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マブラヴ 転生者による歴史改変 歴史介入の章その50
作者:ぜんくう◆7RWKYcvP01c   2014/03/09(日) 17:45公開   ID:I3fJQ6sumZ2
1997年 初夏 カシュガルハイヴ内部

 オリジナルハイヴのメインホールは緊張感に充ち満ちていた。
 片や史上最強の衛士の駆る史上最高の戦術機、片や歴史上類い希なる紳士が駆る歴史上に名が残ることのない戦術機。
 言わずもがな、神宮司まりも操る撃震ALと立花隆也の操る撃震ULである。
 一方、200機近い米ソ混合の軌道降下部隊とそれに立ち向かうわずか12機のAL4計画の戦術機。
 虚数空間に散らばった白銀武の因子を宿らされた米ソの最精鋭戦術機と、マブレンジャーが乗る3.5世代とも言われる迅雷である。
 その光景を目撃した小塚次郎中佐たち第十三戦術機甲大隊の面々は後にこう語る。

 「あれは、人類の領分じゃない。神だ、いや、宇宙人だ。とにかくあれは、生半可な領域じゃない。おそらく俺たちでは一生かかってもたどり着けないだろうな」

 そんな恐ろしい戦闘が今、始まろうとしていた。
 ちなみにその間、メインホールにはBETAの流入はなく、第十三戦術機甲大隊は雷雲の後方に避難、もとい待機しておりこれから起こる世紀の一戦をかぶりつきで見ていた。
 なお、管制ユニットである撃震ULがキャストオフした雷雲は、現在情報処理専用量子電導脳で稼働している。
 こちらは00ユニットのように融通が利く代物ではないので、隆也が先ほどまでやっていたようなラザフォードフィールドの自由自在な展開などは不可能である。
 それでも管制官が1人いればハイヴを単独で落とす程度の能力は発揮する。
 従って、管制官であるマブマダーこと涼宮茜がいれば制御は可能なのである。
 茜にしてもマブデカの1人である。マブレンジャー達ほど超人的な身体能力を持たない代わりに、その情報処理能力などは同じ程度に高い。

 「孝之さん、お姉ちゃん、水月さん…頑張って」

 ヘタレのことを孝之呼ばわりする数少ない貴重な彼女の声に、3人がそれぞれ答える。

 「大丈夫だ、師匠ならかならず神宮司師匠を取り戻してくれる!」

 「うん、孝之君の言うとおりだよ。だから茜も心配しないで」

 「そういうこと。まあ見てなさい。私たちも白銀もどきなんて簡単に木っ端にしてやるんだから」

 威勢のいいこと果てしない。

 「そういうことだ、涼宮妹。我らが師匠は半端じゃない。まあ、多少は普通であって欲しいこともあるがな…」

 どこか遠い目をしてみちるがぼやく。だが、当然のことのように、眼前に展開する200機近い米ソの最新鋭戦術機を観察する目を弛めはしない。
 そんなマブレンジャー達の会話をよそに、雷雲の真上に出現した撃震ULを駆る隆也はテンションがうなぎ登りだった。

 「おお、まりもんよ、敵の手駒になってしまうとは情けない」

 などと大げさな身振り手振りで嘆いた振りをして見せている。
 何がしたいのかさっぱりだが、彼の中ではなにか意味のある行動なのだろう、多分。

 「だが、あなたの麗しのナイトが今こそその邪悪なる呪いを取り除き、必ずや、必ずや救ってみせますぞ、我が姫!」

 端から見ると痛い台詞だが、本人はノリノリだ。現状に完全に酔っている。

 「確かに、半端ないな…」

 武がげんなりと呟く。

 「ねーねー、武ちゃん。私も武ちゃんにあれやって欲しいな。私が捕まったら、やってくれる?」

 「アホなこと言ってんな。それより真面目にやれ、あとで伊隅さんに叱られるぞ」

 「もう、ノリが悪いな武ちゃんは」

 「あなたたち、もう少し緊張感を持ちなさいよ」

 さすがに武と純夏の会話を不謹慎だと思ったのか、千鶴の注意が飛ぶ。
 もっとも、一番不謹慎なのは彼らの師匠である隆也その人であったりするのだが。

 「緊張感は大事?」

 「うむ、適度な緊張は必要だ。だが緊張しすぎると普段の実力が出せない。あくまで自然体で、だが心を研ぎ澄ます、これが肝要だ」

 「壬姫は適度な緊張はお肌にもいいと聞きました」

 「そうだね、ナイフだけでホッキョクグマと戦ったときとかは、油断しすぎていて一度吹き飛ばされたっけ」

 「あはは…それでよく生きてるたね」

 「身体強化の訓練中だったんだよ。一応師匠も間近で待機していたしね。でもびっくりしたな。あのとき初めて大空を飛んだんだよね…」

 どこか乾いた笑いを浮かべながらの晴子の突っ込みに、どこかうつろな目で答えを返す美琴である。
 そんな緊張感が感じられない会話をしながらも、マブレンジャー達は誰1人として隙を見せることなく、敵と対峙している。
 そして、最初に動いたのは撃震ALをあやつるまりもだった。

 「速い!」

 そのあまりの速度に、みちるの口から驚愕の声がこぼれる。
 制止した状態から一瞬にしてトップスピードに乗った。間違いない、これは気による飛翔術だ。
 その速度はマッハに迫る。

 「ひゅ〜、いいスピードだぜ」

 一瞬にして距離を詰められたと思った瞬間、撃震ULは上空に退避していた。元いた位置には長刀を振り下ろした体勢の撃震ALがいる。
 少しでも退避が遅れていたら真っ二つにされていたことだろう。
 みちるでもあれだけのスピードにとっさに反応できるかどうか。
 恐ろしいほどの高速戦闘。流石は師匠達だと、思わず感心するみちるだったが、すぐさま頭を切り換える。
 米ソ軍団が動き出したのだ。

 「各員、戦闘開始、目的は相手戦術機の無力化。ただ乗っているのは同じ人間だ、くれぐれも殺さないように注意しろ。もちろん、万が一の場合は自分の身の安全を優先しろ」

 「「「了解」」」

 白銀の技術と、現代戦術機の戦闘経験豊富な米ソの一流の衛士たち。そして現在両国が揃えることが出来ることが可能な最高レベルの戦術機。
 それらが相手である。さしものマブレンジャー達でも分が悪いのでは?
 マブマダーこと茜の一瞬の不安も、次の瞬間には吹き飛んでいた。
 先ほどまりもが見せたクイックブーストアタック、おそらく普通の衛士では反応すら出来ずに気が付けば昇天している一撃。
 それをあらゆる場所でマブレンジャー達は披露していたのだ。
 先ほどまでの通常の戦術機ではなく、気力増幅機構による恩恵と、気の使用制限解放により、一機一機の戦闘力は凄まじいまでに増幅していた。
 迫り来る36mmの嵐を簡単に交わし、長刀で両手両足を断ち切っていく突撃前衛の一団。
 後方支援部隊は、的確に120mmを相手の両手両足に打ち込み沈めていく。その際に一瞬たりとも同じ位置にはいない。
 縦横無尽に動き、気がつけば壁面にへばりつき、気がつけば敵集団の側面に位置取り、その一瞬跡には敵頭上をホバリングしながら弾頭を雨あられの如くお見舞いする。
 一方的だった。
 白銀?なにそれ、おいしいの?
 最精鋭の戦術機?ふーん、それって迅雷よりも高性能なの?
 一流の衛士?それはあくまで普通の人のきじゅんでだよね?マブレンジャー達は半端ないよ?
 まさにそうと言わんばかりの圧倒的な蹂躙劇だった。
 迅雷一機が一個連隊をすら凌駕する、そんな光景が広がっていた。
 小塚次郎中佐を始めとする第十三戦術機甲大隊の面々は、その光景を呆然として見つめているしかできない。
 自分たちが介入する必要がない、というかすることが出来ない。
 多分足手まとい以外の何者でも無いだろう。そもそもあの機動はなんだ?
 静止状態からの急加速、そして急静止。間違いなく普通の人間ならGに耐えきれずに意識を失っている。下手をすれば死んでもおかしくない。
 そんな機動を鼻歌交じりに行っている。
 そして一方的に敵性戦術機を屠っていっている。
 しかも宣言通りに皆ダルマ。一機たりとも稼働不可能な状態に追いやっている。
 ご丁寧に迎撃後衛などの装備も残らず刈り取っている。
 そこには情け容赦というものが全く感じられない。圧倒的強者と捕食されるしかない敗者、明確に立場が別れた者達が存在する非常な世界がそこにはあった。
 唯一まともに戦闘を繰り広げられているのは、撃震ALとそれを操る神宮司まりもだけだった。
 一合一合、長刀同士がぶつかり合う度に、衝撃波がハイヴの大広間内に走る。

 「ちぃ、腕を上げてやがるな、まりもん。しかしその程度では!」

 脇下から小型荷電粒子砲をマウントすると、

 「いっけぇええええ、ヴェスパー!」

 気を込めた必殺の一撃を撃震ALに向かって放つ。

 「はぁあっ!」

 音速を遥かに凌駕するその一撃を、気合い一発で打ち消す撃震AL。

 「げっ、まぢか!?」

 慌てる隆也機に、急加速で突撃してくるまりも機。

 「くそっ、クロスアームブロック!」

 両手を前に突き出し十字型にクロスして防御を行う。その上から高速のショルダーアタックが叩き込まれる。
 吹っ飛ぶ撃震UL。勢いを殺すことなく、そのままハイヴ壁面に叩きつけられる。その衝撃にハイヴの壁面が一部崩れ落ちる。
 S11の爆発ですらものともしないハイヴの壁面が崩れるのだ。どれだけの運動エネルギーが発生したのか、想像するだに恐ろしい。

 「くぅ、やってくれるじゃないか、まりもん、…って、げっ、追撃!?」

 そう、壁面に張り付いた隆也に向かって無情にも追撃を行うまりも機。

 「R.T決戦戦闘術、表四十八手がひとつ、なっくるぱんち五月雨」

 感情のこもらない声が撃震ALからこぼれ落ちると同時に、轟音が響き渡る。
 数百発の気による強化が施された撃震ALのナックルパンチが、撃震ULを襲う。しかも撃震ULは壁に縫い付けられ、衝撃の逃げ場がない。

 「師匠!」

 とっさにみちるが120mmをまりも機に向かって撃ち放つ。こちらも気による強化が行われた弾頭だ。速度、威力共に従来平気の比ではない。
 にもかかわらず、まりも機はそれを気合いで堪える。

 「うそでしょっ!?」

 口にする反面、自分たちとまりもとの間ではその力量に大きな隔たりがあるのは知っていた。
 だが、まさかこれほどとは。
 しかし、如何に撃震ULが頑丈であろうと、あの調子で一撃一撃がS11の威力を誇るナックルパンチを受けていればいつかは損傷してしまう。
 あせるみちるをよそに、不意にまりもの連撃が止んだ。

 「まさかっ、師匠!」

 最悪の光景を想像し叫んだみちるの目に飛び込んだのは、どこか戸惑っているような撃震ALの姿だった。見ると先ほどまで殴っていた壁には撃震ULの姿はない。

 「ふははは、見たか聞いたか驚いたか、これぞR.T決戦戦闘術、裏四十八手がひとつ、残像だ、だ!」

 撃震ALの後方に、両腕を組んだ仁王立ちの撃震ULが立っていた。両腕の最初の連撃を受けたとおぼしき部分にうっすらと傷が残っているが、後は無傷だ。

 「それにしてもまさかここまでやるとはな、まりもんよ、おれは嬉しいぞ!さあ、もっと楽しませてくれよ!」

 完全に悪のりしている隆也である。まりもを救うことを忘れて、今この時を精一杯楽しんでいるようである。
 流石というか、なんというか、相変わらず緊張感の足りないことおびただしい。

 「あれが師匠かと思うと、誇っていいのか、恥ずかしいと思うべきなのか、複雑だな…」

 どこか達観したような様子でその様子を見つめるみちるだった。

 『何をしている因果の幼子よ。悩んでいるのか?迷っているのか?その持てる力を十全に発揮するがよい』

 重頭脳級と同一化した次元監視存在、そして次元干渉体がそんな不思議な発言をする。
 そしてその意味を悟った隆也の背中に冷や汗が一筋伝う。

 「わかりました、これより気増幅機構を全機解放します」

 「うぇ!?」

 それは隆也にとって大仰天な宣言だった。
 今までまりもは撃震ALに存在する気増幅機構を使っていなかったと言うことだ。
 気増幅機構は繰者の気力を増幅するものである。しかも一つなら10倍、二つなら100倍と乗数的に能力が増えるのだ。
 撃震ALが積んでいる気増幅機構は、二つ。つまりこれからのまりもは今までの100倍の気力を操る事が出来るのだ。
 これまで余裕ぶっていた隆也でさえ、まりもの気力が100倍になっとなれば話は別だ。
 余裕がなくなってくるのも頷ける。

 「えーと、まりもさん、そろそろ正気に戻りませんか?」

 「因果を乱すもの、その存在を滅せよ」

 感情のこもらない平坦な声。だが、それには今まで感じたことのない凄みが感じられた。
 同時に機体から放出される気の量が格段に多くなる。
 今までが小川のせせらぎだといえば、今度のは大河の激流だ。
 相手が悪すぎる、それがマブレンジャー達の一致した見解だった。
 自分達の迅雷にも気増幅機構が2機積まれている。
 それをフル稼働しても、今のまりもには遠く届かないだろう。
 それだけの気の量だ。そしてあまりにも密度の濃い気、つまり質もすさまじい。

 「あははは、こりゃまいったね…」

 対峙する隆也にとってはただ事ではない。
 なにせ兎程度に思って対峙していたら、実は獅子だったというのを今地でいっているのだ。
 だがしかし、なにか忘れていないだろうか?
 そう、彼は因果の反逆者、そして他者のステータスを見渡すもの。
 そんな彼が相手の戦力を見誤る?果たしてそんなことがあり得るのだろうか?
 彼は待っているのではないか?何かを。
 そしてその何かは、今成層圏をぶち抜いてやってきている真っ最中だった。
 それがなになのか、言うまでもないだろう。
 まりもといえば、その存在。まりもの天敵と言えば、それ。
 つまり、まりもにとっての天敵の到来を彼は待っているのであった。
 その天敵とは果たして?
 隆也は不敵な笑みを浮かべながらまりもの荒ぶる姿を見つめていた。

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