ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

ネギま!―剣製の凱歌― 第三章-第37話 似ていると、思ったんだ
作者:佐藤C   2013/09/08(日) 17:38公開   ID:KMxakc4y6G2



 ある土曜、カウンターでグラスを磨いていた士郎の携帯電話が鳴った。


『…あ、シロウ?
 今から土日使っていんちょの別荘行くんやけど、シロウも一緒に行かへん?』


 ……ちょっと唐突過ぎる内容であった。


「い、今って今すぐ?これからか?」
『あったりまえやんー♪』

 電話の向こうで無邪気に笑っている義妹と違い、義兄は少なからず困惑する。
 何せそんな予定は全く聞いていなかったし、急にそんな事を言われても困るだろう。

 …と言っても。
 実は参加する当人もつい、十数分前に誘いを快諾したばかりであり。
 なにより主催者が今回の事を企画したのも、僅か数十分前の出来事である。
 そんな無茶な旅行計画を実行できる雪広財閥……恐るべし……!!

「いきなりだなぁオイ…。
 でも、悪いな。日曜日に予定が入ってて無理なんだ」

『えーそうなん?残念やなー…。
 ネギ君とアスナの仲直りにも協力してほしかったんやけど…』

「…あいつら、まだケンカしてるのか?もう三日も前の事だろ?」

『アスナが意地張ってもーて……』

 はあ、という溜め息が聞こえてきそうな声。
 木乃香は今きっと肩を落としているんだろうなと、士郎は思う。

「……まあ、明日菜もそこまで子供じゃない。
 ネギが本気で反省してるって解ってるなら、いつまでも意地を張ってられないだろ」

『そうなんやけど……』

 尚も不安を言い募る妹を、兄は努めて明るい声で送り出した。


「まあ、それはともかくだ。せっかく旅行に行けるんだから、
 人の事ばかり気にしてないでお前も目一杯楽しんでこい」

『…うん、せやね。ありがとーなシロウ!行ってくるわー♪』

 こうして彼女…木乃香含め、
 多くの3−Aクラス生徒が南の島へと旅立った。


 ………麻帆良から雪広家邸宅へ移動し、雪広邸敷地内に敷設された私有飛行場から、
 三十人弱の人間が乗れるジェット機を用意して乗り込み、
 雪広財閥が経営する南国リゾートを貸し切って……という驚異の一泊二日である事を、士郎は知らない。

 ――――雪広財閥……恐るべし……!!









     第37話 似ていると、思ったんだ








 …その土曜日から、遡ること数日前。
 ネギ達が地下で竜と遭遇した、月曜の祝日のこと。

 所属しているバイアスロン部―――麻帆良大学のサークル―――の集会を終え、
 彼女は放課後の学園都市の中を一人で帰路についていた。


『―――アナタはいくらで私を雇う?』

 濡れ烏の黒髪をストレートロングに伸ばし、艶のある美しい褐色肌を持つその少女。
 彼女……龍宮真名は、京都で彼と交わした会話を思い返していた。



『………金とるのかよ』

『当然♪ 私は仕事でしか動かないからね』

『ああそうかい……面倒だな。事が終わってから考える。
 何なら言い値で買ってもいいぞ?』

『おや太っ腹だね?了解した、喜んで引き受けよう。
 さっさと行きな士郎さん。私の戦場に男は不要だよ』

『報酬さえ貰えりゃ用済みかよ……全く、素っ気ないな。
 俺は戦場でも真名と一緒に居たいけどなー』

『………どういう意味だい?』

『ん?まんまの意味だよ。よし、俺は行く。ここは任せたぞ二人とも』

『任せるアルよ師父!!』



 (………戦場でも一緒にいたい、ね……。)

 「まるでプロポーズみたいだな」と考えて、真名はクスリと苦笑した。


(…いかん、今朝は刹那をからかった所為か思考の方向がおかしいな)



『成程な、何事かと思ったらネギ先生絡みだったか。
 しかし…地下に竜種とは、ますます何があるか読めない学園だな』

『ああ、私も驚いた。西洋竜と戦った経験はないが、竜種は総じて強力だからな…。
 士郎さんがいなかったらネギ先生どころか、私も危なかったかもしれない』

『そして士郎さんに抱っこされてのお帰りと……見せつけてくれるじゃないか』

『ッ!?み、見てたのか龍宮!?』

『ご丁寧に女子寮の真ん前まで抱かれていればな。窓から見え見えだったぞ?
 で、乗り心地はどうだった?そうかそうか気持ち良かったか』

『だっ、誰もそんなことは言っていない!!
 た、確かに思いのほか居心地が良くて…つい眠ってしまったが……。
 ず、ずっとこうしていて欲しいとかそんな事は思ってないぞ!!』

『………………………………ごちそうさま』

『っ!!?』



 ……その時、少しだけ。
 少しだけ■しくなったのは―――気の所為だろう。

 真名は苦虫を噛み潰したような顔をして、その足を喫茶店アルトリアへ向けた。
 …自分の表情に、自覚の無いまま。





 ◇◇◇◇◇◇◇




「あ―――………落ち着くなぁ。」
「ブレイクタイムってやつだぜ…」

 口を付けたティーカップの側でテーブルにぐったりと突っ伏すのは、子供先生ネギ・スプリングフィールド。
 そして同じテーブルの端に座って紫煙を吐く、
 彼と契約したオコジョ妖精アルベール・カモミールの姿があった。

 彼らはいま放課後の時間を使い、主従揃ってゆったりとだらけている。
 それを見てこの店の店主―――士郎は困った顔で二人に近付いた。


「……ウチは夕食時間ディナー以外は禁煙なんだけどな?」
「え?ご、ごめんシロウ」
「固てえコト言うなよ旦那〜。あと十分だけ」
「カモ君っ!」
「ったく…バレないようにな?
 学生しか来ない時間帯に煙草の煙とか不自然だろ」

 今は彼ら以外居ないからいいようなものである。
 自分が妖精だと隠している割にカモは案外テキトーであった。

「どうする?晩メシも食ってくか?」
「いえ、このかさんの晩ゴハンが待ってるので〜」

「はは、まるで新婚さんみたいなセリフだな」
「ひっ!?」
「だ、旦那!?ちょっと顔がコエーぞ!?」

 ………この時彼がどんな顔をしていたか、それはネギ達にしか知る由はない。
 唯一つ言える事は、普段は放任主義の癖に、
 士郎は若干シスコンの気があるということだけである……。


 ――カランコローン。


 そんな時、来客を告げるベルが鳴る。
 ドアの向こうから現れたのは―――。


「やあ士郎さん。報酬を貰いに来たよ」

 黒い肌に黒髪の少女が、微笑を浮かべてそう言った。




 ・
 ・
 ・




 士郎は手に持つ白い紙を食い入るように見つめ、
 真名から要求された金額に目を見張る。

 彼女の言うとおり適当なメモ紙―――近くにあった伝票―――を手渡し、
 真名がペンでサラサラとそこに何かを書き入れればあら不思議。
 「京都で龍宮真名を雇った代金」が、そこには提示されていた。

 …具体的には、六桁かもしれないし、もしや七桁…いや八桁まで届くかもしれない。
 士郎は顔を上げて、とにかく物申さずにはいられなかった。

「……たかだか二百の鬼と戦っただけにしては随分とぼったくるな?
 全部を撃退した訳でもない」

「おや、あの場で問題だったのは数じゃなくて時間だろう?
 私は急ぎのあなたに変わって鬼を相手取ったんだ、数を査定に入れるのは間違いだよ。
 そもそも面倒臭がって「言い値で雇う」と言ったのはアナタだ。
 私としてはこれ以上なく、正当な報酬だと思うんだけどね?」

 ……ぐうの音も出なかった。
 散財せず貯金が貯まる一方の士郎なら払うことは……まあ、可能な範囲内だが。
 彼は仮にも店を営む身、無駄遣いは御免こうむりたいのである。


「……カモ君、そろそろ帰ろうか」

 店内の妙な空気に耐えかねて、ネギ達はそっと席を立った。

「………ケーキ二つと紅茶二杯で、お会計は1380円になります………」

(旦那、ご愁傷様だぜ………)

 肩を落としながらレジを叩く士郎の哀愁に、
 カモは憐みの視線を送りながら激励した。


 ―――カランコローン


「また明日、ネギ先生」

 ドアをくぐって店を出ていくネギを、真名は笑って見送った。


(わー…キレイだな――…。龍宮さんって美人―……)

(くっ、ネギ騙されるな!!
 ここにいるのはお前の思ってるような娘じゃないぞ!!)

 顔を赤くして見惚れながら帰っていくネギを見て、士郎は心の中で咆哮した。


「…なにか失礼なコトを考えてないかな?」
「イヤ、ナニモー?」

 恐るべきは女の勘。


 ……次第に士郎は、顎に手を当てて「んん゛〜…」と唸り始める。
 だから彼には、真名の表情の変化が分からなかった。


「………確かに報酬は貰いたい所だが、いつも世話になっている店の店主ということもある。
 実は妥協案があr「その案でお願いします」」

 ザ・即答。シンクタイムイズ0秒。

 情けないとか面目がとか、そんな余分なプライドは狗に食わせて捨ててしまえ。
 女子中学生に頭を下げて頼む事の何が悪い、お金は大事なものなのだ。
 無駄な出費は少しでも減らすべきと知るがいい――――!!


「それじゃあ今度の日曜日、一日私に付き合ってもらうおうかな」

「…は?」

 こちらを見ながら顔を少しだけ傾けて、目を細めて微笑む少女に、士郎はポカンとした声を出す。

 ……こうして士郎は、仕組まれていたと気づかずに、真名の「妥協案」に飛び付いたのである。





 ◇◇◇◇◇◇◇




 ―――そして日曜日、世界樹前広場。

 何を隠そうこの場所は麻帆良有数のデートスポットであり、
 告白すれば恋が成就するなどという都市伝説が囁かれるほどであった。
 自然、日曜ともなれば、デート目的の男女が集まるというもので。

 ………衛宮士郎は非常に居心地悪そうに、
 仲睦まじいカップル達の密集地帯に佇んでいた。




 Side 士郎


 ………気まずい。
 周囲の桃色空気が容赦なく肌を突き刺し、
 毒が染み込むようにじわじわと精神力を削っていく。

 俺と同じように相手を待つ人もいるにはいるが……そんな人達も隠しきれずに、
 もしくは自然体で発散している幸せオーラが全開過ぎる。
 ………居た堪れない。

 しかし困った。どうしてこうなった。


(―――この衛宮士郎に………デートの経験などない………ッ!!)


 女の子と逢い引きした経験くらいならあるが、
 それも取り留めのない会話をして楽しんだり、一緒に食事をしたぐらいなのだ。
 むう。どうしたものか………。


「―――――おまたせ。」

 その声に振り向くと、悩みは一瞬で思考の外に追いやられた。
 ………目の前には。

 膝より少し上という丈でスカートが揺れ、美しい黒い肌との対比が眩しいその姿。
 純白のワンピースを着た可憐な美女が、俺を見つめて微笑んでいた。


「それじゃあ行こうか、士郎さん」

 そう言ってスルリと自然に、龍宮は俺の左腕に自分の腕を絡めてきた。

「なっ。ちょっ、オイ!い、いきなりなんだ!?」

「ん。男女がデートをするんだ、別におかしくないだろう?
 『今日一日私に付き合う』約束なんだから文句は言わせないよ」

 ぐっ………しかし…い、色々とマズイのだ。
 すぐ近くには龍宮の綺麗な顔があって、髪からはいい香りがしてくるし、
 密着している体の柔らかさがダイレクトに伝わってくる。
 そして何より………その、…やわらかいものが、当たってるんだが………。

 そんな事で頭が一杯な俺にお構い無しに、龍宮は俺をぐいぐい引っ張って進んでいく。
 俺は顔が熱くなっているのを自覚しながら、彼女の為すがままに広場を出るしかなかった。




 Side end





 ◇◇◇◇◇◇◇




 弟子をとった事もあって最近ご無沙汰になっていた“そこ”へ、
 久しぶりに訪れてみようと思い立ち。
 彼女は……目的の場所に到着したものの、無言でそこに立ちつくしていた。


『臨時休業のお知らせ』


「……“本日は諸事情により、誠に勝手ながら休業とさせて頂きます。
 またのご利用を心よりお待ちしております。店主”。
 ………ははは、何だろうなコレは」

 チャチャゼロを頭に載せたエヴァンジェリンは、
 顔を俯かせながらワナワナと震えている。

「……マスター、よしよし」
「アマリ気ヲ落トスンジャネーゾ」
「触るな貴様ら!!誰が気なぞ落とすものか!!」

 エヴァンジェリンは声を荒げながら手を振り回し、
 頭を撫でて慰めてくる従者達の手を「ばばばっ」と払いのけた。
 ……茶々丸はともかく、
 動けないチャチャゼロは撫でるというより頭に手を乗せていただけだが。

「…フ、フフフ……。聞いてない、聞いていないぞ士郎……。
 私に黙って一体どこに出かけたんだろうなーお前はー?」

「あ、あの、マスター。私や姉さんと違って士郎さんは人間です。
 プライベートな予定をマスターに逐一報告する必要はないと思いますが」

「覚悟しておけよ士郎…帰って来たらじっくり問い質してやる……!」

「聞イテネェ。スイッチ入ッチマッタナコリャ」

「ふふふふふ………!!」

 不気味な笑みを貼りつけて口角を吊り上げる、金糸の髪の吸血姫。
 従者二人はそんな主を見て、楽しそうだなあと思ったとか。

 ………あと「士郎頑張レ」とか、「士郎さん頑張ってください」とも思ったとか。





 ◇◇◇◇◇◇◇




 Side 真名


 ―――本当に、この男はなんなんだ。

 ちょっと悪戯してやろうと腕を組んで身体をくっつければ、
 面白いくらい顔を真っ赤にするなんて可愛い反応を見せてもらったけれど。

 ……でも、それは最初だけ。
 始めこそ赤面するなんて可愛気があったものの、
 途中からは腹を決めたのか全く動じなくなった。すっかりいつもの自然体だ。

 ………面白くない。

 しかし、形だけの恋人ごっことはいえ……こう密着していると、
 私の方も彼を意識してしまう。
 背中は大きくて、がっしりとした肩は広くて、身体は筋肉質で引き締まっている。
 ……解ってはいたが、やはり鍛えているんだな……。



 Side end




Side 士郎


 ―――本当に、この娘はなんなんだ。

 あんな目玉が飛び出るような金額をふっかけてきたと思えば、今度は「一日付き合え」とは。
 前者と後者の価値が、どう考えても釣り合わないんだが……。

 さらにこいつ、会っていきなり腕を組んできやがった。
 龍宮め……俺が女性経験皆無って分かってやってやがる。

 ―――よし、開き直る。
 美人に抱きつかれるのは役得と考えよう。
 こっちが慌てるから向こうは調子に乗るんだ、こういう時は呪文を唱えろ……!

 ――――体は剣で出来ている体は剣で出来ている体は剣で体は剣で(以下略



 Side end





 ◇◇◇◇◇◇◇




 麻帆良の街中でウィンドウショッピングをしたり、露店で食べ歩きをしているうちに、
 士郎は真名行きつけだという店に案内された。

 ―――緑基調の迷彩柄の布が壁にかけられ、
 壁一面にエアガンと思わしき銃やライフルが掛けられている。
 鍵のかかったガラスケースに展示されている数々の鋭利なナイフは、
 それらも内装の一部であるかのように上手く調和して存在している。

 ……しかし、物の構造を把握する事に長けた士郎は困惑した。


(………エアガンじゃない。ホンモノが混じってやがる………。)

 この店の内部を一言で表現するなら、………とても、ミリタリーでした………。


「………で。
 銃火器や刃物を扱うなんてアブナイ店がどうして麻帆良学園こんなところにあるんだ……?」

「士郎さんの喫茶店と同じ、魔法関係者行きつけの店の一つさ。
 表向きはエアガンを売り、裏では“実践的な本物”を販売しているんだ。
 なあおやっさん?」

「ああ、真名ちゃんだけじゃなく偶にガンドルフィーニ先生なんかも来るよ。
 ウチは銃の整備もやってるからな!ははは!」

「………ソウデスカ」

 ………麻帆良、案外物騒だった。




 その後、士郎は真名に連れられて、
 麻帆良大学バイアスロン部の練習を見学することになった。

「………なあ龍宮。何で五月なのにこんなに寒いんだ」
「工学部が作った人工雪があるからだよ」

 その体育館―――士郎が体育館と思っていただけで、実は工学部の巨大実験施設―――の内部では。
 一面の銀世界の中、バイアスロン部員たちがせっせと練習に勤しんでいた。

「んー、ちょっと今回の雪はべたつき気味かなー。滑りにくい」
「分かりました、もう少し改善してみます。
 よし後輩どもデータ取れ!」
『はいっ先輩!!』

 ………もう、なにが何やら。
 ちなみに人口雪原と各種設備―――玄関ロビー、受付、事務室、研究室、トイレ、ロッカー、シャワールーム、休憩室等―――は窓ガラスが付いた壁で仕切られ、ほとんどの部屋から銀世界が一望できるようになっている。
 士郎と真名は、休憩室でストーブにあたりながら練習風景を眺めていた。

「…バイアスロン部ってそんなに予算があるのか?」
「いや、工学部の人工雪研究に便乗しているだけさ。代わりに滑り心地とかのデータ取りに協力している。
 タダでこんな練習ができるこちらとしては断る理由が無いしね」

「………あと遊び心地はどうかと言って雪だるまを作らされたり、
 恋人が見つめ合っている時に降る雪はどんな形状・量・降雪速度が最適か、なんてアンケートも取られたね」

「………あのさ。この大学ってバカなのか?」

「否定はしない」

 「技術や成果は超一流なのに」、「頭の良い馬鹿とはこの事か」。
 二人は同じ事を考えていた。


 ガチャッ。


「やあ真名、今日は練習に来ないって聞いてたけどどうし………そちらは?」

 そんな他愛も無い会話をしていると、
 一人の青年が休憩室の扉を開けて入って来た。

「―――芹沢部長。彼は私の…友人で、いきつけの喫茶店で働いているんです。
 私が大学の部活動に参加していると聞いて興味を持ったと言うので」

 茶色の髪に同色の眼をした好青年―――バイアスロン部部長・芹沢に、
 真名は簡単な経緯を説明した。

「初めまして、衛宮です」
「……あ、ああ。初めまして。
 部長の芹沢です。バイアスロンに興味を持ってくれて嬉しいよ。
 …でも驚いたな、真名に男友達がいたなんて」

「ふふ、嫌ですね部長。私に異性の友人がいてはおかしいですか?」
「…いや、そんなことはないんだけど」

(………ん?)

 ………士郎は何だか、芹沢部長にチラチラ見られている……気がしたが、
 ……思い過ごしだろうか。

「まあ、ゆっくり見学していってくれ。
 練習の邪魔にならない程度なら自由に見てもらって構わないから」


 ―――バタン。


 ……去り際に、また一瞥された気がした。


(……一体、何だったんだろうな)


 ………およそ一か月後、
 芹沢が真名に告白するとは………この時点で誰も予想しなかった。





 ◇◇◇◇◇◇◇




 その頃、とある南の島では。

「いいんちょー、もう帰るのぉ〜!?」
「もうちょっと居ようよー」
「何を言ってるんですのアナタ達!
 土日丸々遊び尽くす気ですか?宿題はやったのですか!?」

「うう〜。でもでも、せっかくの南国リゾートなのに…」
「帰るのは決定事項です!!
 いつまでもグズグズ仰るなら、お望み通りここに置いて行きますわよ!?」

「あはは皆さん、名残り惜しいですけどいいんちょさんの言う通りですよ。
 そろそろ麻帆良に帰りましょう」
「ああネギ先生、ありがとうございます………!!」
「もうちょっとネギ君と遊んでたかったナー」

 とある一行を乗せた飛行機群が、麻帆良に向けて飛び立った。





 ◇◇◇◇◇◇◇




 午後一時半頃、二人は再び世界樹前広場に戻って来ていた。

 どうやらこの辺りでお開きらしい。
 下手すれば夜まで付き合わされるのではないかと思っていた士郎は、
 ほっと胸を撫で下ろした。

 ………しかし、逆に不審に思う。
 「一日」と言っておきながら昼過ぎに解散など、流石に早いのではないだろうか。
 そもそも何のために士郎を誘ったのかも未だ不明のままなのだ。

 そんな疑問を抱えながら、
 士郎は真名に手を引かれて広場の階段を上がっていく。


 階段を上がった先にある高台に到着すると、二人は街を一望した。
 空は広く、青く。白い雲は大きく高く、自由に青空を泳いでいく。
 真名は両手を柵にかけて、
 士郎は両腕を組んだまま肘を柵に乗せて寄りかかる。

 ………そこで、どちらともなく、二人の会話は皆無になった。

 何故ならここは、侵し難い空気で満ちている。
 それ・・の元は彼女、――――真名が発する雰囲気によるものだ。


 ―――ヒュオオオォ………ッ


 …それを押しのけるように、五月の風が広場を吹き上げる。
 風が真名の長髪を攫っていき、士郎の頬を静かに撫でた。


「――――似ていると、思ったんだ。」

 真名がぽつりと、口を開いた。

 誰が、とは言わなかった。
 誰に、とは訊かなかった。

 士郎はただ、何も言わずに聞いていた。




 ・
 ・
 ・



 会った事など無い筈なのに、初対面から既視感のようなモノを感じていた。

 優し過ぎて、関わりない他人が傷つくことに耐えられない。
 救うために、約束された平穏を捨てて自らを死地に向かわせる。
 救うためなら自分の命を容易く秤にかけて、いつも周りを心配させる。
 龍宮真名は、そんなひとを知っていた。


 ―――――――似ている、気がした。


 …ただ、いま隣にいる人物は、「彼」ほど異常ではないようだけれど。

 “分”というものを知っている。
 自分の力量では助けられない人がいる事を受け入れている。
 それを、どれほど嘆いたところで。
 救う力もない人間が、救えないことを嘆くことが、傲慢であると知っている。

 ―――だから。
 救う力が無い己を呪っている。
 自分に価値など無いと思っている。



『だいぶ矯正してやったつもりなんだが、まだまだだな。
 馬鹿は死んでも治らないというが……ま、気長にやるさ』


 エヴァンジェリンの言葉を思い出す。
 「彼」とそっくりな彼が、なぜエヴァンジェリンの従者になったのか。
 真名は、それだけがわからない。

 ―――でも。
 今は亡きパートナーを思わせる、その青年。


(……私は彼の、心の闇を知っている)


 彼をずっと想っている―――友人と違って。


 その友人を、彼の事でからかって、そうやって…楽しんでいただけだったのに。

 ………それだけの、筈だったのに―――。



 その時、真名の携帯電話が鳴った。

(……ピッ。)

「ああ朝倉。…あと二十分だな?わかった、ありがとう」

『何でそんなこと聞くのか知んないケド龍宮、私の情報料は高いよ?
 実はアンタの隠れファンからブロマイド欲しいって言われて―――』

(――ブツッ。)


(……優秀なんだが、あのパパラッチな性分はどうにかならないものか……)

「あれ、朝倉って雪広さんの別荘に行ってるんじゃないのか?」

「正確には雪広グループの南国リゾートを貸し切っているんだけどね。
 ―――さて、仕上げだ。行くよ士郎さん。今日の目的を果たしにね」

「ん。なんだ、まだ行く所があったのか」

「クスッ、安心しなよ、これが最後だ。
 ああ、あと――――ひとつだけ、お願いがあるんだけど」





 ◇◇◇◇◇◇◇




「はぁ〜憂鬱だわ。遊んだツケをこれから払わなきゃいけないのねー」
「本当におサルさんですわね。これからやれば夕食までには終わるでしょうに」
「アスナは勉強ニガテやからな〜」

 雪広グループの送迎車―――全て黒塗りの高級車である―――に揺られて、
 南国リゾートで過ごした3−A生徒が寮への帰路に就いている。
 そのうちの一台にネギ・あやか・明日菜に加え、木乃香と刹那が乗っていた。

「お嬢様、到着しました」
「あら、もうですの?もう少しネギ先生と一緒にいたかったんですけれど…」
「いいんちょさん、また明日学校で会えますよ」
「そうですね!それではまたお会いしましょう先生!!」

 寮の門前に車が停車すると、そこからぞろぞろと生徒達が降りてくる。
 ………ちなみに寮にいた他生徒達は、
 列を成して停まる高級車からぞろぞろと出てくる彼女達を、窓から驚愕の眼で眺めていた。

「あ――疲れた〜」
「でも楽しかったねーー!」
「また行きたいですー」
「アスナさん、もうネギ先生とケンカなどしてはいけませんわよ?」
「う゛っ。わ…わかってるわよぉ」

 口々に満足げな感想を零しながら、一同は楽しそうな雰囲気のまま解散した。

「楽しかったなーせっちゃん♪」
「ハイ、とても。海で遊ぶというのは初めてでしたが楽しかったです」

 満面の笑みで自分を振り返る木乃香に、刹那も笑みを浮かべて返す。
 その時、寮の門の外側から、彼女達に話しかける人影が現れた。


「―――やあ、帰ってたのか皆」

「あ、龍宮さんと………シロウ?」

 ネギのセリフに、その場に残っていた生徒達の目が集中する。
 ……彼女達の、目の前には。

 嬉しそうな笑顔を浮かべて士郎の腕に抱きついた――――真名、
 という二人が、仲睦まじそうに歩いてくる姿があった。


「………真名、流石に知り合いの前でこんな事するのは恥ずかしいんだが」
「いいじゃないか、デートっていうのはこういうものだ」

『デ、デート!?』
『たつみーがッ!?』
『な、何よ…龍宮いつの間に彼氏なんか作ってたのよ!?』
『あ、アレこのかのお兄さんじゃない?』
『うわーっ!ホントだ士郎さんだーーーっ!!』


 その以外過ぎる二人の姿に、女子達は一斉に黄色い声で騒ぎだす。
 ……寮に入ったんじゃなかったのか君たち。野次馬も程々にしておきなさいよ。
 しかしそんな喧騒の中で、彼女はどっと冷や汗を浮かべた。

(ア、アカンッ!!)

 木乃香が慌てて隣を見ると―――。



「…………え…?」


 …そう漏らして、刹那が呆然と立っていた。


(シロウのあほーーーーーーーーーーーっ!!!)


 そんな木乃香の心の叫びに士郎が気づく筈もなく、
 彼は親しげに―――と言っても特別な事ではなく、いつも真名と話すのと同じ様子で―――
 腕に抱きつく少女と別れの言葉を交わしていた。

「じゃあね士郎さん。今日はとても楽しかったよ」
「ああ。俺も結構楽しめたよ。まあ、偶にはこういうのもいいな。
 またな、真名」

 ……言うまでもなく、この「またな」とは「また会おう」という意味だ。
 しかしデート直後では、「またデートしよう」という意味で受け取る方が自然となる。
 しかもそれを笑顔で言うものだから、
 周りで見ていた少女達はきゃあきゃあ騒ぎ………言われた当人にも不意打ちだったのか、若干頬を赤くしていた。

 女子寮前は、俄かに賑わっていた―――――顔を蒼くした、刹那以外は。

 真名は士郎の腕を放すと、颯爽と寮の入口にまっすぐ進んでいく。
 その先には、自身のルームメイトであり友人でもある少女がいる。


 ―――二人がすれ違う一瞬、
 交わされた会話に野次馬達は騒ぎを止めた。


「…安心しろ、お前が思っているような関係じゃない。
 それでも悔しかったら―――お前もデートに誘ってみたらどうだ?」

「なっ…!た、龍宮……!!」

 すれ違う際に耳元でそう言われ、
 刹那は顔を真っ赤にして反論しようとしたが――――振り返ると、
 真名は既に寮の入口をくぐっていた。



(…もう少し。もう少しだけ。)


 この曖昧な関係を楽しもうと、真名は思った。




『………え、えーと……』
『な、なに今の!!』
『これはもしや――禁断の三角関係!?』
『フフフ、臭うよ!これは「ラヴ臭」に相違ないッ!!』
『茶化すのは止すですハルナ』


 状況が理解できずに再び騒ぎだすクラスメートの中、
 …一人だけ、冷静に事態を把握した人物がいた。

(………やるねー、龍宮…。
 この為にアタシらが何時頃に戻るか聞いてきて、それに合わせた・・・・ってワケだ)

 「麻帆良のパパラッチ」朝倉和美は、冷や汗を隠して乾いた笑いを浮かべていた。



 …その後。寮の前に残されたのは。

 「士郎殴ッ血KILLぶっちぎる!!」と言わんばかりの般若面を湛えた明日菜と、
 「後でお仕置きせな♪」と笑顔で青筋を浮かべる木乃香と。
 ………言いようのないモヤモヤを胸に抱えた、刹那だけだった。





 …………後日。

「ま、待て明日菜!!死ぬ!!それは死ぬ!!
 いつから『ハマノツルギ』はハリセンから大剣になったんだ!?」
「うるさーーーい!この朴念仁!!
 あんなに一途な乙女心を踏みにじって!!このド外道ーーーーっ!!」
「いやなんでさ!?」

「ええいちょこまかと逃げるな士郎!!女癖しつけのなってない従者を諌めるのは主人の責務だ!!
 大人しく氷漬けにされておけ――――!!」
「なんでさぁぁあああっ!!?」

「安心しいやシロウ……ウチが綺麗さっぱり治したるからな……♪ククク」
「!!?」

 士郎は訳も解らぬまま明日菜とエヴァにフルボッコされ、
 木乃香に治療され、またボコられるという無限ループを体験したといふ。





 ◆◆◆◆◆◆◆




「く……くく……がっ、はぁ…っ!!」


 ―――そこは砂塵が舞う戦場。広がる荒野に積み重なる無数の屍。

 ……そこで、血の海の中で苦悶の表情を浮かべる男と、彼を静かに見下ろす青年が睨み合っている。
 それだけが、そこで生ける者だった。

「く………ははっ。
 まさか…こんな所で『四音階の組鈴』に会うとは………な」

「……随分と有名になったんだな」

「ああ…有名だとも。優秀な日本人のリーダーと『魔弾の射手』……がいる、
 紛争終結と人命…救助のために、自ら戦争に参加する…変わり種のNGO組織。
 ―――『四音階の組鈴カンパヌラエ・テトラコルドネス』。
 ……オレみてえな…ヤツらにとっちゃ、アンタらは……はっ。充分有名人だぜ」

「………その銃を捨ててくれ。
 そうすれば陣地に運んで治療してやれる」

 瀕死になっても男は銃を手放さず、それを青年に向け続ける。
 まるで、親の仇でも見るかのように。
 そうなれば青年の方も無抵抗ではいられない。
 彼の方も、脇に抱えたライフルの銃口を男に向けていた。

「はっ、馬鹿言え。敵の…情けなんか……いるかよ」
「…僕らは敵じゃない、この紛争を収めたいだけだ。
 先に仕掛けたのはあなたの国だろう、アナタ達が矛を収めてくれれば―――」

「解ったような口利くんじゃねえ…!!何も知らないくせに出しゃばるな若造!!
 っぐ……!ゲホッゴホッ!!」
「頼む………武器を捨てて降伏してくれ!!
 じゃなきゃ……治療できない……!!」

「………はっ、ざけんな……。
 てめえらが肩入れした国が……俺達に経済封鎖なんてしなきゃあこんな……ことにはならなかったんだ……。
 こうする以外になかったんだよ!!先に仕掛けたのは……てめえらの方だろうが!!」

「………ッ!」

「…………は……。
 『四音階の組鈴』のリーダーは甘ちゃんだ……ってウワサぁ本当だったか……。
 そんな………顔してんじゃねえよ」

「……っ」

「てめえソックリだぜ…あの死神、に………。
 ―――いいぜ、人生の先輩として………そいつの言葉くれてやる」

「………!?」



“―――そう、数は限られている。
 幸福という椅子は、常に全体の数より少な目でしか用意されない。
 その場にいる全員を救うことなど出来ないから、結局は誰かが犠牲になる”

“だから―――僕が殺す。いずれ零れ落ちる誰かを僕が切り捨てる。
 速やかに殺し、効率的に殺し、それ以外の多くの人間を救ってみせる――――。”



「―――!?」

 その言葉が耳に入り、鼓膜を叩き、脳が内容を理解したその瞬間。
 青年は、気づけば言葉を失っていた。


(―――なんだ、それは。)


 誰かのものだというその言葉には……一ミリも揺らぐ事ない鉄の覚悟と、氷が温く感じるほどの冷徹さと。
 ――――比類なく暖かい、人類への愛に満ちていた。

 筆舌に尽くし難いその思いが抱える、あまりに歪すぎる矛盾。
 ……それに吐き気を催しながら。
 青年は、その正義を否定できない自分が居る事に絶望した。


 何故ならそれが、目の前にある現実だった。
 この青年がどれほど身を粉にしようとも、そこには必ず在る限界。

 ―――救えない人間いのちというものを、青年はあまりに正しく理解して。
 …どうしても、それを許容することができなかった。

 生命いのちの分だけ幸あれと。
 それが、この青年が、戦場を駆ける理由だったから。


「…今のは…俺達の伝説―――「マーダー・メイガス」の言葉…だ…。
 人を助けてえなら…精々、あの人のようにならねえよう………に、気をつけな…」


 ―――十数年前、誰よりも戦場で人を殺した男―――『魔術師殺しマーダー・メイガス』。
 誰よりも冷徹だったその男は、同時に世界の誰より優しく、
 また誰よりも人間の幸福を愛していた。

 だからこそ伝説。
 中東の兵士たちは彼の生き様に、生命の重さと尊さと、生きる難しさを知った。
 故に。
 彼らは彼に敬意を払い、決して彼にはなるなと心に刻む。
 誰よりも人の幸福を望んだくせに、誰よりも人を殺した男――――。


 ガシャッ…ビチャ……。


 落下音とほぼ同時、血の海に何かが落ちた。
 ……掲げられていた腕は地に着いて、男の手から零れた銃。
 既に、戦士の命は消えていた。



「…………コウキ」

 いつの間にか青年の背後に立っていた、
 黒い肌に黒髪の―――まだ、小学生ほどの少女が声をかける。
 …だが彼は、息絶えた男の前からどうしても動かなかった。

「………どうして」

 食い縛った口から血を流し、顔を上げた青年は曇天の空を睨みつける。


「どうしてみんなが、幸せになれないんだ…………!!」


 ……静かな慟哭に、応える者がいる筈もなく。
 そのうち―――ポツリ、ポツリと、雨が降りだした。

 それは砂塵を晴らし、大地に染みる血の憎しみを洗い流していく癒しの雨。
 ………だが。
 コウキと呼ばれた青年の顔に落ちる雨は、明らかに現実を呪っていた。


 ……黒髪の少女は、そんな彼にかけてやれる言葉を、ついぞ見つける事ができなくて。
 悲しげに眉を潜めたまま…せめて。
 彼と一緒に、ずぶ濡れになろうと思った。





 ・
 ・
 ・
 ・




『………何をやっているのあなた達。みんな心配して捜してるわよ?』

『マナ、コウキの手綱はあなたがしっかり握ってなきゃダメじゃないの。
 コイツはあなたに甘いんだから』

『………呆れた。なによその顔。
 …コウキ、何があったのか知らないけどね。
 一人で勝手に背負い込んでボロボロになるのはやめなさい』

『あんたが辛かったら私達も苦しいし、怪我をしたら私達だって痛い。
 あんたに何かあったら悲しむ人がいるってこと…いい加減に理解しなさい』

『さあ、さっさと帰るわよ……マナ、コウキ――――』




 ・
 ・
 ・
 ・



「―――…ああ、夢か……」

 思わずそう独りごちる。
 ……随分と昔の夢を見てしまった。それも、明日の予定の所為なのだろうか。

 顔を横に向けると、向かいのベッドにはルームメイトが眠っていた。
 すやすやと眠る彼女。
 修学旅行を終えてから、随分と表情が柔らかくなったように思う。


「もう少し積極的にならないと、
 お前の想い人……貰ってしまうかもしれないぞ?」

「………ん…………?」

(おお、反応した。どれだけ好きなんだお前。)

 私は思わず笑みが零れるのを自覚しながら、明日―――日曜の予定に思いを馳せる。
 友人の前で、その想い人と仲睦まじい様子を見せつける。

 それは奥手な友人を、焚き付けるための計画だ。


(さあ、女を見せてみろ、刹那――――。)









<おまけ>
「ちょっとだけリゾート編」

木乃香
「ネギくーんしつもーん!仮契約パクティオ―ってキス以外にする方法ないんー?」
刹那
「お、お嬢様…っ!」

 刹那と共に学園指定のスクール水着を着て走ってくる木乃香の質問に、
 ネギは目を丸くして振り向いた。

ネギ
「え、えーと?」
カモ
「一体どーしたんだよこのか姉さん」
木乃香
「うん。ウチな、あれから考えてやっぱり魔法使いになるための勉強することにしたんよ」
ネギ
「えーっ!そうなんですか!」
朝倉
「ほぉーー」
木乃香
「それでウチ、せっちゃんに魔法使いの従者パートナーになって欲しいんやけど……。
 せっちゃんが女の子同士でキスするのはアカンゆーんよ」
刹那
「いえっその…。」

 申し訳なさそうに木乃香を見つめながら、刹那は顔を真っ赤にして俯いている。
 対する木乃香も、平気とは言いながら若干頬を赤くしていた。

カモ
「ははあ、成程なー」
朝倉
「別にいーじゃんキスぐらい。みんなふざけてそれくらいするぜ?」
刹那
「い、いえっやはり節度は守らないとっ………!!」
木乃香
「ウチは別にえーんやけどなー♪」

カモ
(………ふーむ)

カモ
「なあ刹那の姉さん、姉さんは女同士のキスがダメってんだろ?」
刹那
「…は、はいそうです。
 やはり同性でそ、そういうことをするのはえっと……ごにょごにょ」

 刹那は両手の人差し指をツンツン付き合わせながら頷いた。
 それを見て朝倉は、彼女の古風な考え方に溜め息を吐く。

朝倉
「時代に置いてかれるよー桜咲。世界には同性愛者ってのがごまんといて…」
刹那
「あ、朝倉さんっ!!」

カモ
「――というコトはだ。相手が女じゃなきゃ一向に構わねぇってコトだな」
刹那
「…えっ?」

 刹那は意味が解らずに、ぽかんと口を開けて動きを止める。
 それは周囲も同じだったが―――、一人だけ、カモの意図に気づいた少女がいた。

木乃香
「…せやな!相手が女の子やなかったら、せっちゃんはキスしても構わんってことやな!」
刹那
「え、え?お嬢様なにを…」

 私がお仕えする相手は貴女だけ―――そんな決意を口に出す前に、
 彼女の言葉は彼女の親友に阻まれた。

木乃香
「つまりウチやなくて、シロウとなら何の問題もないゆーコトやろ♪
 ややなーせっちゃん、ほんならそう言ってくれたらよかったのにー♪」
刹那
「え゛っ」


刹那
(………えっ?)


刹那
「―――――――な、な、な、なーーーーーーーーーーー!!!!」


 耳の先まで真っ赤に染めて、刹那は顔を茹で上がった様に赤面させる。
 よく見れば顔どころか、全身が桃色になるほど彼女の体温は上昇していた。

カモ
「ぷくくー。初心で奥手な刹那姉さんがまさか、
 そんな事を考えてたなんてなー(ニヤニヤ)」
木乃香
「安心しいやせっちゃん、ウチはせっちゃんを応援しとるからな!
 ウチのお義姉ちゃん目指して頑張ってなー♪(グッ)」
刹那
「あああああ…ちが、違うんです!!そういうイミじゃないんです!!
 女性同士だと倫理とかモラルに問題がという話であって、男性なら大丈夫とかそんな事では―――……!!」

木乃香
「…でも、したいやろ?シロウとキス」
刹那
「ッ!?」
カモ
「ククク、いいぜぇ刹那の姉さん、その時はいつでも呼んでくれ。
 いつでも姉さんと旦那の仮契約に立ち会わせて貰うからよ!」
刹那
「…ち、ち、ちがっ…違うんですーーーーーーーーーーー!!」

ネギ
『え、仮契約の仕方ですか?』
夕映
『はい、私も是非ネギ先生と契約して、のどかのような魔法のアイテムを…』
朝倉
『ネギ先生とキスするんだってよー、ゆえっち♪』
夕映
『え゛っ////』

 こうして、南国での土曜日は穏やかに過ぎていった。
 ……この翌日、刹那は驚愕に絶句する(やめれ



〜補足・解説〜

Q、今回、真名は何がしたかったの?
A、刹那を焚きつけたかった。
 もっと正確に言えば、刹那をからかうのが1/4、士郎とデートして楽しむのが1/4、そして刹那を焚きつけるのが1/2です。
 真名さんはもしかしたら友達思いかもしれません。
 ちなみにこれで、今までやったヒロイン専用イベントは過去話のフィン編と、今回の真名編の二つ。
 残るはエヴァ編と刹那編の二つを予定。

Q、真名は士郎のことが好きなの?
A、真名自身は好きではないと自己分析しています。
 ですが、かつてのパートナーと危なっかしい性格が似ていて目が離せない、非常に気になっている、でも士郎は刹那の想い人、などと複雑な心境を抱いています。
 「私の人生はもう最後まで予定が詰まってる」と公言するほど、真名は亡きパートナー・コウキへの思いが今もあります。
 だから彼女は、刹那に「もっとアプローチしてさっさとくっついてしまえ」と。
 コウキという大切な人を失っている真名からすれば、刹那は見ていてあまりにじれったく、またさっさと二人が恋仲になってくれないと――――ごにょごにょ。
 ………こーゆーキャラの内面を、解説コーナーじゃなく本編中で書き切れればいいんですけどねー(自虐


>多くの3−Aクラス生徒が
>三十人弱の人間
 三十一人全員がリゾートに行った訳ではありません。
 エヴァは呪いで行けず、自動的に茶々丸も不参加、そして真名も不参加。
 その他にも数人、外せない別の予定が入っていて泣く泣く不参加だった人がいるかも。

>雪広財閥……恐るべし……!!
 まさしく絵に描いたような「漫画に出てくるようなお金持ち」の図である。
 や、原作は漫画ですけどね?(笑)

>濡れ烏の黒髪
 厳密に言うと「黒い黒髪」と言ってるようなモン。しかし語感が良いのでこの表記とした。
 正しくは濡れ烏の髪、濡れ羽色の髪などと言い、日本人女性の美しい黒髪を称えた美称の一つである。
 ……ただし、真名さんが日本人の血を引いているかは考慮しない。
 艶のある綺麗な黒髪なら人種なんて関係ないと思います!!(逆ギレ

>褐色肌
 褐色肌と黒い肌は別物だと思っていましたが、日本の二次元コンテンツでは黒い肌も褐色肌と表現してOKらしい。
 褐色肌、黒い肌、浅黒い肌、小麦色の肌………日本語って難しい。

>俺は戦場でも真名と一緒に居たいけどなー
 さて、この発言の真意は?
 士郎「ん?真名ってプロだし、(戦場で)一緒だと(仕事がやり易くて)楽だろ?」
 真意:実益でした。色々と酷い。

>少しだけ■しくなった
 この塗り潰しに何が入るかは読者様方のご想像にお任せします。
 私が思いつく限りは、「空しく」とか「羨ましく」とか、そんな所ですかねー(すっとぼけ

>「いえ、このかさんの晩ゴハンが待ってるので〜」
>「はは、まるで新婚さんみたいなセリフだな」
 士郎「なんか無性にムカッときた」
 ネギ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 カモ(シスコン……)

>散財せず貯金が貯まる一方の士郎
 何とか黒字計上ができる程度の経営状態なので、喫茶店の売り上げは少ないです。
 しかし魔法関係の問題から麻帆良を守る「夜の警備員」が高給取りで、それをほぼ手つかずで貯金しているため実は小金持ちだったりする。

>払うことは……まあ、可能な範囲内だが。
 請求額が七桁までなら即払い可能だが、八桁までいくとローンを組む必要あり。
 あと報酬金額八桁って真名さん、あんたゴルゴかw

>ケーキ二つと紅茶二杯で、お会計は1380円
 ショートケーキ390円、紅茶が300円です。

>シンクタイムイズ0秒
 シンクタイム=「think time」。考える時間がゼロの即答、ということ。

>デートの経験などない
 フィン「………なんだと。」 ※過去話Y参照
 士郎「ん?アレは飯食っただけでデートじゃないだろ?」
 フィン「……ふんだ(プイッ)」
 士郎「なんでさ」

>膝より少し上という丈でスカートが揺れ
>純白のワンピース
 原作・麻帆良祭で着ていたあのワンピースです。
 服の描写ってホント難しい……。

>可憐な美女が俺に微笑んでいた。
 「可憐な」という言葉は本来「か弱そうな」という印象のことであり、それが転じて「守ってあげたくなるような女性の可愛らしさ」を表現しています。
 ………うん、真名は可憐じゃないと思(ry
 …ほ、微笑んでた表情があまりに可愛らしくて、士郎には可憐に見えたんだよきっと!!

>ははは、何だろうなコレは
 因果応報。業(カルマ)とも言う。
 急遽自分の都合で士郎を呼び出した前話とは反対に、今回は士郎の急な予定で自分が思い通りにいかなかった。
 しかしその腹いせは士郎に返るという……哀れ。

>スイッチ入ッチマッタナ
 わがままモードのスイッチ。ムキになると子供っぽいんですよねエヴァって。
 だからアルにいいように転がされるんだよ……。

>楽しそうだなあと従者二人は思ったとか。
 士郎が従者になってエヴァが一番嬉しいのは、生活に張り合いが出て充実している事ではないでしょうか。
 ……まあ、嬉しいとは、決して認めないでしょうけれども。

>―――よし、開き直る。
>美人に抱きつかれるのは役得と考えよう。
 これがのちのプレイボーイドンファンである。(多分)

>工学部の人工雪開発
 彼らならこれくらいやってそうだと思って書きました。反省はしていない。
 良い意味で頭がおかしい集団というのは漫画を見ていてよく分かる(笑)。

>茶色の髪に同色の眼をした好青年―――バイアスロン部部長・芹沢
 原作のモノクロ資料しかないので髪・瞳の色は捏造です。
 見る限り金髪っぽいですが、好青年な普通の大学生がパツキンに染めてるとも、日本人の地毛が金髪ってのも違和感があったので「地毛の茶髪」という設定に。
 ……そこ、「純日本人のまき絵の髪はピンク色じゃん」とか言うな。

>ひとつだけお願いがあるんだけど
 刹那の前で親密さをアピールするため、「名前で呼んでくれないかな?」とお願いしました。
 これまで士郎は真名をずっと、名字の「龍宮」と呼んでいたという設定です。
 ………今までの話の中で、ついミスって「真名」と呼んでしまっている箇所をこの機会に修正したり(汗
 しかしそもそも、士郎が真名の名前(“龍宮”呼び含む)を呼んで会話しているシーンがほぼ無かったという衝撃の事実。

>「士郎殴っ血KILL!!」な明日菜、「後でお仕置きせな」という木乃香
 二人は刹那を応援しているので、「刹那さん/せっちゃん以外に手を出してんじゃねぇよ」という感じです。

>いつから『ハマノツルギ』はハリセンから大剣になったんだ!?
 初の剣形態覚醒はリゾート編なので、時系列的にはここでも覚醒可能なハズ(笑)

>ウチが綺麗さっぱり治したるからな……♪ククク
 このとき木乃香は、扇(アーティファクト)で口元の黒い笑みを隠しながら、流し眼で士郎を見つめています。
 原作でも偶に黒いというか、策士なんですよね。
 ただし麻帆良祭で夕映・のどか・ネギの三角関係を知った時の様子を見るに、性格的には向いてないっぽいですけど。

生命いのちの分だけ幸あれと。
 出典は『Fate/hollow ataraxia』より、衛宮士郎の心情から。
 個人的な印象…というか、この小説での設定と言いますか。「剣製の凱歌」世界では、この青年(コウキ・T)≒原作士郎、この小説の士郎≒アーチャーみたいな感覚で対比しています。
 そして今回のエピソードを経て、彼……コウキは、原作で言われていた「子供達に笑顔を」という理想に至る、というオリ設定。

>俺達の伝説―――「マーダー・メイガス」
 傭兵や兵士たちから恐れられた筈の彼はしかし、行動の善悪関係なしに「己の理想に邁進した者」としてある種の尊敬も受けている模様。
 この小説世界では、生前より死後の方が影響力が強いかもしれません。下手な信仰を受けてしまっているぶん性質が悪いとも言えますが。関西呪術協会の反関東・過激派のように、都合よく英雄視するアホも現れてますし。
 ただしFate/EXTRAのアーチャー曰く「英雄とは理想ではなく人を救うもの」であるとし、人を救う事が理想を成すための手段でしかなかったマーダー・メイガスは、真実英雄ではなかったでしょう。
 だからこそ真名の回想に出てきた兵士は、「俺達の伝説」とは言っても「俺達の英雄」とは口にしなかったのです。
 その伝説は人の命を救いはしても、人を救うことはしなかったから。

>随分と昔の夢を見てしまった。
 色々と完全に捏造。
 改訂前はこの夢のくだりが<おまけ>になっていて、タイトルは「雨の記憶は四音階」。
 ……このタイトル気に入ってたので、せめて解説にだけでも載せようとw

>帰るわよ……マナ、コウキ
 うん、伏線。



 次回、原作のあの人物が遂に「剣製の凱歌」に初登場!

 「ネギま!―剣製の凱歌―」
 第三章-第37.5話 帰国子女と英国淑女(仮)

 それでは次回!


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
 最後までお読み頂きありがとうございます。
 誤字脱字・タグの文字化け・設定や内容の矛盾等、お気づきの点がありましたら感想にてお知らせください。
テキストサイズ:37k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.