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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その44
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2014/01/26(日) 19:43公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1997年 初夏 カシュガルハイヴ内部

 「全軍、全速前進DA!」

 威勢のいいかけ声と共に、雷雲を筆頭に第十三戦術機甲大隊、A01部隊が続いてハイヴの内部へとその身を投じていく。
 向かう先は無数のBETAが蔓延るBETA達の本拠地。その中でも地球最大規模のオリジナルハイヴである。
 誰もが緊張していた、誰もがこみ上げる憎悪を隠せずにいた、誰もが死の恐怖に脅えていた、そして誰もがこれからBETAへ与える一撃が人類の希望へと繋がることを信じていた。
 約1名を除いて。すなわち、平常運転の変態紳士である。

 「チェンジ、ラザフォードフィールド、スイッチON!」

 雷雲の中枢制御ユニットこと、撃震ULの管制ユニットの中で、隆也がかけ声と共に、ボタンをポチッと押す。
 もちろん、本来ならそんな事をする必要は無い。00ユニットと一部の並列思考を同化させた彼に取っては、雷雲の機能を動かすのにわざわざコンソールを叩くような真似をする必要はないからだ。
 だが、そんな味気ないことは、彼の中に眠るロボット魂が許さない。
 オタクは様式にこだわるのだ。様式美こそ、この世の真実、といって憚らない馬鹿者達ともいう。

 「ラザフォードフィールドの形状変化を確認、これは!?」

 管制室にいる茜の声が驚愕に揺れる。
 ラザフォードフィールドが形を変え、進行方向にいるBETAを潰すように蠢いているのだ。
 みるみるまにスクラップになっていくBETA。

 「ふははは、見ろ、圧倒的ではないか!」

 上機嫌な隆也。酷い光景である。
 通常の地上の戦闘とは違い、密閉された空間である通路上の戦闘ではラザフォードフィールドで通路をみっちりと覆ってやると、あっという間にBETAは前進することが出来なくなる。
 しかもなおたちの悪いことに、このラザフォードフィールドを展開している兵器は、移動してくるのだ。
 BETAには撤退という概念が無いため、ひたすらに突撃しラザフォードフィールドの前でミンチとかして行くのだった。
 言ってみれば、ある周期に起こるというレミングの集団自殺行動のよう、あるいはいい男にホイホイついていくノンケである。

 「とりあえず広間まではこの調子でいくぞ、後続の部隊には後方に注意するように言っておいてくれ」

 「あ、了解しました」

 そのあまりにも一方的な光景に言葉を失っていた茜が、隆也の指示により我に返ると味方部隊へ通信を開始した。
 味方であるはずの第十三戦術機甲大隊の面々は、前方に展開されるあまりにも圧倒的な雷雲の戦闘能力にあっけにとられていた。

 「なんだありゃ、一方的な展開だな」

 「ですね、初めてBETAに同情したくなりましたよ」

 小塚次郎中佐の声に、他の隊員が同意する。
 雷雲が通り過ぎたその背後には、無数のBETAだった物のなれの果てが広がっている。それも天井、壁面、床面と360度まんべんなくだ。
 限られた閉鎖空間とラザフォードフィールドを自在に展開して操る雷雲、はっきりって相性が良すぎた。むろん、雷雲にとってだ。

 「うーん、予想はしていたけど、流石にここまで一方的とは思わなかったわ」

 さすがのまりもも、ややびっくりしている。
 まあ、あの隆也と、あの雷雲のタッグである。これくらいはやるだろうと思ってはいても、実際に目で見るとその光景に圧倒される。

 「密閉空間でのラザフォードフィールドの使用とか、相変わらず鬼畜だな…」

 とこぼすのはヘタレである。

 「あと5分ほどで一個目の広間に出るぞ。流石に広間ではこの荒技は通用しないから、各部隊にハイヴ内戦闘の用意をするように通達してくれ。あと、ハイヴ内戦闘での肝は、行軍スピードだ。雑魚には目もくれず、事前にミーティングで確認しておいた侵入経路を最速で突き進むぞ」

 「了解しました。各部隊へ告ぐ、あと5分で広間に到達します。各員、ハイヴ内戦闘の準備をお願いします。また、広間に到達後は、次の通路へ全速で移動をしてください」

 茜の指示に、了解の声が各部隊長から返ってくる。
 今回作戦に参加した中で、ハイヴでの本格的な戦術機での実戦を経験しているのは、第十三戦術機甲大隊だけだが、それだって時間にして数時間程度。それも入ってからすぐの浅い階層の戦いだ。
 今回の作戦のように最深部へと到達しての戦闘は初めての体験だ。
 一方、マブレンジャーチームとも言えるA01部隊だが、ヘタレこと孝之と武はすでにオリジナルハイヴツアー経験済み。ちなみに、マブパープル、マブブラックである、純夏、慧も前回のリヨンハイヴ攻略戦で最深部までの潜入は経験済みだ。
 おまけに、慧は反応炉を破壊までしている。どんだけ〜、である。
 まあ、それらはすべて非公式記録であり、また戦術機での作戦行動ではないのでこの際カウントに入れないことにしておく。

 「広間に出た。後続部隊は注意しろ。茜、電磁投射砲で道を開け!」

 「了解」

 隆也の指示の元、雷雲に搭載された4門の240mm、16門の120mmが火を噴く。
 荷電粒子砲の一撃には及ばないものの、その火力は凄まじく一瞬にしてBETAを挽肉へと変えていく。
 一瞬にして広間にモーゼの十戒に出てくる逸話のように、BETAが割れて次の地下茎に続く道が開かれる。
 その開けた道を堂々と突き進む雷雲。

 「第十三戦術機甲大隊、吶喊!」

 「「「了解」」」

 続いて第十三戦術機甲大隊が雷雲の右翼に展開する。
 ここからは迅速な行動が勝負を分ける。

 「全兵装使用自由、予定経路をまっすぐに突き進め!」

 「「「了解」」」

 小塚次郎中佐の号令一下、最精鋭の大隊員が武装の使用制限を解除する。
 頭上から、そして右側から押しよしてくるBETAの群れを、的確に駆除しながら、前進する第十三戦術機甲大隊の衛士たち。

 「A01部隊、続け!」

 「「「了解」」」

 その後を、まりもの撃震ALを先頭にA01部隊が続く。急な荷電粒子砲の発射に備えて、背後には着かずに左翼に展開する。

 「荷電粒子砲、発射します、各部隊注意してください」

 「「了解」」

 茜の注意の元、各部隊長が返事を返すと、雷雲から微妙に距離をとる。

 「雷雲フラッシュ!」

 部隊の展開を確認してから隆也のかけ声の下、4門ある小口径荷電粒子砲が同時に火を噴く。
 前方にいるBETAが悉くその存在を塵へと帰っていく。

 「よし、進路が開けた。一気に行くぞ!」

 「「「了解」」」

 小塚次郎中佐の号令の下、一斉に次の通路へ向けて突き進む第十三戦術機甲大隊。その動きは整然としており、見る物をほれぼれとさせるものがある。

 「A01部隊、雷雲に続け!」

 「「「了解」」」

 まりも率いるA01部隊は、迫ってくるBETAをやすやすと打ちのめしながら雷雲の左翼後方に展開して、その後ろをついて行く。
 雷雲はラザフォードフィールドにものを言わせてぐいぐいと前進をする。
 触れる物あればラザフォードフィールドで押しつぶし、味方にBETAが迫ってくると電磁投射砲で相手を打ちのめす。
 後方に向けてM314を打ち出すと相手の追撃を断つ。
 まさに雷雲無双である。もはやかなう者なしといったかんじで暴れまくっている。

 「よし、進路クリア。次の地下茎に突っ込むぞ!各部隊は『雷雲』に続いてくれ」

 「「「了解」」」

 再び先頭を雷雲、第十三戦術機甲大隊、A01部隊という縦列をとり、地下茎に突入していく。
 そしてまた繰り返される一方的な雷雲のラザフォードフィールドによる攻撃。
 もはや安定安全の雷雲トレインと化したハイヴ攻略部隊の前に、立ちふさがる物は何もない。



1997年 初夏 カシュガルハイヴ内部(軌道降下部隊)

 「こちらアルファ1、各機状況知らせ」

 「アルファ3、健在」

 「アルファ12、健在」

 米国の軌道降下部隊第一中隊12機のうち1機が軌道降下の際に重光線級のレーザーにより打ち落とされていた。そして他に1機が侵入したはいいが、BETAの巣とも言えるほどの密度を持った場所に放り込まれて一瞬にして戦死。
 唯一の救いは、S11による自爆を敢行したことにより、生きたままBETAに喰われるということを免れた事だろうか。
 なんの救いにもなっていない、というのはBETAと戦ったことの無い人間の言葉だ。
 生きながら喰われていく、その恐怖は想像を絶する。現に、BETAとの戦場で戦車級に取り付かれた衛士の壮絶なる悲鳴は、戦場で味方の士気を劇的に低下させる恐怖の元凶とされていた。
 またその悲鳴と恐怖の声だけでPTSDになる人間がいるのだ。その凄惨さは実際にその声を聞いた者にしか分からないだろう。

 「10機生き残ったか。第二中隊、第三中隊と合流を果たしてアトリエへと進むぞ」

 「「「了解」」」

 最も過酷な軌道降下部隊という任務に就いている衛士たちである。2名すでになくなっているということに、少なくとも表面上は何ら動じることなく進軍を開始する。
 同じ頃、ソ連の軌道降下部隊も離れた位置にではあるが、ハイヴ内への突入に成功していた。
 彼らは米国軍の軌道降下部隊の降下に一瞬遅れて降下することで、少しでも自軍のレーザーでの被害を少なくすると言う、他者から見れば卑劣とも言える手段をとった。
 当然彼らに良心の呵責はない。彼らは取り得る最善の行動を取ったに過ぎない。

 「デルタ1、予定出発ポイントより離れた位置に着陸した。一時的に指揮を最も出発ポイントに近いデルタ6に任せる。私が時間内にそこまでたどり着けない場合は、終結した隊員の中でもっとも番号が若い者が隊長となれ」

 「「「了解」」」

 自分の死を含めて冷静な状況解析を行ったデルタ1が、部下達に指示を飛ばす。それに従順に従うソ連の衛士たち。
 良くも悪くもソ連の衛士は、任務に忠実だ。それだけは、世界のどの国もソ連という国を評価する事実であった。
 一部には洗脳教育のたまものである、という声も聞こえるが、ソ連という国を知っている人間から言わせると、それくらい当然やっているという答えが帰ってくる。
 最前線に戦う衛士や兵士たちについては、催眠暗示をあたえることも日常茶飯事であるらしい。
 それだけ過酷な戦線が多いという証明でもあるのだが、過酷な前線という意味ではBETA戦の最前線はどこも等しく地獄だ。
 それを踏まえるに、これはもうその国の特色だるとしか言いようがない。
 そんな国の衛士たちは、目標であるアトリエの占拠に向けて動き出した。
 投入されたのは米国軍と同じ3個大隊、108機の戦術機。補給物資が適時空の彼方から飛来して、ハイヴの中へと突き刺さっているが、これをいちいち全て回収して行く時間などない。
 そんなことをして米国の後塵を拝することなどはあってはならないのだ。
 人類の明日を決める決戦に参加出来ないことなど、彼らソ連軍の衛士たちにとってはなんら思うところがない些事だ。
 肝心なのは祖国が求めている結果を出すことなのだから。
 そうして彼らは進軍する。アトリエを目指して。



1997年 初夏 カシュガルハイヴ内部(アトリエ)

 その物質は、G元素のもつ特色を色濃く持ちながらなおかつ異端であった。
 G元素は全てあ号標的と呼ばれる重頭脳級からもたらされたレシピにより作成される。
 だがそれは違った。
 本来ならあ号標的しか使えない指令ラインになんらかの存在からの割り込みがあり、その物質の作成指示が出されていたのだ。
 あ号標的ですら知り得ない内に、その物質は精製されている。
 それが如何に異常な事か、BETAというものを知っている創造主でもない限りは知り得ない事ではあるが、本来あり得ないことであるのは確実だ。
 その物質、新G元素とも言えるその物質のもつ特性は、グレイ11の暴走によって持たされるはずのラザフォード場の潮汐変形・重力偏差効果、そして一定の時空間の歪みをもたらすことが、その物質単体でもたらすことが出来るというものである。
 つまり精錬されたG弾弾頭とも言えるその物質、それがなにを意味するのか?
 時空間の歪みを生み出すことにより、何をこの世界に取り込もうとしているのか?それともこの世界から追放するために?
 開発の指示を出した存在の意図は見えず、その存在もまた霧の中に包まれている。
 そしてその物質は、BETAによりとある場所に運び込まれることにある。
 大広間と呼ばれるあ号標的が鎮座する空間。
 そしてその物質とあ号標的が接続される。BETAは粛々とその作業を実施し、あ号標的はそれを受け入れる。
 すべては、雷雲率いるハイヴ攻略部隊が大広間に到達してから判明することであった。

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