スピードレーシングがスタートし、最初にトップに躍り出たのが凛とぐれリンであった。
その後を追うフェイトとレヴィ。
「ふっふっふ、来たわね。ぐれリン、お願いね」
そう言うとぐれリンは反転し、フェイトとレヴィに目掛けて野球ボールを投げつけて来た。
「え!?」
「なぁ!?」
フェイトは巧みにかわすし、細かい動きが出来ないレヴィは直撃を受ける。
《おおっとー! ぐれリンがフェイト選手とレヴィ選手に攻撃を仕掛けたー! 流石リン選手! やる事がえげつなーい!》
「そうだぞー! 正々堂々勝負しろ!」
「ルール違反じゃないけど、最低限のマナーは守ろ」
アリシア、レヴィ、フェイトの三人が凛の行いを咎めるが、凛はそんな事知った事ではない表情で――――。
「うるさいわね! この世は弱肉強食! 勝てば官軍! 負ければ賊軍! つまり、最終的に勝てば良かろうなのだぁぁぁ!」
―――と、どこぞの悪役の名台詞を堂々といい放った。それを後方で聞いた優人と慎二は――――。
「あれ? 凛ってあんな性格だっけ?」
「勝負事になると見境が無くなるんだよなアイツ。まあ、大概はうっかりで失敗に終わるけどな」
慎二がそう呟くと、突然観客がどよめく。それと同時にアリシアが叫ぶ。
《おおっと! なのは選手! 障害物ビルを壊しながら進み! ぐれリンを吹っ飛ばした!!!》
ここで少し状況を説明しよう。
なのはは今日手にいれたスキルカード、プロテクションEXを使い、ビルを貫通しショートカットしながら突き進んだ。
そして貫通したビルから出ると、ちょうどぐれリンと鉢合わせしてしまい。そのままぐれリンを引き飛ばしたのである。
「私のぐれリン!? 良くもやってくれたわね白いの!!」
「え!? ご、ごめんなさーい!」
「謝って済むなら警察は要らん! 後で百倍にして返してやるわよ!!」
「ええー!?」
《リン選手! なのは選手に威嚇! その姿は大人げなーい!》
「うるさいわね! 勝負に年は関係ないのよ! やるかやられるかよ!」
《そんな事をしている間に、フェイト選手とレヴィ選手がリン選手を抜いてトップに出たー!》
「え? うわマズ! 待ちなさーい!」
抜かれている事に気づいた凛は慌てて二人を追いかける。
《順位が大きく変わり、トップはレヴィ選手、続いてフェイト選手、リン選手、なのは選手が後を追うー!
気になるトップ争いですが、後方はどうなっているんでしょうか?》
先頭グループが熾烈な一位争いをしているなか、後方ではブレイクターゲット争奪戦が行われていた。
《おや? 軌道を見てみると、高校生チームとT&Hチーム達は空を飛んでいませんね》
「人がすいすい飛べる訳無いでしょ!」
「浮かぶだけなら何とか出来るんだけど・・・・・・・・」
「慣れない飛行より、こうした跳躍の方が良いと思って」
「僕のアバターは燃費が悪くてね。なるべく節約しないと持たないんだよ」
四者四様の理由によって、四人は飛行せずにビルからビルへと跳躍しながら移動していた。
「アリサちゃん! 前方にターゲットが三体!」
「よーし! いただき!」
アリサはフレイムアイズを振るい、ターゲットを一体破壊した。
「次は―――」
しかし、アリサが一体破壊している内に、慎二が二体のターゲットを破壊していた。
「はは! のろまだな!」
「なんだとー! すずか! 次のターゲットの場所を!」
「うん! わかった!」
すずかは急いでスキルを使い、ターゲットの捜索をするのだが、ことごとく慎二と優人が先回りをしていた。
「何でよー!? やっぱり遠距離が無いセイバーじゃ不利なの!?」
《それはちょっと違うよアリサ》
アリサ達の状況を見かねたアリシアは、二人にアドバイスを送る。
《シンジのアバターは確かに遠距離スキルがあるけど、通常攻撃はそんなに強く無いから、中距離じゃないとターゲットを一発で壊せないんだよ》
「それならどうして向こうが早くターゲットを破壊出来るのよ?」
《それは向こうのキャスターが優秀だからだよ。すずかはターゲットの場所だけしか伝えて無いけど、向こうは最適なルートまで割り出して慎二に伝えているんだ。だから二人より先にターゲットを破壊出来るの》
「それじゃどうすれば・・・・・・・・」
《私が言えるのは、キャスターの本領は仲間の支援。すずかが今出来る支援の方法を考える事》
「私が・・・・出来る方法?」
《アドバイスはここまで、後は自分で考えるように》
アリシアがそう言って通信を切り、実況の仕事に戻っていった。
その頃慎二と優人は――――。
「慎二! 前方にターゲット四体! ルートは―――」
「OK! 派手に食らいな!」
優人の指示に従い最短ルートでターゲットを破壊していく。
「やっぱり僕らのコンビは最強だね! こんなにも圧倒だよ!」
「油断は禁物だ慎二。慢心していると足元からズブッと行くぞ」
「大丈夫だって、向こうのキャスターはあんまり役に立って無いみたいだし。この分なら遠坂に頼らなくっても――――」
慎二と優人は立ち止まり、一際高いビルを見る。優人のレーダーにはその屋上にターゲットある。
「これはスルーだな。無理に取らなくて良いだろう」
「そうだな。無理に取りにいって時間をかけるより、別のターゲットを仕止めた方が効率が良い」
二人は屋上のターゲットを諦め、迂回する事にした。
そこにアリサとすずかコンビがやって来た。
「行くわよすずか!」
「うん! 任せてアリサちゃん!」
二人は迂回せずに、ビルに向かって行った。
「どうやらあの二人は屋上のターゲットを狙うつもりのようだ」
「っていうか、それしか無いんじゃない。僕達とターゲットの取り合いじゃ勝てないんだから、少しでも得点が欲しんだろ。
どっちにしても浅知恵さ、アイツらがビルをもたもた登っている内に残りのターゲットを全て――――なに!?」
慎二は思わず目を見張る。
すずかのスキルによって屋上までの氷の足場が作られており、アリサがそれを伝って屋上まで登っていく姿を見た。
《おおっと! アリサ選手とすずか選手の連携で屋上のターゲットを撃破! 見事なコンビプレーです!》
「なるほど、そういう手を使って来たか・・・・少しはやるじゃないか」
「感心してる場合じゃないぞ慎二。向こうがビルを渡ったならショートカットしたも同然だ」
「なら巻き返すだけだ! 行くぞ衛宮!」
二人はアリサ、すずかコンビの後を追うのであった。
前半戦が終わり、ポイントの集計が始まった。
《それでは集計結果です!第一位は―――85ポイント! T&H!》
「「「「やったー♪」」」」
《続いて第二位は83ポイントの高校生チーム!》
「若干足りなかったか・・・・・・・・」
「後半、思いのほかターゲットを取れなかったからな。遠坂が二位をキープしてくれていれば確実に一位なっていた筈なのに」
「わ、私のせい!?」
《第三位はダークマテリアル! レヴィ選手が一位を取ったものの、フレンドNPC達があまりターゲットを破壊出来なかったせいで、得点に差が開いてしまったようです》
「ぬあ〜〜!! 僕の完璧な作戦が!!!」
《ここでハーフタイムに入ります。十分後に後半戦が始まります》
アリシアがそう言うと、会場はトイレに行く者やジュースを買いに行くもので、徐々に数が減っていった。
そんななか、一人の少女が優人達の所にやって来た。
「ふむ、やっているようだな」
「あ! 王様〜〜!」
レヴィは少女を見つけると、勢いよく抱きついた。
「これレヴィ! 抱きつくでない!」
「ごめんね王様・・・・前半負けちゃった・・・・」
「このたわけ、我が来たからにはそんなもの簡単にひっくり返して見せよう。その前に――――」
王様と呼ばれた少女は優人に向き直り、親しみのある笑みを浮かべた。
「久しいなユウトよ。師匠は息災か?」
「久し振りディアーチェ。シロウ兄なら相変わらず小言を言って来るよ」
「え? 王様、ユウトンと知り合いなの?」
「ああ、ユウトは我が師匠の弟君だ。それと八神堂でアルバイトもしておるのでな」
「え? 優人さん八神堂でアルバイトしてたんですか? 私も最近通っているんですよ」
「そうなのか、そしたら何処かですれ違っていたのかも知れないな」
「ともかく! 例え師匠の弟君であっても、手は抜かん! 死力を尽くして挑むがよい!」
バァーン!と、ディアーチェは威厳のあるポーズを取り、優人に宣戦布告した。
それを見たアリシアは何やらウズウズしていた。
「アリシアちゃんも参加してみる?」
「でも仕事があるし・・・・・・・・」
「負けるのが怖いのか? ち・び・ひ・よ・こ」
「むぅ! 今のはカチンと来たよ! その油断慢心な心を壊してあげる!」
ディアーチェの挑発を受けて、アリシアも後半戦に参加する事になった。
それを知った高校生チームは冷や汗をかいていた。
「不味いな・・・・ただでさえディアーチェが参戦して厄介なのに、アリシアまでもか・・・・・・・」
「そうね、アリシアのエキストラクラスは結構トリッキーなのよね・・・・・・・・」
「あと一人、スピード重視のアバターが居ればな・・・・・・・・」
そんな話をしていると、一人の男性が優人達の側にやって来た。
「あれ? ユリウス先生? どうしてここに?」
「レオを探しにここに来たのだが・・・・見なかったか?」
「レオを? そういえば見てないな・・・・・・・・」
「確かに妙だな。アイツは嫌でも目立つから、T&Hにいたらすぐに見つかる筈。嫌、そもそもこんなイベントを見逃す奴じゃないね」
「だとすると、ここにはいないのか・・・・・・まいったな、もう心当たりが無い」
ユリウスは心底困った表情をした。
すると凛が意地悪な笑みを浮かべ―――――。
「ねえ先生。レオ君の居場所が知りたいんですよね?」
「む? 遠坂は心当たりがあるのか?」
「ええ、その代わり後半戦に私達の助っ人をして貰えませんか?」
「そう来たか・・・・相変わらず黒いな遠坂は・・・・いいだろう」
ユリウスは凛の条件に頷き、カードホルダーを取り出した。
「ユリウス先生もブレイブデュエルをやっていたんですか?」
「レオに進められて多少な。俺は間桐や遠坂みたいに全国ランカーではないから、あまり期待するなよ」
「そんな事は無いんじゃない。少なくとも遠坂よりは期待出来るよ」
「それってどういう意味よ慎二?」
「言葉通り、ユリウス先生なら抜け目とか無さそうじゃん。それに比べて遠坂はうっかりがあるだろ。
どちらに期待出来るのかなんて、猿でも分かる事さ」
「言ってくれるじゃない。ワカメの分際で」
「誰がワカメだ!!!」
「お前ら、いい加減にしろ。戦う前から仲間割れをするな」
「あ、大丈夫ですよ。あれは二人のコミュニケーションですから」
「・・・・そうなのか? 旗から見れば口論しているようにしか見えないが・・・・」
「ケンカするほど仲がいいんですよ。漫才のコンビ的な」
「「誰がコンビだ!!!」」
「・・・・・・・・果てしなく不安だ」
ユリウスは一抹の不安を感じたのであった。