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ネギま!―剣製の凱歌― 番外4 Happy Halloween……?
作者:佐藤C   2013/10/19(土) 10:54公開   ID:KMxakc4y6G2
〜まえがき〜

 読者の皆様、お久しぶりです。佐藤Cです。
 最近仕事の方が忙しく、本編の執筆が全く進んでおりません。
 そのため今回、繋ぎとして急遽書き上げた番外話を投稿しました。

 この番外話は魔法世界編よりも後、体育祭を終えた十月末という時系列の話です。
 何でそんな、「剣製の凱歌」本編の時間の流れをスルーした話を書いたのかと言えば、今の季節が十月だから。
 いわゆる時事ネタ。季節が旬のハロウィン祭に乗っかってみました。

 次話に関しては、読者様方には今しばらくお待ち頂けると嬉しいです。
 今後とも、「ネギま!―剣製の凱歌―」をよろしくお願い致します。

 佐藤C








 盛大かつ大騒ぎだった体育祭も無事に終わり、本格的に冬の冷え込みが迫ってきた十月末。
 しかし。
 だからといって背中を丸め、肩を縮こませて寒がるような麻帆良学園生徒たちではない。

 ―――そう。
 お祭り好きな彼らの熱気は、体育祭のひと月後でも冷めやらぬ――――!!



『ハッピーハロウィーン!!』

「うわっ!!?」


 西洋風―――街灯が立ち並ぶ石畳の町並みを歩く中、
 ネギは背後から聞こえた大声に不意を突かれて飛び上がった。
 ……しかしその声の主たちの正体は、彼にとって知らない声という訳ではない。

 最近とかく忙しい―――水面下で進めている“大事業”の発案者かつ発起人かつ計画推進主導者でもあるこの十歳の少年―――教師ネギ・スプリングフィールドの教え子、彼女たちの声に間違いなかった。

 ………事業とか教師とか、子供のプロフィールにしてはおかしい気がするが安心しろ。
 ネギは魔法使いだ。ついでに創造神の血を引く亡国の王族の末裔だ。
 お、おかしいなんて事はない、絶対に無いのだ……!


「い、いきなり何ですか皆さん!
 そんな大声で―――って…」

 一瞬、ネギは目と口をポカンと開けたまま固まった。

 何故なら彼の背後に立っていた少女達は皆、一様にして普通の格好とは言えなかったからだ。
 周囲を歩く通行人…他生徒たちも―――その姿に理解を示しつつも―――興味深そうに彼女たちを眺めている。

 ネギが担任を務めるクラス…3−A生徒たちは、一様にして仮装姿だったのだ。


「いやーこのカンジ、学園祭のノリを思い出すね!」

 全身黒服と黒タイツを着てネコミミを頭につけた裕奈がクラスメート達を振り返る。
 双子の鳴滝姉妹は揃って黒マントで全身を覆い、ヘルメット―――刳り貫いたカボチャで作られた魔除け、ジャックランタンを模している―――を頭にすっぽり被っている。
 そしてアキラは、裕奈の衣装と耳・尾・色違いの狼男…ならぬ狼女。
 周囲からは「アーティファクト使って人魚になれば?」と提案されたが即却下。
 あとアレ言うほど人魚っぽくない気がする。

 全身…頭や顔まで包帯を巻かれたミイラの亜子は、恥ずかしいのか少し顔を赤くしてネギを見ていた。
 その隣で同じように、何か期待するような眼差しでまき絵もネギを見つめている。
 そんな彼女は黒いマントを羽織って口にキバを付け、コウモリを意識した髪飾りで髪を留めた吸血鬼だ。

 柿崎はロングスカートのドレスにつばの広い帽子を被った魔女。
 釘宮はローブで全身を隠して水晶玉を抱える呪術師。
 桜子は白い布を頭からかぶっただけの、いわゆる「普通のオバケ」。
 周りのメンバーを見る限り手抜きっぷりが著しいが、
 本人は気にする事なく笑顔で「ひゅ〜どろ〜」などと口走ってノリノリである。

 ……作者的には、ハロウィンらしさを無視してバニーガールの仮装をする猛者とかいないかなと期待している。
 あれは誰だったか、
 麻帆良祭でバニーな仮装に身を包んだ神鳴流剣士とか居た気がするんだが……?(チラチラッ)


「あ、そっか!ハロウィーンですか!もうそんな季節なんですねー」

 実は麻帆良学園の所々でハロウィンの装飾が施された場所があったのだが、
 考え事をしていたネギはどうやら気づかなかったようである。

「兄貴は最近忙しすぎて季節感ねぇんだろーな」

 ネギの肩に乗ったオコジョ妖精カモミールは、
 己の主人にやれやれと肩を竦めた。

「そーだよ!!ネギ君ぜんぜん学校来ないんだもん!!」
「少しは休まないと身体が保たないよ」
「てゆーか担任が受け持ちクラス放っぽって別の仕事していーのかー!?」
「フェイト君怖いよぅ…厳しすぎるよぅ…ネギ君カムバック……!」

 上から愚痴まきえ心配アキラ文句ゆうな懇願さくらこの台詞である。
 ネギは身に覚えが有り過ぎるわ、身につまされるわで、「うっ」と呻く事しかできない。
 そう、ネギの代わりの担任はフェイトがやってます。


『…クシュンッ』
『あらフェイト先生、風邪ですか?』
『いえ、しずな先生お気になさらず。僕にそのような機能はついていないので。
 きっと生徒の誰かが僕の悪口でも言っているんでしょう』


「でも皆さん似合ってますねー、とてもカワイイと思いますよ」
「でしょー!!」
「頑張って作ったですー!!」

 ネギに褒められ、鳴滝姉妹がヘルメットを脱いで破顔してはしゃぎ出す。
 その姿に周囲がほっこりしていると―――。


 ―――暴風ソレは、訪れた。


“ざわざわ…っ!”

『ッ!!?』

 通行人たちがどよめく。
 何事かと視線を向けたネギ達は、………向こうから歩いてくる顔ぶれに、一斉に顔を引き攣らせた。


“ゴゴゴゴゴ……!”


 何の変哲のない小路の癖に、充ちる雰囲気は明らかに異常。
 彼女たちが近づくほどに、質量を伴った異質な空気が塊となって近づいてくる。

 逃げ場のない狭い廊下に、隙間なく濁流が押し寄せてくるような、そんな―――。


「おお、誰かと思えばぼーやじゃないか」
「姉さんから伺っています。随分とご多忙のようですね」
“ネギ先生、お久しぶりです”

 現れたのは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
 ザジ・レイニーデイ。そして四葉五月、その三人。
 …そしてそれに話しかけられた、ネギたち一同の心は一つだった。


(―――ほ、ホンモノだ………!!)


 三人のうち一人は真祖の吸血鬼、一人は魔界の王族だ。
 ハロウィンでも仮装要らず、だって「本物」なのだから――――!!

 ちなみにエヴァはマントを羽織り、ザジに至っては本来の姿である悪魔態というノリっぷり。
 そしてそんな二人の隣で一緒に笑ってるさつきさんがマジ半端ない。

「フム。では久しぶりに会えた多忙な先生に、お決まりの挨拶をしてやろうか」
「え?」


お菓子をくれなきゃ悪戯するぞTrick or treat、ネギ先生」


 ―――瞬間。
 ネギは背筋に走る悪寒に震え、エヴァンジェリンはニィッと口を釣り上げた。

「あー!!エヴァちゃんずるーい!!」
「私達が先に先生に会ったですよーー!!抜けがけですーー!!」
「ネギ君、トリックオアトリート!!」

 まき絵や鳴滝姉妹がぎゃあぎゃあと騒ぎ出す…が、ネギはそれどころでは無い。

 ―――そう、



「おやおや?まさかぼーや、おまえ菓子を持っていないのか?」



 ネギは――お菓子を持っていなかった……!!



「いやあスマン、そこには考えが及ばなかった。ハロウィンだからてっきりな。
 しかしお前も運が悪いな」

「絶対判ってたでしょ師匠マスター!!わざとらしいっ」

(吸血鬼は鼻が利くからなぁ…)



「…はっ」

 エヴァに詰め寄るのも…そこまでだった。
 背後から漂い始めた怪しい悪意。
 ネギは自身の後ろに立つ、愛する生徒たちに言い知れない恐怖を感じる。

「ネギ君………お菓子を持ってない?」
「…駄目だねぇ〜、ハロウィンなのに準備してないなんて」
「最近学校に来ない事といい、私達と過ごす時間イベントを疎かにしていると言っても過言ではないねコレは」
「あーそれダメだわ。担任失格だわ」
「かくなる上は……愛のムチも致し方なし…!」


 …否。振り返るべきではないっ!!


「三十六計逃げるが勝ちだっ兄貴!!」
「“加速アクケレレット”ッ!!!」

『イタズラしちゃうぞネギ先生ーーーーーーーっ!!!』
『お仕置きだーーーっ♪』

 今なら悪戯し放題。
 何故ならお菓子を持っていない、持ってない方が悪いのだ……!
 そう言わんばかりに嬉々として、3−A生徒たちは逃げたネギを追って走り出す。


“もう、どうしてそうネギ先生で遊ぶんですかエヴァンジェリンさん、大人気ない”

「ぐ…あのな五月、この前も言っただろうが、長生きするとな…」

“黙ってください。言い訳は聞きません”

「すみませんネギ先生、私はエヴァンジェリンさんを抑えるのがやっとなので…
 他の皆は、自力でどうか」

「もう、裕奈は…。亜子まで一緒になって…」

 残されたのは、ザジの翼と尾で動きを止められたエヴァを説教する五月。
 そして出遅れたアキラは、ため息を吐いてネギ達を追って駆け出した。





 ◇◇◇◇◇◇◇




「喰らえ、『魔法禁止弾』!!」
「『自在なリボン』ーーーっ!!」

「わーっ!わーっ!!」

 飛来する銃弾を紙一重で回避して、迫るリボンを体を捻って躱し続ける。
 裕奈の狙いは正確無比で、それを避けるのに労力を割き過ぎればリボンに捕まりそうになる。
 アーティファクト『七色の銃イリス・トルメントゥム』、『自在なリボンリベルム・レムニスクス』。
 この二つのAFは決して相性が良い訳ではない、なのに―――。


「どーしてウチのクラスはこう、やる気になるとスゴイんですかーーーっ!!」

 走るネギは既に涙目であった。

「…そうか、亜子さんの『不思議な注射器』だ!!」
「魔力強化済みかよ!!」

 ネギの超加速にどうやってついてきているのかと思えば、手品のタネは亜子だった。
 ただし彼女のAFは、ぶっとい1.8cmの針を体に刺さなければ効果がない。
 その恐怖と激痛を乗り越える覚悟のあった裕奈とまき絵だけが今、ネギの追跡を可能としていた。
 他のメンバー?置いてけぼりですよ。

「く…このままじゃマズイ、形振り構ってられないよ!
 ラス・テル・マ・スキル・マギステル!『千の雷キーリプル・アストラペー』―――固定スタグネット!」

 直径50cm大、球状の魔力塊を掌で握り潰して取り込んだ。
 その瞬間、ネギの肉体は雷と化す!


 染まる身体は雷光の煌き、顕すのは紫電の雷霆。
 『闇の魔法マギア・エレベア』、術式兵装プロ・アルマティオーネ――――!!


「『雷天大そヘー・アストラ…「ばすっ」……え?」


 ……ネギの体から、急速に魔力が失われていく。
 雷の光は消え、加速の魔法も解除された。

「やりっ!当たった!!
 たつみーから“跳弾”習っといてよかった!!」
「ゆーなスゴーイ!!」

「えええええええっっ!!?」
「何してくれてんだ龍宮隊長ぉ!!」


 跳弾とは「銃弾を壁などの物体にぶつけて跳ねさせる」などして、
 本来は一直線にしか進まない弾丸の方向を途中で変更する高等技術。
 それで狙い通りの場所に命中させる事が出来るというなら、その腕前は間違いなく超一流だ。

 ………裕奈は、銃を使い始めて半年も経っていない女子中学生、なのだが………。
 ……いや、深く考えまい。
 この世界の人たちは色々とおかしいんだ、うん。


『くしゅんっ』
『おや、風邪でござるか真名』
『ん、いや。おそらく誰かが噂でもしているんだろうさ』



「今がチャーンス!!」
「ネギ君覚悟ーーっ!!」
「わーーー!!」

 魔力で身体強化された女子中学生二人が迫る。
 魔法が使えないただの十歳となったネギに、為す術は……もう―――。


 ――――ドゥンッ!!
 ―――ギャギギギギギーーーーッ!!!


「「「!!?」」」


 駆動音、其れは力強いエンジンの雄叫び。
 摩擦音、其れはタイヤの蹄が大地を掴んで駆ける証。

 颯爽と駆け抜けた黒塗りのリムジンは、
 裕奈とまき絵、ネギの間を分断して急ブレーキで停車する!
 そして後部座席のドアが開いた―――!


 ―――バンッ!!


「ネギ先生、お早く!!」
「い、いいんちょさん!!」


 雪広財閥令嬢にして3−Aクラス委員長。
 そして何よりネギLOVEを掲げるショタコン雪広あやか此処に見参ッ!!


「く、よりによって委員長っ!!」
「ネギ君は…渡さない!!」
「フ―――遅いですわ!!」

 ネギの腕を引っ張り自身の胸に抱き込むと、そのままあやかは乗り込んだリムジンを急発進させた。

「ううっ!流石に高級車を撃つのは気が引けるっ!!」
「女子中学生には弁償できないっ!!」
「オーッホホホホ!!」

 車外にも聞こえるほどの高笑いを上げながら、
 あやかはネギを連れて逃走する事に成功した。




 ・
 ・
 ・
 ・



「あ、ありがとうございますいいんちょさん。助かりました」

 柔らかいシートに行儀良く座りながら、ネギはようやく一息ついた。
 隣に座るあやかの顔を見上げて礼を言う。

「いえそんな、ネギ先生のお役に立てるなら何のことはありませんわ。
 それにしても皆さん、先生がお菓子を持っていないのをいい事に悪戯しようとするなんて…
 なんて羨ま……こほん」

「えっ今なんて?」

「いえいえ何でもありませんわおほほほ」

 わざとらしく笑う口元を上品に手で隠し、彼女はするりと話題を変えた。


「所でネギ先生、今日は麻帆良学園全体で放課後からハロウィーンを催す事になっておりますの」
「あ、やっぱりそうなんですね」
「それでヒデェ目に遭ったかんなー」

 自分を見上げてくるネギのつぶらな瞳に悶絶しながら、
 あやかはその歓喜を隠しつつ笑顔で“計画”を実行に移した。


「…それでは、ネギ先生?私に何か言うことはございませんか?」

「えっ?……あ、そーいうコトですか!」



「いいんちょさん、トリックオアトリート!!」

 ネギが笑顔で口にすると、あやかは心底嬉しそうに頬を緩めた。


「はいネギ先生!それでは不肖、わたくし雪広あやか厳選の特製洋菓子を―――って、あら…?」

 あやかは車内をキョロキョロと見渡すと、……そのうち困ったように目尻を下げてネギを見た。

「…申し訳ありませんネギ先生…
 私としたことがお菓子を忘れてしまったようです…」

「え。い、いえ、そんなに気を落とさないでください。
 誰にでも失敗はありますよ」

 肩を落として「シュン…」と落ち込むあやかを励ますネギ。
 しかし彼は気づいていない。
 俯いた彼女の口元に浮かぶ………隠しようの無い不敵な笑みを――――!!


「それでは……仕方ありませんわね…? ネギ先生……」

「!!?」



「私に悪戯してくださいまし、ネギ先生ーーーーーっ!!♪」


「わぁぁあああっ!?」
「やっぱりかよーーーっ!!」

 あやかは両腕を広げ、ネギを迎え入れるような姿勢を取りながら彼に迫った――――!!



『―――なにアホなコトやってんのよこの色ボケ委員長ーーーーーーーーーーーっっ!!!』



 ――――ドガァンッッッ!!!!!!!



「きゃあっ!?」
「うわぁああっ!!!」

 車を襲った衝撃に、二人は揃って悲鳴を上げる。
 リムジンはとっくに停車して―――外からドアが開かれて、
 ネギはその人物に引きずり出されて抱き留められた。

「ア、アスナさん!!」
「ネギ、あんた大丈夫!?ヘンなコトされなかった!?」
「え、あ、はい………一応。ギリギリ…」

 ネギは歯切れ悪そうに口篭り、視線を逸らす事しかできなかった。


「あたたた……あ、相変わらずの馬鹿力ですこと、このおサルさん……!」

 転がるようにして車外に出てきたあやかは、
 頭を押さえて呻きながら明日菜を睨みつけている。

「イキナリ人様の車を力づくで止めるなんて、一体どーゆー了見ですの!?」

「車の中で知り合いが子供を押し倒してたら誰だって止めるわよ!!
 私の視力舐めないでよね!!」


 走っている車の中で襲われているネギを目撃
 ↓
 明日菜、走ってベンツの進行方向に回り込む
 ↓
 真正面からベンツのフロント部を両手で押さえて力づくで停車させる



 ……こ、この世界の人たちは色々とおかしいから……。
 ちなみに運転手は無傷だが目を回して気絶していた。車も無傷である。


「もう、ちょっと目を離すとコレなんだから…。いんちょ、ネギは大人しく諦めなさい!
 できないなら私が相手になるけど。あんたじゃ私に勝てないわよ?」

「ふ、ふふふ……その通りですわアスナさん。
 実力が互角だったのは精々が夏休み前まででしょう…ですが。
 今の私には、ネギ先生との愛の結晶があります……!」

 ス…ッ。
 あやかはゆっくりと懐から長方形のカード―――アーティファクトカードを取り出して立ち上がる。

 彼女のAFの能力は「どんな人物ともアポなしで面会できる」というものだ。
 その力を駆使すれば明日菜といえど、「あやかがネギに面会する」ことを阻止する事は―――


「魔法無効化、全開」


 バシンッ!!


「ああっそんな、私のAFの効果を破却するなんてっ!?」
「ス、スゴイ、アスナさん…!」
「もうコレ姐さんが最強じゃねーのか」

「――で。もう一度だけ訊くけど……まだやる?」
「ぐぬぬ……!!」

 悔しそうに拳を握り、あやかは唇を噛み締めながら、もはや何も言えなかった。


「………だからといってここで諦めるなど、雪広あやかの名が泣きます!!」
「うわっ!?ちょ、諦め悪いわよいいんちょ!!」

 突如として勃発する神楽坂明日菜vs雪広あやか。
 実力伯仲していた以前ならともかく、魔法戦闘を学び、過去の記憶を取り戻して自身の能力を十全に使いこなせるようになった明日菜にとって、一般人の域を出ないあやかは敵ではない。
 ……なのだが。


「わーっ!わーっ!ちょっと二人共、周りを!周りの被害をーーーっ!!」


 砕ける石畳、折れ曲がる街灯。周囲の建物の窓ガラスにはヒビが入る衝撃波。
 ただの十歳の子供になっている今のネギにとって、
 二人の戦いは巻き込まれれば必死のレベルであった。


「兄貴!」

 カモの声にハッとする。
 そうだ、弱体化しているとはいえ、ネギは幾つもの危機を乗り越えてここまでやって来たのだ。
 培われたこの一年の経験は、彼に一筋の希望を提示する!

 その場を駆け出す。走り出す。
 申し訳ないが明日菜にあやかを任せ、ネギは一目散にその場所を目指して駆けた。
 そして―――ハロウィンの飾り付けが施されたその扉を開け放つ―――!


 ―――ばんっ!
 ―――カランコローーンっ!!


「シロウ、ヘループ!プリーズヘルプミーーっ!!」


 ネギが避難場所として駆け込んだのは、知り合いが経営する喫茶店。
 そして勇ましく叫んでいるが、セリフ自体は情けない事この上なかった。


「………あれ?」

 ネギはぴたりと動きを止め、店内を見渡して目を丸くする。



「…えーと、これは一体…?」





 ◇◇◇◇◇◇◇



 喫茶店アルトリア。
 二年ほど前から麻帆良学園都市に居を構え始めた飲食店であり、軽いメニューから重いメニューまで豊富な料理を提供する、喫茶店とは名ばかりの隠れた名店である。
 店名に関しては、作者が最近「店名の設定、今からでも変えようかなぁ…」などと真剣に考えていたりするのだが、それはまた別の話。

 そしてこの店の唯一の店員にして店長、オーナーを兼任する人物こそ、
 この小説の主人公―――衛宮士郎である。

 約一ヶ月前、魔法世界で勃発した世界の命運を懸けた戦いに挑み、
 その後遺症でしばらく昏睡状態だったのだが……現在は無事に店の復帰を果たすほど回復した。

 さらに言うとネギが故郷ウェールズに住んでいた頃からの知古であり、
 彼は士郎を頼って度々この店を訪れることがある。

 ―――そんな訳で。
 今回の避難場所として此処以上の場所は無いだろうと、ネギはこの店のドアを叩いた、のだが………。



「えへへへ〜。士郎さぁーん♪」

「お、おい。ちょっと落ち着け刹那…!」

「……………。」


 今、ネギは衝撃の光景を目の当たりにする目撃者となった。
 彼の、目の前では―――。


(せ………)



(―――せ、刹那さんが……シロウに抱きついてしなだれかかってあわよくば首に腕を回して―――――!?)


 説明ありがとうネギ少年。
 という訳で士郎は今、真っ赤な顔の刹那に抱きつかれて顔を真っ赤にしているのであった。


「い、いったい何が……?」
「あの奥手でウブな刹那姉さんがあんな大胆になるとはな……」

 呆然とするネギの肩でカモがぐふふと笑っている。
 そんな彼を見かねた人物が、彼らに声をかけて手招きした。

「あー……先生、こっちだこっち」
「ち、千雨さん!いったい何なんですかコレ!?」

 呼ばれるまま―――喫茶店アルトリアの常連客、その中でも古株の―――千雨の隣りの席に座り、
 ネギは彼女に問いただす。

「客が少なかったのがせめてもの幸いでな……今は人避けの結界が張られてて
 一般人は入ってこれないようになってる」
「え?一般人はって……」

 先ほどの衝撃で何も目に入らなかったため、ネギが改めて店内を見渡すと。

「えっ」


 ―――、真名がニヤニヤしている。
 ―――、木乃香がニコニコしている。


 ………余計に状況が解らなかった。


「龍宮隊長の隣りに長瀬さんまでいますし…」
「ニンニン♪」

 目が合ったので軽く会釈をする。
 どうやら彼女は真名と一緒に来店したようだ。

「刹那がああなった原因は“ソレ”でござるよー」
「やっほーネギくーん♪」
「え?」

 楓が指差す方へ顔を向ければ、そこには木乃香が座っている。
 そして彼女のテーブルには…先程まで誰かが座っていたであろう空いた椅子が一脚と。

「お菓子の………包み紙?」
「む…この匂いは…」

 ネギの肩からテーブルの上に飛び移り、
 カモがテーブルに残された包み紙をくんくんと嗅ぎ始める。

「兄貴、こりゃ酒菓子だぜ」
「ウイスキーボンボンやて。シロウがそう言ってたえ」

「…………………。」


 1、刹那は顔を真っ赤にしている。
 2、食べられた形跡のあるお菓子はアルコールが入っていた。
 3、そのお菓子の包み紙は木乃香のと同じ席に座っていた人物のもの。

 答えは?


「えーと……刹那さんは、酒菓子を食べて酔っ払って、それで士郎に絡んでる……?」
「正解だよネギ先生。ぷっくくく…♪」


 ネギの呟きに答え合わせをしたのは、必死に笑いを堪える真名だった。


「ち、ちょっと待て!!
 そんな漫画とかアニメみたいな事があるのか!?」

 必死にそう叫んだのは、渦中の人物・衛宮士郎。
 もう一杯一杯という感じである。

「え。僕、甘酒で酔っ払って朝帰りしたことがあるケド」
「ぐあああ!!このお子様めぇええ!!」

 ネギの経験談(実話)に士郎はさらなる悲鳴を上げる。
 それを聞いて千雨は諦めたように息を吐き、真名はそれをニヤニヤと傍観し、
 楓と木乃香はニコニコして見つめていた。

 ちなみになぜ彼がここまで追い詰められているのかと言えば、まあ、アレだ。



 幼少の頃からよく知っている幼馴染みの美少女に抱き着かれてるという状況だとか。

 刹那の胸が、まあ…その、膨らみは微々たるものだが、確かに存在を主張していて、
 密着するそれを意識せざるを得ないというか。

 同じく密着する身体は中学生のものながら紛れもなく女性のそれで、
 柔らかいなぁなどと感想を抱く程度には煩悩が仕事をしているし。
 何より熱い。彼女の体温が伝わるほどに士郎は冷静さを失っていく。

 息が顔にかかるほど近づいた美少女の顔が、
 熟れた林檎のように上気していて、それが目の前にあるのである。

 ―――士郎はもう、それはもう色々と限界だった。

 このまま理性の最後の一線を越えてしまったら、刹那を抱えて店の奥に連れ込んで押し倒すことも有り得ないことではない程度の限界が彼のあと一歩後ろに迫っていた。 



「士郎さぁん……♪んっ……」

「だ、誰かーーっ!ヘループ!プリーズヘルプミーーーっ!!」

 情けないセリフ再び。
 士郎の腕は彼の意思に反して、徐々に刹那の背中に回されようとしている……!

「シロウ、それでええんや!そのまま男を見せるんや!!」
「木乃香ぁぁあああああああっ!!?」

「――――士郎さん、」


 ぴたりと、店内の時間が止まった。
 声の主の声色が……今にも泣かんばかりに、沈んだものだったから。

 士郎の眼前で、顔を上げた刹那の目が、先ほどまでとは違う理由で潤んでいた。


「……、私は……。…私が嫌ですか?そんなに、私は魅力がありませんか?」

「……っ!い、いや、違う。そういう事じゃなくて」

「私に泣かれると嫌だって、あのとき言ってくれたのは何だったんですか!?
 私と仮契約してくれたのは嫌々だったんですか!?
 嬉しかったのも、浮かれてたのも私だけだったんですか!?
 うわーーん!このちゃーーーーん!!」

「へぶふぉおッ!!?」

 どんっ!と士郎を突き飛ばし(士郎は背中から転倒・頭を強打)、
 刹那は泣きながら幼馴染みの親友の胸に飛び込んだ。

「おーよしよし、大丈夫やえせっちゃん。
 シロウはせっちゃんのこと真剣に考えて、大事にしたいと思うてるから手ぇ出さないんやえー。
 あとヘタレやから」

「ひっぐ…グスッ。ほ、ホンマ?ホンマに?」

「せやでー。それに二人共まだ成人しとらんからとか、いらん所で堅物やからなシロウは。
 女心ってモンを解ってないんよ。あとヘタレやから。
 せっちゃんはちゃーんと可愛い女の子やえ〜」

「ううっ……このちゃん…このちゃ〜ん……!」

「ハイハイよしよし、ええ子やからなー」


 刹那の背中をぽんぽんと叩きながらあやす木乃香を見つめ、ネギと千雨は呆然と言葉を漏らす。


「………絡み上戸かと思ったら泣き上戸かよ……将来苦労するな店長は…」
「…あの、シロウががっくりと落ち込んだまま動かないんだけど」

「なんでさ……俺と刹那は別にそういう関係じゃないのに、何でヘタレとか責められなきゃならないんだ……」

「…まだ自覚がないのかあの鈍感は」
「刹那も苦労するでござるなー」

 両手両膝を床につけて頭を垂れる士郎を、真名と楓は呆れた様子で眺めていた。


 ―――バンッ!!
 ―――カランコローーン!!


「ネギ先生ーーーっ!!」
「見つけたですー!トリックオアトリートーー!!」

「きゃーーーーーーーっっ!!!」

 3−A生徒たち が 現れた!!

 彼女達は仮装している!
 手をわきわきさせてこちらを伺っている!


(うわーん、そんなーー!!)

 此処なら、困った時には士郎がいる。
 3−A生徒達と面識のある彼なら、兄貴分として彼女達を抑えてくれる筈だったのだ。
 しかし目論見は見事に外れ、士郎はこの場では役立たずと成り果てた。


「ち、千雨さん、助け…」

「あたしがあいつら全員相手にして勝てるワケねーだろ。
 安心しな先生…骨は拾ってやる…」
「ガンバレ兄貴ー」

「二人とも酷い!!(ガーン!!)」

 ネギ は なかまをよんだ!
 しかしだれもこなかった!


「や、やっぱり、シロウ助け…」

「ふふははは…(ずーん…)」

「シロゥーーー!!」

 ネギ は なかまをよんだ!
 しかし やくたたずだった!



「…はっ」


『ネ〜ギ〜せ〜んせぇ〜い…♪』
『ネーギくーん……!』

「ひぃぃいいいいいいっ!!?」




“――――きゃぁぁぁああああああっ…………!!”




 こうしてネギの、2003年の麻帆良ハロウィーン祭は幕を閉じたのだった。
 ちゃんちゃん♪





 ◇◇◇◇◇◇◇




<後日談>



「う……ん…?」

 刺すような眩しい光が当てられて、彼女は閉じていた目を薄らと開けた。
 気づけばそれは、朝の日差し。
 窓のブラインドの隙間から漏れ出た光が、横になっていた彼女の顔を照らしていた。

(あれ…ここ…私の部屋じゃない…)

 「どうして自分は、こんな所で寝ているのだろう?」。
 昨日は確か、―――そう、麻帆良学園ではハロウィンを催していた。
 それでいつも通り…いや、幽霊部員とはいえ美術部員の明日菜はハロウィンの飾り付けを手伝いに行かなければならず、彼女とは一緒に下校しなかった。
 だから二人―――木乃香と二人だけで、彼女は喫茶店アルトリアに趣いて―――。


『士郎さん……♪』


(―――ぅ、あ)


 ………思い出してしまった。
 彼女―――桜咲刹那は酔っ払って、想い人である衛宮士郎に抱き着いてしまったあの記憶を。


(――あれ?それで……どうしたん)

 どうしたんだっけ、と考える前に。
 彼女は目覚めてからずっと、自分は何か温かいものの中にいるという事に気づいた。

「へっ」

 ………もう一度、きちんと言い直そう。
 ベッドで眠っていた彼女…刹那は、
 同じベッドで横になっている士郎の腕の中にすっぽり収まっていた。



(―――――――――――――――――――!!!!???)



 声を出さなかっただけで、彼女は及第点であろう。
 ただし…自分の頭上で士郎が寝息をたてる様子に、刹那は完全にノックアウトされていたが。
 顎から喉、首から鎖骨というラインから発せられる男の色気に、刹那は頭がクラクラする。


(―――な、な、な、ななな何で!?いったい何がどうなってこんな事に!?
 助けてくださいお嬢様ーーー!!アスナさーーーん!!)


 既に赤面。耳まで充血。頭は茹だって冷静さなど何処かへとっくに消えている。
 目はぐるぐると回る始末で、体温はマッハ上昇中。
 心臓はバクバク胸を叩いて、その喧しさに刹那はおかしくなりそうで――――。

(と、とととにかくこのままではマズイ。色々とマズイ!!
 何とか士郎さんを起こさないようにして――……!!)

 「んっ、んっ」と声を漏らしながら、もぞもぞと動いて士郎の腕から脱出を試みる。
 しかしそこで、彼女は再び予想外の事態に度肝を抜かれた。

「……ん」
「ひぇっ!?」


 ぎゅっ……。


 士郎の腕に無造作に力が籠り、刹那の体を強く抱き締めた。
 逃がさないと、離さないと言わんばかりに、彼は刹那を自分の腕に閉じ込める。

「ぁ…あの、士郎さ…これっ、だめ…!」

 抵抗の言葉はとても拙く、抗議の声はあまりに小さく。
 彼女が本気で嫌がっているのか…答えは言うまでもない。

 密着した体は筋肉質な硬さを持ち、そこから感じる人肌の熱が刹那の体温を更に上げていく。
 顔に当たる胸板の逞しさと、聞こえる彼の心臓の音にドキドキしている。
 もう刹那に、逃げようなどと思う余裕は残っていない。

 もぞ…。

 ふと、彼女の背中に回されていた士郎の左腕が移動する。
 左腕が刹那の後頭部に回されて彼女の頭を固定すると、
 彼はそのまま自身の顔を刹那の髪に埋ずめるように頭を下げた。

(…あ、だ、駄目です!き、昨日はお風呂にも入っていないのにーーー!)

 しかし、刹那に為す術は無い。
 頭も体も固定されたまま動けず、彼女は涙に目を潤ませて羞恥に悶える。
 そんな刹那の気持ちも知らず、未だ寝ぼけている士郎は存分に頬ずりして刹那の髪を堪能していた。


「んー……。」

「〜〜〜〜…っ!」


 ゾクゾクとして得たいの知れない、刹那が今まで感じた事のない未知の感覚。
 彼女は目を閉じ士郎にしがみつき、必死でそれに耐えようとして―――

 ……その時だった。


 ―――ばんっ!!


「コラ士郎!!いつまで刹那といちゃこら眠っているつもり……」

 ばちっ。と。
 士郎を起こしに来たエヴァと、刹那の目がばっちり合った。
 ………それぞれ士郎の背と、胸を挟んで。



「………………………………。」


「……………………、ぁ、ああああの、えと、これはちが…」


 ―――パシャッ。


 口を開けたまま停止したエヴァンジェリンと、潤んだ目をした赤い顔を引き攣らせる刹那。
 そんな二人を、一瞬の閃光が照らしめた。


「―――先日は酔っ払った刹那さんがどうしても士郎さんをひしっと掴んで離さなかったため仕方なくこの家の自室に連れ込んで添い寝するという何て羨まし…いえ、疚しい行為に至ったワケですが…」

 説明口調で淡々と…というよりは無表情を装って不機嫌な茶々丸ダッシュは、
 手に持ったポラロイドカメラから出てくる現像写真をパシッと手に取る。


「〈有罪ギルティ〉。未成年に手を出すのは犯罪です士郎さん。
 ――――あなたを、犯人です」

 直後、正気に戻ったエヴァが怒鳴り声を上げて実力行使で何とも激しい起こし方をすると、
 ベッドから転げ落ちて目覚めた士郎は著しく混乱したという。

 ……自分のベッドで、自分の隣で寝ていた幼馴染みの少女。
 乱れた制服から覗く肌は明らかに火照っていて、潤んだ目をして士郎を見つめ顔を上気させている。

 ―――それはもう、混乱したという。

 どっとはらい。









<おまけ>
「その頃、図書館探検部…?」

のどか
「……私達、今回は出番なかったねー…。
 折角せんせーが久しぶりに帰ってきたのに…」
夕映
「…ええ。ですがそれは致し方ないでしょう」

 「はは…」と残念そうに笑うのどかに頷きながら、
 夕映は隣の机で必死にペンを動かす友人に視線を向けた。

ハルナ
「ちょっとアンタ達、駄弁ってる暇があったら手動かして!!
 くっ、私としたことが…まさか漫研の定期発表会をすっかり忘れてただなんて…!
 フフフフしかし私は生まれ変わったのよ!
 魔法世界での苦難辛苦を乗り越えて筆のスピードは神速に、
 リアルファンタジー世界で数ヶ月生活した経験からネタも豊富……今の私に描けない漫画は無い……っ!!」

 ――――ガガガガガガッ……!!

 Gペンが原稿を引っ掻く音を響かせながら、狂気の笑みを浮かべるハルナ。
 のどかと夕映は苦笑いしながら、ベタ塗りとトーン貼りの作業に戻るのだった。

 ……一応、彼女達は図書館探検部であると言及しておく。
 誰もそうは思わなかったが……。



<おまけA>
「後日談の後日談」

 麻帆良学園女子寮、その一室では。

木乃香
「………。」
明日菜
「…………。」

刹那
「…………。(ず〜ん…)」

刹那
「……わ、私とした事が…何という事を……。
 よ、洋酒入りの菓子に酔っ払うなどという醜態を晒した上にし…し、士郎さんにだだだ抱きついて―――」

刹那
「あ、あんな…自分の都合ばかり喚き散らすなんて、どう見ても面倒な女じゃないですかーーーーー!!」

 うわぁああーん!!と、刹那はテーブルに突っ伏して人目憚らず泣き始める。
 周囲はそっと彼女に寄り添い、ポンポンと背中を叩き、頭を撫でて慰めた。

刹那
「…し、しかも、あわよくば、まさか、そんな、どんな、あ、あ、ああああまさか朝まで」

明日菜
「同じベッドで過ごしたんだっけ。しかも抱き合って」
刹那
「ふぇえっ!?」
木乃香
「いやー、せっちゃんがシロウんトコから朝帰りする日が来るやなんて、
 ウチどんな反応してええか困ってまうわー♪」
刹那
「へぅっ…!!」

 明日菜の台詞で飛び上がり、木乃香の台詞で小さくなる。
 何とも面白い反応に、彼女の親友二人はもっと刹那をいじめたくなるが―――何とか、寸での所で自重した。

刹那
「うぅ……せめてお風呂に入ってれば……」

明日菜・木乃香
「「えっ?」」

 刹那がぽつりと漏らした言葉に、二人は徐々に顔を赤くしていく。

明日菜
「え?え?ちょっ…刹那さん…ま、まさか…そんなトコまで進んじゃったのーーー!?」
木乃香
「ひゃ〜〜…!」
刹那
「え゛?」

 顔を真っ赤にする明日菜に、頬に手を当てて熱く見つめてくる木乃香。
 刹那は必死に弁解するが、誤解が解けるまでに結構な時間を必要とした。



<おまけB>
「後日談の後日談の後日談」

 ―――ある日、喫茶店アルトリアでは。

士郎
「最近、刹那来ないなぁ…。街で偶然会ってもすぐに逃げられるし」
ネギ
「え、あんな事があったら普通は避けられると思うよ…?」
カモ
「ここまで鈍いとなんも言えねぇなー。もしくは開き直ってるのか」
士郎
「……両方だ」

 フッ、とシニカルに自嘲する。
 彼は苦虫を噛み潰した顔で乾いた苦笑を浮かべるのだった。

士郎
「あと最近エヴァと茶々丸’が冷たい」
ネギ
「なんか家に居場所がないお父さんみたいな愚痴言ってる」
カモ
「家に女連れ込んだらそんなモンだぜ兄貴、気を付けろよ」
ネギ
「えっ何で僕も?」

 離れた席に腰掛けながら、「アンタも同類だからだよ…」と千雨がひっそり呟いた。

千雨
「あぁ…今日も紅茶がウマい」
真名
「ふむ…意外と隙があるようだな。ならば愛人ポジションも…」
千雨
「ぶふっ!?(紅茶を噴き出した)」



<おまけC>
「てゆーか担任が受け持ちクラス放っぽって別の仕事していーのかー!?」

タカミチ
「……………。」 ←出張と称して国外NGO活動に従事、その度に欠勤した元担任教師
ネギ
「………。」 ←軌道エレベータ開発を主導し、代わりの担任が就くほど欠勤する担任教師

エヴァ
「…3−Aはロクな担任に恵まれんな」

 エヴァの呆れた声に、(元)担任二人は「うっ」と言葉を詰まらせる。
 しかしそこで担任代行が抗議の声を上げた。

フェイト
「それは聞き捨てならないねダーク・エヴァンジェル。
 僕はそこの二人と違って誠意と責任感を持って職務に取り組んでいる。
 ホラ、その証拠に彼女を見てみるといい」
桜子
「ひぃっ!ふぇ、フェイト君…言われた通り予習も宿題も…
 ち、ちゃんと復習もやってるよぅ…!(ブルブル……)」

 偶然通りかかった桜子は、フェイトに気づくなり膝と肩をガクガクと震わせ始める。
 顔は一瞬で真っ青になり、その怯え方は明らかに常軌を逸していた。

ネギ
「い、一体なにをしたんだフェイト!?」
タカミチ
「むしろ一番不安になるよ!!」

 ネギは桜子の肩を掴んで正気に戻そうとし、
 タカミチは彼女を背に庇ってフェイトの視線を遮る壁となる。
 二人がフェイトに向ける視線は明らかに冷ややかだったが、本人はどこ吹く風と言わんばかりだ。

フェイト
「でも、彼女の成績は上がっている。良く頑張っているね椎名君」
桜子
「………へ…?」

 声をかけられた桜子は、目をパチパチさせてフェイトを見た。

 呆然とする…と言うよりは、呆気にとられている、ポカンとしている。
 そういった言葉で説明する方がしっくりくるだろう。
 彼女は、新たに自分のクラスの担任となった―――些か厳し過ぎる―――子供先生が、
 「自分を褒めた」ことが………全く信じられない。

フェイト
「このままいけば次のテスト順位を百番上げることも不可能じゃないだろう。
 この調子で頑張るといい、期待してるよ」

 フェイトは感情に乏しく、普段から仏頂面か無表情しか生徒に見せる事はない。
 しかし―――確かに彼は今、穏やかに薄く笑う。
 それは間違いなく、桜子の努力を認め、彼女へ寄せる期待の現れだ。

桜子
「……あ……。///」
ネギ&タカミチ
「「えっ」」

 桜子はその笑みに当てられて、頬を染めて呆気にとられた。

桜子
「…あ、ありがとうございますっ!(照れっ)」
ネギ&タカミチ
((な、なにーーーーーーーーーーー!?))

 ネギとタカミチは何となく、得も言われぬ敗北感に打ち拉がれるのだった。



<おまけD>
「たつみーから“跳弾”習っといてよかった」

真名
「…明石裕奈魔改造計画(ぼそっ)」
裕奈
「えっ何か言った?」
真名
「いや?空耳だろう。そうだな、次は地味だが重要な技術を教えよう。
 銃弾が詰まジャムった時の対処の仕方だが…」
裕奈
「あ、ソレいいや。私のAFは弾が自動で装填されるから」
真名
「っ!!?」

 お金に厳しい龍宮真名は目を見開く。
 自分が銃弾にかける必要経費を計算してから、彼女は裕奈を親の仇の如く睨んだ。

裕奈
「えっ?私なにかした?」

 アーティファクト『七色の銃』。
 使用者に優しい親切設計なアイテムだった。


<おまけE>
「洋酒入りの菓子に酔っ払う」

士郎
「…刹那ってお酒に弱かったんだな…忘れないようにしないと。切実に」
木乃香
「そーいえば神社ウチの行事でお神酒みき飲んだ時なんか、一口だけやのに目ーぐるぐるさせてたなー」
刹那
「こ、子供の頃の話ですっ!」

 「いや、今も弱いからあんな事に」と三人全員が思ったので、敢えて誰も口にはしなかった。




<没ネタ>
『ショタコンお姉さんと子供が車内で二人きり!
 お姉さんはそれをいい事に子供を押し倒して……』:サンプル版

「申し訳ありませんネギ先生、私としたことがハロウィンのお菓子を忘れてしまったようです…」
「え。い、いえ、そんなに気を落とさないでください。
 誰にでも失敗はありますよ」

 肩を落として「シュン…」と落ち込むあやかを励ますネギ。
 しかし彼は気づいていない。
 俯いた彼女の口元に浮かぶ………隠しようの無い不敵な笑みを――――!!


「それでは……仕方ありませんわね…? ネギ先生……」

「―――!!?」


 ―――とんっ……。


 気づけばネギは、車の座席を背にしていた。
 目の前に見えるのは天井―――ではなく。

 潤んだ瞳で頬を上気させた、自身の生徒の顔だった。


 ―――近い。
 それが、ネギが抱いた最初の感想で。
 ―――押し倒されている。
 その事実に彼は、ようやく気づき始めていた。

 ―――思考が回らない。
 彼女の、目の前の女性がからだに宿す熱に、自分も既に侵されている―――。


「“お菓子をくれなきゃ悪戯するぞトリック・オア・トリート”………仰った通りですわ、先生」


 髪のシャンプーか、肌の香水か。…それとも、彼女自身から香るのか。
 鼻腔をくすぐるその色香に、ネギは頭が真っ白になる。もう何も考えられない。


「私はお菓子を持っていません。ですから」


 自分の顔から数センチしか離れていない眼前にある、桃色の唇。
 それが動く様は蠱惑的で、淫靡ですらあって……ネギはそこに釘付けになる。目が離せない。
 そして、―――あやかは、ネギにとってとどめとなる一言を口にした。




「私に悪戯してください、ネギ先生――――。」




 熟れた林檎のような頬。涙に潤んだ懇願の瞳。
 その、下に実った―――豊かな果実。
 ネギは知らず、ごくりと喉を鳴らしていた。

 ……結局。彼が誘惑に打ち克つことは無かった。
 アダムとイヴが、サタンに唆されて知恵の実を口にするように、手にするように。
 ―――震える手で、ネギはあやかの


※※※サンプル版はここまでです。
 この続きは製品版をご購入頂くとお楽しみになれます※※※(嘘です)






〜あとがき〜

 今回は(色々な意味で)頑張りました。
 当初の予定よりも怪しい描写が120%増している事に作者自身が驚いております。
 原因は委員長と刹那だ、間違いない。だから俺は悪くない。



〜補足・解説〜

>アキラは、裕奈の衣装と耳・尾・色違いの狼男…ならぬ狼女。
 高身長なのでフランケンな仮装をさせようと思いましたが、アキラフランケンが可愛いのかという重大な疑問点に気づいたためボツとなりました。
 それよか狼女の方が確実に可愛いと思うんだ。うんアキラは可愛い。ケモ耳可愛い。
 黒ネコ仮装は裕奈よりアキラの方が似合うんじゃねーかという葛藤もありました。

>この前も言っただろうが
 原作参照。
 長生きすると時々はっちゃけたくなるとか、そんな事を言っていたはず。

>亜子さんの『不思議な注射器』
 1.8cmの針がついた注射器を刺し(痛い)、中の液体(魔力スープ)を注入することで対象者の身体能力を上昇させる。
 強化される能力は、原作の描写から推測できる限り膂力、速度、動体視力。
 しかし魔力による強化であるため防御・耐久も上昇していると思われる。

>その腕前は間違いなく超一流だ。
 今回、裕奈の跳弾が当たったのはまぐれです。
 ただしそのまぐれをここ一番で引き寄せるのが3−Aクオリティ。

>AFの能力は「どんな人物ともアポなしで面会できる」というもの。
 委員長のアーティファクトの名前、なぜ明らかになってないんだでござる……。

>「もうコレ姐さんが最強じゃねーのか」
 対魔法に関してはほとんどその通りだと思われます。
 ただしタカミチの無音拳は純粋な物理現象ですし、魔法に依らない手段で戦えば最強ではないでしょうね。超のスタンナックル(仮称)は無効化できずに負けましたし。
 でも夏休み以降の明日菜は咸卦法を使いこなして身体能力が半端じゃないので、そもそも彼女に攻撃を当てること自体難しいかも………。
 …えっ、マジで最強じゃね?(困惑)

>砕ける石畳
 原因は委員長。雪広あやか流柔術の威力。

>折れ曲がる街灯。周囲の建物の窓ガラスにはヒビが入る衝撃波。
 原因は明日菜。
 委員長の技を避けて街灯に着地(=街灯が折れ曲がる)したり、咸卦法を発動しただけで風圧が発生したり(=窓ガラスにヒビ)。

>必死
 必ず死ぬ。
 つまりあの二人のマジ喧嘩に巻き込まれた場合ネギは必ず死ぬ。

>ウイスキーボンボン
 洋酒入りのボンボン菓子(=ボンボン・ア・ラ・リキュール)の一種で、砂糖製の殻でウイスキーを包んだもの。それを更にチョコレートでコーティングしたものもある。(出典:Wikipedia)

>甘酒で酔っ払って朝帰りしたことがある
 原作参照。

>士郎を起こしに来たエヴァと、刹那の目がばっちり合った。
 将来、この二人の仲が悪くなる未来があるとしたら、そのきっかけはこの時かもしれない。

>あなたを、犯人です
 誤字に非ず、仕様です。
 元ネタは月姫というゲームのキャラクター翡翠さん…の台詞の誤字。
 菌糸類って誤字スキルを持ってるらしいぜ。

>乱れた制服
 原因はただの寝相です。
 決して、描写されなかった行間で何かがあったと暗喩しているワケではない。

>おまけ「その頃、図書館探検部t…?」
 別名「漫研部員と助っ人ふたり」。
 まあ部活を掛け持ちしてるんだから探検部でも漫研でも間違いではないw

>テスト順位を百番上げることも不可能じゃないだろう
 五十番じゃなくて百番ですよ?
 どんだけスパルタしてんだよフェイト……(笑)

>「……あ……。///」
 変装フェイト(フェイタス)に告白した前歴がある椎名桜子。
 しかしこの描写は彼に惚れたということではなく、ただ単純に
 「いつも無表情のイケメンお子様が笑った!こうかはばつぐんだ!」というだけの話です(どんな話だ)。

>「…あ、ありがとうございますっ!(照れっ)」
 褒められたのが嬉しくなって、いつもはタメ口で話す子供先生につい敬語が出てしまいました。
 フェイトの「超絶ムチ→アメ」コンボの前には、どんな女子も子犬系に早変わり!(たぶん違う)
 きっとフェイトガールズ五人は皆このコンボの犠牲者だと思う。

>得も言われぬ
 何とも言い表しようのない、という意味。
 「名状し難い」などの類義語。

>没ネタ
 マジで途中まで真面目に本編として書いていた。 正気に戻って没ネタにした。
 おまけの後ろに載せるにあたって細部を加筆修正したが、実はほぼ手を加えていない。
 あの時の俺はどうかしてたんだぜ……。(冷や汗)
 というか今回の番外話は内容が色々おかしい気がするんだ。うん。
 一応もう一度言っておきますが、サンプル版云々はネタですよ。製品版なんて無いですよ。

>アダムとイヴが、サタンに唆されて知恵の実を口にする
 アダムとイヴが楽園を追放される逸話に登場する「蛇」は、蛇に姿を変えたサタンだったとする説があります。

>ネギ
 教え子達に襲われた彼はその後、実家(エヴァ邸)に里帰りしていた秘書・茶々丸と、
 遅れて到着したアキラの二人が助けに来るまで散々な目に遭ったという。
 アキラまじ天使。

>エヴァ
 出番少ない。

>刹那
 酔っ払い。

>士郎
 モラルと倫理を遵守しているだけであり、決して彼がヘタレという訳ではない。
 寝ぼけてる時に色々やっちゃうってのは某月刊誌連載中の何とかダークネスとかいう漫画の主人公みたいだと思ったが、うちの士郎はあそこまで変態ぢゃない…っ!



【次回予告】

 次回、ネギま!―剣製の凱歌―
 「第三章-第37.5話 帰国子女と英国淑女」

 ……こ、今度こそ第37.5話を投稿する…はず!(汗)

 それでは次回!

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