その少女はキャロという名だった、苗字(ファミリーネーム)はない、あえて言うならル・ルシエのキャロという事になるだろう。
ル・ルシエには苗字をつけるという習慣がないからだ。
長老に話を聞くと、部族の守り神としてあがめられる黒き火竜の巫女の家系に生を受けたらしいのだが……。
巫女としての資質が高すぎ、よく暴走を起こしたらしい。
今は4歳になったので流石にひっきりなしというわけではないが、
物心つく前から竜を暴走させ周りの家を倒壊させたこともあるという。
両親は既におらず、ル・ルシエの教えは強すぎる力は禍を呼ぶとされている事もあって、余計に彼女は孤立しているらしい。
4歳の少女には酷な話だ、しかし、倒壊された家の持ち主や、怪我を負わされた人たちの話からすると一方的に悪いとも言えない。
教え諭す存在が必要なのだろう。
しかし、そういう意味ではル・ルシエは良い環境ではなかった、強い力を否定する以上彼女の存在そのものを否定するからだ。
長老にその話を聞いた俺は正直困った。
フェイトが言うには、彼女はだれからも相手にされない、そして家族もいない。
だから家族になってあげたいということだったが、確かに、そうしたい気持ちも分かるからだ。
とはいえ、長老とて初対面の相手に巫女ということは重要人物になる可能性の高い人間を渡すとは思えないからだ。
そうはいっても、話してみない事には始まらない、俺は口を開く。
「彼女の保護を我が家で引き受けたいと考えるのだが……」
「それは、彼女の力を欲してですかな?」
「そう見られても仕方無いだろうな……しかし、力と言う意味ではもう間に合っている」
「間に合っているとは?」
「リニス、リインフォース、構わないか?」
「はい」
「了解しました」
オーバーSランクの魔導書と使い魔、力を解放しただけで長老の屋敷はビリビリと震えだした。
実際近くにいる俺もプレッシャーに押しつぶされそうになっている。
分かってはいたが、2人とも凄まじい強さの持ち主なんだな……。
「なんと……貴方も既に強すぎる力をお持ちだったか、やはり力が引き会ったのでしょうな」
「引き合う?」
「力は禍を呼びます。そして強い力はより強い力と引き合い、より大きな禍を呼ぶことになります」
「……」
「恐らくキャロの運命だったのでしょう、しかし、くれぐれも用心めされよ。
あなた方の力が強ければ強いほど、呼びこむ禍もまた大きいのだから」
「……善処しよう」
こうして、俺達はキャロを引き取ることになった。
フェイトは随分と喜んでいたが、ある意味今までは一番妹だったわけだから、世話を焼きたいのかもしれないとふと思う。
しかし、引き受けた理由を考えるとそうも言っていられないかもしれないな。
実際、キャロはおびえるばかりであまり人になつこうとしなかったが、こう言うのは時間が解決する問題でもある。
俺達が態度で示し続けるしかないのだから。
俺は、クイントが復調したと聞いて快気祝いをを送ると次の訪問国へと向かうことにした。
そして、幾つかの国を訪問し、一週間ほどたったある日のこと。
キャロがいつの間にかいなくなっていた……。
俺は外務卿と話をしていたのだが、連れていたリインフォースは兎も角、リニスやフェイトがいて見失ったらしいのだ。
逃げ出した可能性もあるが、普通の方法で消えたとは考えにくい。
何か事件が起こったのかもしれない、俺は早速捜索をすることを決めた。
「とはいえ、初めての都市だ……地の利がまったくない、どういう風に探したものか」
「管理局に捜索願いを出すというのはどうかな?」
「ああ、それはもうやった。まあ借りが出来るが仕方無い、後は現地の政府に協力を頼むこと、そして自分の足で探すことか」
「うん、じゃあ義父さんは先に政府の方へ行ってきて、私探してみるから」
「……その必要はなくなったみたいだな」
情報源になるかと思いTVをつけていたのが幸いした。
いや、幸いしたというのもどうかとは思うが……。
近くの銀行に押し入った奴らの人質になっている人の中にキャロの姿を見つけたのだ。
たまたま銀行に押し入ったタイミングでそこにいたという事なのだろうが、運がいいのか悪いのか……。
震えている様までくっきり映っている……。
「今すぐ助けに行かないと!」
「ああ、しかし既に管理局が動いているようだ、表からは難しい。
何とか、視界にあの子を納められる場所にいってジャンプで助けに行くしかないな」
「わかった!」
「マスター、ならばビル内への侵入よりも隣のビルに上った方が効率的かと」
「ああ」
「ユニゾンをしておいた方がいいのではないでしょうか?」
「それは……」
「今はしない方がいいと思います」
「!?」
脇から首を突っ込むように現れたのは、カリムだった。
今までと違い表情は少し引き締まったように思える、自分の仕事が来たと思っているのか、それとも人質を心配しているのか。
今のところ分からないが、今までの彼女とは違った印象である事だけは事実だった。
「それは、キャロの事を心配して言っているのか?」
「はい、ですが逆の事が起こる可能性の方を心配しています」
「逆?」
「暴走です……」
「……それは」
無いとは言い切れない、俺もここ数日は忙しくてあまり彼女に構ってやれなかった、
それに一番一緒にいた時間の長いフェイトでさえまだ打ち解けたとは言い難い。
そんな状況が続いた後に、いきなり恐怖にさらされたらどうなるか……。
つまり、俺は彼女らの危機を救うと同時にキャロを落ち着かせないといけないというわけだ。
「確かに、あの格好じゃ驚くか……」
「そうですか? 私はそうは思いませんが」
「ボディスーツですからね、セクシーではあるんですが……」
「うん、一般受けはしないと思う」
リインフォースは養護してくれるが、リニスもフェイトも微妙な顔をしている。
そしてリニス、男にセクシーはどうだなんろう?
兎に角急いで隣のビルに駆け込む、そして3階辺りから問題の銀行を覗くことにした。
「ステレオタイプな銀行強盗と言うわけではないようですね……」
「確かに……な」
そう、最初TVに映っていた男と人質達を見てステレオタイプなものを想像していたが、少し違うようだった。
この男たちは見える範囲で5人、銃で武装しているが、2人ほど魔導師が混じっているようだ。
それも、一人は強力な魔導師らしく、銀行の壁をぶちぬいて威嚇していた。
「くそ……間が悪いな……」
「どうやらテロリストグループのようですね、名は赤い鈴。
異世界の存在を締め出すべきだという主張をしているようです」
カリムが追いついてきて俺達に教える。
理屈は分からなくもない、しかし、襲撃場所や人質が異世界に関連する場所じゃないのが無差別感を醸し出している。
そもそも、地球の領事館に関してはまだ建物だけだから知らないのも仕方ないが、管理局の駐在所ならある。
そちらを襲撃していないのが、彼らの主張のあいまいさを醸し出していた。
先ずは、敵の配置、行動、人質の配置などを演算ユニットを介して目星をつける。
全員救出というのは少し難しい、人質を一か所にしていないようだ。
キャロを救出している間に他の人質に手を出される可能性もある。
それだけは避けねばならない、大前提としてキャロやフェイトのトラウマになるような事をしてはいけない。
人質は心配だがやはり知っている人間を優先してしまう自分がいる。
「あの、全員つれてボソンジャンプできますか?」
「ああ……可能だ」
この距離ならなんとか……。
しかし、バラバラに跳べるわけじゃない。
一気に制圧は難しいだろう、俺は政府筋へと連絡を入れる、管理局から派遣されている人間たちに作戦を伝えるためだ。
「ああ、そうだ。頼む、突入はその後にしてくれ」
とりあえず、話は付けた。
政府に対し借りを作ってしまう格好になったが、それでもしないよりはいい。
新しい家族と仲よくなるためにも……、な。
俺は、フェイト、リニス、リインフォース、カリムの全員を連れてジャンプで銀行内へと跳ぶ、
いきなりキャロの前に出ても良かったがそれでは彼女をさらにおびえさせることになりかねない。
とりあえず、俺達は銀行内の非常口付近に出現、相手がこちらに気づく前に動き出した。
「フェイト、キャロの事を頼む。彼女が恐慌状態になるのはまずい。
俺達はその間にテロリストの捕縛をおこなう」
「わかりました」
フェイトは素早くキャロの方へと動き出す、俺達も犯人達へと向けて動いていた。
カリムも含め、俺達は一気に犯人達を無力化にかかる。
俺は、滑りこむように近づいて、テロリストAの両腕をつかみ、そのままグキリという音と共に脱臼するまで引っこ抜く。
気絶したようだ、例え気がついても脱臼した肩を戻すにはかなり時間がかかるだろう。
リニスは軽い電撃の弾丸を放ちしびれさせてとらえた。
リインフォースはバインドで相手を縛り、動脈を圧迫して脳内の酸素を一時的に切る方法で気絶させる。
カリムは魔法使いにあたったようで、軽い魔法合戦になっているようだが、そう時間はかからないだろう。
だが、もう一人がいない……。
よく見れば人質の一人を抱えて表通りに出ていったようだった。
人質の少女は10歳前後の茶髪の子だ、犯人は管理局の局員たちを脅しつけている。
基本的には警察と同じということなのだろうな、しかし、少し離れたビルの上に時々キラキラと光るものがある。
狙撃か、それも銃によるものだな……。
犯人を狙い撃ちできればいいのだが。
俺達は気絶させたテロリスト達を一か所に集めてバインドで縛る。
しかし、人質達には裏口から逃げてもらい、表には出来るだけ知られないように動く。
元々正面の最後の一人は交渉でいっぱいいっぱいで、こちらには注意を向けていなかったのが幸いした。
後は管理局の仕事だろうと俺は引き上げにかかろうとしたが、次の瞬間、銃弾が放たれた音が聞こえる。
そして、人質と犯人の位置が入れ替わった、脅しのためにやったのだろうが、タイミングがまずい、
スナイパーも同時に発砲していたようだったからだ。
俺はとっさに、犯人達の前に飛び出す。
少女が魔導師かどうかわからなかったので引き寄せられなかったという事もあるが、咄嗟の動きに理由はない。
「ぐっ!?」
俺の肩に弾丸がめり込む。
だが、貫通もしないし、傷もあるようには見えない、よく見れば小さな注射器のようになっている。
これは、麻酔弾か……。
まずいな、視界が霞み始めている……。
「きっ、貴様ら、騙しやがったな!! もう人質の命は保証しねえ!!
お前ら、一人づつ殺せ!!」
後ろを向いて犯人が叫ぶ、しかし、銀行内はもう制圧している、反応するものは当然いなかった。
人質を抱えたまま犯人はわめき始める……。
せめて最後まで視界に納めていたかったが、俺が起きていられたのはその時までだった……。
俺が再び目を覚ましたのはもう翌日になってからだった、薬によって眠らされたためか寝起きはかなり辛かった。
ぼんやりとする視界でふと桃色の物体が目に止まる、ラピスかと思ったが、こちらに来ているはずはない。
目を凝らしてよく見ると、それはキャロの姿だった……。
「あ義父さん、目が覚めた?」
「フェイトか、どうも迷惑をかけたらしいな」
「ううん、でも突然飛び出すし銃に撃たれるし、心配したんだよ……」
「すまない……咄嗟の事で他になにも思いつかなかった」
「私には! 私には自分を大事にしろっていってるくせに! 義父さん自分を大事にしなさすぎるよ……」
「うっ……」
「まさか、自分は死なないなんて思ってないよね?」
「それは……」
流石にその言葉は堪えた、確かに最近俺は自分の頑丈さを過信している節があった。
自覚していなかっただけかもしれないが、言われてみて初めて気づくというのも情けない話だ。
危機感が薄れるというのは、もっとも危惧しなければならないことの一つだ。
「あんまり、危険なことすると、私、義父さんの言いつけ守れない」
「……すまない」
自分に出来ない事を他人にしろというのは酷な話なのかもしれない、しかし、俺と違いフェイトにはそうする必要はない。
俺は自らがあやめた人達の数よりも多くの人を守るという勝手な自己満足のために動いている。
家族を再び作ったのももしかしたらそれが原因なのかもしれない。
だから、フェイトに言われた事は余計に沁みた……。
「にゅ……ぁ……」
「あっ、ごめんなさいキャロ……起しちゃった?」
「……ごめんなさい」
キャロはまだ俺達になじんでいるとは言い難い。
それでも俺の看病をしているフェイトについていたのは、フェイトが一番心許せる存在だからだろう。
しかし、今のやりとりを見ている限りそのフェイトにしてもきちんとしたコミュニケーションを取れているとは言い難い。
この前の事も、里を出た後で怖い思いをしたという記憶になっていないか心配だ。
とはいえ、このキャロという子、今まで俺が接してきたような女の子達とは決定的に違う。
今まで接してきた子供達はルリちゃん、ラピス、なのは、すずか、アリサ、フェイト、アリシア、はやて、クロノ、ユーノ、
ヴィータも含めてみんな精神は成熟しており、ある意味対等に近い関係性を持って話をしてきた。
それはいびつではあったが、大人である俺からすればとても手のかからない子達だったといっていい。
しかし、キャロは違う、4歳という年齢もそうだが、普通の子供としての精神性を有している。
覚えている中で普通の子供と言えるのは、アイちゃんぐらいだ……。
自分でもおかしいおかしいとは思いつつ、そういう子ばかりと話していたことに愕然としている。
普通の子育てとは一体どうすればいいんだろう……?
「俺は麻酔を受けただけだ、もう大丈夫だから、フェイト、キャロを連れて朝食を取ってきなさい」
「はい、行こキャロ」
「はい……」
ほっとしたようなフェイトと対照的にまだ沈んだ顔をしているキャロ。
まだ俺達を警戒しているのか、それとも事件が自分のせいだと感じているのか。
事件の事を感じているなら、それは関係ないと言ってやりたかった。
しかし、先ずは関係性を改善しないとな……。
そんな事を考えているとノックがあった、俺はようやくはっきりしてきた体の感覚を研ぎ澄まし、気配が3人である事を知る。
演算ユニットの方も働き始めたらしい、いや、働いていたが今まで俺の感覚とつながっていなかったのだろう。
もう外にいるうちの一人がリニスである事も分かる。
「入ってくれ」
「失礼します」
リニスが扉を開けた後、栗毛に青い瞳、すらっと背の高いの20歳にはまだなっていないだろう青年と、
似た顔立ちの栗毛をセミロングに纏めた少女、よくよく見れば少女はテロリストの人質になっていた子だ。
「はじめまして、俺はヴァイス・グランセニック、妹を助けてくれてありがとう……」
「お兄ちゃん、もうちょっと言い方が……」
「ああ……そして、すまない。狙撃をしたのは俺だ」
「……もう、順序だって説明しないと、分からないよ……動揺してるのは分かるけど……」
「なるほど、タイミングが変わってしまった射撃、妹がいたのでは狙いもぶれるな」
「……」
「その、ごめんなさい。
でも狙撃っていうのは、遠距離になればなるほどブレやすくて、それにちょっとでも標的が動くと……」
「よせ、事実は事実だ、その、俺の方で金は出すから検査は受けておいてくれ」
「そうだな、気をつけてみるさ。まあ気にしなくていい、俺は感謝されたくてやったわけじゃない」
「でも……、その私はお礼を言わなくてはなりません。ありがとうございました」
妹のほうが腰が90度になるくらいきちんと礼をする。
そこまでされることではない気はしたが、感謝をされて悪い気がするわけじゃない。
ただ、助ける事は俺にとって贖罪の意味である事を知らないというだけのことなのだ。
「礼と言っても何が出来るわけじゃないが……」
「ヴァイスか、確かシグナムの部下で優秀なのがいると言っていたが、お前のことじゃないのか?」
「えっ……」
「シグナムは地球外対策局の局員でもあるからな」
俺はニヤという感じで笑う、ヴァイスは少しむっとした顔をしたが、同時にほっとしているようでもある。
俺という人間が分からなくて困っていたのだろう。ヒントにはなったはずだ。
なんでも、シグナムの首都航空隊から派遣されたらしい、元々この世界の出身であることもあり、帰省を兼ねているとか。
しかし、ヴァイスが管理局の人間だというなら、少し聞いてみたい事もある。
「所で、犯人はどうなったんだ?」
「この国と、となりのファルキエの国境で妹を放り出して逃げている。
恐らく隣国ファルキエに逃げ込んだんだろう……」
「管理局は国教など関係ないんじゃないのか?」
「ファルキエには管理局が駐在していない、それどころか異世界人を締め出す政策を取っている。
あのテロリスト達も関係ないとは言い切れないかもしれないが、どちらにしろ俺達にはもう手出しできない」
「ほう……」
なんとなく背景は伝わってきた。
確かに、ファルキエという国は俺の表敬訪問先には入っていない。
つまり、管理局の下につくのを嫌がる国も存在しているということか。
いや、むしろ自然ですらある、今までそういったものが見えてこなかった事態が異常なのだろう。
「しかし、先輩は違ったみたいだ……」
「先輩?」
「ああ、ティーダ・ランスター先輩さ……。エリートの癖に熱血かましやがって……」
「単独潜入でもしたというのか?」
「そうらしい……」
ヴァイスは唇をかみしめている、それは自分の失態のせいでティーダに迷惑がかかっているという事。
同時に彼の心配もしているようだ。
だが、俺は首をひねる、以前会ったときのティーダは仕事熱心なところはあったが、割と要領のいい男だったはずだ。
国境侵犯までして追跡すれば場合によっては国際問題に発展する事はわかっていたはず。
一体どうして……。
俺が妙な表情をしているのがわかったのだろう、ヴァイスは自分から口を開く。
「先輩は俺の失態を取り返すために行ってくれたんだよ。
俺は、何せ大使を撃ってしまった男だからな……その上で犯人も捕まらないとなれば……」
「お前も、お前のいる部隊も同じく解散ということか」
「ああ……」
これは、意外なところで困った事態が噴出したようだ。
ティーダが大六管理世界でヴァイスと一緒に駐在員をしていたことも驚きだが、行動にも驚いた。
つまりティーダが一人で行ったというのなら、罪を背負うのは自分一人で十分というような考えなのだろう。
事実として逃げた犯人自体は大したことはない、問題はどこで発見するか、これに尽きる。
下手に都市部でとりものでもしようものなら、山のような抗議文がきてティーダも免職、それどころか、犯罪者となるだろう。
とはいえ、このままでも部隊は解散、ヴァイスは免職といったところか。
俺も関わってしまった以上無関係を決め込むわけにもいかない。
さてどうしたものか……。
その後数分ほど話して彼らは出て行った。
元々俺に対しては本当に礼を言いにきただけだったんだろう。
しかし、しこりは残る。
「あの……わたし……」
扉の前から首だけ出して、俺に向けて意思表示をしているのは、キャロだった。
キャロはおびえながらも、俺のところまで歩いてくる。
「どうした?」
「その……」
おびえたような目は何を訴えているのか、おおよそのところは分かる。
つまり、勝手に出歩いたことをとがめられるのが怖い、でも、放置しておいて自分が嫌われたくはない。
進んで怒られに来たということなのだろう……。
フェイトも中には入ってきていない事を考えると、俺以外の許しはもらており、待機してもらっているのだろう。
「ごめんなさい」
「……そうだな、勝手に出歩いて心配させないでくれ」
「……あ、えっと……」
「買い物に行きたかったのか?」
「はい」
キャロはこくりとうなずき、かしこまる。
本当にそうなのか、真贋は分からないが、キャロはそうすることにしたようだった。
なら俺の言葉は決まっている。
「次はフェイトと一緒に行きなさい、ついでに俺にアイスでも買ってきてくれ」
そうして俺は1000円分ほどの通貨を渡す。
子供たちには小遣いを渡しているが、まだ日が浅い事もありキャロには渡していなかったのだ。
4歳の子供が欲しがるものはよく分からないが、今はこの程度でいいだろう。
「……ありがとう」
キャロはお金を大事そうにポシェットにしまい込むと、しかし、まだ何か言いたそうにしていた。
先ほどの事をまだ気にしているのだろうか……。
「まだ何かあるのか?」
「はうっ……ごっごめんなさい……」
「いや、怒っているわけじゃないんだ……。話して楽になるなら話してみてくれないか」
「えっと……うん」
そう言ったものの、言い淀んでいる4歳の子供というのは感情がストレートなものだ。
それは幼稚園に行っていたころ、ユリカにさんざんやられた俺はよく知っている。
というか、ユリカだけではなく、みんな泣いたりわめいたり怒ったり忙しかったものだ。
しかし、彼女は脅えが先に立っている、今まで虐待でも受けてきたかのように。
親に受けたのか、友達にやられたのか、大人たちがやったのかはわからない。
それだけの恐怖を彼女が与えていたというのも信じられない話だが……。
必死に頭を絞り、更に戸惑った末、一言俺に言った。
「ふぁるきえにいくの……できる……ううん、できます」
「!?」
恐らく立ち聞きしていたのだろう、そりゃまあ、隠し事というほどでもないが……。
だが逆に、それだけに彼女の言う事は首をかしげざるを得なかった……。