一人の男がいた。
その男は、ある人物の命を受けて、賢者の石を作り出すために、錬金術師として旅をしていた。
伝説の宝石。すべての金属を金へと変え、不老不死の薬さえ作り出す賢者の石。
研究を進めていくうちに、ペガサスがデュエルモンスターズに行きついたように、男もまた、デュエルモンスターズにたどり着いた。
だが、男の体は、長旅の無理がたたり、不治の病に侵されていた。そこで彼は、錬金術が生み出す人造生命体、ホムンクルスにその魂を託した。
それが彼。
「とはいえ所詮、仮の肉体。数年で朽ち始め、もうすぐ私は寿命を迎えようとしている。しかし私は、訪れる死の前に、私の研究を支えてくれた人のためにも、究極の精霊を操る力を手にしなければならない」
究極の、精霊。
「三幻魔のことか」
「その通り。三幻魔の力があれば、賢者の石を作ることができるのだ」
「嘘だろ、大徳寺先生............あんたが俺たちを、ずっとだましてたなんて」
十代も、翔も隼人も、そして俺も、大徳寺先生が語った真実に、大きな衝撃を受けた。
信じられない。
「それじゃ、俺たちが今まで作ってきた思い出は、全部嘘だったってのか!
朝飯の時、いっつもご飯を大盛りにしてくれたのも、先生の分の納豆をくれたのも、俺たちのことを、にこにこして、見守ってくれていたのも、全部、全部!
ただ、俺たちのことを利用しただけだったのかよ!そんなのあるかよ!ふざけんなよ!!」
どんなに十代が感情的に叫んでも、大徳寺先生は顔色一つ変えず、顔に笑みを張り付けている。
「それにしても、さすがだ、十代。素晴らしい融合の使い方だった。融合こそが、お前の持つ可能性のすべて」
「うるさい!今さら先生ぶるのはやめろ!!」
「............デュエルを再開する。捕らえられた三人を解放してほしいなら、この私をデュエルで倒せ!
これが、私の授業の最終試験だ。落第するなら、すべての魂は私の研究の材料となる」
「先生..................」
「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズ時に、偽・封印の黄金櫃の効果により、除外されているネクロフェイスを手札へ加える」
(除外カード枚数:アムナエル22枚 十代3枚)
「手札から、
魔法カード 白の過程−アルベドを発動。
フィールド上に錬金釜−カオス・ディスティルが存在する場合、発動する事ができる。デッキまたは手札から、黄金のホムンクルス一体を特殊召喚する。
現れよ、黄金のホムンクルス!」
(除外カード枚数:アムナエル23枚 十代3枚)
「黄金のホムンクルスの攻撃力と守備力は、ゲームから除外されている自分のカードの数×300ポイントとなる。よってその攻撃力は、6900」
「くっ、さっきほどじゃないけど、十分でかいんだな!」
「でも、アニキにはくず鉄のかかしがあるっす!」
「私はこれで、ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー!俺は、カードを一枚セットして、ターンエンドだ」
攻撃はまだ無理か。
アドレイションの効果は、エンドフェイズ時まで。今効果を使用したところで、意味はない。
「私のターン、ドロー。私は手札から、速攻魔法 サイクロンを発動。くず鉄のかかしを破壊する!」
「ああっ!!」
「くそっ」
引いてきたか。
「サイクロンもまた、カオス・ディスティルによりゲームから除外される。
よって、黄金のホムンクルスの攻撃力もさらに上昇し、7200!
バトル、黄金のホムンクルスで、
V・HERO アドレイションに攻撃、ゴールデン・ハーヴェスト!!」
「くっ、ぐああああああっ」
十代:6000→1600(2800−7200)
「アニキ!」
「私はこれで、ターンエンド」
「はぁ、はぁ、俺のターン、ドロー。
俺は手札から、
魔法カード ミラクル・フュージョンを発動!墓地のモンスターを融合して、融合E・HEROを特殊召喚する!!」
「すばらしい。すばらしいぞ、十代。お前はまだ、融合を重ねてくるのか!
やはりお前は融合の天才だ。そしてそれは、お前が一流の錬金術師である証!」
十代が、錬金術師?一流の?
「俺は錬金術師なんかじゃない!」
「まだ気づかないのか。凡庸な攻撃力のモンスターをより強化させる融合と、錬金術。この二つは同じなのだ。
融合を使いこなすお前には、錬金術師としての無限の才能が眠っている」
「俺に、錬金術師の才能が?」
「このデュエルは私にとって、最強の錬金術師を決める戦いでもあるということだ。
さて十代、今度はどんな融合モンスターを出すんだ?」
くっ、この状況、俺だったらどうするだろうか。下手なモンスターを出したところで、壁にしかならない。だが、あの攻撃力を超えられるか?そして、超えたところで、返しのターン、また超大型モンスターでやられてはしまわないか。
だが十代は、全く悩む様子も見せず、自分のセンスを信じて、行動した。
「俺は、墓地の『光属性』スパークマンと『E・HERO』エアーマンをゲームから除外して、E・HERO Theシャイニングを守備表示で融合召喚!」
「ふむ、守備力2100か」
十代は、壁モンスターを出した。Theシャイニングには、除外されているE・HEROの数×300ポイント、攻撃力が上昇する効果がある。
けれども、最大でも2600+300×5で、4100。突破は不可能だ。
だがおそらく、十代の狙いは別。
「俺は、Great TORNADOを守備表示に変更して、ターンエンドだ」
「ふっ、それだけか?ならば、私が教師として、そして同じ錬金術師として、この手で引導を渡してやろう。
私のターン、ドロー。私は手札から、ネクロフェイスを召喚する。
ネクロフェイスが召喚に成功した時、ゲームから除外されているカード全てをデッキに戻す!!」
「な、なにぃ!?」
「ど、どうして!?それじゃあ黄金のホムンクルスの攻撃力は、0になっちゃうのに!」
「フフフッ、錬金術師の考えが、果たして君たちに理解できるかな?
ネクロフェイスの攻撃力は、この効果でデッキに戻したカードの枚数×100ポイントアップする。
ネクロフェイスの元々の攻撃力は1200。そしてデッキに戻したカードは、私が23枚で、十代が5枚。よって攻撃力は、1200+(23+5)×100で、4000となる!」
「攻撃力4000..................さっきの黄金のホムンクルスの方が攻撃力は上だったんだな」
そう。それなのに、アムナエルは黄金のホムンクルスの攻撃力を下げてまで、ネクロフェイスを出した。なぜだ?
デッキ切れを防ぐため?いや、それでもまだ、アムナエルには10枚近くは余裕があった。
理解できない。
「さぁ十代、この試練を乗り越えて見せろ!私は手札から、
魔法カード 偽・封印の黄金櫃を発動。私がデッキから除外するのは、二枚目のネクロフェイス!」
馬鹿な!手札に持っていたのか!?
いや、違う。手札に持っていたのならば、前のターンに使えば、十代を倒すことができたはず。それなら――――――――
「このターンに、引いたということか............」
「言ったはずだ。錬金術の前では、すべての常識は覆る!
ネクロフェイスの効果により、互いのプレーヤーは、デッキの上からカードを五枚除外する。合計七枚の私のカードが除外されたため、黄金のホムンクルスの攻撃力は、2100となる。
さらに、私は
魔法カード ワームホールを発動。自分フィールド上に存在するモンスター一体を、次の自分のスタンバイフェイズ時までゲームから除外する。
私は、裏側守備表示のこのモンスターを、ゲームから除外。これにより、黄金のホムンクルスの攻撃力はさらに、600ポイントアップして、2700」
十代の守備ラインを、易々と突破していく。
あまりにあっさりと。
「これが最後の一手だ。
装備魔法 ビッグバン・シュートをネクロフェイスに装備。装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップし、さらに、貫通効果を得る。
「攻撃力4400の、貫通効果持ち!?」
「ア、アニキ...............」
「バトルだ!!!
ネクロフェイスで、E・HERO Theシャイニングに攻撃、エターナル・オストラサイズ!!!!!」
闇を、果てしない闇を身にまとった、異形の怪物共が、十代に押し寄せた。