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ネギま!―剣製の凱歌― 第三章-第36話 修行開始!勃発する喧嘩!
作者:佐藤C   2013/08/11(日) 03:47公開   ID:RoX2XPyBYvg



「ああ士郎、ぼーやの修行が始まるぞ。お前にはやってもらう事がある、今すぐ帰って来い。
 …なに、急にそんなこと言うな?俺にはお客様が?
 ええいごちゃごちゃと!お前は私と仕事のどっちが大事なんだ!!」

「…なんか急に痴話喧嘩が始まったよーな…」
「ちょっ、このか…!」
「あっ」
「………。(ムカムカ)」
「え、ええと――…(ハラハラ)」

 竜と遭遇した地底探検の翌日、火曜日の放課後。
 麻帆良近郊の森の中、エヴァンジェリン邸から少し歩いた開けた場所で、
 木乃香、明日菜、刹那、のどか―――ネギの“魔法使いの従者”四人が横一列に並んで立っている。

「カ…カモ君、刹那さんちょっと機嫌悪い?」
「ま、兄貴はお子様だかんなー。わからなくてもしょうがねーよ」
「??」

 そして少女達の数歩後ろに、杖を抱えたネギwithカモが控えていた。

「いいか、これは主人の命令だからな!来なかったら怒るぞ!!」

 「…まったくアイツは…。もう少し主人を敬うという事を…」などとぐちぐち呟きながら、
 エヴァンジェリンは通話を切って携帯電話を懐に仕舞う。

「エヴァにゃん、意外と面白いアル」
「…確かに、普段の素っ気ない姿からは想像できませんね…」

 魔法見学に訪れた古菲と夕映は、呆気にとられてその様子を眺めていた。

「よし、では始めろ。刹那、“気”は抑えておけ。
 相応の修練がなければ気と魔力は反発するだけだ」

「………はいエヴァンジェリンさん」

 茶々丸を従えて四人の前に立つエヴァの指示を受け……不承不承、刹那は頷いた。


「―――ではいきます!契約執行180秒間!
 ネギの従者『近衛木乃香』『宮崎のどか』『神楽坂明日菜』『桜咲刹那』!!」









     第36話 修行開始!勃発する喧嘩!









「ひゃっ!うひゃひゃひゃ、こそば――…!」
「あう………。」
「慣れないのよね、コレ」
「そうですか?私はそれほど…」

「く………!」

 ネギの魔力に覆われて四人の体が光を放つ。
 本人達はそれぞれ感想を口にしながら雑談するが……四人への魔力同時供給という多大な負荷に、
 ネギの口からは苦悶の声が漏れていた。

「次、対物・魔法障壁アンチ・マテリアル・シールドを全方位全力展開!」
「ハイ!」

「次、対魔・魔法障壁アンチ・マジック・シールド全力展開!」
「ハイ!」

 容赦なく増やされていくエヴァの課題にネギの負担が増大していく。
 明日菜が横目で見る限り彼には既に余裕などなく、ネギは額に玉の様な汗を浮かべていた。

「それを三分維持した後、北の空に『魔法の射手』199本!
 結界張ってあるから全力でいけ!!」

「ハイ!…っく…、光の精霊199柱…集い来たりて敵を射て…っ!
 『魔法の射手サギタ・マギカ』・連弾セリエス光の199矢ルーキス!!」

 ネギの右手を中心にして輝く流星が走りだす。
 放たれた光の矢は見えない壁に激突し、音を立てて砕け散った。


 ―――バキキキキキキン!!


 …数秒後、魔力の残光が少女達の真上から雪のように降り注いだ。

「キレ――……」
「花火みたいやなー」
「おおー、これが魔法アルか」
「先生の矢がぶつかった時のみ見えた曲面状の壁は……形状から見るに半球状のドームのようですね。
 アレがエヴァンジェリンさんの言う“結界”ですか…ふむふむ」


「―――ぜえっ、はあっ―――あうう―――?」


 …ドサッ。


「せんせー!?」
「ネギくーーん!!」

 目を回して昏倒したネギに慌てて少女達が駆け寄っていく。
 ……それを見た約一名は、不機嫌そうに鼻を鳴らして口を開いた。

「何だ今のチャチな矢は!こんな薄い結界軽く貫いてみせろ!
 それにこの程度で気絶とは話にもならん。
 いくら奴譲りの魔力があったとしても、使いこなせなければ宝の持ち腐れだ!!」

 声を荒げて酷評するエヴァだが、
 当のネギはうんうん唸りながら気絶しているので聞こえていない。
 彼は茶々丸が持って来た濡れタオルを額に乗せて、木乃香の膝枕で横になっている。

「おいおいエヴァンジェリンさんよー。今アンタがやらせたコトは修学旅行の戦い以上の魔力消費だぜ?
 並みの術者だったらこれで充分及第点―――」
「黙れ下等生物が。並みの術者程度でこの私が満足できるか。
 あまり生意気な口を出すと…」


“……煮て、食うぞ?”


(ガクガクブルブル)
「はいはい大丈夫、怖かったわねー」

 反論空しく敗走するカモ。
 彼は明日菜の腕に飛び込むと、その中で泣きながら震えていた。


 ………ガサガサッ。


「おーいエヴァ、言われた通り急いで来たぞー。
 …ったく、いきなり呼び出すとか困るだろ…愛衣ちゃんには悪いコトしたな…」

 するとそこに、草むらを掻き分けて士郎が姿を現した。
 ……ただし、彼が最後に漏らした名前を聞いて、二名ほどが「むっ」と口を尖らせたが。

「……女の名前を口にしながら到着とは、随分と偉くなったものだな」
「なんでさ」
「……むぅ」

「う…う〜〜ん………」
「ん、起きたかぼーや。丁度いい。
 士郎、お前も『魔法の射手』を199本撃て。全力でな」
「はあ?なんでだ?というか何で俺を呼ん…」
「ぼーやの勉強のためだよ、ほら早くしろ!手は抜くなよ!!」

 左手を腰に当て、右手で「ビシッ!」と士郎を指差してくるエヴァンジェリン。
 しかし未だこの状況を説明されない本人は、腕を組みながら逡巡した。

(うーむ、なんか面倒なことに………うっ!?)


「シロウの魔法見るん初めてやわー♪」
「師父の魔法……どんなのが飛び出すアルか!?(わくわく)」
「古菲さん、ネギ先生の魔法と同じだと言っていますよ。
 ……それでも興味はあるですが」

 ………年端もいかない乙女たちから集中する、溢れんばかりの期待の眼差し。
 それが余りに眩し過ぎて士郎は口を引き攣らせる。


(や、やりづらい………!)

 しかし元より、彼には退路など無いのだ。
 純真な乙女達の輝く瞳と………何より、背中に感じる金髪の少女の視線が痛い。



(…くっ、ままよ!!)


「カラダ・ハ・ツルギ・デ・デキテイル。
 『魔法の射手サギタ・マギカ連弾セリエス火の199矢イグニス』!」


 ―――バキキキキキキキキキキキキ―――バ ギィン!!!


 炎の矢は容赦ない勢いで、不可視の障壁を貫通した。




 ・
 ・
 ・
 ・



「馬鹿かお前は!!あの結界は認識阻害も兼ねていたんだぞ!?
 壊すヤツがあるか!!」

 ……完全にご立腹なエヴァンジェリンと、その足下の状況を説明しよう。
 士郎が、彼女に足蹴にされているでござる。

 地面にうつ伏せに倒れた士郎は、
 ご丁寧に靴を脱いだエヴァに頭を踏まれているのであった。
 …こう、ぐりぐり、とか。ぐにぐに、とか。

「……姐さん、アイツさっき兄貴には『貫いてみせろ』とか言ってたよな………」
「…うん、言ってた」
「今のエヴァンジェリンさんは魔力を封印されていますから、破られても仕方ないと思いますけど」
「へー、そーなんやー」

「しかも、あれほど手を抜くなと言ったのに手加減したな!?」
「いや、全力は出し…」
「全力ではあっても本気ではなかったろう!!」

「……スゲー、アレで本気じゃねーのかよ」
「ああ、その通りだオコジョ。
 ぼーやに魔力量で遥かに劣る士郎が、本気を出さずして同じ呪文でぼーや以上の威力を出せる。
 後で詳しく教えるが、これが『魔力を使いこなす』ということだ」

「成程……ってコトは、魔力を使いこなせるようになるだけでかなりの強化が望めるな」
「何を言っている。
 私を師と呼び教えを乞う以上そんな生半可な修行で済むと思うな」

 そう言いながらエヴァの視線は既に、
 回復して立ち上がったネギの方を向いていた。

「いいかぼーや。今後私の前ではどんな口応えも泣き言も許さん。
 少しでも弱音を吐けば貴様の生き血…最後の一滴まで飲み干してやる。心しておけよ?」

 吸血鬼の爪を見せつけるように手を掲げ、
 エヴァンジェリンは鋭い視線でネギを射抜いた。

「…ハイ!!よろしくお願いしますエヴァンジェリンさん!!」

「む………?」

 ……エヴァが思わずたじろいだ。
 脅したつもりが威勢のいい返事が返ってくるとは、完全に想定外だったのである。

「わ、私のことは師匠マスターと呼べ!」
「はい!マスター!!」


(………チッ、やりにくいガキだ……)


 悪名高い大魔法使い『闇の福音』であり、かつ血を狙って襲われた事があるにも関わらず、
 エヴァを躊躇いなく「師匠」と呼ぶネギ。
 ……慕う慕われるという経験が少ない彼女にとって、素直な彼はある意味天敵である。
 エヴァは照れから頬を赤くして、ネギからフイッと顔を逸らした。

「あの、マスター!
 ドラゴンを倒せるようになるにはどれ位修行すればいいですか!?」

「何?………もう一回言ってみろ」

「ですからドラゴンを「アホかーーーーー!!」へぷぁっ!!!」

 エヴァの右ストレートがネギの顔面に突き刺さる。
 ネギは奇声を上げながら体を仰け反らせて倒れ込んだ。

「21世紀の日本でドラゴンと戦うことなどあるかーーー!!
 アホなコト言ってるヒマがあったら呪文の一つでも覚えとけ!!」
「はははいぃぃ!!スミマセン!!」

『…なに、何の話?』
『えーと、信じてもらえるかわかりませんが昨日……』

「あーもうメンドイ。今日はこれで解散!!」
「メ、メンドイって……。」
「弟子、返事は!?」
「ハ、ハイ!!」

 …ちなみにこの会話の間、
 士郎はずっと土と雑草の味を噛み締めていた……。


(…俺、エヴァから解放されたら……きっと美味しい夕食を作るんだ……。)

(し、士郎さん……!)

 この男、骨の髄まで主夫である。
 そんな士郎の歪みなき奉仕精神に、茶々丸はそのメインカメラひとみを濡らすレンズ洗浄液なみだをハンカチでそっと拭った。



「……えー、というわけで…皆さんわざわざありがとうございました」
「なんのなんの」
「で、では失礼します――……」

 古菲と夕映、そしてのどかは、ネギの挨拶を聞いて学園へと帰っていく。
 こうしてネギの修行初日は、
 エヴァの気紛れでグダグダなままお開きとなったのだった。



「―――アレ?どうしたんですかアスナさん」

 ネギが声をかけた先には……腕を組んで仁王立ちし、
 憮然とした顔でそっぽを向いて彼を無視する少女がいる。
 ………結論を言えば、非常にわかりやすーく明日菜さんが拗ねていた。

「…………聞いたわよ。
 私に内緒で昨日、図書館島に行ったでしょ」

「えっ!?あっ、いや、えーとそれは………!」



「木乃香、お前とぼーやにはまだ詳しい話がある。
 夕食はウチで食べていけ」
「?? うん、わかったえー。せっちゃんも一緒でええ?」
「ああ構わん」

『そこはホラ、どんな危険があるか分からなかったですし――』
『それも聞いた!ドラゴンだか何だか知らないけどスゴイのがいたんでしょ?
 危ないじゃない!!何で私に言わなかったのよこのガキ!!』

「いえそんな、お構いなく…」
「おいおい刹那、晩飯抜きなんて訳にはいかないだろ」
「士郎さんの言うとおりです、遠慮なさらず」
「えーと、そうなると五人前か…冷蔵庫に何があったかなー?」
「………ブラウニーかアイツは」

 嬉々として茶々丸と共に家に向かう士郎を、エヴァは呆れた目つきで見送った。


「かっ、関係ないって今更なによその言い方!!ネギ坊主ーーー!!」
「わわわアスナさん!?
 いえ僕は無関係な一般人のアスナさんに危険が無いようにって」
「無関係ってこの……!
 私が時間ない中わざわざ刹那さんに剣道習ってるの何でだと思ってるのよーーー!!」
「ええええ!?そんなの別に頼んでないですよ!?
 いきなり何を怒ってるんですか!?」

「……で、さっきから何をやっとるんだアレは」
「え、ええと…」
「ケンカやね」

「何でって………これだからガキは!!
 あんたが私のことそんな風に思ってたなんて知らなかったわ!ガキ!!チビ!!」
「ア、アスナさんの方こそ大人気ないです!!怒りんぼ!おサル!」

「あ、あの…お二人ともそろそろ…」
「久しぶりやなーあの二人ー」

「この―――来たれアデアット―――」
「はうっ!?デ、『風盾デフレクシオ』…」


「アホーーーーーーーーーーーッッ!!!」


 ―――パキャァアン!!
 ――――スパアァーーーーーン!!


 ……当然、魔法障壁に意味はなく。
 ガラスが砕ける音で防御呪文を破壊され、乾いた音がハリセンの炸裂音を物語る。
 ネギはきりもみ回転しながら美しい弧を描き…宙を舞うようにして数メートルの距離を吹っ飛んでいった。

「――あっ…ご、ごめ……。っし、知らないわよ!馬鹿っ!!」

 謝罪を口にしかけるも、明日菜はつい意地を張って口籠る。
 そのまま彼女はネギに背を向け、捨て台詞を吐いて走って逃げだした。

「あうう――?」
「先生、大丈夫ですか!?」
「アスナー!!」

「…ったく、何やってんだバカどもが。取り敢えずウチに入れ」


 ……これが以後、数日間にも渡る……ネギと明日菜のケンカの始まりなのだった。





 ◇◇◇◇◇




 ………食後。
 ネギ達はエヴァ邸二階のダイニングに座り、
 何処からか黒板を用意してきたエヴァンジェリンの講義を受けていた。

「最初に言うが、ぼーやと木乃香おまえたちの魔力容量は強大だ。これは云わば才能だからな、ラッキーだと思え」

 そしてこの幼女、教鞭を手に眼鏡までかけてノリノリである。
 夕方にネギの修行を「メンドイ」と言って切り上げた吸血鬼と同一人物には思えない。

「ただしそのままではデカイだけの魔力タンクだ。
 使いこなすためには『精神力の強化』と『術の効率化』が必要になる。
 どちらも要トレーニングだな」

 魔力を水とするなら魔力容量は貯水庫、魔法使いは蛇口である。
 貯水庫がいくら大容量でも、蛇口が小さければ一度に出せる水の量は少ない。
 ネギが強力な魔法を使えるようになるにはこの蛇口…ネギ自身が成長しなければならないことを意味していた。

「ううう…アスナさん怒らせちゃった、どうしよう……」
「元気出してーなネギ君」
「人の話を聞けーーー!!お前らに聞かせてやってるんだぞ!?」

 ダイニングの端にしゃがみ込み、床に延々と「の」の字を書き続けるネギと、
 その肩を叩いて慰める木乃香。
 言っておくがエヴァの講義はこの二人の為に行なっているものである。
 なのに話を聞いているのはカモと刹那、保護者つきそいの方だけという有様だった。

「ふむ、成程な。
 魔力量で劣っていても、旦那は術式の扱い方や精神力で兄貴に勝ってたってことか」

「ああ、あのバカはデタラメな精神力でアホみたいに無駄を削ぎ落とした魔法術式を使うからな。
 どっか頭のネジが飛んでいるんじゃないか?」

「さ、散々な言いようですね……」

 褒めてるのか貶してるのかわからない言いようであった。

「さてぼーや。修行に際してお前には戦い方を選択してもら…」

「ううう〜〜…。しくしくしく」

「ええいいつまでもウジウジと!
 いい加減にせんとくびるぞガキが!!」

「…す、すいませぇ〜ん……」

 立ち直る様子を微塵も見せず、ネギは相当に参っていた。
 赴任当初はともかく…最近はケンカもせず一番信頼していた明日菜と仲違いをしてしまい、
 どうしたらいいのか完全に分からなくなっているのだ。
 ……だが、それを見て二ヤリを笑みを浮かべる者も、今この部屋には存在しているのである。

「ま、私にとって貴様らの仲違いはいい気味だよ。
 お前と明日菜のコンビには辛酸を舐めさせられてるからな?」
「そ、そんなぁ……。」
「フン、いい加減話を戻すぞ。
 お前には戦いのスタイルを選択してもらう」


 その1、『魔法使い』
 前衛をほぼ完全に従者に任せ、自らは後方から強力な呪文を使う。
 オーソドックスで安定したスタイル。

 その2、『魔法剣士(拳士)』
 魔力を付与した肉体で従者と共に前に出て戦い、威力より速さを重視した魔法も使う。
 変幻自在のスタイル。


「魔法使いと魔法剣士……」

「一応言っておくが、修行のための取り敢えずの分類だ。
 私やあの白髪の少年を見ればわかるように、強くなればこの分け方はあまり関係なくなってくる。
 小利口なお前は『魔法使い』タイプだろうがな」

「………あの、」
「そして―――ナギヤツのスタイルは『魔法剣士』。
 それも従者を必要としないほどに、な」

「…………。」

「ふ、聞いてくると思ったよ。よく考えるといい。
 貴様の適性など私の知った事ではない、決めるのはお前自身だ」

 言われたネギは顎に手を当て、カモと共に考えに没頭し始める。
 それを見てエヴァンジェリンは、次に木乃香の方に口を開いた。

「さて木乃香。実は詠春から頼まれていてな。
 真実を知ってしまった以上、本人が望むなら魔法について色々と教えてほしい……とのことだ」

「え、父様が………?」

「ああ。お前のその才能ちからは人の役に立つ。
 “偉大な魔法使いマギステル・マギ”になることも可能だろう」

「……むむ…」
「お嬢様……。」

 ネギと同じように、木乃香も顎に手を添えて考え込む。
 刹那は隣で、その様子を心配そうに見つめていた。

「ゆっくり考えろ、お前の人生に関わる問題だからな。
 あとまた魔法に巻き込まれんとも限らんからな…仮契約カードの説明もしておこう。
 茶々丸!」

「はいマスター。
 アーティファクトアーカイブスにアクセスした所、検索HITしました」

 黒板の側に控えていた茶々丸が、一歩前に出て木乃香を見た。

「木乃香さん。あなたのアーティファクトは『東風ノ檜扇フラーベルム・エウリー』・『南風ノ末廣フラーベルム・アウストラーレ』という名の二つの扇。
 『東風ノ檜扇』は傷ついてから三分以内のケガを完全に治癒し、
 『南風ノ末廣』は発症して三十分以内の状態異常を完全に回復します。
 またそのカードには、デフォルトで『公家の狩衣』が衣装ドレス登録されているようです」

「…あーかい?でほると…?どれすー?」

「……そこは大した部分じゃない、分からないなら忘れろ。というかドレスくらい解るだろお前。
 大事なのは『三分以内に負った傷を完全治癒』、『三十分以内に発症した呪いの類を完全解呪』できるということだ。
 兄に似てお前も中々デタラメだな」

「えへへ、エヴァちゃんありがとー」

「…いや、褒めとらんのだが…。まあいい、アーティファクトの呼び出し方は簡単だから刹那に聞け。
 ああ疲れた。もう帰っていいぞ。士郎ー、何か酒の肴は無いかー」

 階下の士郎に呼び掛けながら、エヴァはトントンと階段を降りていった。



「………ああっ!アスナさん怒らせちゃったんだったーーー!!」
「立ち直ったのかと思いきや」
「忘れてただけみたいですね…」
「う〜ん……、まぎすてる・まぎなぁ……」

 この後ネギは夜遅くまで、刹那や茶々丸と一緒に明日菜と仲直りする方法で悩むのだった。





 ◇◇◇◇◇




 ………四日後、土曜日の朝。
 ネギは展望台への道を一人―――ただしカモは居る―――で歩いていた。
 しかしその表情は、いつかの学園見学の時の様な晴れやかなものではなく。
 むしろ物憂げな様子で肩を落としていた。。


「うう……アスナさん、もう三日も口利いてくれない……」
(兄貴、相当参ってんなぁ………)


 あの後、直接会って謝ろうとしたネギは携帯電話を使うが………明日菜は出ない。
 するとネギはあろうことか、
 仮契約カードで念話を入れると彼女をいきなり召喚しようとしてしまう。

 …だがその時、明日菜はシャワーを浴びていて。
 ネギの方には、久しぶりにエヴァを訪ねたタカミチが居合わせており。
 明日菜はネギの所為で、“愛しの高畑先生”に裸を見られてしまうという大ハプニングに見舞われる。

 ………結果、それほどでもなかった筈の両者の溝は、今では深刻な程に深まってしまったのだ。


「はあ〜……。どうしよう」

(…ったく、本当に問題が山済みだなー)


 ネギの肩で煙草を吹かしながら、
 カモはため息ともつかない紫煙を吐いて思案する。


(父親の手がかりを見つけたと思ったら、やたらデケエ門番がいやがるし。
 『魔法使い』か『魔法剣士』。今後を左右する重大な選択もしなくちゃならねぇ。
 そしてここにきて姐さんとの仲違いか…姐さんは従者に絶対欲しいよなー。
 ……おっ?)

 石畳の坂道を、黒塗りの高級車が精緻な動きで上ってくる。
 学び舎の敷地内に場違いなその存在は…あろうことかネギの隣で静かに停車した。


 ―――ガチャッ。


「おはようございますネギ先生!」
「あ…い、いいんちょさん!」

 雪広財閥の自家用車から現れたのは、
 ネギLOVEをこじらせたショタコン……もとい、3−Aの頼れる委員長・雪広あやかであった。
 純白のワンピースを優雅に揺らし、
 彼女は満面の笑みを浮かべて真っ直ぐネギの方へ歩み寄る。

「そういえば先生、ここ数日元気がないようですが…」
「え、えーと………実は、アスナさんとケンカしちゃって」
「え?」


(まあ珍しい。いつもあんなに仲の良い先生とアスナさんがケンカだなんて…?)

 あやかは「意外」と言わんばかりに開けた口を手で覆った。


「なんで怒ったのかもわからないまま、また失敗して怒らせちゃって……」


 ……本人達は口に出して認めないものの、あやかと明日菜は初等部以来の親友である。
 涙目で落ち込むネギを見て、彼女は事態が思ったよりも深刻だと把握した。


(……まあ大方、アスナさんが意地を張ったまま引っ込めなくなってしまったんでしょうけど……。
 …このままでは仲直り出来ないまま、ズルズルといってしまいますわ。
 まったく、ネギ先生のような子供相手にムキになって…しようもない人ですわね)


 素直でない親友に思いを馳せ、あやかは額に手を当てて嘆息した。


「……仕方ありません。
 本当なら『ネギ先生とふたりっきりのパラダイス計画』のハズでしたが…」

「…え?」

「先生、少々お待ちを。(ピッ)
 もしもし朝倉さん?ハルナさんにも手を回してクラスの方々を集めてくださる?
 これから皆さんを、雪広グループの南国リゾートに招待いたしますわ!!」

「え?え?いいんちょさん?」


 ――ブツッ。


 携帯電話を切ると、あやかはネギに視線を合わせて背を屈める。
 そのまま彼の手を両手でぎゅっと握ると、彼女はネギの目を見つめて力強く宣言した。


「ネギ先生、私が先生とアスナさんの仲直り…お手伝いさせて頂きます!!」









<おまけ@>
「ダメ親父」

 ―――プルルルッ…ガチャッ

詠春
『はいもしもし……おやエヴァンジェリン。
 ご無沙汰…という程でもありませんか』
エヴァ
「挨拶はいい、それより木乃香に話をしたぞ。
 …しかしどういうつもりだ、よりによって魔法を教えるなど。
 全く、そこは陰陽術を教えておけと……また反発が出るだろうに」
詠春
『ええ、それは覚悟しています。
 ですが…かつて魔法世界に行って直に目にした私から言わせてもらえば―――』

詠春
『陰陽術より魔法の方が汎用性も高く実用的で、木乃香が身を守るにはそちらの方が…』
エヴァンジェリン
「お前正気か!?呪術協会の長が間違ってもそんな台詞を吐くんじゃない!!(滝汗)
 盗聴でもされていたら長の座から確実に引き摺り降ろされるぞ!?」
士郎
「ダメだこの父親……早く何とかしないと……」

 組織の長としては…人の上に立つ才能が本当に無いんだなぁと、士郎は深く頭を抱える。
 ……せめてもの救いは、さっきの言葉が非公式な発言という事だけであった。

詠春
『それに……貴女という優秀な教師がいるのに、教えを乞わない理由はないでしょう?』
エヴァ
「………ま、当然だな」
士郎
「ちょろい!?誤魔化されるの早過ぎだろ!!」


・詠春は長としての能力が無い訳ではありません。
 ただ、公私混同して優先順位のトップに木乃香がいるだけの親バカなのです(ダメじゃん)。



<おまけA>
「黒刹那」

士郎
「いきなり呼び出すとか困るだろ…愛衣ちゃんには悪いコトしたな…」
刹那
「……むぅ」

刹那
(………やはりあの時、斬っておくべきだったか)
愛衣
「っ!?(びくぅっ!!)」


エヴァ
「あの結界は認識阻害も兼ねていたんだぞ!?壊すヤツがあるか!!」
刹那
「今のエヴァンジェリンさんは魔力を封印されていますから」
木乃香
「そーなんやー」

刹那
(………ざまあww)
エヴァ
「ッ!?(ゾクッ!!)」


・あくまでネタですww
 本編とは繋がりが無いですからね?ww



〜補足・解説〜

>急にそんなこと言うな
 一応教師であるネギに予定が入る可能性を考え、火曜当日にネギと話して計画を立てた結果、士郎への事前連絡ができなかったという事情があります。

>来なかったら怒るぞ!!
 赤セイバー(Fate/EXTRA)だったら「来なかったら余は泣くぞ!」とか言っちゃうのかなぁ(笑)

>……不承不承、刹那は頷いた。
 ほほう、あからさまに嫉妬を見せるようになったか…成長したな刹那!
 せっちゃんのヒロイン力は順調に育っているようです!!(笑)
 ……ていうか今までヒロインしてなさ過ぎたんだよな……メインヒロインの一人なのに(要反省

>火曜日の放課後。
 前話で愛衣来店→接客→エヴァの電話→今話冒頭…という流れ。
 つまり前話ラストと今回冒頭は同じ日の出来事であり繋がっています。

>言われた通り急いで来たぞー。
 最低限の店の片づけに数分かけて、後はさっさと瞬動(with認識阻害)で到着。
 移動より後片付けに時間をかけるこの男w

>愛衣ちゃんには悪いコトしたな…
 「ごめん、急な用事が入って店を閉めなきゃならなくなったんだ」と士郎に言われ、愛衣は(ケーキをテイクアウトして)そそくさと帰りました。
 ちなみに千雨は、またクラスメートが来てるんじゃないかと警戒してこの日は来店しませんでした。

>素直な彼はある意味天敵
 そしてお人好しな士郎もまた、エヴァの天敵なのだ!(笑)
 しかし最大の天敵はアルb……クウネル・サンダースその人である事は言うまでもない。

>五人前か…
 茶々丸含め五名。彼女は物を食べられませんが、一人だけ何も食べずに傍にいて給仕をさせるのも気分が悪いと、無理やり食事に参加させられておりますw
 ただ、食べる振りはできると作中で言われていますが、ド●えもんみたいにエネルギーに変換されるんですかね?食べたものは茶々丸ボディの内部でどうなっているのか…。

>あのバカはデタラメな精神力で
 ネギま!世界の魔法もTYPE-MOON魔術と同じく「イメージが大事」と作中やKC解説で言われています。
 つまり衛宮士郎という生物の得意分野だろうと。投影のノウハウも応用できるでしょうし。
 才能は無くともネギま世界の魔法と相性が良いと思われます。

>『東風ノ檜扇』は傷ついてから三分以内のケガを完全に治癒し
 ・負ってから三分以内の怪我に対する「完全治癒」は一日一回しか使用できない。
 ・「完全治癒」の使用如何に関わらず治癒能力を使用可能。
 ……制限があるようで、実はかなり優秀な回復系アーティファクトですよね。

>アーティファクトアーカイブス
 まさかの再登場オリ設定。まほネットからアクセス可能で、パクティオー協会の公式サイトから閲覧できる。
 ただしまほネット熟練者ながら「魔法使いがケータイとはなぁ…」などとITに疎く若干の拒否感があるカモは、このデータベースの存在を知らない(何。
 夕映の『世界図絵』、千雨の『力の王笏』からでも接続できるっぽい。

>デフォルトで『公家の狩衣』が衣装登録されています
 デフォルト=初期設定。最初から設定されているということ。
 仮契約カードには服装を登録しておける機能があり、これによって「アデアット」の呪文を唱える事で衣服が変化する。
 目的別に複数の服装へ変更できる非常に便利な機能だが、初見のハルナには「リアル魔法少女の変身」と受け取られていた。

>「えへへ、エヴァちゃんありがとー」
 兄(士郎)に似ていると言われて嬉しい木乃香でしたw

>“偉大な魔法使いマギステル・マギ
 連合やメガロメセンブリアから送られる書類上の称号が「偉大な魔法使い」で、「立派な魔法使い」は人々から尊敬されて自然と呼びならわされるもの。
 言うまでもなく、後者の域に達する方が遥かに難しい。

>陰陽術より魔法の方が汎用性も高く実用的
 これはあくまで詠春個人の考えですが、この小説の独自設定でもあります。
 日本という狭い枠組みの中で発展してきた「陰陽術」より、世界中に広まり多様化、また広く研究・洗練され、異世界の魔法技術とも交流・相互発展を行なってきた「魔法」では、やはり魔法の方が色々と勝っている点が多いのではないかと。
 (陰陽術の起源は大陸の占術思想や呪術ですが、後の時代には日本独自の陰陽術として発展・体系化したため、国内のみで発展してきたという扱いにしました)
 ただし式神などに代表される“使い魔ファミリア・マジック”など、一部の技術分野では陰陽術の方が優れている点もあると思われます。紙の式神の応用性(万能性)は半端じゃない。
 そして陰陽術ではありませんが、日本には魔を斬る剣術・神鳴流の「斬魔剣・二の太刀」のような、そもそも魔法文化圏には無い優れた技術も開発されています。
 この点を鑑みると、「発展してきた地域の広さ」を基準にして「どちらが優秀な技術か」を決める事は本来できないのです。
 では何故、この小説では「魔法≧陰陽術」という設定になったのか?
 だって魔法メインの物語だし(笑)
 え、魔術(TYPE-MOON)?あれは魔術回路(=魔術を使う才能)を持っていないと使えないという大前提がある時点で、技術としては欠陥品だと思うんだ。
 そもそも魔術は研究第一の“学問”ですしね。

>ちょろい!?
 エヴァは讃辞に弱いと思うの。



【次回予告】

 次回は、原作における南国リゾート編!
 熱い太陽、青い空…白い砂浜に広い海!そして水着の美少女達ッ!!
 これを書かない手はねぇぜっ!!

 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
 第37話 似ていると、思ったんだ(仮)

 ごめんなさい逃げました。
 リゾート編なんぞ書きません、つか書けません。

 それでは次回!!

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