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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史改変の章その25
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2013/07/07(日) 18:01公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1996 初夏 スエズ運河防衛ライン

 帝国軍柊町衛士育成科を無事卒業し、国連軍柊基地所属となった伊隅みちるたち34名のA−01所属の新人たちの初任務。
 帝国軍海外派兵部隊第十三大隊と共に、BETAからスエズ運河を防衛せよとの命令の下に、彼女達はスエズ運河へと派兵された。
 立花隆也の手により魔改造を施された不知火の改修型。YF−23とともに提供されたXAMWS−24(試作新概念突撃砲)の概念を採用した試作型96式36mm突撃砲。その他さまざまな新規兵装を山とつんだHSSTと共に、彼らは人類とBETAの激戦区の一つであるスエズ運河へと降り立った。
 現地に到着して最初にやること、一足先に現地に到着していた第十三大隊の隊長に着任の報告をすることだ。

 「国連軍柊基地所属A−01部隊伊隅みちる少尉、現時刻をもって日本帝国軍海外派兵部隊第十三大隊に合流します」

 「貴官らA−01部隊の着任を確認した。これからはよろしく頼む」

 「こちらこそ、よろしくお願いします。いかんせん我が隊は新兵ばかり、経験不足故足を引っ張ることもあるかも知れませんが、能力は決して不足していないと自負しております」

 「ああ、貴官らの訓練生時代の成績は知っている。期待しているぞ」

 緊張しているみちるの声に軽く答えを返したのは、帝国軍海外派兵部隊第十三大隊が世界に誇る部隊長、小塚次郎中佐だ。
 死の八分を超えてもいないひよっこたち34名を引き受けたのは、政治的な取引故で本人は乗り気ではないのだが、それを表に見せるほど尻は青くない。それに彼らと共にやってきた兵器、不知火とその他諸々の兵装にも興味がある。
 特に不知火だ。あの機体は確かに良機だが、慣れ親しんだ撃震弐型の改修型と比べると少々見劣りする。運用実績と、さらに独自の改修を行われている自機の性能を考えると、わざわざ機種転換に時間を割いてまで乗ろうとは思わない。
 それを自信満々に送り込んできたのだ。あの香月夕呼がだ。これがただの不知火であり、新兵装であるわけがない。
 小塚次郎中佐はそう思っている。そもそも小塚次郎中佐と香月夕呼とは少々因縁がある。なぜなら、オルタネイティブ第四計画に第十三戦術機甲大隊を編入しようと画策を試みた相手だからだ。
 それゆえに、彼女が良くも悪くも有能で油断ならない人物だと言うことを知っている。
 隣に控えている小塚冷子大尉に、A01部隊に第十三戦術機甲大隊の面子を紹介をするように言いつけると、みちると冷子が連れ立って隊長室を出て行くのを見送った。
 そして実に悪い笑みを浮かべると、手元の通信パネルを操作し、整備兵たちに連絡を入れる。

 「野郎共、新人が34名入った。歓迎会を開くぞ。死の八分がどれほどの物か、ケツの青いガキ共に思い知らせてやれ」

 通信パネルから、了解の返事が入ってきた。
 それを聞いて満足そうに小塚は頷くと、すぐさま別の通信回線を開く。

 「おい、恒例の新人歓迎会を開くぞ。今回は34名と大人数だ。各員の訓練生時代の成績表はいつものところに掲示しているから各自好きに見ておけ」

 回線の向こう側から、「よっしゃあ、今回こそ今までの負け分を取り返すぞ!」、「このNo.1の伊隅は硬いな。後はふむ、この三名か」、「今回こそ、今回こそ大穴を!」、「まあ、マブジジョを押さえてあとは・・・」などと反響が帰ってくる。
 これから行われるのは歓迎会である。
 そう、死の八分を乗り越えるための試練という名の歓迎会である。当然、対象となる新人たちはその一切を知ることはない。



 現地時間の夜八時、伊隅たちA−01部隊の隊員たちはささやかな歓迎会を終えた後、各自の宿舎に戻っていた。
 昼は灼熱の暑さで苦しめられたが、日が落ちるとたちまち周りの温度は下がり始める。
 空を見上げるといつもの見知った位置とはずれたところに、見知った星が瞬いている。

 「そうか。もうここは日本じゃない。もう戦場なのね」

 みちるの口からわずかな不安が含まれる声が漏れる。
 その不安は当然のことだろう。新人の初陣死亡率が極端に下がりつつある昨今でも、死の八分の話は根強くささやかれている。
 彼女達34名の一体何人が初陣を生き残れるのか。ましてや名目上とは言え、自分は彼らを率いる隊長役についている。
 自分自身だけならば、なんとでもなるという自信、いやすでにこれは確信と言っていいだろう、があるが、部隊員まで生き残らすことができるか、となると話は別だ。
 確かに彼らは優秀だが、戦場では絶対などない。ましてや自分たちは、戦場というものを知識でしか知らないのだ。

 『コード991発生、繰り返すコード991発生、各員所定の装備を調え、ブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す・・・』

 突如として警報が基地内に響き渡る。
 はじかれるように各部屋の扉が開かれ、部隊員たちが駆けだしていく。向かう先は勿論衛士強化装備のドレッシングルームだ。
 みちるの身体も警報を聞いた瞬間動き出している。
 どうやら早速戦場の歓迎を受けることになりそうだ。



 「よし全員集合が完了したようだな。全員、傾注!これより今回の作戦の作戦について説明を行う。なお説明は小塚中佐より行われる。では中佐、どうぞ。」

 冷子の凛々しくも耳に心地よい声がブリーフィングルームに響き渡る。ブリーフィングルームには、第十三戦術機甲大隊とA−01部隊の合計70名にも及ぶ衛士たちの姿がある。
 余裕の表情で小塚中佐の説明に耳を傾ける者たち。そしてがちがちに緊張しながらも一言も内容を漏らさないようにと耳を傾ける者たち。
 その違いは、言うまでもなく部隊の違いと直結していた。

 「というわけで、今回はM01搭載ミサイルの直援が受けられない。そのためレーザー属種に対して最大限の警戒が必要になってくる。各自、上空への飛翔時間を誤るなよ」

 今回のBETA侵攻の速度、総数などの項目、そして対処するための戦術行動などが語られた後、衝撃の事実が突きつけられる。
 現代のBETA戦になくてはならないM01搭載ミサイル。基本戦術はこれにより敵レーザー属種の大多数を無効化してから戦術機、そして支援砲撃部隊の攻撃が始まる。
 そのセオリーが崩れるのだ。百戦錬磨の第十三戦術機甲大隊の隊員ならともかく、新人集団のA−01部隊の隊員には少々刺激が強すぎる内容だった。

 「以上だ。質問が無ければこれより作戦行動に移るが、ん、なんだ伊隅少尉か。なんだ?」

 「はっ、1点質問があります。M01搭載ミサイルの直援が受けられないとのことですが、どうしてでしょうか?」

 その質問は、A−01部隊の隊員を代表してのものだった。

 「ふむ、まあその質問は想定していたな。理由は簡単だ、他の戦線に優先的に回されるため、こちらの作戦戦域にまで回す余裕がないからだ」

 「そんな、それじゃ、我々はむざむざレーザー属種の的になれとでもいうのですか!」

 「まあいいたいことは分かるがな。基本的にM01搭載ミサイルは無限じゃないんだ。それだったら、自国、自陣営の部隊に優先的に回すのは自然な流れだろう?我々のような外部の援護部隊に回すだけの余裕がないなんて、前線ではよくあることだ。今のうちに慣れておけ」

 小塚中佐の発言に、A−01部隊の隊員たちにどよめきが起こる。基本的に国連軍の派遣部隊や他国の派遣軍隊が冷遇されることはよくある、という噂を聞いてはいたが、まさかそこまで冷遇されているとは。

 「他に質問はないか?ないな、よろしい、ならば諸君、戦争だ!」

 「「「おお!!!」」」」

 え、なにこのテンション、とA−01部隊員たちがあっけにとられている間に、第十三戦術機甲大隊の隊員たちはブリーフィングルームを駆けだしていく。

 「ほら貴様ら、何をぼけっとしている。ここはすでに戦場、そして作戦開始が通達された今、戦闘は始まっていると思え!」

 凛とした声に、34名の背筋が反射的に伸びる。
 ここ半年間、自分たちを叱咤激励してきた声だ。間違えるはずもない、その声の主は、

 「「「神宮司特別教官!」」」

 そう、神宮司まりも大尉だった。神宮司まりも大尉あるかぎり第十三戦術機甲大隊は不滅、といわれるほどの存在感を1人で出している生きる伝説、武神神宮司まりも。
 訓練時間は恐ろしいまでの鬼教官ぶりを発揮するが、訓練時間が終わると途端に優しいお姉さんに早変わり。訓練兵の悩みや不安などを聞いては、カウンセリングまがいのこともやっていた。
 そのため訓練兵の信頼は抜群だ。ちなみに特別教官ゆえに、他の教官とは違い、訓練時間外は普通のお姉さんとして接してくれるのだ。
 これが通常の教官だと、威厳の問題だとかがあり、そうはいかない。訓練時間外とはいえ、教官は教官なのだ。故に、まりものやり方に他の教官から苦情が寄せられることがあったが、なにせ相手はあの神宮司まりもである。
 結果を出せば文句はないんでしょう?と言って、訓練兵たちに見事な結果をたたき出させて、他の教官の口を閉ざさせた。そもそも特別教官だから、ある程度の自由裁量が任されているのもある。
 ちなみに結果を出すまでのまりもの鬼教官ぶりは鬼畜道を極めんばかりに激しく、他の教官が思わず止めに入ろうとしたほどであったという。それでも1人の脱落者も出なかったのは、まりものカウンセリングと、1人1人の適正と限界を適切に見極めた指導のたまものでもある。

 「おいおい、貴様ら、いつまで訓練兵のつもりなんだ。今は立派な将校だろうに。だったら、それらしく振る舞え。それと、今の私は特別教官ではなく、神宮司大尉だ。ほら、遅れるなよ」

 軽く発破をかけながら颯爽とブリーフィングルームを立ち去るまりも。
 それだけで、A−01部隊員の動揺は収まっていた。
 そうだ、自分たちはあの地獄の特訓をくぐり抜けたのだ。たかだかレーザー属種が多いだけの戦場がどうしたというのだ。
 決意を新たに34名の新人たちは各人の乗機へと駆けだしていく。

 「やっぱり、神宮司師匠にはかなわないな」

 みちるは1人苦笑を漏らしていた。


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