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行き当たりばったりの協奏曲(改訂版) 44 獅子を真似ても強くはなれない。
作者:黒い鳩  [Home]  2014/09/15(月) 01:37公開   ID:m5zRIwiWPyc
「これより、演習をはじめます」

「この演習の出来次第では、人員の移動も考慮に入れていくつもりです。

 敵は、訓練用ガジェットドローン100体、各小隊ごとにアタックをかけてください」



部隊設立から一週間、なのはとフェイトによる魔導師部隊の編成が進んでいる。

62人という人数は軍隊においては小隊に位置する程度のものだが、魔導師部隊の場合10人もいれば一小隊扱いとなる。

理由は魔導師は量よりも質がものを言う事が多いからだ。

だが、総合魔導師ランクが必ずしも強さと=ではない。

適応力や、判断力、底力、チームワーク等、ランク以外の素養も出来るだけ見ておきたいというのがなのは達の考えだ。

だから実戦部隊長としては強さの把握及び弱点の克服のための訓練などを施すにしても、きちんと把握しておかねばならない。

とはいえ、目安には違いないので、魔導師部隊に任官する管理局の人員はBランク以上が多い。

しかし、この部隊は設立したての上に、管理局からロクな人員を回してもらえなかった事もあり、

CランクどころかDランクすらちらほらいる。

その上、問題を起こした人員なども編入されていたりして、いろいろ面倒そうではある。

もちろん、管理局以外の国から来た人員も多くいる、しかし、そちらは個人戦闘に特化したタイプが多く訓練期間が必要そうだ。


「でもなのは、どうして来てくれたの?」

「えっ?」

「ここはいわば管理局の敵対組織、はっきりとそうというわけじゃないけど。

 少なくとも理念に反対している国が組んで作った組織だよ?」

「うーん、それはそうなんだけど。別に戦争がしたいわけじゃなくて。違うやり方はないかなって言ってるんだよね?」

「そうなんだけど」

「だから、管理局からも人員が来てる、それはきっといい事じゃないかと思う。

 管理局は大きくなりすぎて、他者を見ることが難しくなってるから、むしろいい刺激になるんじゃないかな」

「つまり、悪い部分を取り除くために?」

「そんな恰好のいいものじゃないけど、うん、両方が悪いところを正して、いいところを伸ばしあえるならいいと思う」

「それが理想だね」

「うん、そしてその理想を実現するのは私たちの仕事だよ、設立のために頑張ったはやてちゃんのためにも」

「うん、そうだね」


フェイトはその考えを素晴らしいと思う、しかし、回された人員を見るに、管理局側はさほど期待していないようだ。

なのはのやりたい事は、かなりの困難を伴うだろうと予想した、だが、同時にやりがいもあると感じていた。


「次っ、第二小隊演習開始」

『わかった、訓練の成果みせろよ!』


ヴィータの掛声と共に、第二小隊がガジェットドローンに向かっていく。

魔法で作られたビル街のハリボテはリアルで100機全ての捕捉は難しい。

実際第一小隊はシグナムが一週間訓練したが30機破壊を確認したところで全滅した。

演習とはいえ怪我をした隊員も多く、まだまだという感じが否めない所だ。

そして、ヴィータの小隊も同様に、ガジェット20機破壊時点で半数近く数を減らしていた。

しかし、その中で順調に破壊数を伸ばしている2人組がいる。


「スバルそっちに行ったわよ、タイミングカウント3いい?」

「了解、3、2、1、ディバイン・バスター!!」


ガジェットドローン4機を同時に拳から出る魔法光でチリに変えた蒼いショートヘアのボーイッシュな少女は、

ビルの上から自分を見ているツインテールと釣り目というある種需要が高そうな少女、どちらも十代半ばに見えた。


「中々応用力があるね」

「うん、鍛えれば伸びそう……そういえばフェイトちゃんは大丈夫?

 組織的な運用とかは実際やってみないと慣れないものだよ」

「そうだね、一応座学ではそこそこだったけど、実際指揮したのは数えるほどだし、ご教授よろしくね」

「にゃははは……お互い頑張ろうね」


そういって雑談をつづけながらも二人は第二小隊の戦力を把握していく。

全体的には雑な攻めが多い、ヴィータもさすがに一週間ではそれほど教えられなかったという事だろう。

一応布陣を取ろうとしていたが、すぐさま分断され散り散りになってしまった。

スバルとティアナのように善戦している所もあったが、10分も経過するころには半数が倒されてしまっていた。

戦果は26機と後4機倒せば第一小隊に届く所だが、運悪く小隊が魔法無効化タイプ(最近見かけるようになった新型の鹵獲品)

に当たりどんどんと数を減らしていく。


「魔法が無効化される? じゃあ直接攻撃か、無効化領域の内側から魔法を打ち込むしかない。

 魔法をコーティングする事も出来るって言うけど今の私じゃ難しいし……」

「じゃあ、ボクが行って直接攻撃してくるよ」

「馬鹿! 殴ったぐらいで鉄の塊が壊れるわけないでしょ!」

「一応僕も……」

「質量が違うでしょ、まあ、機械は精密だから壊れる可能性もあるけど」

「じゃあ……」

「それよりは、密着してディバインバスターを撃ちなさい」

「そっか、その手があったね。でも……貯めてる時間ないんじゃ!?」

「きゃ!?」


相談している間に、背後から接近してきたガジェットが彼女らを攻撃する。

それもどうやら無効化タイプらしい。

ティアナが幻覚系の魔法で撹乱をかけるも、あまり効果は見込めない。

スバルがウィングロードの魔法で空中に橋をかけてローラーブレードで走って逃げる。

ティアナは肩の上に担がれている格好だ、しかしどうにかガジェットの攻撃を回避したようだった。


「向こうからも!? はさみ撃ち? もしかして……作戦行動を取ってる?」

『ガジェットは時々作戦行動と思しき動きをする事があります。あまり知られていないことですが』

「何も今そうしなくても!?」

『ばっきゃろー! 実戦でそんな理屈通るとでも思ってるのか!』

「ヴィータ隊長……わかりました……やってみます」


ただでさえ残り70機以上、しかも、作戦といっても二人だけで出来ることなど知れている。

それでも、実戦では起こりうると言われてしまえばやるしかない。

ティアナは八方へ魔力弾を飛ばし、ビルの粉塵を利用してスバルと共に潜む。


「いい? まずは……」

「うん、わかったやってみるよ」

「今はあんたのその能天気さにかけるしかない」

「能天気ってちょっとひどい」

「じゃあ、ただの能天気じゃないことここで証明して見せて!」

「わかった!」


粉塵がはれたと同時に2人の人影が走り抜ける、ガジェットらはそれを追って集まってきた。


「こりゃ、引きつけるだけでも骨だね……」


ほほを伝う汗をぬぐいながら隣にいるティアナに話しかける。

しかしティアナの方は何も言わなかった。

スバルはその事を気にするでもなく、ウィングロードを展開、ティアナを背負って空中を走り始める。


「はぁ、はぁ……結構な時間走り回ったな……数もよし、一気に行けるかな?」


5分ほど逃げ回り、ガジェットが彼女らの後ろに20近く集まってきていた。

スバルはそれを確認すると動きを止めてガジェットを待つ。

そして、ある程度まで近づきガジェットのビームが打ち出される直前、背負っていたティアナを投げ捨てた。

突然、ティアナが爆発する、そこから生まれるのは粉塵だった、そう、スバルが背負っていたのは粉塵を入れたズタ袋。

ティアナが幻影の魔法で目くらましをかけたのだ、機械に対しては効かない場合が多いが、

魔法の原理で動いているガジェットにはそれなりに効くようだ。


「今だ! つぶれろ!!」


そして、ティアナは近くの影から飛び出し、今まで止めてあった魔力の弾丸を再起動する。

その数100、彼女の限界以上の魔法だ、しかし、操る必要はない、暴発させればいいだけなのだから。

そう、ビルの柱100か所に仕掛けられた弾丸が一斉に発動され暴発。

結果、ビルはかしいで倒れることとなる……。

凄まじい勢いで倒れてくる質量の塊に、これも質量兵器のような気もするけどと頭の中で考えるティアナだが、

下にいたガジェットはほぼ壊滅だろうと予測した。


「ティアナあぶない!」

「え!?」


だがしかし、その瞬間が命取りになった。

一仕事終えて少し気を抜いたところに、別方向から来たガジェットが攻撃を仕掛けてきたからだ。

まだ半数以上残っているのだから気を抜くべきじゃなかったと思った時はもう遅い。

彼女らはガジェットの猛攻の前に数分で仕留められることとなる。


「最後に気を抜いてなければもう少し高得点をあげたいところだけど……」

「でも、これから伸びそうだよね」

「うん♪」


なのはとフェイトは満足げである、明らかに新人と分かる少女達の連携としてはかなりレベルが高かったからだ。

他のメンバーで長く生き残ったのはかなり戦闘なれしているような古参ばかりだったこともあるだろう。

全体としては36機の破壊にとどまった、その内彼女らの撃破数は11機、ビル爆破で思いのほか撃破出来ていないとの算定だ。

しかし、他の隊員と比べればかなりの数をこなせているといえるだろう。


この日評価を上げた者は片手の数にしか過ぎなかった。

実際使えるものは最初から評価の高いものが多いのは事実である。

それでも少しでも変動があるのは悪くはないと二人は考えていた。

それに、実戦を経て化ける者もいるのも確かだ、なのは自身戦闘どころか運動音痴だったのが今や戦技教導をしているのだから。

現在六課は広域次元凶悪犯の捕縛及びロストロギアの回収においてのみ力を振るう事を許される。


その代り、管理局内ではないので力はふるい放題である。

事実今までは、なのは自身リミッターをかけられたりして普段力を抑え込まれていたが、ここではそれはない。

その代り、この六課は正面から敵を叩きつぶすというような形になる事があるのかは疑問でもあった。

課長になったアキトも、その教えを受け継いでいると考えられるはやても、裏から手を回すほうに長けている。

実際、次元連盟の設立は表立ってははやてが動いていたが、裏ではアキトもかなり動きまわっていた事をフェイトは知っている。

そうした、すり合わせで犯罪自体が減るのならそれに越したことはないとなのはもフェイトも考えていた。

























アフターファイブというかもう6時をまわっているが、

今日の仕事を終えたラピスは同僚と共にウィンドウショッピングにくりだしていた。

オモイカネYが完成し、更にナデシコMタイプもほぼ段取りがたった。

その事もあり、ラピスはそれなりに時間の余裕を持っていた。

今までのように政府からの突き上げもないので楽であるともいえる。

元々アキトのために始めたことであったが、ライフワークのようになっている部分がある。

もっとも製造過程は自分では再現できないため、人員を雇い入れている。

特に、シャリオ・フィニーノという管理局から来た人員はウリバタケや忍と同じタイプのためかなかなか有能だ。

これでフェチっぽい行動をしなければさらにいいのだが、その辺りは共通なのだろうか?


「そういえば、ラピス室長は着飾ったりしないんですか?」

「ドレスは数着持ってるけど、パーティとかでもないと着ない」

「えー、ラピス室長ってすっごい肌もきれいだし、小顔だし、お姫様みたいって思いますよ?」

「そうですよ、シャリオの言うとおり! ぜひ着飾った所もみせてください」

「いいよ、だって見せるような事ないし」

「でも室長、課長の事……」

「うん、だけど。女として認められてないから……それに……ううん」

「憂いを含んだその表情も素敵です♪」

「……あんまり褒めると、次の仕事倍にするよ?」

「う”っ」

「それよりも、今日はちょっと変わった料理を食べさせてくれるところを見つけたので行ってみません?」

「うん、どんなの?」

「それは……!?」

「!?」


雇い入れた人員の中の女性だけでの会合、4人で固まって歩いていたその時。

突然、周囲に結界を感知した。

周りの人間もランクの差はあれみな魔導師だ、結界を張られたことに驚く。


「ええ!? いったいどうしたんですか室長!?」

「静かに……」


そう言われて黙りこむ4人を眼で促しつつ、相手の正体を探る。

結界内に不似合いなモーター音をさせつつ、それらは現れた……。

3mもの高さをもつ人型、ロボットというにふさわしい容姿、そう、パワードスーツの一団だ。

それも10体、今ラピス達がいる地点を中心にローラーで走りながら囲んでくる。


「……何者?」

「そうですよ! ここは連盟のおひざ元です。別組織のパワードスーツは出入りできないはずです!」

「もしかして……犯罪者が使ってるとか……」

「鹵獲品にしては新しいように見える」


そうして、コメントする余裕があるのは流石連盟に選ばれてきた人員だなとラピスは感心したがこのままではいささかマズイ。

それに、これらのパワードスーツの形状はかなりいじってはあるものの、管理局で採用している魔法駆動タイプ。

恐らく、六課を面白くないと考える人間による非戦闘員への攻撃と見るのが妥当だ。


「言って聞くような相手じゃない……、それにこのままと言うわけにもいかないわね」

「主任どうしましょう?」

「仕方ない、みんな一か所に固まって」

「え?」

「はっ、はい」

「わかりました」

「でもどうするんです?」

「私が守ってあげる」


ラピスはその言葉を言うと同時に、手のひらを開く、そこにはいつの間にかバイザーが出現していた。

薄く桃色がかったそのバイザーを目元まで持って行くと、次の瞬間ふわりとマントが出現、

いつの間にか服装も白を基調にしたドレスに変わっていた。


「オモイカネY、起動は順調?」

『はい、ラピス。システムオールグリーン。魔法演算システム起動します』


ラピスが腕を一振りするとラピスを中心に薄桃色の光が立ちあがる。

そして、パワードスーツ達が連射してきた魔法弾をはじく。

しかもその光は揺らぐ様子もない。

パワードスーツは基本どんな魔導師でもAランク魔導師と戦って勝てるように作られているのだが、

それらの攻撃を受けて全く変動がないという事はかなり強力な防御壁である事は間違いない。


「召喚プログラム起動」

『スタンバイ』

「召喚、バッタ10匹、エネルギーは魔法伝達システムを通じて相転移エンジンから」

『了解、バッタ召喚』

「攻撃開始」


ラピスの命令を通し魔法は具現化される。

そして、10体の黄色い昆虫型メカが周囲に出現する。

それらは、一体一体が3m近い大きさを持つ。

そのため、パワードスーツと比べてすら大きいように見える。

そんな昆虫型メカが勢い良く跳躍し、パワードスーツへ向けてそれぞれ攻撃を開始する。

体当たりを行うものや、背部のミサイルを発射するものなど様々だが、

どれもパワードスーツには予想できないものばかりだったらしく、面白いように駆逐されていく。

一通りのパワードスーツを破壊し終えた後、ラピスは中にいた人間達の顔を確かめるべく近づいていく。

他の職員達もおそるおそるついていくが、中には誰もいなかった。

脱出機構が装備されているようにも見えないため、無人で動かせるシステムを考えたのだろうと予測する。


「なるほど……魔法だもんね……遠隔操作が出来ても不思議じゃないか」

「えっと、どういう事ですか?」

「うん、どう見ても自動という感じじゃなかったけど人がいない、そのくせ逃げた様子もないから。

 遠隔操作していたんだと思う。

 襲撃を行ったのが誰か分からないようにするにはいい手だね」

「……でもそんな事が出来る組織なんて……」

「管理局だと断定はできないけどね。恐らくもういないと思うけど周囲に魔法の痕跡がないか調べて」

『了解しました』

「それにしても、そのデバイス、凄いですね」

「まあ、本体は六課の地下にあるからエネルギーも演算能力も企画外だとは思う」

「? 何か問題でもあるんですか?」

「本体から遠く離れるとオモイカネのサポートが受けられなくなるからね」

「なるほど、一長一短なんですね」

『半径10km以内の魔法痕跡感知できず』

「一般人の魔法にまぎれてしまッた可能性もあるし、はっきりとは言えないけど用意周到なのは間違いなさそうね」


ラピスはそうしてフムとひとつ息をつくと、同僚達に振り返りニコリと笑う。


「なんだか巻き込んじゃったみたいでごめんね。

 今日は私がおごるから、おいしいものでも食べて帰りましょう」

「えっ、いいんですか?」

「じゃあ、今日は豪遊ねー♪」

「あんまり高いものだと自腹になるけどね」

「えー!?」


最初は動揺していた女性達も、ラピスの一言で少し気が抜けたらしく軽口を応酬してくる。

それを見て少し微笑み、ラピスはこれからの事を思う。

アキトは賛成したようだが、ラピスはこの組織にはあまりこだわりを感じていなかった。

管理局という組織とぶつかる可能性が高いうえ、どうしても前線に出る事が多い。

アキトの考えている自分の周りの人を幸せにするという事とは矛盾しかねない。

しかし、かかわった人全てに何がしか責任を持ちたがるアキトの性分はどうしようもない。

それが分かっているから、ラピスは黙って支える側に回ることにした。

だが、そのおかげでまた新しい出会いを得られた事は彼女には行幸だったのかもしれない。

もっともその日、ラピスは10時過ぎまで彼女たちにひっぱりまわされることとなる……。




























「どうしたんだ? 何かうれしそうだが」

「ううん、なんでもない♪」


今日アキトは管理局との折衝のため、地上本部をおとづれていた。

しかし、リニスには内偵を、リインフォースには六課内のシステムを構築する作業を頼んだため二人は付いてきていない。

そう、最近は前ほどには頻繁に彼女らを従えてはいなかった。

理由は簡単で、彼女らを認識するための空間を半径2mほどで張り巡らせれば、

1km圏外へ出ても魔法が使えなくなるなどのペナルティを受けなくて済むという事が分かったからだ。

リニス達はそれ自体がアキトがより演算装置を深く知覚できるようになったからだといっていたが、

兎も角、先日はラピスが襲撃を受けたばかりだ、護衛は絶対に必要だということでフェイトが護衛として付いてきた。

しかし、管理局への行き帰り、フェイトはどことなく嬉しそうにしている。


「そういえば最近あまりゆっくり話す事も無かったな」

「バタバタしてたし仕方ないよ。でも、義父さんはいつも流れの真ん中に行こうとするから。追いかける方は大変なんだから」

「そうか、すまない……」

「ううん、でもこうしてまたお話し出来てうれしいよ」


帰りの道すがら、リムジンの運転手に細かい事は任せ、アキトとフェイトは雑談をする。

例えば、未だにラピスがアキトの布団にもぐりこむ事があるのは色々とまずいのではないかとか、

最近はすずかが妙に押しが強い事があるとか、はやてが無理をしているのではないかとか。

それに、最近家族旅行をしたことや、フェイトの料理の上達についてなど、つらつらと話していた。


「まあ、食べられるようにはなったな」

「ひどい……一生懸命作ってるのに……」

「こらこら、嘘泣きをするな。まあ、俺は元が料理人だからな、どうしてもそういう事にはこだわりがある」

「じゃあ……その、料理教えてくれませんか?」

「ん? それは……」

「あっ、すみません……私……」


フェイトはアキトが時々料理をしているのを知っている、

しかし、お菓子ならともかく、一部の料理は作ろうとすると苦い顔になる事も知っていた。

だがアキトはフェイトの頭をぽんぽんと叩くと。


「わかった、教えてやろう。ただし、スパルタだぞ?」

「えっ、はい!」


フェイトは自分がアキトの古傷に触れてしまったのではないかと気にしたが、同時に料理の事は喜んでもいた。

そのせいで泣き笑いのような顔になったフェイトをアキトは苦笑してみるしかなかった。


『ミッドチルダ南部、高山地帯にガジェット出現! 繰り返す、高山地帯にガジェット出現!

 その数おおよそ30、全てAMF(アンチマジックフィールド)装備型のようです』

「近くに遺跡があるのか?」

「いえ、その辺りはわかりませんが。六課の初出動になると思います」


フェイトは冷静を装っているものの心配そうに念話を聞いている。

アキトはそんなフェイトに向かって、一言。


「ではフェイト、サポートに回ってやってくれ」


それを聞いて一瞬フェイトは目をきょとんとさせていたが、徐々に表情が厳めしいものに変わる。

明らかに、私怒っていますというような表情だった。


「いいえ、私は課長の護衛としてきています。それが終るまでは別の任務に就く事はありません」

「……頑固だな、もし、ここで失敗すれば六課は役立たず呼ばわりされることになるぞ?」

「なのはにシグナムにヴィータ、後方支援とはいえはやてやシャマルやザフィーラも任務につきます。

 全員で当たるような任務ではないですし、何より、課長がいなくなれば六課が崩壊します」

「……わかった、俺の負けだ」

「全く、今の義父さんは3流の魔導師なんですよ、リニスやリインフォースのサポートはないんですから」

「ああ、しかしほら、俺は逃げるのだけはアレがあるからな」

「あえて言いますが。あの能力は出来るだけ出さないようにしてください。いろいろ目をつけられているんですから。

 更にややこしくなる可能性があるんですよ」

「うう……すまん」


フェイトはアキトをやり込めて少し気がはれたのか表情を元に戻す。

ばつが悪そうな顔のアキトを先ほどとは打って変わって微笑ましく見ているフェイトがいた。


安全な場所にいること、それは、もしかしたら平和を手に入れるなどという事よりも正しい事なのかもしれない。

人はよく、安全な場所にいて命令を下す事に抵抗を覚える、しかし、前線にいて指揮を執るのとは違う作業でもある。

大将首をわざわざ戦場に持っていくのは馬鹿のすることでもあるからだ。

しかし、それをフェイトはアキトに対して告げる事は出来なかった。

アキトの行動理念には結局フェイトも共感しているし、だからこそ止める事は難しい事だと知っていた。


その日は、スバルやティアナが活躍し、見事レリックを発見した。

今までの傾向からガジェットが追っているのはレリックだろうと見当がつけられ、現在次元世界中から資料を取り寄せている。

集まるのには少々時間がかかるかもしれないが、その動きは迅速で、発足したてであるための張り切りとも思われた。


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■作者からのメッセージ
イベントと呼べる話は次回からとなります。
結構急展開となっておりますのでご容赦を。
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