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黒の異邦人は龍の保護者 # 23 “battle finished. family will start. ―― 死神が見る夢は黒よりも暗い暗闇か ―― ”『死神の涙』編S+A
作者:ハナズオウ   2014/05/18(日) 10:24公開   ID:nfkOeDNADCQ



    ◇

 後の世にネットや学校の至る所で語り継がれる都市伝説――『パンドラ事件』が生まれた夜。

 それは2つの勢力がたった1人の極東の少女を救う為に戦った、1時間に満たない出来事。

 シュテルンビルトを襲った20分の停電から事件は始まった。

 黒の死神はHERO達をすり抜けて製薬会社パンドラの中へと侵入した事より事件は本格的に動き出す。

 唯の製薬会社の中には大量の銃の所持と覚醒兵の存在がHERO TVによって世に知らされる。

 各HERO達がパンドラ内へと入り、契約者たちを撃破していく。

 バーナビー・ブルックス.・Jrは神隠しにあった天文学者の“ニック”を救い出す事に成功する。

 黒の死神と接敵していたワイルドタイガーは救出対象の“牧宮蘇芳”を救い出すことに成功する。

 次にドラゴンキッドと折紙サイクロンにより契約者“鎮目弦馬”確保。

 時を同じくして、黒の死神がハーヴェストを発剄により撃破する。

 “パンドラ事件”は神様さえも語らぬ都市伝説の最後の1ページに突入したのだ。


    ◇




 静寂に包まれる室内。

 大量の血液を吐き出しつつ崩れ落ちるエリック西島の肉体。

 肉体には大量の穴が開き、どうやっても助からないのがわかるほど穴が開いている。

 黒はこの殺し方に覚えがあった。

 『契約者』魏 志軍ウェイ チェージュンの能力による殺し方だ。

「魏……志軍」

「ええ、よくここまでたどり着きましたね。BK-201.

 おめでとうの言葉と共に伝えましょう」

「お前が殺したのか……」

「まぁ、『トカゲの尻尾切り』したと言い換えておきましょうか。

 そういえば……あなたとは決着が着いていませんでしたね」

 物陰から現れた魏は不敵な笑みを浮かべている。

 スラッとした体形に吊り目のアジア人。

 黒髪を逆立てて好戦的な印象を与える。

 何よりも戦闘に生きていた証であるかのように、顔の半分に火傷の跡が残っている。

 魏は手首が切れた右手に力を入れる。

 ブシュっと鮮血が飛び出し、魏は右手を振りかぶる。

 魏の戦闘体制を見ても、黒は動くことが出来ずにいる。

 代わりに黒を支える黄が黒を庇うように半歩前を出る。

 魏は嘲笑い、右腕を下ろす。

「姫に守られる騎士に興味はありませんよ」

 不敵な笑みをこぼす魏はポケットから包帯とナイフを取り出し、血を流す手首に包帯を巻く。

 魏の血が着いたナイフを黒達へと放物線を描くように緩やかに放り投げる。

 お互いの中間地点に来た瞬間に、魏は能力を開放してナイフを破砕する。

「いずれ私達はまた殺し合えますよ。

 その時にはお互いに万全の状態でやりたいものです。

 ――ブリタ」

 魏の言葉に反応して、魏の横にランセルノプト放射光が灯り、金髪の美女が素っ裸で出現する。

 美女は黒と黄へと軽く『ハーイ』と挨拶し、魏と濃厚なキスを交わす。

 キスに反応し、黄は顔を真っ赤にし、『あわあわわ』と冷静さを失う。

 ブリタも何も見せびらかせようとしているわけではなく、これが彼女の対価なのである。

 能力は『人体の空間転移』。対価はキスをする事。

 キスを終えたブリタは、妖艶に魏の身体に絡みつき、視線を黒へと向ける。

 その視線に気づいた黄はムスッとブリタを睨む。

 そんな女性達の視線を無視し、黒と魏は反らす事無く視線を固定している。

 ブリタは黄の視線に気づき、薄らと笑みを浮かべ、魏を転送し始める。

『それではBK-201、いずれ……ああ。

 この奥にいる【時を操る魔女】は差し上げましょう。

 この戦いに勝利したご褒美です』

 言葉が終わると同時に魏は消え去り、ブリタもランセルノプト放射光となりその場を後にした。

 魏とブリタの2人が消えた部屋には、黒と黄のみが残った。

 その静寂の中、黒の視線の先には大きな水槽があった。

「黒……終わったんだよね?

 これでボクの所に帰ってきてくれるんだよね!?」

 ギュッと黒の手を握った黄は泣きそうな顔で黒を見つめる。

 優しく愛おしく、黒は黄の金髪を撫でる。

 ゴロゴロと喉を鳴らした黄は不安そうながら嬉しさがこみ上げてくる。

「すまない、鈴。

 あと一人、救わないといけない奴がいる。

 帰るのはその後だ」

 黒は枯渇した力を振り絞り、奥の水槽へと向かう。

 ゆっくりとした黒の歩みを、黄が支えて進んでいく。

 水槽に辿り着くと、黒は優しく水槽へと触れる。

 黒の見上げた先には、緑髪を泳がせる赤ちゃんが水中を漂っている。

「本当に永く待たせたな。苦労も掛けた……

 でも、そのおかげでこうして俺は立っていられる……

 ありがとう。

 永久の旅を終わらせに来たよ



  ――――“アンバー”――――」



―――――――





TIGER&BUNNY × Darker Than Black


黒の異邦人は龍の保護者


  # 23 “battle finished. family will start. ―― 死神が見る夢は黒よりも暗い暗闇か ―― ”


『死神の涙』編 S+A


作者;ハナズオウ







―――――――




 巨大な水槽へと手を掛けた黒は黄の支えから抜け出して立つ。

「鈴、すまないがこの水槽を壊してくれ。

 アンバーを殺す」

「……これが、最後……だよね?」

「ああ……残した最後の約束なんだ」

 わかった……っと、黄は腕に装着したワイヤーの先端器具を水槽のガラスに打ち込む。

 器具を押し込むように黄は無駄のない蹴りを器具に与える。

 黄は貫通した器具を器用に引き抜き、ガラスは水圧により破砕する。

 中から溢れる水に乗り、水槽内から出てくる。

 導かれるように子供は黒の元へと流れる。

 10kg程度の体重が今の黒にとっては酒樽のようにズシリと乗りかかる。

 ガッチリと抱きしめた黒は限界を超えて能力を発動させる。

 ゆっくりと静かに黒を中心に蒼いランセルノプト放射光が立ち上り、球体へと収束していく。

「お前の頼みを果たそう」

 黒は能力の神髄『物質変換能力』を発動させようと集中するが、能力が移行する事がない。

 疲弊しきった黒には、極度の集中を伴う『物質変換能力』を発動させるには至れないのだ。

 しかし、黒には『物質変換能力』でアンバーを殺す必要があるのだ。

 黒にはもう、ただ人を殺すという選択を拒む選択しかない。

 かつてゲートの中心部分にてアンバーと銀と共に体験した出来事で薄らとわかった事がある。

 それは2年後の蘇芳との別れ、黄と共に銀を火葬した出来事で確信した。

 そう、『ゲート粒子』の本質についてだ。

1.ゲート粒子は如何様にも変質する粒子である。
2.ゲート粒子に親和性があるものはゲート粒子を変質させ、能力を発生させる。
3.親和性が進む事で、人は人の中にもう一つの人を住まわせる。つまりドールとなる。
4.もう一つの人と過ごす内にその人自身の魂の構成もゲート粒子へと変わっていく。

5.その最終段階が『イザナミ』

 この世界に来て、ゲート粒子を内部に取り込む事でかつての“契約者”へと戻った者を開放する方法も実践済みだ。

 蘇芳の中のゲート粒子を無害な粒子へと変換する事で開放した。

 それをもう一度、果たそうとしているのだ。

 黒の想いも虚しく、能力は移行せずに光は灯るばかり……

『やっぱり、黒は優しいな……幸か不幸か黒の想いは遂げられるよ……だってここは【パンドラの匣】だもん』

 蒼い光が一つ、小さく爆ぜてアンバーの声へと変わる。

 アンバーの声と共に、黒の立っている床の数か所がランセルノプト放射光を放ち、黒を包む光が拡大していく。

「流星の……カケラか」

 黒は経験から、この現象の原因が何かを瞬時に突き止めた。

 それと同時に、『行ける!』と確証した。

 黒の集中力の方向は能力の発動から能力の流れへと変化させる。

 アンバーの中に眠る大量の変質したゲート粒子を黒の中の無害な物質と交換するように変換していく。

 それと同時にアンバーの変質したゲート粒子は、蘇芳の時と同様に黒の中へと入っていく。

「俺の中で眠りな、アンバー。ゆっくりと安らかに……」

『まったく黒は……』

「俺が知らないほど、助けてくれたお前には足りないかもしれないがな」

『そんな事ないよ……とっても嬉しいよ

 やっぱり、あなたを選んでよかった。”   ”、大好きだよ』

「っ……! そうか」

 黒は確かに聞いた。

 黒が捨てた――妹を守るために捨てた本名だった。

 嫌だとか、恥ずかしいなんて感情はない。

 ただただ嬉しいという感情しかなかった。

 黒が嬉しさに満たされている中、ランセルノプト放射光は収束していく。

 光の収束と共に、黒は自身が小さく小さく縮小していくのを感じる。

 1人用の椅子に2人が座ろうとしているような感覚。


 ――そう、黒は契約者からドールへと変貌を遂げようとしているのだ。

 元は契約者になれなかった人間。ゲート粒子に親和性はあまりなかった人間だった。

 それが妹の白が自身の魂と共にゲート粒子となり、黒の中へと入る事で黒は“契約者もどき”となった。

 それが今回、イザナギのコピーである蘇芳のゲート粒子とアンバーのゲート粒子を取り込んだ。

 どちらもゲート粒子にある程度選ばれた人間の粒子を、だ。

 少なくとも黒は3名のゲート粒子を体内に取り込んだ。

 それはドールが保有するゲート粒子を軽く凌駕する。

 三白眼の目に光が消えようとしていた時、黒は手に黄の温かみのみを感じさせ、懐かしい声を黒へと届ける。

『黒をこのままにはしないよ』

 それはかつてのパートナー、ドール、イザナミ、――『イン』だ。

『皆の力、借りるね』

 その時、世界中で解析不能な蒼いランセルノプト放射光が瞬いた。




―――――――



 シュテルンビルドを中心に発生したランセルノプト放射光の瞬き。

 突如発生した光に、世界中は驚きに包まれた。

 光は絡み合いながら空へと昇っていく。

 夜空に、昼空に、黄昏に、いくつもの空にランセルノプト放射光が立ち昇る。

 それはまるで【何か】の誕生を祝福するかのように、どこか煌びやかさを纏っていた。

 空に星のように煌めくランセルノプト放射光は時を同じく、【ある地点】に向かって流星のように動き始める。


 ――その【ある地点】とはシュテルンビルドの製薬会社パンドラの一室

 ――黒へと向かって流れていた。




「何……この光……? すごい、綺麗」

『黒……聞こえてる?

 反応はなくても、心の中で聞こえてるよね……

 私はイザナミ。ゲート粒子と同化した私になら黒を救える』

 粒子がかたどり、姿を見せた銀は優しく黒の頭を抱きしめる。

 光で構成された銀の手は黒の頭を通過し、銀は黒から離れる。

 銀の手には小さな太陽のような神々しく蒼い光が浮いていた。

『これは白・蘇芳・アンバーみんなの心。

 心は黒の中に。ゲート粒子は何もなく』

 銀の言葉と共に、手の上の小さなランセルノプト放射光の太陽は煌めきを沈めていく。

 太陽は数秒立たずに、月のように優しく静かな光球へと姿を変える。

 銀は光球に口づけをし、黒の胸へと返す。

 スポンジが水を吸い込むように、光球は黒の中へと染み込んでいく。

 光球が黒の中へ消えると、光が消えていた黒の瞳に光が戻る。

「……銀……」

『黒、能力を借りてるよ……

 私も、あなたの力を貰って望む結果にさせてもらうね』

「望む……結果?」

『うん。みんなと一緒にあなたの中で眠らせて……

 あなたの中には、かつて“イザナミ”だった頃の私と同等のゲート粒子があったの。

 それを白の能力で別の物質に変えたよ。

 黒の“今までの能力”も消えちゃうけど……あなたには新しい“可能性”があるから』

 銀は満足したように安らかな笑顔を浮かべ、粒子へと拡散が始まる。

「可能……性……?」

『そう……いずれわかるよ』

 ぼやけ始めた銀に、粒子が流星となり大量に銀へと衝突していく。

 銀から避けるように流星の一部は黒の背中へとぶつかる。

 銀を包む光と黒の背中の光は惑星爆発のように激しく神々しく光り輝いている。

 10秒程度続く流星の襲撃と光の輝きが収まると、部屋には先ほどまでとは対極に静寂に包まれる。

 そこには光に包まれる前と数点違う点があった。

 黒の腕に抱いていた緑髪の赤ん坊が3歳程の女児に成長しているのだ。

 そして、緑髪の女児の隣には、銀髪の3歳程の女児が眠っているのだ。

 2人は黒の腕の中で安らかに眠っており、黒は2人の面影に笑みをこぼす。

 アンバーと銀の2人に瓜二つなのだ。

「黒……その子達って」

「ああ、アンバーと銀わすれがたみだ……

 リン

 黒は女児達を起こさないように動かず、静かに黄を見つめる。

 黄は「はひ!」と一瞬にして緊張して答える。

 ドキドキと黒を見つめる黄と、確かな眼で黄を見つめる黒。

 数秒の間であったが、黄には数分にも長く感じた。

 見つめ続けていると黄の中に今回の騒動が終わったのだと確信して、笑顔がこぼれていく。

 たまらなく愛おしいひまわりのような笑顔を見て、黒も安堵する。

「この子達と共に暮らさないか? 鈴」

「いいよ……ていうよりも、ボクの所以外に行くところなんてないでしょ? 黒」

「ああ……やはり、お前に会えた事がこの世界に来て得た一番の幸福だったようだ」

「何言ってんだよ、黒」

 黄は嬉しそうな声を上げながら、黒の脇を抜けて部屋の出口へと歩き出す。

 黒は気を追って反転すると、黄も振り向いてウインクしていた。

 全てに満足し、零れ落ちる笑顔でのウインクに黒は見惚れてしまう。

「今更そんなこと言ってさ……当たり前じゃん」

 弾むように言葉を継ぐんだ黄は、さっと振り返り、出口へと歩き出す。

 黒も静かに後を追い、歩き始める。

 黄は俯きながら頬を桃のように染めながら呟く。

「ボクだってそうなんだもん……黒」




―――――――




「っあ! 忘れてた」

 出口をくぐった黄は無邪気な子を上げて思い出す。

 懐に手を突っ込み、パッと仮面を取り出す。

 右目に紫の雷模様が刻まれた仮面は、各所にヒビが入っている。

「あらら……でも崩れてなくてよかった。

 ほら、師匠!」

 黄はピョンと跳びあがり、黒の顔に仮面を取り付ける。

 黒は仮面の下で口元を綻ばせる。

「みんなー、終わったよー」

 まるで健康診断でも終えたように気楽な声を上げる黄に、待っていたヒーローやハヴォック達は肩すかしをくらったような感覚を覚える。

 いち早く立ち直ったのは脇腹が氷で覆われているパーセルである。

 前の世界で同じような場面に黒と立ち会ったからなのかもしれない。

 ペタペタと黒達に近づき、普段通りに「ニヒヒ」と笑う。

「前は断られたが、今回は送ってくぜ……

 そろそろ限界も限界だろ?

 駄賃はもう貰ったしな」

 パーセルは手から直径2m程の漆黒の球体を発生させる。

 振り向き、ハヴォックに口元を吊り上げ、『行ってくる』とウインクを飛ばす。

 ハヴォックは小さく頷く。

 パーセルは黒達が球体に入ったのを確認し、自身も球体へと入っていく。

 パーセルは契約者。

 能力は『空間移動能力』。

 対象は自身が発生させた球体に入る事。

 対価として能力を発動させるには猫耳をつけていないといけない。

 事実、パーセルは手放す事無く猫耳カチューシャを持っている。

 パーセルは自身が球体に入りきると、球体を消滅させる。

 残されたヒーロー達は置いてけぼりかよ……とばかりに静寂に包まれている。

「すまないな、カリーナをはじめ、ヒーロー達。

 我々EPRは勢力がそんなに大きくない。

 我々が想いを遂げるため、利用させてもらった。

 結末も見せずに去ってしまえば、我々はもう分かり合えないと思う。

 ……舞」

 ハヴォックは手を優しく舞へと伸ばす。

 舞は感情を表す事無く、テクテクとハヴォックの元へと歩き、手を取る。

 舞の存在を確認するようにギュッと手を握る。

「これが……1人は送迎でここにいないが

 ――これが私が望んだ結末だ。

 私は家族が欲しかった」

「っよっと!

 ……?」

 ハヴォックが言葉を紡ごうとした瞬間、真後ろに球体が発生しパーセルが出現する。

 その間1分と掛かっていないが、パーセルからしたらかなりのんびりした感覚であった。

 戻ってくるなりハヴォックと舞が手を繋いでいる。

 混乱したが、まぁ、想像はできるか……とニヤケてハヴォックの横に立つ。

「帰ってきたか……では続けようか。

 何も持っていなかった私が唯一持っていた人間性も、契約者になって失った。

 そして、能力も失った。

 ――だが、代わりに家族の温かみというモノを知れた。

 色々とあって私は一度死んだ。

 そしてなぜかこの世界で目覚めた。能力もなく、何もないなら……

 ――私は家族がほしいと望んだんだ」

 『そして、手に入れた』と言わんばかりに口元を綻ばせる。

「オレは……あれだ。ハヴォックとは成り行きだったけど、舞をパンドラくそから救い出せた。

 満足だよ。あんがとな、ヒーロー達」

「さて、ヒーロー達よ。一度解散しようか。お前達は大衆にこの事件が終わった事を知らせないといけないだろ?

 TV中継が終わったら、この先の公園にて待っている。

 この事件の最後の1ページを見せてやる」

 ハヴォックは言い終わると、パーセルに指示して球体による空間移動で去ってしまう。



 ヒーロー達は、言われたように事件の収束を行い、TVスタッフや市民が解散するのを待った。

 解散した後、カリーナの呼びかけにより、虎鉄やバーナビー、スカイハイなどドラゴンキッドを除く全てのヒーローが集まった。

 カリーナを先頭に約束の公園へとやってくる。



「待っていたよ、ヒーロー。

 約束通り、今回の事件の最後の1ページを見に行こう。

 頼む、パーセル」

 はいよ。とパーセルは漆黒の球体を発生させる。

 虎鉄やバーナビーは身構えるが、ハヴォックは気にせず球体の中へと去る。

 カリーナが『大丈夫だから』と虎鉄達に言い放ち、球体へと入っていく。

 それに続き、アントニオとイアンが入っていく。

 渋々虎鉄達も球体へと入っていく。

 最後に舞とパーセルが入り、球体は消滅する。






 球体の行先は黄の自宅。

 電気も着かず、窓から入る月明かりだけが部屋の中を照らしている。

 それがまるでスポットライトのようにベッドの上を照らしている。



 全員が安らかに眠る黄の顔を見て、微笑む。

 この騒動で一番落ち込み、頑張った黄がやり遂げて眠りについているのだ。

 皆がほっと胸を撫で下ろした。

 その黄の左手の下には黒の顔がある。

 ちょうど皆から顔が視認できないようになっているのだ。

 その顔を見ようと、カリーナが一歩踏み出すが、ハヴォックの手がそれを遮る。

 カリーナは声を上げてハヴォックに抗議しようとした瞬間、ハヴォックの手が震えているのだ。

「ハ……ハヴォック?」

 カリーナの視線に気づいた1人、また1人とハヴォックの震えに気づく。

 ハヴォックの震えは少しずつ大きくなり、肩が大きく上下する。

 遮っていた手も体に絡ませ、震えを抱く。

「カ……カリー……ナ。

 オオ……おし、えてくれ……」

 呼ばれたカリーナはハヴォックの顔を覗き込む。

 ハヴォックの顔を見て、カリーナは目を見開き身が緊張している。

 ハヴォックは笑顔を零しながら、大粒の涙を流しているのだ。

「泣いてるのね……ハヴォック」

「な、泣いているのか……私は。

 そんなもの私には存在しないと思っていたのに……」

「そんな事ないよ、ハヴォック……

 あなたは笑えるし、泣ける……

 そして、美味しい料理が作れる。

 ちゃんと教えてよね、ハヴォック」

「ハ、ハハ

 安息を望んでいながらそれを全て捨て、望んだ景色を見れた……

 これほど嬉しいモノはないのに……

 私は泣いているか」

「教えてあげる。

 悲しくて出る涙もあれば、嬉しくて出る涙もあるんだよ」

 震え、体全体の力が抜けたハヴォックが崩れ落ちるのをカリーナが受け止める。

「しら……なかったなぁ……

 そ、そう……か

 うれ……嬉しくて、流れる“涙”も……ある、んだな」

 ボロボロと落ちる涙と声にならない声、ハヴォックはしばらく震えを抑える事は出来なかった。



 涙が収まったのはそれから10分ほど経ってからだった。

 ハヴォックの涙が消えてからは誰も話さず、パーセルの能力により黄の家より去った。


 再び、部屋には黒と黄、緑髪の女の子、銀髪の女の子の寝息だけが鼓動のように部屋を支配した。



 ………………

 …………

 ……



 安らかにベッドで仲よく眠る黒達。

 限界を超え、1人ではない事を再認識した2人は深く深く夢の中を漂う。

 その眠りを覚ますのは、2人の間にて寝る2人の女児である。

 ……が、それは次のお話。



  『死神の涙』......fin


    →Go to 『花蘇芳の蕾』





―――――――




 暗く光が落ちた部屋。

 蒼い光ランセルノプト放射光が輝き、2つの影へと変わる。

 1つは全裸の魏 。

 残りはこちらも全裸の女性、ブリタ。

 製薬会社パンドラからブリタの契約能力を使用して飛んできたのだ。

「ご苦労様です、ブリタ」

「いいわ、これくらい」

 何のことはないと答えたブリタは魏の顎を両手で優しく包むと、唇を合わせる。

 数秒の後、2つの唇は離れる。

 このキスこそブリタの契約に対する対価である。

 衣服を一緒にテレポートできないために、2人は全裸であるのだ。

 魏も慣れたモノで、全裸である事に恥ずかしさを見せる事はない。

「あなたをパンドラに知られる事なく見つける事が出来た事は私の運の賜物でしょう。さぁ」

 と魏は暗闇に横たわる人体を肩を貸すように持ち上げる。

 人体の背には枯れた巨大な黒いタンポポが生えている。

 人体の元の名は“ハーヴェスト”と呼ばれていた男であった。

 魏は慣れた足取りで暗闇に包まれた部屋のドアへと向かう。

 ドアを開けると黒服にサングラスをかけたSPが数名仁王立ちで魏を見ている。

「例の匣の中身です。

 大切に研究してくださいね」

 魏はSP達に命令してハーヴェストを渡すと、掛けられたガウンを羽織る。

 ブリタもガウンを羽織り、魏の後をついていく。

 魏は部屋の奥に設置された巨大なモニターの前にある高級な椅子へと向けて話し始める。

 背もたれに向けて話す魏は嫌な顔も、相手をなめた顔もせずに淡々と話す。

「案外ギリギリになりましたね。

 抽出した“覚醒物質”はあなたに先に送った分以外は黒の死神に破壊されました。

 でもご安心ください。“覚醒物質”の元は運よく連れ出せましたので……」

「…………失態だねぇ」

「失態? 無駄なモノをそぎ落としただけですよ。

 お約束通り……我らパンドラは、ウロボロスへと合流させていただきます」

 華麗に椅子に向けて頭を下げる魏の瞳には、欲望の炎が燃えている。

 椅子は微動だにせず、魏の言葉を受け止める。

 椅子の背もたれからは、安堵も怒りも、何も感情を吐き出さない。

 うっかりすると椅子に誰も座っていないのではないかと思ってしまう程に、椅子に座る人物は何も感情を吐き出さない。

 それでは。と魏は椅子に背を向けて部屋を出ていく。

 長い廊下を魏とブリタは淡々と歩く。

「フフフ、拾ってくれたエリックを見捨てるなんて……まだ使い道もあったんじゃないの?」

「もうないですよ。パーセルとハヴォックの賭けで負けた時点で価値はなくなりましたよ」

「“力”を戻してくれた恩があったのにあっさりなのね」

「その分はしっかりと働いたつもりですよ」

「また、黒の死神を殺しに行くの?」

「さぁどうでしょうね。ただ、これだけは言えますよ」

 魏はフフフと不気味に笑い、これからの野望を腹の底で燃え上がらせる。

「災厄は終わらない……!!

 ハーハハハハハ!! ハハハハッハハハハハハ!!!」



―――――――




......TO BE CONTINUED......????






























GO TO 『琥珀銀』









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■作者からのメッセージ
こんにちは、ハナズオウです。

これにて『死神の涙』編は幕を閉じます。

思えばこんなに話が長くなるとは……。
もっとコンパクトに様々な編を考えていたのに、話数も多くなり、かなりの日数が経ちました。
様々な人にご尽力いただき、読者の皆様からの感想にも助けられました。

この話のエピローグも書き始めておりますので、気長にお待ちいただけると助かります。

それではまた、次のお話のあとがきでお会いしましょう。

テキストサイズ:18k

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