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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その49
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2014/03/02(日) 18:24公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1997年 初夏 カシュガルハイヴ内部

 「っ!?いかん、ヘタレ、武、下だ!」

 一番最初に変化に気づいたのは最前線で戦う突撃前衛ではなく、後方で戦況を見ていた隆也だった。
 彼らが足を踏み入れようとする先のハイヴ壁面を不気味に覆う筋状のライン。それは、リアルおてぃむてぃむと化したあ号標的に浮かび上がる筋と同じものであると、彼は看破していた。

 「下っ!?」

 「ちくしょうっ!!」

 慌てて跳び下がる4機の迅雷、そしてそれ目がけて凄まじい勢いで、ラインから触手状の物体が放たれる。

 「こんなもんっ!」

 勝ち気な性格のせいか水月は回避途中で、迎撃を選んだ。自分に向かってくる触手に対して長刀を振るう。長刀を振るって触手をなで切りにするその瞬間、触手の先端が複数に枝分かれする。
 そしてそれを待っていたように、周辺のラインから複数の触手が水月の迅雷を取り囲む。

 「A−02、迂闊だ!」

 それを救ったのは、激震AL。我らが神宮司まりもだった。
 目を疑う様なスピードで水月機に近づきながら、戦術機から見れば糸の太さに等しい触手を36mmで吹き飛ばす。
 一瞬にして水月機に近づき抱きかかえると、後ろに向かって放り投げる。遅れて自分も退避する。
 そのわずかな遅れが命取りになった。
 ハイヴ内を這うライン360°全周囲から、一斉に触手がまりもの駆る激震AL目がけて降り注ぐ。そしてそれを長刀と、36mmで迎え撃つまりも。
 長刀は先ほど水月機が対処されていることからそれを想定した軌道の斬撃を放つ。枝分かれする一瞬、長刀の軌道を変えて枝分かれする根元から叩き斬る。
 口で言うのは簡単だが、超高速の剣戟の軌道を変えるそのセンス。そしてそれを可能にする激震ALの関節駆動部の強靱性。共に化け物クラスである。
 激震ALの機体各部に埋め込まれているスラスターを噴かしながら、機体をぐるりと一回転させ殆どの触手を打ち倒す。第一世代の系譜に連なりながら、凶暴なまでの機動性を追求された機体、激震ALだからこそ出来る芸当である。
 その様は当に神業。現在衛士の中でこんな芸当が出来る人間などいないだろう。そして今後も生まれてくる事はないだろう。
 なぜなら、こんな恐ろしいまでの機動をする度に、恐ろしいまでのGという名の怪物が衛士を襲う。並の人間なら、内臓がシェイクされて、内臓ごと口からリバースしかねない。
 だがそれを行っても、平然としている。まりもが最強の衛士と称されるのには、それ故だった。
 ちなみにマブレンジャー達も平然とその程度のGには対応できる。だが、肝心の腕前となると、まりものそれにはまだ及ばない。

 「ハイヴ内のラインに気をつけろ。RAIUN、電磁投射砲であのラインをどうにかできないか?」

 「こちらRAIUN、今準備を終えた、これから砲撃に移る、いったん全員退避してくれ。」

 「聞いたか、いったん下がるぞ!」

 「「「了解」」」

 まりもの指揮の下、突撃前衛が下がると、それと交代するように雷雲から閃光がハイヴ内壁に向かって放たれる。
 がりがりと壁面を削る電磁投射砲だが、削ったそばから復活するライン。

 「ちっ、こうなりゃ、本体ごとぶっとばしてやらあ!雷雲、荷電粒子砲スタンバイ、撃てっ!」

 あ号標的から引き出せるだけの情報は引き出すことができた。つまり、AL4計画の主目的はすでに果たしたのだ。
 従って、わざわざ相手の茶番劇に付き合うこともない。
 そう判断した隆也は、荷電粒子砲で全てのカタをつけようとする。
 だが、

 『無駄だ。次元干渉体の影響を受けるこの空間において、わが次元監視存在の力もまた増大している』

 不気味な呟きが隆也の脳内に入り込むと同時に、あ号標的の前に壁のラインから放たれた触手の障壁が現れる。

 「し、師匠、あれ!」

 「はったりだ、遠慮せずに打ち込んでやれ!」

 取り乱す茜を鼓舞するように指示をだす。
 触手の障壁目がけて打ち出される荷電粒子砲。
 放たれる破滅必死の光の一撃。だがそれは、あ号標的にたどり着く前に霧散してしまう。
 いや違う。あ号標的の前に張り巡らされた無数の触手により食い止められたのだ。
 正確に言えば、分厚い壁のように展開された触手の群れを削りながら荷電粒子砲が前に進んだのだが、ぎりぎりのところであ号標的が展開した触手が押し勝ったのだ。

 「守り通しただと!?」

 『然り、この空間内での我らが存在は、より強靱な物となる』

 反撃とばかりに、あ号標的前面に展開した触手が雷雲目がけて繰り出される。
 それをラザフォードフィールドで押し返す。

 「ばーろうめえ、流石にラザフォードフィールドには歯が立つめえ!」

 なぜかべらんめえ口調になる、隆也である。

 『時間の問題だ。こちらは無限とも言えるエネルギーの供給があるが、果たしてお前達にはどれだけの余力が残っているのか』

 うぐぅ、とうなる隆也。
 確かにこちらは人間だ。疲労も蓄積すれば、戦術機のバッテリーにも限界がある。もっとも、迅雷と激震ALは、戦術機と衛士、ともにまだまだ戦える余裕があるが、問題は第十三戦術機甲大隊だ。
 彼らは戦闘のエキスパートではあるし、超一流の軍人だ。だが人間であることに変わりはない。
 半分人間を止めているようなタフネスを誇るマブレンジャー達と比較するのは酷だ。

 「なら簡単だ。その触手バリアが耐えられないほどの一撃を喰らわしてやるまでよ!」

 メイン、サブ合わせて5門の荷電粒子砲の砲門が輝きを増す。

 「必殺、雷雲フラッシュ!!」

 あ号標的はすでに触手の幕を張り終えている。それを突き破るべく、第二射目の荷電粒子砲が放たれる。
 だが敵もさらに数を増やした触手の幕で対抗する。

 「M314、全弾一声発射!」

 「了解、M314搭載自律誘導弾、全発射口解放、一斉発射!」

 おまけとばかりにM314搭載自律誘導弾を打ち込む。
 これは、触手の元になっているハイヴ壁面に向けて放たれる。

 「電磁投射砲、240mm、120mm、30秒斉射!」

 「了解、電磁投射砲、240mm、120mm、射撃時間30秒間」

 最後のトドメに電磁投射砲の一斉射撃をお見舞い。これもターゲットは壁面に走る胎動するラインだ。
 途方もない衝撃がハイヴの中心部に走る。
 通常の反応炉であれば、10回潰しておつりが来るほどのエネルギーをつぎ込んだことになる。

 「やったか?」

 「倒したの!?」

 その圧倒的な火力に、あ号標的が沈む姿を想像して呟く第十三戦術機甲大隊の面々。

 「あかん、それフラグや!」

 と思わず呟く隆也。
 その突っ込み通りに、もうもうと立ちこめる煙の向こうに、悠然とそそり立つリアルおてぃむてぃむの姿が。

 「BETAのおてぃみむてぃむは化け物か!」

 悲鳴のような声が聞こえる。
 隆也も心境は似たようなものだった。まさか、あれだけの火力を打ち込んで無傷とは。
 だが、その口元には笑みが浮かんでいた。

 「だが、賭には勝ったようだ」

 その呟きと同時に、リアルおてぃむてぃむの前にある最後の触手の障壁に切り込む戦術機の姿が。
 それは撃震AL、機体にはうっすらと黄色い燐光のような物を纏っている。

 「穿ち抜け!R.T決戦戦闘術裏四十八手が一つ、がとちゅえろすたいむふぃーばー!」

 ハイヴを揺るがすほどの衝撃を放ち、まりもの一撃が荷電粒子砲をすら防ぐ触手の防壁を打ち砕く。
 そしてそのまま、おてぃむてぃむことあ号標的、重頭脳級に破邪の一撃を加えようとする。

 「おっしゃ、いてまえ!まりもん!」

 「神宮司大尉!決めてください」

 「人類のために、そいつを!」

 みんなから一斉に歓声があがるが、肝心の撃震ALが長刀を振りかぶったまま、固まってしまったように動かない。

 「?どうした、おい、まりもんなにかあったのか?」

 「あ、あ、あ、あれは…私?」

 秘匿回線越しに聞こえてくるのは、震えるまりもの声。
 何事かと見ると、撃震ALの前に無残に頭を砕かれたグロ、もとい痛ましい状態の死体が浮かんでいる。
 そして恐るべき事に、その死体は一体だけではなく、二体。
 来ている服は、一体が国連軍の服装、そしてもう一体は普通のおとなしめの私服姿。
 二体とも、同じ人間のように骨格がうり二つだ。骨格がうり二つという言い方もおかしいが、全身の筋肉の付き方が違うため、そうとした表現が出来ない。
 だが、それ故に隆也には直感的に理解できてしまった。一体はまりも、そしてもう一体は別の世界のまりもの代わり果てた姿だと言うことに。

 「ちっ、どういうことだ、あ号標的さんよ!おれの女に何をした!?」

 『何もしていない、これはあるべき姿。本来のこの者がたどるべき未来。あるべき正しき未来』

 「!?AL因果による死だと!?まりもがあんなにも無残に殺されるのがあるべき未来だと!」

 隆也が激昂する。その怒りはまさに有頂天。

 「そうよ、隆也くん…これは私の運命、私のさだめ、あるべき正しい姿」

 まりもの口から言葉こぼれる。ぎょっ、とする隆也。モニタに浮かぶまりもの目は明らかに尋常ではなかった。
 うつろな目、精気のない表情。

 「ばかっ、まりもん、正気に戻れ!そいつが言っていることは一方的な運命の押しつけに過ぎない。そんな下らん運命なんざ否定しろ!」

 珍しく焦った声の隆也。

 『さあ、あるべき姿を乱された憐れな幼子よ。今こそあるべき姿にこの世界を戻すのだ』

 「はい…」

 「おいばか、やめろ!」

 隆也の絶叫が響くが、それは届くことなく、まりもの操る撃震ALは、触手に包まれていく。
 そしてその触手で出来た繭の中に、二体の死体が吸い込まれていく。いや、よくよく見てみると、その死体はうっすらと背景が透けて見える。つまり実体がないのだ。
 それを確認した瞬間、隆也の背筋が凍った。
 平行世界の確定した因果を持つ存在との融合。それは当にAL因果律の強固な肯定にほかならない。
 そしてゆっくりと、撃震ALを包んでいた触手の繭が裂け中からそれが現れる。
 撃震ALと同等のフォルムを指定ながら、至る所に浮き出る血管のような筋が縦横無尽に走る装甲。凶悪な光を宿すセンサーアイ。
 まさに闇に落ちた撃震ALというに相応しい禍々しさを纏っている。

 「ちっ、闇に落ちた撃震ALとか、笑えないぜ…」

 そんな自嘲をする隆也をあざ笑うように、隆也達が侵入してきたのとは反対側の門型BETAがゆっくりと開き、撃震ALと同じように装甲に血管のような筋を浮かび上がらせた米国軍戦術機、ソ連軍戦術機が現れる。

 「をいをい、今度は現実の戦術機を使うとか、お前の方がよっぽど因果律に干渉していないか?」

 ぼやく隆也の声に、声が応える。

 『この者達は、本来の因果律の流れであればすでに消えていた者達。ちょうど良いので使うことにした。さあ、虚数空間に散らばりし者達よ、こやつらを依り代にしてこの世界に現れよ』

 「げっ、まぢかよ」

 これで今までのアドバンテージであった、戦術機の性能差はぐっと縮まった。
 最新の技術をつぎ込まれた米ソの戦術機、そこに宿る英雄クラスの白銀の技能。
 はっきり言って、マブレンジャー達以外で相手できる存在はないだろう。
 しかもあの浸食された戦術機達のその性能はどのような変化を起こしているか想像もつかない。
 さすがの隆也も、ここまでの状況は想定していなかったのか、後手後手に回っている。

 「ちぃっ、らしくねえ、まったくらしくねえ。このおれが、紳士オブ紳士たるこのおれがこんなざまとはな」

 自嘲の声が響く。だが、マブレンジャー達はその台詞と声の調子に、彼が全く絶望していないことを感じ取っていた。
 本気で彼がやばいときは、夕呼とまりもに囲まれて説教を喰らっているときに嫌と言うほど見てきた。
 今の彼は、やっと本気になった程度だ。今までがチョロすぎたのだ。
 故に、マブレンジャー達は不敵な笑みを浮かべていた。

 「A−01からRAIUNへ。AL1が現在不測の事態により指揮が取れません。変わって代理の指揮官に任命を」

 「ああ、A01部隊の指揮はA−01リーダーに任せる。あと、リミッター1の解除を許可する」

 「A−01了解、聞いたか、各機リミッター1を解除。死力を尽くせ!」

 「「「了解!!」」」

 マブレンジャー達が一斉に答えた。声には高揚感が籠もっている。
 リミッター1を解除。すなわち、気増幅機能の解放を意味する。
 つまり、かつての先進撃震参型と同等の機能、いやそれすらを超える機能を発揮することが出来るようになるのだ。
 このことに興奮しない方が衛士としておかしい。
 敵にそれが必要なだけの戦力が現れた証拠であるのだが、そんなことに臆するようなマブレンジャーではない。

 「それで、AL1はどのように対応するつもりですか?」

 「決まっている」

 A−01ことみちるの問いに、紳士は静かに答える。

 「自分の女は自分の手で取り戻す。おれが出る」

 「ですが『雷雲』では難しいかと」

 「だれが『雷雲』で相手すると言った?おれが使うのは『撃震UL』だ」

 不敵な笑顔と共に隆也が口にした新たなる撃震の名前。
 撃震UL、みちるは自分が存在すら知らなかった戦術機に衝撃を覚える。

 「では、『撃震UL』は『雷雲』の中に?」

 「ああ、正確に言えば、『雷雲』の中枢部にだがな」

 「ではまさか?」

 「そうだ、『雷雲』とはあくまで『撃震UL』の真の実力を押さえるためのリミッターでしかない。これから真の『撃震UL』の力を見せてやろう」

 すっかりいつものノリを取り戻した隆也の姿そこにあった。
 敵はまりも操る撃震ALを始め、占拠された米ソの最新鋭戦術機、しかもBETAの不思議技術で魔改造された存在達。
 だが、それでもまだ、隆也の目には闘志の炎が燃えていた。

 「さあまりもん、華麗な舞踏を始めよう。下らん運命をぶち壊す、破滅と再生のダンスを踊ろう」

 雷雲がゆっくりと、雷雲の管制ユニット、撃震ULを内部から出現させる。
 そこにはガイナ立ちをする、撃震ULの姿が。
 フォルムは撃震を想起させる無骨さを持ちながらも、撃震ALの様な俊敏さを秘めている。
 どちらかと言えば、無骨さが勝つその機体は、撃震ALよりも一回り横幅が大きい。
 スピードよりも、パワーと防御力を優先させていることを伺わせる。

 「さあ、フィナーレの始まりだ!」

 声には押さえきれない戦意があふれていた。


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