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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史改変の章その29
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2013/08/25(日) 17:31公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1997年 初春 帝都

 「これが撃震参型の性能表、および、『量産型撃震参型性能評価試験結果報告書』です」

 小塚三郎少佐(新婚)の手から渡されたファイルを、内閣の各官僚達が受け取る。

 「これが、撃震参型か…」

 榊是親総理大臣が感慨深げに受け取った資料に目を通している。
 撃震参型、先進撃震参型のあまりの能力故にその機体性能に過剰な期待がかかっているが、実際のところは先進撃震参型に比べると、かなりその能力は劣化する。
 正確には通常の衛士でも問題なく扱えるように、その機体性能に制限を掛けた戦術機となっているところが大きい。
 それだけ先進撃震参型が化け物だということなのだが、そこから通常の衛士が使えるまでぎりぎりの制限を掛けていった撃震参型の性能は、現行正規配備が進められている不知火を凌駕している。
 第一世代のコンセプト、重装甲による防御力の強化にプラスして、その重量を無視するかのような機動性を持つ撃震参型は、当初構想されていた第三世代の機動力を軽く凌駕している。
 それだけに、不知火と比べると耐久性の面が飛び抜けている。例えば不知火だと要撃級の攻撃を1〜2発受けるとフレームに歪みが出てしまい、ベイルアウトが難しくなると言う欠点を持つが、撃震参型は突撃級の一撃を正面から受けてもまだ戦闘続行が可能である。
 加えて戦車級の噛みつき攻撃にも1分以上耐えられるという、以前の科学水準から考えれば信じがたい防御力を持っている。
 それらを小塚三郎少佐(新婚)は閣僚の面々に説明する。

 「ご存じのように先進撃震参型(通称)の運用結果を基に量産型の撃震参型の設計と試作を行って参りました。ただ問題がありまして、突き詰めた設計と性能を持つが故に、先進撃震参型は通常衛士では到底手に負えない、まさに化け物と呼ぶに相応しい戦術機となってしまいました。これは皆様もご存じのように、先進撃震参型の操縦基準を満たすことができる衛士が、世界を探しても神宮司まりも大尉ただ1人だけ、ということから如何に高い壁かを想像して頂けるかと思います」

 「一つ言いかね小塚君」

 「何でしょうか、榊首相」

 声を掛けてきたの榊総理大臣だった。外交に明るく、絶妙な政治感覚を持つこの総理大臣は、海千山千の狸共と渡り合える政治家ではあるが、軍事部門については深い造詣を持ってはいない。

 「先進撃震参型を使えるのが神宮司大尉だけなのは分かった。だが先進撃震参型の開発が始まったのは、彼女が正規兵として登用される前のはずだ。ならば先進撃震参型は下手をすれば誰も動かすことの出来ない、いわば単なる鉄くずに等しい扱いになるはずだったのではないのかね?」

 当然の質問である。現在まりもだけが使える機体、つまりはまりも以外は乗ることさえ出来ない機体であり、まりもがいなければ存在価値がない機体と言うことになる。

 「その点については、問題ありません。先進撃震参型の随所にリミッターを掛けることにより、一般的な衛士でも扱えるレベルまでその性能を落とすことは可能になっています。ただ、その場合ですと、機体の性能を十分に生かし切れないことになり、当然そこから得られるデータも先進撃震参型本来のものから酷く離れた物になってしまいます。なにより、我々は神宮司大尉が一訓練兵の頃からすでに目をつけており、その限界値に合わせて作っていたのですか、問題はありません」

 「なんと!」

 その発言に閣僚がざわめく。なぜなら今の発言が本当なら、まだ18才にも満たない内からまりもは先進撃震参型を扱えるだけの技量を有し、さらにはまりものためだけに先進撃震参型が作られた事になるからだ。

 「なるほど、神宮司大尉には、それだけの素質があったということか」

 榊が驚いたように声をあげる。軍事は専門外だが、そんなことが実際に起こりうるのだろうか?それが彼の感想だった。

 「はい、無論、それを保証する者の発言もありましたが」

 「保証する者?」

 「はい、今は第四計画に参画している彼です」

 その一言で榊は納得した。なるほど、彼が言うことなら小塚が納得するのも不思議ではない。
 会話について行けないのは、その他の閣僚である。なぜなら、彼のことは極秘の情報であり、知り得るのは閣僚でも機密情報を扱う情報省と国防を支える国防省を管轄する大臣くらいのものだ。

 「なるほど、わかった話を続けてくれたまえ」

 「はい。それではお手元の資料を確認して頂ければわかりますように、撃震参型は撃震弐型の発展改良型でありながら、まったく別物と良いほどの性能を有しています。特に主機用のバッテリーは従来のものとまったく変わらない重量でありながら、実に5倍近い蓄電性能を有しています。そのため、自機のバッテリーから九十六式電磁投射砲用の電力を一部確保が出来るようになり、九十六式電磁投射砲を小型化させ取り回しを良くした物を装備できるようになります。また、各種近接戦用の兵器も充実しておりBETA戦での乱戦の生存率が格段に高まっています」

 「操作性はどうなっている?」

 これは国防大臣の質問だ。現在不知火を現場に採用したため、多くの衛士が撃震弐型からの機種転換を受けているのだが、これが結構なコストを喰っている。
 なにせ第一世代の延長の機体と、第三世代の機体では機体性能というよりも、運用思想概念からして違うのだ。当然、不知火なんていらない、俺は撃震と添い遂げる、などと言い出すベテランも少なくない。
 そのため第三世代の訓練機として吹雪という機体の開発が進められているくらいだ。

 「操作性は従来の撃震弐型のものを踏襲しています。撃震を扱ってきた日本帝国軍の衛士であれば、わずかな機種転換訓練で今までの戦術機同様の操縦が期待できます」

 「そうか、それは嬉しいしらせだ。問題は、不知火へと配備計画をシフトさせていることくらいか」

 ため息をつきつつ、国防大臣が資料に目を戻す。不知火の利権がらみでそうとう苦労をした人物だけに、これから撃震参型をどうするかについて悩んでいるのだろう。

 「なに、帝国軍がだめなら、斯衛軍に配備するという手もある。例の新型の開発はまだ目処が立っていないのだろう?瑞鶴はそろそろ機体寿命が近い。ハイローミックスで、ローに撃震参型を採用する用意が我々にはある」

 城内省を管轄する大臣の発言に、国防大臣が渋い顔をする。

 「いえ、確かにそれも一つの手ですが、帝国軍の大陸派遣部隊にはなるべくよい機体を持たせたい。不知火の扱いについては軍部で調整を行うつもりだ」

 「ふむ、とはいえそちらの派閥は不知火の開発を支持してきた人達が少なくない。それだけに調整に時間がかかるのでは?」

 「お二方とも、今この場ではその話はよしてくれないか。小塚少佐が困っている」

 榊の仲裁に、国防大臣と城内省を管轄する大臣が口を閉じる。

 「ご配慮感謝します。それでは、次に『量産型撃震参型性能評価試験結果報告書』ですが、これについては実際の状況を見て頂くのが早いと思い、映像を用意してあります」

 小塚の合図と共に、小塚雅奈技術中尉(新婚:小塚嫁)が各閣僚の席に配置されているモニターに映像を流し始める。
 それを食い入るように見つめる閣僚たち。
 モニターの中には、撃震参型が様々な環境で運用試験を受けている姿が映し出されている。対戦術機戦においては、近接長刀の一撃をまともに受けても中破判定しか受けず、そのまま敵機を押し切る場面もあった。36mmは関節部などの装甲が薄い部分にあたらない限り、小破以上の判定を受けず、120mmでようやく中破判定という、信じがたい装甲の厚さを見せつけている。
 対BETA戦のシミュレーター結果については、全身を戦車級にたかられているのにもかかわらず、平然と一匹一匹引きはがしては握りつぶしているなど、まさに力の象徴とも言える姿を披露している。要撃級からも何発か攻撃を受けるが、主要装甲部で受けた一撃は装甲にわずかなくぼみを作るに留まっている。
 一時間にも満たない評価演習の映像を見た全員から感嘆の声が漏れた。

 「まさかこれほどまでとは…」

 榊の呟きは、その場にいる全員の心中を表していた。

 「この機体、量産体制を整えるとすればいつ頃になるのかね?」

 「もともと装甲材に関しては、撃震弐型にも転用できるものです。そのためすでに装甲材のラインは構築済み。その他のラインも今すぐにでも量産体制は整えることが出来ます」

 「具体的には?」

 「一月ほどあれば各種調整は完了します」

 あまりの期間の短さに周囲に動揺が走る。国費を流用して勝手に量産計画を進めていたとした思えない用意周到さだ。
 これでは小塚三郎少佐(新婚)に公費横領の罪がかかってもおかしくない。

 「すでに量産の準備は出来ているということか。あらかじめ仕組まれていたということかね?」

 「はい、煌武院家の後押しで」

 「なるほどな」

 その言葉で周囲の動揺がかなり抑えられた。現在、様々な功績の影に煌武院家の影があり、五摂政家の中でも破格の影響力を持っている。その威光を持ってすれば、将来的にも国益になるプロジェクトを勝手に推進させる程度は何の問題にもならない。

 「では、量産体制の整備を整えて置いてくれたまえ。帝国軍にせよ、斯衛軍にせよ、この撃震参型は必ず採用される。それに将来的には国外への輸出も視野に入れておける」

 「はい、ではそのように」

 こうして、撃震参型の量産計画にゴーサインが出た。
 それと同時に、世界に対して撃震参型の完成の知らせと、その性能の公開が行われた。
 当然、大反響を巻き起こしたのいうまでもない。
 情報収集に追われた各国の技術部、諜報部は、口々にこんなに忙しいのはDKSだ、くそったれ、すべてはDKSだ、と関係各所では有名な隠語で盛大にぼやいていたという。



 「ふざけるな、なんだこの装甲は、なんだこの機動性は!私が作ったYF−23すらも凌駕しているではないか!」

 「まあまあ、落ち着いてくださいな。ほら、これを」

 「はあ、はあ、はあ、ん、なんですかなこれは?」

 「あなたから頂いたYF−23を元に作られた、新型戦術機『AL4専用97式戦術歩行戦闘機』、通称『迅雷』の設計図です。いかがですか?」

 「お、おお、おお、これは、これこそが、私が追い求めていた戦術機の理想の姿」

 「ふふ、まだまだ満足して頂いては困りますわ。あなたには不知火の改修型の開発に協力してもらわないといけないのですし、ねえ、Mrハイネマン」

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