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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第49話:知る者と目覚める者と壊される人形
作者:蓬莱   2014/07/12(土) 12:25公開   ID:.dsW6wyhJEM
“目覚めよ”―――銀時が目を覚ましたのは、そう自分に向かって呼びかけるような声が聞こえたのとほぼ同時だった。
柳洞寺でのデートの後、切嗣達と離別し戻る場所のない銀時は、ひとまず、第一天の勧めで、一緒に添い寝することを条件に間桐邸で一夜を過ごすことになった。
しかし、目を覚ました銀時の目に飛び込んできたのは、それまで寝ていた間桐邸の寝室と自分の隣で寄り添うように寝ていた筈の第一天はなく、見渡す限りの深い闇に覆われた空間だった。
否、それだけではなかった。

「久しいな、銀時…我が主よ」
「あんたは―――!?」

そこには、銀時が目覚めるのを待っていたかのように、常人と明らかに違う神神しい気配を漂わせる、額に“洞”の一文字を刻んだ男が銀時の前に立っていた。
その直後、威厳に満ちた重々しい声で銀時に語りかける男に対し、銀時は思いもよらぬ人物の登場に驚きを隠せなかった。
そう、銀時にとっては、この男とは三度目となる邂逅だった―――

「え〜と、どちら様で? いや、どっかで会ったことの無いような感じはするんだけど…」
「またしても、我の事、洞爺湖仙人の事を覚えておらんのかぁあああああああ!? どんだけ、お前の中で、我の印象って薄いんだ!! 六周年の時も同じような事あったよねぇ、ねぇ!!」

―――が、約四年ぶりの登場ということもあってか、知り合い顔で自分に語りかける男もとい“洞爺湖仙人”についてまったく覚えていなかった。
この銀時のガチ忘却振りに、洞爺湖仙人は思わず、先程まで漂わせていた神神しさをかなぐり捨てると、ギャグキャラそのものの全力ツッコミを入れてしまった。
“洞爺湖仙人”―――銀時の愛用する木刀“洞爺湖”に宿る仙人であり、これまで登場するたびに、銀時達に自らの必殺技を習得させようとしてきた。
もっとも、銀時達のジャンプ主人公らしからぬ並外れた向上心のなさに加え、拗ね蹴りや土下座といったもはや必殺技じゃねぇだろコレみたいなしょうもない技しかないので、未だに洞爺湖仙人の努力は報われる事はなかったが。

「たくっ…また、性懲りもなく、俺に必殺技でも教えにきたのかよ…」
「本来ならばな。我としても聖杯戦争という厨二病患者御用達の必殺技を披露するにはまたとない絶好の機会を逃したくはな―――んじゃ、おやすみ―――って人の話を聞かずに即行で寝るなぁああああ!!」

そういった事情とこれまでの経緯もあってか、銀時はやれやれといった様子で面倒臭そうに洞爺湖仙人が自分をここに招いた目的―――三度目となるしょうもない必殺技の伝授を口にしつつ問いかけた。
それに対し、洞爺湖仙人は何やら残念そうな表情で、必殺技を大盤振る舞いできる末期的厨二病患者の跋扈する聖杯戦争という晴れ舞台で、銀時に自分の必殺技を授けられない事を無念そうに語りだした。
とはいえ、洞爺湖仙人のどうでも良い話に銀時がまたもや二度寝し始めたため、洞爺湖仙人は即座に銀時を叩き起こすと肝心の本題を話さんとした。

「話というのはほかでもない…セイバー、否、“三世村正”殿のことだ」
「…!? おい、どこまで知ってんだ、おっさん」

そして、洞爺湖仙人は、自分が銀時をここに招いた一端であるセイバーの真名である“三世村正”の名を口にした瞬間、銀時の顔付きも変わらざるを得なかった。
これまでのギャグキャラ口調から一転して、某死神オサレ系漫画並のシリアスさを纏った洞爺湖仙人の口振りに、さすがの銀時も容易にならざる事情を察したのか、洞爺湖仙人が何を知っているのか追及するように聞き返した。

「うむ、三世村正の生涯について大凡の事はな…」

一方、洞爺湖仙人も銀時がセイバーの話に喰いついてくることを承知していたのか、銀時の問いかけに答えると、自分も銀時と同じようにセイバーの記憶を垣間見た事を告げた。
それに加え、洞爺湖仙人の場合は、銀時が夢という形で見た“セイバーが剱冑となる前”の記憶だけでなく、“セイバーが剱冑となった後”の記憶も含まれていた。
ちなみに、なぜ、洞爺湖仙人の方がセイバーの記憶を多く垣間見られた理由について、洞爺湖仙人はこう推測していた。

「どうやら、我の場合は、セイバーと同じ刀同士である故、お前よりも多くの記憶を垣間見られたようだ」
「いや、善悪相殺なんつう物騒な呪い付いた妖甲と通信販売でお手軽に買える木刀を同格扱いにすんじゃねぇよ。そもそも、セイバーの場合、むしろ、分類するなら鎧だろうが」

“やっぱ、こいつにシリアスキャラ無理だわ”―――明らかに月と鼈レベルの違いを完全に無視した洞爺湖仙人の発言に対し、銀時は、すぐさま、ツッコミを入れつつ、洞爺湖仙人の立ち位置をそう改めて認識する事にした。
しかし、洞爺湖仙人は、銀時のツッコミには反応することなく、銀時に口にしたある言葉に対して何か思いつめたかような沈痛な表情を浮かべるとこう呟いた。

「善悪相殺の誓約か…世の全ての平和の願いを込めた祈りによって、“仕手殺し”という刀にとってもっとも忌むべき罪と拭えぬ業を背負されることになったのは皮肉なモノだな」
「おい、ちょっと待て…そりゃ、どういう意味なんだ?」

“仕手殺し”―――洞爺湖仙人が口にしたその只ならぬ言葉に、銀時は途端に顔色を変えると険しさを含んだ声で洞爺湖仙人を問い詰めた。
もっとも、銀時自身もセイバーが心に何か致命的な瑕を抱え込んでいる事を気付いていなかったわけでは無かった。
先日、銀時が切嗣達と決別した際に、セイバーはその場から立ち去ろうとする銀時の前に立ちはだかり、実力行使に出る覚悟で必死に銀時を引き留めようとしていた。
一般的に考えれば、自分たちの陣営の内情を知る銀時が他陣営に協力するのを阻止する為に、切嗣のサーヴァントであるセイバーが力づくでも引き留めようとするのは当然の事だろう。
だが、刀を突き付けるセイバーと対峙した銀時の目には、そんな単純な道理や理屈などではなく、あらゆる負の感情を混濁したかのような暗い衝動に囚われ、まるで何かを恐れているように映っていた―――まるで、同じことを一度体験しているかのように。
そして、そんな銀時の内心を察したかのように、洞爺湖仙人はセイバーの心に致命的となるほど深く刻み込まれた瑕の正体を語り始めた。

「…六陣営会談での第六天が口にした言葉通りだ。かつて、三世村正殿は、英霊となる以前、自身の仕手である“湊斗景明”を善悪相殺の誓約に則り斬り捨ているのだ」
「…!?」

すなわち、セイバー、否、三世村正が生前に、善悪相殺の誓約によって仕手である湊斗景明を殺害していた事を――――!!
この洞爺湖仙人が明かした驚くべき事実に、何かあるとは薄々気づいていたとはいえ、さすがの銀時も思わず驚きを隠せなかった。
そう、如何に普段は駄目人間の銀時とはいえ、刀を振るう侍としてセイバーの犯した罪がどれだけ重大なモノか理解できない訳でなかった。
そもそも、侍にとっての刀とは、ただの人殺しの道具などではない。
幾多の死線を潜り抜け、数多の死闘を勝ち抜き、共に己が士道を歩みゆく魂で繋がった相棒であり戦友といっても過言ではない。
それは、セイバーの世界における仕手と剱冑の関係もそれと同様である筈だ。
故に、その剱冑が仕手を殺害する事は、その魂で繋がった相棒を裏切るという最悪にして最低の行為に他ならないのだ―――!!

「…教えてもらうぜ、洞爺湖仙人。嫌だといっても無理やり吐かせる。てめぇの知っているセイバーの業ってやつの事全部な」
「分かっている…だからこそ、我は全てを教える為にお前をここに招いたのだ」

やがて、長い逡巡の後、いつにもまして険しい表情を浮かべた銀時は、セイバーが犯した仕手殺しの詳細を知る洞爺湖仙人にむかって見据えるように問い詰めた。
そんな銀時に対し、取り乱すことなく静かに返答した洞爺湖仙人も一目見ただけで察していた。
銀時もまたセイバーが犯した過ちの全てを知る覚悟ができている事を。
その上で、セイバーの全てを受け止める覚悟もできている事を。
そして、背負わねばならぬ謂れなどない罪業に囚われ縛られているセイバーを救い出す事ができるのは、誰よりも何よりも坂田銀時という男以外にいない事を―――!!

「そう全ては愛するが故に起こるべくして起こった悲劇だったのだ…」

そんな銀時の覚悟に意を決した洞爺湖仙人は、自分の知るセイバーの―――善悪相殺の誓約という祈りに翻弄され続けた女の過去を語り始めた。



第49話:知る者と目覚める者と壊される人形




銀時が夢の中で全てを知ろうとする一方で、身の毛もよだつほどの悪夢より目を覚まさんとする者もいた。

「…バタークリームで白飯は無理が有ります、マダム!!」

それが、ベッドから跳ね起きるように目を覚ました舞弥が開口一番に発した言葉だった。
―――まさしく自分にとって悪夢以外の何物でもなかった。
―――アイリスフィールが景気づけにと自分の為に高級スイーツを用意してくれたのまでは良かった。
―――そう、用意されたスイーツ全てがバタークリームを使用したものでなければ…!!
―――そして、極めつけは、アイリスフィールがもはやこれでもかとふんだんに山盛りになったバタークリーム丼を差し出してきた時は発狂寸前まで追い詰められてしまった。
“本当に夢でよかった”―――そう心の底から安堵した舞弥であったが、しばらくして、ここが何処なのか改めて自分や周囲の状況に目を向ける事ができた。
見たところ、治療の際によるモノなのか服が脱がされており、忍び装束の男によって負傷した脇腹にはきれいに包帯が巻かれていた。
加えて、部屋には自分が寝ていたベッド以外の物は置いておらず、ベッドの周りには血で赤黒く染まった包帯や湿布が幾つも散らばっていた。
恐らく、あの忍び装束の男によって舞弥が打ち倒された後、何者かが瀕死寸前の舞弥を治療する為にこの部屋まで運びこんだのだろう。
その治療の甲斐あってか、舞弥は何とか一命を取り留めたわけなのだが…

「いったい、誰が―――失礼します―――!?」

もっとも、舞弥が周囲の状況から推測して分かるのはそこまでで、舞弥にとってもっとも肝心となる事―――誰が、何の目的で自分を助けたのかは未だに分からないのが現状だった。
とその直後、舞弥のいる部屋のドアをコンコンと数回ノックする音共に、部屋の中に居る舞弥に呼びかけるような声がドア越しから聞こえてきた。
次の瞬間、この明らかに聞き覚えのない声に対し、舞弥は咄嗟に身構えると、もしもの場合―――相手が忍び装束の男の仲間であった場合の事を踏まえて対処せんとした。

「あぁ、良かった。どうやら、意識は取り戻したみたいですね」

しかし、そんな舞弥の警戒とは裏腹に、部屋のドアを開け入ってきた人物―――舞弥とほぼ同じ年代の、一般的に美形に分類される顔立ちの男が最初に口にしたのは、舞弥の意識が回復した事への安堵の言葉だった。
そこには、舞弥に対する敵意はおろか打算や虚偽など全く感じられず、少なくとも舞弥が助かった事を嬉しく思っているのは確かだった。
とりあえず、舞弥も色々と湧き起こる疑問が有るにしてもある一つの事実だけは理解せざるを得なかった―――味方か敵なのか分からないにしろ、この青年のおかげで自分は命拾いした事を。

「…あなたが手当てをしてくれたのですか?」
「えぇ。一応、簡単な応急処置ですがね…」

とはいえ、意識を失っていた間の出来事や現状に対する情報がほとんど把握できていないのもまた事実だった。
ひとまず、舞弥は現法を知る上で何らかの情報を得るべく、自分を治療してくれた青年に問いかけた。
それに対し、青年は、あっさりと舞弥をここまで連れてきて治療したことを認めつつ、何の為に冬木市へ訪れた事の経緯については語り始めた。
そもそも、この青年が冬木市へ赴いたのは、聖杯戦争が始まる数か月前、青年の上司の知人を通して、英国のとある組織に所属する依頼主からの協力要請が切っ掛けだった。
先方の話によれば、近年、英国圏内で何者かによって人為的に生み出された吸血鬼による事件が多発しており、事件の裏で暗躍する黒幕の正体を暴くべく調査していた。
そして、その調査の過程で驚くべき事実―――英国より遠く離れた日本のある企業が吸血鬼事件の黒幕の支援活動している事が判明したのだ。
本来ならば、その企業の実態を暴くべく、日本政府を通して調査員を派遣したいところだったが、その支援企業が冬木市に本社を置いている事が大きな問題となった。
周知のとおり、聖杯戦争の舞台でもある冬木市は、魔術協会や聖堂教会という二大勢力が大きく絡んでいるのだ。
その為、下手に表立ってこの地に介入すれば、両勢力の不興を買うのはもちろんの事、三つ巴の武力衝突という形で後々大きな禍根を残すことになりかねない可能性が充分にあった。

「まぁ、ここで、うちの上司が絡んでくるわけなんですよね…」

そこで、依頼主は、この最悪の事態を回避すべく、優秀な諜報組織を有している事に加え、魔術協会と聖堂教会の両勢力に色々と強い影響力を持つ青年の上司に協力要請を申し込んできたのだ。
とはいえ、要請を受けた当初、青年の上司は、無関係な面倒事に首を突っ込みたくないという事もあってか、この協力要請に乗り気ではなかった。
しかし、破格の成功報酬と調査先が冬木市という事を知った途端、青年の上司は、手のひらを返したようにこの依頼を快諾し、その諜報組織の一員である青年を極秘調査員として問題の企業が本社を置く冬木市へと派遣することになったのだ。
その後、冬木市へと派遣された青年はとある居酒屋の老店主として素性を隠しつつ、これまで問題となっている企業の本社とその周辺の実態について調査を続けていた。
そして、昨晩、その企業を興した創業者と深い繋がりのあるターゲットを尾行している最中、問題のターゲット―――忍び装束の男が舞弥を打ち倒したところに出くわしてしまったのだ。
その後、何故か苛立っていた忍び装束の男が足早に立ち去った後、青年はひとまず、瀕死寸前の状態で意識を失った舞弥の救助を優先し、尾行を中断すると、即座に舞弥の治療の為に自身のアジトに運び込んだのだ。

「まぁ、下心が無い訳じゃなかったんですけどね」
「いえ、ありがとうございます…ところで、あなたの名前は?」

もっとも、苦笑する青年の言うように、ただの善意で助けた以外にも、助けた恩を売る形で舞弥から情報を引き出せればという思惑もあった。
だが、青年の思惑がどうあったにしろ、その結果として、青年のおかげで瀕死に陥っていた舞弥は何とか一命を取り留める事ができたのもまた事実だった。
故に、舞弥は、ひとまず、自分を助けた青年に感謝の言葉を口にしつつ頭を下げた。
とここで、舞弥は恩人である青年の名前を未だに知らない事に気付き、舞弥の為に用意したのか食事の準備をし始めた青年に名前を尋ねてみた。
もっとも、舞弥として駄目でもともとの問いかけであり、青年の任務の都合上、そう簡単に名前を明かすとは思っていなかった。

「名前ですか? とりあえず、鬼音磯六とでも呼んでください。もっとも、これは偽名みたいなものですがね」
「鬼音磯六ですか…」

だから、偽名とはいえ青年こと磯六があっさりと名前を告げた時、舞弥は忘れないように磯六の名を口にしつつも、内心で“これで本当に優秀な諜報員なのだろうか?”と他人事とはいえ少し心配してしまった。
もっとも、それ以前に極秘任務にも関わらず部外者である舞弥にベラベラと重要な情報を漏らしている時点で、諜報員として失格なのだが…
とはいえ、舞弥としては、多少諜報員として抜けている点があるものの、変態と外道と厨二病が跋扈する中で、比較的まともな常識を持った人間である磯六をある程度信用できるに足る人物だと判断していた。

「とりあえず、オニオンサラダ丼でもいかがですか? うちの名物なんですよ、これ」
「いえ…結構です」

少なくとも、磯六がスライス状の生玉ねぎを山盛りとなるまでふんだんにのせた丼飯を差し出すまではそう判断していたのだった。
“前言撤回、ここにまともな人間なんていなかった”―――普段の鉄面皮な表情となった舞弥は、磯六の差し出したオニオンサラダ丼をやんわりと拒否しつつ、そう心中でこの冬木の街が改めて奇人変人の街だという事を思い知った。
というか、GM粒子の元凶である銀時やアーチャー達はもちろんの事、アイリスフィールやあの切嗣までもが目に見えて分かるほど、日に日に増して奇行に走るようになっていた。
改めて、その一端を見せつけられた舞弥は“せめて、自分だけはまともな人間であろう”と心に誓いつつ、非常用のホイップクリームチューブを取り出して、用意された白飯の上にたっぷりとクリームをぶっかけ始めた。

「ふぅ…それともう一つ、あなたにお知らせしておくべき事が有ります」
「…? いったい、何が―――っ!?」

“あぁ…この人も色んな意味で手遅れだったか”―――心の底からおいしそうに生クリーム丼を頬張る舞弥の姿を前に、磯六は、段々と沸き起こってくる胸焼けを抑えつつ、そう何かを悟ったような諦観を抱くしかなかった。
とここで、一呼吸おいて気を取り直した磯六は、先程、自身の素性を明かした時とは打って変わって重々しい口調で告げながら、生クリーム丼を完食した舞弥に先ほど届いた新聞を手渡してきた。
それに対し、舞弥は深刻そうな磯六の言動に疑問と不安を覚えつつも、少しでも情報を得るべく手渡された新聞に目を通し始めた。
―――衝撃!! 真夜中の市街地に第二のストリートキング出現。
―――冬木湾内で大型タンカーが謎の沈没事故発生。自衛隊に異例の出動要請。
―――ドライアロー社、冬木海底ケーブル開通セレモニー開催。
そんな取り留めのない幾つかの記事を流すように目を通していた舞弥であったが、それらの記事を押し退けるように大々的に新聞一面を独占しているとある写真つきの記事が目に飛び込んできた。
次の瞬間、舞弥は、まるで身心が一気に凍り付いたかのような衝撃を受け、驚きの余り思わず声を失ってしまった。
それほどまでに、その記事の内容は、舞弥にとって事実として認めるには余りに受け入れがたいモノだった。

「これは…!!」
「えぇ…今や、どこの新聞もテレビも大きく報じられています」

そして、その記事が事実である事を肯定する磯六の言葉に、舞弥が愕然として思わず手元から落とした新聞の“冬木市連続爆破テロ容疑者、逮捕”という見出しと共に容疑者の名前が大きく取り上げられていた。
そう、国際的テロリストの肩書を銘打たれた“衛宮切嗣”という名が―――!!



一方、この“切嗣の逮捕”という驚愕の事態は、アインツベルン城にて切嗣達の帰りを待っていた者達を騒然とさせていた。

「そんな…キリツグが…」
「奥様、お気を確かに!!」

そして、今回の一件で最も衝撃を受けたであろうアイリスフィールは、セラやリズ達と共に大広間にて備え付けられたテレビに映った光景を目の当たりにした瞬間、驚きの余り呆然自失のまま、その場に崩れ落ちそうになった。
すかさず、傍に居たセラによって抱えられるも、アイリスフィールは混乱の極みに達しながらも、先程見た光景が夢や嘘であってほしいと願うかのようにテレビの映像を恐る恐る目を向けた。
だが、そこには、最初にアイリスフィールが見た時と同じように、連続爆破テロ事件の実行犯として手錠をかけられたまま、複数人の警察官に取り囲まれながら連行される切嗣の姿が映し出されていた。
“どうして、切嗣が…!?”―――切嗣の逮捕という最悪のイレギュラーを前に、アイリスフィールは答えの出ない思考を無為に繰り返すほど動揺と困惑に陥っていた。
一同が騒然とする中、比較的感情の変化に乏しいが故に落ち着いていたリズは、昨晩から押しかけ同然にやってきて、今までただ何をするわけでもなく居座っていた客人が徐にこの場から立ち去ろうとしているのが眼に入った。

「…帰るの?」
「うん…結果は見届けたし、もう私の役目は充分に果たせたから」

そんなリズの何気ない問いかけに対し押しかけ客人―――氷室玲愛は特に慌てる事もなく、長時間居座ったことを悪びれもせず、平然とした態度で返事を返すだけに留まった。
だが、そんなリズと玲愛のやり取りを耳にしたアイリスフィールにとっては、玲愛の口にした言葉は聞き捨てならないモノだった。
まるで、切嗣が逮捕される事を最初から分かっていたかのような玲愛の口振りに、アイリスフィールは少しずつ冷静さを取り戻す中で思い至ったある一つの可能性を言葉にして口に出した。

「まさか…貴方たちが仕組んだことなの…?」
「えぇ、そうよ」

そして、恐る恐る震える声で尋ねるアイリスフィールに対し、玲愛は悪びれる様子もなくあっさりと肯定の言葉を返しながら頷いた。
まるでそうなって当然と言わんばかりの玲愛の態度を前に、アイリスフィールは理不尽にも切嗣を陥れた玲愛に激しい怒りをはらんだ声で更に訴えるように糾弾せんとした。

「どうして、そんな…!!」
「そうね…あえて言うなら、これまでの行動を踏まえた上で…彼を、衛宮切嗣をこのまま放置すれば、必ずマスターに害が及ぶのは目に見えているから」

だが、当の玲愛は、アイリスフィールの怒りにまったく気を留める事無く、ただ、切嗣を陥れた理由だけを簡単に告げただけだった。
そもそも、玲愛からすれば、自分達のマスターである桜を容赦なく射殺せんとし、各陣営がバーサーカー討伐に尽力する中で唯一人だけ聖杯奪取のみに固執する切嗣は一刻も早く排除すべき危険な存在だった。
故に、玲愛は切嗣排除の援護としてアイリスフィール達の介入を防ぐために、単身でアインツベルン城へと乗り込んで居座り込んだのだ。
これにより、アイリスフィール達も、自分たちの拠点に居座り始めたバーサーカー陣営の一員である玲愛を無視するわけにもいかず、否が応でも監視せざるを得なくなった。
そして、玲愛はまんまとアイリスフィール達をアインツベルン城から一歩も外へ出さないように釘付けにし、自分たちの目論みである切嗣の排除を達成する事ができた。
もはや、切嗣に残された選択肢は、懲役終了まで大人しく牢屋暮らしか警察との素敵な鬼ごっこ確定の脱獄しかなく、聖杯戦争への復帰は絶望的なモノとなっていた。
加えて、建前の上では、アイリスフィールがセイバーのマスターとして登録されている以上、監督役である聖堂教会を介して切嗣を釈放する事も不可能。
ここに至って、衛宮切嗣の全てを懸けて臨んだ聖杯戦争は文字通りここで終了となってしまったのだ。

「…どうして? どうして、そこまでできるの?」
「…私達は必要な事をしただけ。それだけだよ」

もはや、何が何でも絶対に切嗣を排除するという玲愛たちの徹底ぶりに、アイリスフィールは血がにじみ出るほど唇をかみしめ、顔を伏せて俯きながら爆発寸前の怒気をはらんだ声で静かに問い詰めた。
しかし、当の玲愛はそんなアイリスフィールが向けた怒りさえも軽く受け流すようにして質問にあっさり答えるだけだった。
“どうでもいい”―――もはや、切嗣を陥れた事などその程度だと断じるかのような玲愛の態度に、これまでの事で澱のように積もり続けたアイリスフィールの怒りが遂に頂点に達した。

「どうして、あなた達も、銀時も…切嗣に勝手な事ばかり言って、何で切嗣の事を分かろうともしないのよ!!」
「…」

突然、積もりに積もったモノを晴らすかのように憤怒の感情を爆発させたアイリスフィールは鬼気迫るほどの険しい表情で堰を切ったかのように訴えながら叫んだ。
もはや、アイリスフィールの憤怒する様は尋常ではなく、目の前にいる玲愛だけでなく、自分たちの元を去った銀時にまで及んでいた。
だが、どれほど責め立てられようと無言のまま動ずることの無い玲愛の姿を前に、アイリスフィールはさらに怒りを露わにしながら鬼女の如き様相を呈し始めていた。

「切嗣はただ救いたかった…!! 自分の大切なモノを喪ってきても、それでも自分が為すべきと決めた理想を追い求めてきた…!! ただ、それだけなのに…それの、それの何処がいけないよ!!」
「そう…分かった」

そして、アイリスフィールは、普段の彼女からは想像できないほどの口調と形相で、もはや怒り荒ぶる感情に身を任せながら、鉄壁の城塞のように不動を貫く玲愛を激しく責め立てた。
―――誰であろうと切嗣の歩んできた道を否定などさせない
―――誰であろうと切嗣の願いを否定などさせない。
―――誰であろうとそんな事は、私が許さない…!!
そこには、まさしく、アイリスフィールにとっての決して譲る事のできない、切嗣との邂逅からこれまでに至るまでの、切嗣と共に歩み育んできた想いの全てが確かに込められていた。
このアイリスフィールの全てを懸けた想いの言葉に対し、玲愛はただ沈黙のまま聞き続けた後、簡単に一言だけポツリと呟いた。

「よく分かったわ…アイリスフィール=フォン=アインツベルン。あなたは本当の意味で衛宮切嗣を愛してない事が」
「…!?」

次の瞬間、玲愛はアイリスフィールの想いをあっさりと否定しながら、そのアイリスフィールを遥かに凌駕する噴火寸前の活火山を思わせるような憤怒と共に絶対零度の如き凍てつく眼差しで射抜いた。
先程の鉄面皮から想像できないほどの玲愛から向けられた激情を前に、アイリスフィールは心臓を直接鷲掴みにされたかのような錯覚を叩き込まれ、思わず呼吸する事さえ忘れ去るほど息を呑んだ。
この時、アイリスフィールはもちろんの事、この聖杯戦争に参加しているマスターとサーヴァント全員が知る由もなかった。
―――許さない。
―――何も知らないまま、極大の下種“第六天波旬”を呼び出した度し難い間桐の大馬鹿者達を。
―――誰よりも波旬を憎悪していた藤井君を、何一つ知る事無く、あろうことか波旬の走狗と罵り貶めた偽悪気取りの屑鉄を。
―――そして、何より、絶対に避けられぬ結末を覚悟してまで波旬を討つと決めた藤井君の想いを無碍にせんとする頭に蛆の湧き尽くした平和狂いの暗殺者を…!!
そう、覇道神連合の中に於いて、氷室玲愛こそがこの聖杯戦争そのものを誰よりも憎んでいた事に―――!!
そして、遂に玲愛はこれまで鬱積された感情を露わにして、眼前にいるアイリスフィールを殺気混じりの威圧を向けながら、先程からアイリスフィールの口にしていた御目出度い妄想を叩き潰さんと口火を切った。

「夫の理想を理解し、夫の理想に殉じる女。えぇ、本当に理想的ね。魂の一欠けらまで男にとって、これ以上にないほど都合のいい理想的な人形よ、あなた」
「何を言って…るのよ!! 私は切嗣を愛しているわ!! えぇ、そうよ…この気持ちを、この想いをあなたに否定される謂れなんて何一つないわ!!」

まず、玲愛はこの舌戦の機先を制する為に淡々とした口調ではあるが、アイリスフィールの口にした愛を人形遊びのお飯事だと必要以上に皮肉を込めた言葉で返し、アイリスフィールの感情を煽るかのように嘲弄した。
この感情を逆なでするかのような玲愛の挑発ともとれる言葉に対し、アイリスフィールは、一瞬、玲愛の放つプレッシャーを前に気圧されたのか口篭もるも、すぐに自身の想いを否定された事に怒りを露わにしながら激しく反論した。
もし、この時、アイリスフィールが少しでも冷静さを取り戻していたなら、この玲愛の挑発に乗る事無く、つまらない戯言だと斬り捨てる事でやり過ごす事もできただろう。
だが、自身の根幹ともいえる想いを否定された事に加え、切嗣が罠に嵌められた事で、冷静さを欠いてしまったアイリスフィールは迂闊にも敵の挑発に激高し、自らの意思で相手の土俵に上がってしまった。
故に、アイリスフィールは―――

「なら、あなたは本当に理解しているの? あなたの愛する男の理想を…あなたの愛する男がその理想を叶える為に何ができるのかを」
「それは…!?」

―――玲愛が続けざまに相手の動きを止めんとするボディブローのごとく叩き込んだ追及にまともな反論さえ返せぬまま言葉を詰まらせてしまった。
無論、アイリスフィールも、玲愛の指摘した事―――切嗣が自身の理想を実現する為に何ができるのか考えていないわけでは無かった。
これまで、切嗣は自身の掲げる理想の為に数多くの人間を老若男女卑賤に関係なく公平に救いながら、それと同等の人間を老若男女卑賤に関係なく公平に殺してきた。
それは、さながら、あの“水銀の蛇”が指摘したように、雑多な石くれを拾い上げる為に己が宝石を捨て続けてきた人生と言っても過言ではなかった。
だからこそ、切嗣も、アイリスフィールという伴侶を喪う事を知りながら、あらゆる非道に手を染めんとも、世界平和という自身の理想の為にこの聖杯戦争に全てを懸けて挑んでいるのだ。
それこそ、切嗣にとってアイリスフィールと同等に大切な―――っ!?

「あっ…」

この瞬間、アイリスフィールは思わず声を上げると、目の前にいる玲愛がこの舌戦において何を言わんとしているのか理解してしまった。
それは、アイリスフィールが頭の中では理解しつつも、これまで自身の心中に於いて決して有り得ないと思い続けてきた一つの可能性。

「考えられないから答えられないの? それとも、考えたくないから答えたくないの? だったら、笑わせないで…お人形さん」

すなわち、切嗣が自身の理想の為にイリヤスフィールさえも犠牲にできるという事を…!!
恐らく、切嗣ならばできるだろう。
数十億の人類と一人娘。
秤にかけて選択するならば、切嗣が選ぶのがどちらなのかは恐らく決まっている。
しかも、今、イリヤスフィールは、よりにもよってこの聖杯戦争の間近におり、場合によっては、いつでも、その可能性が訪れてもおかしくない状況だった。
改めて思い知らされた自分たちの現状に凍りつくアイリスフィールに対し、玲愛はそんなアイリスフィールの考えの甘さを侮蔑するかのように冷たく嘲笑った。
“人形”―――玲愛の口から出たその言葉は、今のアイリスフィールを打ちのめすのに充分すぎるほどのモノだった。

「本当に衛宮切嗣という男を愛するつもりなら、そいつの理想を壊すぐらいの気概を見せなさい。それができないなら、人を愛するなんて軽々しく口にしないで…人間の振りした出来損ないの愛玩人形」
「わ、私は…私は…!!」

だが、激情に駆られた玲愛は死に体同然のアイリスフィールを前にしても“ここまでにしてやる”という三流の小悪党に有りがちな半端な容赦など一切なかった。
―――この手の女は、一度、男に惚れると、長所や美点だけでなく欠点や歪みを含めた男の全てを愛してしまう。
―――だから、男に間違いや非が有ろうとも、それさえも理解し愛する事が女の務めだと勘違いするのだ。
―――無論、“黄金の獣”のように“愛する為に壊せ”などは論外だし、自分も積極的に嘯くつもりもない。
―――けど、ただ、無条件で男の全てを肯定する女などただの愛玩人形でもできる。
―――せめて、本当に愛していると言い張るのなら、少しは“それは違う”と言い切れるぐらいの意思を見せてみろ!!
よって、“この人形を二度と立ち直らせない”くらいの気持ちでやろうと決めた玲愛は、ダウン寸前のアイリスフィールに目掛けて渾身の力を込めた右ストレートを打ち込むようにとどめの一撃となる言葉を叩き込んだ。
“人間の振りした出来損ないの愛玩人形”―――この玲愛からの決定打となる言葉に対し、アイリスフィールは何一つ言い返せずに愕然としたまま、これまで自分の支えていた何かが根元から粉砕されるような感覚と共に崩れ落ちた。
それほどまでに、玲愛の言葉は痛烈などほどアイリスフィールに思い知らせていた―――所詮、自分は人間の真似事しかできない人形だという事を。

「メイド風情が出過ぎた真似かもしれませんが…これ以上奥様を侮辱するつもりなら容赦はしません」
「これ以上なんて無いわ。もう、ここに用なんて無いのだから」

とここで、それまでアイリスフィールと玲愛のやり取りを黙って見ていたセラが、玲愛を威嚇するような物々しい剣幕で両者の間に割り込むように横槍を入れてきた。
あくまでメイドという立場である以上、セラとしては、主人であるアイリスフィールと客人である玲愛のやり取りに口をはさむつもりはなかった。
だが、それ以上に、セラは自身の主を一方的に罵倒する無礼な客人を黙って見過ごすほど寛容ではなかった。
セラは、従者としてこれ以上のアイリスフィールに対する蹂躙を阻止すべくともすれば、力づくでも叩き出すと言わんばかりの口調で、態度一つ変えることの無い玲愛に釘を刺した。
しかし、当の玲愛は、セラの脅しとも取れる言葉など気にすることなく、未だに立ち直れないでいるアイリスフィールに目を向ける事無く、今度こそ自分の用は済んだとばかりに立ち去ろうとした。
そして、“さっさと出ていけ”というセラの視線を受けながら、玲愛が扉の近くにいたリズとすれ違う直前―――

「ありがとう。守ってくれて」
「…その甲斐もなかったみたいだけど」

―――自分がアインツベルン城に押しかけてきたもう一つの理由“アイリスフィール達の護衛”である事を何となく察してくれたリズと言葉少ない会話を交わして、早足で大広間を後にした。


“嫌な女だ”―――大広間から立ち去ってからアインツベルン城を出るまでの間、玲愛はそんな風に自分を評すほど軽い自己嫌悪に陥っていた。
正直な話、玲愛としては、ただ都合のいい理解者であることだけが、本当の意味で人を愛することではない事をアイリスフィールに諭すはずだった。
しかし、予想以上に玲愛自身の鬱憤が溜まっていたのと玲愛を責め立てるアイリスフィールが余りにもかつての自分を思い起こさせた性で、玲愛も感情を抑えきれずに激昂し、より過激で辛辣な言葉をぶつけてしまった。
そして、このイジメ寸前の全力投球による言葉のドッジボールの結果、玲愛はアイリスフィールを某不良高校生の全力オラオラ・ラッシュよろしくメンタル面で再起不能寸前まで叩きのめしてしまったのだ。
しかも、アイリスフィールは見た目が大人と言っても、まだ生まれてから九歳しか経っていないのだから、そんな九歳児のメンタルで玲愛の言葉責めに耐えられるはずがなかった。
そして、そんな子供を虐めてしまったという罪悪感を抱えた玲愛が暗く沈みながら、アインツベルン城の門を出た瞬間―――

「迎えに来ましたよ、先輩」
「藤井君…!? 何で…?」

―――いつの間にか降り始めてきた雪の中、雪の積もりかけ始めた傘をさした蓮が降り積もった雪さえ解かすほどの温かな笑顔で玲愛を待っていた。
この想い人の出迎えという予想外の展開に、玲愛は思わず声を上げて、急いで蓮の元に駆け寄った。
実は、自分がアインツベルン城へ向かった事も含め、玲愛は汚れ仕事でしかない今回の一件について、何かと重荷を背負おうとする蓮には一切を明かすことなく秘密にしていたのだ。
故に、そうであるにも拘らず、まるでタイミングを計ったように蓮が出迎えにやってきたことに玲愛は蓮が迎えに来てくれた事に喜ぶ一方で驚きを隠せないでいた。

「実はリザから聞いたんですよ。先輩が一人でここに出掛けたって…んで、雪も降ってきたみたいだし、迎えに行ってくれないかって頼まれたんです」
「あっ…」

一方、蓮は玲愛の驚きように苦笑しつつ、リザの頼みを通じて、玲愛をアインツベルン城まで迎えに来たことを話した。
恐らく、少しでも蓮の手助けをしようと奮闘する玲愛に対し、リザがせめてもの心遣いとして、蓮を迎えに行かせたのだろう。
そんなリザからの心遣い知った玲愛は、自分を気遣ってくれたリザに感謝するように小さく微笑んだ。

「じゃ、行きましょうか、先輩」
「うん…」

そして、チラチラと雪の降りしきるアインツベルンの森の中を、蓮と玲愛は互いの手をしっかりと繋ぐように握りしめ、蓮の持つ傘の下で身を寄せながら間桐邸へと共に歩き出していった。

「…大丈夫かな、藤井君?」

その帰路の途中、玲愛は隣にいる蓮に問いかけるように不安げな声で小さく呟いた。
―――未だに一致団結どころか、討伐派と擁護派で対立する六陣営。
―――さらに聖杯戦争の表裏で暗躍する謎の組織。
―――こんな状況で歴代最強にして至上最悪の邪神“第六天波旬”に勝てるのか?
―――何より、未だに最悪の下種に殺される事を切に願う間桐桜を救う事ができるのだろうか?
だが、六陣営会談にて銀時達と直接邂逅した蓮は、そんな玲愛の抱いた数々の不安を打ち払うかのように何かを確信した表情で告げた。

「あぁ、大丈夫だよ、先輩。あいつらを信じてみようぜ」
「うん…私も信じるよ…」

“かつて、黄昏の光を継ぎ、無明の闇夜を打ち払った曙光のように”
そして、玲愛も自分たちの意志を受け継ぎ、新たな世を生み出した七番目の天を思い返しながら想い人の言葉に静かに微笑んで頷くのだった。




そして、これより始まるは、この聖杯戦争の行く末を決める三つの相対。
騎兵と魔術師
弓兵と暗殺者
剣兵と槍兵
各々望し願いも抱く想いは違えども、己が身命に懸ける信念に偽りは一片もない。
さぁ始めよう…狂戦士と覇道を統べる神々に挑むための前哨戦を―――!!


一番手―――ライダー&ウェイバー・ベルベットVSキャスター&真島吾朗
言葉に代わって語るのは互いの拳と拳。
互いに求めしは、倉庫街にて交わした約束の決着。

ライダー「始めようか…真島殿」
真島「そうやな…ライダー」

戦国大名と任侠者…互いの立場は違えども、男としての器量に双方差など皆無。

「あぁ、信じてやるさ…当たり前だ!! 僕を信じると言ってくれたライダーの“絆”を信じるに決まっているだろ…!!」
「勝て、真島吾朗…!! お前が真に打ち勝ちたい男がいるなら、必ずライダーに勝て…我が最高のマスターよ!! 」

互いのマスターとサーヴァントに己が背を見守られながら両雄は対峙する。
それは奇しくも、倉庫街での邂逅の再現。

ライダー・真島「「いざ…!!」」

さぁ…己が心より望む“真の絆”を結ぶための至高の決着を―――!!


二番手―――遠坂時臣&アーチャーVS言峰綺礼&アサシン
己の罪と向き合った師と己の宿業を受け入れた弟子。
未だに知らぬ彼の人の心と向き合う為に、己と彼が真に対等であろうとする為に。

時臣「諦めはしない…私は二度とあの時のみじめな遠坂時臣には絶対に戻らない!!」
アーチャー「なら、行こうぜ…本当のアイツを見つける為に」

アサシン「…あいつらに見つけられると思うのか? それとも…お前が見つけられたいのか?」
綺礼「…」

我も人、彼も人…故に対等であらん為に―――

璃正(半裸)「だから、何故、そこで鬼ごっこ!?」

―――冬木市というフィールドで繰り広げられる何でも有りの鬼ごっこが幕を開ける!!

三番手―――坂田銀時VSランサー
夜明けもまだ遠い漆黒の闇にて対峙する銀と紅。
己が想いの総てをこの一戦に懸けんと幾度も激突する両者の前に現れるは、過去の業に囚われ凶手と化した鮮血の妖甲!!

セイバー「お願い…助けて…銀時いいいいいいいい!!」
ランサー「さぁ、そっちは任せたわよ…あなた達に天下無敵の幸運を」
銀時「あぁ…任せとけよ。こっちは今まで散々どん底ってやつを味わってきてんだ」

切嗣の令呪に縛られながらも、涙を流し心の底から助けを求めるセイバーを前に、己の背中をランサーに預けた銀時はいつもと変わらぬ軽口を叩きながら木刀を手に取った。
―――そう、やるべき事も、護るべきモノも何一つ変わっていない。
―――そこに自分にむかって救いを、助けを求める大切な仲間がいるのだ。
―――ならば、過去、現在、何処の世界に居ようが、想像を絶するほどの困難が待ち構えていようが、坂田銀時の為すべき事はただ一つ!!

銀時「なら、あいつが助けを求めるなら、奈落だろうが地獄だろうが何処に居ようが、無理矢理でもあいつを引っ張り上げてやるさ」



Fate/zero イレギュラーズ 相対戦編…開始!!



例え、その先に―――

セイバー「えっ?」
銀時「何で…何してんだよ、てめぇは…!!」
第一天「…これで、これで良いんだ、銀時」

―――逃れる事のできない絶望が待ち受けていようとも!!
 


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