ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

Fate/ZERO―イレギュラーズ―  第51話:相対戦=初戦その2=
作者:蓬莱   2014/08/14(木) 22:42公開   ID:.dsW6wyhJEM
間桐邸にて交渉という名の闘いが始まった頃、キャスターと真島と同じく、ライダーとウェイバーも蓮から派遣された案内人―――司狼の相方である本城恵梨依よって相対戦初戦の舞台となるヴェヴェルスブルク城へと一足早く到着していた。

「ここで…キャスター達と闘うのか…」
「なるほど…確かにここならば誰の邪魔も入らないな」

やがて。ウェイバーとライダーは、キャスター達と雌雄を決する決戦の地であるローマのコロッセオに酷似した闘技場へと辿り着いていた。
―――一切の逃亡も乱入も阻むかのように周囲を取り囲む高い壁。
―――万人規模の血と屍の臭いがこびり付くまで深く染み込んだ地面。
確かに、ここならばキャスターと真島から指定された“ライダーとガチで闘える場所”という要望を満たすにこれ以上にないほど相応しい場所だった。
ちなみに、この直前まで、武蔵経由でもたらされ、マッキーと桜の手によって闘技場の敷地内に大繁殖していた不気味魚類系植物を、蓮達が精神に多大な負荷を追いつつも総掛かりで草刈していたのはまた別の話である。

「まぁ、それと、あんた達がどんだけ周りを巻き込んでぶっ壊しても全力で遠慮なく闘える場所なんてここぐらいなもんだしね」
「ははははっ!! 確かにその通りだな、恵梨依殿」

そんなライダーとウェイバーに対し、絵梨依は何やら物騒な事を口走りながら、これから巻き起こるアクシデントを楽しむかのように愉快気な口振りで軽口を叩いた。
もっとも、当のライダーは、絵梨依の不穏な言葉に“なるほど”と納得したように素直に頷きながら笑って返していた。
“普通、それは笑うところか…”―――ウェイバーは何処かずれている絵梨依とライダーのやり取りに呆れつつも、むしろ、ライダーと真島が全力で闘うなら、そうならない方がおかしいとさえ思っていた。
とここで、ふと観客席の方へと目を向けたウェイバーは、絵梨依に先程から気になっていたある事について尋ねてみる事にした。

「ところで、観客らしき骸骨が客席をひしめいているけど…何で?」
「そういえば…ラインハルト殿が見届け人として配慮してくれただろうか」

そう尋ねるウェイバーの視線の先には、この闘技場の観客席を埋め尽くすほどの骸骨達がまるで甲子園やワールドカップを思わせるように総立ちになりながら割れんばかりの大歓声を上げていた。
しかも、よく見れば、“○べ屋”の腕章をつけた何体の骸骨が右に左に通路を歩きながら、御弁当やかち割り氷などの売り子をしている徹底ぶりだった。
一応、ライダーが言うように立会人として参加しているのかもしれないが、明らかにお祭り騒ぎのようなノリで盛り上がる骸骨たちを見る限りそれだけとは言い難かった。
そして、このウェイバーの疑問に対し、絵梨依は“あぁ”と納得した様子で観客席にて観戦している骸骨たちに目を向けてこう返した。

「まぁ、基本的にこの城の連中はこういうノリが大好きなバトルジャンキーがほとんどだから別にいいんじゃないのー」
「えぇ…」

“ほぼ全員、戦闘狂だから”―――この余りにも身も蓋もない絵梨依の回答に、さすがのウェイバーも予想外だったのか思わず脱力してしまった。
もっとも、“黄金の獣”が司る修羅道至高天の住民としては正しい在り方かもしれないが。

「それで大丈夫なのか、お前の方は?」
「…廃発電所の闘いぶりを見る限り、真島殿の力は未知数と言っていいほど成長している。正直な話、今のワシの力だけで勝てるかどうか分からん」

ひとまず、気を取り直したウェイバーは、この相対戦で真島と相見えるであろうライダーにむかって勝ち目が有るのか尋ねた。
普通ならば、ただの人間が英霊の分身でもあるサーヴァントに勝てる道理などない。
だが、キャスターの宝具である“虚無の魔石”による強化に加え、真島本人の有する戦闘能力と短期間で高位魔術と同等の芸当を習得した成長性の高さにより並みのサーヴァントを一蹴できるまでの強さを有していた。
故に、そんな真島との再戦に挑むライダーも、どちらかが命を落としてもおかしくない死闘となる事を予感したように難しい表情を浮かべながら、マスターであるウェイバーに珍しく弱気とも取れる言葉で返すしかなかった。

「何で弱音吐いてんだよ、バカ」
「ますたぁ…?」

しかし、ウェイバーは、これまでのように狼狽える事も癇癪を起したように喚く事もなく、弱気になっているライダーを叱咤するように憮然と返した。
いつもとは違うウェイバーの態度に戸惑うライダーであったが、ウェイバーは目を逸らすことなく、真っ直ぐにライダーを見据えながら胸を張ってこう言い切った。

「あの時、お前が僕ならできるって信じてくれたよな。だったら…僕だってお前が勝つって信じているんだ。だから、絶対に負けるな、ライダー!!」
「…あぁ、勿論だとも!! ワシとますたぁ、否、ウェイバーの“絆”があれば何も恐れるモノはない!!」

それは、マスターとサーヴァントの関係ではなく、徳川家康という時代を超えた友と真に対等の“絆”を結んだウェイバー・ベルベットという一人の人間としての心からの言葉だった。
このウェイバーの真摯な言葉は、今のライダーにとってあらゆる迷いを振り払うほど何よりも頼もしく心強い最高の激励だった。
故に、ライダーも、“絆”を結んだ友としてウェイバーの檄に応えるべく、この相対戦の初戦に対する勝利を誓うのだった。

「よぉ、待たせたのう!!」
「ふん…」
「「…」」

そして、互いの“絆”を確かめ合うライダーとウェイバーの前に、倉庫街の一件以来相まみえることになる相対戦初戦の相手でもある真島とキャスターがようやく姿を現した。
―――これより始まる死闘を前にしても臆するどころか、楽しむ素振りすら見せて気軽に言葉を交わす真島。
―――真島とは対照的にバーサーカー討伐に異を唱えるライダー達を険しい表情で一瞥し睨み付けるキャスター。
このマスターとサーヴァントと相まみえるならば間違いなく、ライダー達にとってこれまでで最大級の死闘を挑むことになるのは必然だった。
だが、ライダーとウェイバーは臆することなく、闘技場の中央にて真島とキャスターを見据えながら互いに向き合うように対峙した。

「真島殿…このような形となってしまったが、あの時の続きを果たさせてもらう」
「当たり前や。それに…こないな最高の舞台で思う存分大暴れできるんや。全力でやらしてもらうで」

これまで先送りとなった倉庫街での決着…ライダーと真島は自身の言葉で友誼を交わしながら、お互いに悔い無き決着を果たさんと誓い合った。
そこには、六陣営会談で見せた剣呑さはなく、互いに強者として認めた好敵手(とも)同士でしか結びえない“絆”が確かにあった。
例え、それが命のやり取りの掛かった正真正銘の死闘の直前であったとしても…

「お前達の事情など知らん…だが、マリィ姉様の怨敵であるバーサーカーを討つ事を邪魔するなら容赦しない」

一方、キャスターは、マスターである真島とは対照的に表情を一切変える事無く、わざと敵意を含んだ言葉で吐き捨てるように言い切った。
以前、藤村邸において真島やランサーは、バーサーカー討伐である自分たちと対立してまで、ライダー達がバーサーカー擁護派に回ったのは何かしらの事情があると言っていた。
だが、キャスターにとって如何なる事情が有ろうと、マリィを惨殺したバーサーカーの願いを叶える事など納得できる筈が無かった。
だからこそ、キャスターはあくまでライダー達を討ち果たすべき敵としてしか見なしていなかった。
そう…その筈だった。

「あぁ、分かっている。しかし、それでも譲れぬモノがワシ等にもあるのだ、キャスター殿」
「…本当に訳が分からん連中だ、お前達は」
「はっはははははははは!! さすがに銀時殿やアーチャー殿には敵わないがな」
「いや、あいつらが飛びぬけておかしいだけだと思うんだけど…」

だが、自分の敵意を浴びながらも怯むことも拒絶する事もなく、それどころか堂々と受け止めたライダーの瞳を見た瞬間、そんな暗い気持ちは一気に霧散してしまった。
なぜなら、ライダーの瞳には、真島やランサーの言うように、キャスターが思っていたような嘘や迷いなどの負の感情は一切なかった。
むしろ、バーサーカーの暴威にも断じて屈することのない、今に至るまで数多くの困難に耐えながら鍛え上げられた鋼の如く強い意志と決意が込められた眼光が確かに宿っていた。
“敵わんな…”―――それがライダーと対峙し、全てを抱きしめる黄昏の光と似通った曙光のようなライダーの器と決意をキャスターの率直な感想だった。
ただ、それでも精一杯の意地を張ったつもりなのか、キャスターは呆れながらも、どこか羨望と嫉妬の入り混じった負け惜しみのような言葉をどうにか呟くしかなかった。
もっとも、ライダーは、キャスターの言葉にうんうんと納得した様子で頷きつつ、毎度マジドの如くウェイバーにツッコミを入れられながら朗らかに笑って返した。
やがて、ライダーと真島は改めて互いに向き直ると―――

「ほな、あん時の続き…始めようやないか」
「あぁ。そうだな…あの時の決着をここに」

―――初めてお互いの拳を交わした倉庫街から先延ばしされてきた決着を果たさんと、鋼のように拳を固く握りしめながら、真っ向から対峙するように構えた。
もはや、そこには、先程までの弛緩しきった穏やかな空気など無かったかのように霧散し、ライダーと真島の身体から溢れ出る闘志によって生じ、この闘技場全体を覆い尽くさんばかりの張り詰めた緊張感に取って代わられていた。

「…行こうか」
「あぁ、分かっている」

やがて、ウェイバーとキャスターは互いに目を配らせると、闘志を漲らせ対峙する真島とライダーを残し、静かにその場を後にし始めた。
これより始まるのは、余人が一切立ち入る事のできない、ライダーと真島だけに許された互いの命と魂を激しく燃やし尽くすほどの極限の死闘。
それは、ウェイバーとキャスターも承知の上の事であり、このライダーと真島の闘いには一切の手助けと手出しをしないつもりだった。
だからこそ、ウェイバーとキャスターはあえて言葉少なく、互いに心を通わせた相棒とまるで約束を交わすようにはっきりとこう告げた。

「絶対に負けるな、ライダー」
「断じて勝て、真島」

このウェイバーとキャスターから発せられた最高の檄に、ライダーと真島は無言のまま、一切返事を返すことなかった。
“任せろ(や)…!!”―――だが、ライダーと真島は、ウェイバーとキャスターの想いを確かに受け取ったと雄弁に背中で語りかけていた。
その後、ウェイバーとキャスターが闘技場の敷地内から完全に出ると同時に、あれほど割れんばかりの歓声を上げていた観客の骸骨たちも息を呑むように一斉に静まり返った。

「―――徳川軍並びに東軍総大将…徳川家康」
「―――東城会直系真島組組長…真島吾朗」

やがて、静まり返った闘技場の敷地内に残ったライダーと真島はまるで倉庫街での一戦を再現するかのように静かに名乗りを上げた。
そして、それを始まりの合図とするかのように―――

「「いざ、尋常に…勝負!!」」

―――ライダーと真島は同時に全力で駆け出し、サーヴァントとマスターによる常識はずれの対決の幕が上がった!!



第51話:相対戦=初戦その2=



そして、巻き起こる轟音と爆発―――ライダーと真島の拳がぶつかり合うと同時に生じたそれらが地震のように闘技場全体を大きく揺るがせた。
まるで肌全体を痺れさせるような衝撃の余波は、ライダー達の近くで見守るウェイバーやキャスターだけでなく、遠く離れた観客席にいる骸骨達にまで及んでいた。
“見事…!!”―――たった一度の拳のぶつかり合いによって、この闘技場にいる誰もがそう実感せざるを得なくなっていた。

「凄いな…真島殿」
「そっちもやな…家康」

だが、それを誰よりも実感していたのは、今も一歩も退かずに拳をぶつけ合ったまま、互いに称賛の言葉で称え合うライダーと真島だった。
真島の拳を真っ向から受け止めたライダーは心を燃え上がらせるような熱い拳に感嘆の念を抱かずにはいられなかった。
対する真島もライダーの叩き込んできた心を大きく響かせるような重い拳に喜悦を表情で露わにしながら大きく心躍らせていた。
この一撃によって、ライダーと真島は互いに万全の状態である事を確認し―――

「ほんなら、あん時と同じようにド突き合いといこうやないか!!」
「望むところだ―――!!」

―――互いに望むかのように雄叫びを上げながら拳を交え始めた。
再び、始まったライダーと真島のぶつかり合いは闘技場全体を大きく揺るがすほどの地鳴りが響かせていた。
しかも、一回、二回、三回…と互いにぶつかり合うごとに、ライダーと真島もそれに比例するかのように相手に負けじと、より一層勢いよく拳を繰り出してぶつかり合った。

「「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

やがて、互いに猛るように吼えるライダーと真島から繰り出される拳は、ぶつかり合うたびに生じる炎と光を伴いながら地面を大きく抉るように荒れ狂う旋風と化すまでに激しさを増していった。
無論、これほどまでに激しい打撃の乱戦が巻き起これば、闘技場の観客席にいる骸骨達も無事で済むはずもなく、次々に流れ弾の如く飛んでくる拳圧によってバラバラに吹っ飛ばされるなどの巻き添えを喰らっていた。
そして、ラッシュ対決を続けるライダーと真島は、双方どちらも譲らぬまま、既に数百余りを超える拳のぶつかり合いを重ねながら―――

「くっ…!?」
「ちっ…!?」

―――互いに攻めきる事ができず、このままでは埒が明かないと判断した両者はどちらともなく手を止めた。
すでに、ここに至るまでに、闘技場の地面にはクレーター状に穿たれた穴が幾つもあり、観客席の多くが座っていた骸骨達もろとも粉砕されていた。
もはや、ライダーと真島の力量がほぼ拮抗しており、その闘いの激しさも最初に戦った倉庫街の時よりも上回っているのは誰の目から見ても明らかだった。

「まだや…まだ足りへんで!! わしにもっと全力出してこいや、家康っ!!」
「あぁ、真島殿!! ならば、ワシもお主の全力をこの拳で受け止めよう!!」

だが、この死闘を繰り広げる当事者たちは、まだ、全力を出し切っていない事を示すように身体から周囲を熱くさせるような闘気を漲らせていた。
―――激しく燃え上がる焔のように目をぎらつかせて獰猛な笑みを浮べる真島。
―――遍く全てを照らす太陽の光のような晴れやかな微笑みを浮かべるライダー。
そして、未だに満たされぬ想い全てを己が拳で語るかのように、紅蓮の狂獣と黄金の太陽の一騎打ちは再び始まった。


一方、ウェイバーとキャスターは、案内役である司狼と絵梨依と共に加速度的により一層激しさを増すライダーと真島の死闘の行方を見守っていた。

「これで拮抗状態か。相も変わらず凄まじいモノだな」

その最中、キャスターは、両手に炎を宿した真島と互角に渡り合うライダーの姿を見据えながら小さく呟いた。
今回、キャスターが相対戦に挑む真島の必勝を期す為に渡した“虚無の魔石”は五個。
キャスターの予想では、真島本人の戦闘能力との相乗効果も相まって、ライダーはもちろんの事、セイバーなどの三大騎士クラスのサーヴァントさえも一蹴できる…筈だった。
だが、実際に始まってみれば、ライダーは、宝具を使用する事もなく魔石五個分も強化した真島を相手に一歩も退く事もなく互角に渡り合っていた。
すなわち、それは、ライダー自身の力が三大騎士クラスのサーヴァント以上であり、キャスターの予想をはるかに上回っている事に他ならなかった。
“狸め…”―――キャスターは、今まで実力を隠してきたライダーを心中でそう忌々しく毒づきながらも、そんなライダーと心の底から楽しそうに闘う真島の姿を見て、ヤレヤレといった様子で苦笑するしかなかった。

「というか、滅茶苦茶観客まで巻き込んでいるけど大丈夫なのか…?」
「大丈夫、大丈夫。どうせ、すぐに勝手に直るから。それに観客も元々死人だし、死んだとしてもすぐに蘇れるから気にしないで良いわよ」

一方、キャスターの隣にいたウェイバーは、今も、ライダーと真島の闘いの巻き添えを喰らっている観客席の骸骨達を見て冷や汗をかきつつ誰ともなく呟いた。
実際、先も述べたように、ライダーと真島の闘いで生じた拳圧の流れ弾によって、闘技場の観客席の三分の一がまるで大砲の直撃を受けたかのように吹き飛ばされていた。
もっとも、周囲の惨状など気にすることなく気軽に話しかけてきた絵梨依の言うように、この闘技場を含めたヴェヴェルスブルク城全体が百万という死人の魂によって構成されているため、この程度の破壊ならばすぐに修復可能だった。
加えて、観客である骸骨達も修羅道至高天の住人である以上、例え、死んだとしても、すぐに何事もなかったかのように復活する事ができるのだ。
しかし、当のウェイバーはなるほどと頷きかけるも、ふとある事実に気付き、より一層不安げに司狼と絵梨依にこう聞き返した。

「…ちなみに僕の場合は?」
「「「…」」」

次の瞬間、ウェイバーを除いた一同は思わず気まずそうに顔を見合わせながら、どうしたものかと考え込むように沈黙してしまった。
確かに、司狼や絵梨依はもちろんの事、“虚無の魔石”の力で不死身の肉体を持つキャスターならばライダーと真島の一騎打ちの巻き添えを受けても問題ないだろう。
しかし、ウェイバーはあくまで生身の人間である。
とりあえず、司狼は“まぁ、大丈夫だって”とウェイバーを落ち着かせるように安心させつつ―――

「…死んだら、あのおっかねぇ“黄金の獣”んとこに永久就職確定だろうぜ。まぁ、住めば都って感じで慣れてくだろうし。それにあんたも何だかんだ言って色々と優秀そうだから、あの色男も有望株あたりとして狙ってそうだけどな」
「うぉい!? 何、さらりと気軽に笑いながらとんでもない事を言うんだよ!! というか、僕が確実にやばいじゃん!!」

―――さらりとヴェヴェルスブルク城内での死亡=ラインハルトの軍勢に強制就職させられる事を軽くぶっちゃけた。
次の瞬間、ウェイバーはこの聖杯戦争の中で鍛え上げられたツッコミスキルをいかんなく発揮し、必死すぎるほど切羽詰まった表情で司狼にツッコミを入れた。
確かに、ウェイバーほどの有能な人材ならば司狼の言うように、ラインハルトも正純と並んで期待の新人として狙ってきてもおかしくないだろう。
とはいえ、比較的まともな感性を持つウェイバーとしては、“死んでもすぐ蘇るから殺し合おうぜ!!”が当たり前という社員の大多数がバトルジャンキーなブラック企業に強制就職されるのは断じて御免だった。

「おいおい、そう慌てずに安心しろって。さすがに、てめぇらに死なれちゃこっちも困るからよ。精々、俺達もあんたらの壁役として守ってやるよ」
「…」

一方、司狼は慌てふためくウェイバーの反応を面白い小動物を見るように楽しみつつも、いざという時は自分の身を挺してでもウェイバーを護衛すると軽く言ってのけた。
“本当に大丈夫なのか…”―――自信満々に答える司狼に対し、ウェイバーはそう心中でより一層不安に思いながらも、ひとまず、ライダーと真島の一騎打ちを見守る事に集中する事にした。
だから、ウェイバーは、ポツリと小さく口にした司狼の呟きに気付けなかった。

「…あぁ効かねぇよ。こんなもん、玩具と餓鬼の下らねぇ喧嘩だろうが」

それは、ライダーと真島の一騎打ちを言葉だけでは子供の喧嘩と白けたように評しながらも、何かを惜しむような司狼の無念さと物足りなさが入り混じった呟きだった。


一方、ウェイバー達が見守る中、ライダーと真島はお互いの全てを出し切らんと互いの拳を激しくぶつけ合っていた。

「せぇい…やぁ!!」

やがて、ライダーとの幾度かの殴り合いの応酬の直後、真島は自身の両拳に炎を纏わせながらライダーに目掛けて飛び掛かるように殴りかかった。
ここまでに至る中で、真島はライダーとの拮抗状態を打ち破らない限り、この一騎打ちの勝機は掴めないと直感していた。
キャスターが必勝を期すために渡した魔石五個分の強化にも関わらず、ライダーは互角に自分と渡り合っているのだ。
故に、自分も勝機をもぎ取るには多少のリスクなど構っていられないと、真島はあえて隙が生じるのを承知で大振りの攻撃で虎穴へと飛び込む必要が有った。

「ならば…!!」
「んな―――ゴォン!!―――ぐぉあ…!!」

だが、ライダーは、飛び掛かってくる真島に臆して後退するどころか、逆に意を決したかのように一気に駆け出し、襲い掛かる真島の懐に潜り込んだ。
そして、そのまま、ライダーは固く握りしめた右拳を無防備となった真島の脇腹に目掛けて渾身の力で横殴りに叩き込んだ。
―――分厚い鈍器で殴られたかのように拳がめり込んだ脇腹。
―――次々にボキボキと音を立てて粉砕されていく肋骨。
―――衝撃によってミチミチとはじける寸前の内臓各部。
ライダーの叩き込んだ痛恨の一撃によって、真島は次々に襲い掛かる常人ならば即死級の痛みに耐えかねたのか、思わず呻き声と共に苦悶の表情を浮かべた。
“いける…!!”―――ライダーは、激痛に動きを止めた真島に対しさらなる追撃の一撃となる左の拳を叩き込もうとした。

「くぅっ!?」

だが、ライダーが追撃を仕掛けようとした直後、真島の脇腹にめり込んだライダーの右拳から突然、激しい激痛が全身に駆け上るように襲い掛かった。
さすがのライダーも、まるで高温の炎で熱せられた鉄板を押し付けられたような痛みには耐えかねて動きを止めざるを得なかった。
何事が起こったのかライダーが右拳に目を向けると、右拳の手甲がまるで高温の炎で熱せられたかのように赤色に変色していた。

「甘いでぇ、家康…!!」

そして、ライダーが動きを止めるのを狙いすましたかのように、真島は激痛で遠のく意識を無理矢理気合で押し留め、このまま逃すものかとライダーの左拳を全身で包むようにがっしりと捕まえた。
実は、ライダーに脇腹を殴られた直後、真島は咄嗟に廃発電所での闘いで披露した“炎の鎧”を発動させていたのだ。
これまでの闘いを通して、真島も生半可な攻撃ではライダーから勝機を奪い取れないことは充分に承知していた。
そこで、真島はあえて隙の生じやすい大振りの攻撃を仕掛ける事で、ライダーに肉と骨を殴らせ“炎の鎧”でライダーの武器である拳を使用不能にせんとしたのだ。
そして、見事ライダーの右拳に深手を負わせた真島は、このまま、ライダーの左拳さえも焼き尽くさんと最大火力を発揮しようとした直後―――

「うぉっと!?」
「ならば、こちらは足元注意だ、真島殿!!」

―――突然、自身の足元が崩れたかとおもうと、そのまま、盛り上がった岩盤ごと吹っ飛ばされた。
いきなり、宙に飛ばされて訳が分からずに混乱する真島であったが、忠告するように語りかけるライダーへと目を向けた瞬間、ようやく何が起こったのか悟った。
そこには、真島の“炎の鎧”によって重度のやけどを負った右手で地面を叩き付けたライダーの姿が有った。
恐らく、ライダーは、真島に左拳を掴まれた瞬間、咄嗟に右拳を地面に叩き付け、そこから生じた衝撃波と隆起した岩盤によって真島を吹っ飛ばしたのだ。
ライダーとしては左拳の被害を最小限に防ぐためなのだろうが、殴るどころか指一本動かす事すらままならないほどの深手を負った右拳を使うなど並大抵の胆力でできる事ではなかった。

「えぇでぇ…ほんま最高や…!! こないなおもろい喧嘩、桐生ちゃんとき以来やで!!」
「そうだな、真島殿。ワシもこんなにも心地よい闘いは本当に久しぶりだ」

だが、何とか体勢を立て直して着地した真島が歓喜の笑みとともに送ったのは、極上の好敵手といっても過言でないライダーへの惜しみない称賛の言葉だった。
同じくライダーも手負いの左拳で地面を叩き付けたために気絶しかねない激痛を全く感じさせないほど屈託のない微笑みを湛えながら真島の言葉に頷き返した。
だが、この一騎打ちを見守るウェイバーやキャスターから見れば、ライダーと真島共になぜ笑い合っていられるのか目を疑うほど痛々しい姿となっていた。
―――今も脇腹にくっきり残る拳の後と魔石の再生能力が追い付かないほど粉砕された何本の肋骨とズタズタに傷ついた内臓の各部。
―――高熱によって重度の火傷を負った事に加え、更なる酷使により使い物にならなくなった右拳と比較的軽度とはいえ深い火傷を負った左拳。
もはや、両者共に満身創痍という有様であり、普通ならばもはやまともに闘う事すら不可能といっても過言では無なかった。

「せやけど…まだ、やるつもりなんやろ?」
「あぁ、もちろんだとも!!」

しかし、それほどまでに手傷を負いながらも、ライダーも真島も未だに戦意尽きる事無く、互いに燃えたぎる闘志を示すかのように言葉を交わしながら拳を構えた。
−――ここで終わらない。
―――こんなところで終わらせたくない。
―――まだ、自分はこの最高の好敵手に自分の全てを出し切っていないのだから…!!
もはや、そこには敵味方という些末な垣根を越えた何かが、互いに死力を尽くして争い合いながらも、互いの拳で熱く親しく語りながら認め合う“絆”が確かに存在していた。
だからこそ、ライダーは、人の身でありながら真っ向から拳で自分と語り合った真島に敬意と賛辞の想いを真っ先に示さんとした。

「そして…ワシも天下を下した奥義をもって応えよう…!!」

そして、ライダーはかつて“覇王”豊臣秀吉など数多くの強敵を討った最大最強の奥義を解き放つことを決めた!!



間桐雁夜は自分の目の前で起こっている有り得ない光景―――自分に対して頭を下げて土下座する時臣の姿に思わず虚を突かれたかのように愕然とした。
それほどまでに、時臣の土下座は、雁夜を宿敵の無様な姿を嘲笑する事さえ忘れて狼狽えるほどの混乱と衝撃を与えていた。

「何を、何をやってんだよ、お前…!?」

やがて、ようやく我を取り戻した雁夜は、声を震わせながらも、目の前で土下座する時臣を否定するかのように叫んだ。
―――そうでもしなければ、自分はこの男を■■事ができなくなってしまうから。
―――そうでもしなければ、自分はこの男を■さざるを得なくなってしまうから。
―――そうでもしなければ、自分はこの男を■の■で、■の■■だと認めてしまうから
もはや、逃れられようのない現実を前に、それでも、雁夜は自分の心の中で崩れようとする何かを時臣に対する憎悪で喰い止めようとしていた。

「違うだろ…そうじゃないだろ!? お前はこんな事で頭を下げるような奴じゃ…!!」
「以前の私ならば、遠坂家の当主である私ならばそうだったのかもしれない」

一方、断じて認めるモノかと喚くように叫ぶ雁夜に対し、時臣は地に頭を受けたまま、ただ雁夜の言葉を甘んじて受け止めていた。
雁夜の言うように、以前の自分ならば魔道を踏み外した落伍者である雁夜に断じて頭を下げるような事はしなかっただろう。
だが、アーチャー達との主従を超えた関係を通して、己の罪を見つめ直した時臣にとって桜を救おうと必死になって奔走する雁夜に感謝の念を抱くと共に頭を下げるなど容易い事だった。
そして、もう一つ、時臣は遠坂家の家訓に相応しくなかろうと土下座をするだけの何より大事な理由をはっきりと告げた。

「父親として娘を、桜を助ける為なら、この頭を地に這いずらせる事など躊躇う余地などない…!!」
「父、親…だと…!?」

“父親”―――その言葉を口にした時臣の姿に、雁夜は頭をスレッジハンマーで体ごと粉砕されたような衝撃を受けた。
もはや、六陣営会談の時のように、見下しきった高慢な冷笑と共に慇懃で冷酷な口調と嘲りの言葉で雁夜を罵った時臣の姿は何処にもなかった。
そこには、ただ、娘を救う為ならば、自身の誇りも何もかも全てを投げ出し、命さえも懸けようとも厭わない父親としての時臣の姿が有った。

「ふざけるなよ…ふざけるなよ!! 今更、何で今更…っ!!」
「…」

だが、それでも、雁夜はさらに激昂し、父親として懇願する時臣を責めるのを止めなかった、否、止める事ができなかった。
確かに、時臣が言わんとする事や為そうとする事が桜を救う為であるのは、雁夜も充分に理解できた。
しかし、いくら頭で理解できても、どうしても心が納得できなかった。
それほどまでに、時臣に対する憎悪は、雁夜の心を頑なに縛り付けるほど深く根付いてしまっていた。

「そうだ…桜ちゃんだけじゃない!! 葵さんから桜ちゃんを奪った貴様にそんな資格がある筈―――あなた!!―――え?」

そして、憎悪の感情に支配された雁夜がさらに時臣に向けて罵倒の言葉を重ねようとした瞬間、この修羅場には似つかわしくない、雁夜にとって何よりも懐かしくも愛おしい声が割り込んできた。
まさかと思いながらも、雁夜は先ほどまでの怒りさえも忘れ、同じく驚いたように顔を上げた時臣と共に、この主の方へと慌てて目を向けた。

「やっぱり、此処に来ていたのね…」
「葵…何故、ここに!?」
「葵さん…!!」

そこには、間桐雁夜にとって、もっとも愛おしい想い人であり、時臣にとっては最愛の妻である遠坂葵の姿が有った。



そして、闘技場の方では先ほどまでのド派手な喧騒とは打って変わって、静かで重々しい一瞬即発の空気が場を支配してようとしていた。

「どういうつもりだ…?」

怪訝な表情を浮かべるキャスターの視線の先には、ライダーが拳を構えること無く、何故か上体を逸らした体勢のまま、ジリジリと真島に近付いていた。
もはや、明らかに誰の目から見ても、今のライダーの姿は好きなだけ攻撃しろと言わんばかりの無防備な構えにしか見えなかった。
だが、キャスターにとって何より不可解なのは、あの好戦的な真島がライダーを倒す絶好の機会にも関わらず一向に攻める気配がない事だった。
まるで、恐れを知らぬ猛獣が本能的に未知の危険を察知し何かを警戒するかのように…

「へぇ…あのにいちゃん、勝負に出たか」
「みたいだね」

一方、戦闘において一日の長がある司狼と絵梨依は、ライダーが真島に誘いをかけると同時に何かの期を窺っている事から、この一騎打ちの決着をつけようとしていると見ていた。
それが獣並みの勘で察しているからこそ、真島も隙だらけのライダーに迂闊に手を出せないでいるのだろう。
さらに加えて、ライダーの放たんとする奥義が確実に自分を仕留める事ができるほどの恐るべき威力を秘めている事も含めて―――!!

「どちらにしろ、やるしかないのう…!!」
「煙…いや、蒸気か!?」

そして、先に勝負を仕掛けんと動いたのは、ここが勝負の決め所であると決断した真島だった。
次の瞬間、真島は全身から真っ白い蒸気を一斉に噴出させ、周囲の視界を遮るほどの濃い霧を発生させると、そのまま、忍者のように自身の姿を覆い隠した。
“煙幕か…!!”―――ウェイバーは、すぐさま、真島が蒸気を煙幕代わりにして、ライダーの視覚を封じる事でライダーの反応を遅らせて、奇襲の一撃に繋げようとしている事に気付いた。
やがて、ライダーの周囲を取り囲むように白い蒸気が覆い尽くした瞬間―――

「上か!?」
「―――ぶっ飛んで燃え尽きろや、家康ぅ!!」

―――はるか上空に大跳躍した真島が全身からジェット噴射のように炎を巻き上げて加速し、さらに蹴りの威力を増すためなのかバレリーナの如く高速回転をかけて、繰り出した右脚をライダーに目掛けて襲い掛かってきた。
それはまさしく、後退の二文字を不要と断じる保身無き前進であり、目の前に立ちはだかる全ての敵を貫き粉砕する紅蓮の螺旋槍―――!!

「耐心―――」

だが、ライダーは一切退くことなく、徐々にこちらに迫ってくる真島を真っ向から迎え撃たんと静かに見据えた。
なぜなら、真っ向から受け立つ事こそが自分を好敵手と認めてくれた真島に対する、ライダーにとっての最大の礼儀だった。
そして、ライダーも同じく、全力で自分と闘う真島に応えるかのように、自身にとっての伝家の宝刀を遂に解き放った。

「―――盤石!!」

次の瞬間、ライダーはそれまで反らしていた上体を一気に解き放ち、己の全てを込めた渾身の頭突きで真っ向から迎え撃った!!
“耐心盤石”―――ライダー自身の揺らぐことの無い信念から繰り出される頭突きであり、豊臣秀吉など数多の武将たちを打倒してきたライダー最強の奥義だった!!
そして、ライダーと真島が繰り出した渾身の一撃が激しくぶつかり合った瞬間―――

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「んなっ、がぁあああああああああああああああああああああ!?」

―――ライダーの頭突きが真島の大回転飛び蹴りに競り勝ち、そのまま、衝撃によって生み出された巨大クレーターに真島を張り付けるように叩き付けた。


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。
テキストサイズ:25k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.