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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その27
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2013/08/18(日) 18:29公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1997年 初春 柊町

 柊町の地下に、一つの倉庫がある。
 その存在を知るものはごく一部、そこには柊町の技術を駆使して作られた9体の強化外骨格が格納されている。
 そんな倉庫に今年、日本帝国軍所属柊町高等部衛士育成学科に進学する予定の少年少女が集められていた。
 その数8名。
 いずれも知る人ぞ知る有名人揃いだ。
 白銀武、ゲーム撃神ファイトの第一回全国大会優勝をかっさらっていたった猛者。大会を通じて被弾した回数は、準決勝の鑑純夏戦、決勝の鎧衣美琴戦の2回のみ。それまではノーダメージで駒を進めてきた。全てのゲーマーの頂点に立つ男。
 鑑純夏、撃神ファイトの2人一組で行われるペア部門にて白銀武と組んで出場し、優勝した強者。白銀武との息のあった戦闘は見る者を魅了する演舞。実戦経験者の衛士からの評価も高い。
 柏木晴子、圧倒的なゲームセンスで所属する中等部のバスケットチームを全国大会優勝に導いた立役者。彼女の演出する試合は、プロの目から見ても芸術とさえ言われる。
 榊千鶴、中等部でありながら日本戦略戦術研究会開催の全国大会で、戦略、戦術の両部門で優勝を勝ち取った天才。常道にして王道の戦法を好みながら、相手に合わせて千差万別の奇策を持ち出し他を寄せ付けない圧倒的な勝利で優勝をもぎ取った。
 彩峰慧、こちらも中等部でありながら無差別格闘大会の全国大会で、相手から一撃も食らわずに全て一撃KOで優勝した天才。その格闘能力は単身で、精鋭特殊部隊一個小隊に匹敵するとさえ言われる。
 御剣冥夜、剣を極めた老境の達人も参加する剣術大会において、全て初太刀にて相手を沈め優勝を手にする。麒麟児として一躍注目の的となり、その年にして剣聖とさえ呼ばれる。
 珠瀬壬姫、日本サバイバル協会の全国大会狙撃の部にて、他を圧倒する成績を収めて優勝した若きスナイパー。有効射程距離1Kmのスナイパーライフルで、1.5Km先の標的の中心を狙撃する事が出来る。まさに針の穴を通すがごとき射撃センスの持ち主。
 鎧衣美琴、ゲーム撃神ファイトの第一回全国大会準優勝者。決勝にて白銀武と繰り広げた激戦は世紀の大一番と名高い。また日本サバイバル協会の全国大会隠密行動の部にて、堂々の優勝。隠密行動能力の高さを全国に見せつけた。
 そんな一部知る人ぞ知る若き有名人たちが一堂に会するその場には、言葉にならない緊張感が漂っていた。
 ただ1人、リラックスをしているのは白銀武である。彼は13の時にすでに初陣を済ませている。今更といったのが感想だ。
 そんな様子を眺めている人物がいる。
 柊町の影のボス、紳士の中の紳士、人類の救世主、天才を超える天才、知る人からは様々な呼ばれ方をしているその人、立花隆也である。
 集まった8名の師匠であり、そしてその運命を知るもの。

 「よく集まったくれた、我が精鋭達よ。これより『どきっBETAだらけのユーラシア大陸探検(オリジナルハイヴ編)』を開始する」

 そのふざけた題名とは裏腹に、その内容は過酷の一言に尽きるだろう。わずか15の少年少女にBETAが徘徊する大陸に移動、そしてその中での最も危険と思われる地域、オリジナルハイヴへと突入しろというのだ。
 だがこの場にいる8名に恐怖はない。ただ初めての実戦という事による緊張があるだけだ。
 それが逆に不気味だ。たかだか15歳の成人していない子供達に何ができるというのだろうか?
 知らない人が見ればそう思うだろう。だが、立花隆也は知っている。自分が鍛えてきた少年少女達が今どれだけの力を持っているかを。

 「兵装は強化外骨格、武装は12.7mm重機関銃、強化外骨格専用長刀だ。強化外骨格には気力増幅機構を備えてある。お前達のもつ気の力を何倍にも高めてくれる。はっきり言おう、この装備を纏ったお前達は鬼神をも屠ることが出来ると」

 隆也の演説が倉庫に響き渡る。

 「戦闘の全体指揮権はマブレッド、お前に任せる」

 「はい、師匠」

 返事を返したのは榊千鶴。利発そうな顔つきに大きな丸めがね。長い日本の三つ編みがゆらりと揺れる。

 「マブブラック、マブブルー、お前達はとにかくBETAの中に突っ込んで暴れていろ。BETAとの近接格闘というものを素肌で感じろ」

 「ん、わかった」

 「承知しました、師匠」

 マブブラックこと彩峰慧がこくん頷くその横で、マブブルーこと御剣冥夜が了承の返事を礼儀正しく返す。

 「マブピンクは、後方から射撃支援、マブグリーン、マブサニーは、ピンクの周辺警戒及び後方から来るBETAを駆逐しろ」

 「了解です、師匠」

 「うん、わかったよ師匠」

 「マブサニー了解です」

 珠瀬壬姫が元気に返事を返すと、それと同じくらい元気いっぱいに鎧衣美琴が返事をする。その様子に微笑みながら飄々と返事をするのはマブサニーこと柏木晴子である。

 「マブシルバーとマブパープルはエレメントを組み遊撃に回れ。ポジション的には前衛と後衛の中間あたりで暴れることになるとは思うが、そこは適当にマブレッドが調整しろ」

 「マブシルバー了解」

 「マブパープル、了解だよ!」

 二度目と言うこともあってか、余裕の様子で返事を返す白銀武と、武と一緒と言うことで浮かれまくって返事をかえす鑑純夏。

 「私たちはわかりましたが、師匠はどうされるのですか?」

 千鶴が尋ねると、隆也は安心させるように微笑みかけると、

 「あーおれその日はまりもんとデートなんだよな」

 「「「「え?」」」」

 愕然とした視線が隆也に向けられる。そして次の瞬間には烈火の如く怒りを含んだ視線に変わる。

 「悪い悪い、冗談だよ、冗談。そう怒った顔しなさんな、折角かわいい顔しているのに勿体ないぞ」

 飄然と答えると、かわいいと呼ばれたことに女性陣が動揺する。

 「そんな、かわいいなんて」

 「私、かわいい?」

 「師匠、行けません、姉上になんと報告すればよいか」

 「はわわわ、壬姫恥ずかしいです」

 「わわわ、ぼくかわいいって言われちゃった」

 「はは、お世辞でも嬉しいな」

 「武ちゃんもこれくらい私のこと褒めくれればな」

 口々に感想を口走る女性陣を見ながら、武は何という誑し、あとでまりもに言いつけてやろう、と心に誓っていた。
 その武の耳元で、

 「余計なことをまりもんかゆうこりんに口走ると、お前の弱みをマブパープルにばらすぞ」

 といつの間にか移動してきていた隆也がささやく。
 思わず股間がきゅっとなる武だった。

 「ははは、いやだな、師匠。俺が師匠をウラギルワケナイジャナイデスカ」

 「うむ、わかればよろしい」

 片言になった武を見て満足したのか、隆也は一つ頷くと元いた場所へと戻っていく。

 「さて、ここで少々やっかいなことが起こったので、それについて説明しておく」

 一瞬にしてざわめきは消え去り、全員が隆也の言葉に耳を向ける。まるで訓練された軍隊のように。
 隆也の説明によると、今年に入ってからオリジナルハイヴよりも西側にあるハイヴのBETAの動きに変化がでてきた。
 今まではハイヴの収容数を超えると西に進軍していたのが、オリジナルハイヴ側に存在する自身から一番近いハイヴに移動するようになったのだ。
 それがだんだんと続いていき、今ではオリジナルハイヴへ向けて100万近いBETAの大移動が起こっているというのだ。
 そのため急遽、ポパールハイヴ跡地に建設された基地及び、敦煌を中心とした大陸東部防衛戦の強化を実施しているのだという。
 ちなみに去年の冬頃から、日本帝国の大陸派兵部隊の指揮官は彩峰萩閣中将が就任している。
 できれば護衛についておきたいのだが、残念ながら手駒が足りない。特に今年はリヨンハイヴ攻略作戦の開始が予定されているのだ。
 EU側から見れば、大陸の西のBETA陣営が手薄になるので喜ばしいことではあるのだが、別にBETAが死んだわけではなくて戦略的配置転換を行っているだけなので、手放しでは喜べない。
 すくなくともリヨンハイヴ攻略作戦の成功率が高まった程度の認識でしかない。

 「100万…」

 そのあまりの数に千鶴が絶句する。
 BETAの脅威は物量だと言われているのは知っているが、それを本当に目の辺りにすると目眩がしそうになる。

 「100万といっても、小型種はカウントしていないからな。小型種まで含めると150万近くになるんじゃないか?」

 衛星からの画像を元に判断しているので、小型種はカウント漏れが多い。おまけに要塞級の中に格納されていたりするのでなおさらだ。

 「とはいえ気にするな、以前なんてヘタレとシルバーで10万以上駆逐しているんだ。換算すれば今回はその4倍の戦力だからな。まあ、多少苦労するだろうが、お前達ならできるさ」

 「ブラック、この作戦でBETAを減らしておけば、お前の親父さんの負担も格段に減る。心配するのは分かるが、今は攻めの時だ」

 「ん、わかった」

 素直に頷く慧。

 「よし、では各自強化外骨格を着用の上デッキに集合しろ。インナースーツと強化外骨格の着用方法はマブシルバーに聞いておけ。あ、言っておくが必ず自分用の装備をつけろよ。これでも一応各自にフィットするように微調整をしているんだからな。い、いっとくが、後でインナースーツをクンカクンカする際に、名前が分かるようにという意味じゃないからな」

 「「「師匠…」」」

 女性陣からジト目睨まれる隆也であった。無論、このことは、女性陣を通じてまりもと夕呼に報告されたことは言うまでもない。
 十数分後、各自が専用の強化外骨格に身を包んでデッキに集合していた。
 強化外骨格の外見にぱっと見に大きな差がないが、よくよく見ると千鶴機は大型のレーダーアンテナらしき物が追加されており、壬姫機には顔に当たる部分に狙撃用のスコープがついているのがわかる。
 慧の機体は両手両足の先にナックル状のものが装着されており、冥夜機の両腕は他の機体に比べて若干太くなっている。
 つまり各人の特性に合わせて手が入っているのだ。
 隆也が言った調整とは各人の個性に合わせた改修だった。調整という範囲を完全に超えている。
 師匠である隆也の心配りに感謝をしつつ、8人がそのときを待つ。
 ちなみに各機体には一目で搭乗者が分かるように二の腕に名前にちなんで二重のラインが入っている。赤、黒、青、桃色、緑、空色、白銀、紫、といったようになっている。
 パーソナルカラーが黒で、強化外骨格も黒のため、慧の黒はまったく目立たない。そのためか、慧は少々不機嫌である。
 全員がそろったところで、殆ど待つことがなく、一機の漆黒の強化外骨格がやってきた。初期の頃は一発しか装備していなかった気力増幅機構を小型化の成功により二発装備することにより、先進撃震参型とがちでやり合えるだけの力を手にした立花隆也専用強化外骨格。むろん、隆也以外が装備したところで、とてもではないが先進撃震参型とはやりあえない。彼だからこそ勝ち目があるのだ。
 通常の強化外骨格とはもはや別物、一回りほど大きくなっている。武たちと並ぶとその大きさは一目瞭然。頭一つ飛び抜けている。

 「よし、それでは出発前にお前達に名言を教えてやろう。おれに続けて唱えるんだ」

 「「「はい」」」

 「今日はBETAを殺すのにもってこいの日だ。地球上の全ての命が、わたしと呼吸を合わせている。全ての声が、BETAを殺せと轟き叫んでいる。全ての怒りが、わたしに宿ろうとしてしてやってきた。あらゆる恐怖は、わたしから立ち去っていった。今日はBETAを殺すのにもってこいの日だ」

 「「「今日はBETAを殺すのにもってこいの日だ。地球上の全ての命が、わたしと呼吸を合わせている。全ての声が、BETAを殺せと轟き叫んでいる。全ての怒りが、わたしに宿ろうとしてしてやってきた。あらゆる恐怖は、わたしから立ち去っていった。今日はBETAを殺すのにもってこいの日だ」」」

 「見敵必殺 !BETAを殺せ!」

「「「見敵必殺 !BETAを殺せ!」」」

 「マブレンジャー、ファイ!」

 「「「オー!!!」」」

 なんか最後の方へんな乗りになっていたが、マブレンジャーたちの誰もが気にしていなかった。この程度のこと、日常茶飯事なのだ。

 「飛ばすぞ、舌を噛むなよ!」

 各機に結びつけたワイヤーを引っ張って、隆也の強化外骨格が空を飛ぶ。その後を続いて八機の強化外骨格が続く。
 強化外骨格が空を飛ぶ。非常識なその光景は、強化外骨格に施された光学迷彩により誰の目にも写ることは無かった。
 かくして1997年3月、東進を開始していた100万を超えるBETAの大群がオリジナルハイヴに吸い込まれるように続々と入っていくのが確認されたきり、まったく外に出てこないという異常な現象が確認された。
 専門家の中にはBETAが新たなる種を誕生させるためにサンプルとして招集したとも、何らかの原因でエネルギー不足に陥ったオリジナルハイヴがエネルギー補充のため、他の拠点から集めたBETAを回収して動力代わりにしたなどのあらゆる説が飛び交ったが、正解はただの一つもなかった。
 ちなみに2泊3日の遠征から戻った隆也達は、1人頭10万超の成果を挙げていた。それによりAL因果律の乱れを修正すべく東部に集められたBETAの殆どは駆逐された。
 因果律への反逆は、確実にAL因果律を蝕んでいく。一つの世界の一つの物語は、誰も知らない結末へと向かっていくのだった。
 なお、立花隆也語録集には、「今日はコスプレするにはもってこいの日だ」、「今日はアオカンするのにもってこいの日だ」、「今日はサンピーするのにもってこいの日だ」などがあると言われるが、その真偽は定かではない。


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