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ネギま!―剣製の凱歌― 第二章-第28話 京都決戦・伍 無限の剣製
作者:佐藤C   2013/02/23(土) 22:48公開   ID:J6OYEg/D/Q2



 詠唱が進むにつれ、鬼神の氷像がひび割れていく。
 走る亀裂の拡がりに比例し、野望を砕かれんとしている天ヶ崎千草の絶望が増大する。
 だが、彼女に為す術はない。
 醜く喚き、取り乱し、ただただ、悲鳴を上げるしかない―――。


「な、あ…なぁああああああああっ!!」



――――『おわるせかいコズミケー・カタストロフェー……砕けろ」



 砕け散る青。崩れゆく欠片の蒼氷。
 氷漬けの大鬼神は―――その巨体が崩壊するにしては、呆気ないほど。
 美しく澄んだ氷の割れる音だけを上げて、バラバラになった肢体を湖に沈めていった。




 ――――その湖を挟んだ対岸、山中の森。
 衛宮士郎が真名しんめいを口にすれば、何もかもが砕け、あらゆるものが再生した。



           体は剣で出来ている
  「――――I am the bone of my sword」

            血潮は鉄で、心は硝子
  「―――Steel is my body, and fire is my blood」

          幾たびの戦場を越えて不敗。
  「―――I have created over a thousand blades.
          ただ一度の敗走もなく、
           Unaware of loss.
          ただ一度の勝利もなし
           Nor aware of gain」

           担い手はここに孤り。
  「―――With stood pain to create weapons.
          剣の丘で鉄を鍛つ
        waiting for one's arrival」

        ならば、我が生涯に意味は不要ず
  「――I have no regrets. This is the only path」


          この体は、無限の剣で出来ていた
  「―――My whole life was “unlimited blade works”」




 士郎を中心に走り出した二つの炎が、正反対に弧を描いて山林の中を駆け巡る。
 それは天高く燃え上がると、そびえ立った炎の壁が境界線として機能した。
 炎が描いた真円の内側は、外とは異なる異界常識―――『衛宮士郎』だけのルールが支配する空間と化す。

 三日月が嗤う夜空の下。
 闇に眠りそびえる山峰。
 深い緑が茂る森林――――それら全てが、赤い荒野に書き換えられた。

 ―――炎の壁の内側は。

 あかく燃える黄昏の空。
 無数の剣が乱立する荒野、剣の丘に変化した。

 『固有結界リアリティ・マーブル』。
 術者の内に在る心象世界を術者の外に置くという、世界図をめくり返す大禁呪―――。


「………成程。これは驚嘆に値する」


 幻術による幻想空間でも、アーティファクトによる異界形成でもない。
 入念な準備が必要な魔法儀式でもない―――僅か十小節の瞬間契約テンカウントで実現した個人独力による異界浸食。
 眼に映る常識外れの光景に、フェイトはやっと言葉を吐き出した。

 眼前に広がる荒涼とした世界。
 生き物の姿は影すら見えず、突き立つ無数の剣はまるで墓標。

 それが衛宮士郎の固有結界、『無限の剣製アンリミテッドブレイドワークス』。
 この結界はあらゆる剣を構成する要素で満ちている。
 直視しただけで剣を複製し貯蔵するこの世界に、存在しない剣など無い。
 伝説にを刻む魔剣、聖剣、霊剣、宝剣…それらを士郎は己の武器として扱えるのだ。

 これが衛宮士郎の切り札。
 己の心象こころを形にした、唯一無二の無限のちから――――!!


「驚くことはない。恐れる必要もない。これは全て贋作だからな。
 とはいえ、いずれも決して真作ホンモノには劣らないと保証しよう。
 まあ、要するにだ」


 士郎が両手を伸ばす。
 深く地に刺さった剣は、担い手と認めるように容易く抜けた。

 ―――アデアット。
 士郎の懐で仮契約パクティオーカードが輝くと、彼の服装が黒尽くめのブーツ、ズボン、タートルネックに、赤いジャケットを纏う姿に変化する。

 ―――抜いた二刀を握り締め、衛宮士郎は咆哮した。



「ご覧の通り、お前が挑むのは無限の剣。剣戟の極地!
 恐れずしてかかってこい!!」










     第28話 京都決戦・伍 無限の剣製アンリミテッドブレイドワークス









“―――石の斧剣クシフォス・ツェクリ・ペトラス

 フェイトが呪文を唱えると、白い石剣が地面からせり出した。
 彼の身の丈に倍する尺に、岩から削りだしたかのように重厚で武骨な大剣。
 駆け出した士郎を視界に収め、フェイトは即座に石剣を手に取った。
 それが、無駄な行為と知らずに。

「!!」

 士郎を迎え撃つ形で振り下ろされた、重厚なる石器の斧剣。
 それがまるで―――発泡スチロールのように呆気なく、士郎が斬り上げた右手の剣に切断された。

 ―――剣の名を『デュランダル』、決して刃毀れしない“絶世の銘剣”だと―――この時のフェイトが知る筈もない。


(…流れが向こうに傾いている)

 真っ二つになった石剣を手放しフェイトは即座に後退する。
 逆に士郎は更に踏み出し加速した。
 ―――ペースはこちらだ。逃がしはしない、このまま一気に畳みかける―――!


石化の邪眼カコン・オンマ・ペトローセオース!!」

「フンッ!!」

 バチィッ!!

 石化効果を持つ光線をフェイトが右手人差し指から放つが、士郎は左手の西洋剣で難なく弾き逸らした。


 ――ビシペキパキッ…!


 魔力を持たない左の剣は呆気なく石化する。
 硬度は低下し、握りと重さの変化により取り回しも悪化して、通常ならば戦力低下は免れない。
 だが、ここには無限の剣が存在る。
 一瞥したのち石化した剣を放り捨て、傍に突き立つ新たな剣を抜き取って代わりとした。

 一連の動作を経てなお、荒野を駆ける士郎の速度が落ちることはない。
 離れたいフェイトの思惑と裏腹に、彼と士郎の間の距離は明らかに縮まっていた。


(これは……)


石の槍ドリュ・ペトラス!!」

 フェイトの足元から出現した、十に及ぶ石の鏃が士郎に向けて発射される……が、無意味。


「ぉおおおおおおッッ!!」

「……!」

 眼前を通過した暴風に、フェイトは目を見開いた。

 デュランダルを捨てた士郎の右手に一瞬にして現れた長物。
 彼が力任せにそれを振り回すと、その一振りで『石の槍』は全て弾き飛ばされた。
 その暴虐を現したのは、朱と金の彩りを持つポールウェポン“方天画戟”―――呂布奉先が宝具『軍神五兵ゴッドフォース』……!!

「アーウェルンクス!!」

「――そう簡単にはいかないよ」


 ドッ――――!!


 フェイトの手前数メートルまで迫った士郎の行く手を、二人の間に流れ込んできた流砂の壁が突如阻んだ。

 流動する高密度の“砂”の壁を、剣や槍で貫くことは不可能だ。
 高速高密度の砂塵攻撃と砂壁による防御を同時に行う、攻防一体の万能呪文――……!


撃流黄砂陣アンモス・キマトン・エピクラテイア

 フェイトを守る盾に甘んじていた砂は次第に、さらに高速で流動し始め士郎を襲う槍と化す。

「邪魔だ!!」

 砂が無数の槍を形作るのを目にすると、士郎は迷わずゴッドフォースを前方に投擲した。


“――――壊れた幻想ブロークン・ファンタズム


 ドガァアンッッ!!


「なに……ッ!?」

 予想だにせずフェイトを襲った轟音と爆発。
 その正体こそ『壊れた幻想』。
 膨大な魔力を宿す概念武装、『宝具』を破壊することで魔力爆弾のように扱う荒業だ。
 方天画戟は砂に衝突したと同時、その身に宿す魔力を炸裂させて崩壊した。

 爆風により砂の津波は四方に雲散霧消する。
 舞い上がった砂塵と土煙が視界を塞ぎ、フェイトと士郎は互いの姿を見失った。

 この隙に呪文を詠唱しようとしたフェイトだったが、それに水を差す音が彼の行動を鈍らせた。


 ――ボフッ!!


 何かが爆煙から飛び出す音に、フェイトは視線を巡らせる。

 ―――見つけたのは、爆心地を避け迂回するように荒野を駆ける、赤い疾風かぜ
 “彼”は途中・・の剣を抜き取り、瞬きする間にフェイトの左方から迫り来る……!


(これは――手数・・が違う…!)


 肉薄する士郎を見て、フェイトはようやくそれを悟った。
 先ほどから感じていた違和感。
 この展開は初めから…士郎が固有結界このわざを使った時から決まっていた結果なのだと。


 フェイトは西洋魔術師――魔法使いでありながら、従者を必要としないほどの高い戦闘力を誇る。
 それは彼が高速移動術「瞬動」を使いこなし、また魔法障壁を何十何百もの高密度に張り巡らせていることによる。
 瞬動で攻撃を回避し、もし受けても障壁でほぼ完全にダメージを無効化する。
 その間に悠々と、魔法使いの特性である「超火力」の一撃を見舞うのだ。

 だが…それは。
 回避しきれぬほどの連続攻撃と、障壁の防御性能を超える攻撃力の前には何の意味も成さない。
 そしてそれは今この時、フェイト・アーウェルンクスの前で確かに存在していた。


(衛宮士郎……!!)


 物質化した奇蹟、『宝具ノウブル・ファンタズム』。
 超密度の魔力の塊である伝説の武具達は、フェイトの魔法障壁を容易に粉砕する。
 そしてこの赤い荒野には、尽きることなき攻撃と化す無限の剣で満ちていた。


 障壁を貫通しかねない剣を前にして魔法障壁を当てには出来ず、回避に専念するしかない。
 それでも必殺の一撃を繰り出すため、
 フェイトは小手調べの呪文で時間を稼ごうとするが…そこでも無限の剣が彼の目論見を阻んでいた。


 ――――手数が違う。
 フェイトが繰り出す攻撃は、その都度にことごとく士郎の剣に潰される。
 無限の武器を持つ士郎を相手に、
 フェイトは戦闘開始一分に満たない時間でジリ貧に追い込まれていた。


 ―――ドッ!!


 稲妻の如き一閃によりフェイトの左腕が宙を舞う。
 振るわれた白銀の剣は、虹霓剣カラドボルグ。

 ―――二人の距離は、既にゼロになっていた。


 フェイトの体がそのまま後ろに倒れるように傾いていく。
 自分を呆然と見上げてくる白髪の少年を、士郎は感情の無い顔で見下ろした。

 そんなフェイトに覆いかぶさる様にして、
 士郎は黒い剣―――決して失敗する事の無い剣―――フルンディングを逆手に握り、
 切っ先を彼に向けて突き刺すように振り下ろす。


 細身の黒剣はフェイトの体を易々と貫通し、音をたてて赤い大地に突き刺さった。





 ◇◇◇◇◇



 松明で煌々と照らされる湖の祭壇に、
 年端もいかない少年少女達が顔を突き合わせるように人だかりを作っている。
 その中心には、蒼い顔をして滝の様に汗を流す少年―――ネギが、緑髪の少女の腕に抱かれてぐったりと横たわっていた。

「どうだ茶々丸」

「………危険な状態です」

 診断を終えた茶々丸の言葉に、一同は息を呑んだ。

「ネギ先生の対魔力が高すぎるために、石化スピードが非常に遅いのです。
 このままでは首部分が石化した時点で………窒息死してしまいます」

「…ど、どーにかなんないのエヴァちゃん!!」

「わ、私は治癒系の魔法は苦手なんだよ、不死身だから」

「そんな…!」

「明日来るっていう応援部隊なら治せるだろうが……それじゃ到底間に合わねえ……!」

「おいネギっ!おい!!しっかりせえっ!!」

 避けられない死が迫っているという点で、今のネギは危篤と言っていい。
 そんな彼の現状に狼狽し、周囲の者達は隠しようのない焦りに支配されていた。


「………お嬢様」
「うん」

 そんな中、刹那が神妙な顔をして木乃香を見る。
 木乃香は親友の意図を理解し、こくりと頷いて前に出た。


「…あんな、アスナ……。ウチ、ネギ君にチューしてもええ?」


『……………は?』

 一同の頭の上に、一様にして疑問符が浮上した。


「な、何言ってんのよこのか、こんな時にっ!」

「あわわ、ちゃうちゃう!あのホラ…ぱ、ぱ…パクテオーとかいうやつ」

「え?」

「あっ……!」

 思わず声を出したカモに、周囲の視線が集中した。

 彼が思い出したのは、シネマ村で木乃香がやってのけた「石化の完全解呪」だ。
 “仮契約パクティオーには、契約を結んだ人物の潜在能力を引き出す効果がある”―――。


「………いけるかもしれねえ!!」





 ◇◇◇◇◇



 士郎は黒い剣―――フルンディングを逆手に握り、切っ先を彼に突き刺すように振り下ろす。

 黒剣はフェイトの体を易々と貫通し、音をたてて赤い大地に突き刺さった。


 ―――ドズッ……!


「…!」


(この手応えは―――)


「幻影か!!」


 パシャンッ…!


 気づくと同時、フェイトの幻は水へと変じて赤い大地に飛散した。



「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト――――」


 弾かれるように士郎が顔を上げる。
 剣の丘に沈む夕焼けの空の中―――十数メートルほど上空で、
 隻腕となった白髪の少年が口を動かしながら士郎を見下ろしていた。


 ―――現れたのは無限連環。
 光沢を持つ長さ2mほどの黒い杭が、フェイトの周囲の空域を満たすようにして密集する。
 それらは正円を描く形で連なり、幾重にも列を成し。
 無数の黒杭がみな一様にして、鋭利な切っ先を士郎に向けて静止していた。



万象貫く黒杭の円環キルクルス・ピーロールム・ニグロールム!!”



 瞬間、無数の黒杭が閃光の如く走りだす。
 目指す先はただ一点。
 飛来する黒い凶器が士郎に向けて殺到する――――!


「無駄だ!熾天覆うロー―――――――七つの円環アイアス!!」


 戦場に咲く紅い花弁。七枚羽の絶対防御。
 血の色をした七枚の盾が士郎とフェイトの間を隔て、飛来する黒い鏃の悉くを防ぎきる――――!


 ――――ガキギキキキキキッバギンッ!ガギッ!!バキキキギキギギガギギギギギギンンッッ!!

 ―――――――ギュオッ!!


 空気を捩じる不協和音。
 士郎が視線をズラすとそこには、旋回して盾の背後から背中を狙う黒杭の群れ……!!


「…無駄だと言っている…!全投影連続層写ソードバレルフルオープン―――――――――――――――――――!!!


 ――相殺。
 ―――相殺、相殺。相殺。
 ――――相殺、相殺、相殺、相殺。相殺相殺相殺相殺相殺相殺相殺相殺相殺相殺相殺―――――………!!


 士郎が掌を背後に翳せば、周囲に突き立つ無数の剣が一斉に宙に引き抜かれる。
 それらは主に害為す存在に剣先を向け、弾かれるように射出されて全ての黒杭を打ち砕いた。

 ここは『無限の剣製アンリミテッドブレイドワークス』。故に。
 武器を投影する必要も呼び出す必要も全く無い。
 何故なら剣は始めから、この世界のあらゆる場所に存在しているのだから……!


「…がッ!?」


 ―――ビシベキペキバキッ……!


 突然、士郎が呻きを上げると…彼の腕が石化を始めた。
 その左腕には『万象貫く黒杭の円環』を縮小した形の、小さな白い針が刺さっていた。

(っこの…!)

破戒すべきルール全ての符ブレイカー!!」


 パキィンッ!!


 歪んだナイフを腕に突き刺して石化を解呪し、士郎は慌ててフェイトに視線を戻す。
 …しかし既に、彼はそこにはいなかった。



 ―――彼の眼下には広大な赤い荒野が広がり、そこに乱立する無限の剣が墓標の如く立ち並ぶ。

 現在、フェイトが飛行するのは高度およそ300m。
 そして見下ろす景色の中には……自分を見上げる男の小さな姿が微かに見えた。


「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト。
 おお地の底に眠る死者の宮殿よオー・タルタローイ・ケイメノン・バシレイオン・ネクローン……我らの下に姿を現せファインサストー・ヘーミン…!」

 ……無傷で隙が作れないなら、負傷ダメージ覚悟で時間を稼げばいい。
 それがフェイトの結論であり、
 実際彼は左腕を犠牲にして士郎を錯覚に陥れ―――遂に、流れを自分に引き寄せた。



冥府の石柱ホ・モノリートス・キオーン・トゥ・ハイドゥ



 ―――圧巻だった。
 超高層ビルに匹敵するほど巨大な石柱が、六本。同時に空から降り注ぐ。
 その圧倒的で重厚な質量。
 夕陽の朱色に照らされた石灰色の巨きな影は、この剣の丘すべてを覆いかねないと思わせるほど。

 至大の脅威。強大無比な暴威。抗う術の無い暴虐。
 “それ”が発散する絶望感と威圧感を何と表現すればいいのか……士郎には分からなかった。


「今までのお返しといかせてもらうよ。
 凌げるかな、『千のつるぎ』――――往け!!」


 『冥府の石柱』。
 それは対魔法・対物魔法障壁どちらで以ても防御不可能という、破格の広範囲潰滅呪文。
 フェイトが命令を下した瞬間、大質量の暴力は落下速度を加速的に増大させる――――!


「…全く、とんだお返しだな」


 ………迫る六つの影を見上げ、士郎は静かに口元を吊り上げた。


「悪いが粗品は返却させてもらおうか。
 ――戦況ペースをこちらに引き戻す。そう簡単に、流れを持ってかれちゃ困るんだよ――――!」


「カラダ・ハ・ツルギ・デ・デキテイル。契約に従い我に従え鉄匠の王ト・シュンボライオン・ディアーコネートー・モイ・へー・シディロルゴー・バシレウス
  来れ千千の剣を鍛えし錬鉄の炎エピゲネーテ―トー・フローゴス・カタスケヤーズメノー・キーリエス・クシフォス万象模造せよ夢幻の鞴エパナーリプティケース・ティン・メガーリ・オフサルマパティ!!」




無銘の剣匠エグコスミア・シディロルゴース―――――――偽・ΨΕΥΤΙΚΟ ・ 冥府ノ石柱Ο ΜΟΝΟΛΙΘΟΣ ΚΙΩΝ ΤΟΥ ΑΙΔΟΥ!!”




 ―――――ド…ゴシャァアアッ………!!!



「……な…」


 フェイトが喚び出した『冥府の石柱』に、士郎が複製トレースした『冥府の石柱』が衝突する。
 …激突。粉砕、破砕、破壊。
 計十二の石柱は黄昏を背景にして次々と、見る間に原型かたちを失って崩壊していく。


(何だ今のは――今の『冥府の石柱』…アレは、
 あの術式は僕の使うものと酷似している……いや全く同じ…!?)


 呆気にとられる彼はまだ、気づかない。

 虚空瞬動で空を蹴る。
 崩壊する石柱を足場に駆け上がり、風より迅く疾走する姿はさながら流星。
 石の王に再び肉薄せんとして、双剣を握る剣戟の王が朱い空をひた走る――――!!


「――鶴翼二連、遊んでこい…!」

「!!」


 両手を真横に大きく振り、士郎は両手の干将・莫耶をあらぬ方向に投擲する。
 その意味をフェイトが理解するより前に、彼は生き残った石柱を蹴って高く跳躍した。


        我が骨子は捻じれ狂う。
“――――I am the bone of my sword.”



 士郎の手に黒い洋弓が現れる。
 の弓に番えられたのは、螺旋を描いて捻じれた歪な…白銀の……!


「忠告をくれてやる。この“矢”は精々躱しておけ」


 言われるまでもない。
 捻じれた剣矢が発散する、沸騰しそうな力の滾り。暴発しかねないほど渦巻く魔力。
 そんなものを向けられているというだけで、フェイトの体に走る悪寒は止まらない…!

 石柱の上に立つフェイトが、
 矢を躱すため跳び上がろうとしたその瞬間とき


「――!」

 白と黒、鶴翼の刃が牙を剥く。
 互いに引き合う性質を持つ夫婦めおと剣は旋回して弧を描き、廻る刃でフェイトを挟撃する!!


 ――バキギンッ!!


 …宝具としてランクの高くない双剣は、魔法障壁を数十枚砕いただけで弾かれる。
 顔の横まで両腕を上げてガードの姿勢をとっていたフェイトは直後。

 ――…質量を伴った、生物を殺せる殺気に全身を刺し貫かれた。


“―――――『偽・螺旋剣カラドボルグU』ッ!!!”



 ――――ドギュア゛ッ!!!


 双剣は足止めと気づいていてなお、逃れる猶予など彼には残っていなかった。
 反射的に半身を反らし、文字通り紙一重のタイミングで“矢”の軌道から体をずらす……!


 ―――ゴシャァアンッ!!


 大気を軋るノイズが奔り、銀の矢は足場の石柱を呆気なく貫通して半壊させる。
 空気の壁など無いが如く。音の領域を容易く越えて。
 穿つ剣矢は空間を捻じ切りながら、フェイトの体を掠っていった。


 ―――ビリビリビリビリビリビリビリビリ………ッ!!


「っぐ……ぅ………っ!!」


 …呻きを上げるフェイトだが、その実ダメージは皆無である。
 空間そのものを抉る強烈な一撃であったとしても、彼を襲う衝撃波はあくまでその余波に過ぎない。
 魔法障壁で充分無効化できる―――。



「―――――――――――来たれ」


 頭上から射す剣光。身に降り注ぐ至大の魔力。
 背筋に走る死神を、フェイト・アーウェルンクスは確かに見た。

 振りかざされるは王権と騎士道を顕す選定のつるぎ
 放つ煌めきと纏う光は、混じり気のない真なる黄金――――!




「――――“勝利すべき黄金の剣カリバーン”―――――――!!!」



 吹き荒ぶ衝撃波で身動きがとれないフェイトに、
 士郎は真名解放した輝く剣を振り下ろした。

 黄金の斬撃はフェイトを『冥府の石柱』に叩きつけ、それでも勢いは留まる所を知らず。
 石柱を粉砕しながら貫通して数秒後、フェイトは300m下の荒野に落下して激突した。





 ◇◇◇◇◇




 カモが敷いた魔方陣の上で力なく横たわるネギに、木乃香が近寄って膝を折る。
 彼女はネギの体をそっと抱いて…そのまま彼の顔に自分の顔を近づけた。

「ネギ君、しっかり………」

 そう言って木乃香は、二人の唇をそっと重ねた。


カモ(…仮契約カードGET!)


 二人を中心に奔った光が周囲を白く塗り潰し、明日菜達は思わず目を瞑る。
 視界を奪う鋭い閃光はしかし同時に……柔らかな温かさで全員の心を落ち着かせた。


 ―――従者の称号〈癒しなす姫君REGINA MEDICANS〉……『近衛木乃香』。
 仮契約を終えた彼女はその装いを一変させていた。

 身に纏うのは白を基調とした公家の狩衣。
 その周囲に現れたのは二種の扇―――治癒と解呪のアーティファクト。

 そんな彼女の腕の中で、……ネギがゆっくりと意識を浮上させた。


「………このか…さん?」


 湧き上がった歓声に、目覚めたネギは目を白黒させた。









<おまけ>
「お義父さんとは呼ばせねえ」

 歓声が湧いた理由を知る筈もなく、目覚めたばかりのネギは困惑している。
 そんな彼と、彼を腕に抱く木乃香を見て、遠目で事態を窺っていた詠春はほっとした表情を浮かべた。

詠春
「どうやら、上手くいったようですね」
茶々丸
「はい…よかった。ネギ先生……」

 詠春の左腕に包帯を巻く茶々丸も、微笑みながら安堵してそう漏らす。
 ネギの回復を喜んで彼の周囲に集まる少女達を見やり……詠春は昔を思い出して目を細めた。

詠春
(……フフ、まるでナギですね。案外あの人望は彼譲りかもしれません。
 しかしまさかネギ君……ナギの息子と私の娘が仮契約を交わす日が来るとは。
 子供の成長とは早いものだ……)

 ―――ただし。

詠春
「………確かに『このかを頼む』とは言いましたが…。
 言ってから一日経たないうちにキスは早過ぎるんじゃないですかねぇ……」

茶々丸
「……木乃香さんのお父様。血圧と心拍数が上がっています。
 理由は何となく察しましたが落ち着いてください。傷に障ります」

 不穏な空気を発し始めた詠春を、彼の傷口の包帯をきつく縛ることで茶々丸は制止した。


・えーしゅん、親バカを発揮するの巻。


〜補足・解説〜

Q、今回、士郎はたくさん宝具を使ってたけど、どうしてゲイボルクは使わないの?
A、だってアレ必殺じゃん。使ったらフェイト死ぬじゃん。
 アイツ心臓はないけど『核』はあるので、そこに刺さると思われるためアウトです。
 真名解放しないなら再生阻害…治りにくい傷を与える呪いの槍に過ぎませんが、それでも充分厄介だとFateで描写されていますけどね。

Q、結局、士郎の方がフェイトより強いの?
A、士郎の方が地力で劣ります。まだフェイトの方が数段上。
 今回フェイトが負けた理由を説明するなら「初めて見た士郎の能力(無限の剣製)に対応しきれず後手に回っているうちに負けてしまった」という感じ。
 ただし士郎はそれを狙って仕掛けたので、彼の作戦勝ちというか、原作ギル戦のような勢い勝ちです。
 しかし今回で手の内を晒してしまったため、次に戦う時はせいぜい互角か、士郎の負けになるでしょう。


>『おわるせかい』……砕けろ
>体は剣で出来ている
 時系列的に、この二つはほぼ同じ時間の出来事だという表現です。

>懐の仮契約カードが輝いた。
 アデアットしておくと僅かながら防御力が上昇するという特性(公式設定)を利用するため。
 ただし士郎のアーティファクトはこの時点で発動条件を満たしていないので、カードはAFに変化しないまま服装が変化するだけです。

>「ご覧の通り、貴様が挑むのは無限の剣。剣戟の極地!恐れずしてかかってこい!!」
 「Fate/stay night」アニメ版より、アーチャーの言。
 どうしてあの人はこんなにかっこいいセリフを吐いちゃうのか。

>恐れずしてかかってこい!!
>駆け出す士郎
 かかってこいと言った直後に自分から仕掛けてる点はスルーしてください(何
 だって仕方ないじゃない…『無限の剣製』は「内包する武器を効果的に運用しなければ切り札になり得ない」程度の性能なんだから……。積極的に自分のペースに持ち込まなきゃ勝てないのでござんす。
 まあ上記の話はサーヴァントや英霊相手の話であって、人間の魔術師相手なら圧倒できるとされておりますが。

『石の斧剣』‐〈クシフォス・ツェクリ・ペトラス〉
 ギリシャ語で「石の斧の剣」の意。
 原作でネギの『断罪の剣』と打ち合った、フェイトの身長の二倍近い長さの石剣。
 岩石を削って作ったかのような武骨な刀身の内部に細い棒のような柄が埋め込まれており、そこだけが人工物であるかのような異物感を放っている。
 作中で名称が明らかにされていないため、便宜上の名前としてオリジナルで命名した。

>『撃流黄砂陣』‐〈アンモス・キマトン・エピクラテイア〉
 ギリシャ語で「砂浪の領域」の意。直訳は「砂の波の領土」。
 原作でフェイトが用いる、高速高密度の砂塵攻撃と砂壁による防御を同時に行う攻防一体の魔法。
 前述した『石の斧剣』と同じ理由で独自に命名し、作者的には『千刃黒曜剣』と同系統のネーミングを目指したつもり。
 没案は『砂塵の激流』、『走る白亜の砂塵流』など。
 なお、原作でもこの防御は突破され、月詠に左腕をちょん斬られている。

>“壊れた幻想”
 宝具を真名解放して防御を突破するより、こちらの方が手っ取り早く砂の防御を突破できると考えて使用した。

>自分を呆然と見上げてくる白髪の少年
 この描写は、二人に身長差があるために起こった現象です。
 どちらかが飛んでいる、跳んでいるなどのシーンではないので注意。

>決して失敗する事の無い剣―――フルンディング
「長い柄を持ち、刀身は血を啜るごとに堅固となる。
 その剣は強い力を宿しており、それを使って失敗する事がなかったという」(出典:Wikipedia)
 この「絶対に失敗しない」能力が、矢として放った時に「絶対に外れない=当たるという結果を出すまで追い続ける」という解釈になったのかなと。
 ※追記:『Fate/Grand Order』において「敵を追跡する」能力があると判明した。

>血の色をした七枚の盾
 実際、そこまで鮮やかな赤ではない…というか若干ピンクも混ざってるように見える赤色ですが、こういう表現の方が格好良いのですよね。そんな理由かよ。

>周囲に突き立つ無数の剣が一斉に宙に引き抜かれる。
 この描写から考えれば、この時の技名は「全投影連続層写」ではなく「ブレイドダンス」か「アンリミテッドブレイドダンス」、もしくはこの小説のオリ設定から「剣林弾雨」と書くのが正しいと思われますが、それでもやっぱり「ソードバレルフルオープン!」って言わせる方がカッコイイですよね!

>悪いが粗品は返却させてもらおうか
 元ネタはFate/EXTRA、アーチャーズの会話。
緑茶「いざ別れるとなると泣けてくるなぁ。こいつは餞別だ。涙の数だけ弓を射てやるよ!」
紅茶「結構、粗品はすべて返却させていただこう」

>ΨΕΥΤΙΚΟ・Ο ΜΟΝΟΛΙΘΟΣ ΚΙΩΝ ΤΟΥ ΑΙΔΟΥ
 カタカナで書くと「プセゥティコ・ホ・モノリートス・キオーン・トゥ・ハイドゥ」。
 ΨΕΥΤΙΚΟは「偽物」「偽造」「模倣」といった意味。
 『冥府の石柱』に相当するするギリシャ語のスペルは原作単行本の巻末解説より引用しています。

>鶴翼二連
 Fate格闘ゲームの技。
 干将・莫耶を投擲し、その性質で敵を挟み込むように攻撃する。

>魔法障壁を数十枚砕いただけ
 これは「充分すげえよ!」とツッコむ所。普通の魔法使いなら涙目w
 ランクC−だろうと干将・莫耶は仮にも宝具、ノウブル・ファンタズムは伊達じゃない!
(そもそも『無限の剣製』の性質上、マイナス補正があってのC−である)

>彼を襲う衝撃波はあくまでその余波
 宝具そのものは確かにフェイトにとって脅威だが、それから生じる衝撃などの余波はそうでもない。
 Fate原作のキャス子さん涙目である。ネギま!の魔法が高性能過ぎるのがアカンのや……曼荼羅のような多重高密度の積層魔法障壁ってどんだけー。

>―――来たれ
 “無限の剣製”展開中とはいえ場所が上空なので、喚び出す必要が生じていました。
 いえ、設定上は「展開中は即座に剣を喚び出せる」とされていますが、「無限の剣製で空中戦した場合は?」なんて想像できなかったので(笑)

>背筋に走る死神を、フェイト・アーウェルンクスは確かに見た
 Fate/stay nightより引用。ギルガメッシュが戦慄した描写から。

>公家の狩衣
 詠春の初登場時も書きましたが、狩衣とは公家…平安貴族達が着ていた普段着です。
 今回の木乃香は、内側の着物が赤、袴は紺や藍に近い色遣いで、その上に白い狩衣を重ねています。

>詠春の左腕に包帯を巻く
 彼の腕の治療については次話で語られます。

>傷口の包帯をきつく縛る
 痛い痛い痛い!!!www
 おまけ(ギャグ)でなければ冗談じゃすまない展開ですよ茶々丸さん!w



【次回予告】


 『魔法世界ムンドゥス・マギクス』。
 数千年に渡って存在すると言われる、総人口十二億の幻想世界。
 約百年前、迷信としか思われていなかったこの世界は、「ゲート」を通じて地球と繋がった。

「魔法世界は〈始まりの魔法使い〉と呼ばれる神によって創造された…そう言い伝えられている。
 事実だ。かつてこの地球…旧世界を追われた一人の魔法使いが魔法世界を創造した」

「人が作った物には必ず限界がくる。
 〈始まりの魔法使い〉が神と崇められるほど強大な術者であろうと、それは変わらなかった。
 魔法世界ムンドゥス・マギクスは今、こうしている間にも…避けようのない滅びの運命みちを歩いている」

「絶望は何時だって、解り易いくらい堂々と目の前に広がっている。
 けれど同じように、希望も必ず何処かに転がっているものなんだ。
 たとえどれだけ小さくとも……どれほど微かな光であっても」

「もう一度言う。希望は『ある』。僕らはそれを知っている。
 僕たち「完全なる世界コズモ・エンテレケイア」は、魔法世界を救うすべを知っているのさ」

「何とかしたい。どうにかしたい。
 人々を、彼らを救いたいと思うなら……あなたは僕らの同志に成り得るよ、衛宮士郎」


 次回、ネギま!―剣製の凱歌―
 「第29話 京都決戦・陸 凱歌を鳴らせ」


「僕は貴方を、〈完全なる世界コズモ・エンテレケイア〉に歓迎する」


 それでは次回!


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