ついに本性を現したアレク捜索コンビ。
しかし、それにも動じず挑発をする、
鋼のような精神を持った和泉アラタは予想外に強く、それはさすがのアレクも見越していなかった。
人外であるにもかかわらず、人間風情に撒かれた暗殺兄弟はついに怒りが頂点に達したのであった……
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「殺ス……!コロス……!絶対ニ、許サナイ……!!」
「冗談ジャネェ……!コッチャボーナス懸カッテンダヨ!!」
そういうなり、二人は一気に力を抜き、不気味な佇まいを見せた後、
「「ハアアアアアアア……!!!!」」
おぞましく叫び、それぞれが蒼き疾風、紅き迅雷のような速度でアラタ達の後を追う……
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「……!!アラタ!来た!人気の無い場所まで逃げてぇ!!」
抱えられたまま、的確な指示を下すアレクを頼りにひたすら二人から逃げるアラタ。
しかし、さすがに何時間も走ったのか、疲れが見えてくる……
だが、なにより、今の気持ちは……
「少なくともお前が家出子じゃないのはわかっとるけどさ、なんでアイツラお前狙っんの?」
とりあえず一番の疑問をぶつけるも、
「…………あっちを右に曲がれば、原っぱに出るよ……!!」
何故か彼女は答えてくれず、ただひたすら逃げることを最優先していた。
「いたぞ!追え!!」「待てよゴラ!!」
時々彼らの声が聞こえてくるが、そんなことを考えておく余裕など無い。
「なんや、分からんけど、アイツラ、ヤばぃな……」
少なくともその程度のことを考えるので精一杯なのだ。
「……ッ!……ッ!……ぃよいしょ―――――――――ッ!!」
アレクを抱いたまま背中から草原に向かって疲れに任せて倒れこみ、水を軽く飲むアラタ。
「……!ッ!ったく、なんなんや……?」
しばらく休もうと思っていたが、そうも行かないらしい。
彼らが自分達の目の前に立ちはだかったのだ。
「……ハ、もうにがさねぇぞ……!」
「死を覚悟しときな、ガキ。アノ温厚な兄貴をここまでキレさしたんだぁ。」
切れたいのはお互い様や……、そう言うアラタもまた、相当不機嫌であった。
「何が望みや……?」
「簡単なことだ……!そのガキと人形をぉ……、こっちによこせ!!」
「だからそれが何でって聞いとるんや、ドゥアホ!!」
ドスを聞かせて喰らい付く兄貴分だが、アラタも臆することなく聞き返す。
それを聞いたとたん、弟分の方が狂ったように笑い出す。
「お前、まだそいつに騙されてんの?さっさとしないと死ぬぜ?ソイツはなあ、
『お前を』『自分の都合で巻き込んで』『命の危険に晒そうとしてる』悪魔なんだよぉ。」
それを聞くが、当然アラタには、アレクをさらうための嘘口実にしか聞こえていないようだ。
「確かに、こいつは不思議やけど、そんな感じはせんよ。なぁアレ『ゴメン……』え?」
不意に悲しそうな顔を見せて謝るアレクにアラタは疑問を感じる。
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ごめんなさい……私は、とある『世界』の破滅を防ぐ為に貴方のような
『導かれた存在』を見つけて、命をかけてもらうことにしていたの……
でも、迷いもあったよ。だって、アラタはすっごく暖かくて良い人で、
もし、死んじゃったらどうしようって……でも、私達の世界を思うと、
背に腹は変えられないとも思っていて……
本当に……ごめんなさい……
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「アレク……」
気まずそうに黙り込むアレクに対し、アラタは言葉が出ない……
と、突如、兄貴分も笑い出す。
「なるほどなあ!!道理でそのガキを巻き込まないように進んで捕まろうとしなかったわけか!なかなか大した……」
アレクを嘲るように舌をたらしてにらみつける兄貴分は言う。
「バ カ だ よ ぉ ・・・・・・!『…って……!』んあ!?」
「……れ……て、それだって考えたよ……でも、できないよ、そんなこと……」
だって……、そう肩を小刻みに震わせ、拳を強く握りながらアレクは続けた。
「アラタは、あの御方の……!私達の世界の……!!希望だもん!!!」
彼女は始めて泣いた、いつでも無機質に振舞っていようとする彼女でも、限界はある。
止め処なく涙があふれ出る。きっとアラタにも身勝手さから嫌われただろう……
彼女がそう思い、あきらめかけた時だった。
「『これから何があっても驚くな』……」
「……!?」
優しく彼女の頭を撫でる暖かな手の感触が伝わる……!
「『今度の旅では死ぬかもしれない』……ようやっと分かったわ、本当のお前が……」
そう言い、アレクの目元を静かに、撫でるように拭う少年、和泉アラタは笑顔を見せる。
「ありがとな、本当のことを話してくれて。その、『異世界』的な話はいまいち分からんけど、
もし、君が途中で僕を導くのやめてたら……むしろ恨んどったで。」
「ア・・・ら……た……」
彼に抱きつき、アレクは涙をひたすら拭う……
そして、二人組みに向き直るアラタ、その瞳は今までで最も怒りに震えており、
青筋が眼に見えるほど浮いていた……
「んで!?テメェラ結局なんなん……?屋上には……いかんでエエけど……
久しぶりにキレてもうたわ……えぇ年こいたアンちゃんがこんな小さいコ泣かしやがって……」
それにもかかわらず、萎縮することもなく、相変わらずヘラヘラした態度で二人は答える。
「ゴチャゴチャウッセェンダヨ!!ニンゲンとかいうクズムシ種族のガキが!!
俺らの依頼者(クライアント)にとって将来の脅威になりうる
『人形を抱いたガキ』の対処をすりゃ俺らは高けぇ報酬をもらえんだよ!!さっさとしろ!」
「金が入んなきゃ、こんなメンド臭せぇことなんぞ今更やってネェよ!!
だいたい、そのガキが嘘付いてねえって保障あんのか!!?」
しかし、それがアラタの怒りに拍車をかけるには充分だったようだ……
「もう、お前らえぇわ。金しか考えネェヤツが仕事できるわけあらへんやろ……!あと……僕とアレクは……」
そう言い、幼い少女の肩に手を回し右手から大木刀「大桐咲(オオキリサキ)」を取り出すアラタは
「それだけ信頼できる絆があると言ってもらいたいなぁ……」
不敵な笑みであり、それを聞いたアレクは、自分が思っていた以上に、
彼が大切に想ってくれていたことに赤面しながらも嬉しさで涙を流す。
「アラタ……ありがと……」
「……ッ、フッフッフッフッフ……ハーハッハッハッハッハ!!!何か勘違いしているようだなあ。」
彼らはプロの人外アサシン、先ほどは油断こそしていたが所詮人間、増してやガキの気迫に押されるほど脆くは無い。
「俺らの依頼(クエスト)は厳密には『人形を抱えた少女』の対処、何も確保なんざせずとも……」
ビクビクと脈打つ体が気味悪さを増していく。
「要は『人形を抱えた少女』を殺しても良い訳だし、そいつに導かれた奴も殺しゃぁ……」
ギョロギョロと見開かれた目玉がアラタ達を見据え爬虫類のような顔つきに変わり行く……
「「報酬増してくれるのよ、ハァアアアア!!!!」」
「!!!!!」
次の瞬間、アラタはついにアレクの言っていた本当の意味を理解した。
服を破り、おぞましい異形の正体を現す二人組み……
兄貴分は真赤な肌、弟分は真青な肌で道着を纏い鋭い鉤爪を着けた瓜二つの竜人へと変わり果てる。
彼らは、俊敏さと鮮やかな爪捌きで暗殺を働く『ふたご座の化身』……
「「狭間の仕向人(エージェント)、暗 殺 兄 弟 (アサシンブロス)!!!!!!!」」
「な……なんや?お前ら……」
先ほどまで強気であったアラタはここにきてようやく恐怖を感じ出す。
多少青ざめた顔を汗が次々と伝う。
しかし、それでもアレクは自分が守らなくてはならないと、後ろに下がるよう支持し、
大桐咲と対の細身の木刀『鬼樫魔(オニガシマ)』も構え、相手を睨み付ける。
「行くよ、アラタ……」
「んあ?駄目やろアレク。下がっとき。」
不意に隣で構える少女の声に答え、軽く眼をむけるが、そこに居たのは―――――――――
「え、え―――――――――――――――――!!!!!?」
紫色の騎士のような上半身で機械のような下半身の斧を持った異形、
要はアレクのいつも抱いてる人形が人間大になっているのであった……