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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史改変の章その30
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2013/11/10(日) 20:07公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1997年 初夏 国際連合

 リヨンハイヴ攻略作戦が終了して1日後、国連加盟国に非常招集がかけられた。
 理由は、今回の作戦でAL第四計画にて判明したBETAの生態に関わることだ。
 そこで報告された内容に、各国の首脳は愕然とすることになる。
 まず第一、反応炉と認識されていたものは実はBETAそのものであるということ。
 そして、BETAはその反応炉を基点としたネットワークを築いており、それはオリジナルハイヴに存在する反応炉を基点とする箒型の命令伝達系統を保有していること。そのために、周辺のハイヴをいくら叩きつぶしたところで、肝心の本丸であるオリジナルハイヴが攻略されない限りBETAの指揮系統には何らダメージを与えられないこと。現在認識されている、約19日間のBETAの対応期間というのは、このオリジナルハイヴの反応炉が対策を講じるために必要とする期間であること。
 などなど、いままでのBETAの対策に修正を迫られること請け合いの情報のオンパレードであった。
 各国の首脳が慌ただしく動き回る中、その報告を行った1人の若き天才物理学の権威であり、AL第四計画の統括責任者香月夕呼はこう傲然と言い放った。

 「このままでは人類はじり貧です。そこで私は、オリジナルハイヴことカシュガルハイヴ攻略作戦、桜花作戦の実施を提言します」

 この提案に各国は渋った。なにせリヨンハイヴ攻略作戦で欧州各国は疲弊しているのだ。無論国連軍も無傷ではない。
 今はまだ力を蓄える時ではないか?
 そう言った声が上がった。それを夕呼は一蹴する。

 「ご存じの通り、我々AL第四計画は今回の作戦で新兵装を導入しました。米国軍のHI−MAERF計画でつくられたものを元に作成されており現在識別名を凄乃皇弐型としています。お手元の資料から分かるように、単純なBETA掃討数は約10万以上。この戦略兵器に対して対策を立てられることは避けたいというのが本音です。ましてや相手はBETA、レーザー属種以上の何らかの手段を講じてもおかしくはありません」

 確かにレーザー属種が登場したとき、人類は圧倒的に不利な状況に追いやられた。あれから数十年。いつまでもこの状況が続くと思っていた。それがまた覆されるというのか?
 折角BETA相手に有利になるように兵装の改良、武装の改良を施してきたのに、また一からやり直すことになるというのか。
 ざわり、とさらに会議室内のざわめきが大きくなった。
 前回はレーザー属種のおかげで10億単位の人類が犠牲になり、制空権を奪われた。
 では次は?
 かつてBETAに蹂躙されるしか無かった時代の恐怖が、全員の心を蝕んでいく。

 「そのための桜花作戦です。われわれAL第四計画の特殊精鋭部隊と、日本帝国の撃震参型からなる日本帝国大陸派兵部隊第十三戦術機甲大隊の少数でオリジナルハイヴを強襲。敵中枢である反応炉を破壊します」

 「バカな、無謀だ。いくら凄乃皇弐型を有するとは言え、オリジナルハイヴに潜むBETAの数の暴力の前には蟷螂の斧だ」

 ソ連の首脳が口走る。それに追随するように米国の大統領も口を開く。

 「確かにあれほどの戦力を無力化されるのは痛いが、それでもまだ人類には様々な可能性がある。ここで貴重な戦力である凄乃皇弐型を失うのは得策ではないと考えるが?」

 暗に、00ユニットを失う可能性を示唆する米国の大統領。

 「ご安心を、今回は出し惜しみなしですわ」

 「出し惜しみ?」

 フランスの大統領が眉をひそめる。今この女狐は出し惜しみと言ったか?
 我々フランス軍が血反吐を吐きながら戦っていたというのに、この女はジョーカーを手元に隠し持っていたというのか?
 怒りのあまり拳を握りしめるが、さすがに公の場でそれ以上の行動に出ることは出来ない。なにせジョーカーを切っていないと言え、あの凄乃皇弐型と直属の精鋭部隊のおかげで多くの将兵が命を救われたのは事実なのだ。
 大きく深呼吸をして、どさっとイスに背を預けるフランス大統領。
 その反応を見て、目を細めると夕呼は動揺する各国に対してプレゼンを始める。
 後世の科学者達をして人類が生み出した究極の戦略兵器の一つと言わせしめる、超弩級万能型機動要塞「雷雲」を。



 プレゼンが終わった後、真っ白に燃え尽きた各国首脳達の様子をみて、実に楽しそうに微笑むと、夕呼は再び桜花作戦の概要について話を始めた。

 「リヨンハイヴより入手した情報により、オリジナルハイヴのマップに関しては問題ありません。また、幾つか新種のBETAの情報も入っております。そのどれにも対応できるように雷雲の調整はすでに着手済みです。一両日中には完了することでしょう。それを持って桜花作戦を発動したいと思います。議長、決議をお願いします」

 夕呼の鋭いまなざしを受けて国連事務総長が桜花作戦の作戦発動の審議を開始した。
 結果、賛成多数で桜花作戦は1週間後に開始することが議決された。

 「雷雲だと?なんなのだ、あれは…あれは、人類の科学力を超越している…」

 呆然と呟く各国の首脳達、自分の作戦がうまくいったことに上機嫌に高笑いする夕呼。国連の大会議室の中はまさに混沌の体をなしていた。



1997年 初夏 日本帝国陸軍基地

 「おいおい、俺たちをご指名ときたか」

 はあっ、とため息をついたのは小塚次郎中佐。
 第十三戦術機甲大隊の桜花作戦参戦命令、正式に国から命令が下ったのだ。
 弟の三郎から情報は入手していたので対して驚きはないが、問題は部下達の士気だ。
 つい先日生きるか死ぬかの大作戦を決行したというのに、その一週間後には史上最大の決戦が待ち構えていると来た。
 小塚次郎中佐が率いる精鋭中の精鋭とは言え、その士気を常に最高に維持するのは難しい。

 「などと考えていた時期が俺にもありました」

 小塚の目の前には、新型の衛士強化装備に身を包み、オリジナルハイヴ攻略のシミュレーターを実施中の大隊員達の姿があった。

 「あ、隊長、凄いんですよ、この衛士強化装備。従来の耐G性能を50%以上も向上させていながら、男はさらにマッシブに、女性はさらにエロティックに改良されているんです!」

 「エロティック、いうな、このエロティカルが!」

 古参の男性隊員を蹴り殺す勢いで蹴りつける女性衛士。
 なるほど、確かに以前の物より機能的かつエロティックな仕上がりになっている。

 「その衛士強化装備は一体?」

 「小塚三郎少佐より頂いた新型装備です。今回の桜花作戦のために用意されてとか。あと、この装備の実装に応じて撃震参型の反応速度を3割増しにすることができるそうです」

 「そうなんですよ、隊長。それを聞いたみんなはもう大興奮で、一刻も早くその性能を試したいということで揃ってシミュレーターに籠もっているんです」

 「あ、そうなんだ…」

 唖然としながら、小塚次郎中佐は呆然と頷いた。
 どうやらやる気の起爆剤として、弟の三郎が新型衛士強化装備を用意していたらしいことは分かった。だが、反応速度が3割増し?
 これはどう考えても作為的な物を感じる。というか、感じない方がおかしい。
 執務室に戻ると、早速帝国軍技術廠所属小塚三郎少佐、つまり自分の弟に連絡をとる。
 小塚三郎少佐、撃震参型の開発を得てさらに名声と最高の技術者の地位を確立した男である。肉親でもなければアポなしの連絡すら取ることは難しい人物である。

 「これは小塚中佐、ご無沙汰しております。なにかご用でしょうか?」

 「やかましい、あの衛士強化装備と撃震参型の反応速度向上の件、詳しく聞かせてもらえるんだろうな!」

 恫喝気味な聞き方になるのは、それだけ小塚三郎少佐への鬱憤がたまっているからだ。

 「まあまあ、落ち着いてください。そもそも撃震参型は、あの衛士強化装備があって初めて本来の能力を出せるんですよ。先ほど言った反応速度の向上、これは実は撃震参型に仕掛けられていたリミッターを外したに過ぎないんです。つまりもともと撃震参型はそれだけのポテンシャルを秘めている機体なわけです」

 「なっ?そ、それじゃあ、俺たちは枷のかけられた機体でハイヴ攻略戦に参加させられたってわけか?」

 次郎中佐の目に危険な光がともる。彼にとって、部下とは仲間であり、親友である。それを実験台にさせられたのだ、その怒りは押して知るべし。

 「勘違いしないで欲しいんだけど、これは彼の提案だ。リヨンハイヴと桜花作戦。続けて行われる大規模作戦。どうしたって士気が下がる。その士気低下を少しでも押さえるにはどうすればいいのか?それで彼が出した答えの内の一つがこれだよ」

 次郎中佐のあまりの怒りに、思わず素の口調で語りかける三郎少佐である。

 「な!?あの野郎、なんてこと考えてやがる!」

 「まあ、落ち着いてくれよ、兄さん」

 怒り心頭に発するを体現したような小塚次郎中佐を宥める三郎少佐。

 「彼も悩んだようだ。それでも実行をしたということは、それだけ第十三大隊を信じていたからだと思う。それに、黒い幻影」

 「!いや、そうか、お前なら知っていてもおかしくないな」

 「あれは彼がかけた保険だと思っている。決して彼は、兄さん達を駒としては見ていないよ」

 「ああ、わかったよ、わかりました。わたくしめの戦略眼がなっていませんでした。大局を見ていませんでしたよ。だがな、そんな七面倒くさいことがいやだから俺は今の地位にいるんだ。やつはそのことを分かっているんだろうな?」

 「分かっていると思うよ。彼はどちらかというと兄さんよりだからね。それに、下手に彼に手を出すと、史上最強の衛士を敵に回すことになるよ?」

 「ぐっ、たしかに、くそう、やつめ、今度整備班の連中をけしかけてやる」

 「まあ、ほどほどにね」

 ぶつっ、と回線を切ると小塚次郎中佐は大きなため息をついた。
 全ては人類のため、か。
 理念は分からないでもない。だが、切り捨てられるものはどうなる?果たして俺たち第十三戦術機甲大隊は生きて帰られるのか?
 不安は尽きず、ここのところ連絡が取れない部下に対して直接文句を言うことも出来ず、鬱憤はたまっていく一方であった。



1997年 初夏 柊町

 「出し惜しみはなし、その言葉に偽りは無いわ!」

 胸を張りながら自分を見つめる8対の眼に対して夕呼は宣言した。

 「先進撃震参型と同等の機能を有する迅雷、それに気増幅機能を追加した迅雷改型。これをあなたたちは一週間で物にしてもらうわよ。覚悟はいい?」

 「「「はいっ!」」」

 まだ16になっていたりいなかったりする少年少女。マブレンジャー達が大きく返事を返す。眼にたぎるのは闘志。不屈の闘志を宿している。

 「というわけで、伊隅、速瀬、涼宮、そしてヘタレ、あんた達もこの改型に乗ることになるんだから一緒に訓練してもらうわ」

 「「「了解!」」」

 夕呼の背後に控えていた4人の人影が現れる。
 ちなみにヘタレと言われた孝之は、しょぼーんとしている。

 「もういいよ、俺ヘタレ、これからもよろしく」

 などと呟いている。

 「これから貴様らを教導する伊隅だ。この作戦、人類の未来がかかっている。同じマブレンジャーだからといって、一切手心は加えないつもりだ。わかったか!」

 「「「了解」」」

 「よし、それでは早速シミュレーターでの訓練を始める。明日は実機の感触を掴む為に実際の機体での訓練だ。今日中に基本動作をクリアするぞ!」

 「「「了解!」」」

 国連軍柊町基地地下格納庫は、密かに燃えていた。

 「R.T決戦戦闘術、ひゃくれつけん?」

 「ちょっ、ねえ、今BETAが100匹単位で吹き飛んだわよ?まったく、師匠があいつなら、弟子も弟子ということかしら」

 演習内容を見ながら夕呼がぼやく。みちるが見るのはお勧めしませんが、といっていたのがよく分かる。
 全うな人間、戦術機がいかなるものかを知っている人間が見れば目を疑うこと間違いなしの映像が目の前で繰り広げられている。

 「R.T決戦戦闘術、表四十八手がひとつ、がとちゅぜろすたいる!」

 「あっ、重頭脳級が一発で吹き飛んだ…」

 冥夜の操る迅雷改型が一撃で、オリジナルハイヴの反応炉を粉々にするのを見て、夕呼はこれ以上の視聴を止めた。
 これはあまりに正気度を削られすぎる。これから色々と準備に忙しいのに、これ以上ここで無駄に心労を積み重ねる必要はない。
 それは実に賢明な判断であっただろう。
 それから先に繰り広げられた光景は、わずかながらも戦術機の常識を引きずっていたみちるを始めとする現役組ですら眼を疑うものだったのだから。


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