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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その29
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2013/09/08(日) 19:44公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1997年 初夏 リヨンハイヴ攻略前線基地 総司令部

 「多くの英霊達が散っていったこの地、多くの悲しみが降り積もったこの地、侵略され陵辱されたこの地、今この時をもって、人類は反抗する。大地を侵したBETAなるものを駆逐し、我らは再び人類としての矜持を取り戻すのだ!」

 演説台の上では、本作戦の総指揮担当するフランス陸軍大将が演説を振るっている。
 祖国を侵略され、多くの民間人をそして軍人を殺され、最後には住まうべき大地すら奪われた。
 彼の演説は聞く者の心に眠る嘆き、悲しみ、そして怒りを呼び起こしていた。
 前回のポパールハイヴ攻略戦に続いて日本代表として、日本帝国軍の指揮をとる帝国陸軍九條雅臣中将は、その演説を聴きながらも人ごとではないとその身を引き締めていた。
 幸い日本はまだBETAの侵略の手を逃れられている。だが、それも中国の大地に戦線を固定することで免れているに過ぎない。
 中国を突破されれば、そのすぐ先には日本がある。
 幸いにして日本帝国の大陸派遣軍の活躍と、中華統一戦線の政治体制の一新が成されたことにより、BETAが中国大陸の戦線を突破するのは容易なことではなくなっている。
 だが、BETA相手に人類は常に苦渋を飲まされてきた。決して安心出来るような状況とは言えない。
 今までに一矢報いたのも、スワラージ作戦だけだ。

 「ただいまをもって、リヨンハイヴ攻略作戦の発動を宣言する。作戦の正式発動時刻は08:00、各国の奮戦を期待する」

 粛々と進められた出陣式を、最後の作戦開始命令が締めくくる。
 途端に慌ただしく席を立って、自軍の指揮に戻る各国の司令官、指揮官。

 「我らが日本帝国もまた、一振りの刃となりて悪鬼を討ち滅ぼすのみ」

 ゆっくりと立ち上がる雅臣、その瞳には静かな闘志をにじませていた。



1997年 初夏 リヨンハイヴ 衛星軌道上

 「おっし、作戦発動を確認。開始時刻は08:00か。前回のスワラージ作戦の験担ぎなんかね?まあいい、さて、マブレンジャー諸君、これより凄乃皇弐型は軌道降下を行い、敵ハイヴの殲滅を行う。その間に諸君らが地上で行う任務は何だ?」

 「各機散開し、人類の被害を最小限に留めるための支援活動です」

 「あとは、見敵必殺?」

 「人類の仇敵BETAに鉄槌を!」

 「あとは、壬姫達が他の軍隊に捕まらないように逃げ回ることでしょうか」

 「まかせてよ、逃げ回るの得意なんだ」

 「はは、まあ、逃げてばかりじゃいけないんだけどね」

 「武ちゃんからはなれないよ!」

 「いや、離れろよ、散開しなきゃ行けないって言われているだろ?」

 やいのやいのやり合っている声を聞きながら、おおむね間違っていないからまあいいか、等と思う隆也であった。
 いいのか、こんなのが決戦兵器の主導権を握っていて?
 もしこのやり取りを世界の軍首脳部が見ていたら、そんな思いを胸に抱いたであろうことは、想像に難くない。



1997年 初夏 リヨンハイヴ攻略前線基地 国連軍横浜基地用区域

 「現時刻をもって作戦の発動が宣言された。開始時刻は08:00だ。各員、己が戦術機に乗り込み、予定の戦域にてフォーメーションを組め」

 現地での指揮官である伊隅みちるの声を聞いた瞬間、全員の身体に緊張が走る。
 初めての実戦を経験する者はともかく、今まで実戦を何度も経験した者たちもその緊張を隠せない。
 ハイヴ攻略戦。今までのBETAの間引き作戦とは本質的にことなる攻めの作戦。敵拠点への攻撃。
 そこに待ち受けるのは無数のBETA。おそらく今まで経験した事のない激しい戦いが繰り広げられるのだろう。
 そんな中、空気を読まない連中がいた。

 「さあ、孝之、勝負よ勝負!どちらがより多くのBETAを倒したか、私が勝ったら前言っていた、ブランドAージュの指輪を買ってもらうからね」

 「あ、ずるいよ、水月!孝之君、私が勝ったら、ブランドNIトロ+の指輪を買ってね」

 「何勝手を言ってるんだよ。俺たちは遊撃とは言え、味方の援護も任されているんだぞ。そんな勝手な行動が許されるわけないだろ」

 などと三角関係を繰り広げいている3人組だ。

 その姿を面白くもなさそうに見つめるのは、彼女、彼氏いない隊員だ。
 目つきが剣呑になっている。

 「ああ、おい、鳴海に、速瀬に、涼宮、元気が良いのは良いことだが、今はミーティング中だ。少し静かにな」

 苦笑しながらみちるが声をかける。
 この3人のやり取りのおかげで、隊員の妙な緊張が一瞬にして取り払われたのだ。怪我の功名という奴か。
 などと油断していたのが悪かった。

 「おい、てめえ、鳴海少尉さんよ!俺たちゃ、お前のような軟弱者の支援なんていらねえんだよ。せいぜい両手に花で、戦場で乳繰り合ってろ!」

 孝之のモテモテぶりにいらだったのか、男性隊員が孝之に食って掛かる。

 「なっ、そんな言い方はないんじゃないでしょうか」

 かちんと来てすぐさま言い返すのは、なぜか孝之ではなく水月。この辺りが彼女の性格を表している。
 だが、リア充を見せつけられた非モテの非リア充の怒りは収まらない。

 「いいんだよ、所詮はテメエらは遊撃部隊だ。おまけに3人とも専用機を任せられるほどの腕利き揃いときた。下手に俺たちのような凡才に付き合わせる必要はないんだよ」

 「畠田!」

 ヒートアップしそうな雰囲気を察し、みちるが厳しい声をかける

 「はっ!」

 さすがにみちるの声を無視するわけにはいかず、非モテ隊員こと畠田は渋々と正面を向き直る。

 「貴様の言い分、一理ある。もともと香月副司令からは、彼ら3人については『迅雷』の有益なデータ取りを主とするように言われいる。こいつら3人に助けられなければとてもじゃないが、戦場に立てないという奴はいるか?ふむ、いないようだな。よし、鳴海、速瀬、涼宮の三名には独自行動権限を与える。ただし必ず3人一組で動くこと。緊急時の指揮系統は私に所属すること、それを忘れるなよ」

 「い、いいんですか?」

 孝之が驚きを隠せないままみちるに確認する。

 「ああ、問題ない。せいぜい、先達達に自分たちが足手まといでないことを見せつけるんだな」

 「やったぁ、さすが伊隅大尉、話が分かる!」

 「もう、水月、はしゃぎすぎだよ」

 騒ぎが収まる頃には、先ほどまでの重苦しいような緊張は無くなっていた。あるのは今から始まる作戦に向けての戦意のみ。
 かくしてA−01部隊の初めてのハイヴ攻略作戦が始まろうとしていた。



1997年 初夏 リヨンハイヴ攻略前線基地 日本帝国区域

 「さて、パーティーの開始時刻は08:00だ。おまえら、しっかりと礼装に身を包んで、相手に失礼のないようにな」

 軽い挨拶と共に、作戦の開始時刻が告げられる。
 説明する相手は、日本帝国大陸派兵部隊第十三大隊の猛者たち、説明するのはその手綱を握る唯一の男と言われる小塚次郎中佐。

 「隊長、質問があります」

 「ん、なんだ?」

 「今回は、国連のひよっこ共は別働隊ですか?」

 第三中隊の隊長を務める山中大尉が指名を受けて質問を告げる。

 「ああ、今回は例の大型、えーとなんだっけ?」

 「凄乃皇弐型でありますか?」

 「あ、そうそう、その凄乃皇弐型の直援につくんで、俺たちとは別行動だ。それに今回は俺たちも、日本帝国から派遣された、ハイヴ攻略戦術機甲連隊に組み込まれることになっているからな」

 「そうですか」

 力なくつぶやく山中大尉の姿をみて、小塚次郎中佐の第六感がぴこーんと働いた。

 「はは、さてはお前、意中の相手が国連の中にいるな!」

 「な、そ、そんなこと」

 「「「おお、まじかよ!」」」

 周りから驚愕の反応が漏れる。山中大尉、通称鉄の乙女。第十三戦術機甲大隊発足時からの古参の兵士で、男よりも男らしいと言われる女性だ。御年29才。
 ちなみに今の日本では一般的に20後半になるといきおくれに分類されるというご時世である。

 「ようやく、山中にも春がきたというわけだな。国連には伝手がある。この作戦が終わったら相談に乗ってやろう」

 「え、あ、あの、その、…おねがいします」

 どっ、とわき上がる歓声。彼らには気負いは無かった。ハイヴ攻略作戦だろうとBETA間引き作戦だろうと、同じ任務の一つに過ぎない。

 「確かこういうのって『ふらぐ』っていうのよね。今回の作戦は山中大尉を重点的に護衛しなきゃ」

 等と呟きながら、最後方に座るまりもは、頼もしい仲間達の姿を見つめていた。
 もちろん、国連軍の衛士たちは、最年長でも20才。この年下好きめ、とは分かっていながらも誰も口には出さなかった。



1997年 初夏 リヨンハイヴ攻略前線基地 総司令部

 「08:00まであと1分、前線各司令部から、所定位置に配置完了との報告が上がっています」
 
 「うむ、カウント開始」

 「了解、カウントを開始します」

 これから約1分後、対BETA戦役の中で何度か行われたハイヴへの攻略作戦が行われる。
 今までは失敗し続けてきた。前回のスワラージ作戦で初めて人類はハイヴを攻略し、勝利の味を知った。
 そして今回。
 前回のスワラージ作戦を超える量の武器弾薬を費やし、そしてさらに進化した兵器を投入し、リヨンハイヴ攻略作戦を実施する。
 世界中が、期待していた。再び人類がBETAの基地を攻略するのを。

 「作戦開始まであと、10、9、8…」

 司令部に緊張が満ちる。
 決して楽観視は出来ない、だが、悲観する事もない。
 カウントが続く中、ダニエル・フラマン総司令は、大きく息を吸い込む。

 「3、2、1」

 「これより、作戦を開始する。全軍作戦行動開始!」

 今、戦いの火ぶたが切って落とされた。

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