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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 31 ホットなサーティワンアイスはコンデンスミルク
作者:黒い鳩  [Home]  2014/09/01(月) 12:04公開   ID:m5zRIwiWPyc
「しかし、10万人規模の演習にしては急造だな……」


陸士服からいつもの赤いゴスロリの騎士甲冑に変身したヴィータはふともらす。

演習は、東西両軍に分かれての局地戦訓練となっている。

演習場の安全確認などはされておらず、地形の把握も小隊規模で行っている始末。

もちろん実戦では安全などは自力で確認するしかないが、演習で死者が出ては本末転倒だ。

司令部はそれぞれに存在するが、作戦はどうしてもおおざっぱなものが多かった。

そして、ヴィータとなのはの小隊が受けた指示は山岳部の地形調査と敵影の察知である。

早い話が偵察任務だ。

しかし、哨戒範囲が限定されておらず、山岳部の北を5小隊が適当に回るような格好になっていた。

ポイントを塗りつぶしていくのだから最終的には全て終わるだろうが、航空部隊のように足があるわけじゃない。

飛行魔法の使えるヴィータとなのは以外は歩きということになる。


「進行速度めちゃ遅じゃねぇか……」

「ヴィータちゃん……仕方ないよ。実際飛べる魔導師が少ないんだもん」

「だー、最近の魔導師はなっちゃいねぇな……」


なのははまたどこかつかれたように笑い返す。

ヴィータとしても理由は分かり切っていた、なのははやはり頑張りすぎなのだ。

折を見ては休ませるようにしてはいるが、彼女は任務以外にも小学生という顔もある。

毎日出来るだけ朝は学校に行かないといけないし、宿題だってある。

リンディやクロノ達が手伝ったりしているようだが、それでも、大人と同じかそれ以上にスケジュールを与えられているのも事実だ。

そうでなければ2年で准空尉になれるわけがない。

研修生、三等空士、二等空士、一等空士、空曹、空曹長と6段階上がって準空尉なのだ。

それも去年までは研修生だったのだから実質一年で上がっている。

守護騎士達は逆に最初から空曹扱いだったため、出世そのものはそれほどでもない。


そんなわけで、なのはの苦労は分かってはいたが、ヴィータは強く言えない。

その理由は、彼女は守護騎士として敵対した事実だった。

なのはは許してくれているようだが、ヴィータの中ではわだかまりが残っている。

自分がそんなに親しくしていいのかと。


「ヴィータちゃん何か言った?」

「いや、なのはが地獄耳だってな」

「もう! ヴィータちゃんの意地悪ッ!」

「だが本当にいいのか? バリアジャケットがあるとはいえ、けっこう寒いぞ」

「うーん、多分大丈夫だよ。合同訓練なんて合宿みたいでなんだかわくわくしちゃって♪」

「なのはらしいというか……どこまで前向きなんだお前は」

「にゃははは」


二人は時々後続の部隊を待ちながら山間部を飛翔していく。

雪が降り積もっている場所も何箇所か見受けられあまりいい状態とはいえそうにない。

相手側の偵察部隊も苦労しているだろう。


「でも不思議だねヴィータちゃん。

 あの時はお話もできなかったのに、今はこうして心配してくれる。

 こういうのってなんだか嬉しいんだよ」

「えっ、ああ……そうだな……」

「うん、だって私のやりたいことってそう言うことだもん。

 私不器用だから、言葉だけで説得できない、

 それに暴力は悪いことって言いながら取り締まるために結局同じ事をしてる。

 でも……ううん、だからね。

 それでも人と仲良くできる。そう言うことの役に立ってるって思いたいんだ」

「へっ、立派じゃねぇか、11歳の子供が言ってるように聞こえないぜ……」


だから余計に心配なんだけどな、と心の中だけで呟くヴィータだった。






















「ここ……ですよね?」

「ああ、演習場にかなり近いが、入口はここを含め2か所しかない。

 そもそも、敵側には無機物を透過するレアスキルを持つ者がいる、最終的には入口がなくても問題ないはずだ」

「じゃあ、ラッキーと見るべきですか?」

「いや……」


当然、罠を仕掛けて待っているだろう、自分たちの情報はある程度漏れていると考えるべきだ。

ゼストは部下達に気を引き締めるように注意しつつ、自分は先に突入を開始する。

その脇を固めるようにクイントとメガーヌが付いてくる。

工場と思しき場所では基本的に魔法杖のコア部分を生産しているのみだ。

やはり、構造的にも地下部分が存在していると見るべきだろう。


「この下だな」

「はい、恐らくは……」

「でも入口らしきものはないですね……」


捜索魔法でスキャンした限りではこのあたりに地下への入口が存在しているはずだった。

しかし、カモフラージュなのか見た目はただの床にしか見えない。

工場なのだから、セメントで固められているし、ずらせそうな隙間も見えない。


「とりあえずぶち抜いてみます?」

「まあ待て」


ゼストはここに魔法が掛かっている可能性を考えていた。

正式な手順を踏まなければ何らかのトラップが発動する可能性が高い。

最終的には仕方ないにしても、出来るだけ見つかるのは遅いにこしたことはないと言う考えだった。


捜索を始めてふと感じることがあったメガーヌがインゼクト(大型昆虫に似た異世界の生物)を召喚し、周囲のパソコンを起動する。

起動したパソコンの配置が六芒星魔法陣をかたどっった時、中央部の床が消滅していった。

配置がそうだとわかっていても、こういった幼稚な仕掛けは普通の犯罪者には好まれない。

だが、逆にやる人がいないとあえてするタイプの愉快犯もいる。

おそらく、そういった心理を持つ相手が仕掛けたのだろう、メガーヌはうまく行ったにもかかわらず渋い顔をしている。


「そんな渋い顔してたら小じわが出来ちゃうわよ」

「別に渋い顔なんてしてないわよ、ただ、愉快犯みたいなのがいると犯罪予測がし辛くなるから嫌よ」

「今さらよね、実際あんな戦闘機人みたいなのを作るようなのがまともなわけないでしょ」

「それはそうだけどね……」

「どちらにしろ進んでみるしかない。行くぞ」

「了〜解っ!」

「ちょっ、クイント!」

「怒っちゃいやーん♪」

「まったく……」


ゼストは二人の漫才に和みながら、自分の事を考える。

これは、レジアスが望んでいないことだという自覚はある、レジアスが変わってしまったのではという危惧が突入を急がせた。

しかし、それは友に対する裏切りでもある。

これで何も出なかったり、逃げられたのでは笑い物では済まない。

下手をすれば解雇処分くらいは言い渡されるだろう。


「全く……捜査官あがりというのは度し難い……」

「えっ、何か言いました?」

「いいや……」


どちらにしろ、最悪の場合を想定しておかねばならない。

戦闘で後れを取る可能性もある、その場合は自分が時間を稼いでいるうちに逃げてもらうように手を打たねばならない。

また、証拠が出なかった場合、付いてきた者たちに累計が及ばないようにしなければならない。

なかなか難易度の高い注文ばかりだとゼストは内心ため息をついた。


地下へと進む階段を20mほど進んだところにエレベーターホールが広がっていた。

エレベーターは全部で3つ。

先ほどの理屈で言えば、これも罠、それも単純で嫌らしいものだろう。


「エレベーターは3つありますけど、起動してるのは2つ。うち一つはなぜか上に向かうランプしかないですね」

「パターンでは起動していないエレベーターが動くんでしょうが……」

「あっ、本当に動いた」


電気の消えて動いていないはずのエレベーターのボタンを押すとエレベーターのランプが突然ついて動き出す。

トラップとしては遊びが多すぎの気がするが、とりあえず、他の2つに入る気は起らなかった。

そうして、地下深くまで進んだゼスト達突入1班は、突入2班と3班を待ち、捜索を再開した。


「なんていうか、犯罪者はどうしてこう、穴倉の中に閉じこもるんでしょうねぇ」

「相手に見つからないためよ、決まってるでしょう?」

「罠もたくさん用意してるのに? 来ないなら万一に備えての脱出法だけでもいいと思わない?」

「さあ、愉快犯の考えることまでフォローしきれないわ」

「おい!」

「ッ!?」

「どうやらお出ましのようですね……」

「団体さんか……こりゃ骨が折れそうね」

「各個撃破を狙う、一班が突入、二班と三班は後方支援、行くぞ!」

「了解!」

「まったく、私は前衛は向いていないんですよ?」


量産型戦闘機人が10体前後わらわらとやってきた。

どうやらあたりだなとゼストは口元をゆがめる。

しかし、戦闘は少し大変そうではある。

六つの手を持ち下半身が蛇のAタイプ、重層甲冑を身に付けたようなBタイプ、

カマキリのように腕に鎌をつけ、強力な脚力で飛びまわるCタイプの3タイプからなる。

どれも同じ細胞から培養されたらしく、写し取ったように同じ容姿をしている。

量産型と呼ばれる所以だ。


知能は低く3歳児程度、戦闘力はそれぞれ総合Aランクと判断されている。

ただし、得意分野ではAAをはじきだすため、Aランクのメンバーを当てるのは少し気が引ける相手ではある。

カマキリがヒットアンドウエイ、重層甲冑が近接防御、六つ手の下半身蛇は砲撃魔法を使う。

連携されるとそこそこ厄介だった。


「俺がBタイプを破壊しつつAタイプへと迫る、二人はCタイプを牽制してくれ、可能なら破壊してくれていい」

「了解! でも可能ならってあんまり信用されてないわね」

「あら、私はそれでいいわよ、肉弾戦は苦手だし。さあインゼクト! ジライオーも出ていらっしゃい!」

「あー、もりあがってるんだかないんだか……とりあえず、私も行くか、ダブルリボルバーセットアップ!!」


メガーヌは大量の虫のようなものを呼び出しCタイプをけん制、更に巨大な虫を召喚。

巨大な虫は重力を制御し、Cタイプ達の動きを鈍らせる。

続いてクイントは両手のナックルガードの碗部が回転を始め、魔力を収束する。

その状態での彼女の拳は凄まじいまでの威力を発揮し接触した敵をどんどん破壊する。

そして、何よりゼストは重層甲冑を着込んでいるはずのBタイプを槍の一突きで黙らせていく。

あっという間に、リーダーのAタイプまでたどり着き、完全破壊をした。

情報源としての価値はもうないため、量産型を生かしておく必要はないとの判断だった。


















「あらあら、簡単にやられちゃいましたねー。まあ、実力を探るにはちょうど良かったけど」

「量産型とはいえ、戦力は戦力だ、あまり使い捨てにしないでほしいな」

「あら、トーレお姉さま、そうはいっても、そのまま突っ込むよりもかなりいい働きをしたと思いますけど?」

「否定はしない、しかし、あまり使いつぶし過ぎるといざという時に足りないことになりかねないぞ?」

「大丈夫です。元々量産型はここで全て使いつぶすつもりですから。

 博士は既に新しい戦闘員を用意してますよ」

「ガジェット・ドローンか……魔法を中和するのはいいが、それ以外はむしろこいつらの方が強いのではないか?」

「その分を量で補うんですよ、こいつらは整備にもバイタルの維持にもそれなりに気を使う必要がありましたけど、

 ガジェット・ドローンはメンテナンスフリー。放っておけばいいんですよ。

 それに、工場さえ作っておけば見に行く必要もなく勝手に増えますし」

「そんなものか……」

「はい♪」


ゼスト達のいる階層の少し下、紫のショートカットの女性と茶髪でメガネをかけた少女長が話をしている。

茶髪メガネの少女からトーレ姉さまと呼ばれていた紫のショートカットの女性は体格がよく、身長も170cmを超えており、

蒼いボディスーツの上からも腹筋が割れているため、かなり格闘技をやっている事を思わせる。

表情は硬く、真剣さがにじみ出ている。

対する茶髪メガネの少女は体格は並みで三つ編みも相まって普通の子に見えるが、時々メガネに映る瞳がやけに鋭い。

言葉も茶化しているものの、どこか冷めたイメージを受ける。

注意して見ると性格に裏表がありそうだと思わせる。


「しかし、そろそろ足止めも無理な状態になりそうだが?」

「そうですねぇ……でもそろそろ……」

「ただいま戻りましたっす!」


セミロングで水色の髪の少女が天井から顔を出した。

体はそのまま天井の中に消えている。

違和感のある見方を承知で言うなら、まるで海に潜るように天井に潜っているように見える。

そして、顔だけを出した状態のままメガネの少女に話しかける。


「でもいいんすか? もうこのアジト使えなくなるっすよ?」

「ええ、どうせ破棄するんですもの、ぱーっと派手に終わらせるのも面白いでしょ?」

「再利用などは考えないのか?」

「管理局にばれてるアジトの再利用? あり得ませんね。

 それよりは役に立って終わらせてあげるのがいいと思いますよ♪」

「クアットロ姉は派手好きっすねぇ」

「それより準備は完璧なのね?」

「はいっす。まぁ、連鎖的になるから、普通ならここも生き埋めってことっすが……」

「そうね、脱出の時は頼むわよ」

「でも、きちんと素体の確保できるんすかね?」

「あっちがしくじらなければね」

「向こうはは博士もいるし、切り札もいるじゃないっすか」

「それが心配なんだけどね……」


実際切り札のほうはできたてほやほやだ、いろいろ分かっていない欠点も多いだろう。

自分達のようにカスタムメイドの戦闘機人と違い、育成期間も置いていないのだから……。















いつもいつも勝手に危険の中に飛び込んでいくアキトにはらはらさせられながら、

守ってもらう彼女たちはいつも思っている事があった。

今度は自分たちがアキトを守ってあげるのだと、

その考えの出所は恋愛感情だったり、心配だったり、負い目だったりと様々ではあるが、考えは同じ。

だから、少女たちは動いた。


「レジアス中将、貴方はこの件には関わりがないというならば、私たちが現場へと突入する許可をください」

『失礼、レディすずか、そしてテンカワ大使の娘である、レディラピスとレディアリシアだったね。

 確かに私は今回の件に無関係ではある、しかし、貴方達の突入を許可する事は出来ない』

「理由は?」

『危険だからだ。大使とレディフェイトは既に突入してしまったようだが、そちらも早急に保護する』

「ですが今回の件、例のお披露目にちょうどいいのではないですか?

 私もアリシアもテストパイロットなんです」

『それは……しかし……』



レジアスがごねているのは、プライドもあるが、同時に民間人への配慮でもある。

彼女らの真剣さは伝わってくるが、だからと言ってはいそうですかと言っていたのでは軍も警察もいらない。

管理局は両方を足したような組織であるので、当然ながらレジアスも許可を出すことはできなかった。


『今、管理局の一個大隊が突入準備に入っている。任せておけば問題ない。

 それに君達を危険にさらすことはテンカワ大使も望まないのではないかね?』

「それは……ですが、私達だってアキトさん達の事が心配なんです!」

『……こんな話を知っているかね?』

「なんですか?」

『犯罪捜査をする時、犯人や被害者の身内は捜査班に入る事は出来ない、なぜか分かるかね?』

「それは……」

『冷静な判断が出来なくなるからだ、犯人の身内は逃してしまうかもしれないし、被害者の身内はやりすぎてしまうかもしれない』

「私たちも冷静じゃないと言うんですか?」

『その通りだ』

「ですが!」

『失礼、これでも忙しい身でね。今回の訓練を中止するかどうかの会議や、突入班への指示など並行してこなさねばならない』

「ちょっと待ってくださっ」


レジアスはそう締めくくり通信を閉じた。

すずかはなおも食い下がろうとしたが、現時点では彼を説得できる言葉はないと考えてもいた。


「どうしよう……」


うつむいたすずかをアリシアはぽんと頭に手を乗せることで慰める。

だが、ラピスは何も感情がないような表情のまま口元だけニヤリと笑った。


「どっどうしたの、ラピスちゃん?」

「いいこと思いついた」

「いいこと?」

「確か、この近くの空域のパトロールは……」

「シグナムさん!?」

「シグナムにポイントを教える、そしてシグナム達にまぎれて突入をかける」

「でも……」

「問題は大義名分。でも今回はそうむずかしくない」

「一体どうやって?」

「仕込みの分担聞いてくれる?」

「んー、わかったよ」

「面白そうだね」


3人はハリボテのような宇宙船の中で悪だくみを考え始めた……。
















その決意の後、フェイトは今までよりも明らかに吹っ切れた表情と、そして高い魔力を放っていた。

怒りを目に灯しているにも拘らず、どこか澄んだ雰囲気を放ち、冷静な状態を保っている。

それは、戦いに臨む上で理想的な心理状態であると言える、

しかし、それをこの年齢で成してしまったという事はそのまま彼女の不幸を物語るのかもしれない。


「ふぅん……魔力も上がったみたいね」

「貴方と交わす言葉はありません」

「なっ!? カッハッ……!!?」


プレシアによく似た女が言葉を紡いだ瞬間、つきつけたザンバーを押しこみ貫く。

その表情には多少の葛藤が見受けられるものの、それでも相手に隙を与える気はまるでない。

そのままザンバーが引き抜かれ、血しぶきと共にプレシアによく似た女は倒れ伏す。

地面に血だまりが広がっていく……他の量産型戦闘機人とは違う、人間に近しい存在の証拠。

まるで感情が凍りついたようなフェイトの無慈悲さに近くにいたはやてすら動きを止めてしまった。


「みんな、あの女がF計画の産物なら一人じゃない可能性が高い。出来れば突破して反対側に抜けたいけど」

「どの道アキトさんが目を覚まさないと私たちじゃ飛行魔法で上がることもできないですし、妥当ですね」

「ふぅ……フェイトちゃん一気にリーダーに……凄いわ……」

「主……今は」

「わかっとるて。フェイトちゃんとリニスさんは前衛やね、あたしとリインが後衛」

『私も頑張りますよー!』

「キューちゃんもお願いね。そんでティーダさん、アキトさん背負ってくれる?」

「えっ、僕ですか!? というか、もうすぐ大隊が到着するんだから待った方がいいですよ?」

「戦術的に見て、私たちがそれまで持つ可能性は五分五分だという点が一つ、

 大隊が入ってきたところで大きなトラップが動く可能性の高さも気になります」

「相手のリーダーもここにいるんですよね? それはないんじゃ……」

「いいえ、彼らには地面に潜るレアスキルを持つ者がいました、つまりは……」

「それって……かなりまずいってことになるんじゃ……」

「ええ、博士とかいう人が余裕でいられるのもそのせいだと思います」


実際はこの場にはいないため、別の理由があるのではあるが……当然そんな事は知らないフェイト達。

全員が出てこない事に伏兵の可能性を否定できないでいた。

続々と繰り出される量産型も勢いは衰えていたため、早く研究所と思しき部分まで進行し、他の出口を探るのが急務と考える。

現状ではフェイトでなくともベストだと考えるだろう。


「行きます!」

「はい!」

「了解や!」

『頑張ります!』

「主アキトの事を頼みます。ティーダ殿」

「うぅ、力仕事は苦手なんだけどな……」


はやてとリインフォースが砲撃魔法で道を開き、雷撃と共にフェイトとリニスが突き進む。

アキトを背負ったティーダがその後に続いた。

戦闘機人達はあっという間に戦闘不能になり、道が出来てくる。

いつの間にか奥へと続く通路にいたはずの白髪の小柄な少女は見えなくなっていた。


『ハハハッまいったね、まさか僕の研究所の一つをこうもあっさり潰されるとは。

 こりゃあ逃げるが勝ちだねぇ、まあ元からここは破棄する予定だったし、十分楽しませてもらったよ。

 それにしても、ボソンジャンプか、素晴らしい技術だ。パラドックスを引き起こしているとはね。

 ノヴァンタを使って正解だった』

「パラドックス?」

『知らなかったのかい? ボソンジャンプは時間移動の技術だよ?』

「そんなバカなことが……」

「いえ、フェイト。私達は知っているはずです。アリシアを助けた方法を」

「ぁ……」

「もしかしてそれって……アイツが今から……アキトさんのいた世界へ……」

『アキト君に言っておいてくれたまえ、帰ってきた私によろしくとね』

「そんなこと!!」

「マスターの体をボロボロにしたという、ナノマシン実験の主犯があなたなのですね」

『さあ、未来の事は分からないよ。でも見つけたらきっとそうするね』

「……ッ!!!!」

「フェイト、駄目です。今のアキトさんを見捨てるつもりですか?」

「でも……あの人が! あの人がいなければ義父さんは!!」

「ですが、そうすると私たちはマスターに会う事はできませんでした。

 上手くいく可能性も低いですが、上手く行ったとしても場合によってはパラドックスで我々も消滅します。

 更にはマスターの存在が別のものに変わってしまう可能性も……。

 今リスクを冒してマスターを危険にさらすより、帰ってきた彼らを確実に倒す手段を練るべきでしょう」

「くっ!!」

『賢明な判断だ、さてそろそろ時間のようだね。我々は失礼するよ』


その言葉を最後に、博士と呼ばれた人物と、数人の戦闘機人の気配が完全に消滅した。

しかし、量産型の出現はいまだに続いており、更には小刻みに地面が揺れ始めていた。

奥へ奥へと突き進む彼女らはしかし、それ以外の選択肢があるわけでもなく、ひたすら進むしかない。


「あらあら、ここまで来たのね。まさかノヴァンタが倒されるなんて。

 でも、私が同じだとは思わない方がいいわよ」

「プレシアもどきですね」

「母さん本人じゃなかったことは少しほっとしたけど……許すつもりはないです」

「どっちみち、道をふさがれてたら前に進めへんしね……」

「数で押すつもり? でも、それならこちらにも手はあるわよ」


プレシアもどきは量産型の戦闘機人達を盾にしつつ、砲撃魔法を繰り返している。

雷撃の特性は直進速度の速さだ、生まれたてで身体能力に自信がないのなら、下手に近接戦闘を狙うよりも有効なのは事実だ。

フェイト達は先ほどのプレシアもどきよりも頭がいいのを感じた。

アキトはまだ目を覚ます様子はない、重傷であるのは事実だが、演算ユニットの自己修復能力により傷はかなり塞がってきている。

それを見て少し安堵しながら、フェイトは目の前の敵に向けて意識を向け直す。

今度もそう簡単に抜け出せそうには見えなかった……。
















高速で宇宙から降下する物体をを確認した航空武装隊第1039部隊のヘリが急行すると、

そこには”ひなぎく”という名のついた揚陸艇と思しきシャトルが、宇宙から降下してきていた。

シグナムはそれを見たことがなかったものの、日本語の形式名をつける船は地球産の見だろうと推察する。


「そこの船舶、止まれ! ここは軍事演習の区域内だ! 勝手な立ち入りは禁じられている!」


シグナムは大きな声で念話を送る、少なくとも誰かはそれで通じるだろうという目算はあった。

実際、その言葉は相手に届いていた。

答えた声は、すずかのものだった。


『シグナムさんですね?』

「ああ……そちらはすずかだな?」

『はい』


不審に思う事は多い、しかし、中にいる反応がアリシアとすずかだけである事に不信を感じる。

シグナムは少し警戒した、彼女らが何かをすると思ったわけではない、しかし、巻き込まれると感じたのだ。


「これはどういう事だ? 下手をすれば国際問題に発展しかねんぞ?」

『そうですね……でも、アキトさん達が攫われたプレシアさんを探しに行っているんです』


それは3日前から聞いていた、演習場近くで捜索していたことは知らなかったが。

しかも、ここは既に彼女らが捜索した区域である。

理由が分からずうなるシグナムだったが、すずかは更にいい募る。


「だが……」

『はやてちゃんもフェイトちゃんも一緒に、今アジトにいるはずです!』

「それは本当か!?」

『うん! だから……』

「ああ……確かに一刻を争うようだな」

『じゃあ!?』

「わかった、すぐに招集をかけろ! この山脈をもう一度総ざらいにしろ!

 私は先行して偵察を行う」

「行くんですか?」


ヘリの運転をしていたヴァイスはどこか心配そうな目でシグナムを見る。

実際、命令違反になる可能性は否定できない、しかし、それに対しシグナムは少し口元をゆがめながら、


「私は地球外対策局出向局員シグナムだ。命令優先権は地球外対策局の方が高い」


そうはっきりと言ってのけた。

事実、別段彼女は解雇されても全く困らないのだ。

ヴァイスはシグナムの謹厳実直さから法規を最重要に見ている存在であると勘違いしていた。


「まったく……俺、怒られんの嫌ですからね。早く帰ってきてくださいよ」

「ああ、善処しよう」


そのままシグナムはひなぎくへと飛び移っていく。

彼女は元々飛行魔導師なのだから当然ではあったが、ヴァイスはどこか魅せられるのを感じていた……。


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■作者からのメッセージ
改訂版とはいえ、誰も見てないんじゃないかと心配になってきます(汗
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