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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その41
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2014/01/05(日) 18:33公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1997年 初夏 カシュガルハイヴ周辺

 「衛星軌道上に展開中の米国宇宙軍から緊急入電!」

 茜の緊迫した声が聞こえてくる。

 「どうした?新種のBETAでも出たか?」

 何の気なしに発言した隆也の発言に、茜が驚いたように目を見張り、そして頷く。

 「はい、新種のレーザー属種の出現を確認。その数およそ8体」

 「8体?それくらいいつも通りにM01搭載型ミサイルで蹴散らせばいいんじゃないの?」

 水月の声が通信に割り込んでくる。

 「それが、今回はAL弾の在庫一掃処理とばかりに、AL弾による重金属雲の形成による降下機動支援を行う予定だったようです」

 「それでも、たった8匹程度にあたふたするとは思えんが、何かあるのか?」

 冷静な分析をするみちる。そして茜はその声に頷くと、送られてきたデータを各機に転送する。

 「これは?…重金属雲を貫通するほどの超高出力のレーザーだと!?」

 みちるの声に驚愕がもれる。
 当たり前だ。一昔前の戦法とは言え、一時はレーザー属種の封じ込めに最も有効的だと言われている戦法が通用しないのだ。
 しかも重金属雲を吹き飛ばすほどのレーザーとは、一体どれほどの物か?想像することさえ出来ない。

 「むぅ、あれは!?」

 そんななか、隆也が呟きをもらす。

 「何かしっているんですか、師匠?」

 武が聞いてくるが、隆也は無視。そして再び、

 「むぅ、あれは!?」

 などと呟いている。

 「あれ、ねえ、師匠?」

 戸惑う武の声はガン無視。相手が男とはいえ、酷い扱いである。

 「はあ、A−12、こういうときはね、こう聞くのよ」

 なにかを諦めたように、まりもが武に声を掛けると、

 「知っているのか、雷電?」

 などと口に出した。

 (((雷電?)))

 A01部隊の全員に疑問符が浮かぶ。

 「うむ、あれこそは噂に聞く『ちょう重光線級』」

 「超重光線級?」

 (((噂にきいてんのかよ!)))

 A01部隊の全員が内心で総突っ込みする中、隆也とまりもの会話は続いていく。

 「あれこそは、BETAが凄乃皇弐型に対抗するために作り出した切り札」

 「な、なんだってー!」

 (((なんというー棒読み)))

 A01部隊の全員の心は一つになりつつあった。すなわち、呆れと諦めである。

 「それで、結局のところ、『雷雲』でどうにかできそうなの?」

 「いきなり素に戻るなよ。まあ、もともと対策を打たれることは織り込み済みだが、まさか8体とはな…」

 まりもが口調を元に戻すと、つられて隆也も元も口調に戻る。

 「で、師匠、その超重光線級というのは?」

 みちるがここぞとばかりたたみかける。

 「ああ、正確なところは分からんがおそらくこの程度のスペックを持っているはずだ。今観測衛星で詳細なデータを取得している」

 しばらく衛星からの情報収集を行い、そしてそれを分析にかける。
 分析に掛けると言っても、脳内シミュレーターでかつて発生を確認した新種のBETAとの相違点を比較する程度である。
 つまり、隆也にとってはすでにこの新種のBETAの誕生は予測されていたものであった。ただ問題があるとすれば、こいつが出てくるのは通常ハイヴを2つ落としたところで初めて生み出されるはずだったのだ。
 明らかに脳内シミュレーターよりも対応が早い。

 「これも因果律の調整か?まあいい、みんな、予測結果が出た。転送するぞ」

 みちる達A01部隊および、第十三戦術機甲大隊に対して新種のBETAである超重光線級の予測情報が転送される。
 それを見た瞬間、全員がぎょっとするのを押さえられなかった。

 「九個のレーザー照射膜!?」

 「順次発射することによりインターバルなしって!?」

 「体内に小型の反応炉を格納!?」

 「周囲のレーザー属種へのエネルギー提供が可能!?それによりインターバルを短縮可能!?」

 「要塞級よりもさらに大型かつ強固な外殻装甲ってどんだけ!?」

 あちらこちらから悲鳴があがってくる。極めつけは、

 「凄乃皇弐型のラザフォードフィールドと9つの照射膜から一斉射で出力されたレーザーの出力比較はほぼ同等!?そ、それじゃ、雷雲も!?」

 そう、問題はこの超重光線級がもつ最大の攻撃である、9つの照射膜からの一斉射による一撃にあった。
 この一撃の威力の前では凄乃皇弐型のラザフォードフィールドをもってしても最大出力での相殺が精一杯であるとのデータが挙がってきている。
 その化け物級の攻撃をするBETAが8体。絶望的である。

 「ふむ、君たちは『雷雲』を過小評価しているようだな」

 「その口調だと勝算はあるの?」

 「ああ、ML機関を無駄に3機も積んでいないことを証明して見せよう」

 まりものといにさらりと答えた隆也であったが、内心は冷や汗ものだった。

 (をいをい、超重光線級が8体なんて聞いてないぞ!?あれは1体つくるコストと、ハイヴを建造するコストがほぼどっこいどっこいだったはずだ。それが8体だぞ?たった10日前後で何とか出来るようなもんじゃねーだろ)

 内心の動揺を部下に悟らせる、そんなへまをこくような男ではない。あくまでポーカーフェイスを貫くが、当然それが通用しない相手もいる。

 「で、本当のところはどうなの?」

 そう、ミセス女の勘こと神宮司まりもである。見ると秘匿回線が開かれている。

 「うーん、1体までは予測していたんだがな。8体相手となると、重力偏差機関を使う必要が出てくるな」

 「あら、それくらいいいじゃないの」

 「うん、まあ、な」

 なんとなく浮かない返事を返す隆也。

 「奥歯に物が挟まったような口調ね。どうしたの?」

 「いやな、今回は世界中から監視の目が入っているわけで、そんな中で重力偏差機関を使うとなると、誤魔化しようがないなと…」

 「はあ、今更ね」

 「まあ、今更何だけだな」

 「大丈夫よ。そもそも、この撃震ALを出した時点で誤魔化しようなんてないんだから」

 「それもそっか」

 「そうよ、まったく、出し惜しみなし、なんて言っておきながら自分は出し惜しみするつもり?いくら隆也くんでも都合が良すぎるわよ」

 どこかあきれた様な声に、隆也が苦笑を漏らす。

 「分かった。出し惜しみはなし、男に二言はない。このまま作戦を続行する!」

 「了解」

 ぶつっ、と秘匿回線の切れる音がする。

 「実際は、手の内を見せるの嫌なんじゃなくて、地表戦で重力偏差機関の性能を見せるのが嫌なだけなんだけどな。なにせ、重力偏差機関は因果律に干渉しうる機関だ。下手に使ってしまうと、これ以上の干渉をもたらすと思うとな…」

 苦み走った顔で呟く隆也の苦悩を知るものはいない。そして、それを知られることをよしとしないのもまた、立花隆也という漢であった。

 「よし、全機、雷雲の側からは極力離れるな。新種のBETAに関しては『雷雲』で対処する。Eナイト1もよろしく」

 「Eナイト1了解した。だが、大丈夫なのか、これが本当なら『雷雲』だって厳しいことになるぞ?」

 「ふふふ、大丈夫ですよ、小塚中佐。この『雷雲』は、凄乃皇弐型の10倍の出力を誇り、なおかつ隠し玉も幾つか用意してあります。へのつっぱりもいらんですよ!」

 「おお、言葉の意味はよくわからんが、なんだか凄い自信だな」

 などとおよそ最終決戦場らしからぬ会話が流れていた。



1997年 初夏 カシュガルハイヴ上空衛星軌道

 「桜花作戦主力部隊、依然侵攻速度を変えていません」

 「ばかな、あの化け物どもに正面から挑むつもりか!?」

 マイヤーが驚きの声を挙げる。

 「くそっ、どちらにせよこのままじゃこっちも目的を達成できない。引き続きAL弾を地表に向けて振りかけろ」

 「了解しました」

 「ちなみに、撃墜率はどの程度だ?」

 「未だに100%を保っています。すべて重金属雲を発生させていますが、発生した重金属雲を吹き飛ばすほどのレーザー照射が次から次へと地表からAL弾に向かって来ています」

 「ちっ、どさくさに紛れて軌道降下部隊の突入も不可能か」

 「近辺に展開している宇宙軍からM01型ミサイルを投入するように打診してみますか?」

 「ああ、それしかないだろう。今回の作戦、下手に手加減をするとこちらの企みが全てパーになってしまう」

 マイヤーが忌々しげに、地表に佇む8体の超重光線級を睨みつける。
 まさか、ここにきてあんな化け物が現れるとは、完全に計算外だった。
 唯一の救いはソ連も同様に地上への降下が行えないことか。

 「くやしいが、ここは地上の主力部隊の活躍に期待するしかないか…」

 「いまのところ確実な手はそれしかないでしょうが、コードネーム『雷雲』とて、あれほどの高出力のレーザー攻撃を受けて耐えられるのでしょうか?」

 「わからん、わからんが、勝算もなしに突っ込むほどバカじゃないだろう」

 答えるマイヤーの声にはどこか希望的な願望が混じっていた。



1997年 初夏 カシュガルハイブを狙える宇宙空間 AL4専用研究機関宇宙ステーション

 「事態は切迫しているわ、『インドラの矢』は使えそう?」

 モニタに映るのは二十台前半の美女、冷たい印象を受けるがその目には燃えるような闘志を宿している。
 紫の髪の毛、グラビアアイドル顔負けのスタイル、言うまでのなくみんなのお母さん、もとい、みんなのアイドル香月夕呼だ。

 「気にくわないナレーションが入ったような気がするけど、まあいいわ。ところで返事はどうしたの?」

 「はっ、『インドラの矢』については、射出用超高温耐性分子結合体は3回の射出が可能な分まで確保してあります」

 宇宙ステーションの総責任者、ビンゲン少佐の声に満足げに夕呼は頷く。
 年の頃は30代後半の壮年の男性だ。くすんだ茶髪と深い彫り建ちの顔、そして白い肌。名前から察するにドイツ系だろうか。

 「そう、どうやらきちんと仕事はしているみたいね」

 まるで、宇宙の勤務だからといって手を抜いているような言われように一瞬むっ、とするビンゲン少佐。
 だが、夕呼の目には侮蔑の表情はなく、やることをやっていてくれたことに対する感謝が見て取れた。
 そこで彼は理解する、彼女は不器用なだけで、決して自分をうたがっているわけではないのだ、と。

 「あのばか、おそらくこのまま行くと重力偏差機関を使うつもりだわ。そうなると、因果律干渉時空における因果律バランスが一時的にせよ均衡を崩して…」

 などと急に独り言をぶつぶつ呟きはじめる。

 「あ、あの、香月副司令?」

 「え?ああ、悪いわね。ちょっと考え事をね。それで、『インドラの矢』の発射までに必要な時間は?」

 「第一弾については即応体制にて常に待機してあります。ご指示があればすぐにでも」

 「具体的には?」

 「40秒」

 「ぶっ」

 「?香月副司令?」

 「悪いわね、少しツボにはまっただけよ」

 「はあ?」

 隆也がいれば、一緒に腹を抱えて笑っていたかも知れない。
 分からない子は、天空の城、40秒で支度しろあたりでググると幸せになれるかも?

 「射線上にいる宇宙軍に対して退避勧告を掛けるわ、その後ポイント『あ号』周辺に展開している新種のBETAに対して射出して頂戴」

 「了解しました。照準補正については?」

 「こちらで行って転送するわ。そこにつんである電算機じゃ、誤差が大きすぎて使えないものね」

 夕呼が艶然と微笑みながら伝えると、すぐさま情報が送られてくる。
 すぐさまといっても、電波なため多少即応性に難があるのはやむを得ない。

 「照準補正、受信しました」

 「そう、それじゃ、退避勧告を行うわ、その間に再度照準補正を行うから、すぐに動けるようにね」

 「了解しました」

 通信をいったん切るとすぐさま米ソの宇宙軍に連絡を取る。

 「こちらオルタネイティブ第四計画の総責任者香月夕呼です。これより新種BETAに対して打撃を与えるために新型兵器を使用します。つきましては、これから送る座標まで退避をお願いします」

 「そんな一方的な通告は受け入れられない!」

 と、返すのはソ連宇宙軍の責任者である。

 「了解しました。今回の作戦の総指揮権は貴方にあります。こちらとしては現行手詰まりの状況でしたので、是非もありません」

 と、素直に返すのは米国宇宙軍のマイヤーだ。

 「な?きさまら、裏切るのか!」

 などと雄叫びをあげるのは言うまでもなくソ連宇宙軍の責任者だ。

 「貴官らソ連軍が何を考えているかは知らないが、今回の作戦の総指揮権は先ほど言ったようにオルタネイティブ第四計画の総責任者香月氏にある。我々に拒否権はないのだよ?」

 「ぐっ!?」

 痛いところを突かれたソ連軍の責任者は渋々、指定ポイントへの退避を認めた。
 後に、宇宙空間の軍事利用について大きく影響をあたえることになる兵器、宇宙空間からの超長距離質量攻撃が地表に到達する数分前の出来事であった。

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