネシンバラは、作家としての立場から、前置きで役者が最悪だと語ったメルクリウスの言葉を心中で頷いた。
大抵の作品に登場する悪役というものには、シリアスやネタであれ、何かしら人を惹きつける魅力というものが有るのだが、このバーサーカーにはそれらの要素は一切なく、問答無用に押し付けられる嫌悪感だけしかなかった。
今更ながら、バーサーカーというサーヴァントを理解させられたネシンバラは、スクリーンを埋め尽くすほどの“僕なら絶対に出さないし、作らないよ、こんなキャラっと呆れた口調で不愉快そうに顔を顰めながら呟いた。

「…ちょっと待って」
「どうしたの? 顔色が悪いけど…ガッちゃん?」

その中で、ナルゼは字幕だけが流されていく映像を見ている中で、バーサーカーの状態について振り返った時、不意にある事に気付いた。
神妙な顔つきで顔を強張らせるナルゼに対し、ナルゼの隣に座っていた相方のマルゴットが、ナルゼの異変に気づき、心配そうに話しかけてきた。

「…今、こいつって、地面に埋まっているはずじゃないの?」
「え、そうだけ…あ!?」
「そうですよ。だったら、誰がバーサーカーに触れているんですか!?」

だが、ナルゼは、こちらに話しかけてくるマルゴットの言葉には答えなかった。
逆に、マルゴットに向かって、ナルゼは、現在、バーサーカーが即身仏として埋められている事を確認するように尋ねた。
これには、マルゴットも、ナルゼの質問の意味が分からず、戸惑いがちに頷いた瞬間、ナルゼが何故このような質問をした意味をようやく理解した。
そもそも、地面に埋められているバーサーカーを誰が触っているというのか?―――ナルゼ達の近くにいた浅間も、ナルゼと同じように、この事に気付くと、声を上げて指摘した。
確かに、ナルゼや浅間の言う通り、掘り起こしでもしない限り、本来、即身仏として地面に埋められたままのバーサーカーを、誰も触れる事など出来る筈がないのだ。

「いや、一人だけいるよ…この時、“座”に就いていたあの人が…!!」
「この時、“座”に就いていたのって…まさか!?」

だが、ネシンバラは、会談の際にメルクリウスから受けた説明を思い返す中で気付いていた―――地面に埋められたバーサーカーを触れる事のできる存在がいた事に!!
そして、それが誰なのか、ウェイバーは、ネシンバラの口から出てきた“座”という言葉から、バーサーカーに触れる、否、抱きしめる事が可能なある人物の存在に思い至った。
そう、六番目に“座”を支配した第六天波旬の前任者―――

“こいつだ…こいつが俺に触れている”
「マリィ御姉様…!?」
「確か、彼女の渇望は“全てを抱きしめたい”だった筈…ならば、独りにならんとするバーサーカーにとってソレは…!!」
「自分を独りにさせない鬱陶しいものでしかないって事ね」

―――不快感を露わにするバーサーカーが口にした独白の字幕と共に映し出された第五天であるマリィの存在を!!
何故、御姉様が!?という口振りで、マリィの姿が映し出された事に驚くキャスターであったが、無理もなかった。
マリィの抱擁を受けたキャスターからすれば、全ての人間の幸せを願い、分け隔てなく優しく抱きしめるマリィを、バーサーカーが不快に思うのを到底理解できなかった。
だが、ライダーやランサーの言うように、独りになりたいという渇望を持つバーサーカーからすれば、如何にマリィから優しく抱擁されようとも、その抱擁は鬱陶しいものでしかないのだ。

“こいつさえ…こいつさえいなければ…!!”
『これが、第五天から第六天へと世界が移り変わるまでの過程という事ならば、ここから始まるのは…!?』
「“座”の移り変わりにおいて決して避けては通れない、覇道神同士の戦い―――」

やがて、ようやく、自分を抱きしめている(バーサーカーにとっては取り囲んでいる)第五天・マリィを見つけたバーサーカーは、自身の孤独を穢さんとする不快感を消さるために、自分が蹲る大地の下にある深奥―――マリィのいる“座”にむけて潜行していった。
とここで、アラストールは、この一連の映像が、バーサーカーが“座”を支配するに至るまでの出来事であり、そこからどのような展開となるのか嫌がおうにも予測できてしまった。
そして、アラストールと同じ予測に至ったライダーが、アラストールの予測を代弁するように語ると同時に――――

“―――滅尽滅相っ!!”
「―――神座闘争の幕開けだ」

―――スクリーンには、蹂躙されようとする黄昏の女神を守らんとする永遠の刹那、黄金の獣、水銀の蛇による三柱の守護者を相手に意を返すことなく、桁違いに圧倒的な無量大数の質量による暴威を振るうバーサーカーとの戦い、覇道神たちによる神域の闘争が映し出されていた。


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