管理世界とは、60程度の異次元世界の共同体であり、ミッドチルダと呼ばれる星を中心とした管理局が治める世界である。
管理局はその他にも魔法文化のない世界を管理外世界として監視している。
また、あまりにも遠く移動が困難な場所は観測指定、人が住んでおらずあまり重要でないとされる世界は無人世界として分類している。
これら数百の世界を行き来することが出来る管理局は、
あまりにも強大になりすぎ内部派閥の警戒以外さほどすることがなくなってしまった。
それは当然だろう、異次元世界をまたいで存在する組織など彼らの知る範囲では聖王教会くらいしかないのだから。
それゆえかどうか、管理局は聖王教会との歩み寄りにかなりの労力を割いてきた。
ベルカの騎士を佐官や将官待遇で迎えるなどはその最たるものだろう。
今や管理局の国教と呼んでも差し支えがないほどに聖王教会は管理局に食い込んでいる。
現在の管理局の派閥は簡単に最高評議会(管理局上層部)、次元航行艦隊(うみ)、地上本部(おか)の3つに分かれる。
先ず、最高評議会は指示は出すもののあまり表には出ないため、全容ははっきりとしていない。
次元航行艦隊は全体の6割以上を占める、全ての世界をフォローするためひたすら肥大化してきた結果なので必然といっていい。
対して地上本部は3割強というところだろうか、
ミッドチルダという星を守るための組織としては大きいが、60次元の地上を押さえておくには心もとない。
次元航行艦隊と比べればどうしても見劣りする。
ミッドチルダはその性質上いろいろな世界から人が来るため犯罪発生の可能性が高く、また、魔法も多用される。
どうしても主星防衛に力が入ることになり、ミッドチルダ内に限れば地上本部はそれなりに力を持ってはいる。
しかし、所詮は一つの星だけの防衛であり、他の次元においてはあまり影響力は大きくない。
結果的に次元航行艦隊よりは下に見られがちである。
だから余計に地上本部は次元航行艦隊を嫌い、軋轢が生じる。
現在の管理局にとっては恐らく一番頭の痛い問題だろう。
「これがおおよそミッドチルダに行く際に気をつける事項ですね」
「これだけの規模の組織で勢力が4つだけならむしろ少ないくらいだが……。
それだけに軋轢がどんなものかは見て見ないとわからないな」
「はい、私もあくまでプレシアの知識と巡航艦アースラに行ったときに仕入れた知識の総評にすぎませんが」
「そう言えば前から不思議に思っていたんだが」
「なんでしょう?」
「管理局は自分たちの宇宙の果てにまで到達しているのか?」
「詳しくは知りませんが、超光速航行が出来る艦隊がいるとは聞いたことがありません」
「……魔法でも無理なのか?」
「大魔法を使えば光速を越えることが出来るものもあるとは聞きますが……。
地球で言う太陽系の外までは行っているとは思います。
しかし、別星系まで到達したという話は、少なくとも表立っては聞きませんね」
何となくそうは思っていたが……。
管理世界はそれぞれの宇宙で地球に位置する星の周辺に転移することが出来るという事になるのかもしれないな。
次元は違っても距離はそれほど遠くない場所。
案外魔法も万能ではないということだろうか。
「では兎に角いくか」
俺とリニス、リインフォース、ラピスとフェイト、アリシア、アルフの計6人は今管理局における入国審査受け付けにいる。
実際ははやて達もいろいろと手続きが必要になるため一度こちらに来る必要があるのだが、
とりあえずは俺達が下見を兼ねることにしている。
入国審査に関しては厳重といえばそうだったが、魔法関連の事は割合緩かったから、つまりは質量兵器の持ち込みに関してだろう。
拳銃ですら魔法で射出するものはOKで火薬で射出するものは質量兵器と判別されるらしい。
根っからの科学否定にも思えるが……。
その辺の判断を初見でするのは早いだろう。
兎に角、こうして転送陣からミッドチルダへと入国する俺やラピスは完全におのぼりさんだったろう。
ミッドチルダの首都クラナガン、都市の大きさとしても東京を超える巨大都市らしいと聞いている。
地に降り立って最初に思った事は、この世界は本当に魔法の世界なのか? ということだった。
理由は簡単、四角いビル群に自動車の走る道路が縦横に走っていて、東京やNYなどの地球上の都市との違いが目に付かない。
良く見ると自動車は魔法で動いていたり、魔法の立体映像看板があったりするのだが、些細なことだった。
せいぜいがちょっと文化の違う都市に来たという程度の違和感でしかない。
「ここがミッドチルダか……」
「あんまり違いがわかりませんね」
「でもでも、食べ物は知らないものばっかりだよ」
「姉さん、さっき昼食食べたばかりじゃないですか」
「えー、おやつは別腹だよ?」
「うっ……、それでもです」
「もう、フェイトったら義父ちゃん子なんだから!」
「そっ、そんな事はないけど……」
何度か来た事があると言っていたフェイトにしても、違いが分からないというのだからやはりかなり近い文化形体なのだろう。
ラピスはそれとなく周囲をうかがい警戒をしているが、俺が肩を叩いて気を楽にするように言う。
この世界に歓迎されていない可能性は否定できないが、少なくともリニスとリインフォースはこの世界でもかなり強力な存在だ。
二人が警戒してくれているなら俺たちに出番はない。
「にしてもフェイトも馴染んだものだね、おかげで安心したよ」
「アルフ……」
「フェイトを守らなきゃって思ってたけど、今ならリニスもオヤジさんもいる。
姉さんだって出来たし、プレシアとも和解した。
アタシがいる必要はなくなったね」
「そんなことない! そんなことないよ……」
「うん、わかってるさ、でも、少なくとも心を許せる友達も増えたんだ、いつも一緒にいなくてもいいだろ?」
「それは……」
「まあ、アタシもこっちで趣味でも見つけてみようかなってだけだから」
「うん、アルフもがんばって」
「ああ、がんばってみるよ」
フェイトとアルフにもなんらか心に思うことがあるらしい、何かあれば相談にのる必要がありそうだなとは感じた。
アリシアはその二人を見て微笑んでいる、お姉さんという立場がそうさせているのだろうか。
リニスとリインフォースは左右からはさむように彼女らの行動を見ている。
「まあ、これはこれでいいコンビネーションなのかもしれないな」
「え? どうかしましたか?」
「主アキト、何か問題が?」
「いや、問題はないさ。とにかく一度大使館に行こう、これから4年間の家であり根城なんだしな」
「はい、用意された大使館次第で相手がこちらをどう思っているかという目安にもなりますしね」
俺はリニスの言葉を受けて地図を確認する。
このクラナガンの中央駅を出て、10kmほどのようだ。
歩いていけなくもないし、もっと近い駅もあるはずだが、どうするべきか?
「魔法の自動車に乗ってみるのもいいが、歩いて行ってもそれほど遠いわけじゃないな」
「緊急時以外の飛行魔法は禁止されていますから時速4kmで2時間半ほどかかることになりますね」
「なるほどな、なら自動車に乗った方がいいか」
俺の基準で考えてはいけない事を失念していた、フェイト、アリシア、ラピスらは歩幅が小さいのだ。
10kmを一時間と少しで歩ききるスピードなどを出せば走ってついてこないといけなくなる。
俺はリニスに目で感謝してタクシーを呼んでみた。
しかし、タクシーが来たと思ったら、そのタクシーは俺達を無視して走りすぎ、
次に走って来た車両から放たれた魔法によって強制停止させられる。
「クイントッ! 迂闊に突っ込んじゃダメ!!」
「大丈夫! この程度の相手ならブーストもサポートも必要ない!」
「そう言うことじゃなくて!?」
後続の車両から飛び出した2人の女性は前の車両に向けて突っ込んでいく。
クイントと呼ばれた方は、ローラーブレードのようなものを装着し、左右の腕に奇妙な格好の手甲をつけている。
蒼い髪をなびかせて車に突っ込んでいくそのスピードはローラーブレードの事もありかなりのものだ。
もう一人は、紫色の髪の毛を額のところで左右で分けた女性、年齢もクイントとほぼ同じで22・3くらいだろうか。
どちらかといえば落ち着いた感じなのだが、何かひっかかる。
俺がふと振り返ってみるとラピスと視線があった。
そうだ、彼女はラピスと似ている、目の色は違うが、髪の色や肌、顔つきやこう言っては何だが運動が苦手そうなところも。
まあ、他人の空似などということはよくあるのだろうが。
「私たちの任務はそいつを捕まえることじゃないのよ!?」
「確保したら地元の捜査官に引き渡すから!」
まあ、もっともラピスと比べれば他人に助言できるだけ落ち着いた人物だろう。
というか、年齢比的に比べるのも失礼だが。
青い髪の女性が停車した車から駆けだす影をとらえ、そちらに向かって光の橋のようなものをかける。
「そんなことで逃げられると思うな!」
走り出したチンピラ風の男の真上まで来ると迎撃だろう、光の玉を発射したチンピラをその光の玉ごと拳で貫いた。
拳に付けられた手甲の袖の部分になる場所が回転してエネルギーを生み出しているように見える。
恐らくは加速や貫通の魔法か?
チンピラは一発で伸びてしまった。
「ふうっ、まあこんなところね?」
「まったく、産休明けの私もいるんだからあんまり無茶しないでよ」
「あはは、ごめんごめん」
そういいつつ、困った顔のその女性はそれでも口元だけで微笑んでいた。
相棒の性格を熟知していて、諦めているというか羨ましくも思っているというところだろうか。
そして、その二人はぼーっと見ていた俺達に気づいたようだった。
まあ、こう言ってはなんだがこれだけちぐはぐな一団も珍しいだろうしな。
「あのーもしかして、テンカワ・アキト国連大使でしょうか?」
「ん、ああそうだが……」
「失礼しました! 私クイント・ナカジマ准陸尉と申します。
レジアス・ゲイズ中将からの招待と交通案内の命を受け馳せ参じました」
「馳せ参じるって……既にべつのことやってたのはばればれだと思うけど……。
あっ、私はメガーヌ・アルピーノ准陸尉と申します」
「よろしく、ナカジマ準陸尉、アルピーノ准陸尉」
「聞いてますよー、地球では”うみ”のメンツをずたずたにしたとか♪」
「ちょっ、クイント!」
「面白いことを言うな、しかし、そうあっけらかんと言われると悪い気もしない。褒め言葉として受け取っておこう」
「そりゃあもう、うちの上のほうは大喜びですよ。”うみ”とうちは代々仲が悪いですからね」
「いやあの……クイントッ! せめてオブラートに包むくらいの事はしなさいよ!!」
「いやねーメガーヌ。こんな面白い事は昨今あんまりなかったじゃない? 私たち”おか”はどうしたって日蔭者だしね」
「ひ……否定はしないけど……」
口元を引きつらせつつもクイントの言葉を肯定するメガーヌ。
なるほど、それが地上本部の意識か。
予想していたよりも確執は大きいようだな。
「ところで、悪いが先に大使館に寄ってもらえないか。まだ一度も見たことがなくてな。
それに、レジアス中将も大人数で押しかけられても困るだろう?」
「はい、ではご案内いたしますので車に……って、人数多!!
まあ、モブ護衛がいないだけましかもだけど……」
「何分大家族でな」
「あら、そちらの子は……」
「ああ……俺もラピスとアルピーノ准陸尉との顔立ちが似ていると考えていたが」
「ほんとだ、よく似てるわね。血縁者とか?」
「いえ、そんな事はないと思うけど……」
「私も知らない、そもそも私はルリのくろ……」
「ラピス……こういう場で言う事じゃない」
「うん、アキトがそういうなら……」
「あのー、じゃあ2台にわけてタクシーも呼んで行くというのはどうですか?」
「いい、アキトの膝の上に乗る」
「あっ、それいいなー。あたしも乗る♪」
「私も……いいかな?」
「いや、普通に3人は乗らないだろう……」
「まあ、それでもあの車じゃ私たちは乗り切れませんし。2台に分けるのが妥当かと」
そういうわけで、2台に分かれて乗り込んだが、俺は交代で3人にひざに乗られる格好となった。
結果、クイントから子煩悩だと言われたが、彼女らもそれぞれ子供がいるらしい。
クイントは子供が2人、5歳と7歳だそうだ。
メガーヌの子は生後一年たっていないため、産休明けで仕事も通常シフトにはなっていないらしい。
お互い自分の娘自慢を始めると止まらなくなるため、控えているとは言っていたが、さんざん聞かされる羽目になった。
そうして大幅に遅れて大使館につき、荷物の確認などをしてから、リインフォースだけを連れて、時空管理局地上本部へと向かう。
大使館の詳細も見ておきたかったところだが、ぱっと見すずかの家と変わらない程大きなものだった事は追記しておく。
「それにしても、魔法を使わない世界からの使者というのは私たちも初めてです」
「ほう、今までは魔法を使わない世界とはかかわらなかったのか?」
「いえ、そうじゃないんですけど。というか、第97管理外世界、地球でしたっけ、そこから来た人って結構多いんですよ。
多分今ミッドチルダには百人以上いるんじゃないかな?
パパだって……あー、私の夫の先祖は地球に住んでいたと聞いています。
ナカジマという姓は聞いたこと無いですか?」
「いや、聞いたことがあるな。おそらく日本人姓だろう」
「やっぱりそうなんですか、じゃあテンカワ大使も日本人ですね?」
「まあ、その辺は似たような事情ということになるかな。俺も日本生まれというわけじゃないが、血筋は日本だ」
「そう言う事ってあるんですね。同じ世界でも国が違うって私たちには実感がないですけど」
「クイントったら、なれなれし過ぎるわよ。テンカワ大使もお気を悪くされたなら申し訳ありません」
「いや、こちらとしてもミッドチルダの事情を聞けて有意義だった。しかし、そろそろ目的地のようだな」
「はい、やたらとゴテゴテしてますけど、あのど真ん中の高い塔の天辺がレジアス中将の部屋です」
「わかりやすいんだな……」
「はい、縦割り社会が大好きな人ですから」
「クイントッ!」
「もーメガーヌは固すぎよー」
「あんたが柔らかすぎなの!!」
クイントとメガーヌのコンビははっきり言ってお笑いコンビのようだったが、
もっと単純にクイントは人の懐に入り込むのが上手いんだろう。
そして、メガーヌは状況を見定めるのが上手い、両方がうまく機能している限りこのコンビはめったなことでは負けないだろう。
会話も戦闘も彼女らにとっては同じ、俺からはそう思えた。
クイント達の案内で最上階に向かう俺だったが、途中で自分たちは最上階まで行けない事を俺に言うと案内が引き継がれた。
案内を引き継いだのは20代の白人女性、スーツ姿に眼鏡などをかけているところから秘書のように見える。
最上階に行くことが出来るのだから、レジアスの側近ということなのだろう。
「出来れば控えておられる二人は入室しないでいただきたいのですが」
「私はただのデバイスだ、主アキトが望まぬ限り何もするつもりはない」
「それでもです。貴方達は犯罪にかかわりがある事を忘れないでいただきたい」
「……なるほど、リインフォース、ここは従っておこう。いきなり喧嘩も売ってこないだろうさ」
「しかし……」
「済まないな、不快な思いをさせて」
「いえ、それよりも主アキトに何かあればすぐに駆けつけます」
「頼む」
リインフォースを置いてレジアスの執務室へと入室する。
リインフォースは俺に対して少し不安を示すが、別に喧嘩をしに来たわけじゃない。
それに、レジアスが切れ者なら俺というコマは大事にするはずだ。
もっとも、呼びつけた時点で性格は何となくわかるが。
レジアスの執務室は飾り気はあまりなかったが、どの家具も威圧的に映るように計算されていた。
調度は空間をあけて、中央部の執務卓はひと際大きめのものになっている。
しかし、レジアス本人はその部屋の威圧感に負けておらず、確かに部屋の主であることを主張していた。
黒髪を角刈りにし、髭を口元から顎にかけて一周させた体格のいい男。
年齢は40代中盤あたりだろうか、座っているのできちんとした身長は分からないが190cm近いのではないだろうか。
「失礼する」
「んっ、おお、良く来てくれたな、テンカワ大使。私がレジアス・ゲイズだ」
「名前は既に知っているようでなによりだ。着任の挨拶には寄らねばならないと思っていた所だからな、教えてくれて助かった」
「フン、聞いていた通りふてぶてしい男だな」
「外交の基本は強気の姿勢だと思っている。弱気では相手に押し込まれてしまうからな」
「それは正しい見解だ。当然私もお前に譲る気はないが構わんな?」
「ああ、それでも望む答えを引き出すのが仕事だからな」
「ならばいい、むしろ歓迎だテンカワ大使」
「それで、今回の呼び出しは挨拶だけということか?」
「まさかな、私がそんな暇な男に見えるかね?」
「ならば、早めに済ませよう。新居に家族を待たせているのでね」
「ふむ、では話そう」
レジアスが語った事は管理局の考え方の一つなのだろうと予測できた。
彼は戦力を欲しているようだった、俺達の協力があれば確かに可能だろうとも予測する。
しかし、質量兵器というのは拳銃なども既にそちらにカテゴライズされる以上、
魔法を使う前提でなければ使うこともできない、彼らはどうしても優秀な魔導師を”うみ”に取られるので苦労しているらしい。
「つまり、武装強化のために俺達の技術を取り込みたいということか」
「パワードスーツの技術については報告を受けている。
その技術の全てをそのまま使うこともできんが、少なくとも強化の参考にはなるからな」
「なるほど、”うみ”に魔導師を取られる分を技術で補いたいというわけか」
「否定はしない、それでどうするのだ?」
「……そうだな、保留にさせてもらおう、それをするには本国での会議が必要だ。
秘密裏といってもこちらに対しては必要ないのだろう?」
「どこに耳があるかわからんからな、慎重にしてくれ」
「わかった、とりあえず話は受けよう。それに管理局に恩を売るチャンスだからな、鋭意検討させてもらう」
「抜け目がないな。とはいえ、そうでなくては困る。下手を打った場合どうなるかわからないわけじゃあるまい?」
「そうだな、そのあたりを含めて検討させてもらう」
「ならば今日の話はここまでだ。良い返事を期待している」
「ああ、わかった」
俺は部屋を出て行きながら上手いことやられたものだと感じていた。
確かに俺は返答をしてはいないが、技術提携をしようがしまいが、この場で話をしたのは事実。
レジアスがした話は質量兵器に関することも含まれていた、発射機構さえ魔法なら銃砲は質量兵器にならず。
ミサイルは爆発するエネルギーが魔法なら質量兵器にならない。
そういう法の隙間をついてでも強化したいのだそうだ、つまりはグレーゾーンに踏み込むということで
もし検挙でもされた場合俺も手を貸したことになり同罪とはいわないまでも捕まる可能性が出てくる。
その方法論自体を否定する気はないし、俺も自身の組織を強化するためにこの案にのっかるのは悪くないと考えもする。
しかし、レジアスという男、草壁と同じ匂いがするのも事実だった。
「何もありませんでしたか?」
「ああ、そっちには問題なかったか?」
「はい、誰も通りませんでした。ただ、無言で向かい合っていただけです」
「私も闇の書と面と向かうとは考えていませんでしたわ」
「ほほう、内情に詳しいようだな」
「秘書のような仕事をしているといろいろと詳しくなるものです」
「そうか……なるほどな」
もちろん俺はそんな話は信じていなかった、しかし、おおよそ見当はついた。
目の前の女はレジアスに近しい存在なのだろう、知っていて協力しているという感じが出ている。
俺としても気を抜くわけにはいかないと感じていた。
下層に降りて秘書の女からまたクイント達に案内が引き継がれる。
2人組は律儀にも待っていたらしかった。
「あっ、おかえりなさーい」
「!?」
「クイント言動が子供すぎ」
「そっかな、でもまだ花の22歳ぴっちぴちだよ?」
「お婿さんは40近いけどね」
「ちょ、あの渋さがわかんないかなー」
「わかんないわよ。いきなり指導教官にプロポーズするなんて前代未聞よ!?」
「だってこービビッってきたんだもの。乙女は恋に生きなくちゃ!」
「アンタのその魔法、絶対性格がそのまま反映されたものね……」
「えっ、こー一途な感じが?」
「直線しか走れない、突撃型の体当たり魔法、ほんとぴったり……」
「ちょ、いくらなんでもそれはないでしょ。カーブだって曲がれるわ!」
「……」
恐らく何かを察して盛り上げてくれているのだろうが……。
ネタがネタだけに自爆気味の感はいなめないところか。
二人の出してくれた車に乗り込み、大使館へと戻る。
「それで、うちの大将……っと中将閣下はどうでした?」
「良く言えば一途、悪く言えば野心家という感じを受けたな」
「まあ、あの強面ですからね。でも、そんな悪い人でもないんですよ。
ただ……去年奥さんを亡くしてまして、今は自分の目標以外見えていないのかもしれないです」
「それは……」
「以前から隊長……ゼスト・グランガイツ一佐とはよく話してたんですけどね。
地上をフォローするには我々じゃ戦力が不足しているんですよ。
ミッド内だけでもやっとというところで、他の世界では影響力も弱く、殆ど”うみ”の下部組織のようになっています。
せめて、お互いに干渉しなくてもやっていけるくらいに戦力があればこうはならないんですけどね」
「”おか”にはAAAランク以上の魔導師が片手で数えるほどしかいないというのが現実なんです」
「俺にはランクというのは少し分かりにくいんだが、魔力の強さをさすのではないのか?」
「まあ、基本がそれというのは間違いないですが、魔導師ランクというものは多数存在していますから。
免許と考えてもらった方が分かりやすいかもしれないですね」
「免許か」
「はい、魔法力は数値として出すこともできますしね、例えば私とメガーヌは近代ベルカ式・陸戦AAランクを取得しています。
他にも空戦、広域、総合など戦闘能力によって割り振られます」
「ほう、AAといえば先ほどのランクわけでもAAAに次ぐ重要戦力じゃないのか?」
「ええ、こう言っては何ですがそれなりにエリートなんですよ私たち」
「なるほどな、兎も角、総合戦闘免許のようなものなんだな、そのランクというものは」
「そうなりますね」
質量兵器が否定されたからこその個人の戦闘力重視の考え方とも言えるだろう。
魔法がなければここまで細かい戦力評価重視主義はできなかっただろうが……。
どちらにしろ、そのあたりは俺の知る世界と大きく違っているらしい。
それに、耳慣れない言葉を耳にした、近代ベルカ式、つまりベルカ式の魔法を現代風にアレンジしたということなのだろうが。
ミッド式が主流で、ベルカ式というのは古代のもので廃れてしまった技術、
というような事をリニスやリインフォースからは聞いていたが。
どういう経緯かは知らないが魔法も流行り廃れがあるということなのか、正直分からない話だな。
まあ、どうでもいい話だが。
「さて、折角送ってもらったことだ、ご馳走でもしたいところだが、ご主人に悪いな」
「はい、こういってはなんですけど、私もメガーヌもらぶらぶなんで」
「ちょ、恥ずかしいこと言わないでよ! もう」
「そう言うことだから、早く帰っていちゃついてきてくれ」
「はい、了解しました!」
「あはは……それでは、御用の際はまた及びください。念話の回線を開いておきますので」
「了解した」
とはいえ、俺はいまいち念話の使い方がよくわかっていなかったりするのだが。
そうして、送ってもらい大使館へと戻ってくる。
今日は荷物の整理や、門に関する問い合わせなどだけでも日が暮れそうだったので、早めに戻りたかったのも事実だ。
同時にようやく一息つけるなという思いもある。
「リインフォース、御苦労だったな」
「いえ、私は何もしませんでしたが?」
「護衛にとってなにもないというのは立派な戦果だよ」
「そういうものでしょうか……」
大使館の中に入り玄関のチャイムをならし、中にいるリニスに開けてもらい、
中庭を歩き正面玄関まで来る、おおよそ1000坪くらいはある敷地に、館もどんと立っている。
三階建てで部屋数も40やそこらはあるだろう。
別館も2棟ほどあり、それぞれ8部屋程度ながら綺麗なものだった。
これなら難民を一時的に預かったりというようなこともできそうだ。
とはいえ、これだけの部屋数を維持するにはどうしても人を雇わないといけないだろうがな。
事前に俺達の人数は聞いていただろうから、この物件はかなりいいものだと言える。
「まあ、そう悪くは思われていないということか」
「どうなんでしょう、管理局にもメンツがありますから、
あまり我々を悪く扱って見せられないという事もあるのかもしれません」
「リニスか、出迎え御苦労だな」
「いえ、マスターから遠く離れていたので魔法が使えなくなって不便でした」
「それはすまないな」
「まあ、それくらいどうという事はないんですが。実はお客様が来ているんです」
「客?」
「お久しぶりというほどでもないのかしら」
「カリム・グラシア……」
「ご無沙汰しておりますテンカワ・アキト大使」
玄関の前に立っていたのは、カリムとクロノの二人。
正直俺はこの組み合わせは想像していなかった……。