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青年冒険譚〜武人大国救済伝〜 第四話:タタカイ・ノ・ヒブタ
作者:マスカレイド   2014/03/21(金) 14:59公開   ID:8YA7Hr6Ij6Y
やれやれ、何やったんや、今日のアレクは……
変にテンション高かったなあ。
突然旅の話で深刻な顔したり、小難しい顔したと思ったら年相応の無邪気な笑顔を見せるし、
急にはしゃいだり、何よりよう喋りおったなあ……あんなんだったっけ?
いや、まあアレが本当のあのコかもしれへんのやけどさ……

「……ん、おいし。はい、あげる……」
「あ?ああ、おおきに。」
なんや、これ。木の実か?結構旨いな……せやけど、こんなん買ったかな……?

――――その時、僕は、何故かほ……と胸を撫で下ろす彼女について深く考えませんでした……

――――――――――――――――――――――――――――――――――
数日後、例の二人組みは未だ目をつけた少女を探せずにいた。
「チッ!こっちかてボーナスかかってんのに……て兄ちゃん!クリームソーダ飲んでんじゃねぇ!」
せっかくの稼ぎ時に限ってなかなかたいした進展が見られない事態に少々苛つく弟分だが、
兄貴分は対照的にノンキにカフェで一服していた。
「まあ、グチャグチャわめいてもしょーがねぇよ……
敵さん、がいつ動くかなんて、誰が興味持つのよ、エェ??」
そう言い、余裕の表情を見せられては弟分もさすがに言い返せない。
「しかも、俺らが一方的にマークしてるだけの敵さん、逃げらりゃしねぇよ。」
そう言い、席を立つ兄貴分は会計を済ませた後、マスターに、
「悪いんだけどさ、幼女つれた銀髪の兄ちゃんがここ来たら俺に連絡してくんない?
ああ、なんか女の子にしちゃ趣味おかしい人形抱いてるヤツね。コレ連絡先。あと……」
先払報酬(チップ)だ、みんなで分けな。そう言い、千円を十枚も渡してそこを後にした。
細工流々な彼に感心する弟分に対し、兄貴分はしたり顔で答える。
「は、今までの仕事の報酬使わずに貯めてとっといたのが、こーゆー時活きんのよ。」
※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※   ※
「はぁ〜、わくわくしてきたぜぇ……お、」
「兄ちゃん、やったぜ。映画館のネェちゃん、レストランの店長その他色々釣ってきた。」
公園で用を足した兄貴分の元へ情報収集策を打ってきた弟分が戻り、駆け寄ってくる。
軽くハイタッチをし、二人は適当に街を練り歩く。
何せ学校=都市なのだ。学生の寄り場としてもデートスポットとしても充実している。
まさしく『リアルに充実した街』なのだ……

とりあえず、周りにも聞き込みしとくか……

「グレー系の銀髪で男……ああ、和泉アラタ君か?関西弁の気さくな、いい少年だろ?」
この学校で教師をやっているという眼鏡をかけた渋い男性がにこやかに言う。
「え?初等部くらいの女の子を連れてる?いや、知らないね。」
「ああ、ありがとうございました。」
「いやいや。こちらこそお役に立てなくてすまないね……」
そう言い、二人を見据える男性の眼は先ほどの穏やかな視線から、鋭く怜悧なものになっていた。
実を言うと、ここ、麻帆良学園およびその都市一帯は、一般世間に存在を伏せている
「魔法」及び「魔法使い」が運営しており、彼、高畑・T・タカミチもその関係者である。
また、そちらの世界では超の付く有名人であり、先程の二人の邪悪度くらいなら感知できるのだ。
しかし、教師という立場上、いきなり敵という確証のもてない人を殴ればその立場は危うい。
「(すまない、アラタ君。君にもとんでもない運命が舞い込んできたようだ)」
でも……、高畑は苦笑をもらすが、すぐに希望を持ったような笑顔を見せ、
「(君ならきっと乗り越えられるだろう。頑張れよ……)」
そう心の中でつぶやいたのであった……
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「アイス好きだな!!!!」
スーパーでアイスを買う兄貴分に対し、
弟分は先ほどのクリームソーダの件も合わせてあきれ果てる。
「は、まあ良いじゃネェか。かなり有力な情報を得たんだ……」
兄貴は不敵なしたり顔でアイスに舌を伸ばす。
彼らが得た情報、それはここ、「SUPER・MAHORA」のレジ係の一人であった。
どうやら名は和泉アラタ、高三。どうやら小さな女の子を連れているのはつい最近らしい。
そして彼はよくここを利用している。ということであった。
「はは、そいつぁ良い。今が旬の男子高校生がカラオケよりスーパーたぁ判りやすいな。」
タバコをふかしながら弟分は半ば呆れたように、
しかし高校生らしからぬ意外な一面に若干の興味を抱いていた。


……と、その時であった。

「ヤバイ!隠れろ!!」
兄貴分に引っ張り込まれ裏に隠れる弟分。
念のため言っておくが、彼らは自分達のことが勘付かれていることを知らない。
しかし、それでも二人……アラタとアレクが来たときにとっさに隠れたのは本能ゆえであろう。
店内に入っていく二人を見たのち、彼らは今までで最も邪悪な笑みを浮かべる。
「んじゃ、テハズ通りにな……」
「おうよ兄ちゃん……」
兄貴分と弟分の右手左手はそれぞれ赤と青の鱗がびっしり生え、長く鋭い鉤爪を着けていた。
彼らは人外の暗殺者(アサシン)である。
確かに彼らはアラタの情報提供の為に準買収活動を行ったが、あくまでもそれは保険をかけたに過ぎない。
本当の手口、それは……


「和 泉 ア ラ タ の 殺 害」である。

密かにアラタを殺し、速やかに少女をさらうのだ。

二人の後をつけ、今か今かと爪を構える……
二人が野菜売り場で立ち止まったときであった。
兄貴分がアラタの背後に回り、弟分が脳天めがけて跳ね上がる……

「アラタ……先に、魚見よ……?」

不意にアレクが戸惑う顔のアラタの手を引き、そこを後にする。
念のために言っておくが彼らはプロアサシンだ、その豪快に見える手口は常人には見破れない。
つまりは、バランスを崩して倒れこんだ二人の姿は突然転がり込んだ変人にしか見えない。
「く……クソウ……まさか、気付かれてたとは……」
痛む尻をさする弟分。さすがにプロにもなると、今の一見気まぐれのような彼女の行動の意味が分かるのだ。
そして腹を強打した兄貴分は泣きそうになりながらも笑い出す。

「ふはは、引っかかったな……いつまでその手口で持つものか……」
そういう兄貴分に一瞬、弟分は不思議そうな顔をするが、すぐにその意味を理解する……

――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっぱり勘付かれてたんだ……私はにじむ汗をぬぐい、呼吸を整える。
いつぞやの二人組、どうやらアラタを殺す手に出たみたいね……
でも、そんなことさせない。彼が「アノオカタノキボウ」になるんだから、死なせるわけにはいかない。
さっきは何とか回避できたけど、いつまでこの手でいけるかしら……
「ん〜……お、イワシ八匹詰めで400円か。買いやな。」
何も知らない彼がのんきに魚選びをしている。
多分本当は充分怪しまれてるんだと思う。でも、今はまだ、コレしか手段がないから仕方ないの。
ごめんね、アラタ……

……なんて、考えてる場合じゃないみたい……
アイツらがまた、アラタの心臓を狙ってやってきた……
何か自然に方向転換をさせる策を選ばないと。
そう思って、辺りを見回し……
「(もらった――――――――――!!)」
「(死ね―――――――――――!!!!)」
二人が両側から飛び掛った時、今だ―――――――――――!!!
「さーて、野菜やさ……」
「アラタ、まずはお肉にした方がいいよ!!タイムセールなんだって!!もうすぐ終わっちゃう!!!」
そう言い、私の指した方向―――肉のタイムセールののぼりを軽くみて、
「うお!イケネ!!!急がんと……て、ウワァ!!!」
素っ頓狂な声を上げる彼を強引に引っ張っていく……
突然仲良く二人で頭をぶつけ合っちゃった様子をみられた彼らはどんな気持ちなんだろ……?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
互いの頭を強打し、悶絶してうずくまる二人、しかし屈強な兄貴がすぐ体勢を立て直し、
「逃がすか!!とっとと肉行くぞ!!TSが終わっちまう!!」
「おうよ、畜生!!」
若干の焦りと相手のペースに落としこまれた忌々しさに若干ぶっきらぼう気味に二人は駆け出す。


が……

結局そこでも間抜けな醜態を晒すことになってしまった二人。
ようやく野菜売り場に行ったところを追いかけようとする弟分だが、兄貴分はその手をつかむ。
「?……ぁんだよ兄貴。」
「まあ、待てよ、こんなことしても埒があかネェ……チェンジだ……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
いや〜、今日のアレク、結構気が利くっちゅう意外な一面見せてもろたわ〜
お陰で折角の激安肉を逃さずにすんだからな〜。
案外、買い物じゃ役立つかもしれんな、このコ。
「ふぅ……」
一息ついてアレクが僕に喋りかける
「疲れたね、どっかの喫茶店で休も。」
お、ええな。賛成や。僕は彼女の提案のもと、カフェに向かっていった……
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ッチ、うるせぇな……弟分は苛つきを必死に押し殺していた。
実は先ほど……

「すいません!この二人、さっきからあの人たちの後をつけてるんですけど!!」
二人の女子高生が兄弟分達の元に警備員を連れてやってくる。
「「ハァ―――――――――――――――――!!!!」」
「君達、ちょっと話を聞こうか。」
そう言い、二人の手を引いていこうとする警備員。
「は?何かの勘違いですよ。ちょっと、僕ら忙しいんで離してください。」
「思いっきりあの二人の行く先々で派手にスッ転んでたじゃない!」
そういう女子高生に誤解だ誤解だと言い張る兄貴分に物分りの悪い人間(クズムシ)に苛付く弟分。
自分達をストーカーストーカー言って群がるほかの客達が彼のイライラに拍車をかける……
とその時、ふいに意外なことが起こった―――――――――――!!!

「ヒ―――――――――――――――――!!!!」
瞬時に青ざめる警備員。その喉元には―――――――――――――
「なんでもネェッつッてんだろ……あと『言いがかりつけんなクズガキ……!』」
彼らのあのおぞましい手の爪が突きつけられていた。
更に、それを皮切りに通報者にも脅しをかける弟分。
今にも泣き出しそうな蒼白な三人に爬虫類を思わせるぎょろついた目つきにうごめく舌を見せ付ける。

恐怖におびえて、哀れ身動きの取れぬ空気を後にし、二人は店を出る。

通報者や見ていた子供は泣き出し、ギャラリーも本気で恐怖を覚えた。

だが、そんな自分達の足元にも及ばぬ塵芥(ニンゲン)に彼らは興味の欠片もない。
その脳に焼き付けているのは「人形を抱いた少女」とその確保によって得られる「巨額の報酬」だけだ……

「しっかし、珍しいなぁ、兄ちゃんよぉ……」
弟分は彼の思い切った行動に今だ顔が青ざめている。
「は、こっちゃ忙しいッつうのに邪魔なんだよ馬鹿野郎……!!!!」
実を言えば、彼は先述のようにのんき且つ気長に仕事をこなすタイプで、
暴れやすい弟分よりは格段に穏やか、今のようにガチギれることなどめったにないタイプなのだ。
改めて兄貴分の恐怖を思い知りなおした弟分だが、
「あ、はい。もしもし〜。お?マジで!!?オッシャア!!ありがと!!」
不意にかかってきた電話に対し、さっきまでの殺気はどこへやら、ルンルンと応えだしたのであった。
おい……、小さくつぶやいて弟に呼びかける兄貴分。
まさかと思い、期待に顔をほころばせる弟分に向き直る彼は……


「喫茶店だってさ。」

満面の笑顔でそう言った……
――――――――――――――――――――――――――――――――――
先ほど、あの兄貴分がクリームソーダを堪能していた喫茶店で一服する二人の男女……
「……!(マズイ、来る――――――――!!!)」
アレクは何かを感じ取り、席は立ちたいがまだアラタも自分も飲み終わっていない。
焦りでそわそわする彼女だが、今回はさすがに撒けなかったようだ。
店に入ってくる二人組み……次の瞬間、人外の速さで彼らとの間合いを詰め……!


――――――――バン……!――――――――――――


兄貴分が、二人の座る机を鈍い音を立たせながら叩いた。
しまった……、そう言いたそうな残念がる顔をするアレクに対し、
アラタはキョトンとしながらもその表情は「アァン!?」と言いたそうな不機嫌顔だ。
アラタは生まれてこの方、理不尽な威圧に対して怯んだことはない。
そんな彼にとって、突然柄の悪い連中に言いがかりをつけられた以上当然の反応だろう。
「ちょっと、良いかな?」
「……?どうしました?僕らにあったことあります??」
比較的穏やかに言う兄貴分に対し、探りながらもアラタは答える。
「いんやいや、実はそのコ……」「実はその人形……」

二人で同時に満面の笑顔でアラタに迫り……

「家出子なんですよ〜」「盗難品でしてね〜」
「バレたら、アンタが誘拐犯及び窃盗補助でパクッスよ……?」
おどろおどろしい嘲笑で青年を脅しかけるが……

「ゥガ……ハッ!!!」 「ゴッホォエエエエ……」

「!!!!アラ……タ……?」

「アホか……『僕のイメージに基づいて』『卵から産まれた』んやで?盗品な訳ゃ無ぇやろ。」

彼は自分より間違いなく年上の二人に対して、木刀で腹を突く、という荒業を行ったのであった。
その上、むせて苦しむ二人に対し、この駆引き最大の失敗を抉るという頑丈な精神。
さすがのアレクでもその事態には驚きを隠せず、その表情は現時点までで最大に驚愕の意が示されていた……
ほんじゃ、マスターに勘定を渡し、アレクを軽々と胸元に抱えるなり……
「はい、サイナラサイナラサイナラ!!!」

勢い良く喫茶店から駆け出す―――――――――――――――!!!
「このクソ!!」
途中、自分に襲い掛かろうとする弟分に木刀で足をかけてこけさせ……
「やるなニンゲン、だが一箇所しか見てねえのは利口じゃネェな!!」
その犠牲のもとにアラタを一息に殺さんと飛びつきかける兄貴分だが、
どこから取り出したか幅広で大きな木刀に薙倒され、間抜けを声を上げて弟分に重なり倒れてしまう。
「悪いな〜、木刀は一本やあらへんのやで〜??」
デカイ木刀『大桐咲』と弟分を転ばせた細身で長い木刀『鬼樫魔』を肩に預け、
ドヤ顔で不敵に笑う少年は改めて店から去っていった……

しばらくの後、二人は立ち上がり、肩を小刻みに震わせていた。
「なんだよ……アイツ……なんなんだよぉ!!!」
「もう我慢行くか!!殺してやらぁ!!!!殺 シ テ ヤ ル ヨ ! ! ! !」
そういう二人の表情は先ほどスーパーで見せた顔など比では無いおぞましさを含み、
更に、元々血の気の多い弟のマジギレ顔さえ、兄貴分の顔は凌駕しているのであった……


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■作者からのメッセージ
すいません、予定狂ってバトルパートは次の次です。
ちなみに木刀の名前は描写を楽にするため、材料の木から考えました。
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