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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第34話:とある侍の愛憎譚=その1=
作者:蓬莱   2013/08/21(水) 23:28公開   ID:.dsW6wyhJEM
その女は、勢州桑名にいた、稀代の鍛冶師と称される村正一族の三世として生を受けた。
まだ、女が人間であった頃、女の生まれた国では、北と南それぞれに朝廷が並び立ち、武者達もそれぞれの陣営に分かれ、裏切り裏切られを繰り返しながら、戦に明け暮れていた。
当然の事ながら、南朝を支持し、至高の剱冑を差し出すよう命じられていた始祖村正とその一族も、この南北の争乱に無関係ではいられなかった。
―――始祖村正と同じく南朝を支持し、忠義の厚い武人であった友人が、一族全滅の危機が迫るや否や、あっさりと北朝に寝返ってしまった。
―――戦乱の中、生き別れとなった始祖村正の妻、女にとっての祖母が、敵の手によって子を産まされ、その子の命を護るために、その身を剱冑として姿に変え、敵へ献上してしまった。
もはや、誰を、何を信じていいのか分からず、道を見失っていた始祖村正は、自分たちに様々な知識を授けてくれた老科学者との語らいにより、遂に人類すべての業と言える“戦”の真理に至った。

「戦とは如何なるものなのか―――善の働きに非ず!! 正義の顕れに非ず!!」

規模の大小などの違いはあれども、古今東西における戦の全てに共通しているのは、善と悪という二つの存在が関わっている事だ。
“我が正義である。故に、我の正義を犯す、彼の邪悪を滅ぼす”―――この思考こそ、人間という生き物が、この世に生まれてから繰り返されてきた戦争の本質なのかもしれない。
だが、始祖村正は、全ての戦の本質ともいえる善と悪とは、実際には存在することの無い、単なるモノの見方にすぎないと断言した。

「戦とは我の愛を求めて、彼の愛を壊す行為…武とはその暴力!!」

“善悪とは表裏一体”―――その言葉の通り、善悪の基準とは、ある行動を特定の視点から見た時に善と呼び、逆方向から見たときは悪と呼ぶだけの事に過ぎない。
だが、実際には、多くの人々は、無意識、或いは意図的に、ただの見方に過ぎない善悪をさも重大なモノのように扱っているのは何故か?
始祖村正は、その疑問の答えを、自分の利益になる“己が愛”を善として肯定し、自分の損失となる“彼の愛”を悪として否定するためであるとした。
故に―――

「独善なり!! それこそが悪!!」

―――始祖村正は、己が愛を善として肯定せんとする“独善”こそが、これまで繰り返されてきた戦の原因であると悟ったのだ!!
その事を悟った始祖村正に、もはや迷いなどある筈もなく、命を懸けてまで託された老科学者の想いに応えるべく、人々を“独善”という呪いから解き放つ為の剱冑を造らんとした。

「我ら、村正は戦を滅ぼす。戦の悪を人の世から去らしめる!! 武に、ただ、加担するのではなく、武を制する為に剱冑を打つ!!」

そして、この世の全ての戦の根幹にある“独善”を駆逐し、世に永久の平穏を齎すという始祖村正の理想を掛けた剱冑は遂に完成する事となった。
後に、南北の両朝へと拝領された始祖村正と、その娘である二世村正が鍛造した二つの剱冑は、他の剱冑とは比べ物にならないほど最強の性能を誇っていたが、始祖村正の理想を反映するかのように、ある異常な特質が備えられていた。
―――敵を一人殺せば、味方も一人殺す。
―――悪人を一人殺せば、善人も一人殺す。
―――憎む者を一人殺せば、愛する者も一人殺す。
それが、村正を装甲する仕手が背負わねばならない、己の善のみを盲信し、敵の善を悪として排除する“独善”を防ぐための掟―――“善悪相殺”の戒律であった。
さらに、始祖村正は、“波”を放散し、周囲の人間に“善悪相殺”の戒律を重ねる能力“精神同調”を備える事で、戦場にいる者全てを“善悪相殺”の戒律で支配せんとした。
始祖村正と二世村正が、南北の両朝それぞれに剱冑を送ったのも、この“精神同調”を敵に対し行使する事で、どちらかが優勢に立つことを防ぐためだった。
“この剱冑は、長きに渡り続いていた南北の争いを終わらせ、必ずや世に平和をもたらす”
始祖村正も、二世村正も、女―――三世村正もそう信じて疑わなかった。
その後、二度に渡り、自分たちが生み出した剱冑によって、阿鼻叫喚の地獄絵図ともいえる未曾有の災厄を招いてしまう事など知る由もなく。



第34話:とある侍の愛憎譚=その1=



そして、いよいよ、三世村正―――セイバーの過去へと差し掛かろうというところで、枕の山に沈んでいた銀時は不意に目を覚ました。

「あ〜昨日は最悪な夜だったぜ」

節々に痛む体を無理やり起こした銀時は、ヤレヤレといった様子でボヤキながら、自分に被さるように乗っていた大量の枕をどかし始めた。
昨晩、綺礼がドS神父へと覚醒した後、銀時とアーチャーは、迫りくる綺礼の脅威から身を守る為に、手近にあった枕を投げつけて、なんとか撃退しようと試みた。
だが、何を勘違いしたのか、ラインハルトは、これを日本の伝統行事“枕投げ”であると察し、綺礼の味方に付くような形で、銀時らと応戦し始めてしまったのだ。
後はもう、銀時すら事の顛末を覚えていないほどの、トンデモ八極拳やボケ術式、はては死者の軍勢まで総動員しつつ、どこからか大量に用意された枕をぶつけ合う大乱闘が勃発する事となった。
その後、大量の枕に埋もれたまま、眠りについた銀時であったが、何故か、セイバーの過去の一部を夢という形で見る事で、セイバー、すなわち、村正という剱冑について知る事となった。
そして、その上で、銀時は、“善悪相殺の誓約”が決して人に仇を為すための呪いではなく、むしろ、戦乱に荒れ果てた世を正そうとするために込められた願いだった事も充分に理解することが出来た。

「たくっ…何で、こうクソ真面目な奴に限って極端に走る奴が多いんだろうな」

だが、それを知った上でも、銀時は頭をくしゃくしゃと掻きながら、ここには居ない誰かに向かってぼやくように、悪態を吐かずにはいられなかった。
確かに、始祖村正の生み出した“善悪相殺の誓約”による世界平和は、計算や理屈としてだけなら完璧であると言えるだろう―――人間が感情のままに、計算や理屈に合わない行動すら選択してしまう生き物である事を失念していなければ。
だからなのだろうか、銀時は、御大層な理想を掲げて、孫にまでこの厄介な遺産を背負わせた始祖村正をどうしても好きにはなれそうになかった。

「つうか、あの全裸共は何処に―――う〜ん―――えっ!?」

とここで、枕の海から脱出した銀時は、同じく枕の海に沈んでいる筈の、アーチャー達の姿を探すために周囲を見渡した。
とその時、すぐ近くで、アーチャーの声がしたので、そちらの方向に振り向いた銀時であったが、眠りに入っているアーチャー達の姿を見て、言葉を詰まらせてしまった。
―――浴衣伸びがほどけ、胸元や太ももの部分が大きくはだけた状態で、こんな状況にもかかわらず、世のいる全ての女性がため息を漏らすほど、優雅に睡眠をとるラインハルト。
―――そのラインハルトの腕に抱えられながら、衣服を脱ぎ捨てたまま、ラインハルトの胸に寄り添い、身体を預けるように蹲ったまま眠るアーチャー(女装)。
“こ、こいつら、大気圏どころか天元突破もんやらかしやがった―――!!”―――実際にはただ単にアーチャーの寝相が悪いせいで、こんな状態になっただけなのだが、そんな事を知る由もない銀時は、そう愕然としながら、声なき叫びをあげるしかなかった。

「俺は何も見ていない…あぁ、何も見てねぇか―――失礼する―――ん?」

もはや、自己暗示の領域で自身の精神を保たんとする銀時であったが、不意に教会の玄関の方から、女性と思しき声が聞こえてきた。
とりあえず、この理解無用な状況から抜け出したかった銀時は、渡りに船と言わんばかりに、未だに目を覚まさないアーチャー達を置いて、さっさと部屋を後にした。


その後、銀時が、朝早くからこの教会にやってきた誰かを出迎える為に礼拝堂の扉を開けると、そこには意外な人物が立っていた。

「あれ、第一天のねぇちゃんじゃねえか? どうして、ここに? つうか、俺が此処にいるって何で知ってんだ?」

そこにいたのは、いつもの物々しい武具ではなく、何故か、この世界に於いて一般的な当世風の衣装を身にまとった第一天だった。
第一天に用件を尋ねた銀時であったが、そもそも、六陣営会談の後、別れたままとなっていた第一天がなぜ、自分の居場所が分かったのか不思議に思った。

「水銀の蛇から聞いた。昨日は大いに盛り上がったそうじゃないか」
「よりにもよって、あの変質者野郎かよ…」

この銀時の疑問に対し、第一天は、綺礼の呼び出しを受け、冬木教会へと向かったラインハルトの様子を見ていたメルクリウスから、銀時が冬木教会にいる事を聞いたのをあっさりと明かした。
それを聞いた銀時は、うんざりした表情で頭を抱えながら、よりにもよってあの変質者に全てを見られたことに思わず落ち込んでしまった。
どうやって、メルクリウスが、こちらの様子を見ていたのか分からないが、銀時としては、もはや、あの変質者に、自分と切嗣達が決別した事すら把握しているのではないかと勘繰ってしまった。

「それで、用件なのだが…猶予期間が三日ほど設けられているだろ?」
「ああ、そうだけどよ…それがどうかしたのか?」

そんな事を考えている銀時に対し、第一天は、ここにきた用件を告げようとしたが、俯くように顔を背け、少しだけ躊躇した後、徐に、相対戦までの猶予期間のことを切り出した。
いつもの痛々しいほど凛々しい態度からは程遠い第一天の様子に、銀時は疑問に思いながらも頷くと、何故、そんな話を持ち出すのか聞き返した。

「あの…いきなり、押しかけてきて、その…迷惑…かもしれないし、こんな…事を頼める状況ではない事は分かっている…つもりなのだが―――」
「いや、普段は見せないような乙女チックなリアクションを取られても困るんだけど…」

しかし、第一天は、まるで銀時の顔をなるべく見ないように俯いたまま、用件を切り出せないまま、小声で恥ずかしげに呟き始めてしまった。
もはや、昔の少女マンガにしか出てこないような奥手系キャラと化した第一天に対し、銀時は、“何か悪いモノでも喰ったのか?”と不気味なモノを見るように、どうしたらいいだよと考えあぐねていた。

「―――っ!! ええい、面倒だ!! 一度しか言わんからな!! 坂田銀時…今日一日、私と付き合ってもらうぞ!!」
「…えっ!?」

そんな銀時の態度に、もはや理性が吹っ切れたのか、恥ずかしさと怒りで顔を赤らめた第一天は、銀時に対して、今までの乙女分をかなぐり捨て、いつもの漢らしさを発揮するように、今日一日を共に過ごす―――自分とのデートを申し込んだ。
“変なところで男らしさを発揮したぁ!?”―――下手な男より男らしい第一天の言動に驚く、銀時であったが、そんな事よりも、はるかに重要な問題がある事に気付いた。

「いやいや!! 何、そのいきなりの急展開は!? つうか、何で、こんな時に…!?」
「私の精神世界で言ったではないか…胸を貸してやると…」
「あ、まぁ…あの時は、確かにそうは言ったけ―――ッ!?」

いきなりのデートの申しつけを叩き付けた第一天に対して、銀時は、激しく動揺しつつも、なぜ、自分と、この色々と大事な時期にデートをしなければいけないのか尋ねた。
だが、第一天は銀時の質問に答えることなく、かつて、己の精神世界に囚われた自分を救ってくれた銀時が言った言葉を口にしながら、愚図るように言い返してきた。
これには、銀時も強く言い返せずに、どうしたモノかと口ごもりつつ、チラリと第一天の様子を伺い―――思わず、言葉を失った。

「頼む…今日だけ、今日だけで良いんだ…銀時…」
「あぁ、もう何で、こう面倒な女にしか縁がねぇのかなぁ…」
「おっ、何を…」

そこには、一人の女がいた―――なけなしの勇気を振り絞った後、今にも泣きだしそうな声で縋るように懇願しながら、期待と不安の入り混じった気持ちに押し潰されそうになっている女がいた。
確かに、第一天は、己の渇望で世界を塗り替える覇道神という肩書と力を持っている。
しかし、本来の第一天は、己の犯した罪に押しつぶされるほど脆く、一人の男にデートの申し込むのにさえ精一杯の勇気を出さなければならないほど弱い、何処にでもいる普通の女なのだ。
そんな普段は見せないような第一天の姿を見てしまった銀時に、ヤレヤレというようにボヤキながら、俯いたままの第一天の頭を優しく撫でた。
いきなり、銀時に頭を撫でられたことに、第一天は思わず、目に湛えていた涙を零しながら、深く俯いていた顔を上げた。

「ちょっと待ってろよ。すぐに着替えてくるかよ」
「あっ…うん!!」

そして、銀時は、いつものように人を喰ったような笑みを浮べながら、寝間着から着替えるべく部屋へと戻り、第一天とのデートの準備に取り掛かり始めた。
そんな銀時の笑みを見た第一天は、しばし、呆気に取られたが、すぐに喜びと共に満面の笑みを浮べて頷いた。
そして、そんな銀時と第一天のやり取りを―――

『アサシン…監視用に五枚ぐらい張り付かせておけ。ランサーやキャスター達のところに配置したカードにも連絡を入れておけ』

―――こっそりと司祭室から聞き耳を立てていたドS神父綺礼は、すぐさま、アサシンに対し念話で指示を送っていた。
実は、銀時が礼拝堂で第一天を出迎えたと同じ時に、綺礼も、また、獲物の気配を感知した獣ごとく即座に目をさまし、銀時と第一天のやり取りを盗み聞きしていたのだ。
ちなみに、礼拝堂とその裏にある司祭室に隔てる壁には、間切りとしての意味しかなく、礼拝堂の物音は司祭室から丸聞こえという欠陥、もとい、素敵な仕様となっているのだ。

『うん、いや、宝具の使い方は自体は間違ってねぇよ…でも、使用目的が明らかにアレすぎだろ。つうか、何気に他の連中も巻き込むのかよ』
『当然だ…こんな面白、否、見過ごせぬ事を報告しない道理はあるまい』

“もうこれでもいいか…”―――召喚されてからこの方見たことの無い活き活きとした綺礼の笑顔を前に、アサシンは悟りにも似た境地で、自分をそう言い聞かせながら、ランサー達のところにいるカード達を通して連絡を取り始めた。


そして、銀時が第一天とデートに出掛けてから、数十分後―――

「それで、家出した銀時がいるって、教会ってのがあそこなのね…桂」
「うむ…先ほど、電話でアーチャーの仲間達から聞いた話では、昨晩、銀時がアーチャーと共にあの教会に赴いたとの話だ、リーダー」
「来ちゃった…本当に来ちゃった…」

そこには、確認するように尋ねるイリヤと、正純達から裏が取れている事を告げる桂、そして、なぜ、ここまで、ついてきてしまったのかと途方に暮れるセイバーの姿があった。
実は、アイリスフィールから事の事情を聞いたイリヤが、家出をした銀時を連れ戻すべく、切嗣たちに内緒で、桂とセイバーを共に連れて、アインツベルン城から、銀時が泊まった冬木教会に足を運んでいたのだ。
ちなみに、イリヤとしては、銀時を迎えに行く際に、独立形態のセイバーに乗りたかったようだが、朝っぱらから、アインツベルンの城にいた時のように暴走族の真似事をすれば、警察沙汰になりそうなので却下された。

「というか、何で、私まで付き合わせるのよ…」
「え〜だって…正純さんから、銀時を迎えに行くなら、セイバーをちゃんと連れて行かないと駄目だって言われたし、ねぇ、ヅラ?」
「ヅラじゃない、桂だ…そうだな、リーダー。そもそも、そのサーヴァントとやらは、常人では太刀打ちできぬ人外の存在と聞く。俺も剣の腕は、銀時と互角とはいえ、そのような相手とは少々荷が重すぎるのでな」

“そもそも、どういう顔して、銀時に会えばいいのよ…”―――そんな気の沈みそうな感情を抱えたセイバーは、筋違いとは分かっていても、自分を引っ張り出してきたイリヤと桂に恨みがましそうに半眼で見ながら、自分まで連れてきた理由を不貞腐れたように尋ねた。
だが、イリヤの言うように、別に他意はなく、セイバーを連れてきたのも、冬木教会へ赴く前に連絡を取った正純から受けたアドバイス通りにしただけだのことだった。
事実、桂の言うように、サーヴァントに対抗できるのは、同じサーヴァントだけというのは至極当然な事であり、敵対するサーヴァントへの対策として、セイバーを連れてきたイリヤ達の判断は決して間違いではなかった。
だが、理屈として、どれだけ正しくとも、セイバーとしては、一向に暗い気持ちが晴れることは無く、欝蒼とした感情は際限のない澱のように溜まる一方だった。

「とはいえ、家出の理由があいつらしいといえば、あいつらしいな…相も変わらず、騒ぎの種に絶えない男だ」
「へぇ…昔から、ああいう感じだったの?」

そんなセイバーの気持ちを知ってか知らずか、桂は、銀時が家出をした理由―――全人類よりも、一人の少女の救済を選んだことを思い返していた。
毎度毎度、銀時と共に似たような騒動に巻き込まれているのか、言葉でこそ迷惑そうにぼやく桂であったが、その実、銀時が家出をした理由にどこか納得するように苦笑していた。
そんな桂の表情を見たセイバーは、これまで共に聖杯戦争を戦ってきたものの、銀時の事を何一つ知らない事に何か思うモノがあったのか、自分の知らない銀時の事を知るために、銀時の友人である桂に話に乗るような形で尋ねてみた。

「あぁ…普段はちゃらんぽらんで、捻くれた性格な上、万事に於いていい加減で、品性というモノが感じられないほど口も悪いし、俺を呼吸するかのごとく殴ってくるほど、手も悪い。しかも、主人公なのに糖尿病という微妙な持病持ちだったな…そういえば、なぜ、俺はあいつと親友をしているのだろうか、セイバー殿?」
「私が知るわけないでしょうが、そんな事!! というか、仮にも、親友とか言いながら、よくもまぁ、そこまで悪しざまに言えるわね…」

だが、桂の口から出てきたのは、銀時が如何にマダオ体質の人間であるかを如実に表す言葉ばかりで、終いには、桂自身が銀時と友人である事に疑問を感じ、何故だろうと考え込む有様だった。
これには、さすがのセイバーもツッコミを入れざるを得ず、何処の世界に於いても変わることの無い銀時の駄目人間振りを再確認し、ほとほと呆れ返るしかなかった。

「確かに、セイバー殿の言う通りかもしれんな。だが、それでも、俺の知る限りでは、銀時ほど、自分の美しいと思った生き方で生き、自分の護りたい者達のために命を懸けられる侍は他にいなかった」
「そう…なら、もう、私達のところには、絶対に帰ってきそうにないわね」

しかし、そんなセイバーの呆れ振りに頷きながらも、桂は、普段でこそ超人類級のマダオである銀時だが、いざという時には護るべきモノの為に命を懸けて護り抜く、決して折れることの無い信念を宿した最高の侍である事を誇らしげに語った。
だからこそ、桂は、アイリスフィールから、銀時が家出をした経緯を聞いた時も、何処の世界であっても、何一つ変わらない銀時の決断に納得さえしていた。
そう銀時について語る桂に対し、セイバーは、常に誰かを救う為に戦い続けてきた銀時だからこそ、常に誰かに犠牲を強いてきた自分たちを見限ったのは当然の事であるかのように呟いた―――もう、銀時が、自分たちの元に戻ってくるはずがないと諦めの感情を含ませながら。

「ふっ…セイバー殿。確かに、今の時点では、銀時は、セイバー殿たちと決別しているかもしれない。だが、あいつはいずれ戻ってくるはずだ。それは俺が断言しよう」
「…何で、そんな事が分かるのよ」

だが、桂は、まるで、そんなセイバーの不安を無用のもだと笑い飛ばし、払拭するかのように、セイバー達と別れた銀時が、いずれ、セイバー達の元に戻ってくることを断言した。
ほとんど確信とも取れる桂の言葉を受けたセイバーは、一瞬、戸惑いながらも、桂に向かって、なぜ、銀時が戻ってくると断言できるのか聞き返した。
そのセイバーの問いかけに対し、桂は、“当然だ”と前置きをした後―――

「―――あいつにとって、短い間とはいえ、セイバー殿達も、命をかけて護るべき者たちだからだ」
「…だと良いわね」

―――わずかな時間とはいえ、共に聖杯戦争を戦ってきたセイバー達も、銀時にとって既に大切な仲間である事を告げた。
それは、攘夷戦争やその後の騒動に於いて、銀時と共に死線を潜り抜け、互いに背中を預け合った桂小太郎だからこそ至った確信だった。
“でも、私にそんな資格はないわ…”―――口でこそ悪くいうものの、銀時の事を信頼している桂を見て、セイバーは、かつて、犯してしまった自分の罪を前に、そう本心では思いながらも、振り絞るように代わりの言葉を吐き出した。

「セイバー、ヅラ〜!! 何しているの〜早く、銀時と会わないと〜!!」
「おぉ、リーダー、そうであったな。では―――ここに万事屋と全裸の兄ちゃんのいるのか―――む?」

とここで、一足先に冬木教会にある礼拝堂の扉へと辿り着いたイリヤが、二人で話し込んで歩みが遅くなっているセイバーと桂にむかって、元気よく手を振って呼び掛けていた。
大人たちの小難しい話に関係なく、子供らしくはしゃぐイリヤに微笑ましく思いながら、桂は、イリヤの呼び掛けに答えて、イリヤの元に向かおうとした―――不意に割り込んできた、ここには居ない筈の、聞き慣れた声を聞くまでは。
まさかと思いながらも、桂は、ほぼ反射的に、その声がした方向を振り向いた。

「「…え?」」
「何してんのよ、勲?」
「どうかなさいましたか、近…ゴリラ様?」

そして、桂は、いつの間にか、自分の隣に立っていた声の主―――近藤勲と共に間の抜けた声を上げてしまった。
その後、先にやってきた近藤から遅れるようにして、セイバー達が来た道とは別方向にある脇道の方から、銀時について行ったアーチャーを引き取りに来た凛とホライゾンまでもが現れた。

「か、桂ぁあああああああ!! てめぇ、何で、こんなところに…!?」
「それは、こちらの台詞だ。よもや、このような場所で、お前と出くわすことになるとは…」
「え、何? ヅラ…もしかして、このゴリラ、あんたの知り合いなの!?」
「何やら、因縁めいた関係のようですね。お二人とも、どういったご関係なのでしょうか?」

と次の瞬間、近藤と桂は、仇敵との思わぬ遭遇に驚くよりも早く、即座に臨戦態勢に切り替え、互いに警戒心を含んだ言葉を交わしながら、お互いを牽制するように睨み付けた。
この近藤と桂の過剰なまでの反応に対し、セイバーは、六陣営会談で銀時と揉めたゴリラと、銀時の友人である桂とのやり取りに只ならぬ因縁を感じたのか、近藤を警戒する桂に問い詰めた。
同じように、ホライゾンも、何やら深い事情があると察し、とりあえず、お互いに警戒する近藤と桂に尋ねた―――さりげなく、銀時を巡って巻き起こる全裸系ゴリラとウザいロン毛の因縁の争いとスレを書き込み、ついでに通神帯を通して、その方面に精通しているナルゼに映像を送りつつ。

「うむ…知り合いというか腐れ縁、否、宿敵というべきだろうな…真選組局長“近藤勲”」
「そりゃ、こっちの台詞だろうが…幕府を倒さんと目論む攘夷志士達を束ねるリーダー“桂小太郎”さんよぉ」

このセイバーとホライゾンの問いかけに、桂と近藤は、幕府を倒さんとする攘夷志士のリーダーと幕府を守護せんとする真選組局長として、お互いの素性を明かす事で答えた。
警察とテロリスト―――これ以上に、お互いを敵視する明確な理由はほかになかった。

「まさか、てめぇも、俺と同じように、ここに…!?」
「どうやら、そのようだな…まさか、貴様も、左目に怪しげな宝石を埋め込んだ僧侶に時空を超えて、無理やり呼び出されたが、結局、その僧侶の人違いだった挙句に、この世界に間違って送り返されていたとはな…!!」
「一応、話を合わせているけど、絶対にそいつが召喚された経緯とは違うと思うわよ、ヅラ!!」

この仇敵との遭遇に対し、近藤は、銀時と親友関係にある桂も自分と同じように、銀時の救出の為に、ゼル美さんに、この世界へ送り込まれたのではと口にしかけた。
同じく、桂も、近藤も自分と同じ理由でこの世界に送り込まれたのを察したのか、自分がこの世界に来た経緯を軽く説明しつつ、肯定の意味を込めて頷いた。
“というか、誰なのよ、その人騒がせな僧侶は!?”―――セイバーは、桂が、近藤とは全然違う経緯の事件に巻き込まれて、ここに来たことをツッコミつつ、ウザいロン毛もとい桂をここに送り込んだ“謎の僧侶”をぶっ飛ばす決意を固めていた。
そんな中―――

「「お邪魔しま〜す」」
「ま、待て、リーダー!? こっちの話の終わらぬうちから勝手な行動は!? すまんが、ここで争っている場合ではなくなったようだ」
「ちょ、凛ちゃん…関係ないからって、色々とスルーしちゃっても困るんだけど!? 仕方ねぇな…続きは向こうに戻ってから、きっちりつけるぜ」

―――大人たちの小難しい争いなど我関せぬと言わんばかりに、イリヤと凛は、とりあえず、挨拶と共に礼拝堂の扉を開けて、礼拝堂の中に入っていった。
このお子様二人のスルースキルの高さに愕然としつつ、近藤と桂は、凛達を追って、礼拝堂に向かう事になったため、なし崩し的に一時休戦することになった。

「まさか、朝っぱらから、あんたに出くわすなんて…」
「初めまして、神父様。私はイリヤ。イリヤスフィール=フォン=アインツベルンよ」
「ほう…誰かと思えば、衛宮切嗣の娘か。まさか、こんなところで出くわすとはな」

そして、桂達が、先に中に入っていった凛とイリヤを追いかけて、礼拝堂の中に入ると、そこには、先に礼拝堂に入った凛とイリヤ、そして、アサシンの宝具からの報告を受け、礼拝堂で待ち伏せていた綺礼の姿があった。
自分の苦手とする兄弟子である綺礼と出会って、嫌そうに顔を顰める凛に対し、イリヤは、初対面の人間である綺礼にペコリと頭を下げながら自己紹介を兼ねた挨拶をした。
この二人の少女の訪問に対し、綺礼は、そっぽを向いてむくれる凛をからかいたくなる気持ちを抑えつつ、切嗣の娘であるイリヤの訪問に多少なりとも関心を示すそぶりを見せた。

「…さて、どうやら、知らぬ顔もいるようだが、仮にも敵対関係にある私に対し、どのような用件で、ここにきたのかな?」
「…銀時がここに泊まりに来ている筈でしょ。迎えに来たから合わせて欲しいの」
「アーチャー…トーリ様もご一緒に泊まったとお聞きしましたので、今後の事について話があるので、引き取りに来ました」

とここで、綺礼は、礼拝堂に入ってきた桂達を前にして、一応、ある程度の予想はついていたモノの、とりあえず、軽い皮肉を交えながら、来訪者たちに、ここに来た用件を尋ねた。
この綺礼の問いかけに対し、イリヤとホライゾンは、それぞれの言葉で、昨晩、この教会にて一夜を過ごした筈の銀時とアーチャーを迎えに来たことを伝えた。

「なるほど…だが、残念だが、少しばかり来るのが遅かったようだな。お前たちが来る少し前に、銀時も、アーチャーも既にここから出ていった」
「え、万事屋も、全裸の兄ちゃんもどっかに出かけたのかよ…あちゃあ…入れ違いになっちまったか」
「では、神父殿…銀時は今どこに…?」

だが、綺礼は、事情を察したのか納得したように頷いたものの、桂達と入れ違いになる形で、既に銀時とアーチャーが出かけた事を教えた。
もはや、銀時とアーチャーが既にここには居ない事を知り、近藤は、自分たちが一足遅かったことに気付き、ヤレヤレといった様子で軽く頭を掻いた。
一方、桂は、ひとまず、何処かに出掛けた銀時を探すために、、綺礼に銀時の行き先について心当たりがないか尋ねてみた。

「ねぇ、綺礼…何か雰囲気変ったように見えるんだけど…」
「いや…気のせいではないかな」

とそんな時、綺礼の様子を見ていた凛は、うまく言い表せないものの、今の綺礼が、時臣の元で師事していた頃に比べて、何かが変わったように感じたのか、綺礼に恐る恐る尋ねてみた。
“さすがというべきか”―――綺礼は、はぐらかすように肩をすくめながら答えを返しつつ、自分の心境の変化を見抜いた凛をそう心中で称賛した。

「さて、それより、銀時とアーチャーだが、そう大した用事でも無いのだが―――」

そして、綺礼は相手をもったいぶらせるような口調で言葉を続けながら―――

「坂田銀時なら今、市街地に向かって、第一天と共にデートに出掛けている筈だ。アーチャーの方は、そのデートを出歯亀するために、何故か女装してから、ラインハルトの部下と共に出掛けたところだ…そういえば、彼女も中々の器量良しだったな」
「「…はぁ!?」」
「「?」」
「ほほぅ…そうきましたか」

―――自身のドSハートの赴くままに、色々と面白可笑しく事態を進めようと、多少の曲解を織り交ぜて、桂達に、銀時が第一天と一緒に市街地に出掛けた事と、アーチャーも、ラインハルトの部下と思しき少女と一緒に、銀時と第一天を追って言った事を教えた。
この綺礼の思いもよらない返答に対し、近藤と桂は声をそろえて驚き、凛とイリヤは不思議そうに首を傾げ、ホライゾンに至っては、宝具である“宗茂砲U(憤怒の閃撃)”を持ち出す始末だった。
だが、この桂達一同の中に於いて、銀時と第一天のデートに、誰よりも衝撃を受け、それに比例するがごとく怒りの業火を沸々と湧き上がらせているサーヴァントが一体いた。

「何よ…こっちが色々と大変なのに、人の気も知らないで、あんな独善女と呑気にデートって、どういう神経しているのよ、あの天パは…!!」
「ま、待て、セイバー殿。怒る気持ちは分からないでもないが、少しは冷静に―――大丈夫よ、ヅラ―――ヅラじゃない、桂だ」

そう、身を焦がすほどの憤怒と嫉妬の余り、銀時に対する罵りの言葉と共に、元の蝦夷の姿から、武者形態へと姿を変えたセイバーが!!
この正気を失いかけているセイバーの様子に、ヤバい何かを感じ取った桂が、銀時への怒りに我を失いかけているセイバーを宥めようとした。
しかし、セイバーは、自分を止めようとする桂の言葉を遮るように、桂をあだ名で呼んで制した。
そして、セイバーはゆっくりと綺礼に背を向けながら―――

「―――今回だけは、足だけで済ませるつもりはないし、電磁抜刀はいつでも発動できるから」
「ちょ、やばい!? この姉ちゃん…何か、目の光が無くなって、色々とヤバい感じになっているし!!」
「くくく…さぁて、色々と盛り上がってきたようだな」

―――破廉恥男に裁きを下すべく、武者形態のままなので表情こそわからないが、憤怒のオーラを漂わせながら、銀時達のいるであろう市街地へと向かわんとしていた!!
もはや、セイバーのキレっぷりに狼狽える近藤を初め、この一同の中に、怒りのままに暴走状態に入ったセイバーを止めるすべはなかった。
もっとも、この礼拝堂にいる一同の中で、唯一人、ある意味において、騒動の元凶である言峰綺礼だけは、この後、巻き起こるであろう修羅場展開に心躍らせていた。


一方、そんな自分たちの危機的状況など知る由もない銀時は、冬木市の市街地にて、第一天と共に巡り歩いていた。

「良し…まぁ、服についてはこんなところだろう」
「奢らせちまって悪ィな。服も財布も全部、城の方に置いてきちまったからよ」

一応、銀時のいた世界は、この世界に近い世界観であるものの、それでも、銀時の服装は、この世界に於いては一般的でないため、かなり目立ってしまうものだった。
とはいえ、今の銀時は、切嗣達の元から去った際に、アインツベルンで用意した当世の衣装はおろか金品さえも持たず、手ぶら同然で、アインツベルン城から家出をしたために、缶ジュースさえ買うのもままならないほど、一文無し同然の有様だった。
その為、最初に、銀時達が行ったのは、近くの服屋にて、銀時の服を購入するとことだった。
無論、当然の事ながら、一文無しの銀時には、服を買うお金など持ち合わせていないので、第一天に奢ってもらう事になった。
その後、第一天は、自分が見立てた服を着る銀時の姿に満足する一方で、銀時の方は自分の甲斐性なし具合に頭を下げるしかなかった。

「別に気に病むことのモノでもない。一応、雁夜から、間桐の財産を、ある程度の使っていいと許可は得ているのだ。私の見立てでは、今日一日、遊興に費やすだけの資金はある筈だ」
「…マジで?」

そんな銀時に対し、第一天は、金の事は気にするなと言わんばかりに、雁夜から手渡された財布の中にみっちり詰まった数十枚はあろうかという諭吉の札束を見せた。
これには、銀時も目を丸くしながら、お小遣い感覚にしては余りに多すぎるほど、財布にみっちりと詰まった万札に唖然とするしかなかった。
とはいえ、銀時が気に病んでいるのは、何もお金の事だけではなかった。

「着いてから言うのも変だけどよぉ…良いのかよ、本当に?」
「何がだ?」

とここで、銀時は、今更という感じではあるが、お互いに後悔を残さないようにと、先を行く第一天に向かって、最後の意思確認の意味を込めて尋ねてみた。
この銀時の問いかけに、第一天はゆっくりと振り返るも、銀時の質問には答えず、逆に銀時に向かって、不思議そうに首を傾げながら聞き返してきた。

「いやなぁ、俺みたいな奴で本当に良いのかよ? 好きでもない奴と一緒に―――銀時―――ん?」
「確かに、私には、人間だった頃、誰よりも私を愛してくれ、誰よりも愛した男がいた」

確かに、銀時は、一度は第一天の勢いに押される形で、今日のデートを申し出を了承していた。
だが、時間がたつにつれて、冷静になってくると、銀時は、本当にこのまま、第一天とデートしてしまってもいいのかと思い始めていた。
一応、元は神様とはいえ、第一天とて、“座”に就くまでは、誰かを愛し愛されていた普通の女だったのだ。
当然の事ながら、そうである以上、第一天自身が愛していた男もいる訳なので、銀時としは、どうも自分が間男めいた行為をしている事に、罰悪く思っていたのだ。
しかし、銀時がさらに言葉を続けようとした時、第一天は、それ以上の言葉は無用というように、そっと銀時の唇に人差し指を当てた。
確かに、第一天の語るように、生前、多少歪んではいるものの、自分を愛してくれ男がいたし、第一天自身もその男を愛していたのは事実だった。
だが―――

「―――私が、お前に対して抱いた思いも偽りないのも事実なんだ」
「なら、これ以上、俺がとやかく言うのはなしだよな」

―――罪に押し潰されそうな自分を温かく支えてくれた銀時に対して、自分の胸に宿った思いも、第一天にとっては、決して一時の迷いなどではなく、また、偽りならざるモノだった。
だからこそ、第一天は、銀時との間にだけは、後悔や未練のようなモノは残したくなかった―――避けられぬ別れが有ると知っているからこそ。
そして、銀時も、そんな第一天の真摯な思いを受けたとあっては、それ以上自分からとやかく言う必要など最早なかった。

「ここって、観光地とかじゃねぇけど、時期的に人が多いみたいだな。この人ごみではぐれたら色々と面倒だから、あんまり離れんじゃねぇぞ?」
「…そ、そうだな」

とここで、銀時は、大勢の人でにぎわう市街地の様子を見て、お互いが人ごみではぐれないために、軽く笑みを浮べながら手を差し出した。
そして、第一天は少しだけ戸惑いながらも、顔を赤らめながらも、銀時が差し出し手を取って、決して離さないようにと握り返した。
それが、他陣営のマスターやサーヴァント達はおろか、聖杯戦争の裏で暗躍する勢力すらも巻き込んだ、銀時と第一天との波乱に満ちたデートの始まりであった。


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