――意味が解らない・・・・・・
僕(ワンタ)は、大会では残念ながら、負けた選手なので、観客として席から試合を見ていた。僕に勝ちやがった、クソ忌々しいシイグ君と、よく知らないルイとかいう人の試合だ。
その試合は、僕の予想を大きく裏切るものだった・・・
――まさかあのシイグ君が、押されるなんてね・・・しかも、フフフッ、負けそうじゃん・・・。
シイグ君の対戦相手ルイ君は、はっきり言ってかなり強い。今の僕が戦ったら、「死ぬ」・・・「負ける」とか、「倒される」とかいうレベルではない。殺りあったら、確実に「死ぬ」。
まだ生きているシイグ君に、感心しながら見ていると、ルイは両手両足を、地面につけた。
「ギア
4っ!」
ルイは高らかに叫んだ。
・・・が、ルイは既にそこにいない。
――あ、あれ? どこに行った?
「ぐへっごっはっっはっはっ・・・ぐあっ・・・」
気づいた時にはシイグが、吹き飛ばされていた。
――ま、ま、待ってよ・・・まったく見えないんだけど・・・。
〈所詮その程度が、ワンタさんの実力ということですよ〉
〈うおっ、いきなり話しかけてきて失礼だねレヴィアタン・・・〉
〈なんで私は、こんなお方に憑いてしまったのですかね?〉
〈だから失礼だよ。レヴィアタン・・・〉
レヴィアタンと話している間にも、試合は進んでいく。
――あーあ、シイグ君もそろそろ死ぬかな?
〈ねえ、王が死ぬけど。いいの?〉
〈うふふ、
悪魔王様が、死ぬわけないじゃないですか。あの、ファルサ・デアに負けても生きていたんですから〉
――ファルサ・デアって誰?
〈ファルサ・ディアとはですね、・・・はっ・・・ワンタさん・・〉
〈・・・うん・・〉
ワンタは、死角からやってきた攻撃をよけようと、思いっきり身体をひねる。・・・だが、そのワンタの動きを見切り、攻撃してきた。
「ぐはっ、・・・痛いなぁ・・・まったく・・・」
ワンタの身体には、肩から脇腹にかけて、三本の斬り傷が入っていた。
「ほう・・・、
小生の攻撃を受けても、まだ生きているのか。手前、中々タフでござるな」
――いや、本当だったら死んでたね。
〈レヴィアタン、ありがと〉
〈まったくですよ。私のアシストがギリギリで間に合ったから、良かったものの、死んでいましたよ!〉
ワンタが気付けなかった攻撃を、レヴィアタンが気付き、ワンタの足だけを何とか操作し、攻撃をよけた。
――僕じゃ、勝てないか・・・。攻撃がまったく見えないもんね。
ワンタは頭の中で、どうやって逃げ延びるかを考えながら、突然の襲撃犯へ視線を移す。
目を向けた先にいたのは、真っ赤な赤い髪を後ろでくくり、耐え難い重圧を片目のみで発する、美しい女だった。
「キミさ、刀を三本も持っているけど、邪魔じゃないの?」
いまだに考えがまとまっていないので、時間稼ぎを試みる。
「
小生は、三刀流ゆえに、刀三本が普通でござる」
ワンタの思考は、フリーズした。
――待て待て待て待て、まさか・・・そんなはずは・・・しかし、真っ赤な髪で、片目の三刀流・・・まさかね・・・
「もしかしてだけどさ、キミがあの・・・」
ワンタの問いを途中で遮り、女は言った。
「いかにも、
小生が“海賊狩り”リンだ」
やっぱりね・・・・・・
「なら、この襲撃はノーロック海賊団のものかな?」
ワンタが見ていた試合は、既に中断されており、会場中そこらで、海賊と思われし者が貴族らを殺し、世界貴族にとっては初めて感じるであろう“絶望”を感じさせていた。
いや、最後の最後まで疑問しか浮かばない者も、いたにはいたが。
「然り!
小生らノーロック海賊団は、ついに世界に償わせるのだ。許され難し罪を犯した
この世界に!!」
「その手始めが世界貴族か・・・・・・」
「またまた然り! こんな腐った階級は、
小生らが潰してくれるでござる!!」
「なるほどね。でも、ま・・・勝手にやってくれていいよ。僕もそうなってくれた方が色々と都合がいいしね」
元々奴隷であり、世界貴族を嫌っていたワンタにとっては、ノーロック海賊団の目的はメリットばかりでデメリットなどない。ノーリスク・ハイリターンだった。
・・・・・・のだが。
「俺は、お前らノーロック海賊団をぶち壊すっ!!!」
シイグのドデカい声が聞こえた。
このシイグの言葉により、今までの考えなど関係なくなった。
ワンタは、次なる標的を探しに行ったリンを引き留めるために、声をかけた。
「待ってよ、リン」
ワンタが呼ぶと、リンは振り返り際、いかにもめんどくさそうに言った。
「んあ? 何用でござる?」
「・・・いやー、ちょっとね。僕らの大将がキミらを敵とみなしてね。そしたら手足である僕らが、キミらと戦わないわけにはいかないだろう?」
・・・と、レヴィアタンが言っていた。
〈当たり前でしょう。
悪魔王様の敵は私らの敵。忘れないでくださいよ〉
〈了解りょーかい!〉
「ふむ、確かに主の敵は、自らの敵。手前は、敵ながらにあっぱれでござるな」
「ははっ、敵に褒められても嬉しくないなぁ」
リンからの、思わぬ称賛を受ける。
「だが、手前に
小生を倒せるのか?」
〈どう思う? レヴィアタンは・・・〉
〈おそらく・・・死にますね。・・・私の力を、完全開放したら、何とかギリギリで・・・死にますね〉
――て、結局死ぬんだ・・・
「倒せないかもね、たぶん死ぬかも・・・」
「それでも手前は、
小生に立ち向かうのか?」
ワンタの覚悟を確かめるように、もう一度リンは問いかけてくる。
「
王が立ち向かう限りね」