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ネギま!―剣製の凱歌― 第三章-第34話 束の間の休息/冒険の誘い
作者:佐藤C   2013/07/15(月) 10:03公開   ID:3FzVk7dSV12



「――あたっ…!」

 腫らした顔に湿布を貼りつけたネギが、突然声を上げて呻いた。

「やはり痛みますか?」
「あー、もっと噛みやすいモン作れば良かったな」
「ったく、ムチャし過ぎよ」
「でもこんなになるまで頑張るなんて、ネギ君て意外と熱血なんやなー♪」


 日付は日曜。弟子入りテストで夜明けを迎えた後の昼食。
 喫茶店アルトリアのテーブル席にネギ、明日菜、木乃香、刹那が集まり食事を摂っていた。
 そしてそれは、彼らだけではない。


「……ふん、負けたよぼーや。
 約束通り稽古はつけてやる。いつでもうちに来な」

 カウンター席の左端から二番目という、彼女の指定席に座るエヴァンジェリンが口を開いた。
 その隣、一番左の席にはチャチャゼロを頭に乗せた茶々丸が座っている。

「ケケケ、嬉シソーダナ御主人」
「うるさい黙れ」
「………。」

 呆れたように「根負けした」と言うエヴァはチャチャゼロの言う通り、
 この結果に悪い気はしていないようである。
 予想外な経緯いきさつだったとはいえ結果を出したネギに、多少は「期待通り」だったと気を良くしているのだろう。

 ………しかしそんな彼女とは反対に、
 茶々丸は肩を縮こませて申し訳なさそうに眉を下げていた。

「あ、あの、ネギ先生」
「はい?なんですか茶々丸さん」

「え、ええと…その、いくら試験とはいえ先生に……私……」
「??」

「あのさーこのか。京都の時みたくあんたの力でパーッと治したりできないの?」
「ん――…でもウチ、あのときエヴァちゃんに言われた通りやっただけやしー……。
 それにウチ魔法なんてどう使ってえーかわからへん」


「―――ああ木乃香。その事でお前にも話がある。近いうちぼーやと一緒に来るといい」

「へ?」

「…ちょっとエヴァちゃん、このかに話って何なのよ。今じゃダメなの?」

「お前には関係ない話だ。
 それにこんな、関係ない人間がいつ来るか分からん場所で安心して話せるか」

 話しかけられてから数秒、
 顎に人差し指を当てて考え事をしていた木乃香は、エヴァの方に向き直って口を開いた。

「なーエヴァちゃん。エヴァちゃん家って森の中のログハウスみたいなアレやろ?」

「ああ、お前は前に一度来たことがあったな。
 道が分からんようならぼーやか士郎にでも訊けばいい」

「そうやなくて。すごく今さらなんやけど、シロウがエヴァちゃん家に居候してるのって…
 エヴァちゃんがシロウのご主人様やからなんやなー」

 ……その言葉に、エヴァンジェリンは疑問を覚えた。

「………待て木乃香。
 お前、魔法を知る前は私と士郎の同居をどんな風に聞いていたんだ?」

「?? んーと、シロウがイギリスに留学してた頃にお世話になった人がおって、
 エヴァちゃんはその人の遠い親戚やから面倒見てあげなアカン、って感じやったえ」

「……ああ、そういえばそんな辻褄合わせを聞いたような」


(…忘れてたのか)
(確かその時は朝だったので、マスターは寝惚けていたのではないかと)
(マ、御主人ハオ子様ダカラナ。ケケケ)

「……聞こえてるぞ貴様ら」

 主の不機嫌そうな声色に、従者ズは一斉に背筋を伸ばして向き直った。

「なに、失敗は誰にでもあるさ(ニコッ)」
「マスターは封印されていますから仕方ありません(微笑み)」
「イヨッ!御主人日本一!(ケケケ)」
「コイツら……」

 いったいエヴァじぶんの従者達はいつからこんな、主人をからかうような輩の集まりになったのか。
 ………本人が気づいていなかっただけで、結構前からこうなのだが。
 あとチャチャゼロよ、あの『闇の福音』が日本一ってスケール小さくないだろうか?


「あとその親戚の人の名前も聞いてるえ。
 えーと確か………そう!ネカネ・スプリングフィー」


 ―――べしゃっ。


 ………ネギが、椅子から落下した。
 ちなみに両手をバンザイしたような恰好で、顔面から床に激突している。
 …腫れた顔にはダメージがデカかったようで、ピクピクと小刻みに痙攣していた。

「…あれ?そーいえばスプリングフィールドて」
「……ネギ、アンタお姉ちゃんがいるって言ってたわよね…」
「………と、いうことは…」

 明日菜、木乃香、刹那の三人がゴクリと息を呑む。
 数秒ののち―――……彼女達は信じられないといった表情で同時に同じセリフを吐いた。


「「「エヴァちゃん/エヴァンジェリンさんと、
 ネギ/ネギ君/ネギ先生は――――親戚!!?」」」

「何てこった…今明らかになる衝撃の事実!!」
「そ、そうなんですかエヴァンジェリンさん……!?」

「んなワケあるかーーーーーーーーーーーー!!!!」


 カモが驚愕し、ネギまでガバッと起き上がって訊いてくる有り様に、
 エヴァンジェリンは大声で叫んで否定した。


「…言っておくが、あくまでそういう“設定”だからな?
 ネカネさんにも口裏合わせをお願いしただけだから」

 士郎はそう言いながらカウンターに両手を付き、疲れたように頭を俯かせて息を吐いた。
 ……ちなみに、当のネカネ女史はといえば。


“作り話でも、あの『闇の福音』の縁者になるだなんて…人生って分からないわね♪”


 ………と、案外ノリノリだったそうな。









     第34話 束の間の休息/冒険のいざな









 ―――カランコロン。

「…げ。」
「お、いらっしゃい千雨ちゃん」

 口元を不快げに歪めて声を上げた眼鏡の少女を、士郎は笑顔で迎え入れた。

 彼女こそ、喫茶店アルトリアの常連客にして3−Aクラスの一人―――長谷川千雨ちさめ
 騒がしいクラスにどうしても馴染めない彼女は日々、学校でストレスと戦う学業戦士なのであった。

「あ、千雨ちゃん」
「ほんとや。千雨ちゃーん!こっち来て座らへんー?」
「い、いや私はいい」

 そう言ってそそくさと、彼女は店内奥の端っこに隠れるように移動する。
 ……口を開こうとしたネギに気づきながら、彼女はそれを無視して逃げた。


(おいおい…せっかくの日曜だってのになんでウチのクラスの連中が来てるんだよ!
 しかもあのガキまでいやがるし……くそっ今日はツイてねぇ……!!)

「ってカオしてるな千雨ちゃん」
「……解ってるなら言わないでください」

 メニューを持ってきた士郎の言葉に千雨は、
 テーブルに両腕をつけて俯きながらげんなりと溜め息を吐いた。



「いやーしかし、ホントお疲れだぜ兄貴」
「うん。これで魔法はエヴァンジェリンさんに、
 中国拳法はくーふぇさんに教えてもらえるし。あとは頑張るだけだよ」

 先ほど判明した意外な話から気持ちを切り替え、ネギとカモはこれからについて話し始めた。
 ………離れていて千雨に聞こえていないのが幸いである。

 それはともかく…古菲の指南と、エヴァンジェリンへの弟子入り。
 これでようやく、京都で痛感した実力不足を―――時間はかかるだろうが―――改善できる見込みがついた。

 彼に課せられた本来の修行である教職をこなしつつ、
 格闘術と魔法戦闘を学ぶのは並大抵の苦労ではないだろう。
 …それでもネギは、これから自身が行う苦行に笑みすら浮かべて気合いを入れた。


(あと気になってるのは……)


 “ネギ君、実はコレ・・なんだがね………”


 ―――バターーンッ!!
 カランコローーーン!!


「ネギ君ネギくーーーーーん!!
 やったよ!受かったよ―――選抜テスト!!」

 勢いよく扉が開かれる音と同時、激しく鳴り響く来客ベル。
 店の出入り口に走って飛び込んできたのは………目尻に涙を浮かべて喜ぶまき絵だった。

「え、本当ですか!?おめでとうございますまき絵さん!!」

「うん、アリガトーーー!!
 …って、ひゃあっ!!茶々丸さん!?」

「コラコラまきちゃん、怖がらないの。
 茶々丸さんホントはすごくいい人なんだから」

 悲鳴を上げて後ずさるまき絵に明日菜が言う。
 ……とはいえ、子供を一晩中殴り続けた相手と見れば、怯えるのも仕方ないが。


「せや!それなら今日の晩ゴハン、
 まき絵とネギ君のぶん一緒にお祝いパーティーせえへん?」

「おお!いーじゃんやろーよ!!」
「うん、それいい」

「…あんた達いつ来たのよ」

 明日菜が視線を向ける隣のテーブル席には、当然の様な顔をして座る裕奈とアキラの姿があった。

「はい、裕奈ちゃんにアキラちゃん。
 御注文がお決まりになりましたら店員をお呼びください。こちら当店のメニューになります」

 驚く明日菜を尻目に士郎が自然な動作でスッと現れ、
 冷や水とメニューを裕奈達の前に置いた。

「え。士郎、二人に気づいてたの?」
「フ…愚問だな明日菜。俺がお客様を見逃すことなど無い」
「……あ、そう」

「…あの、何でしょう明日菜さん?」

 明日菜は刹那を横目で見ながら、「なんでそんなトコばっかり気が回るんだろ」と、
 いそいそとカウンター奥に戻っていく士郎に嘆息した。


「それじゃあパーティー前のお茶会を始めよーーーー!!」
「おおーーーーー!!」

 そして裕奈が場を仕切りだし、少女達は大きく歓声を上げて沸いた。
 ……なぜ彼女達は、パーティーの前にパーティーをして盛り上がろうとするのだろうか。
 まあ、騒げる口実なら何でもいいんだろーな。



 ――ワイワイ、きゃっきゃっ
 ―――キャイキャイ、アハハハハ………


 姦しい黄色い声が騒がしく店内に木霊する。
 女子校にほど近いこの店で、この類の騒音は珍しい事ではないが……しかし忘れてはいけない。
 今この店には、この喧騒に眉を顰める少女が一人いる事を……。

「おっ?千雨ちゃんじゃん!!」
「本当だ」
「千雨ちゃーん!やっぱりこっち来ーひんー!?」
「げっ!!」

 店の奥の奥―――端っこの一人席でひっそりと気配を隠して座っていた少女千雨は、
 努力空しく呆気なくバレてしまう。
 …すると士郎は凄くイイ笑顔を浮かべて、彼女の肩をポンと叩いた。

「……逝ってこい、千雨ちゃん。なぁに大丈夫。
 傍迷惑なクラスメートに巻き込まれるなんて経験、学生のうちじゃなきゃ味わえないぞ?」

「うるせぇよ!私は一人が好きなんだ!!
 あんたは解ってくれてると思ってたのにーーーー!!」

「ははは何を言う。俺は熱心に通ってくれる大事な常連客への挨拶を欠かさず行なっただけのこと。
 千雨ちゃんにもっと同級生との楽しげな青春を送って欲しいだなんて勝手なことは、いや全く。
 これっぽっちも思っちゃあいないさ」

「て…店長―――あんたって人はーーーーーーー!!」

 裕奈と木乃香に腕を引っ張られてお茶会ゲヘナへと連行ドナドナされる千雨の恨みがましい視線などなんのその。
 少女の怨嗟の声を背に、士郎は悠々とキッチンに戻って行った。


「……まったく煩い連中だ。帰るぞ茶々丸―――む?」


 ―――カランコロ―ン。


「やけに騒がしいですね……と、あなた達でしたか。納得です」
「ネギせんせーは…あ、居ましたー……♪」

「あれ?夕映ちゃんに本屋ちゃん」

「……アスナさん。
 実は………ネギ先生に内密の話があるのですが」

 A1サイズほどの巻物スクロールを手に、のどかを伴った夕映は神妙な顔でそう告げた。





 ◇◇◇◇◇



「……あー…、ネギ君行っちゃった」

 夕映達と共に店を後にしたネギを見て、まき絵は心底残念そうに口にした。

「ほほーう?ちょっとなにまき絵、
 お前はあたし達に祝われるだけじゃ不満なのかーっ!?」
「わーっ!!ちがっ、そーゆーイミじゃないってばー!!」

 まき絵の首に腕を回してはしゃぐ裕奈。
 そんな彼女達を一歩引いた所で見つめる顔ぶれに、微笑むアキラ、にこやかに笑う木乃香、
 ………そしてテーブルに頬杖をつく千雨がいた。

「……なあ大河内、お前よくあんな騒がしい奴らとツルんでられるな」
「ん?ああ、私も自分で騒ぐのは苦手な方だけど…騒ぐのがキライな訳じゃないし。
 だから裕奈やまき絵と一緒にいるのは楽しいよ」
「…あっそ。あたしにゃわからん」

 手で顎を支えたまま、千雨は裕奈達から視線を逸らして息を吐いた。

「ん」

 声を上げた千雨につられてアキラがガラス窓の外を窺う。
 すると木乃香も身を乗り出して外を見た。

「あれは…」
「誰やろ?ぱっと見た感じ、女子校ウチの中等部の生徒かなー」
「ああ、あいつは佐倉。近衛が言ったとおりあたしらの後輩だよ」

 喫茶店アルトリアの店先で挙動不審な態度を見せる少女の名は、佐倉愛衣メイ
 橙色に近い赤毛の髪を左右で巻いて団子状にし、そこから肩まで伸びるツーテールが揺れている。
 大人しそうな顔を緊張気味に固くして、愛衣はチラチラと店の中を窺っていた。

「…ちっ、やっぱ元が良い奴は制服も私服も可愛いこって」
「なんだ、長谷川は知ってたのか」
「まあな、あいつもここの常連だから。
 ただ…なんでか知らんがアイツ、いつもやたら畏まって店に入ってくるんだよな」
「なんでそんな…」

「いつも畏まって入ってくる……。
 それってつまり、何か言いたい事とか…真剣な話があるってこと……!?」

 ムムムと顎に手を当てて、いつの間にか裕奈が話に割り込んできた。
 すると木乃香がその台詞に反応して僅かに頬を赤くする。

「そ、それって」
「もしかして―――……告白!?」

 なんでそうなる。

「で、でも誰に…って」
「そうだよまき絵、常にここにいる男の人なんて一人しかいない!
 佐倉ちゃんが告白したい相手はズバリ!ここの店長・士郎さんだーーーーーーッ!!」

 ズバーーーーーーーン!!という効果音を従えて、
 裕奈は人差し指をビシッと指して士郎を見た。
 ………士郎本人はと言えば、
 カウンターの奥で食器を拭きながら「裕奈ちゃん、また変なコト言ってるなあ」などと考えていたが。

「…確かに、士郎さんは見た目もカッコイイ方だし、優しいけど…」

「あと士郎さんってウチの卒業生らしいね。
 ウチのお父さんと仲良いみたいなんだけど、士郎さんのこと基本べた褒めしてるよ」
「へー」

 いつの時代も恋愛話コイバナは女子の好物なのか。
 少女達は実に楽しげにキャッキャッと騒ぐ………その、輪の外では。


「……………………………ほう」

「せっちゃん怖い!そのカオ怖いえ!!」

 夕凪の白刃が光を放つ。
 既に刹那の左手は野太刀の柄に指を掛け、僅かに刃を覗かせていた。



(………ど、どうしよう…桜咲さんが凄くこっちを睨んでる……)

 店の外からガラス越しに、刹那の殺気を感じ取って足を竦ませる愛衣。
 結局そのまま、彼女は今日の来店を諦めて踵を返す事になる。
 ……それが英断だったと知るのは、木乃香のみであった………。





 ◇◇◇◇◇




 人気ひとけのない中等部の図書館に、ネギの驚く声が響いた。


「えーーーーっ!?
 あの地図の中に手掛かりを見つけたんですか!?」

 それは修学旅行四日目に、西の長・詠春から受け取った麻帆良の地底地図。
 ナギは失踪する直前までこれを研究していたらしく、
 なにか手掛かりがあるかもしれないと持ち帰ってきたモノだ。

 地図にはギリシャ語の暗号で所狭しと文章が書かれており、
 ネギが毎日解読に勤しんでいたのだが……成果は中々出ない。
 そんな折、夕映が興味があると言うので貸し出していた所だったのだ。

「凄く難しい暗号だったのに…やっぱり夕映さん頭いいじゃないですか!!
 この調子で勉強も…」
「こ、この部分を見てください」

 教師モードに入ったネギから逃げるようにすぐ本題に入る。
 夕映が指差した地図の箇所に一同の視線が集中し―――。


「こ…これは!!」


“―――オ レ ノ テ ガ カ リ ♪”


 …と、カタカナで書いてあった。


(((手がかりだーーーーーーーーーーー!?)))


「あ、あれーー!?おかしいな、日本語だから見逃しちゃったのかな!?」
「………ネギ……アンタ時々すごいバカでしょ?」
「暗号ですらねーし」

 地図には「オレノテガカリ♪」の文字と共に、
 指でピースしながら憎たらしく笑うナギの顔が描いてあり…その隣には矢印が描かれている。
 地図によるとその先に、更に地下へと続く階段があるようだ。

「でも良かったじゃないネギ!」
「はい!ここ、すぐ調べに行かなきゃ―――」

「ネギ先生、その前にハッキリさせておきたいのですが」

 頭が痛いと言わんばかりの渋面をして、夕映ははしゃぐネギの言葉を遮って切り出した。

「こんなファンタジックな単語を大マジメに言うのは抵抗があるのですが……
 あの修学旅行の戦いを見せられて納得しないわけにはいきません。
 ―――ネギ先生、あなたは魔法使いですね?」


「…………。」
「………。」

 明日菜とネギは、冷や汗を浮かべながらポカンとした顔で硬直する。
 ………そして、カモは。


(…まあ、バレるわな!)

 ネギの魔法バレ、通算八人目であった。
 ……確かに夕映は、色々見ちゃってるからね!





 ◇◇◇◇◇




 ―――その翌日、祝日休みの月曜日。
 太陽も顔を見せないほど早い朝、女子寮の前では…。


「兄貴、ケガは大丈夫かよ?」
「うん。ヒドイのは見た目だけでそれほど大ケガじゃないよ。
 …やっぱり茶々丸さんには手加減されてたみたいだね」

 明日菜が配達に出かけたのを確認し、木乃香を起こさぬよう準備を終え、ネギは出発しようとしていた。
 目指す先はもちろん図書館島地下……昨日見つけた「手がかりのある階段」である。

 しかし、何故こんな早くに出かけるのか。
 ひとつは一般人の明日菜にいつまでも迷惑をかけていられないという理由。

 そしてもうひとつは―――……、夕映とのどかにバレないようにするためだった。




 ・
 ・
 ・



「なぜ魔法使いであることを秘密にしなければならないのかも気になりますが……
 今はもっと気になる事があります」

「修学旅行の出来事を見るに、エヴァンジェリンさんはかなり高位の魔法使いです。
 そしてこのかさんも魔法使い、彼女のお父様も魔法使い。
 さらに魔法使いの組織も存在するとわかりました」

「そして非常識だらけのこの学園の学園長は、このかさんのおじい様です。ならば学園長も魔法使い。
 …ということはそもそも、この学園を作ったのも魔法使いと考えれば非常に納得がいくのです」

「ううっ!?」
(スゲー…たぶん全部当たってるべ)

「そこで提案なのですがネギ先生。私達もその場所の探索に連れて行ってくれませんか?
 私達は図書館島やこの学園の秘密……あなた達魔法使いのことが知りたいのです」

「だ、だめですよ!
 修学旅行からも分かる通り、こっちの世界にはいろんな危険が―――」

「構いません先生!!」

「ダメですってーーーーーーー!!」




 ・
 ・
 ・



「流石に一般人の二人を連れていけないよ。
 アスナさんにいつも迷惑かけるわけにもいかないしね」
「よし、じゃあ行こうぜ兄貴!!」

「―――おはようございます、ネギ先生」

「「!!?」」

 こんな早朝に自分を呼ぶ、しかも非常に聞き覚えのあるその声。
 ネギとカモは慌てて後ろを振り向いた。


「ふふふ……こんなこともあろうかと…先生に動きがあったら連絡するよう…
 このかさんにお願いしておきました………(Zzz...)」
「おはよー…ございますー………(ウトウト…)」

 夕映とのどかが、ネギを追いかけるように女子寮の出入り口に立っていた。
 ウエストポーチに簡易装備を装着した二人は既に、準備万端のご様子である。
 しかし……。

「……ね、眠そう」
「起きぬけだなコリャ。それでも身支度が完璧なのはさすが女子か」
「………今のうちに行っちゃおう」

「――はっ!?待ってください先生!
 図書館のことで私達図書館探検部を出し抜こうとしてもそうはいきませんよ!!
 私達には手がかりを見つけたことの正当な報酬を受け取る権利があります!!」

「うっ! で、でも、何度も言いますけどホントに危ないんですよ!!もし何かあったら…」

「そ、それはせんせーも同じだとー……」

「ううっ!!」


(…け、けど、せっかく父さんの手掛かりがあるのにじっとしてる訳には……)


「………兄貴、諦めな。こりゃ嬢ちゃん達の熱意勝ちだぜ」
「……仕方ありません………」

 こうしてネギの方が折れ、図書館島探検へ向かうメンバーは三人+一匹と相成った。

「それじゃ、行きますよ」
「ははは、はい――…」
「こ、こうですか?」

 ネギに誘われ、夕映とのどかが恐る恐る杖に跨る。
 少年少女+オコジョは、日の出前の麻帆良の空に勢いよく舞い上がった。




『―――先生が飛んで行ったのは…図書館島の方向ですね………』


 偶然それを遠くから見つめた人物が、一人でそう呟いて。


『………また、図書館島か』
『そ、そうですね……』

 別の二人組が、呆れたように言葉を交わした。









<おまけ>
「34話、没ネタ」

木乃香
「そうやなくて。すごく今さらなんやけど、シロウがエヴァちゃん家に居候してるのって
 エヴァちゃんがシロウのご主人様やからなんやなー」

士郎
「………待つんだ木乃香。その言い方はちょっと誤解を招く恐れがある」
木乃香
「え?なんで?(きょとん)」
明日菜
「別に誤解じゃないでしょ。仮契約したってコトは…エヴァちゃんとキスしたんじゃないの?
 こんな小さな女の子がご主人さまなんでしょ?………ロリコン(ぼそっ)」
刹那
「―――士郎さんはロリコン士郎さんはロリコン士郎さんはロリコン………で、でも、
 だったら私の体型でも大丈―――いや…胸の大きさなどではなく…
 やはりエヴァンジェリンさんのような小さくて可愛らしい方が好みなのか……!?」
明日菜
「え…あれ、ちょっと刹那さん?」

刹那
「も、もしそうだとしたら…私はどうすればっ……!?」
木乃香
「大丈夫やせっちゃん!せっちゃんだって可愛いえ!!
 その気になればシロウだって一発でメロメロや!!(グッ)」
明日菜
「ちょっと落ち着けーーーっあんた達!!一発って何する気よ!?」

 暴走し始めた幼馴染みコンビに明日菜のツッコミが炸裂する。
 彼女のハリセンが直撃した刹那の後頭部は、「スパーン!!」という小気味いい音を響かせた。

エヴァ
「……“御主人様”か……うむ、実に威厳に満ちて甘美な響きだ。
 お前も妹を見習ってもう少し私を敬うべきだな。………聞いているのか士郎?」
士郎
「…違う…違うんだ……俺は決してロリコンなんかじゃないんだ……(ぶつぶつ)」

茶々丸
「あの………ネ、ネギ先生。昨夜は本当に申し訳ありませんでした」
ネギ
「そ、そんな、茶々丸さんが謝るコトないですよ。僕の方がワガママ言ったんですし」

 喫茶店アルトリアは………気づけば何だかごちゃごちゃしていた。


・人はこれをカオスと呼ぶ(たぶん)。
 だからこれは没になったのです。要するに収拾つかなかった。
 ……というのは嘘で、実はボツになった本当の理由があります(秘密)。



〜補足・解説〜

>聞こえてるぞ貴様ら
 吸血鬼の優れた聴覚によるものです。

>そうや!ネカネ・スプリングフィー
 周到なるネカネさん来日フラグ。
 ………だったら良かったのになぁ(*´ω`)遠い目

>ネギまでガバッと起き上がって訊いてくる
 身内が少ない上に、伯父は石化、父は行方不明、母は何もかもが不明。
 なので新たな親戚の可能性にちょっと期待したネギでした。
 …ギャグなのに真面目な理由付けと解説をしちゃうオレェ……。

>案外ノリノリだったそうな。
 ネカネも初めは「闇の福音」と聞いてビビっていたが、士郎がケータイの写メで送ったエヴァの画像を見てズキュンと来たらしい。

>ネギに気づきながら、彼女はそれを無視して逃げた。
 どうもネギには弱いというか、彼に対してはいつもの調子が狂う千雨。
 それを自覚しているので関わり合いになる前に逃亡しました。

>もっと同級生との楽しげな青春を送って欲しいだなんて勝手なこと
 ありがた迷惑で余計なお世話。それを解っている癖にお節介を焼くもんだからなおさら厄介。
 …でもね、巻き込まれ型青春ってのもイイもんよ?(経験者

お茶会ゲヘナ
 騒がし過ぎてうるさ過ぎて耳が痛くなり気分が滅入るようなお茶会なぞ、「地獄ゲヘナ」のルビ振っときゃ充分なのよ(経験者

>ドナドナ
 牧場から市場へ売られていくかわいそうな子牛を歌った歌のこと。
 転じてアニメや漫画などで、本人が望まない場所へ強制的に連れていかれるコミカルなシーンでこの言葉が使われたり、この言葉で揶揄したりする。

>ネギの魔法バレ、通算八人目
 3−A生徒のみカウントし、明日菜、楓、朝倉、のどか、古菲、真名、木乃香…と数えて夕映で八人目。
 刹那は学園長(や士郎)から聞いて知っていたのでノーカウント。
 同じく知っていた筈の真名は、ネギ自身が真名に事前に知られていたと今も知らず、「バレてしまった」と感じているためカウントに含めました。

>「……………………………ほう」
 普段の刹那なら、士郎に好意を寄せている(かもしれない)女性を見ても焦ったり不安になったりする程度ですが、今回は「士郎さんに告白?→ヤバイ」といった感じで一周回って何かが裏返ったww
 刹那、覚醒か――――?(笑)

>桜咲さんが凄くこっちを睨んでる
 同じ魔法生徒として時々顔を合わせる相手が何故か自分を射殺さんと睨んでくる、しかも心当たりは無し。
 愛衣、とんだとばっちりw
 そして彼女の挙動不審な行動の真相は、次回を待て!

>先生に動きがあったら連絡するようこのかさんにお願いしておきました
>『………また図書館島か』
>『そ、そうですね……』
 ザ・次話の伏線。木乃香が連絡したのは夕映だけではなかったのです。
 前回も図書館島でかなり危険な目に遭ったので、ネギ達を心配した彼女は他の誰か頼れる人にも知らせておこうと。

>おまけ
 ………「メロメロ」って、もしかして死語ですか?(恐々

>一発って何する気よ!?
木乃香
「えーとー……エッチな格好して色仕掛けとか。エヘヘ」
刹那
「………////(ぷしゅー)」 ←木乃香以上に過激な事を考えてた

>刹那の後頭部は、「スパーン!!」という小気味いい音を響かせた。
 せ、せっちゃんが可愛過ぎていじめたく(ry



【USO予告】


 この世界に乱立する無数の剣は、言うまでもなく墓標のようだ。
 得てしてその認識は、正しい。

 それは潰えた理想の欠片。
 飽くなき道へと踏み出して、しかし伸ばした手は届かなかった。

 それは無様で、どうしようもなく滑稽で、
 ―――同時に何処までも崇高な、先駆者たちの魂の結晶が此処にある。

 死してなお滅びない、滅ぶ事など有り得ない―――誇り高きその墓標!
 たった一つの妄執如き、無限の理想ユメで打倒できない筈が無い――――!!


「“無限の剣製アンリミテッドブレイドワークス”。貴様はこの、無限の剣が相手をしよう。
 ――――ついてこれるか?」

「それはこっちの台詞よ弓兵アーチャー
 私のステージはどんな時でも最高潮クライマックス、始まる前からトップスピード!
 精々リズムに乗り遅れないコトね!!」


 次回、「ネギま!―剣製の凱歌―」
 第35話 21世紀の日本に竜なんているワケない


 …あ、すいません。雑竜種デミドラゴンはお呼びじゃないんでお引き取りを。

「えっ、何よソレ!?嘘でしょう!?
 Fateでドラゴンって言ったら今をときめくこの私、アイドルのサーヴァントことエリザ…」

 それでは次回!

「待ちなさいよぉ!!」

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■作者からのメッセージ
 前回の次回予告と異なる更新となってしまいましたが、どうかご容赦を。

 誤字脱字・タグの文字化け・設定や内容の矛盾等、お気づきの点がありましたら感想にてお知らせください。
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