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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その42
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2014/01/12(日) 19:33公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1997年 初夏 カシュガルハイブを狙える宇宙空間 AL4専用研究機関宇宙ステーション

 「射線上の僚機の撤退が確認できたわ。『インドラの矢』の準備はいい?」

 「こちらはいつでも問題ありません」

 ビンゲン少佐が答えると、目の前の制御コントロール板に発射スイッチがせり出してくる。

 「宇宙―ステーションの各員に告ぐ。『インドラの矢』の発射が行われます、繰り返します、『インドラの矢』の発射が行われます。各員、十分に注意してください」

 隣で艦内放送をオペレーターが掛ける。ステーション内に一瞬騒然とした気配がわき起こる。
 宇宙ステーションに装備されている最強の対地上用兵装、「インドラの矢」
 全長20m、直径1mに及ぶ射出用超高温耐性分子結合体を音速の十数倍にまで加速して打ち出す戦術核を超える威力を誇る兵器。
 この兵器の最大の特徴は、射出用超高温耐性分子結合体を使用しているため、如何にBETAのレーザー属種のレーザーが高出力であろうと、決して迎撃されることはないと言うことである。
 打ち出された質量兵器は、狙いを過たずBETAへの必殺の一撃として地上に突き立つことだろう。
 なにせ射出用超高温耐性分子結合体は、ナノマシンにより組み立てられた人工鉱物でありその融点は太陽の中心温度である1600万度に匹敵するという、常識の埒外にある物質である。
 如何にBETAのレーザーが常識外れの高出力を誇り、空気中での減衰がほぼみられないものであるとはいえ、それはあくまでレーザー兵器という範囲内に収まる。
 だが今回射出されたものは、そもそも常識外れのBETAを相手にするためにさらに常識からはみ出した代物だ。年間生産量がわずか6本ということからその作成にかかる労力は計り知れない。

 「こちらでの解除コード入力が完了したわ。あとはお願いね」

 「了解しました」

 ビンゲン少佐が喉を鳴らすと、発射スイッチに手を伸ばし、一瞬の逡巡の後にボタンを押し込んだ。
 瞬間、ステーション内の電圧が弱まったのか、一瞬照明の光度が落ちるがすぐさま電力供給ユニットから電力の供給を受けて元の光度を取り戻す。
 宇宙空間では一瞬の電力停止さえも死に繋がるので、ビンゲン少佐の額にも一瞬汗が浮かび上がる。
 そんなステーションにいる人員達の気持ちも何するものぞと、リニアカタパルトで最終加速を終えた重質量の矢が宇宙ステーションから放たれた。
 全長100mを超えるリニアカタパルトから放たれた質量兵器が、今音速を遙かに超える速度で地表に立つ超重光線級へと向かって飛び立つ。
 打ち出された衝撃に宇宙ステーションが震える。
 それはその身がはき出した一撃が母なる大地に如何に凶暴な牙を向けるのか、それを知っているが故におびえているようにも見えた。

 「『インドラの矢』射出を完了しました」

 「そう、ご苦労様。念のために『インドラの矢』の次弾を装填しておいて。一撃目での状況次第では、第二射が必要になるかもしれないわ」

 「了解しました」

 ビンゲンは指示を受けると、第二射を行うために次弾の装填を開始する。
 「インドラの矢」が地球を穿つまでには準備は完了することだろう。だが二射目が不要であろうことは、ビンゲンは何となく感じ取っていた。



1997年 初夏 カシュガルハイヴ周辺

 「コード『インドラの矢』だあ?うーむ、ゆうこりんめいらん気を回しやがって。あれは国連にも秘密にしておきたかったはずだろうに」

 愚痴るのは隆也だ。
 量子電導脳で随時地球全体の情報連絡網を把握しているため、夕呼が「インドラの矢」を使用するのも、彼にとっては察知は簡単であった。
 おそらく夕呼は隆也が因果律をゆがめるために行動しているのを知って、少しでもそのリスクを減らすために隆也が重力偏差機関を使用しないように手を回したのだろう。
 事実、このままガチンコで超重光線級とやり合おうとすると、どうしてもML機関によるラザフォードフィールドだけでは力不足だ。重力偏差機関の力が必要になる。
 それを見破る辺り夕呼の優秀さが見て取れるのだが、そのために切り札の一枚を切らせてしまったという負い目が隆也にのしかかる。

 「あーあー、自分の女に尻ぬぐいさせるとは、紳士失格だな」

 「あら、くだらない男の矜持なんか、犬にでも食べさせておけばいい、というかと思ったら案外殊勝な心がけなのね?」

 夕呼のからかうような声が通信回線越しに聞こえてきた。見ると秘匿回線が開いている。

 「お、ゆうこりんじゃないか。いやいや、男の矜持なんてくそ喰らえだ。ただな、自分の力不足でゆうこりんに迷惑を掛けるようじゃまだまだと思っただけだよ」

 「ふふん、そう思うのなら、この作戦無事に成功させなさい。そうすれば、『インドラの矢』程度のことで周辺諸国にとやかく言わせないわよ」

 「あいまむ」

 戯けたように答える隆也を、夕呼は見つめるとふっとため息をついた。

 「私はそんなに頼りないかしら?」

 「いや、ゆうこりんほど頼りになる女はちょっといないと思うぞ?」

 「はなから当てにされるのは論外だけど、全く頼ってもらえないのも、少し寂しいものよ?」

 「おお!でれた!ゆうこりんがでれた!」

 クララが立った的なノリではしゃぐ隆也。それを冷たい目で見つめる夕呼。

 「ああ、いやん、そんな目で見ちゃらめぇ。くせになっちゃう」

 夕呼、未だに冷たい目。

 「心配をおかけして、さーせんした。少しくらいお力に甘えることにします」

 おちゃらけたノリを納めて、ぺこりと頭を下げると、ようやく機嫌がなおったのか夕呼が軽く頷いた。

 「最初からそうやって素直になればいいのよ。まったく、手が焼けるわね」

 「面目ない」

 「なんにしてもこれで貸し一つね」

 「ゆうこりんのけちんぼ。サービスしてくれてもいいじゃないか」

 「生憎とそこまで優しくないのよ。だからいい?貸しは必ず返しなさい、貴方自身が」

 鋭いな、と隆也は内心で舌を巻く。
 この作戦で万が一があることを予見しているのだ。そしてその万が一というのが隆也自身に関わることであると言うことも。
 伊達に天才じゃないな、と口に出さずに賞賛の声をあげる。

 「その件につきましては、持ち帰って慎重に検討させて頂く所存で」

 「うるさいわね、男なら返事は、はいかイエスにしなさい」

 「はい」

 「それでいいのよ。わかったら、さっさと片付けて帰ってきなさい。あ、言うまでもないでしょうけど、『インドラの矢』でデカ物が全て吹き飛ぶとは限らないわ。注意しておいてね」

 「あい了解」

 「それじゃ、通信を終わるわ。また何かあれば繋げるから」

 「おう、それじゃまたな」

 秘匿回線が切れるのを確認すると、オペレータの茜に繋げる。

 「宇宙ステーションから、対地上攻撃用兵器『インドラの矢』が発射された。予定着弾位置と時刻を送るから確認しておいてくれ」

 「マブマダー了解。確認します…って、なんですか、これは!?」

 「AL4で極秘裏に開発されていた宇宙空間からの地上攻撃用兵器だ。BETAのレーザー属種に対処するために使用するのは質量兵器。そしてその材質はAL4で研究開発された特殊素材。ちなみに発射命令を出したのはゆうこりんな」

 「な、なるほど…さすが香月博士、凄いですね。師匠がピンチになると颯爽と手を差し伸べる、まるでヒーローみたいですね」

 「どちらかというと、対価を要求する小悪魔なイメージなんだけどな…」

 「あら?ずいぶんな言われようじゃない?」

 突然割り込んでくるのは、いわずもがな先ほど今生の別れフラグを立てたはずの夕呼であった。
 さすがは天才、フラグも話の流れもぶった切るその生き様、そこにしびれる憧れる!

 「ぶっ、ゆうこりん!?」

 「AL4の使う通信回線網は私も自由に参加可能なの、忘れてた?涼宮妹、さすがあんたは見所があるわね。まあ欠点があるとすれば、ヒーローじゃなくてヒロインだって言うところかしら?」

 「す、すみません」

 「いいわよ、気にしてないから。まあ、もっとも、昨晩はずいぶんとお楽しみみたいだったようだけど」

 「え、あ、それは…」

 「ふふ、冗談よ、冗談。それより規模的には戦略核に匹敵するはずだから、十分に注意喚起しておいて頂戴」

 「は、はい、了解しました」

 「それじゃ、後は頼んだわよ。『インドラの矢』の事で各国がうるさくなるでしょうからね。まったく、こっちは作戦中だって言うのに、これだからバカな連中の相手は疲れるのよ」

 「は、はい」

 言いたいだけ言って、夕呼は通信を切る。

 「うーむ、流石ゆうこりん、フリーダムだ」

 「えーと、ノーコメントで」

 保身に走る茜の言葉を聞き流しつつ、隆也は『インドラの矢』の地表到達までの時間を眺めていた。
 雷雲の侵攻速度から考えると、雷雲が超重光線級の射程に収まる前に、地表に到達することになる。
 さすがは夕呼、いいタイミングだ。

 「『インドラの矢』が着弾する前には、全機を雷雲の後方に展開するように指示を頼む。ラザフォードフィールドで衝撃波をやり過ごす」

 「マブマダー了解」

 ちなみ通信中も、雷雲は荷電粒子砲を打ち続けている。メインが打ち終われば、サブを一発づつ、サブが全て打ち終わる頃にはメインが発射可能になっているので、メインを発射。その繰り返しだ。
 おかげでA01部隊も第十三戦術機甲大隊も、討ち漏らしの少数を相手取れば済んでいる。
 とはいえ、時速80km程度の早さでの進軍だ。突撃級との相対速度は時速210kmにもおよぶ。
 並大抵の衛士では対応できずにBETAの餌食になっていることだろう。
 それを苦もなく対応するのはさすがに歴戦の猛者たちといったところだ。

 「こちらAL1、部隊の士気は依然高く、損耗率は0。進軍に問題は無い」

 「こちらEナイト1、こちらも部隊の士気は高いが、小破1だ。現在万全を期すために疾走にて調整中。進軍には問題ない」

 「こちらRAIUN、了解しました。引き続き現行速度を維持して進軍します。なお、宇宙より地表新型BETAに対して質量兵器を射出しました。到達までの時間を転送します。なお、着弾前には雷雲の背後に回ってください。ラザフォードフィールドにて衝撃波から部隊を守ります」

 「AL1、了解」

 「Eナイト1、了解。それで、その質量兵器ってのは、大丈夫なのか?」

 小塚中佐が疑問を投げかける。

 「はい、現在レーザー属種に対抗できうる兵器の中では最大規模の破壊力を誇ります。また、レーザー照射を受けても問題なく機能します」

 「おいおい、そんなもんいつの間に作ってたんだよ?」

 「残念ながら機密事項です」

 茜のすげない答えに小塚中佐は肩を軽くすくめる。

 「やれやれ、この雷雲といい、その質量兵器といい、びっくり箱かよ、AL4ってのは」

 いいながら、前方で迅雷と共に戦っている新型戦術機撃震ALを眺める。

 「あの撃震ALってのもとんでもないよな。まあ乗ってるのがあの神宮司だからこそってのはあるかもしれんが」

 AL4の最新精鋭機迅雷をすら凌駕する機動力とその打撃力、見ると長刀の一線で突撃級を真っ二つにしている。
 まりもの戦いを間近で見てきていた小塚中佐でさえ、目を見張る機動をしている。

 「『インドラの矢』地表到達まであと5分を切りました。各機雷雲の背後へと退避開始してください。なお、退避時のフォーメーションは各隊に一任します」

 「AL1了解、各機、小隊単位で雷雲の後方に退避開始。Eナイト部隊のサポートを最優先、殿は私が行う」

 「「「了解」」」

 「Eナイト1了解、各機中隊単位で移動開始。命を大事に、だ。聞いたとおり、BETAの掃討はAL01部隊に任せておけ」

 「「「了解」」」

 一糸乱れぬ隊列で雷雲の後方へと退避していく第十三戦術機甲大隊、そしてそのサポートを行いながら小隊単位で移動を開始するA01部隊。
 そして5分が経過したとき、彼らはみた上空を貫く一筋の雷光にも似た一撃を。
 地上から8つの閃光が、それを迎え撃つがごとく放たれる。
 今まで絶対の制空権を誇ってきたレーザー属種、その親玉とも言える超重光線級の最大出力のレーザー照射、そしてそれに続くようにちらほらと重光線級、光線級のレーザーが地上から上空に向かって放たれる。
 誰もが、息をのんだ。
 今までのようにレーザーに打ち落とされるのを誰もが想像した。
 だが、現実は違った。
 天からの一撃は、人類の怒りを体言化したかのように地上からのレーザー照射に臆すことなく、負けることなく、地上へと到達する。
 瞬間、落下点を中心として凄まじいまでの衝撃が地表を襲った。水爆並みの破壊力は大地に大きなクレーターを作り出し、展開していた超重光線級を軒並み一掃していた。
 いや、一掃はしていない。かろうじて原型を留めているのが3体、そして驚くべき事に身体の半分を吹き飛ばされながらも稼働している超重光線級が1体存在した。
 辺り一帯がまっさらな更地になっているのにもかかわらずに生き延びるとは、その強固さは想像を絶するものがある。だがそれもここまでだ。
 わずか1体の超重光線級では、とてもではないが雷雲のラザフォードフィールドを貫くことは出来ない。
 ここにきて人類が放った矢は、BETAの強固な牙を打ち砕いたのであった。


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