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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第31話:相対する者たち
作者:蓬莱   2013/05/30(木) 21:03公開   ID:.dsW6wyhJEM
“バーサーカーの願いを叶えさせてやる”―――この銀時らの予想だにしなかった結論に会談の場は困惑と怒号の入り混じった混沌の坩堝のように騒然となっていた。
だが、この会談の場にいる一同が激しく動揺するのも無理はなかった。
銀時達の言った事は、すなわち、バーサーカーに聖杯を譲渡し、間桐桜を殺すことであり、バーサーカーへの恭順に他ならないのだから!!

「いや、何って…なぁ?」
「だよな。って、おいおい、何、皆してドン引きしてんだよ?」
「ふむ…やはり、ここではワシらの真意は伝えるのは難しいか」

一方、この騒動の中心人物である銀時、アーチャー、ライダーは、自分たちの予想以上の大騒ぎとなってしまった事にどうしたものかと顔を見合わせていた。
もっとも、銀時達としては、あの映画についての事を、皆にキチンと説明はすべきだったのだが、この六陣営会談の場ではそれも無理な話だった。
映画館でのシュライバー達の話によれば、バーサーカーの不利となる情報は、銀時達も、ヴェヴェルスブルク城内では一切伝えることが出来ないという制約が掛けられていたのだ。
故に、銀時達は、皆に事情を説明できないまま、自分たちの出した結論を口にしたわけなのだが、あの映画に加え、先ほどまでのバーサーカーの外道振りを見せつけられた後では、この混乱も無理からぬ話だった。
そして、当然の事ながら―――

「充分に伝わったぞ…貴様らのふざけた結論がなぁ…!!」
「あのさぁ、さすがにこの空気で、そんな冗談言うのはどうかと思うわよ…」
『いや、むしろ、冗談の方がまだマシなんだけどな…』

―――湧き上がる怒りを抑えることなく、激しい殺気を放つキャスター。
―――灼熱のような紅蓮の眼とは対照的に、凍てつくような冷たい視線を向けるランサー
―――宝具越しからでも分かる心底呆れた口調で投げやりに苦笑するアサシン。
バーサーカーに組もうとも取れる発言をしてしまった銀時達は、バーサーカー討伐を掲げたキャスター、ランサー、アサシンの三人の含めた全員の不興を買ってしまうことになった。

「おいおい…何、この、皆して、良い雰囲気ぶち壊しやがって、コノヤローみたいな空気は?」
「当たり前でしょうが…!! バーサーカーの下種な性根を散々見せつけられた後で、そんな事を言えば誰だって、そうなるわよ!!」
「銀時…いくら、何でも、あなたにも問題があるわよ!!」
「しかも、全然、自覚なしってところがさらに悪印象ね」

この六陣営会談において完全に孤立無援となってしまった銀時は、相変わらずの減らず口を叩きながら、詳しい説明もできずに、どうしたものかと頭を掻いてぼやいた。
ふと気づけば、セイバーやアイリスフィールからは、少なからず信頼していた銀時の発した裏切りとも取れる発言に、“何故?”という困惑と、“何で!?”という非難の入り混じった視線を投げかけると共に、僅かに苛立ちを含んだ声で問い詰めてきていた。
さらに、セイバーとアイリスフィールの背後からは、ランサーが、笑みを消したまま、つまらないモノを見るように冷たいまなざしで見据えていた。
だが、この銀時の言葉に誰よりも怒りを露わにしていたのは、席上から飛び降りながら詰め寄り、そのまま、銀時の胸ぐらを掴んだ一頭のゴリラ―――銀時との付き合いが長い近藤だった。

「万事屋、てめぇ…!! 自分が何を言ってるのか分かってんのか!! てめぇは、桜ちゃんの、凛ちゃんの妹を殺すのに手を貸すって、言ってるんだぞ!!」
「…そいつが、第六天の望みなんだな」
「そうだよ!! あの下種野郎のバーサーカーが聖杯に叶えようとする碌でもない願いだ!! てめぇは、それで、お妙さんや新八君達に顔向けできるのかよ!?」

次の瞬間、銀時の胸ぐらを掴んだ近藤は、銀時が何をしようと言ったのか理解をしていのか訴えるように、湧き上がる怒りに任せて叫んだ。
だが、近藤の剣幕に動じることなく、ただ、“あぁ、やっぱりか”と誰かに向かって呆れるように納得する銀時の平静な態度に、近藤は苛立ちながらさらに怒りを露わにした。
近藤の怒りは無理もなく、銀時の言葉は、他者の尽くを塵と断ずるバーサーカーに賛同するもの以外の何物でもなかった。
それは、この場に居る近藤だけでなく、恐らく、向こうの世界で自分たちの帰りを待っている筈のお妙や新八達に対する裏切りに他ならなかった。

「いや、だって、お前ら、冷静に考えてみろよ? 確かに、バーサーカーが悪いっていえば悪いだろうぜ。だけど、あんだけ必死になって望んでいたんだから仕方ねぇじゃん」
「Jud.ホライゾンとしても、それだけで、バーサーカーの、罪の是非を問うのはどうかと思われます」
「し、仕方ないって…トーリ君やホライゾンまで、何を言い出すんですか!!」
「自分たちが何を言っているのか、分かっているで御座るか!!」
「ウェットマンさん…いくら何でも、これは笑って許されるものではありません!!」
「断じていうよ…これは、君が叶えるべき願いなんかじゃ決してない!!」
「…そうじゃないだろ!! 何で…何で、お前達がそんな事を平気で口にするんだ!!」
『今の俺の中じゃ、てめぇの評価は頭のおかしい馬鹿から、心底笑えない馬鹿に格下げになっているんだけどな…』

そして、アーチャーの呼び掛けに応じた正純達にとっても、バーサーカーへの恭順を口にするアーチャーの言葉は見過ごせるものではなかった。
アーチャーとホライゾンは、バーサーカーが為してしまった罪を認めながらも、必死になって願った末の事ならばと、バーサーカーの罪を許し、バーサーカーの存在を認めよとさえしていた。
“そんな馬鹿な話があるかっ!!”―――だが、口々にアーチャーを思いとどませようと叫ぶ正純達からすれば、ただ一人になりたいという自分勝手な願いの為に、黄昏の女神たちを殺し、世界の全てを滅尽滅相し、今、一人の少女を殺さんとする外道を許すことはもちろん、認める事など到底出来なかった。
―――アーチャー、いや、葵…お前が誰もの味方になる馬鹿なのは分かっている。
―――だから、銀時を助けに行くって決めた時も、自分の大切な人を救おうとする銀時の味方になったんだろ?
―――でも、だからって、お前が、こんな救いようのない外道の味方にまでなることないだろ!!
まして、それが、幼き日に、自分たちの願いを叶える王になろうと宣言し、自分達もまた、力を貸そうと心に決めたアーチャーの口から出たなど受け入れる事など、直の事、出来る筈もなかった。
さらに、アサシンに至っては、アーチャーの愚行に、もはや、失望さえしているような口調で呆れ返っていた。

「皆が困惑するのも無理はないのかもしれん。だが、ワシらは決して―――黙れ!!―――む!?」
「その口を二度と開くな…!! どうやら、私の目が曇っていようだな、ライダー!! 極大の下種に迎合する貴様ら全員、その外道に犯されきった根性を焼き尽くしてやる!!」

さすがに、このままでは不味いと感じたのか、意を決したライダーが、数多の非難が沸き起こる会談の場に、皆に向かって何かを伝えようとした。
だが、次の瞬間、突如として放たれ火球がライダーの頬を掠めると共に、ライダーの言葉は、キャスターの一喝によって遮られた。
“喋るな!! 語るな!! 絶対に認めない!!”―――悔し涙を瞳に湛えたキャスターは、ライダーに向かって、その胸の内から沸き起こる拒絶の意思を吐き出しながら叫んだ。
もはや、キャスターにとって、バーサーカーに頭を下げようとする銀時達は打ち倒すべき敵としかみられていなかった。

「ちょ、ちょっと待って!! これには、深い事情があって―――坊主―――ひっ!?」
「んな事、関係ないんや。まぁ、もしも、クソ笑えん冗談かましただけなら、少し詫びいれるだけで勘弁したるで。どうなんや、坊主…?」

もはや、問答無用というキャスターに、ウェイバーは慌てて、キャスターを落ち着かせようとするが、静かだが、ウェイバーの心を握りつぶすような怒気をはらんだ声によって遮られた。
その声の主である真島は、武装グールに襲撃されたときにさえ見せなかった、他者を恐怖で押さえつける威圧感を言葉に含ませながら、ウェイバーに対し、問いかけの答えを強制決定させるように問い詰めた。
“自分たちが間違っていた”―――ただ、そう真島に返すだけで、ウェイバーは、事が収まる事を理解しながら―――

「それは…それはできない…それだけはできないんだ!!」
「冗談やないちゅうことか…」

―――逆に、ここで真島に従う訳にはいかないと、恐怖で震えながらもはっきりと答えを返し、自身の意地を貫き通した。
恐怖に怯えながらも、そうはっきりと告げるウェイバーに対し、真島は怒るの声一つ上げる事もなく、ただ静かに何かを見定めるように呟き、あくまでバーサーカーに聖杯を譲ろうとする銀時らに向かって問いかけた。

「なら、お前ら、わし等とどうやって白黒を付けるかはっきりさせてもらおうやないか?」



第31話:相対する者たち



「なぁ、セージュン…どうすりゃいいと思う?」
「どうするだと…? どう考えても、葵、お前たちがバーサーカーに聖杯を渡すなんて馬鹿な発言を撤回しない限り、事が収まるはずがないだろ!!」

最後通告とも取れる真島の問いかけに対し、アーチャーは、未だに自分を睨み付ける正純に、この現状に於いて一番冴えた答えは何か求めてきた。
だが、正純は、アーチャーなど見たくもないと、半ば投げやりに顔を逸らしながら、バーサーカーに聖杯を渡す事を撤回しない限り無理だと断言した。
もはや、ここにおいて、六陣営会談は、バーサーカー討伐を前に、六体のサーヴァントによる同士討ちという文字通りの最悪の結末を迎えようとしていた。

「さて、三対三という形で別れたわけだが…これも卿の目論み通りなのかな?」
「大体は…しかし、このままでは、こちらとしても不本意でしかないのは事実…ここは、アーチャーらの世界に於ける解決法にて結論を出すのが最善かと」
「なるほど…む?」

だが、覇道神達にとっても最悪としか言いようのない状況にも関わらず、ラインハルトは余裕を崩すことなく、この展開になる事を予想していたであろうメルクリウスに尋ねた。
このラインハルトの問いかけに対し、メルクリウスは、大方は狙い通りである事を語りつつ、同士討ちを避ける為に、アーチャー達の世界に於ける、ある解決方法を提示することを薦めた。
メルクリウスの進言に肯きながら、ラインハルトは、席を立たんとした時、ふと自分の胸元に差し込まれた手紙を見つけた。


六陣営による一瞬即発の状況の中、ラインハルトは、王者の威風を漂わせながら、メルクリウスと共に、騒然とする会談の場に悠然と歩み出た。

「さて、両者ともに予想外の結論に達したわけなのだが…こちらとしても、このまま、不毛な同士討ちになるのは不本意極まりない」

そして、バーサーカー討伐を掲げるランサー達と、バーサーカーに聖杯を託そうとする銀時達の間に立つと、いがみ合う両者を制するように言葉を発した。
確かに、ラインハルトの言うように、このまま、両者が闘ったところで、喜ぶのは、銀時らが殺し合う事を望んでいるバーサーカーだけである。
お互いそれは望むところではない事は分かっているので、故にと付け加えながら、ラインハルトの言葉に続く様に、メルクリウスが事の白黒を決着させるために、両者に対しある解決方法を切り出した。

「このバーサーカーの処遇に関する一件を、些か変則的ではあるが、アーチャー達の世界に於いて“相対戦”と呼ばれる遣り方によって決める事を提案するが、如何だろうか?」
「相対戦?」

“相対戦”―――銀時は、一同の前で、解決方法を提示したメルクリウスの口から出た、その聞き慣れない言葉に思わず首を傾げた。
他の面子についても、その言葉の意味を知るアーチャー達を除けば、銀時とほぼ同じようなリアクションを取っていた。

「簡潔に言うなれば、勝敗が明確になるモノであれば、戦闘や交渉を含めた、あらゆる手段を問わずに、双方の戦いに決着を着ける手段というべきモノ。一応、その判定役として、我らが立ち会わせてもらおう。ちょうど、三対三という構図故に悪い話ではないと思うが…如何かな?」
「なるほど…つまり、バーサーカーに聖杯を委ねるワシらと第六天を討つキャスター殿達とで勝負を行い、お主らが審判役となる事で死亡者を出さぬようにし、どちらの方針に従うのか決めようという事なのだな…なるほど、名案だな」
「わしは構わんで。何や、だらだらつまらん話するよかええやないか」

その一同の反応を見たメルクリウスは、皆に相対戦についての大まかな概要についての説明とその勝敗の判定をメルクリウス達で執り行う事を告げ、この提案を受け入れるかどうか尋ねた。
これに対し、ライダーはメルクリウスの意図を明らかにしつつ、少なくとも死亡者を出さないで済むという点で、この提案に賛同し、受け入れることにした。
そして、ライダーと同じく、真島も少なくとも闘えるという一点においては異論がないため、下手な話し合いよりも、そちらの方ははっきりして良いと支持する態度を取った。

「然り。ただ、各々の事情を鑑みるに、今すぐにというのも些か早計というモノ。故に、これより、各々が為すべきことを見定める意味も含め、三日の準備期間を設けるつもりだが、よろしいかな?」

ライダーと真島から出た賛同の言葉に対し、メルクリウスは実に面白いと笑みを浮べつつ、それぞれの決心を確認させる意図を含んだ三日間の猶予期間を設ける事を告げると、一同に確認するように問いかけた。
このメルクリウスの問いかけに対し、銀時らはつけねばならないケジメを着けるために、賛成の意を無言の言葉でもって返した。

「では、三日後、バーサーカー討伐派とバーサーカー擁護派による、三対三の相対戦を執り行う事とする。勝利条件は、三対三の相対戦のうち、二勝先取すること。その相対の結果を以て、各々、この六陣営会談の総意として判断しようではないか」
「なお、相対戦の時間と場所については、バーサーカー討伐派の指定によるものとするが…バーサーカー擁護派は構わぬかな?」
「別に良いぜ。どうせ、ここじゃ、俺達が悪役って訳なんだしな。そのくらいのハンデは仕方ねぇさ」
「銀時…」

そして、一同の同意を確認したところで、ラインハルトは相対戦の勝利条件と共に、今ここに、ランサーらバーサーカー討伐派と銀時らバーサーカー擁護派による相対戦を開始することを宣言した!!
これに加えて、メルクリウスは、相対戦の日時及び場所の指定については、バーサーカー討伐派に一存することを付け加えた。
一見すれば、バーサーカー討伐派の有利となる条件であったが、銀時は自らを悪役と任じながら、ふてぶてしい笑みを浮べて、この条件を呑んだ。
“何で、あんたはいつもそうなのよ!!”―――もはや、自らの首を絞めるような銀時の一連の言動に、セイバーはそう歯がゆい思いで見守るしかなかった。
そんなやり取りの中、それまで静観していた蓮とマリィが何かを見据えるかのように、銀時らのところに近づいてきた。

「…あいつの願いを叶えてやるつもりなのか?」
「まぁな…文句でもあるのかよ?」

そして、この問いかけから逃げる事は許さないという意思を込めた蓮の言葉に、銀時は何時ものごとく、軽口を叩きながら頷いた。
と今度は、逆に、銀時が蓮としてどう思っているのか聞き返すが、蓮は“別に…”と一言だけ告げただけで、多くを語る事はなかった。

「…自分を信じている人たちを敵に回しても?」
「そうだな…だが、この相対戦を通して、ワシらの想いを、真島殿達に届かせる事こそ最善だとワシは思うのだ」
「命を懸けてでも?」
「命を懸けてでもだよ。だからこそ、あんた達も、あのバーサーカーに呼ばれたんだろ」

さらに、心配そうにこちらを見つめるマリィからも、銀時達に、バーサーカー擁護に回った事を後悔していないのか尋ねられた。
だが、ライダーとアーチャーも自分たちの選んだ選択は間違いだとは思っていないし、自らの意思で決めた事であるから後悔もないというように断言した。

「俺はあんた達みたいなとんでも厨二病能力なんて持ってなんかいやしねぇ。正直な話、俺は、大層な肩書背負った英雄とか勇者なんかじゃねぇ。どこの世界でも、何処の時代でも、何処の街にでも、そこら辺にでもいるただのおっさんだ」

自分より遥かに格が上である蓮やマリィにむけて語るように、銀時は人知を超えた特殊能力や力を持った存在ではない。
―――普段から、何をやるにしても無気力で、仕事に対しても、いい加減でなまけてばかりの癖に、金にがめつく、強欲という駄目人間振り。
―――しかも、豪快に見えるようで、何かマニアックで繊細な趣味まで持っているという、本当にお前はジャンプ主人公なのかと問い詰めたくなる気持ち悪さ。
―――加えて、糖尿病持ちという微妙に格好悪い持病持ちスキル。
もはや、何で、こいつはサーヴァントとして召喚されたのだろうかと疑問に尽きないほど、銀時がどこにでも普通にいる駄目なおっさんである事は、覆す事の出来ない事実である。
だが、それと同時に―――

「そんなんでも、俺は俺の武士道を貫きてぇのさ。そして、俺の美しいと思った生き方して、俺の護りてぇもんを護る…それだけだよ」
「まったく…あんたも相当馬鹿な男だな」
「ふふふ…」

―――銀時は、内心において情は厚く、護るべきモノを護るために如何なる無茶を成し遂げ、己の掲げる武士道を貫き通してきた漢でもあるのだ。
だから、ここでも自分の信念を貫くだけだと答える銀時に対し、蓮は、身の程知らずの人間に対する半ば呆れ混じりの言葉で苦笑と共に呟いた。
だが、その実、蓮の恋人であるマリィから見れば、蓮は、お前らになら任せてもいいかという何処か満足しながらも、その本心を悟られまいと照れ隠ししているようにしか見えなかった。

「あぁ…つまらん。何の茶番だ、これは?」

その中に於いても、バーサーカーは、お前らは何なのだ、本当に何がしたいのだと心底理解できない様子で白けたような溜息を吐くだけだった。
自分以外の他者と繋がりを持ち、そこから育まれる輝きを一片たりとも理解できないバーサーカーにとって、この銀時と蓮のやり取りすら、狂った趣向の茶番劇としか見ていなかった。

「よぉ、第六天…てめぇからしたら、俺らの事なんざ塵屑程度にしか見てないんだろうな」
「…」

そんなバーサーカーに対し、銀時はいつになく真剣な顔付きで、バーサーカーを睨み付けながら、憎まれ口をたっぷり含んだ言葉で話しかけた。
当然の事ながら、他者との会話が一切成立しないバーサーカーは、銀時の言葉に何ら反応すら見せなかった。

「なら、言うだけ無駄でも、一言だけ言ってやるぜ。てめぇは、それで自分が何なのかをちゃんと見ているつもりなかよ」
「はぁ…?」

しかし、銀時も、そんな事に構うことなく、一方的にバーサーカーに話しかけ、まるで、自己愛に狂ったバーサーカーこそ、最も自分が何であるのか分かっていないと断言した。
それでも、バーサーカーは、銀時の言葉に首を傾げ、訳の分からぬ塵が訳の分からぬ事を囀っている程度にしか感じていなかった―――わずかに、額にある三つ目の眼“天眼”だけが銀時を凝視するように見開き、その焦点を合わせたが。

「…面倒だ。塵同士勝手に潰し合っていろ。それが嫌なら、さっさと潰してやるから早く決めろ」

もはや、塵同士の囀り合いに完全にやる気をなくしたのか、バーサーカーは、心の底からどうでもいいという投げやりな捨て台詞を垂れ流しながら、自分の後ろをトコトコとついて行く桜に構うことなく、この場から立ち去ろうとした。

「そうだ。帰る前に一つ聞きたかったんだが―――」

その直前、バーサーカーは何かを思い出したかのように振り返り、セイバーにむけて指をさしながら―――

「―――お前、今度は、いつ、そこの塵を斬るんだぁ? 前の時みたいによぉ」
「えっ?」
「な…!?」
「今度、前の時だと…?」

―――セイバーにとって最も忌むべき心の傷を抉りだし、知られてはならない事実を周囲にさらけ出した。
この思いもよらないバーサーカーの何気ない一言に、セイバーは、疑問や驚きの声を上げる銀時やアイリスフィール、第一天の言葉すら耳に届かないほど意識を凍りつかせ、過去の情景が一気にフラッシュバックした。
―――愕然とする自分に目を向けることなく、甲冑を身にまとった半剱冑である少女と共に、背を向けて立ち去ろうとする、かつて、自分の仕手であった男。
―――上空にて、半剱冑を装甲したかつての仕手だった男と六波羅最強の武者によって繰り広げられる死闘。
―――沸き起こる情念と共に握りしめられる刃。
そして、最後に現れたのは―――

“よくも俺を殺したな、村正”

―――突き立てられた刃を握る自分に向けて、はるか奈落の地面に堕ちながら、あらん限りの呪詛の言葉を叩き付け、悪鬼の形相を浮べたかつての仕手の死に顔だった!!

「何で…何で、それを、あんたが…!!」
「早く塵掃除をしろよ。元より、てめぇみたいな出来損ないのガラクタに出来る事は、塵掃除しかねぇんだからよぉ」

次の瞬間、意識を取り戻したセイバーは、今にも崩れ落ちそうな身体を必死になって奮い立たせながら、自分しか知らない筈の過去の出来事を何故知っているのか、この場を立ち去ろうとするバーサーカーを問い詰めようとした。
だが、バーサーカーは、セイバーの問いかけに応じるどころか、目もくれることなく、一方的な言葉だけを垂れ流しながら、今度こそこの場から立ち去って行った。

「違う…今度は、今度こそ、絶対に、私は…!!」
「…セイバー?」

“こいつも、厄介な何かを背負っているのか”―――銀時は、俯きながら、今度こそ同じ過ちを繰り返すまいと呟き続けるセイバーの姿を見て、そう思わずにはいられなかった。

「さて…卿に頼みたいことが有るのだが構わんかな?」
「俺に…ですか?」

その一方で、ラインハルトも、この相対戦において、一番の障害となるある人物への対策の為に、今まで、蚊帳の外に置かれていた大輔にある頼みを申し込んだ。
かくして、六陣営会談は、誰もが予想しなかったバーサーカー討伐派とバーサーカー擁護派による相対戦をもって、バーサーカー討伐に於ける方針を決することになった。




「それで?」
「それでって…まぁ、今、アイリス達が説明したとおりだよ」

ヴェヴェルスベルク城から戻ってきた銀時達から、事の事情を聞いた切嗣は、一旦は目を伏せた後、無表情のまま銀時に目を向けて、自身の感情を読み取られないほどの静かな声で問いかけた。
そんな切嗣の問いかけに対し、銀時は、問いかけの意図に薄々感じながらも、アイリスフィールらが説明したとおりであると答えを返した。
そして、一呼吸置いた後、切嗣は静かに、ゆっくりと口を開きながら言った。

「…それで?」

この切嗣からの再度の問いかけに対し、銀時は何かがヤバいと思いながらも答えを返すことにした。

「だから、今から、三日後に相対戦ってやつで、バーサーカーを倒すのか、バーサーカーの願望を叶えるのか決め…」
「僕が聞きたいのは―――」

だが、切嗣は、事の成り行きを説明しようとする銀時の言葉を遮り、静かに言葉を紡ごうとした瞬間―――

「―――何で、バーサーカーに聖杯を譲るなんて馬鹿な事を言い出して、こんな余計な事態を招いたかという事だ!!」
「き、切嗣…!! お、落ち着いて!!」

―――これまで積み重なっていた不満を、遂に、銀時にむけて、激しく荒ぶる怒声と共に怒りの感情として爆発させた。
この聖杯戦争において、初めて、胸の内をさらけ出した切嗣に対し、アイリスフィールは驚きながらも、必死になって宥めようとした。
だが、銀時と切嗣との関係は、既にアイリスフィールの言葉で事を収められる程、軽く済まされるような問題ではなくなっていた。

「仕方ねぇだろ…まぁ、俺達も色々と説明不足だったかもしれなかったけどよぉ」
「仕方ないだと? 君がそれだけ言うのなら、あのバーサーカーに聖杯を渡す理由を是非とも教えてもらいたいところだね」

これまで見せたことの無い切嗣の剣幕に、銀時は知らず知らずのうちに地雷を踏んでしまった事に気付き、自分の不手際を詫びながらも、銀時なりの事情ある故の不可抗力であると言った。
だが、切嗣としても、今回の一件―――銀時がバーサーカーに聖杯を譲ると言い出したことについては、もはや裏切りの宣告とも取れるモノであり、到底、無視できるものではなかった。
場合によっては、銀時の排除という最善の手段を含めながら、切嗣は冷淡な眼差しで、徹底的に厭なモノ見るように、銀時を睨み付けながら、さらに深く問い詰めた。

「そうね…いくら何でも、理由もなしにバーサーカーに聖杯を渡すなんて無理な話よ」
「もっとも、あの極大の下種にそんな理由なんて有るとは思えないけど」

とはいえ、切嗣程ではないにしろ、アイリスフィールやセイバーも同じように、バーサーカーに聖杯を譲ろうとする銀時の考えに賛同できずにいた。
六陣営会談において、アイリスフィールらの知る限りでは、バーサーカーの所業は下種以外の何物でもなく、聖杯に託さんとする願いも下劣極まりないものだった。
だからこそ、アイリスフィールやセイバーは、倉庫街の戦いの後、バーサーカーが聖杯を得ることを阻止すると宣言した銀時が、なぜ、手のひらを返したかのようにバーサーカーに聖杯を譲ると言い出した事に、さすがに不審を抱かずにはいられなかったのだ。

「ま、そうだよな…まずは、そこからだよな」
「銀時…?」

そんな一同の言葉に対し、銀時は、あの映画で見た最後の映像の事を思いだし、何かを思いつめたような様子で呟いた。
セイバーは、徐に頭を上げた銀時の顔を見て、思わず、戸惑いを隠せなかった―――銀時の眼が、いつもの死んだ魚のような虚ろな目ではなく、誰かを護る、救うと決意した時に見せる輝きを宿した瞳だった事に。

「なら、話すぜ。俺達が、あの映画の最期で何を見て、何を知ったのかをな」

やがて、銀時は、あの映画館で自分たちが何を知ったのかを、どうして、バーサーカーに聖杯を譲るという結論に至ったのかを、切嗣たちの前で語り始めた。


同時刻、真島たちは、とある客人を連れて、藤村邸へと戻り、少しばかり遅めの夕飯とつかの間の休息を取っていた。

「あぁ、さっぱりしたぁ…ありがとう、大河。色々と気を使わせちゃって悪かったわね」
「さすがに、あのまま、廃工場に居たらお風呂も満足に入れなかったでしょうね。本当に助かったわ」

とここで、湯浴みを終え、用意されていた浴衣を羽織ったランサーとソラウは、部屋にいた大河に申し訳なさそうに苦笑しながら礼を言った。
実は、ヴェヴェルスブルク城での、六陣営会談の後、ランサー達が、ホテル爆破事件の後、廃工場にて野宿生活をしている事を知った真島は、バーサーカー討伐派のよしみとして、自分たちが拠点としている藤村邸に来ないかと提案したのだ。
最初は、要らぬ気遣いだとにべもなく断ったケイネスであったが、これ以上、許婚としてソラウに野宿生活を強いるのはどうかというランサーの一言に渋々承諾するしかなかった。
そういう訳で、ランサー達は、大河の承諾もあってか、来たるべき相対戦が始まる間、藤村邸にて寝食を共にすることになったのである。

「あぁ、気にしないでください。困っているときはお互い様なんですから…それに私に出来る事はこんな事ぐらいしかないですし」

これに対し、大河は、思わず、この程度の事しかできない自分の無力さに暗い気持ちになるも、自身の心境を気付かれまいと無理やり笑みを作った。
当初、事の真相を明らかにするんだと意気込んだは良いモノの、結局、大河たちは、六陣営会談に於いては蚊帳の外という立場に甘んじただけだった。
何もできなかったなぁ…―――大河は、今回の一件を通して思い知った、自身の無力さと不甲斐無さにそう思い悩むしかなかった。

「…何故、ランサーは、あのような姿で、しかも、男が同伴している部屋に堂々と入って来られるのだろうか?」
「まぁ、そういう達の女なのだろう。まぁ、気に病むだけ無駄というモノだ」
「はぁ…」

一方、ケイネスは、胸元を大きく開けたまま、自分たちの居る部屋に入ってきて、気にすることなく寛いでいるランサーを見て、痛む頭を抑えながら疑問詞系の愚痴をこぼした。
もっとも、ケイネスとしても、同じく浴衣を羽織ったキャスターの言うように、生粋の戦闘大好き女に淑女としての恥じらいを期待するだけ無駄である事は百も承知だったので、ため息をつくしかなかった。

「んで、どう思っとるんや、お前らは?」
「ん? 何がよ?」

とここで、先ほどまで、ビールを片手に寛いでいた真島が、何かを考え込んだ様子で、部屋にいる一同に、徐に問いかけていた。
この真島の問いかけに対し、ランサーは、真島が何を言わんとしているのか勘付きながらも、とぼけた様子でどういう事なのか聞き返した。

「あいつらの事や。バーサーカーに聖杯やるって言うとった連中や」
「あぁ、アレね…」

そして、真島は、ランサーの予想通り、バーサーカー擁護派に回った銀時達の事について尋ねている事をポツリと打ち明けた。
“やっぱりか…”―――ランサーは、真島の言葉を聞き、用意されていた缶ビールの手にしながら、六陣営会談に参加したほぼ全てのメンバーを敵に回した銀時達の事を思い出した。

「…別に言うまでもない。あの馬鹿どもはバーサーカーに恐れをなしただけだ」
「ふん…下賤な輩に召喚されたサーヴァントの考える事など理解する気にもならんね」
「正直、がっかりしました。あんな小さな女の子を見捨てるなんて…」
「散々な評価ね…まぁ、話を聞く限りだとそう言いたくなるのも無理はないでしょうね」

当然の事ながら、バーサーカー討伐派の急先鋒であるキャスターを筆頭に、ケイネスや大河は、バーサーカー擁護派に回った銀時らに対し、思い出すのも腹立たしいと言った様子で、忌々しげに言葉を吐き捨てた。
銀時達への悪感情を隠すことなく口にするキャスターらに、ソラウは若干驚きながらも、ランサーから聞かされた六陣営会談でのバーサーカーの外道振りを知った以上、無理もないかと納得するしかなかった。

「ふ〜ん…あんたらはそう思とる訳やな」
「まぁ、無理もないでしょうけどね」
「何?」

だが、意外な事に、口々に嫌悪の言葉を口にするキャスター達と比べ、真島とランサーは、比較的冷静な態度でキャスター達の反応を見つつ、やっぱりなぁという意味を含ませたうえで、それぞれの感想を苦笑と共に、口にしていた。
さらに付け加えるなら、ランサーと真島は銀時らにまったくといって良いほど悪感情を抱いているようには見えなかった。
このあまりに淡白なランサーと真島の反応を見て、てっきり、自分たちを支持してくれると思っていたキャスターは思わず、余りに落ち着きすぎているランサーと真島にむかって、よほど予想外だったのか怪訝な表情を浮かべた。

「違うとでも言うのか?」
「…少なくとも、私の知る限り、あの銀時やアーチャーがそんな理由もなく、バーサーカーに聖杯をあげるなんて思ないわ」
「わしもやな。少なくとも、わしの見る限りやと、ライダーとあのウェイバーとかいう坊主の眼は腐っとらんかった。あの眼は何かを覚悟しとる漢の眼やった」

さすがに、これには、ケイネスもランサーと真島の落ち着いた様子を不審に思ったのか、ランサーと真島の真意を確かめるように問いかけた。
このケイネスの問いかけに対し、ランサーと真島は、アインツベルンの森での一件や六陣営会談での一幕を踏まえた上で、少なくとも、銀時達がただ単にバーサーカーへの聖杯譲渡と同じに等しい行為―――バーサーカーへの恭順を示した訳でない事に気付いていた。

「じゃあ、あの人たちがあんな事を言ったのも…」
「何か理由が有る事は確かね。ま、銀時とアーチャーは色んな意味で馬鹿な連中だけど、小さな女の子を見捨てるような卑怯者じゃない事だけは、私が保証するわ」

まさかと驚いたように尋ねる大河の言葉に、ランサーは、銀時とアーチャーを貶しているのか褒めているのか分からない微妙な評価をしつつ、軽く笑って返した。
―――一方は、苛烈な戦場でも、普段は無気力丸出しの死んだ魚の眼をしたやる気のない駄目親父サーヴァント。
―――もう一方は、どんな緊迫した場面でも、その空気をぶち壊すかの如くシリアスブレイカーな全裸系サーヴァント。
―――何で、こんな奴らが英霊やれるのか分からないが、少なからず、二人と関わって分かった事が一つあった。
“あいつらは良い奴だ…思わず、倒すのが惜しいと思ってしまうほど”―――ランサーの知る限り、それだけは確かな事だった。

「では…奴らが、そこまでして、バーサーカーに聖杯を譲ろうとする理由とは何なのだ?」
「それは、まだ、分からないわね。ただ、あの映画を最後まで見た者にしか分からない何かが有るってことじゃないの」

この銀時とアーチャーに対する思わぬ高評価に、ケイネスは、今一つ納得できないモノを感じながら、ランサーに対し、そんな銀時達がバーサーカーに協力するような真似をするのかを尋ねた。
とはいえ、ランサーも、何故、銀時達がバーサーカーに協力する理由については分からないと答えるしかなかった。
だが、ランサーは、恐らく、自分たちにバーサーカー討伐を決意させたあの映画が、銀時達の不可解な言動に繋がっているのではないかと推測していた。

「なら、マスター…そこまで、気付いていながら、何故、奴らと敵対する事にしたのだ?」
「まぁ、わしらもやけど…あん時、頭に血が上った嬢ちゃんらに何言うてもあかんと思ったのが理由の一つや」
「うっ…」

とここで、キャスターは、何故、銀時達がただバーサーカーにくみしたわけでは無いと思いながらも、真島があえて銀時達と敵対するように見せかけ、メルクリウスの提案した相対戦に応じたのか尋ねた。
これに対し、真島は、映画で見たバーサーカーの下種な所業や、会談の場に乗り込んできたバーサーカーの外道じみた言動により、自分を含め、キャスター達が完全に冷静さを失っていた事を理由に挙げた。
実際、マリィを惨殺したバーサーカーに怒り心頭だったキャスターは、何かを伝えようとしたライダーにむかって、バーサーカーに組する者は容赦しないと言わんばかりに、問答無用で火球を放っていた。
普段は、キャスターを振り回すほどの戦闘狂な真島に、この事実を突かれたキャスターは何も言えず、罰悪そうに言葉を詰まらせるしかなかった。
だが、真島とランサーが銀時達と敵対したのには、それ以外にも、もう一つの理由が有った。

「それにのう…あの相対戦とかいうのが、わしにとって、あいつらと全力で闘える最後の機会やと思ったからや」
「やっぱり…あんたもそう思ったんだ」

そして、真島は手にしたビールを一飲みした後、倉庫街の一件以降からやり残していたライダーとの闘いを望んでいた事を語り、ランサーも同じように、倉庫街の一件でやり残した銀時との決着をつけたがっていた事を打ち明けた。

「正直な話、あのバーサーカーとまともにやり合えば、どんなに頑張っても、私たちの内の誰かは無事じゃすまなくなるのは目に見えているわ。だからこそ、私は決着をつけたいのよ、銀時とのね」
「わしも同じやで、ランサーのねえちゃん。どんな形やろうと、わしは、正真正銘の、全身全霊の出し惜しみなしの、全力勝負でライダー、家康との決着をつけたいんや…男としてのう」

“全力で闘いたい”―――それが、お互いに屈託なく笑い合う真島とランサーが、あえて銀時達と敵対し、メルクリウスの提案した“相対戦”に応じた最大の理由だった。
恐らく、ランサーの言うように、桁違いの強さを誇るバーサーカーの討伐は、文字通りの死力を尽くした総力戦となる事は確実だろう―――そのうちの何人かが戦死する可能性がある事も含めて。
だからこそ、ランサーも真島も、バーサーカー討伐を前にして、悔いを残さない為に、全力を出し切って闘うと誓った相手との決着をつけんと、メルクリウスの提案を受け入れて、銀時達と闘う事を選択したのだ。

「ふぅ…お互い度し難いほどの戦闘馬鹿と契約してしまったものだな、アラストールよ」
『だが、それがマティルダ・サントメールなのだ』
「ふふ…本当にそうね」
「まったく…サーヴァントにしろ、マスターにしろ、こう自由気ままな者たちに振り回される身としてはたまったものではないがな」
「何だか、子供みたいですね…二人ともv」

このランサーと真島の言葉に対し、ケイネス、アラストール、ソラウ、キャスター、大河は、言葉でこそ苦笑しながらも、その表情は晴れやかな笑みさえ浮かべており、何処か納得した様子で受け入れていた。
“アイツと満足いくまで闘いたい”―――つまるところ、ランサーと真島が望むのは、自身が認めた強敵との純然たる闘争であり、何処の場所でもどこの時代でも変わらない子供の喧嘩だった。
それは合理的とは言い難く、常人にはおろか魔術師であっても理解しがたい陳腐と揶揄されそうな理屈。
“だけど、そんな馬鹿がいたって良いじゃないか”―――ケイネス達は、強敵との再対決を夢見るランサーと真島の姿を見て、そう思ってしまっていた。

「まぁ、なんや…男ちゅうのはいつまでもやんちゃな餓鬼みたいなもんやからのう」
「なら、私は、自己満足が第一の酷い女の子とでも言うべきかしらね」
『マティルダよ…少女と呼ぶには、年齢的に無理がありすぎ―――そぉい!!―――うぐぅ!?』

そんな一同の言葉を受け、真島は年甲斐もなくはしゃぎ過ぎたかと照れ隠しをするように、カカッと豪快に笑って返した。
続けて、ランサーも、真島と同じような言葉を返すが、アラストールのツッコミを受けた瞬間、即座にアラストールの意思を表出させるコキュートスを天井にむけて叩き付けた。



時をさかのぼる事少し前、言峰綺礼は誰も居ない礼拝堂の中で、信徒席の最前列に座りながら、ここに来るはずのある人物を待っていた。

「よぉ、待ち人は…まだ来ていないみたいだな」
「アサシンか…」

とここで、人を待つ綺礼に代わって、璃正に六陣営会談に関する報告を入れていたアサシンが、璃正への報告を終えて、礼拝堂に入ってきた。
礼拝堂に入ってきたアサシンは周囲を見渡しながら、綺礼の待ち人が来ていない事を確認し、最前列の席に座る綺礼の傍に座ると、璃正から得た情報を話し始めた。

「さっき、死亡したスタッフの代わりの人員補充についての要請がようやく通ったそうだ。まぁ、すぐにじゃないが、四、五日もすれば到着するみたいだぜ」
「ほう…あのマクスウェルがよく許可したモノだな」

まず、アサシンから、璃正がかねてより要請していたスッタフの補充が受け入れられたことを聞いた綺礼は、表情にこそ出さないものの、あれほど要請を受理しなかったマクスウェルの心変わりを知り、意外そうに呟いた。
少なくとも、綺礼の知る限りでは、マクスウェルという狂信者はそういった便宜を図ってくれるような相手ではないように思えたのだが。

「それと、璃正の爺さんが、遠坂時臣の事を気にかけていたみたいだが、状況が状況なだけに適当にはぐらかしておいたぜ」
「その方が良いだろう」

とここで、アサシンは話を切り替えるように、六陣営会談後の時臣の事を、璃正にあえて詳しい情報を教えなかった事を伝えた。
“今の時臣がどういう状況なのか知れば直のことな”―――綺礼は重々しく呟くと、今の時臣の現状にそう思わずにはいられなかった。

「自分の工房に閉じこもって、酒浸りか…典型的な没落貴族の有様だな」
「仕方あるまい。時臣氏にとっての全てを文字通り、バーサーカーと間桐桜によって打ち砕かれたのだからな」

時臣の工房に潜ませたカードからの視覚を通してみえる光景に、苦々しい表情でぼやくアサシンに対し、綺麗は半ばなるべくしてなったという心境で、六陣営会談後の、余りにも無残な時臣の姿を思い出していた。
―――死んだ魚のように光を失った虚ろな瞳。
―――繰り返すように呟かれる謝罪と後悔の言葉。
―――完全に道を見失い、何処を歩いているのか分からないほど覚束ない、夢遊病者のような足取り。
もはや、かつての貴族然とした時臣の姿はなく、己の信じていたモノを全て失った哀れな敗残者も同然な有様だった。

「アサシン…なぜ、バーサーカーを討伐する事にしたのだ?」
「あぁ、なぜって…まぁ、俺個人としてもバーサーカーの在り方は気に入らねぇというもあるけどな」

そして、ある程度の報告のやり取りを終えた後、綺礼は徐に、何故、六陣営会談において、バーサーカー討伐派に回ったのかアサシンに尋ねた。
これに対し、アサシンとしては、他のメンバーのようにバーサーカーの下種な所業を見たからというだけでなく、別の理由もあった。

「だが、それを置いといても…映画の最中、ずっと顔を顰めっぱなしだったのを見りゃ、嫌でも、そうするしかねぇだろ」
「…気付かれていたか」

映画館にて綺礼の様子を伺っていたアサシンの指摘を受け、綺礼は知らず知らずのうちに感情が表情に出てしまったことに未熟さを感じつつ、アサシンの指摘を肯定するように呟いた。
事実、綺礼はあの映画を見ている最中、バーサーカーに対し、終始拭いきれない不快感を抱き続けていた。
他者の苦痛を悦とする綺礼であったが、バーサーカーの所業には如何なる歓喜も満足感もいだけなかった。
理由はただ一つ―――バーサーカーの在り方が、森羅万象滅尽滅相という思想が、あまりにも受け入れがたいものだったからだ。

「私はバーサーカーを、あの邪神の理が蔓延る世界を断じて認める訳にはいかない。アレは違う。アレに、私の求める答えなど一片の限りもない」

表情を隠しながらも苛立ちを込めた声で語るように、綺礼にとって、あのバーサーカーは、ある意味に於いて、綺礼の求める答えを示していた。
ただ、それだけならば、綺礼も、あのバーサーカーをあそこまで嫌悪することなく、逆に歓喜と共に受け入れても良かったとさえ思っていた。
だが、己以外の他者を尽く滅ぼさんとするバーサーカーの世界は、他者の苦痛や不幸でしか愉悦を感じられない綺礼からすれば、悦を齎してくれる他者を奪い去ってしまう世界でしかなかった。
故に、綺礼とって、バーサーカーは討ち滅ぼすべき邪神であると確信するほど容認しがたいモノでしかなかった。
とその時、礼拝堂の入り口の扉から、“失礼する”という声が聞こえてきた。

「どうやら、来たようだな」
「あぁ…」

これを聞いた綺礼とアサシンは、すぐに扉の向こう側にいる声の主が誰であるのか気付いた。
恐らく、声の主は、六陣営会談の最中、アサシンのトランプカードによって届けられた綺礼からのメッセージを読み、この場所に赴いてくれたのだろう。

「ようこそ、“黄金の獣”…いや、ラインハルト・ハイドリヒと呼ぶべきか。この招きに応じてくれたことに―――邪魔するぜ、お邪魔しまーすv―――ん!?」

綺礼は、メルクリウスが紹介した、綺礼の求める答えを知る人物―――“黄金の獣”ラインハルトの名を呼びつつ、自身の招きに応じてくれたことに感謝の言葉を口にしようとした―――とてつもなく不穏極まりない二つの声を聞くまでは。
まさか!?―――綺礼は何やら嫌な予感を覚えていると、勢いよく礼拝堂の扉が開かれた。

「よぉ、モジャ神父…あの全裸神父はいねぇよな?」
「おいおい、銀時。もしかして、そっち系の趣味あったのかよ!?」
「んなわけねぇだろ、全裸!? つうか、半分は、てめぇの責任じゃねぇか、コノヤロー!!」

そして、そこには、綺礼の嫌な予感が的中したことを示すかのように、相変わらずの漫才トークなやり取りをする銀時とアーチャーの姿が有った。
何やら、銀時は全裸神父―――璃正の事を気にしているようだったが、現在、璃正は所用の為に外出している最中だった―――何やら普段は着ることの無いコートを羽織っていたが。

「…なぜ、彼らが此処に?」
「あぁ、たまたま、街中で出会ってな…目的地が同じだったので、一緒に同行することになったのだ」

この予想外の客人に、綺礼は眩暈を覚えそうになりながらも、この二人を同伴してきたラインハルトに尋ねた。
これに対し、ラインハルトは、この冬木教会へ来る途中で、偶然にも、同じく冬木教会へと向かっていた銀時とアーチャーと出会ったので、ついでという事で、三人で一緒にここまで来たことを明かした。

「おう、モジャ神父さんよぉ…ここは、そこの全裸の話だと、中立地帯ってことなんだよな?」
「あぁ、そうだが。それがどうかしたのか?」

とここで、璃正が居ない事に安堵していた銀時が、アーチャーから冬木教会がどの陣営からの干渉を受けない中立地帯となっていることを確認するように、綺礼にむかって尋ねてきた。
“なぜ、今更、そんな事を…”―――綺礼は、余計なオマケである銀時にそううんざしながらも、投げやりに答えを返した。
後に、この時の銀時の様子をアサシンはこう語っていた―――“アレは、絶対に逃すまいと詰めと牙を剥きながら、獲物を捕らえる寸前の獣みたいだったと”

「悪いけど、俺、さっき、切嗣と喧嘩して、家出しちまったんだわ。だから、相対戦始まるまでの三日間、ここに泊めてくれね?」
「なんでさ!?」

そして、この予想だにしなかった、家出してきた銀時からのお泊り宣言に、綺礼は思わず彼らしからぬツッコミを入れるしかなかった。


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