「ほほう、うまくいったのかね?」
「ああ。どうにかな」
「それでいったい誰を口説いてきたのだ?」
「ギル・グレアム。管理局元大将閣下だ」
「なんと!?」
「我々に御することが出来るのかね?」
「だいたい、その人物はこちらの事を考えて行動するのか?」
「地球の情勢がだだもれになったりしないのかね?」
相変わらず政治家連中の腰は据わっていない。
まあ当然ともいえるが、このままでもアメリカに接収されれば彼らの投資は無駄になる。
しかし、ギル・グレアム次第では管理局に日本が乗っ取られるのではないかという危惧。
もちろん、日本の事も心配してはいるだろうが、その際自分たちがどうなるかのほうが不安なのだろう。
正直政治がこういう連中の食い物になっているかと思うと腹立たしいが、
同時にこんな連中そのものが悪いとも言い切れない。
何故なら、法律で全てを縛り付けると逆に経済が萎んでしまう事は歴史が証明している。
餌が必要なのだ経済を回すには、自分が儲けられると思う時にしか政治に投資等しないのだから。
しかし、それはそれとして面と向かって彼らの事を褒めたい等と思う事はありえない。
そもそも、日本は彼らがばら撒く利権でがんじがらめになっているんだから。
それに、日本を正すなんてことを考えると根本問題である米軍駐留を片付けなくてはいけなくなる。
米軍を追い出さないことには政治問題すら操られている現状にメスを入れる事が出来ないのだ。
日本の教育も、政治問題も、表ざたにこそなっていないがアメリカに介入を受けてきた。
最近はその事が問題に上がる事が増えたが、それでもべったりの現状は変わっていない。
それだけに、地球外対策局もアメリカに吸収されないためにはかなり思い切った手が必要だったわけだ。
「そんな事を言われているが正直どうなんだ?」
「今さら野心を出すような年でもないんだがね……」
議場に突然グレアムが現れる。
彼は壁をすり抜けるようにして議場へと現れた。
議員達はそれだけで腰を抜かさんばかりに驚いている。
「壁抜けもできるとはな」
「なに、普通に入ってきても印象が薄いかと思ってね」
印象付けという意味ではあまりいい方法でもないのかもしれないが。
しかし、確かに一目置かせる効果はあったようだ。
とはいえ恐怖という形でだが。
「地位は局長補佐とし、人事権、予算配分で決済をする権利を与える」
「なっ、彼は元管理局の!?」
「それでも、彼には俺のいない間の代行権も与えることになっている」
「どういうつもりだ! 管理局の下に立たないために作った組織なのだろう?!」
「決まっている、ギル・グレアムは管理局でも犯罪者だ、今さら戻りはしない。
そして、この世界でも魔法を知る者にとっては犯罪者にちがいない。
その矯正の意味も込めて、きちんと償いをしてもらう」
「まったく、老人に対し人使いが荒いな……だが、まあそう言うことだ。よろしく、日本政府の諸君」
「何かあった時の責任はテンカワ君、君が取ってくれるんだろうね?」
「好きにするがいい」
「ちっ、これだから教養のないものは……」
議員達は相変わらず高圧的になろうとしつつびくびくしている。
今日は総理が来ていないせいもあり余計にその傾向が強いようだ。
破綻するとすればやはりこのあたりからだろうと思わせる。
グレアムは御することが出来るだろうか?
「まあ、無駄な言い逃れは必要ない、君達がアメリカや諸外国についたとしても我らが倒れれば同様の運命をたどるだけ。
まさか一人だけ助かる道があるなどと軽く考えてはいないはずだね?
私は君達の思考を読んだからね、もうプライベートは筒抜けだよ?」
「どっ、どういうことかね!?]
「例えば、そう、そこの君、市街地再開発計画で60憶ほど懐に入れたようだが当の計画が中抜きのしすぎで頓挫。
現在は自分が疑われないためと、党から追い出されないために必死で点数稼ぎをしているといったところかね?」
「なっ!? 何を根拠に!!」
「なあに、私は君達の事が分かるといったはずだよ?」
「わっ、私はそんな事をしていない!! 侮辱もほどほどにしたまえ!!」
「次はそちらの君。スキャンダルをネタにゆすられてるね?
今まで7000万ほど支払ったがだんだんエスカレートしてきている。
今は魔法に関することを話すことで支払いの代わりにしてもいいと持ちかけられているといったところか。
やめておいた方がいいよ。そんな事をすれば、スキャンダルを暴かれる以上の困った事態に陥るだけだ。
死ぬだけで済めばいいがね……」
「なっ!!! まっまさか……」
「次に君」
「ああうああ……もういい!! もういい!! お前が本物だということは分かった。
我々も一蓮托生、滅多なことでは口出ししないことを約束する」
「そう言っていただければ何より。素早く動かねばなりませんからな我々は」
これだけの事をやった後で人のいい顔で笑う。
グレアムは予想以上に使える、いや切れる人材のようだった。
それからは会議はスムーズに進んだ。
議員からの横やりがまったくなかったからだ……。
実際会議内容は30分ほどのものだった。
議員が今まで粘っていただけなのだ。
帰りの車の中で俺はグレアムに問いかける。
「しかし、心を読むというのは嘘だろう」
「当然だよ。テンカワ君、私とて人の心が読めれば、管理局で最高位まで上り詰めて管理世界全体の力で事に当たっていただろう。
こそこそしていたのはそれ以上に怖い存在がいたからだよ」
「だとすればいったいどういう方法を使ったんだ?」
「何、ロッテとアリアに頼んで少し調べさせただけさ。元々捜査官だけに探偵のまねごとは得意でね」
「なるほどな」
「しかしテンカワ君。君は交渉事の芯を見極めるのはうまいが外堀を埋めるのはまだまだのようだね」
「そうかもしれないな……」
「ああ言った交渉事の場合、取るに足らない相手だとしても間接的にかかわる事項まで調べておくのが基本だよ」
「今後は気をつけることにするさ」
「そうしてくれたまえ、特に管理世界へ行ってからはね」
「知っていたのか」
「大体予想はつく。私のところに訪ねて来るタイミングが、怒りにしては遅すぎ、お役所仕事にしては早すぎた」
「確かにな。それだけできるなら任せても安心そうだ」
「なあに、私も久々に若いころの事を思い出してね、楽しい思いをさせてもらっているよ」
目的の場所まで来るとリーゼロッテとリーゼアリアが迎えに来る。
俺はまだ睨みつけられている所からしてかなり嫌われているのだろう。
まあ当然といえば当然なのだが。
彼女らにとって俺は自分たちの邪魔をしたばかりか、グレアムを管理局から追い出し、
更には断罪し、また隠遁していたグレアムを奴隷のように使う極悪人なのだから。
だとしても人材不足の地球外対策局としてはどうしても必要な人材だったのは間違いない。
ただ、出来ればグレアム一人ではなくもう一人くらいは支柱となりうる人材が欲しいところなのだが。
それは流石によくばりというものだろう。
「では、今後も一つ頼む」
「人使いが荒い局長様だ。老人を酷使しようというんだからね」
「その代りメリットもあるはずだ」
「それを言われると痛い所だね、せいぜいがんばらせてもらうよ」
今のところホテルに住んでいるようだが、はやてには住所をしらせたようだ。
いずれは交流をもつことになるだろう。
俺としてははやての出す結論に従いたいと思う、場合によってはやはり罪に問うことになるかもしれない。
しかし、同じように復讐をしてきた身としてはただ牢にぶち込んだり殺すよりもこうして働かせるべきだと思う。
復讐が終った人間は虚無的になりがちだ、俺自身罪を意識すれば死んでしまいたくなる事がある……。
だが結局生きていなければ罪は償えない、俺に復讐をしたいと願うもの以外にとっては……だが。
俺はそろそろ自分の家を買うべきなのかもしれないと思ってはいたが、
どうせ買っても住む時間もないだろうという考えの下まだすずかの家に厄介になっている。
とはいえラピスとアリシアとフェイト、アルフ、そしてリニスとリインフォース……俺自身を含め7人。
屋敷は大きいからいいものの、考えてみれば屋敷の人間、忍とすずかとノエルとファリンの4人より多い……。
居候のくせに多数派なのは何とも肩身が狭いものである……。
「義父さんいってきます!」
「いってくるねー♪」
「アキトさんいってきます」
「……(こくり)」
4人が小学校へ行くのを見送り、俺は屋敷に戻る。
おおよその問題をクリアした俺は、接収に動くアメリカの方はしばらくグレアムに任せることにした。
最終的には当然俺も顔を出すつもりだが、グレアムの手並みを見てみたいということもあった。
彼なら俺とは違って抱き込むアプローチもできるだろう。
二月も終盤となり、俺の管理世界行きまで一か月ほどになった。
そろそろ引き継ぎをして置く時期ではあるのだ。
「おお、外交官様じゃない、丁度よかったわ」
「忍?」
「ちょっと付き合ってくれる?」
「ああ……」
忍は俺を部屋の一つへと案内する、そこにはノエルが既に控えておりノエルは俺に席を引いて進めた。
俺は釈然としないながらも進めに従い椅子に座る。
ノエルは一度部屋を辞するようで、後ほどお茶をお持ちしますといって退出した。
残るのは目の前の忍だけとなる。
「さて、最初に聞くけど。管理局の世界にいくのね?」
「ああ、魔法についてこの世界に情報をもたらすという意味では必要なことだと判断した」
「そう……でも、貴方が直接行く必要はないんじゃないの?」
「魔力を持つ人間に来てほしいと言われているからな……。
フェイトやはやてを差し出すようなマネは避けたかっただけだ」
「ふーん、それで、行き来には時間がかかるの?」
「よくは分からないんだが、転送用の門を設置することでかなり時間を節約できるらしい、
門を介在すれば体感時間的には一瞬で移動できると聞いている」
「ふーん、それっていつでも帰ってこれるってこと?」
「まあ、一応そうなるが、予定では国会議事堂近くに転送門を用意することになっているからな。
流石に毎日とはいかない、しかし、出来るだけもどってくるつもりではいる」
忍はふと考えるような仕草をする。
そして、眼光を鋭くしてもう一度口を開いた。
「あの子たちはどうするつもりなの? 小学校を卒業前に転校でもさせるつもり!?」
「いや、それをお願いしようと考えていた。さっきも言ったが出来るだけ帰るようにするつもりではいる」
「そんなこと出来るわけないでしょう!?
よく考えてみなさい、あの子達の貴方へのなつきっぷりを。ついていくって言い出すに決まってるわ」
「それは……」
「だから転送門をここに設置するようになさい」
「それは政府が許さないだろう……」
そんな事は忍にはわかっているはずだと思っていたが、日本政府は魔法技術が他に漏れるのを恐れている。
そのためには出来るだけ内部で解決することが容易なようにしたいはずだ。
その証拠に地球外対策局も議事堂から10kmと離れていない場所に本部を置いている。
「そうかしら?」
「どういう意味だ?」
「地球外対策局は3月中には国連直下の組織になるはずよ。その時に日本政府と近すぎるのはまずいと思わない?」
「それは……」
「そのために協力要請が出来そうな子がいたからね、ちょっとお願いしておいたわ」
「……」
まいったな……忍もかなり考えているということか、確かに俺には娘が3人もいるんだからその事を考えておくべきだった。
しかし、いったいどんな策を施したというのか、その微笑みからはうかがい知ることはできない。
その時、ノエルが二人ほど人を連れて戻ってきた、一人は初めてみるがもう一人は……。
「忍さんお久しぶりね」
「ええ、お久しぶり。本当はしばらく帰ってきてほしくなかったけど」
「まあまあ、私も新しい仕事にとまどっているの、だから精神的な支えが欲しくて……」
「だからって人の男に手を出してるんじゃないわよ!」
「あらあら、いつから貴方の男になったのかしら?」
「あんたもうダンナいるでしょうが!!」
初めてみるその女性は金髪碧眼のロングヘアーをして白いドレスを着た女性だ。
なんというか、淡い微笑みと気品のあるしぐさをみるとそれなりの人物なのだろうと思わせるものがあるのだが。
忍と張り合う姿はそれを裏切っているようにもみえる。
TVなどでも時々みかけるような気はするのだが、正直時勢にういのは自覚している。
忙しすぎるのも考えものだ。
「誰だ?」
「あら、そうですね……はじめまして、私フィアッセ・クリステラと申します」
「初対面の人間に誰だって聞くのはかなり不躾だと思うけど……」
「そういえば図書館の昔の記事で読んだ気がするな……歌手だったか?」
「昔……」
昔という言葉で少し凹んだのか座ったままうなだれるフィアッセだったが、すぐに気を取り直し、笑みの形を作る。
しかしなんとなくまだ歌を歌いたいのかもしれないとは感じられるものだった。
「今は国際連合安全保障理事会より遣わされた監察官という立場ですわ」
「そしてあたしが監察官補佐♪」
「正式というわけではありませんが、監察官が現地になじむまでの補佐要員が必要ということで雇いました」
「何言ってんのよ、あんたはつい数年前までここで住んでたくせに」
「さあ?」
アリサが一緒に入室してきた訳が分かった。
なるほど、そういうルートに入り込んできたのか。
アメリカの介入を出来るだけ少なくすると父親のほうが言っていたのを思い出す。
フィアッセがイギリス人であることからアメリカの影響はないとも言えないが、アリサが補佐というのは当然ねじこみだろう。
年齢詐称は間違いなくしている、そうでもしなければ入り込めないはずだからだ。
しかし、アメリカの意思が反映しにくいのは間違いない、つまり彼は十分やってくれたという事になる。
「それで早速なのですが」
「今話題にしていたことか?」
「はい、東京の都心に門を置く事は困ります。かといってここも月村重工の敷地内といっていいでしょう。
また、バニングス家もアメリカの意思を汲み過ぎているため却下となります。
ですので、既に魔法を知っていて権力に関連のない立場の人間の家が望ましいと考えます。
幸い高町家と八神家はその条件にほぼ合致します。
どちらも管理世界ともつながりがありますが、こちらで権力を持つ身内はいません。
問題となるのは士郎さんとグレアム氏ですが、
グレアム氏は血縁ではないですので、士郎さんのように元とはいえ権力の近くにいた人よりはいいと考えます。
これらの条件から八神家に門を設置するのが妥当かと判断します」
「それは、本人に確認してから出なければならないだろう?」
「もちろん、確認はとりました。アリサさんは優秀ですよ?」
「えっへん」
「なるほどな……」
なし崩しではあるが、確かに他よりはマシだろう。
はやてには迷惑をかけることになるな……。
しかし、女同士の連帯は怖い……知らないところでつながっていたりするからな。
そうして、この事は接収の際の議題に上がる事がほぼ確定した。
だが、俺の知る小学生と比べ物にならないパワーと知恵をもっているこの子達がこの先どうなっていくのか心配ではあった。
翌日、また子供たちを送り出し、書類の整理を始める。
グレアムに注意された点もあるが、それ以前にデスクワークはあまりしていなかったせいで書類がたまっている。
事後承諾のものもいくつかあるので優先的に処理していかねばならない。
幸いリニスもリインフォースも書類を捌くスピードは神業的なものがあり、俺に回ってくるものは決済印が必要なものだけである。
全体からすれば一割以下のはずだが、それでも何百枚もたまっているのを見ると日本がそういう国なのだと意識する。
新たな政府組織立ち上げの手続きが煩雑なのはどこの国でも当然なのかもしれないが。
「マスター、書類の整理完了しましたか?」
「まあ、大体はな。しかし、立ち上げたばかりの組織に陳情書が来ているのは不思議だな」
「おそらく政府関係者でしょう、コネというのはどこの国でも強いものです」
「だが陳情書どまりということはそれほど近しくもないということか」
「十中八九そうでしょう」
コネそのものを否定する気はないが、政治家の身内主義を見ているだけに警戒もする。
しかし、陳情内容は牧歌的でとてもそういう政治的意図があるとは思えなかった。
『私も魔法で空を飛んでみたいです』
これを陳情というならだが……。
俺は差出人の氏名を確認する、月村すずか……あーつまり、組織ではなく個人へのというわけか。
「すずかのお願いですか?」
「ああ、そうらしいな。しかし、すずかは魔法が使えるのか?」
「んー、元々こちらに近い存在ですし、魔力もAクラスくらい持っていると思いますよ。
回りにいる子が凄すぎてちょっと管理局の目につかなかっただけでしょうね」
「あー、あの吸血鬼の血族という……」
「忘れてたんですね……」
そうはいってもな、忍もすずかも太陽の下でも平気というか普通の人間より元気に動き回るしな。
吸血のシーンも一度も目にしたことがない、演算ユニットで見分けられる分ノエルやファリンのほうがまだ分かりやすい。
伝説はあてにならないということか、それとも単に別世界だからか……。
「魔法が使いたいという気持ちそのものを否定する気はないが……危険と紙一重にならないか心配だな……」
「まあ、細かい事も含めて一度本人に確認してみたらどうですか?」
「それもそうだな」
書類仕事を終わらせ、彼女らの帰宅を待つ。
しかし、すずかに話せばみなついてくるのだろうなという不安はあった。
最も確認が取れている限りではアリサとアリシアには魔力はない。
すずかがAランクでラピスはB+ランク(オモイカネと相転移炉による増幅効果でSS近くまでいくらしい)、
はやてはSランク、リニスに言わせれば大人になったらどれくらい強くなるのか想像がつかないらしい。
管理局で測ったフェイトとなのはだけは正式にAAA+ランクとなる。
俺はCランクなので使える中では一番魔力が弱いということになるな。
それでも管理世界における平均はDランクらしいので少しは魔法使い向きということになるのだろうか。
ただ、管理局においては魔導師ランクとして細分化して測られているためまたややこしい。
魔道師ランク:
魔力保有量: 最大魔力出力値: 平均魔力出力値:
レアスキル: 魔力操作技能: 近接格闘技能:
対集団戦闘評価: 対個人戦闘評価:
近距離戦闘評価: 中距離戦闘評価: 遠距離戦闘評価:
とまあ、これくらい細分化されるらしい……。
魔力があるだけの一般人相手に戦闘評価まで入れるのはどうかと思うが……。
今まで言っていたランクは魔力保有量だけについてということになるな。
「あっ、帰ってきたみたいですね。それでは早速話してみます?」
「そうだな……しかし、これは俺がどうこう出来る事じゃないが」
「そうですね、むしろ一緒に勉強して欲しいんじゃないですか?
実際今までも飛行魔法が使えたらという事は多かったと思いますけど?」
「出来れば戦いにならないようにしたいんだがな……」
「その性格では難しいでしょうね……交渉もいつも相手を怒らせるギリギリじゃないですか」
「いや、交渉で相手を怒らせるというのは一つのやり方ではあるのでな。
穏便に運ぶやり方もあるんだろうが、それはあくまで後の関係を主眼に置いた交渉だからだ。
俺のやる事は基本的になめられないようにすることだからな……」
「ええ、管理世界と地球じゃ戦力比がばかばかしいほどですしね。
地球全て合わせても数千倍くらい、まして日本一国では数万倍は覚悟しないといけないでしょう」
「結果的には向こうの良心をつくか泣き落しくらいしか方法がないということだな」
「ははは……チャイムがなっちゃいました。迎えに出ますね」
「よろしく頼む」
すずか達が帰ってきたのだ、すずかが戻ってくれば猫達の出迎えもあるし、色々と賑やかになる。
ファリンが既に出迎えているだろうが、リニスもそれを手伝う事が多い。
まあ、人数も多いし、それなりにやることはあるようでファリンも助かっていると言っている。
その時は、今日は暇がありそうだし、子供たちの世話か料理でもするかなと考えていた……。
だが、暫くして……なぜか俺はすずかと一緒に裏山に連れ出されていた。
リニスがぴしっと指を立てて説明おば……いや言うまい……のごとく話し始める。
「では飛行魔法の習得に関するレッスンを始めます!
まず、飛行魔法は三つの魔法の融合であり、使用は難しい部類に入ります。
とはいっても、平均的に見た場合ということですが」
「その前に一ついいか?」
「なんですかマスター?」
「何で俺まで一緒に授業を受けているんだ?」
「何を言ってるんですか、管理世界で魔法を学ぶんでしょう? それならこれは絶対にプラスになりますよ。
それに飛行の魔法が使用出来れば今までの戦いもかなり楽だったと思いませんか?」
「……なるほど」
「じゃあアキトさんも一緒に覚えるんですね、それなら私も頑張らないと!」
すずかは元気に応じる、俺としては確かに飛行魔法は使えたら便利そうとは思うが、俺に出来るのかという不安の方が大きい。
なのはやフェイト、使い魔のアルフに守護騎士達はみな使えるようだし、
はやてもリインフォースのデータから飛行魔法のノウハウは手に入れている。
更にはリニスやリインフォースなど当たり前のごとくだ。
しかし、彼女らを平均だと思っていると痛い目を見る、魔力保有量でもざっと見て俺の数百倍が平均だ。
すずかでさえ俺が1とすると30倍くらいはある。
「心配しなくてもマスターの魔力でも不可能じゃないですよ。
そうじゃないと私たちみたいなのでも、飛行、防御の魔法を常時展開しつつ攻撃なんて出来ないでしょう?」
「そんなものか?」
「習得難度はともかく、習得さえすればCランクなら十分なんとかなるはずです」
「わかった、頼む」
「はい、では先ほどの続きから。
飛行の魔法を分解すると、自重中和、姿勢制御、慣性制御の三つになります。
三つの魔法をバランスよく使っていかないと墜落死なんて言う事になることもありますので気を付けてくださいね」
「あのーリニスさん、でも自重中和というのが出来ればおおよそ問題ない気がするんですが」
「あっ、そうですね。まずはそれ、自重中和による浮遊だけを練習してもらいます。
姿勢制御は戦闘時の反転や回避に役立ちます、慣性制御は長距離飛行用と戦闘機動時も割と重宝します、
ですがすぐにできるというものでもないですしね」
「そうなんですか……やっぱり戦闘とか気にするんですね」
「仕方ないんですよ。この手の魔法技術はまず戦闘で使われて民間に払い下げられるという事が多いので。
でも、飛行魔法はかなり制限が多い魔法ですからね、ミッドチルダ内でも使っていい人たちは限られています。
航空魔導師免許なんていうのもあるくらいで、難易度も飛行機のパイロットなんかと同じと思ってもらえばいいかと」
「なるほどな」
リニスは一息つくと体全体に魔力をいきわたらせる、そしておもむろにふわっと浮いた。
そのままゆったりと上昇していく、空気そのものと化したようにふわふわとした動きで上空3mくらいのところで止まった。
そして、またゆったりと降りてくる。
「これが第一段階、自重中和、重力制御の一種ですが体内だけのものなので比較的簡単です。
ここまでならDランク魔導師でも可能ですし、それに特化したデバイスも用意しましたので」
「デバイス?」
「ええ、簡易デバイス”飛べるモン”です。2本ありますよ♪」
「……箒(ほうき)にしか見えないんだが……」
「様式美ですよぅ、因みに黒猫のストラップ付きです♪ 後、赤いリボンも用意してますよ!」
「魔女の宅●便ですね♪」
「はい! 最近見てハマりました♪ ジャパニメーション最高です!」
「うぅ……趣味に走ったものを……」
「練習は楽しいにこしたことないですしね」
「少し待ってくれませんか?」
リニスの勢いにうろたえている俺の前にリインフォースが現れる。
文字通りというか、飛行魔法で飛んできた彼女は俺達の会話を遠くから把握していたのか、それともあらかじめ知っていたのか。
兎に角、リニスにリインフォースが詰め寄り、一言。
「主アキトが魔法を使うならデバイスの私を使ってもらうべきだと思うのです」
「ああ、そうですね……一度ならしもしておいたほうがいいですし、
デバイスの貴方から知識を転写すれば魔法技術も跳ね上がりますから、そのほうがいいかも?」
「ちょっと待て、それってつまりは……」
「別にミニスカくらいいいじゃないですか、すぐにデータ書き換えすればいいことですし」
「すまない、マスター権限の引き継ぎのためにどうしてもユニゾンは必要なので……」
「わっ、私は気にしませんよ。それにすぐの事ですし!」
リニスもすずかも言っていることはともかく興味津津といった感じだ。
そうはいっても、そもそも多少痩せていたとはいえ、
ごつごつした男の俺がミニスカなんか履いても笑い物にしかならないと思うのだが。
他人の不幸は蜜の味というやつだろうか……。
「わかった、確かに有利な面は多いのだろうな」
「はい、それにユニゾンしてもらえれば私の中に供給されている魔力も使う事が出来ますので、
オーバーSランク以上の魔導師能力を使えるはずです」
「わかった、それで、やり方はどうするんだ?」
「まずはリラックスしてください、後は私が行いますので」
「頼む」
言われたとおりリラックスすると俺にゆったりと手を出すリインフォース。
その手は俺に触れず、リインフォースは俺の中に重なるように消える。
体内から爆発的な魔力が膨れ上がるのを感じる、そして俺の背後で4枚、足元で2枚の黒い魔力の翼が噴出し、
服装が消えてその上からバリアジャケットと呼ばれる魔力の甲冑が出現、そして体を包む。
頭に白いベレー帽、白いジャケット、左手には夜天の書、右手には十字の穂先のついた槍状の杖。
そして……黒いワンピースのミニスカ……。
「ちょっと筋肉質だから女の子としては微妙ですね
「これはこれでいいんじゃないかと思います」
「すずかちゃん……」
「ぐっ……」
そして、俺がユニゾンを果たしたことによって魔法に関する知識が一気に刷り込まれる。
とはいえ、俺はあまり頭のいい方ではないので、ナノマシン補助脳のほうにダダ漏れしていくわけだが。
おかげで、暫くミニスカのまま呆然とする羽目になった。
『主アキト……知識のほうは大丈夫ですか?』
「ああ、まずはマスター権限の使用をさせてくれ」
『はい、どのような権限を使用しますか?』
「ミニスカをやめてほしい……」
『では新たなイメージをお願いします』
「イメージ……そうだな、戦闘用なわけだから……あんな感じだろうか……。
はっ、普通の服装にすればいいんじゃないか!?」
『イメージを受理します』
「ちょっとまっ……」
『尚、一度受理したイメージはより強いイメージでないと覆すことができませんのでご了承ください』
「なー!?」
まあ、そんな感じでずるをしたのか損をしたのかよく分からないままに魔法の訓練ははじまり。
知識の転写のおかげで割と早く魔法をマスターすることが出来たのは良かったとすべきなのだろうか。
しかし、そのミニスカ姿がリインによってはやてにつたわり、ほぼ全員の目に触れることになるのは、また別の話……。