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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第42話:とある侍の愛憎譚=その9・再起ルート=
作者:蓬莱   2014/01/14(火) 22:47公開   ID:.dsW6wyhJEM
一方、時臣達は、船内に残ったサイボーグ兵を全滅させたバグ達の襲撃を凌ぎながら、アサシンの案内で、凛達を乗せたビグ・ラングのいる貨物船の甲板を目指していた。

「…まったく、どれだけ用意してあるのよ、このガラクタ」
「拙者たちがいくら倒しても、倒しても、何度も襲ってくる御座るからな…」

その途中、数十回目に及ぶ襲撃を仕掛けてきたバグ達を返り討ちにしたランサーは、蹴散らしたバグの残骸を苛立たしげに踏みつぶしながらぼやいた。
そのランサーのボヤキに対し、二代は、あまりにも執拗なまでのバグ達の襲撃を思い返して頷くように同意した。
実際、船内のバグ達は、船内の僅かな隙間に入り込んだ後、時臣達がそこを通りがかった瞬間に一斉に襲撃を仕掛けるというパターンを繰り返していた。
一応、バグ自体の強さはそれほどまではなくとも、繰り返し何度も、どのタイミングで仕掛けてくるか分からない為に、時臣達にとっては、肉体的よりも精神的な負担が遥かに大きかった。

『ひとまず、船の外から出ない事にはどうにもならねぇ…とはいえ、外も外でヤバい事になっているけどな』
「仕方がない事とはいえ、まさか、既に凛達が船外に出ているとはな」
「このままでは、我々の方が救援される側になりかねないぞ…む、ここは!?」

そして、これ以上の消耗を避けたい時臣達にとって、アサシンの言うように、バグ達の巣窟と化した船内から一刻も早く脱出する必要があった。
もっとも、船外も同様にバグの脅威にさらされており、この周囲一帯の全てがバグ達の蹂躙されていたのだが。
てっきり、船内に凛が残っていると思い込んでいた時臣としては、ここにきて痛恨のうっかりスキルを発揮してしまった事に苦く噛みしめるしかなかった。
そして、ケイネスの脳裏に二重遭難という最悪の展開が過ぎり始めた頃、ようやく、アサシンの目指していた脱出口へと辿り着いた。

『とりあえず、船内から脱出するには一番の最短ルートには違いないはずだ』
「なるほど…確かにここからならば…!!」
「それに、この高さなら、拙者たちがマスター達を担いで行けば、何とか…」

そこには、アサシンの言葉通り、もっとも最短距離で船外に出られる脱出ルートが―――ビグ・ラングが船外へ飛び出した際に、甲板までぶち破られた大きな穴が有った。
ここに辿り着いた時、時臣は、アサシンが何故、元来たルートではなく、逆に出口から遠ざかっている船倉に進んでいたのかを理解した。
二代の言うようにサーヴァントであるランサーや二代ならば、この程度の高さを登る事ぐらい容易い事である。
それに加えて、狭い通路だらけの船内と比べ、これほどの大きな脱出路ならば、ランサーの宝具である“騎士団”を護衛として大勢召喚でき、バグの襲撃を簡単に凌げるというメリットもあった。
本来、人は、このような状況下では最短距離での脱出ルートを試みるが、アサシンは逆に考えた―――あえて、甲板とは正反対の、もっとも遠回りといえる船倉に向かう事で一番の近道にする事を!!
とその時、時臣達の脱出を阻むかのように、船倉からの脱出路にバグ達が集まり始めていた。

「このまま、考えている暇は無さそうね…マスター、しっかりつかまっていなさいよ」
「え、おい、ランサー、その抱き方は止めるんだぁ!! その抱き方だけはああああああぁ!!」
「話は後よ、マスター!! “騎士団”!!」

その光景を見たランサーは、即座にここからの脱出を決断すると、傍に居たケイネスの身体を両腕に抱えた体勢で――俗にいうお姫様抱っこで脱出せんとした。
何故か抵抗するようにもがくケイネスを強引に抱えたランサーは、無数のバグ達に対抗するかのように“騎士団”を展開し、甲板を目指して駆け上がっていった。
ちなみに、時臣は、ランサーと同じように抱えようとする二代を必死に説得し、背に担いでもらう形で、甲板まで運ぶ形で落ち着いた。



第42話:とある侍の愛憎譚=その9・再起ルート=



時臣達が船倉からの船内脱出を試みんとしていた頃、近藤達は、浅間のズドンを防いだビグ・ラングに攻めあぐねていた。
この時、浅間のズドン攻撃を受けたビグ・ラングは、ひとまず、脅威としては低い近藤達への攻撃を切り上げ、集結させたバグ達と共に“天道宮”に総攻撃を仕掛けていた。

「くそっ…!! あのゲテモノ兵器、やりたい放題かよ!!」
「あぁ…まさに手も足も出ないとはこの事だな」

ビグ・ラングのいる上空を苦々しく睨み付ける近藤や桂の言うように、これまで、近藤達は、ビグ・ラングに対して一方的な防戦を強いられていた。
―――近藤達の攻撃が届かない上空という安全地帯。
―――圧倒的な物量戦で敵を殲滅する円盤兵器“バグ”。
―――その巨体に見合った、生半可な攻撃を物ともしない重装甲。
―――そして、浅間のズドンを防いだバグ達の謎バリア“AMFシステム”。
まさしく、難攻不落の移動要塞と呼ぶにふさわしいビグ・ラングであるが、近藤達にとっての一番の問題は―――

「なにより、イリア殿や凛殿があの中に囚われている以上、うかつに落とすにはいかないでござんす」
「あぁ…せめて、凛達を助け出すことが出来たなら…」

―――よりにもよって、近藤達が助けるはずの凛とイリヤが、そのビグ・ラングのコクピットに閉じ込められている事だった。
その為、凛達の救出という意味では、浅間のズドンが防がれていたのは不幸中の幸いだった。
しかし、それと同時に、外道丸の言うように、凛達の身の安全という事が枷となり、近藤達は、ビグ・ラングに損傷を与えるだけの強力な一撃を放てずにいた。
何とか、凛とイリヤの救出を思案する正純であったが、ビグ・ラングやバグに関する情報が無い以上、今の自分たちにはその手立てを立てようがなかった。
とここで、この窮地を脱せんと意を決した近藤は、それまで闘っていた尾美一にむかって、突然、頭を下げながら訴えるようにこう叫んだ。

「尾美さん…あんた、何か、あのゲテモノ兵器の弱点とか有ったら、どんなことでもいい教えてくれ!! 凛ちゃん達を助けるのに何か知らねぇか!!」
「近藤…すまない、俺からも頼む…!! 敵である事は重々承知している…!! だが、今は、リーダーを救出するには、尾美殿にしか頼むすべがないのだ!!」
「…おんしらの敵じゃちゅうワシがソレを教えると思ちょるんか?」

凛を助ける為に尾美一にむかって必死になって頭を下げて頼みこむ近藤に対し、桂も頭を下げると、近藤と同じくイリヤを助ける為に尾美一に頼み込んだ。
そんな近藤と桂の必死の懇願に対し、尾美一は、会って間もない少女を救う為に、敵である自分に頭を下げる二人の侍―――近藤と桂にむかって静かに問い返した。

「少なくとも…少なくとも、あんたが、俺の知っている尾美一という侍なら、凛ちゃん達を絶対に見捨てたりしないはずだぜ!!」
「そして、真選組の局長である近藤が頭を下げるほどの男ならば…!! 銀時の知り合いならば…!! 断じてこのような事態を見過ごすはずがない!!」
「…」

その尾美一の問いかけに対し、ほぼ同時に顔を上げた近藤と桂は、まっすぐに尾美一を見据えながら、それぞれの言葉で尾美一が凛達を救う為に力を貸す理由を言い切った。
近藤と桂の言葉は、真面な人間が聞けば、馬鹿の戯言と失笑される程度の理屈になっていない無茶苦茶なモノだった。
ただし――

「“白騎士”ついてはわしもよう知らんが…元々、あの機体は、元々、ビグロちゅうロボットに、防御用として魔力を吸収・無効化する粒子を放出するちゅう“バグ”を搭載するために、別口でつくっちょった試作機の下半身を取り付けたもんじゃ。じゃから、上半身と下半身の連結しちょる部分さえ壊せば、簡単に切り離せるんじゃ」
「お主、何を…!?」

―――事態の静観を決め込んでいた尾美一という一人の侍の心を動かすには充分すぎるほどだった!!
そして、しばし、沈黙を保っていた尾美一は、近藤と桂に背を向けたかと思うと、徐にビグ・ラングについての情報を話しはじめた。
この組織への背信となりかねない行動を取る尾美一に対し、点蔵は、尾美一にむかって、今になって自分たちに情報を流す理由を問い質さんとした。

「しかも、下半身はバグ以外にも、補給用の火器弾薬が盛りだくさん中からのう…スカートの下に一発でも撃ち込まれたら大爆発ちゅうおまけつきじゃ…まぁ、後は、あのバグの出す粒子もそうそう万能じゃのうて、魔術を伴わん攻撃なら通用するとか、数を揃えんと完全に無効化しきれんというちょったのう」

だが、尾美一は犬臭い忍者の鳴き声を無視すると、またもや、組織にとっての極秘事項であるビグ・ラングやバグの弱点を、まるで独り言を言うかのように明かし続けた。
実際、尾美一の言うように、バグ一機が放出する粒子量で展開される“AMF”には、ある一定の許容範囲が有り、その許容範囲を超える魔力を有する魔術を無効化できないという致命的な欠点が有った。
故に、開発チームのメンバーは、複数のバグが“AMF”の要となる粒子を同時に放出及び増幅共振させる事で、“AMF”の効果を底上げし、この欠点を補おうとしたのだ。
事実、荒瀬と闘っていた真島に不意打ちを仕掛けたバグも、バグ一機分の許容量を超える魔力を有していた真島の火球を無効化できずに破壊されていた。

「じゃから、もし、おんしらがあの娘二人を助けたいちゅうんなら、あのおっとろしい下半身を、嬢ちゃんたちがいる筈の上半身から切り離すのが得策じゃのう」
「…ありがとうございます、尾美一さま」

そして、自分の知る限りの情報を話し終えた尾美一は、近藤達に向き直ると、“なぁに、おんしらなら、あの嬢ちゃんたちを助ける事ができる!!”と困難に立ち向かう相手に檄を飛ばすような豪快な笑みを浮べていた。
文字通り、尾美一からの精一杯の応援に、メアリは尾美一の笑みに応えるかのように、助力への感謝を込めた微笑みを浮べながら、尾美一にむかって深々と頭を下げた。

「むっ…ちぃっと独り言を話しすぎたようじゃ…わしの帰った後は、おんしらの好きにせい!!」
「尾美さん…すまねぇ!!」
「尾美一殿…感謝する!!」

そんなメアリからの思わぬ言葉に対し、尾美一は、ヤレヤレといった様子でぼやくと、まるで照れ隠しのように背を向けた。
その後、尾美一は、近藤と桂からの感謝の言葉を背に受けながら、後は任せたというように貨物船から海へと飛び出し、この戦場から撤退していった。

「さて、尾美一の言う通りなら、凛ちゃん達を安全に助けるには、まず、あのゲテモノ機体の火薬庫である下半身を切り離さねぇといけねぇって事か」
「とはいえ、どうやって、あそこまで近づくかだが…ん?」

そして、尾美一を見送った近藤は、改めて、凛達を救うべく、再び、バグ達と共に“天道宮”へと総攻撃を仕掛けるビグ・ラングへと目を向けた。
まず、凛達を安全に救出する為には、尾美一の言葉通りなら、ビグ・ラングの上半身と火器弾薬が満載された下半身を切り離す必要が有った。
だが、桂の言うように、そのビグ・ラングがいる上空まで如何に攻め込むかという問題が残っていた。
とその時、問題のビグ・ラングを遠目から見た桂は、ある事に気付くと、一気に顔を強張らせて、ビグ・ラングを指さして、未だに気付いていない近藤達にこう言った。

「おい…何か、あの武神の下半身で色々と爆発が起こっていないか?」
「「「え…?」」」

心なしか顔が青褪めている桂の指摘に対し、近藤達はギョッとして驚きながらも、一斉に問題のビグ・ラングの方へと目を凝らした。
だが、確かに、桂の言うように、何故か、ビグ・ラングの下半身部分のあちこちで次々と小規模な爆発が起こっていた。
とここで、点蔵は、メアリが誰かを探すように、辺りを見渡している事に気付いた。

「どうしたで御座るか、メアリ殿?」
「あっ、点蔵様…それが、先ほどから、真島様の姿がお見えになりませんので…どちらにいったのでしょうか?」
「えっ!?」

とりあえず、メアリに声をかける点蔵に対し、メアリは、困惑した様子で首を傾げながら、一緒に甲板で戦っていたはずの真島の姿がない事を告げた。
そのメアリの言葉を聞いたネイトは、“まさか…!?”と思いながら、もう一度、目を凝らして、ビグ・ラングの方へと目を向けた。
そして、ネイトの目に映ったのは―――

「あの人、ノリノリで闘っていますわ…!! 火器厳禁の下半身の上で、躊躇うことなく、ド派手に爆発させながら…!!」
「何でそんなところで闘ってんの、あのおっかないヤクザの人!? つうか、この世界のヤクザってどんだけ修羅場慣れしてんの!? むしろ、本当にただのヤクザなの!?」
「それよりも、あのままじゃ、うっかり下半身を貫通するような攻撃をされたら不味いぞ!!」

―――ビグ・ラングの下半身の上で、次々と襲い掛かってくるバグ達を、この死地を楽しむかのように、荒瀬と共に盛大に迎え撃っている真島の姿だった。
如何に修羅場慣れしている近藤とはいえ、このツッコミどころ満載の真島の無茶振りに、それまでのシリアス空気をぶち壊してでもツッコミを入れずにはいられなかった。
だが、正純の言うように目下一番の問題は、あのまま、真島たちに遠慮なく闘い続けられては、下手をすれば、ビグ・ラングの下半身にある火器弾薬に誘爆しかねない可能性がある事だった。
もはや、凛達の救出のためにも、早急に対処しなければ事態になりつつある中、ビグ・ラングが甲板に開けた大穴から、船内に残っていたバグ達が一斉に飛び出してきた。

「まだ、船内にバグが―――“弓兵隊…乱れ撃ちなさい!!”―――え!?」

“こんな時に!!”―――次々と起こる厄介事に歯噛みした正純が、飛び出してきたバグ達を迎え撃とうとした時、正純の言葉を遮るように、バグ達が飛び出してきた穴の奥から攻撃を告げる声が聞こえてきた。
次の瞬間、穴の奥から一斉に炎で形成されたような無数の炎の矢が放たれ、穴から飛び出したバグ達を次々に貫いていった。
そして、船内から飛び出した全てのバグ達が破壊されると同時に―――

「さぁ…待たせたわね!!」
「「「「なぜ、そこで、お姫さま抱っこ!?」」」」

―――炎の馬に跨りながら、ケイネスをお姫様抱っこするランサーに、迷うことなく、皆一斉に愕然としながらツッコミを入れた。



一方、ビグ・ラングのコクピットに囚われた凛達の前には、次々と送られてくる警告情報―――“下半身部位の損傷が危険域に達している事”についての情報が画面に映し出されていた。

「どうするの…? このままじゃ、私達…どうなっちゃうの?」
「…」
『…』

自分達ではどうする事も出来ない状況に、イリヤは、徐々に迫りつつある死の実感に怯えながら、少しでも心を保つために凛達に尋ねるしかなかった。
そんなイリヤの必死の問いかけに対し、凛とアサシンはしばし沈黙を保った後、アサシンが徐に口を開いた。

『今、時臣達がこちらを救出する手立てを考えている筈だ…恐らくだがな』
「…」

“状況は最悪だがな…”―――もはや、気休めにしか聞こえない言葉を口にするしかないアサシンにも、自分たちの置かれた状況が最悪のモノになりつつあることを理解せざるを得なかった。
何とか、ビグ・ラングを止めようとしたアサシンであったが、ビグ・ラングの暴走は一向に止まる事無く、アサシン達の移動手段にして脱出手段でもある“天道宮”にまで攻撃を仕掛けていた。
しかも、バグの放出する粒子の影響なのか、こちらからの念話が妨害されて、時臣達との連絡を伝えることができない状況に陥っていた。
もはや、この場に居る誰もが打つ手なしと諦めかけている中―――

「違うわ…アサシン…」

―――アサシンの言葉を否定した凛だけは目に不屈の闘志を宿しながら、未だにここから脱出する事を諦めていなかった。
―――確かに、このまま何もしなくても 自分たちは助かるかもしれない。
―――もしかしたら、何もしない事が一番の選択肢なのかもしれない。
―――元はと言えば、自分達が迂闊にも誘拐されたせいで、時臣達にこんな迷惑をかけてしまったのだから。
―――だけど…!!
そして、“だけど…”と前置きを置いた後、凛は真剣な眼差しでアサシンとイリヤを見据えながらこう告げた。

「…まだ、やれることが有るかもしれないのに、遠坂家の、遠坂時臣の娘として何もしないなんて…絶対に嫌なの!!」
『…そいつは、てめぇの身を犠牲にしてまで得たいからの“覚悟”なのか?』

文字通り、困難を乗り越えんとする覚悟を口にした凛は、この最悪の状況下においても逃げる事無く、毅然として真っ向から立ち向かおうとしていた。
そんな精一杯の覚悟を見せる凛に対し、アサシンは、凛の見せた覚悟が“追い詰められた根性”によるモノなのかを確かめるように問いかけた。

「そんな訳ないでしょ!! だって、私達が生き残らなきゃ、私達を助けに来てくれたお父様や近藤、正純さん達のやっている事が無駄になるじゃない!! だから、私達は、何が何でも絶対に生き残らなきゃいけないの!!」
「凛…」
『…その言葉が聞きたかった』

だが、凛の口から出た言葉は、死にゆく者が口にするような“自己犠牲の精神”が一片たりとも感じさせるものではなかった。
むしろ、その逆…凛の語る言葉は、自分を助けに来てくれた時臣達に報いる為に何が何でも生き抜こうとする生者の言葉だった!!
そんな凛の言葉に対し、イリヤは、自身の胸中を占めていた死への恐怖が、徐々に消え失せていくのを感じていた。
その代わりに、イリヤが抱き始めていたのは、この死地から脱出するという生への渇望だった。
―――覚悟とは…犠牲の心ではないッ!!
―――覚悟とは!! 暗闇の荒野に!! 
―――進むべき道を切り開く事だッ!!
そして、アサシンも、この絶望的状況下においても決して諦めない凛の姿を見て、アサシンにとっての唯一無二の主である“あの方”の姿を重ねながら、“進むべき道を切り開く為の覚悟”を決めていた。

「そこでなんだけど…何か案を考えないとね、アサシン」
『自信満々の割には、考えなしかよ…まぁ、とりあえずは―――』

とはいえ、凛達がいくら覚悟を決めようとも、このままでは何の手立てがないのも事実だった。
とりあえず、アサシンに意見を求める凛に対し、アサシンはヤレヤレといった様子で先ほど思いついた打開策について話しはじめた。
その一方で、イリヤは―――

「キリツグ…」

―――今も心の何処かで、自分を助けに来てくれるはずと信じている父の名を呟いた。


一方、船内から脱出した時臣達は、甲板にて合流した正純達から、現在の状況についての詳しい説明を受けていた。

「何とか無事に甲板には出られたけど、状況は悪化しているみたいね…後、ガヴィダに謝んなきゃいけないわね」
「ちなみに私は、男として大切なモノを失った事はどうでもいいのか…?」

とりあえず、正純達から現在の状況を聞いたランサーは、あちこちで破壊されていく“天道宮”を見ながら、口でこそ軽口を語っているが、ランサーの表情には余裕といったモノは一切なかった。
そう、何時ものランサーなら、からかいの言葉の一つでも言いそうな、思わぬ羞恥プレイを強いられて、恨みがましく呟くケイネスをスルーするほどに。

「だが、どうするのだ? リーダー達を助けに行こうにも、そもそも、空を飛べない俺達ではどうすることもできんぞ」

だが、桂の言うように、ビグ・ラングと“白騎士”を倒す以前に、時臣達には解決しなければならない問題―――如何にして、空を飛ぶビグ・ラングのところに辿り着くのかという問題が有った。
一応、“天道宮”で待機している直政の“地摺朱雀”や義康の“義”で運んでもらう方法もあるが、両者ともに襲撃を仕掛けてきたバグ達の迎撃に追われ、それもままならない状況だった。
ならば、どうするかと考えあぐねる一同に対し、ランサーはふと何かを思いつくと、一同に向かってこう告げた。

「う〜ん…ビグ・ラングとかいうデカ物に辿り着くだけなら、何とかなりそうなんだけど…」


―――3分後

「―――という方法よ。はっきり言って、安全なんて言葉はまるっきりないわよ。それでもいいかしら?」
「…」

上空にいるビグ・ラングに辿り着く方法について説明し終えたランサーは、この危ない橋を渡る覚悟が有るのか意思確認をすべく、沈黙する一同にむかって念を押すように尋ねた。
ランサーの提示した方法は、普通の人間ならば誰もが躊躇する事が当然の無茶振りを要求するものだった。

「元より、凛を助けると決めた時点で、この程度の覚悟既に完了済みだ」
「構わんさ…この状況下で、手段など選んでいられる場合ではないからな」
「あぁ、それにそういう無茶なら、俺達にとっちゃいつもの事だぜ!!」

だが、この場に居る漢達―――時臣、桂、近藤にとって、凛とイリヤを助ける為ならば、その程度の無茶を貫き通す事など造作もない事だった!!

「まったく、後で後悔しても知らないわよ…あの“白騎士”が邪魔になってくるわね」
『こっちも、検索しましたが、並行世界の正純さんでも、あの“白騎士”の速さに対抗するには少し力不足ですね』

この時臣達の覚悟を見届けたランサーは、己の無茶で道理をこじ開けようとする時臣達を愉快そうに笑みを浮べた後、残る強敵である“白騎士”をどう対処するかに頭を悩ませた。
事実、ルビーの語るように、あの“白騎士”の機動性能は尋常ではなく、並行世界の正純の中で飛行能力に特化した正純でも対抗できないほどの性能を有していた。

「せめて、ナルゼやマルゴットがいれば良かったんだが…」

しかも、“白騎士”の機動性能と唯一対抗できそうなナルゼとマルゴットは、現在、銀時と第一天とのデートのサポートという名の出歯亀している最中だった。
“この役目だけは絶対に譲れない!!”―――そう言いながら、目を血走らせて迫るナルゼを思い出した正純は、同人のネタの為なら命(自分とマルゴットを除く)すら厭わないナルゼの同人魂に思わずため息をつきそうになった。
ちなみに、マルゴットについては、下手をすれば、暴走しかねないナルゼを止める為のストッパーとして派遣されていた―――決して、戒も来ているからという訳ではなく。
そんな中―――

「なら、その役目…」
「…私達が引き受けますの!!」
「「「え…!?」」」

―――黄金の獣より派遣された援軍である“白騎士”が海上を駆け抜けて、時臣達の前に姿を現した。



一方、浅間達を含む“天道宮”の待機メンバーは、直も、ビグ・ラングとバグ、“白騎士”の激しい総攻撃にさらされていた。
すでに、バグ達の多くは、“天道宮”の内部にまで侵攻し、待機メンバーとして残った直政や義康、ノリキらと闘いつつ、“天道宮”そのものを破壊すべく、壁や柱などを集中的に攻撃していた。

「―――」
「あぁ、また…!!」

そして、アデーレの目の前では、次々と放たれる浅間の矢を、“白騎士”は蝶が舞うかのように避け続けるという光景が繰り返されていた。
だが、それは、これまで数多くの戦艦を撃ち落としてきた浅間の弓が劣っている訳でも、戦艦よりはるかに小さい“白騎士”に狙いをつけられないからでもなかった。

「ひょっとしたら、速さだけなら、あの二人と互角かもしれません…」
「それって、滅茶苦茶ヤバいって事じゃないですか―――!!」

理由はただ一つ、白騎士”が、放たれた浅間の矢の軌道計算をしてから避けるだけの高い機動力を有しているからに他ならなかった!!
そして、浅間も、すでに十数回以上も自分の放った矢を避ける“白騎士”の機動力を、“双嬢”と称されるナルゼとマルゴットに勝るとも劣らないと評するしかなかった。
この浅間の弱気とも取れる言葉に、アデーレはいよいよ驚きと焦りの入り混じった叫びを上げずにはいられなかった。
なぜなら、ここに、ナルゼとマルゴットが居ない以上、“天道宮”の待機メンバーでは、“白騎士”に対抗できる手段がないという事に他ならなかった。
そう、唯一人―――

「一応、二代さんなら追い付くことも不可能じゃないかもしれませんが…」
「…」

―――東国無双“本多・二代”を除いては!!
確かに、翔翼を用いた高速移動を得意とする二代ならば、あの“白騎士”の機動力に対抗できる可能性は充分にあった。
だが、二代の名を口にした浅間に対し、アデーレは不安の表情を浮べずにはいられなかった。
そう、二代が“白騎士”と同等に闘うには、解決しなければならない問題―――上空にいる“白騎士”を如何にして、二代の翔翼をもっとも効果が発揮できる地上に引きずりおろすのかという問題が残っていた。
そして、“現状において打つ手なし”―――浅間達がそんな最悪の結論に至ろうとした時だった。

「「「…ぁぁぁっ―――!!」」」
「こ、この声って…!?」
「鈴さん?」
「…まさか!?」

次の瞬間、鈴の耳に、まるで“天道宮”へと駆け上がるように近づいてくる複数の声が飛び込んできた。
しかも、聞こえてくる複数の声の内の一つは、鈴が知る人物の声であると気付いた鈴は、走り出した鈴を追いかける浅間とアデーレと共に、“天道宮”の淵へと向かっていた。
そして、“天道宮”の淵に辿り着いた浅間達が、鈴が察知した声の聞こえてきた方向に目を向けると―――

「「「いやああああああああああああああああぁぁぁっ―――!!」」」
「「何か無茶苦茶無理矢理な方法で走っているぅ―――!!」」

―――周囲一帯に轟くような掛け声と共に、空気でも蹴るかのように空中を疾走する巨大な白い犬“アンナ・シュライバー”を足場にして、近づいてくるバグを蹴散らしながら、地上と変わらぬ状態で空中を駆け抜ける本多・二代の姿が有った!!


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