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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その48
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2014/02/23(日) 17:59公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1997年 初夏 カシュガルハイヴ内部(軌道降下部隊)

 「ブラボー1より、アルファ1へ。ブラボー大隊全機、マップ上で確認されたアトリエとおぼしき場所に到達」

 「よし、周辺のBETAを排除後、G元素の確保を行え」

 「ブラボー1、了解。しかし、どうも妙です。雰囲気が違うというか…」

 その通信を最後に、先行していた偵察部隊のブラボー大隊との通信は途切れる。
 同時刻に期せずして米国軍と共にアトリエに向かう形になったソ連軍も、先行させていた別働隊からの連絡が途切れたところだった。
 アトリエの奥に入ると通信が途切れるような電波障害が起こるのか、それとも部隊が全滅したのか。
 全滅するにしては、なんの報告もなく一瞬にして壊滅するとは考えにくい。
 となれば、単純に電波が届かないだけか。

 「我が同士達よ、急ぎ進軍せよ。一刻も早くアトリエを制圧するのだ」

 「「「了解」」」

 ソ連軍のリーダーから全軍に向けて、指示が飛ぶ。だが進軍速度はすでに限界に達している。
 米国軍と同時に動くことで、シミュレーターを超えた進軍速度をたたき出していることは、指示を出した者も承知している。
 だがそれ以上に、急き立てられるような焦燥感が胸を焼いた。
 そしてそれは、米国軍のリーダーも同じだった。

 「ソ連軍もケツに火が付いたみたいだな、よし、我々もギアを上げていくぞ」

 「「「了解」」」

 かくして圧倒的なまでの進軍速度で、彼らは目的地であるアトリエへと到達する。
 そこにあるのは人間にはおおよそ理解できない構造物。
 そしてかすかに見られる戦闘の形跡。

 「ここがアトリエ…しかし先行したはずの部隊の影も形もないが?」

 広大な空間に米国軍、ソ連軍の各部隊が侵入していく。表だって敵対していないものの、相容れない主義主張を持つもの同士にもかかわらず、彼らの動きは規律の取れたものだった。
 先発隊があらかた食らいつくしたのか、BETAの姿は見えない。よく見るとBETAの残骸など戦闘が行われた痕跡があちこちに散在する。
 なのに通信は繋がらず、破損した戦術機の姿も無い。
 アトリエは沈黙に包まれ、戦術機がたてる駆動音だけが響いていく。それが一層不気味を誘う。

 「こちらチャーリー1、ブラボー大隊の機影確認できません」

 「アルファ1、了解。通信に反応もなしか…」

 先行したブラボー大隊は完全に姿を消していた。だが戦闘痕があることからここでBETAと戦闘をしたのは間違いないだろう。

 「こちらリェーフ1、スローン大隊の機影および痕跡はまったく見られません」

 「チーグル1、了解した」

 チーグル1と呼称した、ソ連軍最新精鋭機チェルミナートルを駆る衛士、この降下部隊のリーダーもまた事態の異常性に気づいていた。
 おかしい、戦闘痕からして連絡も出来ないくらの急襲だったとは思えない。
 ならば一体何が?

 「チーグル1、BETAが接近してきます」

 「ちっ、直ちに迎撃態勢をとれ!」

 「「「了解」」」

 ソ連、米国、両国の戦術機部隊の意識がBETAに対して逸れた一瞬、それは起こった。
 壁面を縦横に走る不気味な胎動するライン。そこから生えだした触手が手近な戦術機に突き刺さり浸食を開始するのと、通信機器がその効力を無くすまでまさに一瞬だった。
 アラートを挙げるまもなく、通信機器が沈黙する。そして戦術機がその不気味な触手に浸食されていく。

 「な、これは!?」

 変化に気づいたときにはすでに戦術機の管制制御までも乗っ取られ、中にいる衛士には手も足もでない状況になっていた。

 「た、隊長!助けてぇ!」

 助けを求める声は届くことなく、一機また一機と浸食されていく。

 「ちっ!」

 異変に気づき、跳躍で触手の攻撃を躱すチーグル1。
 しかし縦横に走る胎動するラインから死角なく迫り来る触手。一瞬にして絡め取られてしまう。
 勘の良い衛士が同じように触手を避けようと応戦するが、あまりにも多勢に無勢であった。360°全周囲くまなく襲い来る直径50cm程度の無数の触手に浸食されていく。
 そしていつのまにか銃声は消え、沈黙が辺りを支配する。
 そんな中、まるで操られるように米国、ソ連の戦術機は動き始める。向かう先はあ号標的が存在する大広間。
 今、BETAの、いや「次元干渉体」に新たなる手駒が加わったのである。



1997年 初夏 カシュガルハイヴ内部

 「わわわ、どうしよう、ねえ、どうしたらいいと思う、武ちゃん、武ちゃんがよりどりみどりだよ」

 「うるさい、落ち着け。というか、なんだ、そのよりどりみどりってのは。俺はバーゲンセールのバーゲン品か!」

 なぜか動揺しまくりの純夏に、武の突っ込みが入る。

 「というか、一体全体、なんなんです、これ!?」

 武が隆也に問いかける。

 「あー、あれはお前の残骸だよ」

 「俺の残骸!?」

 ぎょっ、とする武。それはそうだろう。自分の残骸などと言われていい気分をするほうがおかしい。

 「あ、じゃあ、私の好きにしてもいいんですか?」

 「純夏、お前なあ…」

 「まあ、事が終わったら好きにしていいぞ。まあ、事が終わったら多分消えてなくなると思うがな」

 呆れたような武の声と、冷静な隆也の返答。

 「消えてなくなる!?」

 「武、そなた消えてしまうのか?」

 「まあ、仕方ないわよね、なにせ私たちの敵に回っているんだから」

 「白銀、残念」

 「武さん、かわいそうですね」

 「武、ボク達、武のことを忘れないからね。

 ぎょっとした顔をする武、それに追い打ちを変えるように残りのマブレンジャー達が追撃を駆ける。

 「ちょっと、RAIUN、あまりからかっちゃだめじゃない、私たちに分かるようにちゃんと説明して」

 くじけそうな武を救ったのはまりもだった。

 「あいよ。結論から言うと、あの機体は白銀武が別の世界で駆っていた機体であり、それに乗っているのはその世界の武の意識体だ」

 「意識体?肉体がないの?」

 「いい質問ですね。その通り、あれは意識体で肉体となるものが存在しない、はずだったんだが、どうやらBETAの技術を使ってかりそめの肉体を用意してそこに、意識体を降臨させているようだな」

 「降臨って言うとなんだかかっこいいね、武ちゃん。それでそれで、その武ちゃんをうまく捕まえれば私の物してもいいのかな?」

 「うるせえよ、純夏」

 なぜかテンションがうなぎ登りの純夏と、逆にテンションがだだ下がりの武であった。

 「それよりも、別の世界ってどういう事です?」

 年少組一のインテリである千鶴が質問をする。

 「うん、これもまたいい質問ですね。この空間、どうやらあのあ号標的が次元の壁を薄くしているようなんだ。そのせいで本来ならこちらの世界に干渉できない存在が干渉してきている。同時に、平行世界間の空隙を埋める虚数空間から、そこに散らばっていた白銀武の因子を拾ってきているらしい」

 「平行世界、ですか?」

 「ああ、超時空因果律量子論、その基礎である因果律量子論を納めたお前ならわかるだろ?」

 「はい、確かに。ですが、平行世界間の干渉を可能にする存在なんて…」

 「それが今目の前にいるんだよ。厄介なことにな」

 珍しく億劫そうに答える隆也。

 「師匠、結局あの白銀、どうすればいい?」

 「ああ、あいつらはこの空間でしか存在できない不安定な存在だからな。とはいえ、一応別世界の武でもあるし。まあ、ダルマ程度で許しておいてやれ」

 「了解」

 なぜかやる気まんまんの慧である。そう言えば、模擬戦ではいつも武に負けていたな、と思い出す隆也である。
 どうやらその腹いせを、量産型白銀でする気のようである。

 「というわけで、方針発表の時間です、いえーい、どんどんぱふぱふ」

 「はあ、突っ込む気力も失せたわよ。はいはい、それじゃ、どうぞ」

 まりもが疲れ切った声で先を促す。

 「第十三戦術機甲大隊には後方のBETA駆除、A01部隊は前方の偽物白銀武部隊を相手してもらう。ちなみに白銀武部隊は、皆ダルマにしておいてくれ。下手に倒すとまた復活してくる可能性がある」

 「「「了解」」」

 「了解、と言いたいんだが、復活してくるってどういうことだ?」

 常識人の代表、小塚次郎中佐が素朴な疑問を投げかけてくる。

 「あー、なんというか、この空間は今特殊な状態になっているんですよ。無理を通せば道理が引っ込むみたいな?」

 「なんかよくわからんが、MANGAとかで出てくるご都合主義時空みたいなもんか?」

 「あ、それ、それです。それに近い状態です。この大広間全体がそんな感じになっているんですよ」

 「なるほどな、まさか本当にそんな事態に出くわすことになろうとはな」

 さすがにたまげた風に呟く小塚次郎中佐。

 「まあ、相手はあのBETAですからね、我々の常識は通じないって事ですよ」

 平然とうそぶく隆也。全ては自分の責任であることを自らばらすような男ではない。

 「了解した、我々第十三戦術機甲大隊は、後方にてBETAとドンパチやっておく。あの訳の分からん戦術機の相手はまかせるぞ」

 「ええ、任せておいてください」

 フォーメーションを整え直す第十三戦術機甲大隊と、前面に展開するA01部隊。
 そして向かってくるこの世には存在しない戦術機の部隊。それを駆るのは全て白銀武だったものだ。

 「さあ、見せてもらおうか、異世界の白銀武の実力とやらを!」

 ノリノリで宣言する隆也だった。
 まず突撃前衛である武、孝之、水月、冥夜が突っ込んでいく。
 相手は100機を越す戦術機だ。普通に考えれば圧倒的な戦力差であり、この突撃は無謀でしかない。
 だが最精鋭機迅雷を駆るのは、人外の紳士により鍛えられし因果の楔を断ち切る刃達。生中なことでは折れない。

 「孝之、行くわよ!」

 「おう!」

 まずは恋人コンビが突っ込む。
 それをフォローするように、冥夜、武組が後ろを詰める。

 「うぉぉぉ!BETAぁぁぁ!」

 相手の白銀はすでに理性を失っているかのように敵意と憎悪を乗せた絶叫を挙げる。
 ちなみに敵性白銀武を白銀、味方側の白銀武を武と呼び分けることにする。
 その叫びは本能的な恐怖を呼び起こすほどに敵意と憎悪に充ち満ちている。唯一の救いは悪意がないことか。
 そう、BETA戦では悪意は必要ない。必要なのは必殺の意志と強靱な戦意だけだ。
 そう言う意味では、今目の前にいる白銀達はまだ人の範疇に収まっているといえる。

 「BETA憎しってのはわかるが、俺たちは人間だぜ?」

 「そうね、こんなに可愛い女性を捕まえて、BETA呼ばわりはないわよね」

 「え?だれが可愛いって?」

 「私のことにきまってんでしょ、潰すわよ」

 「おお、怖っ」

 対するマブレンジャー組ことA01部隊はとことん軽かった。
 そしてそれでいて、その場に群れているどの白銀より強かった。
 かつての世界で史上最高峰の衛士と呼ばれていた、武御雷を駆る白銀武が、不世出の天才と呼ばれていた不知火弐型に乗る白銀武が、ほんの一合でダルマと化していた。
 あり得ない?
 いや、それほどまでに開きがあるのだ、戦術機に。
 まず、彼白銀が乗る戦術機、武御雷だが、確か彼のいた世界では第三世代では最高傑作の一つとして数えられていた。
 だが、それを制御するOSがお粗末だった。こちらの世界で言えば10年以上昔に使われていたOSに毛が生えた程度の代物である。
 しかもコンセプトというかベースが根本的に違うため、単純な年数比較は出来ない。デジタルとアナログを同じ尺度で比べるようなものだ
 次に装甲材と火力。
 突撃級相手に36mmで足止めできる火力を持つこちら側の36mm突撃銃と、白銀が持つ87式突撃砲の36mmでは子供と大人ぐらいの差がある。
 白銀が持つ87式突撃砲の120mmでようやくこちらの36mm突撃銃と互角といったところなのだ。
 隆也のコンセプトで36mm程度で機能停止になるような柔な装甲を迅雷が積んでいるわけはない。つまり戦う前の段階で圧倒的な戦力差が存在するのだ。
 ならば戦闘経験はどうか?
 確かに戦闘経験は白銀の方が上だろう。だが、その白銀と同等の戦闘経験値を持つ小塚次郎中佐をして、彼らのマブレンジャー達は別格と言わせる存在なのだ。
 戦闘経験云々前に、こちらも地力が圧倒的に違う。
 その結果が一合でのダルマ完成に繋がる。

 「武、自分だからと言って手加減はするなよ!」

 「へっ、なにいってるんだ冥夜。相手が誰であろうと打破するのみ!で、でないと、師匠の、師匠のあの阿部さん説教がががが!?」

 「お、おい、武、そなた大丈夫か?」

 「はっ!?い、いけねえ、あの地獄を思い出すと、今でも手が震えてくるぜ…」

 「そ、そうか、辛い思いをしたのだな」

 「ああ、あれが地獄というものだったら、俺は絶対に悪いことはしない。神様ボクいい子にしているから、地獄に落とさないでください」

 「武、武、また壊れかけているぞ!」

 「おおう、悪い、冥夜。くそ、これもそれも、おまえらが悪いんだ!」

 順調にダルマを量産している水月、孝之コンビの取りこぼしをそんな軽口を叩きながらダルマにしていく冥夜、武組。ちなみ武は少し壊れかけている。
 圧倒的だった。
 そして圧倒的であるが故に、彼らは見落としていた。
 自分たちが踏む込むその先の壁面、床に不気味に胎動するラインがあることを。


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