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Fate/ZERO―イレギュラーズ― 第50話:相対戦=初戦その1=
作者:蓬莱   2014/07/28(月) 23:07公開   ID:.dsW6wyhJEM
それは“絆”を掲げた金色の青年“ライダーこと徳川家康”と“復讐”に囚われた紫の青年“石田三成”の互いに相反する二人の将の死闘に決着がついた直後の事だった。
すでに、辺りは静まり返り、日が紅く染まった黄昏の関ヶ原にて、ライダーは、忠勝を含め自分を気遣う配下達を下がらせると、唯一人、死闘の果てに物言わぬ骸となった石田三成の傍らに座り込んでいた。
そこには勝利の喜びなど一切なく、只管に俯いたまま震えるライダーの姿はまるで三成を喪った悲しみに耐えているかのようだった。

「あんた…満足かよ…」
「…」

その最中、三成の傍で座り込むライダーの背後から茫然と問いかけるような青年の声が飛び込んできた。
―――振り返らなかった。
―――声の主が誰なのかは分かっていた。
あえて、無言という形で自身の答えを返したライダーを前に、苛立った青年は無理やり立ち上がらせるかのようにライダーに掴みかかった。

「秀吉様を…刑部さんを…三成様の“絆”を奪った挙句、三成様まで殺して…あんたは本当にそれで満足なのかよ!!」
「左近…」

そして、青年―――豊臣の左腕のもっとも近しい者と称された三成の配下“島左近”はそれまで押し殺した憎悪の感情を全て吐き出すかのように激昂すると、目の前にいるライダーが犯した罪を責め立てながら激しく問い詰めた。
そんな己に宿った憎しみを振り絞った言葉を口にする左近に対し、ライダーは思いつめたかのように左近の名を呟くと、改めて自分が何を奪ったのかを噛みしめながら静かに口を開いた。

「こうするしかなかった。こうしなければならなかったんだ…」

事実、あの時、ライダーが動かなければ、覇王“豊臣秀吉”によって、日本だけでなく世界にまで終わりなき戦火を広げ、多くの民を苦しめ事になりかねなかった。
だからこそ、ライダーは三成が崇拝する主である豊臣秀吉を討ち、“絆”の力でもって天下を治めんと立ち上がったのだ。
例え、それが、かつて、絆を繋いだ友である三成との永久の離別を意味する事になっても―――!!

「何だよ、そりゃ…なぁ、あんた言ったよな。“絆”が一番強いって、そいつを信じているって…」

だが、当の左近からすれば、秀吉の天下を簒奪した挙句、主である三成の命を奪ったライダーの口にする言葉は白々しい言い訳じみた綺麗事にしか聞こえなかった。
何より、左近からすれば、“絆”を説きながら、三成の“絆”を全て奪い去った男の矛盾に満ちた言葉など信じられる訳が無かった。
そして、左近は平然と“絆”を口にするライダーを射殺さんばかりに睨み付け、奥歯を砕かんばかりに噛みしめながら、ライダーの掲げる“絆”が偽りに満ちた欺瞞である事を示す何よりの証を突き付けた。

「―――あんたは信じられなかったのかよ…!! 三成様の“絆”を…!! そんな三成様とならどんな無理でも何だってできるって信じられなかったのかよ…!!」
「それは―――!?」

次の瞬間、左近の放った決定的なある事実――“三成との絆を信じられなかった”事に、それまで左近の罵倒に只管耐えていたライダーの瞳がハッとしたかのように茫然と見開かれた。
そう、左近の言葉そのものではなく、その言葉が何よりも核心を突き、さらに自分自身の心に響いてしまった事を驚くように。

「やっぱりかよ…何だよ…あんたが、あんたが一番“絆”ってやつを信じていねぇじゃねえか、このイカサマ野郎!!」
「左近、それは違う…!! ワシは…ワシは…!!」

一方、想像以上にライダーの驚く様を見た左近は、これまで自身が抱いたライダーへの疑惑を確信すると、さらにライダーを激しく責め立てた。
この左近の苛烈な罵倒に対し、ライダーも何とか反論しようとするも、そこから先の言葉を口にすることができなかった、否、できる筈が無かった。
なぜなら、ライダーが“絆”の力を掲げながらも、そのライダー自身が三成との“絆”を信じられなかった事こそが、ライダー自身が絆の力を信じていない何よりの証なのだから!!

「俺はあんたを絶対に信じない…!! あんたの言葉も、あんたの語る“絆”も、あんたの治める国も…!!」
「待て…待て…!! 止めるんだ…!!」

故に、左近も白々しく“絆”を掲げながらも、誰よりも“絆”を信じていないライダーの言葉に何一つ耳を貸すつもりはなかった。
そもそも、左近は三成を喪った時点で、仇敵であるライダーの治める天下でのうのうと生きるつもりなど毛頭なかったのだ。
それを示すかのように、左近はあらん限りの憎悪の言葉を吐き捨てた後、そばに落ちていた三成の刀を手に取るとその刃を自身の首筋に突き立てた。
これを見たライダーは、ようやく、左近が何故ここに現れ、何をしようとしているのか気付き、何かを恐れるような震える声で必死になって左近を止めようとした。
だが、左近は元よりライダーの言葉に耳を貸すつもりなどなく、ただ、ライダーに向けて末期の言葉をこう吐き捨てた。

「…嫌だね。俺はあんたの命令も願いも何一つ聞くつもり何かねぇンだよ。それに…俺は三成様…左腕に近しいモノなんだよ。だから、三成様…俺もそっちに今行きます―――!!」
「止めてくれ、左近―――っ!!」

次の瞬間、左近の自害を止めんとする飛び出したライダーの眼前で、黄昏時の夕日すらも紅く染め上げるほどの鮮血の華が迸るように咲き乱れた。



第50話:相対戦=初戦その1=



「おはよう、ますたぁ。昨晩は随分と遅かったようだが大丈夫か?」
「ん、あぁ…ライダーか…」

まず、目を覚ましたウェイバーが眼にしたのは、ほぼ徹夜でネシンバラ達との作業に取り掛かっていたウェイバーを気遣いながら微笑むライダーの姿だった。
よく見れば、マッケンジー夫人が用意してくれたのか、いつの間にかテーブルの上には、焼きたてのトーストやコーヒーなどウェイバー達の朝食が並べられていた。
とりあえず、未だに寝ぼけ眼となっている頭に喝を入れるべく、ウェイバーはテーブルの上に置かれたコーヒーを手に取った。
とここで、ウェイバーは、ふと部屋中に散乱した資料を片付けるライダーの後ろ姿に目を向け、先程まで自分が見ていた夢―――ライダーの在りし日の記憶を思い返した。
―――恐らく、左近という青年のように、ライダー自身が望まなくとも、ライダーによって“絆”を奪われ、失った人間は数多くいたのだろう。
―――“絆”を掲げながら、その“絆”を奪うという矛盾の中で、ライダーがどれだけ苦悩したのか、自ら討ち取った友の亡骸の前で打ちひしがれるライダーの姿を見れば想像に難くなかった。
―――これが常人ならば否定の言葉に押し潰されるように心が折れ、何もかも捨て去って逃げ出すのが当たり前だろう。
―――だが、それでも、ライダーはどれだけ多くの人間に罵倒され否定されようと、決して歩みを止める事無く、今も人と人を繋ぐ“絆”の力を求め信じていた。
―――それこそが、三成達の“絆”を奪った事への報いと三成との“絆”を信じられなかった自分自身に対する罰なのだと心に戒めながら。

「本当に凄い奴なんだな、お前って…」

普段のライダーから想像できない悲壮なまでの覚悟を知ったウェイバーは、改めてライダーの口にする“絆”という言葉の重さにそう呟かずにはいられなかった。

「どうかしたのか、ますたぁ?」
「いや、何でもない…」

とはいえ、やはりライダー本人の前で語るには恥ずかしいのか、ウェイバーは、こちらに振り返ったライダーに簡単に返事を返すと、手に取ったコーヒーを一気に飲み干した。


その後、ウェイバーとライダーは、何故かげっそりとやつれた表情のネシンバラと艶々と顔をテカらせるシェイクスピアと朝食を取りつつ、ウェイバーとの共同作業で今日までにまとめ上げたとある仮説の資料について話し合っていた。

「確かに、これなら討伐派の皆を納得させるだけのモノとしては充分だろうね」
「うん…この仮説なら話の筋は通っているし、あの映画にあった不自然な描写にも説明はつく筈だよ」
「そうか…良かったぁ…」

やがて、朝食を終えたネシンバラとシェイクスピアは、ウェイバーと共にまとめ上げた資料に目を通し、バーサーカー擁護派の大義名分として充分通用しうるとそれぞれの言葉で評価を下した。
とりあえず、相対戦当日ギリギリとなったものの、ウェイバーはひとまず、自分たちの仮説が完成したことに肩の荷が取れたかのようにホッと胸をなでおろした。
だが、安堵するウェイバーに対し、ネシンバラとシェイクスピアは“ただ―――”と付け加えながら険しい表情でこの仮説を立証する為の最大の難点を指摘した。

「後はこの仮説を実証できる証拠があれば完璧なんだけど…」
「そう、それが僕らにとっての一番の問題だよね」

そう、ネシンバラとシェイクスピアの言うように、バーサーカー討伐派にこの仮説が事実である事を認めてもらうには、それを立証するための証拠を提示する必要が有った。
だが、バーサーカー擁護派が見たあの映画だけでは、ウェイバー達の主観によるモノが大きいため根拠としては余りに乏しく、自分たちの仮説を裏付ける証拠としては不十分だった。
その為、ウェイバー達は、自分たちの推測を事実に押し上げるだけの明確な証拠を早急に用意しなければならなかった。
そして、その為にもっとも有効なのは、事の真相を知るラインハルト達に証言を行ってもらうという方法だった。

「だが、この件に関しては、ラインハルト殿達に助力を求めるのは難しいだろうな…」
「そうなると次の候補といえば…」

しかし、頭を悩ませるライダーの指摘するように、ラインハルト達はバーサーカーに不利な行動を取らせないように制限されている為、証言そのものができない可能性が極めて高かった。
事実、ヴェヴェルスブルク城での一件でも分かるように、真相の一端に気付いた銀時達がバーサーカー討伐派に事情を一切説明できなかった事を考えれば充分にあり得る話だった。
そこで、ラインハルト達から証言が得られない以上、ウェイバー達は、仮説を立証するための物的証拠を用意する必要が有った。
そして、内心で満を持して出番が来たと小躍りしていたネシンバラが厨二病感を漂わせるように軽く眼鏡をクイッと上げるしぐさを取った。

「…バーサーカーの召喚に使った触媒を持っている間桐だね。そもそも、バーサーカーを召喚した張本人達だしね」
「ねぇ、もしかして、流行っているのかな? 解説役が解説する前に解説するのが流行っているのかな、作者さん!?」

その直後、狙いすましたかのように相方であるシェイクスピアによって見事に解説役としての見せ場を横取りされてしまった。
これには、さすがのネシンバラも、もはや、自分には解説させないという世界の悪意を感じ取ったのか、某ツッコミ眼鏡が憑依したようなメタ発言的ツッコミを入れてしまった。
もっとも、シェイクスピアの言うように、間桐家がバーサーカーの召喚に用いた触媒がアレであるなら、自分たちの仮説を立証するための物的証言としては充分だった。
そう、立証するには充分なのだが…ウェイバー達ではどう足掻いても解決できない大きな問題が有った。

「でも…問題は、どうやって間桐雁夜に力を貸してもらうか何だよなぁ…」

そして、如何にして間桐雁夜の協力を取り付けるかという難題を前に、ウェイバーは思わず頭を抱えながらため息交じりにぼやいた。
一応、蓮達からある程度の事情を聞かされている以上、立場的に雁夜はバーサーカー擁護派と言ってよかった。
しかし、雁夜と面識のないウェイバー達では、例え、雁夜に協力を願い出ても、相手に信用されない可能性が極めて高かった。

「いくら、御三家のよしみが有るといっても、そもそも、アインツベルンの場合は銀時さん以外当てにならないし」
「かといって、そもそもの元凶である遠坂家は論外…むしろ、話すら聞いてくれない可能性だってあるよ」
「ううむ…打つ手はなしか」

それに加えて、厳しい表情を浮かべるネシンバラとシェイクスピアの言うように、間桐家と縁の深いアインツベルンや遠坂を通じて、雁夜に協力を取り付けるのも厳しいモノが有った。
まず、アインツベルンについては、マスターがあくまで単独での聖杯奪取に拘っている事に加え、バーサーカー擁護派である銀時が家出してしまったために協力を求めること自体が極めて困難だった。
さらに、遠坂家については、六陣営会談でも見たように、雁夜がある意味で元凶である遠坂時臣を蛇蝎の如く嫌っている為に、遠坂家を通じての雁夜に協力を求めるのはほぼ不可能と言っても過言ではなかった。
この八方塞な状況に、さすがのライダーも険しい表情を浮かべながらどうしたものかと考え込んだ直後―――

『その役目…私に任せてくれないだろうか』

―――ネシンバラの通神帯を通じて、リアルタイムでこちらの情報を逐一把握していた時臣から雁夜との交渉の申し出が飛び込んできた。



一方、バーサーカー討伐派であるキャスター陣営とランサー陣営の拠点となっている藤村邸では、蓮の要請を受け、事前にバーサーカー討伐派が指定した相対戦の舞台へと迎えに来た客人が訪れていた。

「よぉ、おっさん」
「誰がおっさんや、クソガキ」

この客人―――司狼の失礼極まりない第一声に、バーサーカー討伐派の面々と共に出向いた真島はどいつもこいつもと言わんばかりに苦虫をつぶしたような表情でぼやきながらも、地元の親しい悪童と接するようなやり取りを交わした。
とはいえ、物陰から様子を伺っていた藤村組の若衆からすれば、狂犬と冠せられるほど武闘派極道である真島相手にタメ口を難なく言ってのける若造こと司狼の胆力に畏怖の念を感じずにはいられなかったが。

「むしろ、年齢的な事を考えれば万年クラスの爺じゃないの」
「いやいや、まだ、俺も心までくたばり損ないの爺になったつもりはねぇから」

もっとも、ジト目のランサーが呆れた口調でツッコんだように、見た目的に司狼が若くとも、万年単位という司狼の実年齢を考えれば、真島の方が遥かに年下なのだが。
しかし、当の司狼は、相も変わらず掴みどころのない軽口を叩くように返すと、そろそろここにやってきた本題に入る事にした。

「んで、場所と勝負方法はアレで良いんだよな?」
「あぁ…向こうも二つ返事で了承してくれるはずだ」

そして、司狼が相対戦の場所と勝負方法について確認を取るように問いかけると、キャスターは肯定するかのように頷きながら答えた。
―――余計な邪魔が入らず、周りの被害を一切気にしないで暴れられる場所。
―――勝負方法は一対一の決闘。
それが真島とキャスターがこれまで、数多くの乱入で決着が先延ばしになった事を踏まえた上で、完全決着となるであろう相対戦において指定した条件だった。

「ほな、一番手は行かせてもらうで、ランサーのねーちゃん」
「えぇ、悔いなんて一欠けらも残せないくらい思いきりぶつけてきなさいよ」

そして、相対戦の初戦に挑まんと赴く真島に対し、ランサーは既に戦友同然の真島に檄を飛ばしながら、真島と互いに拳を軽く突き合わせた。
互いに闘う事に生きがいを感じる者同士でどこか通じ合うところが有るのか、真島とランサーは強敵との決戦を前に緊張するどころか、全力で闘える機会を得られた事に歓喜に満ち溢れた笑みさえ浮べていた。
―――こいつらは…魂の一欠けらまで戦闘馬鹿共だな。
―――まったく、とんでもない連中だな。
―――まぁ、ランサーと気が合う時点で分かっていたけど…
そんな真島とランサーのバトルジャンキーコンビのやり取りに、キャスター、ケイネス、ソラウは三者三様に本当にしょうがない奴らだと苦笑するしかなかった。
そう、何だかんだ言いつつ、ついつい付き合ってしまう自分達も含めながら。

「では、行こうか…真島」
「そうやな、キャスターの嬢ちゃん」

やがて、史上最悪の称された魔女と狂犬と称された極道者という異色コンビは相対戦の先方として決戦の舞台へと足を運ばんとした。
相まみえるのは、数多の絆と共に金色の陽を背負いし東照権現。
一度目は、強敵として互いの拳と拳で激しくぶつかり合った。
二度目は、戦友として互いの背中を預けて共に死線を潜り抜けた。
そして、三度目にして、倉庫街で交わした約束を果たすべく、己が全力を出せる機会を得る事ができた―――!!

「さぁ…決着つけようや、ライダー!!」

やがて、これより始まるライダーとの二度とない最上級の死闘に心を躍らせる真島は虎の咆哮を思わせる掛け声を吐き出しながら、いつも以上に軽快な足取りで、先を行くキャスターの後について行った。
目指すは、修羅道を司る“黄金の獣”の居城にして、屍山血河の戦場に身を置く修羅戦鬼達の楽園(ぱらいぞ)―――ヴェヴェルスブルク城!!




いよいよ、ライダー陣営とキャスター陣営による相対戦の初戦が始まろうとする一方で、この相対戦の行方を左右する闘いが間桐邸に於いて人知れず始まろうとしていた。

「…」

そして、その闘いの舞台に足を運んだ一人の男―――時臣は、眩い朝日を浴びてなお、欝蒼と聳え立つ間桐邸の門前で無言のまま、何かを躊躇するように立ち止まった、否、立ち止まってしまった。
―――いく事ができない
―――前に進む事ができない
―――一歩を踏み出すことがどうしてもできない。
だが、それは、時臣の事情を考えれば無理からぬ話だった。
今の時臣にとって、この間桐邸は、ただ御三家の一つである間桐家の居所というだけでなく、自身が無知である故に犯した罪と課された罰の象徴となっていた。
以前の時臣ならば、六陣営会談の折にバーサーカーによって暴露された時のように、自身の犯してしまった業に耐えきれず、現実から目を背けるように半狂乱になりながら逃げ出していたかもしれない。
いや、実際のところ、今でも、時臣の胸中では今すぐこの場から背を向けて逃げ出したいという逃避の感情を抱いてしまっていた。

「ふっ…私は何を今更躊躇っているのだ」

だが、時臣はそんな遠坂家の当主に有るまじき考えを抱いた自身を自嘲すると、自らの退路を断つように決意の第一歩を踏み出していた。
以前ならば、ともかく、今の時臣にとって、例え、どれだけの困難や苦難が待ち受けていようとそこから逃げる選択肢など断じて無かった。
なぜなら―――

「そう、私は私の為すべき、否、為さねばならない事を為すだけだ…そうだな、アーチャー…」

―――今の時臣には、アーチャー達を筆頭に、再起不能寸前まで追い詰められた自分に喝を入れ、自ら危険に飛び込んでも自身の背中を後押ししてくれる数多くの“友”がついているのだから!!
そんな感謝してもしきれない数多くのアーチャー達の恩(ただし、アーチャー達の奇行による精神的負担と胃への多大なダメージは差し引く)に少しでも報いるべく、時臣は今の自分に課せられた役目を果たさんと前へと進んで行った。
やがて、時臣が門をくぐり間桐邸の玄関までたどり着いた瞬間、突然、扉が乱暴に開かれると、先程から玄関近くの窓からこの招かれざる客人の様子を伺っていた住人が姿を現した。

「…何をしに来た、時臣」
「間桐雁夜…君に話があってここに来た」

そして、姿を見せた住人―――間桐雁夜は、言葉に警戒心と不信感と嫌悪感を隠すことなく露わにしながら目の前にいる怨敵である時臣を苛立つように睨み付けた。
それに対し、時臣は静かに雁夜から向けられた敵意の視線を受け止めながらも、決して視線を逸らすことなく、堂々とした態度で自らの用件を口にしようとした。

「話だと…? ふざけるな、時臣!! 今更、俺とお前にこれ以上何の話があるっていうんだ!! 桜ちゃんの全てを踏みにじった、お前なんかに!!」
「そうだな…私の犯した罪を、桜が受けた仕打ちを考えれば、幾万の罵声すら生ぬるいだろう。そう、全ては何も知ろうとしなかった私自身の罪…どんな罵声も罰も甘んじて受けよう」

そんな一切揺らぐことの無い時臣の態度に、当の雁夜は更なる苛立ちをつのらせながら、六陣営会談以上の憎悪の激情を剥き出しにして責め立てるように激しく糾弾した。
今までの時臣ならば、無様に醜態をさらす雁夜を落伍者の戯言として冷淡に一瞥しながら、嘲るように嘯くだけだっただろう。
だが、時臣は、この一方的な雁夜の怒りを静かに受け止めながら、桜を地獄に追いやった外道として自身の罪を認め、あらゆる罰も受ける事さえ躊躇わないと頷き返した。
やがて、意を決した時臣は一歩前に出ると、いきなり、その場で崩れ落ちるように膝をついた。
そして、時臣はゆっくりと自身の両手を前に付き、そのまま、目の前にいる雁夜にむかって頭を下げた。

「なっ…!?」
「その上で頼む、雁夜…!! 桜を、私の娘を救う為に力を貸してくれ…!!」

次の瞬間、雁夜は、先程まで抱いていた憎悪の感情さえ消し飛ぶほどの絶対に有り得ない光景に驚愕の余り言葉を失ってしまった。
そこには、額を地面にこすり付けるかのように土下座しながら、恥も外聞さえ厭わずに、桜を救う為に雁夜に助けを懇願する時臣の姿があった。



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